著者
千貫 祐子
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.80, no.5, pp.419-424, 2018-10-01 (Released:2019-01-10)
参考文献数
30
被引用文献数
1

IgE 依存性即時型食物アレルギーの発症には二段階の免疫学的機序が関与する。まず,ある外来抗原に対して生体がこれをアレルゲンと認識すると,抗原特異的 IgE 抗体が産生され,組織中のマスト細胞あるいは末梢血中の好塩基球の表面に高親和性 IgE 受容体(FcεRI)を介して結合する(感作成立)。次いで,同じ抗原あるいは交差反応性を持つ抗原が侵入すると,細胞表面に結合した抗原特異的 IgE が架橋され,ヒスタミンなどの化学伝達物質が遊離され,蕁麻疹やアナフィラキシーが生じる(症状誘発)。これまで長らく,食物アレルギー発症における感作成立は,主に経口摂取した食物に対して経腸管的に生じると考えられてきた。ところが近年,本邦で生じた加水分解コムギ含有石鹸の使用による小麦アレルギー発症の事例を契機に,食物アレルギー発症における経皮・経粘膜感作の重要性が注目されることとなった。
著者
南光 弘子 池田 美智子 尾形 順子 吉野 博子
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 = The Nishinihon journal of dermatology (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.876-886, 1996-10-01
参考文献数
34
被引用文献数
2 1

爪白癬に対する経口抗真菌剤itraconazole 50mgカプセル剤の1日1回1∼2カプセル(50∼100mg)16週間以上投与での臨床成績を検討した。混濁比の平均は治験開始時8.7であったものが2週以降週を追うごとに軽減し24週時には1.6まで改善した。有効性は病爪の混濁比推移を指標に評価し7例中6例(85.7%)が著効であり全症例有効であった。安全性に関しては副作用として2例に消化器症状を認めたものの投与中止後すみやかに消失もしくは投与量の減量により再発もなく継続投与ができたことより, 比較的長期の治療が必要な爪白癬に対しても安全に使用できる薬剤であると考えられた。しかしながら基礎疾患ないし既往に消化器系の潰瘍を有する患者では長期間投与する際には注意が肝要と思われる。
著者
本田 哲也
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.5-8, 2018-02-01 (Released:2018-06-04)
参考文献数
28

脂質は,糖質・たんぱく質と並ぶ三大栄養素の一つであり,多種の脂肪酸から構成される。脂肪酸は,細胞膜などの生体膜構成,エネルギー源,シグナル伝達などの機能を有し,生体恒常性維持に極めて重要な役割を果たしている。一方で,その過剰な摂取やアンバランスな摂取が,皮膚疾患を含めた様々な病態の悪化因子として注目されている。また,脂肪酸の中でも,オメガ 3 系脂肪酸やオメガ 6 系脂肪酸は食事からの摂取が必要な必須脂肪酸である。特にオメガ 3 系脂肪酸は抗炎症作用を有している可能性が多数報告されており,新たな創薬ターゲットとしても注目されている。食事由来脂肪酸の観点からの疾患の病態解明,および創薬展開が今後益々期待されている。
著者
松尾 敦子 緒方 亜紀 水足 謙介 彌永 和宏 城野 昌義
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.115-120, 2014

2 回の急性転化を経て,19 年間にわたり経過観察できた慢性型成人 T 細胞白血病/リンパ腫 (ATLL) の症例を報告する。発症は 1991 年で,熊本大学医学部附属病院にて "慢性型 ATLL の急性転化" の診断の下, recombinant interleukin-1β (rIL-1β) による治療を開始し,治療開始 5 カ月後に完全寛解 (CR) が得られ,ATLL 関連の検査値異常すべてが 10 カ月後には正常に回復した。その後は治療なしで CR を13年間維持していた。しかし 2007 年に四肢の紅色丘疹と肺病変が再発,今回も "慢性型 ATLL の急性転化" と診断し,低容量ソブゾキサン+エトポシド併用内服療法を開始した。本治療法は皮膚・肺病変の両方に著効し,治療開始 6 カ月後には CR が得られ,腎盂腎炎に続発した多臓器不全で 2010 年に死亡するまでの2年間,ATLL は CR を維持できた。自験例の長期生存には,複合化学療法を避けて選択した免疫賦活療法と内服抗癌剤による治療が著効した点と,皮疹の病理組織検査の所見として ATLL 細胞の皮膚浸潤に加え肉芽腫反応が観察された点が重要であったと考えた。
著者
岩元 凜々子 佐久川 裕行 宮城 拓也 山口 さやか 山本 雄一 高橋 健造
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.22-25, 2021

<p>特に既往症のない 79 歳,男性。四肢に環状の紅斑が出現し,その後,胸痛,多発関節炎,有痛性皮下結節,発熱,リンパ節腫脹,上強膜炎が次々に生じ,最終的に,初発の皮膚症状の 4 カ月後に生じた耳介腫脹により,再発性多発軟骨炎の診断に至った。気道や心病変は合併しておらず全身状態は良好であるが,ステロイド内服と免疫抑制剤の併用では,いまだ病勢はコントロールできていない。<br>再発性多発軟骨炎は,軟骨組織を主体に多彩な全身性の自己免疫性の臨床症状を呈し,寛解再燃を繰り返す。半数以下の症例に皮疹を伴うが,皮疹自体も多様で特異的なものはない。自験例の様に,軟骨炎や鼻軟骨炎などの典型的な症状がない病期での診断は非常に困難である。</p>
著者
指宿 敦子 内宮 礼嗣 松下 茂人 河井 一浩 金蔵 拓郎
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 = The Nishinihon journal of dermatology (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.3-5, 2010-02-01
参考文献数
8

48歳,女性。8年前から両前腕を中心に環状の浮腫性紅斑が多発していた。毎年6月下旬に赤くなり,11月頃に改善することを繰り返していた。半袖になる時期に皮疹の悪化が両前腕に著しかったこと,事務職でデスクマットを使用していることより,デスクマットによる接触皮膚炎を疑い,デスクマットのパッチテストを施行したところ,強陽性反応を認めた。デスクマットの成分は塩化ビニル樹脂,フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP,可塑剤),エポキシ化亜麻仁油(安定剤),金属石けん系安定剤,N,N'-メチレンビスステアロアミド(転写防止剤)の5種類で,このうち製造中止のため入手できなかった金属石けん系安定剤を除く4種類について,パッチテストを施行したが結果は全て陰性であった。以上の結果より,デスクマットの成分のうち,金属石けん系安定剤による接触皮膚炎が推測され,デスクマット製造会社より同じ金属塩を含むが構造式の異なる金属石けん系安定剤を入手し,パッチテストを行ったところ陽性であった。近年デスクマットに含まれる抗菌剤による接触皮膚炎が多数報告されているが,自験例が使用していたデスクマットは抗菌剤は含有されていなかった。抗菌剤を含まないデスクマットによる接触皮膚炎はこれまでに報告されていない。おいて発表した。
著者
加藤 美和 古江 増隆 江藤 綾桂 松永 拓磨 井上 慶一 橋本 弘規 水野 亜美 芥 茉実 平野 早希子 古江 和久
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.370-376, 2020

<p>Endothelin-1(EDN1)は正常表皮の基底細胞に限局的に強く発現され,基底細胞癌でもその発現が認められることが報告されている。しかし基底細胞癌を二次的に発生しやすい脂腺母斑での EDN1 発現はこれまで検討されていない。我々は脂腺母斑 10 例,基底細胞癌を発生した脂腺母斑 4 例,脂腺母斑周囲の正常皮膚 9 例,およびランダム生検にて採取した正常皮膚 10 例のパラフィン包埋標本を用いて,EDN1 の発現を免疫組織学的に検討した。EDN1 は正常表皮や上部毛囊脂腺系の基底細胞,エクリン汗腺の導管部と分泌部に強い発現を認めた。下部毛囊では,内毛根鞘細胞,毛幹,毛母,毛乳頭は EDN1 陰性であった反面,外毛根鞘細胞は全体的に EDN1 陽性を示した。脂腺母斑表皮でも基底細胞は EDN1 強陽性であった。正常皮膚に比べ,脂腺母斑では肥厚した有棘細胞層内とりわけ毛囊分化を示しつつある部位には EDN1 陽性有棘細胞が有意に増数集簇していた。基底細胞癌が発生した脂腺母斑の基底細胞癌は EDN1 陽性であった。また基底細胞癌から離れた脂腺母斑部に比べ,基底細胞癌近傍の脂腺母斑部では EDN1 陽性有棘細胞が有意に増数していた。これらの結果から EDN1 陽性の毛囊分化を示しつつある部位が基底細胞癌の発生母地になるのではないかと推察した。加えて正常毛囊の EDN1 分布から類推すると,脂腺母斑表皮内の EDN1 陽性有棘細胞は外毛根鞘細胞への分化を示している細胞ではないかと考えた。</p>
著者
小松 恒太郎 山口 さやか 内海 大介 大嶺 卓也 砂川 文 粟澤 剛 大城 健哉 高橋 健造
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.455-459, 2020

<p>壊死性軟部組織感染症は比較的まれな疾患である。我々は 6 カ月間で 4 例を経験し,3 例を救命できた。4 例の初診時主訴は多彩であり,明らかな感染徴候がない例,発熱・嘔吐・下痢など急性胃腸炎様症状を呈した例など,発症初期には軟部組織感染症を疑うことができなかった症例が存在した。1 例は搬送時に全身状態が悪くデブリードマンを行えず死亡,3 例は緊急デブリードマンを行い救命できた。診断には A 群 β 溶血性連鎖球菌抗原キット検査が全例陽性であり非常に有用であった。血液検査では好酸球数の著明な低下と CRP 高値が 4 例に共通していた。A 群 β 溶血性連鎖球菌による壊死性軟部組織症は,初期診断が困難な症例があるが,治療が遅れると致死率が高く,早期診断が重要である。</p>
著者
柴垣 直孝 猪爪 隆史 安藤 典子 北村 玲子 水谷 三記子 長阪 晶子 清水 顕 島田 眞路
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.152-159, 2005 (Released:2005-10-25)
参考文献数
22
被引用文献数
4 3

ジアミド誘導体を配合した入浴剤のアトピー性皮膚炎患者に対する有用性を検討するために,合成擬似セラミドなどの油性保湿成分とユーカリエキスおよびオーツ麦エキスを配合した入浴剤を対照処方とし,この対照入浴剤処方にジアミド誘導体を配合した入浴剤処方を用いて二重盲検法による入浴での使用試験を行った。対象はアトピー性皮膚炎患者21例(ジアミド誘導体配合入浴剤使用群13例,対照入浴剤使用群8例)で,入浴剤を3~6週間使用させ,身体部位の乾燥症状や痒みに対する効果を検討した。その結果,1.対照入浴剤使用群では「乾燥」および「落屑」において有意な改善効果が認められたのに対し,ジアミド誘導体配合入浴剤使用群では「乾燥」,「落屑」に加え,「そう痒・そう破痕」および「角層水分量」において有意な改善効果が認められた。2.特に高頻度(毎週4回以上)の使用患者では,ジアミド誘導体配合入浴剤使用群(7例)において「入浴中のかゆみスコア」の改善傾向と「入浴後のかゆみスコア」の有意な改善が認められたのに対し,対照入浴剤使用群(7例)においてはいずれも有意な改善を認めなかった。また,「入浴後のかゆみスコア」の改善を示す症例数は,ジアミド誘導体配合入浴剤使用群の方が対照入浴剤使用群と比較し,有意に多かった。以上の結果より,ジアミド誘導体を配合した入浴剤の使用は,アトピー性皮膚炎の治療において一つの有用な補助療法となる可能性が示唆された。
著者
坂元 亮子 具志 亮 金蔵 拓郎 神崎 保
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.454-457, 2004 (Released:2005-10-21)
参考文献数
16

難治性の粘膜扁平苔癬の3例を経験した。症例1は78歳の女性。下口唇, 口腔内にびらんを認めた。症例2は64歳の女性。口腔内に粘膜疹が出現し, エトレチナート内服が無効であった。症例3は72歳の女性。下口唇, 口腔内にびらんを認めたが, エトレチナートの内服で著変がなかった。全例にタクロリムスを外用したところ, 1~3週間で病変の著明な改善を認めた。治療抵抗性の口腔扁平苔癬に対し, タクロリムスの外用は有用な治療と思われた。
著者
中村 真由香 原口 祐子 菊池 智子 濵田 広之 伏見 文良 古江 増隆
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.357-359, 2020-10-01 (Released:2020-11-10)
参考文献数
11

45 歳,男性。初診 1 カ月ほど前より味覚障害,食欲低下を認めていた。頭部の脱毛が出現し,徐々に脱毛範囲が拡大するため,近医を受診し,当科紹介となった。初診時頭部のびまん性脱毛,爪甲の変形,手掌・手指に淡い褐色調の皮膚色素沈着,舌は軽度腫脹がみられ,味蕾が消失していた。また,味覚障害,食欲低下を認めていたため,上部・下部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃・十二指腸および大腸全域にかけて広範囲に発赤調の小ポリープが著明に多発していた。以上より Cronkhite-Canada 症候群(CCS)と診断した。消化器内科と併診し,内服ステロイド治療が開始(PSL 30 mg/日)となった。PSL と PPI(ラベプラゾール)内服を開始して 2 週間後には味覚が改善し食欲が増進した。数週遅れて爪甲の脱落,髭の再生,手掌の色素沈着の消失がみられた。ステロイドを漸減し内服終了し,2 カ月後の上部・下部消化管内視鏡検査では一部小隆起の残存部位あるものの改善を認めた。爪甲は全て生え変わり,脱毛などの症状の再燃なく経過している。CCS は世界的に希少な疾患であるが,本邦での報告例は比較的多く,びまん性脱毛,爪甲の変形,手掌や手指の皮膚色素沈着などの症状をみた場合には鑑別診断として念頭に置く必要がある。
著者
太田 征孝 福代 新治 白築 理恵 森田 栄伸
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.578-581, 2017

<p>75 歳,女性。2013 年に右踵部に易出血性の紅色腫瘤が出現した。2014 年に近医で腫瘤を切除され,悪性黒色腫の診断で当院を受診した。原発巣の拡大切除および骨盤内・鼠径リンパ節郭清,DAVFeron(ダカルバジン+ニムスチン+ビンクリスチン+インターフェロン <i>β)</i>投与を受けた。2015 年に皮膚・肝・肺・骨盤内・骨に腫瘤形成がみられ,悪性黒色腫の転移と診断されてニボルマブ点滴投与を開始された。 腫瘍縮小効果に乏しく,ベムラフェニブ内服に変更された。ベムラフェニブ投与開始後,皮膚・肺・肝・骨盤内転移は速やかに縮小傾向となったが,骨転移は縮小傾向に乏しかった。投与開始 3 カ月の時点で食欲低下やふらつき,失見当識が出現した。頭部 CT,MRI 画像では異常所見は認めなかった。投与開始 4 カ月で意識障害が出現し,造影 MRI および髄液細胞診を行ったところ,癌性髄膜炎および脳転移の所見がみられ,入院後 2 週間で永眠した。ベムラフェニブ投与により転移巣の縮小効果が得られたが,髄液移行性が低いことから中枢神経系転移には効果がみられなかった。また,本症例はメラニン含有量の少ない悪性黒色腫であり,単純 MRI 画像では描出されず,造影 MRI の撮影が必要であった。</p>
著者
石原 あえか
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.80, no.5, pp.425-430, 2018

(1)フランクフルト大学皮膚科学教室の歴史<br>(2)バレッタのムラージュ<br>(3)フランクフルト大学所蔵の珍しいムラージュ<br>(4)梅毒特効薬「サルバルサン」パウル・エールリッヒと秦佐八郎<br>(5)ユダヤ系皮膚科医たちの消息 へルクスハイマーの最期とガンスの復帰
著者
田﨑 典子 鍬塚 大 東 美智子 鍬塚 さやか 鈴木 貴久 波多 智子 宇谷 厚志
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.19-23, 2017

71 歳,男性。2010 年 7月,再発性多発軟骨炎を発症し,内科でプレドニゾロン 20 mg/day の内服治療が開始された。2012 年 3 月,<i>Mycobacterium intracellulare</i> による肺非結核性抗酸菌症を発症し,プレドニゾロンに加え,3 剤併用療法が開始された。2013 年 8 月,発熱と皮疹が出現し皮膚科を紹介された。皮疹は無痛性の 2 cm までの紅色結節で,頚部,上肢,体幹に散在していた。病理組織で真皮浅層から脂肪織にかけ好中球を主体とする密な細胞浸潤を認めた。一般細菌培養,真菌培養,抗酸菌培養はすべて陰性であった。以上より皮疹は Sweet 病と診断した。貧血と血小板減少のために行った骨髄穿刺にて骨髄異形成症候群も同定され,最終的に再発性多発軟骨炎と骨髄異形成症候群を合併した Sweet 病と診断した。 プレドニゾロンを増量,ステロイドミニパルスを行うも効果は一時的で浸潤性紅斑,結節の出没を繰り返し,2014 年 1 月に永眠した。本症例では約 4 カ月の間に臨床的には多彩な皮疹が出現したが,病理組織像はいずれも真皮から脂肪織に至る好中球浸潤であった。このように再発性多発軟骨炎,骨髄異形成症候群,Sweet 病の 3 者を合併する症例は過去にも報告されており,これらの症例につき文献的考察を行った。
著者
片山 一朗 室田 浩之 調 裕次
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.516-521, 2008-10-01 (Released:2008-12-13)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

皮膚症状を有するシェーグレン症候群患者26例を対象に,人参養栄湯を3ヵ月服用させて,皮膚疾患特異的QOL及び自他覚症状の推移を検討した。皮膚疾患特異的尺度としてはSkindex-16を用いた。総合評価では1ヵ月後および3ヵ月後において,スケール·スコアでは症状,感情,機能のうち,症状と感情の3ヵ月後において有意な改善を認めた。自他覚症状では,口唇炎·口角炎,凍瘡様皮疹,手足の冷え,疲労感において1ヵ月後および3ヵ月後で有意な改善を認めた。眼瞼炎,食欲不振は訴えを有する症例が少なく有意差はなかったが,77.8%,66.7%と高い改善率を示した。眼,口腔の乾燥感は30∼40%台の改善率が認められたが,有意差は1ヵ月後の眼の乾燥感においてのみ得られた。副作用はほてりのぼせの1例のみであった。以上から人参養栄湯は皮膚症状を有するシェーグレン症候群の多彩な愁訴を改善し,患者のQOLを高める安全かつ有効な薬剤と考えられた。
著者
今福 信一 中山 樹一郎 野口 雅久
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.636-641, 2012-12-01 (Released:2013-02-26)
参考文献数
12

皮膚の細菌感染症はありふれた疾患で,その多くは黄色ブドウ球菌による。治療には内服または外用の抗菌薬が用いられるが,外用薬についてはあまり熟慮されず古典的な抗菌薬が未だに用いられ続けている傾向がある。また,日常の臨床では培養結果をみて薬剤を選択することは稀で,一般に初診時に経験的に投与されている。従って用いている抗菌薬の感受性と菌種の頻度を知ることは重要である。ナジフロキサシン (NDFX) は内服の剤形がない外用抗菌薬で,皮膚の細菌感染症に対して保険適応があるが,伝染性膿痂疹以外の皮膚細菌感染症についての効果,および感受性についての情報に乏しい。   目的:伝染性膿痂疹以外の皮膚感染症(毛包炎,せつ・癰,ひょう疽)について NDFX 軟膏 1 %の臨床効果,および分離された起炎菌の各種薬剤に対する感受性について検討した。   方法 : 同意を得た各疾患毛包炎患者 22 例,せつ・癰患者 28 例,ひょう疽患者 25 例に対して起炎菌の培養同定,感受性試験を行った。また治療の効果を 5 段階で評価した。   結果 : 分離された菌の 37%(29/79)が Staphylococcus aureus であった。。NDFX の感受性は MIC が最も小さい 0.063 μg/ml 以下が 75.9 %を占め,また全菌種が 4 μg/ml 以下で耐性が無いと考えられた。臨床的な改善度は改善以上が毛包炎で 95%,ひょう疽で 81%,せつ・癰で 96%であった。試験中に明らかな副作用はみられなかった。NDFX 軟膏 1%は他の薬剤と比較して頻度の高い起炎菌に低い MIC を示し,有用性の高い外用薬と考えられた。
著者
吉田 正己
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.272-277, 1985-04-01 (Released:2012-03-15)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

昭和54年2月から昭和57年5月までの期間に臨床的に皮膚粘膜の単純ヘルペスと診断した134例(そのうち分離陽性107例)を対象とし, ウイルスの分離率と分離ウイルス株の型別を検討し, 次の結果を得た。1)発疹の形態別によるウイルス分離率: 小水疱と膿疱から95%以上, 糜爛と痂皮下糜爛から75%以上にウイルスを分離できた。さらにアフタ, 潰瘍, 丘疹, 水疱前紅斑からも分離できた。しかし痂皮と水疱後紅斑からは全く分離できなかつた。2)病日とウイルス分離率の変動: 1病日100%から6病日57%まで漸減傾向を認めた。しかし7病日から30病日の検索でも今回は注意深く湿潤病巣を捜し出したところ67%に分離できた。3)病巣部位別によるウイルスの型別: 顔および体幹上半からは75例すべて単純ヘルペスウイルス(HSV)1型が分離され, 手からは6例中2例にHSV 2型が分離された。臀部と男子外陰部の14例からはすべてHSV 2型が分離されたが, 女子外陰部からは5例中4例にHSV 1型が分離された。とくに成人の初感染11例はすべてHSV 1型であり, このうち女子外陰部, 乳房, 口腔に生じた6例が性的接触による感染と考えられた。
著者
志賀 建夫 横川 真紀 緒方 巧二 千々和 龍美 川村 昌史 中村 寿宏
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.244-247, 2006 (Released:2006-07-31)
参考文献数
11

34歳,男性。右前胸から背部,右上腕にかけての刺青の施行から3年後に,感冒様症状が先行して刺青の朱色部に限局した発赤と腫脹が出現した。リンパ節腫脹,発熱,咽頭痛といった全身症状も伴った。発赤部からの皮膚生検では,真皮の刺青色素周囲に著明な組織球の浸潤がみられた。パッチテストにて塩化第二水銀が陽性であり,刺青の朱色色素である辰砂(硫化水銀)に対するアレルギー反応によるものと考えた。プレドニゾロン30mg/日の内服およびプロピオン酸クロベタゾールの外用にて症状は速やかに消退し,プレドニゾロンの漸減,中止後も症状の再燃はみられていない。本症例は刺青施行後3年間の間に2度同様のエピソードを示しており,いずれの際にも感冒様症状の後に本症が発症していることから,発症には感染症が誘因になっていると考える。
著者
高橋 収 田中 伸二 小国 隆 中西 秀樹
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.892-896, 1986-10-01 (Released:2012-03-15)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

フラジオマイシン(FRM)含有軟膏の大量使用が原因と考えられた両側感音難聴の2例を報告した。症例1は53才男子。たきびの火が着衣に引火し, 体表面積の70%(III度55%)の熱傷を受け, FRM含有軟膏を外用して総計38.5kgを使用した。外用開始約4ヵ月後より耳鳴の訴えがあり, 聴力検査で高音障害型の両側感音難聴を指摘された。症例2は18才男子。ガソリンの爆発で, 体表面積の70%のIII度熱傷を受け, 受傷後4週目頃より, FRM含有軟膏を外用し総計48kgを使用した。外用開始, 約5ヵ月後より耳鳴を訴え, 聴力検査で高音障害型の両側感音難聴を指摘された。2症例とも難聴は外用剤中止後も徐々に進行し, 約1年でほぼ全聾状態となつた。