著者
坂下 美彦 藤川 文子 秋月 晶子 藤里 正視
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.316-320, 2016 (Released:2016-03-04)
参考文献数
12

【緒言】SEIQoL-DWは半構造化面接により患者が大切に思う5つの領域に焦点をあてて個人のQOLを測定する方法である.本研究は進行がん患者の大切に思う領域と主観的QOLの変化について病状悪化の経過の中で縦断的に評価するのを目的とした.【方法】痛みがSTAS1以下などを適格基準としSEIQoL-DW を1年間に緩和ケア外来(1回目)と入院後(2回目)に実施した症例を対象とした.【結果】対象は5例(男1,女4,年齢67.6歳)であった.1回目面接時P.S.は全例1に対し,2回目面接時には3ないし4であった.面接の間隔は平均164日.全例において大切な領域の内容は5つのうち3つ以上が変化した.全般的主観的QOLを意味するSEIQoL-indexは3例で上昇し2例で低下した.【結論】終末期に患者が大切に思う領域は大きく変化する.個人の主観的QOLは全身状態の低下とは必ずしも一致しない.
著者
小林 孝一郎 村上 真由美 富山 徹 加藤 真理子 中屋 泉美 武田 美和子 横山 雄子 平井 紀子 河上 浩康
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.371-375, 2013 (Released:2013-08-29)
参考文献数
5
被引用文献数
2

【目的・方法】在宅緩和ケアにおける多職種間の速やかな情報共有と緩和ケアチームによる苦痛緩和支援を目指して, ITクラウドを活用した地域医療支援システムEIRを導入した. 試用期間半年間に, 緩和ケアチームが関わって在宅緩和ケアに移行した5事例を対象として, 関わった医療者11名にアンケート調査を実施して, 有用性について検討した. 【結果】入力装置として全員がパソコンを使用, iPhone併用は4名, 現場で入力した経験があるのは2名であった. 入力時間は9名が5分以下で, 閲覧はさまざまな装置と場所で行われていた. 有用性は, 至急・重要メールは役立ちましたか: 3点6名, 2点3名, 1点1名, 0点1名, 情報量は適切でしたか: 3点9名, 2点2名, 連携はスムーズにできましたか: 3点9名, 2点2名, そして総合評価として在宅緩和ケアに活用できましたか: 3点9名, 2点2名であった. 【結論】在宅緩和ケアにおいて有用である可能性が示唆された.
著者
西 智弘 森 雅紀 松本 禎久 佐藤 恭子 上元 洵子 宮本 信吾 三浦 智史 厨 芽衣子 中野 貴美子 佐藤 一樹 下井 辰徳 田上 恵太 江角 悠太 坂井 大介 古川 孝広 森田 達也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.184-191, 2013 (Released:2013-07-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

【背景】わが国における緩和ケアの需要は年々高まり, 緩和ケア医の養成は重要な課題である. しかし, 緩和ケア医を目指す若手医師が, 教育研修体制やキャリア構築などに対して, どのような満たされないニーズを抱えているかは明らかになっていない. 【目的】緩和ケア医を目指す若手医師が抱えるニーズを明らかにする. 【方法】卒後15年目までの医師を対象にグループディスカッションを中心としたフォーラムを行い「必要としているけれども十分に満たされていないことは?」などに対する意見をテーマ分析を用いて分析した. 【結果】40名の医師が参加した. 若手の抱えるニーズは, 「人手の確保」「研修プログラム・教育の質の担保」「ネットワークの充実」「緩和ケア医を続けていくことへの障害の除去」「専門医として成長する道筋の確立」であることが示された. 【結論】緩和ケア医を育成していくため, これら満たされないニーズの解決を議論していくべきである.
著者
白澤 円 服部 政治 横田 美幸
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.550-555, 2012 (Released:2012-09-14)
参考文献数
11

がん性髄膜炎による頭痛を呈する患者に, 脊髄くも膜下腔カテーテル留置および皮下ポート設置術(以下, カテーテル留置)を行い, 抗がん剤とオピオイドの髄腔内投与ルートおよび髄液採取に用いた. 【症例】50歳代, 女性. 浸潤性乳管がんと診断され, 術前化学療法が行われたが, 頭痛の増悪と痙攣, 意識消失をきたし, 髄液細胞診でがん性髄膜炎と診断された. 抗がん剤の髄腔内注入のため, Ommaya reservoirの代替法としてカテーテル留置が緩和ケアチームに依頼され実施した. ポートより症状緩和目的のオピオイドを持続投与すると共に, 週2回髄注治療が行われ, 一時, がん細胞は陰性化, 症状治療不要となった. その後, 再発し, 全脳照射を必要としたが, 診断から5カ月生存した. カテーテル留置は, オピオイド投与だけでなく, 一般に腰椎穿刺かOmmaya reservoirを介して行われる髄腔内抗がん剤注入経路として有用な可能性が示唆された.
著者
片山 英樹 青江 啓介 関 千尋 阿部 宏美 三村 雄輔 上岡 博
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.202-208, 2012 (Released:2012-08-13)
参考文献数
12

緩和ケア病棟へ入院中の進行がん患者48名の血清マグネシウム値を測定し, マグネシウム製剤の内服の有無や全身状態とその臨床的意義を検討した. 血清マグネシウムの平均値は2.09 mg/dlであり, マグネシウム製剤投与例の平均値は2.17 mg/dlと, マグネシウム製剤非投与例の平均値1.80 mg/dlに比べて有意に高値であった(p=0.006). 基準値(1.8~2.8 mg/dl)を外れた高マグネシウム血症を2例, 低マグネシウム血症を8例に認めたが, 臨床的にマグネシウム異常に関連した症状は認められなかった. また, マグネシウム製剤の投与期間, 投与量と血清マグネシウム値との関連も認められなかった. 今回の検討では血清マグネシウム値の著明な異常は認められず, 臨床的にもマグネシウム異常に関連した症状はみられなかった. しかし, 緩和ケア病棟の患者はマグネシウム異常をきたしやすい状態であり, かつマグネシウム異常に伴う症状はがんの進行時にみられる症状と類似している. そのため, 特に終末期でそのような症状を呈した場合, 血清マグネシウム値の異常についても留意する必要があると考えられた.
著者
秋山 美紀 的場 元弘 武林 亨 中目 千之 松原 要一
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.112-122, 2009 (Released:2009-10-29)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

【目的】診療所医師の在宅緩和ケアの実施状況および困難感を明らかにし, がん緩和ケアを地域で推進するための有効策を検討することを目的とした.【方法】緩和医療資源が十分でないと考えられる地域の全診療所69カ所の医師を対象に, 質問紙調査によって在宅緩和ケアの実施状況と今後の対応の意向を評価したうえで, 62カ所の診療所医師のインタビュー調査により在宅緩和ケア実施の阻害要因などを明らかにした.【結果】質問紙の回収率は81%で, 在宅緩和医療の実施率は, 比較的末期のがん患者の在宅診療27%, モルヒネ内服による疼痛管理29%, 精神面サポート12%などであった. インタビュー内容分析の結果, 緩和スキルの向上, 病院医師との関係構築, 患者・家族・一般市民の啓発などの必要性が示された. 【結語】在宅緩和ケア推進のためには, 地域で研修会などを開催し, 病院, 診療所間で良好な関係を築きながらスキルアップを行うとともに, 一般市民の在宅ケアへの理解を培うことが重要である. Palliat Care Res 2009; 4(2): 112-122
著者
西 智弘 割田 悦子 上元 洵子 小野寺 馨 山中 康弘
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.556-561, 2012 (Released:2012-09-14)
参考文献数
11

【緒言】黄疸に合併する掻痒は, 抗ヒスタミン剤無効例が多く, 緩和に難渋する例がある. 近年, 掻痒に対するパロキセチンの効果が報告されているが, パロキセチン無効例への報告はまれである. 今回, パロキセチン無効の掻痒に対してミルタザピンが著効した1例を経験したので報告する. 【症例】56歳, 女性, 膵頭部がん・腹膜播種. 閉塞性黄疸に対してドレナージ術など行うも黄疸が遷延し, NRS (numerical rating scale) 9~10程度の, 抗ヒスタミン剤無効の全身掻痒が続いていた. 当院受診後, パロキセチンへ変更したが, 2週後にも掻痒は改善せず, 黄疸も遷延していた. しかし, ミルタザピンへ変更したところ, 翌日に掻痒はNRS 1となり, その後も掻痒の再燃は認められなかった. 【結語】パロキセチン無効の掻痒に対し, ミルタザピンは選択肢の1つとして重要である.
著者
佐藤 恭子 安藤 孝 西 智弘 狩野 真由美 石黒 浩史 宮森 正
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.201-205, 2010 (Released:2010-05-24)
参考文献数
9

舌下投与は痛みを伴わないため, 内服不能で他の投与経路確保が困難な終末期患者に有用な方法である. われわれは, がん性疼痛に対するブプレノルフィン(0.1~0.2mg/回), フェンタニル(0.05~0.2mg/回)注射剤舌下投与, および不眠時のミダゾラム(0.1mg・kg‾¹)注射剤舌下投与の有効性と安全性について検討した. 3剤は口腔内よりすみやかに吸収され, 約90%の症例に効果があった. 眠気, 嘔気のほか, 嚥下障害を有する例で痰の増加がみられた以外は, 特に大きな副作用はなかった. 注射剤の舌下投与は, 緩和ケアにおける代替投与経路として患者のQOLのために有用な手段である. Palliat Care Res 2010; 5(1): 201-205
著者
伊勢 雄也 森田 達也 前堀 直美 轡 基治 塩川 満 木澤 義之
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.213-218, 2010 (Released:2010-08-13)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

現在, 麻薬及び向精神薬取締法施行規則が改正され, 麻薬小売業者間での麻薬の譲渡/譲受が可能となったが, その制度の問題点については明らかにされていない.本研究は, この制度の普及と運用上の障害を明らかにすることを目的として行われた. 全国3,000施設の薬局の薬剤師に対して質問紙による郵送調査を行い, 1,036施設より回答を得た. 麻薬小売業者間譲渡許可免許を取得することにより麻薬が取り扱いやすくなる, またはなったと回答した施設は全体の20.2%であった. 取り扱いやすくならない, またはならなかった理由として, 手続きの煩雑さに関する問題のほかに, 麻薬の譲渡/譲受の規制についての問題点が挙げられた. 以上の結果より, がん患者の除痛を適切に地域で行えるよう薬局が機能するためには, 他の医薬品と同じように「医薬品販売業者への返品を可能にする」, または「備蓄薬局からの継続的な譲渡を可能にする」などが必要であることが示唆された. Palliat Care Res 2010; 5(2): 213-218
著者
前田 智美 京田 亜由美 飯嶋 友美 神田 清子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.273-281, 2023 (Released:2023-12-27)
参考文献数
24

現在のがん看護において,病期の進行に伴い化学療法継続かどうかの意思決定支援が課題である.本研究は外来化学療法室看護師が治療継続を再考する時期と判断する際の視点と行動を明らかにすることを目的に,看護師14名にフォーカスグループインタビューを実施し,内容分析の手法を参考に分析した.判断の視点は[患者の望む生き方が尊重されているか][患者が望む日常生活を送れ,QOLが維持できるか]などの4カテゴリーが形成された.行動は[傾聴を重ね,患者の望む生き方が叶うよう,今後の治療への向き合い方を共に考え検討する][適切な時期に治療中断への介入が行えるように,看護師間で協力する]などの3カテゴリーが形成された.外来化学療法室看護師は,臨床倫理の視点で日々の看護を行い,患者の望む生き方が尊重されているかを判断していた.また,タイミングを逃さず介入するために医療スタッフ間の連携を大切にしていることが示唆された.
著者
木本 志津江 砂田 祥司 柴崎 千代 小川 喜通 實森 直美 清水 洋祐 國冨 留美 小川 弘太 市場 泰全
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.501-504, 2014 (Released:2014-10-04)
参考文献数
15

【目的】難治性嘔吐に対しオランザピンを使用し, 経過途中でせん妄, 痙攣が生じた症例を経験したので報告する.【症例】70歳代, 男性. 肺がん. 化学療法後, 持続する嘔気・嘔吐に対し, オランザピンを使用した. せん妄が出現し, その後, 痙攣が出現した. せん妄のリスク因子の除去後もせん妄症状の改善がみられなかった. オランザピン中止後, せん妄症状が改善した. バルプロ酸を使用し, その後痙攣発作は生じなかった.【結論】オランザピン中止後, せん妄は改善し, 痙攣発作も消失したので, オランザピンがせん妄や痙攣発作の要因であった可能性が考えられた.
著者
小澤 竹俊 千田 恵子 久保田 千代美 濱田 努
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.253-259, 2023 (Released:2023-12-20)
参考文献数
14

ホスピス・緩和ケアで培われたスピリチュアルケアの本質を,子どもたちに伝えることを目的に,「折れない心を育てるいのちの授業プロジェクト(OKプロジェクト)」を2018年より開始した.教材開発,講師養成を行い,授業を行った.2023年9月までに,認定講師は189人となり,いのちの授業は,延べ720回(小学校202, 中学校88, 高校25, 大学・専門学校78, その他327),参加者53,360人の実績であった.授業後の感想(自由記載)から,自己肯定が強まり,他者への思いやりが生まれる内容が多く寄せられた.認定講師向けのフォローアップとして,認定講師同士の学び合う場を定期的にオンラインで開催し,プレゼンテーションの練習,フィードバックできる環境を整えた.折れない心を育てるいのちの授業は,解決が難しい苦しみを抱えた子どもが穏やかさを取り戻し,コンパッション・コミュニティの実現に近づける可能性がある.
著者
亀井 千那 伊藤 慶 早川 沙羅 鄭 陽 鈴木 梢 東 有佳里 田中 桂子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.13-17, 2021 (Released:2021-01-26)
参考文献数
7
被引用文献数
1

肝腫瘍に対する緩和照射はその有用性を示唆する研究が散見されるものの,本邦では症例報告すら乏しい状況である.本研究の目的は,肝腫瘍由来の疼痛に対する緩和照射の効果を明らかにすることである.2014年12月から2016年11月の間に都立駒込病院で,原発性もしくは転移性肝腫瘍が原因と考えられる疼痛に対して肝臓への緩和照射を行った症例を後方視的に検討した.計15症例が8Gy1分割の緩和照射を受けており,照射前後で疼痛のNumeric Rating Scale(NRS)を評価していた12例全例で低下を認めた.Grade 3以上の急性期有害事象はみられなかった.肝腫瘍由来の疼痛に対する緩和照射は,症状の緩和に有効で忍容性もある可能性が示唆された.
著者
小島 康裕 村松 雅人
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.241-245, 2023 (Released:2023-11-24)
参考文献数
8

【緒言】肝転移・傍大動脈リンパ節転移を伴った食道がんによる腰背部痛の鑑別に,硬膜外ブロックが痛みの原因推定に有用であった症例を経験した.【症例】69歳男性,既往歴:腰椎椎間板ヘルニアの手術歴(20歳時).食道がんの診断で経過観察中に腰背部痛を自覚,その後心窩部痛を併発した.MRIでL1/2, L2/3椎間板ヘルニアの所見を認めた.症状緩和および腰背部痛の原因を鑑別するためX線透視下にTh8/9より胸部硬膜外ブロックを施行した.鎮痛効果を確認後,神経破壊薬(無水エタノール)を用いた内臓神経ブロックを施行したところ,心窩部痛・腰背部痛は消失した.その後,4カ月間在宅療養を継続し,鎮痛剤を増量することなく,疼痛コントロール良好な状態で永眠された.【結論】胸椎レベルでの硬膜外ブロックを事前に施行し,除痛が得られたことから内臓神経由来の痛みであることが推察できた.同手技はその後の痛みの治療選択に有用であった.
著者
名古屋 祐子 佐藤 篤 木村 慶 相馬 伸樹 吉本 裕子 高橋 久美子 坂田 悠佳 蜂谷 ゆかり 長澤 朋子 大塚 有希 五十嵐 あゆ子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.235-240, 2023 (Released:2023-10-30)
参考文献数
10

本研究は,小児専門病院の緩和ケアチームが院内コンサルテーションを開始する前後で院内スタッフの緩和ケアに対する困難感の変化を明らかにすることを目的に行った.5領域21項目で構成される困難感に関する自記式質問紙を用い,2015年に開始前,3年後に開始後調査を実施した.開始前は222名(回収率70.9%),開始後は384名(回収率87.3%)から回答を得た.回答者の7割以上が看護師・助産師であった.全職種では,“苦痛症状の緩和”,“看取りの際の家族ケア”,“自分自身や周囲のスタッフが感じる不全感や喪失感に対する支援”の3項目で困難感の有意な減少が認められた.介入した部署の看護師・助産師の困難感は6項目で有意な減少を認めた.緩和ケアチームが介入した16件中11件が疼痛コントロール難渋例の2名の患者への複数回の介入依頼であり,コンサルテーション活動が看護師・助産師の困難感の減少に寄与したと推察する.
著者
田口 菜月 升川 研人 青山 真帆 森田 達也 木澤 義之 恒藤 暁 志真 泰夫 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.193-200, 2023 (Released:2023-08-30)
参考文献数
15

【目的】緩和ケア病棟の質改善活動の実態と遺族調査のアウトカムとの関連を明らかにする.【方法】J-HOPE4に参加した187施設にアンケート調査を実施し,質改善活動実施状況と,施設を利用した遺族の全般的満足度,ケアの構造・プロセスの評価(CES),望ましい死の達成度(GDI),複雑性悲嘆(BGQ),抑うつ(PHQ-9)との関連を検討した.【結果】日本ホスピス緩和ケア協会の自施設評価共有プログラムへの参加,多職種カンファレンスの開催頻度・カンファレンス参加職種数が多い施設で全般的満足度やGDIが有意に高かった.遺族ケアを実施している施設で全般的満足度,CESが有意に高かった.遺族への電話を実施している施設でBGQが有意に低く,葬儀や通夜への参列を実施している施設でPHQ-9が有意に低かった.【結論】質改善活動を積極的に実施している施設では,緩和ケアの質が高く遺族の悲嘆や抑うつを軽減する可能性がある.
著者
河村 諒 中里 和弘
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.175-183, 2020 (Released:2020-07-15)
参考文献数
21

【目的】介護職員の視点から,高齢者施設の宗教的な関わりの要素および宗教的な関わりが利用者,施設職員,利用者家族に及ぼす影響を整理し,宗教的な関わりの臨床的意義と課題を探索的に検討することを目的とした.【方法】特別養護老人ホームの介護職員12名を対象に質問紙調査および半構造化面接を行った.【結果】利用者では「非日常性」等の8つの要素が「日常場面におけるポジティブな精神的変化」等の5つの影響を,介護職員では「宗教の意識化」等の2つの要素が「自身の宗教観の変化」等の2つの影響を,利用者家族では「利用者を見送る行為の具現化」の要素が「利用者家族の精神的ケアの場」の影響をもたらすと考えられた.【結論】宗教的な関わりが利用者だけでなく施設職員や利用者家族にも有益である可能性が示唆された.
著者
髙木 健司 高塚 直能 佐々木 翼 森 香津子 小川 直美 伊藤 慎二
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.69-75, 2018 (Released:2018-02-28)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

【目的】当院は精神科医が非常勤であり,患者の精神状態の評価は各医療者の主観的判断となっていた.そこで,抑うつをスクリーニングし専門医への連携に繋げる目的でPatient Health Questionnaire(PHQ)-9を導入したため,後方視的に検討した.【方法】2016年1月1日〜10月31日までに緩和ケア病棟に入院した全患者を対象とした.入院時にPHQ-9を行い,10点以上を抑うつありとした.精神科医の診断(P)と照合した.【結果】対象期間中に延べ83名が入院し,50名に施行し得た.PHQ(−)・P(-)32名,PHQ(+)・P(-)7名,PHQ(-)・P(+)2名,PHQ(+)・P(+)9名であった.P(+)11名であり,PHQ-9の抑うつに対する感度,特異度は81.8%,82.1%であった.【結論】緩和ケア病棟入院時においても,抑うつのスクリーニングとしてPHQ-9の有用性が示唆された.
著者
大塚 康二 桂 一憲 三谷 尚弘 野添 大輔 田上 和麿 前川 絢子 菅原 登 加賀 敬子 平野 拓司
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.153-158, 2023 (Released:2023-05-25)
参考文献数
15

悪性腫瘍に伴う悪性消化管閉塞(malignancy bowel obstruction: MBO)に対する治療としては,手術療法,消化管ステント留置,経鼻胃管や経皮内視鏡的胃瘻造設術,薬物療法などが知られている.酢酸オクトレオチドなどの薬物治療を行う場合は経口摂取ができなくなり,かつ持続点滴静注が必要となることから,患者のQuality of Life(QOL)を著しく低下させる.今回外科および緩和医療科を含めた多職種カンファレンスを行い慎重に検討を重ね,酢酸オクトレオチド持続投与中で低栄養のMBOの患者に対し審査腹腔鏡手術を行い,MBOの重症度や進行状況を把握することで緩和手術として小腸瘻造設術を選択し施行することができた.その結果,一時的に経口摂取が可能となり患者のQOLを改善させることができた.
著者
松本 直久 福永 智栄 門馬 和枝 村田 雄哉 岡部 大輔 石川 慎一
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.137-141, 2023 (Released:2023-05-16)
参考文献数
11

直腸テネスムスとは排便がない,もしくは少量しか出ないにもかかわらず,頻繁に便意を催す不快な感覚である.抗不整脈薬や神経ブロックによる治療の報告があるが確立された治療法はない.患者は68歳の女性.子宮頸がん術後,再発腫瘤による尿管圧排のために水腎症となり,左右の腎瘻が造設されていた.腹膜播種による腸閉塞のために緊急入院後,症状緩和を主体とする方針になった.薬剤では軽快しない直腸テネスムスに対して神経ブロックを計画した.不対神経節ブロックは効果不十分,サドルフェノールブロックは施行困難であった.局所麻酔薬を用いた持続仙骨硬膜外ブロックにて効果を確認した後に,神経破壊薬を用いた仙骨硬膜外ブロックを行ったところ直腸テネスムスは消失した.ブロック後5日目に退院が可能となり,症状の再燃はなくブロック後12日目に自宅で永眠した.神経破壊薬を用いた仙骨硬膜外ブロックは直腸テネスムスに有効と考えられる.