著者
山極 哲也 酒井 和加子 吉岡 亮 上野 博司 山代 亜紀子 川上 明 荻野 行正 土屋 宣之 大谷 哲之 大里 真之輔 信谷 健太郎 竹浦 嘉子 上林 孝豊 清水 正樹 大西 佳子 上田 和茂
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.123-128, 2023 (Released:2023-04-24)
参考文献数
11

地域全体の緩和ケアの質の向上を図るためには,各施設が緊密につながることが必要であると考え,2017年9月に「京都ホスピス・緩和ケア病棟(PCU)連絡会」を発足させた.個々のPCU施設が抱える問題を気軽に話し合い,共に悩み考え,成長,発展させる場,新規立ち上げ施設を支援する場とした.連絡会では,その時々の話題(緊急入院,輸血,喫煙,遺族会など)をテーマに議論を行った.2020年,COVID-19流行のため連絡会は休会となったが,メール連絡網を用い,感染対策,PCU運営などの意見を交わし,WEB会議システムを用い連絡会を再開させた.日頃より顔の見える関係があることで,COVID-19流行という有事においてもPCU間の連携を維持し,がん治療病院との連携にも発展させることができた.京都府のPCUが一つのチームとなることで,患者,家族がどのような場所においても安心して生活できることを目指している.
著者
児玉 秀治 佐貫 直子 酒井 美紀子 山川 智一 宮本 翔子 藤井 稚奈 秦 いづみ 北山 智美 今出 雅博 吉田 正道
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.111-116, 2023 (Released:2023-04-19)
参考文献数
9

症例は73歳女性.肺扁平上皮がん(cT3N3M0-Stage IIIC)に対し当科治療中.2022年6月より肺がん進行に伴い後腹膜リンパ節転移による腰背部痛が増強した.疼痛以外に両下肢浮腫による体動困難もあり7月8日に緊急入院し,後腹膜リンパ節転移に対して放射線治療(30 Gy/10 fr)を行った.タペンタドール200 mg/日で疼痛管理を行っていたが入院中にフェンタニル貼付剤1200 µg/日へ変更し腰背部痛は軽減した.また浮腫の原因疾患を鑑別し,理学所見・検査所見や病歴から,後腹膜リンパ節転移に関連したリンパ浮腫と診断した.入院31日目に浮腫は改善し,ベッド周囲のADLが向上し一時退院可能となった.リンパ節転移に関連したリンパ浮腫の治療方法は確立されておらず,放射線治療の有効性が報告されている.リンパ浮腫の診断に至るまでに他の病態を鑑別し,放射線治療によりリンパ浮腫が改善した1例を報告する.
著者
江藤 美和子 土橋 洋史 石川 奈名 藤本 和美 松岡 晃子 平石 孝洋 山﨑 圭一
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.105-109, 2023 (Released:2023-04-18)
参考文献数
20

【目的】急性期総合病院の医療従事者の緩和ケア実践の認識と関連因子を調べ,社会医療法人生長会ベルランド総合病院における緩和ケアの教育支援のあり方を検討する.【方法】急性期総合病院単施設の医療従事者を対象に無記名自記式質問紙調査を行い,個人属性,緩和ケアの実践と理解の実態を調査し,緩和ケア実践への関連因子を同定するために二項ロジスティック解析を行った.【結果】955名中605名(63%)が回答し,緩和ケアを実践していると回答したのは全体の23%であった.緩和ケア実践の関連因子は,緩和ケアの概念の理解,および緩和ケアの機能,基本的・専門的緩和ケアの違い,アドバンスケアプランニングの理解という緩和ケア実践の具体的内容の理解であった.【結論】基本的緩和ケアの実践を促進するために,医療従事者に対し,緩和ケアの理解を深めて自己の役割認識を促進する教育支援が重要である.
著者
塚越 徳子 角田 明美 渡辺 恵 京田 亜由美 瀬沼 麻衣子 近藤 由香 北田 陽子 廣河原 陽子 一場 慶 金子 結花 関根 宏美 宮澤 純江 橋本 智美
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.95-103, 2023 (Released:2023-04-06)
参考文献数
34

【目的】群馬大学医学部附属病院のがん看護外来における相談内容に関連する要因を明らかにする.【方法】2019年度の相談1308件から欠損値を除く1084件を対象に後ろ向きに調査した.調査項目は年代,性別,相談者,利用回数,がんの治療状況,相談内容などとした.相談内容と利用者の属性とのχ2検定,二項ロジスティック回帰分析を実施した.【結果】治療に関する内容は,70歳代以上,家族・親族のみ,再発・転移あり,初めての利用,治療前,泌尿器,子宮・卵巣,原発不明と関連した.身体的な内容は,治療中,治療後,再発・転移なし,消化器と関連した.心理的な内容は,30歳代以下,40~60歳代,患者のみ,2回目以上の利用と関連した.社会的な内容は,患者のみ,家族・親族のみ,再発・転移なし,乳房と関連した.【結論】相談内容によって関連要因は異なり,関連要因に応じて相談の準備を整えることに活用することができる.
著者
高橋 聡 三田 知子 村上 恵理 遠藤 雅士 丹波 嘉一郎 長谷川 聰 白井 克幸
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.89-94, 2023 (Released:2023-03-29)
参考文献数
15

【緒言】ブプレノルフィン経皮吸収製剤(BTDP)の自己中断により,急性オピオイド退薬症状を呈した在宅医療患者を報告する.【症例】84歳,在宅訪問診療利用中の男性.腰部脊柱管狭窄症の悪化により,4カ月前からBTDPで鎮痛されていた.症状改善傾向と考えた家人が,患者本人に無断でNSAIDs経皮吸収製剤に貼り替えたところ,約50時間後から5分ごとの頻尿や失禁,水様性下痢,発汗,血圧低下,足裏の不快感,不眠などの多彩な症状が表出された.Clinical Opiate Withdrawal Score(COWS)では12点の軽度退薬症状に該当した.発症後24時間で激しい症状はほぼ自覚されなくなり,48時間後には完全に消退した.【結論】BTDPの急速な中止による退薬症状の報告例は少ない.医学薬学的な側面のほか,在宅医療におけるオピオイド製剤使用上の社会的問題点も明らかとなった.
著者
鈴木 慈子 古瀬 みどり
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.79-87, 2023 (Released:2023-03-29)
参考文献数
38

【目的】看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向と終末期ケアへの態度との関連を明らかにする.【方法】一般病棟勤務の実務経験3年以上の看護師を対象にWEBによる自記式アンケート調査を行った.【結果】239名を分析対象とした.看護師の曖昧さへの態度得点は〈曖昧さへの統制〉〈曖昧さへの享受〉が高く,感情対処傾向は〈両感情調整対処〉が最も高かった.〈死にゆく患者へのケアの前向きさ〉と最も関連がみとめられたのは〈曖昧さへの享受〉であり,〈患者・家族を中心とするケアの認識〉と最も関連がみとめられたのは〈両感情調整対処〉だった.【結論】一般病棟に勤務する看護師の終末期ケアへの態度を高めるには,患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さを肯定的にとらえ関与する態度を育み,また患者と自己の両方の感情にバランスよく対処する力を育むことの必要性が示唆された.
著者
倉地 聡子 濱田 宏 田上 正 内野 博之
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.73-77, 2023 (Released:2023-03-16)
参考文献数
8

【目的】東京医科大学病院(以下,当院)緩和ケアチームの過去5年間の活動状況と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が与えた影響を調査した.【方法】2016年4月から2021年3月の期間に当院緩和ケアチームが介入した患者データを後方視的に比較・分析した.【結果】2016年度から2020年度までの延べ依頼数,患者背景,依頼・介入理由に大きな変化はみられなかった.2020年度の依頼時PS 0の患者数は他年度と比較し有意に増加し,自宅退院患者数も有意に増加していた.【考察】調査結果から緩和ケアの早期からの導入が進んでいることがわかった.当院でもCOVID-19流行後,入院患者の面会制限が行われ自宅療養を選択する割合が増えている可能性が考えられた.【結論】緩和ケアチームへの介入依頼はCOVID-19流行の影響なく,5年間で有意な変化を認めなかったが,入院患者への厳しい面会制限は緩和ケアを実践するうえで障壁となった.
著者
奥田 ゆり子 河鰭 憲幸 任 幹夫
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.67-71, 2023 (Released:2023-02-24)
参考文献数
11

早期からの緩和ケアの導入を目指し,大阪労災病院(以下,当院)では緩和ケアスクリーニングに積極的に取り組んでいる.当院緩和ケア科は漫然とルーチンをこなすのではなく繰り返し評価して改善していくことを重視しており,本邦で日常診療における緩和ケアチームの評価,さらに次の施策を検討した文献に乏しいこともあり,当院入院患者のスクリーニングの結果,施策をどう設定したのか,現状評価と今後の課題について後ろ向きに分析した.緩和ケアチーム介入があった91人はスコア上,すべての症状で改善がみられた.しかし,それが緩和ケアチーム介入自体の効果かは評価できなかった.また,チーム介入できていない患者の存在も示され,対象患者がもれなくチーム介入を受けるためには工夫が必要であると考えられた.スクリーニングは緩和ケアへつながる一つのきっかけにすぎず,今後は緩和ケアチームが患者のために病院全体のセーフティネットとして機能する体制づくりが必要であると考える.
著者
川平 正博 中村 文彦 嶋田 博文 西 真理子 岩坪 貴寛 塩満 多華子 前田 弘志 大迫 絢加 宮崎 晋宏 久住 勇介 村田 明俊 大迫 浩子 堀 剛
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.61-66, 2023 (Released:2023-02-21)
参考文献数
22

骨転移診療では,骨関連事象(SRE)の発症予防,早期診断,治療が重要となる.骨転移に対して多職種チーム介入を行うことで,生存期間延長やADL改善が期待できるか後方視的に検討した.2020年8月~2022年7月まで当院で骨転移カンファレンス(BMB)を実施した進行がん患者75名を,SRE発症前後のBMBによるチーム介入別に2群に分け,比較検討を行った.両群ともにチーム介入後にNRSは改善したがPSの改善はなく,両群で生存期間に差は認めなかった(15.3 vs. 9.0カ月,HR: 0.74,95%CI: 0.42–1.29,p=0.29).当院BMBでは発症したSREに対しては早急にチーム介入できていた.しかし,当院BMB後のSRE発症割合は22.6%であり,今後はSRE発症予防に積極的に取り組む必要がある.
著者
大野 栄治
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.21-27, 2020 (Released:2020-02-06)
参考文献数
23

【目的】造血器腫瘍患者は固形腫瘍患者に比べて緩和ケア病棟を利用することは少ない.この研究では,緩和ケア病棟に入院した造血器腫瘍患者の臨床的特徴を明らかにした.【方法】われわれの緩和ケア病棟で5年間に死亡した造血器と固形腫瘍患者の,症状の重症度および有病率,最後の治療から死亡までの期間を比較した.【結果】560人のがん患者のうち56人(10%)が造血器腫瘍の患者であった.造血器腫瘍患者は固形腫瘍患者と同じ程度の症状重症度であり,症状では倦怠感(52% vs. 32%; p=0.004)と発熱(45% vs. 21%; p=0.0004)を多く認めていた.治療終了から死亡までの期間の中央値は造血器腫瘍で69.0日,固形腫瘍で94.5日であった(p=0.031).【結論】緩和ケア病棟に入院した造血器腫瘍患者は,固形腫瘍患者と同程度の症状重症度があり,同様のホスピスケアが必要である.
著者
飯田 智哉 伊藤 和 岡村 直香 飯田 道夫 和田 吉生 安藤 なつ美 三浦 光舞 吉崎 秀夫 門脇 睦子 山崎 なな 長岡 健太郎
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.55-60, 2023 (Released:2023-02-17)
参考文献数
7

コロナ禍が終末期の在宅療養に与えた影響や遺族満足度などについて検討することを本活動の目的とした.当院で訪問診療を受けていた居宅終末期がん患者のうち,在宅で看取った100名の遺族を対象にアンケート調査を行い,コロナ禍が在宅療養に与えた影響,遺族満足度などについて検討した.回答率は72.0%で,52.8%の遺族が在宅療養の選択にコロナ禍が影響したと回答した.遺族満足度は98.6%であり,当院でコロナ禍に在宅療養を選択した終末期がん患者に対しても,高い遺族満足度が達成できていた.
著者
山極 哲也 松屋 美幸 伊藤 怜子 大西 直世 来住 知美 小林 正行
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.49-54, 2023 (Released:2023-02-13)
参考文献数
14

日本バプテスト病院では,ホスピスを中心に,約70名のボランティアが活動している.2020年2月,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行により,多くのホスピス緩和ケア病棟でボランティア活動が休止される中,チームの一員であるボランティアの活動を継続するための方法を模索してきた.直接患者と交流する代わりに,作品や植物を通して季節や社会の風を届ける工夫や,オンラインによるスタッフ会議や遺族会の開催など,新たなボランティア活動の方法を見出すことができた.また,院内COVID-19対策会議にホスピス担当者も参加し,最善のケアのためにはボランティアの存在が重要であることを病院全体で共有した.そのうえで,「COVID-19流行状況に応じたボランティア活動指針」を感染対策チームと共同して作成し,感染対策に配慮したうえでボランティア活動を継続することが可能となった.
著者
牧田 憲二 濱本 泰 長﨑 慧 神﨑 博充 三浦 耕資 成本 勝広
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.43-48, 2023 (Released:2023-02-13)
参考文献数
12

当院では,2021年9月より緩和ケアカンファレンスに放射線治療科医が参加するようになった.放射線治療科医参加の有用性を検討した.2022年8月までに,同カンファレンスで検討した341例中26例(7.6%)に緩和照射を提案した.そのうち11例(3.2%)(乳がん潰瘍形成/出血:2,転移性脊髄圧迫予防:1,再照射:6,播種:1,全肝照射:1)で緩和照射実施に至った.放射線治療科医の参加は再照射の可否や全身薬物療法中の症例における適切な放射線治療の介入時期の判断などに役立ったと思われた.
著者
伊禮 寿記 木村 安貴
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.31-41, 2023 (Released:2023-02-03)
参考文献数
38

本研究の目的は,進行がん患者家族の代理意思決定における病棟看護師の支援とその困難経験頻度に関連する要因を明らかにすることである.4施設のがん看護を実践する病棟に勤務する看護師285名を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した.代理意思決定支援を「常に実施している」~「どちらともいえない」と回答した者は230名(80.7%)であり,話し合いの場に同席するなどの支援が実施されていた.また,よく困難を経験している者は41名(17.8%)であり,困難経験の関連要因についてロジスティック回帰分析で求めた結果「代理意思決定支援の実施頻度」(OR=2.41, P=0.009),「患者と家族等の関係性がわからない」(OR=1.50, P=0.025)などの4要因が抽出された.このことから,進行がん患者家族の代理意思決定支援を促進するためには,事前に患者と家族の関係性について情報を収集することが必要である.
著者
竹本 潔 譽田 貴子 服部 妙香 田中 勝治 新宅 治夫
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.153-157, 2022 (Released:2022-11-16)
参考文献数
13

【目的】医療型障害児入所施設の職員の終末期ケアに関する意識と施設の現状を明らかにする.【方法】医療型障害児入所施設の全職員466人を対象にACPに関する意識調査を行った.【結果】回収率77.0%,ACP(または人生会議)を知らないと回答した直接支援者は20.2%,間接支援者は50.9%であった.人生の最終段階における医療・ケアについて本人や家族等との話し合い経験者は27.1%であった.話し合いの内容は本人よりも家族の価値観や希望が多く,開始のタイミングは死が近づいた時が多かった.ACP導入については直接支援者の7割以上が希望し,事前準備として研修を希望する人が多かった.家族不在の場合の代理意思決定については多職種の医療・ケアチームで協議し,その結果を倫理委員会で承認を受けることに対して,大半の職員が賛成した.【結論】医療型障害児入所施設でのACP推進には職員への研修が必要である.
著者
田崎 裕太郎 牧野 謙二 大塚 哲洋 中村 太祐 北村 慶 宮﨑 敦史 藤本 俊史 杉尾 小百合 今村 祥子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.141-145, 2022 (Released:2022-10-12)
参考文献数
17

症例は67歳男性.切除不能進行胃がんへの化学療法が奏功せず,外来にて症状緩和を行っていた.自宅で過ごされていたが,体動困難となり,救急外来を受診.Hb値3.4 g/dlと高度貧血を認め,進行胃がんからの出血と診断.入院のうえ緩和的放射線治療を開始したが,連日輸血を行うもHb値は改善せず,入院4日目の内視鏡検査にて漏出性出血(oozing bleeding)を認めた.入院11日目のHb値2.8 g/dlであり,照射継続での止血は困難と判断し,同日に血管塞栓術(TAE)を施行した.TAE後は輸血にてHb値8.0 g/dlまで改善.その後,輸血は不要となり,入院28日目に転院となった.出血性進行胃がんに対する緩和的放射線治療の高い有効性が報告されているが,奏功しなかった場合の救済治療に苦慮することがある.緩和的放射線治療が奏功しない出血性進行胃がんに対し,TAEが有効な救済治療となった1例を報告する.
著者
森田 真理 坂本 理恵 大城 絵理奈 嘉山 郁未 菊池 恵理華 河原 英子 筑田 理絵 住友 正和 木田 達也 坂下 博之 豊田 茂雄 太田 郁子 渡部 春奈 斎藤 真理
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.135-139, 2022 (Released:2022-10-06)
参考文献数
12

【緒言】メサドンを用いたがん疼痛緩和治療の経過中に全身麻酔下で手術を行った2症例を経験した.【症例1】57歳女性.多発骨転移を伴った右進行乳がんで疼痛治療にメサドンを導入し,化学療法の経過中に右乳房切除術を行った.創部痛で臨時の鎮痛薬を用いたがメサドン休薬によるがん疼痛の増悪はみられなかった.【症例2】76歳男性.肺腺がんの痛みにメサドンを導入した.化学療法経過中に腰椎転移で下肢麻痺切迫状態になり除圧固定術を施行した.術中の痛みの増悪にケタミンを用い,麻酔覚醒後の痛みの再増悪にはフェンタニル注の持続注射で対応した.【結語】メサドンは従来の強オピオイドで緩和困難な強いがん疼痛に用いるが,本邦では内服薬のみの認可で他のオピオイドとの換算比がないため,周術期等の休薬が必要な期間の痛みの管理には注意を要する.したがって,メサドンの処方医はメサドン内服中の患者の周術期の円滑な痛みのコントロールにも積極的に貢献することが望まれる.
著者
吉川 善人 松田 良信 岡山 幸子 二村 珠里 土井 美奈子 永田 しのぶ
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.506-510, 2017 (Released:2017-03-24)
参考文献数
26

【緒言】転移性肝がんに伴う閉塞性黄疸による掻痒症患者に,選択的κ受容体作動薬のナルフラフィン塩酸塩(以下,ナルフラフィン)を投与し,改善を認めた症例を経験したので報告する.【症例】70歳,女性.S状結腸がん術後,転移性肝腫瘍による黄疸に伴い,掻痒症が出現.抗ヒスタミン薬やSSRIでは改善しなかった.中枢性掻痒と考えてナルフラフィンを投与し,掻痒はNRSで 9から 3まで改善した.【考察】蕁麻疹,アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患に比べて,慢性腎不全,肝疾患などの全身性疾患に伴う掻痒症は,既存の治療薬が奏功しないことが多い.慢性肝疾患に伴う掻痒は難治性かつ中枢性であるがナルフラフィンに止痒効果が確認されている.本症例では中枢性および末梢性の機序による掻痒が混在したが,中枢性掻痒が優位と考えられた.閉塞性黄疸に伴う掻痒症に対してナルフラフィンは有効な治療薬になりうると考えられた.
著者
中堀 亮一 下稲葉 順一 吉田 晋 下稲葉 康之
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.521-525, 2017 (Released:2017-05-30)
参考文献数
11

【緒言】リドカインは末梢神経に対し興奮抑制作用を示すことで鎮痛効果を発揮する.とくに神経障害性疼痛を主体とした難治性疼痛やモルヒネ不耐症に対する疼痛マネジメントにおいて有効である.【症例】51歳,女性.終末期の食道がんに起因する難治性疼痛が持続し,オピオイド増量による効果も乏しく,副作用の出現が目立っていた.疼痛に対しリドカイン持続静脈内投与を開始(150 mg/日)したところ,徐々に疼痛は軽減しオピオイドも減量することが可能となった.リドカインによる副作用はみられなかった.【結論】終末期の難治性疼痛およびモルヒネ不耐性を示す患者に対するリドカイン持続静脈内投与は,疼痛マネジメントとして有効であることが示唆された.
著者
源河 朝治 神里 みどり
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.87-96, 2022 (Released:2022-07-28)
参考文献数
37

【目的】放射線療法後の頭頸部がんサバイバーにおける晩期有害事象と社会的困難との関連を明らかにする.【方法】照射後1年以上が経過した頭頸部がんサバイバーの症状を既存の疾患特異的QOL尺度の一部で評価した.分析は記述統計を行い,社会的困難と晩期有害事象および基本的属性との関連を検討した.【結果】対象者は73人(回収率70.8%)であった.晩期有害事象は口腔乾燥の有症率および重症度が最も高かった(79.5%).また,社会的困難は会食時の困難の有症率が最も高く(87.7%),会話困難の重症度が最も高かった.照射後5年以上経過した群は症状の重症度が高く,社会的困難と晩期有害事象には有意な正の相関がみられた.社会的困難は嚥下障害と唾液異常,手術歴と関連していた.【結論】頭頸部がんサバイバーは長期にわたり複数の晩期有害事象と社会的困難を有していた.今後は外来にて包括的なアセスメントとケアを行う必要がある.