著者
冨田 博之 山下 英行 中安 慎二 玉木 紀彦
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.7, pp.488-492, 1997-07-20

前頭蓋底に進展した嗅神経芽細胞腫の1例を報告した.症例は52歳の男性で,頭部MRIで右筋骨洞から右前頭蓋底に進展した6×4.5×4cmの腫瘤を認め,脳腫瘍部分摘出術を施行し嗅神経芽細胞腫と診断された.術後2カ目で残存腫瘍は急速に増大し,開頭脳腫瘍亜全摘術を施行後に60 Gyの放射線療法を行った.頭部,原発巣での腫瘍の再発は認めずに経過したが,2年後に左リンパ節転移を認め,化学療法および放射線療法を施行した.化学療法後のMRIで明らかな病巣の縮小が認められた.本症例のように頭蓋内進展した例に対しては,積極的な摘出術と放射線療法や化学療法との併用が推奨される.
著者
伊藤 圭介 花北 順哉 高橋 敏行 南 学 本多 文昭 森 正如
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.11, pp.833-838, 2009-11-20

仙腸関節ブロックを施行した症例の臨床的検討を行った.【対象】2008年3〜10月に仙腸関節ブロックを施行した72例.【方法】保存的治療に抵抗性の腰痛を自覚し,理学的所見により仙腸関節由来の疼痛が疑われた症例に仙腸関節ブロックを施行した.【結果】仙腸関節ブロックは46例(63.9%)にて有効で,VAS平均改善率は52.4%であった.仙腸関節部痛は外来全腰痛患者の14.1%を占めていた.ブロック有効例の46例のうち36例(78.3%)に他の腰椎疾患を合併していた.【結語】仙腸関節部痛は日常診療で多数の患者が存在すると思われた.仙腸関節ブロックは仙腸関節由来の疼痛の診断,治療に効果があった.
著者
竹内 東太郎 笠原 英司 岩崎 光芳
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.9, pp.597-603, 1999
参考文献数
17

[目的]外傷性硬膜下水腫(SDFC)における手術適応と手術法選択の決定因子を検索するために, CT脳槽造影(C-CT)と硬膜外圧持続測定(EDPM)を行い, それらの結果を検討することである.[対象・方法]1993年1月〜1997年12月までの5年間に当科に入院し, CTにてSDFCと診断された75例全例にSDFC発現後1カ月間経過観察したあとrepeat CTを施行した.repeat CTでSDFCが不変または増大群21例と吸収値変化群10例の計31例(男:女=22:9, 年齢31〜82歳, 平均年齢62.4歳, 両側:片側=20:11)を対象とした.これら31例にC-CTとEDPMを施行し, (1)検査結果, (2)手術適応と手術法の選択, (3)手術成績と予後について検討した.[結果](1)C-CTはno filling(N)11例, delayed filling(D)18例, early filling(E)2例で, NとDが29例(93.5%)と多かった.EDPMは持続高圧型(CH)9例, 間欠高圧型(IH)17例, 持続低圧型(CL)5例で, CHとIHが26例(83.9%)と多かった.(2)repeat CTで吸収値変化群, C-CTのN・D, EDPMのCH・IH, C-CTがE, EDPMがCLで症候性の群29例に手術を施行した.手術法は吸収値変化群10例に洗浄+ドレナージ術, SDFC不変・増大群でC-CTがN, EDPMがCHの6例に洗浄+オマヤ貯留槽設置術, それ以外の13例に硬膜下-腹腔内短絡術(S-Pシャント術)を施行した.再発した4例にはS-Pシャント術を施行した.(3)術後2カ月〜4年4カ月の追跡期間中, 最終的に全例SDFCは消失した.手術を施行しなかった2例は6カ月, 2年4カ月の追跡期間でCT上SDFCの増大や症状の発現は認められなかった.[結語]C-CTとEDPMはSDFCの手術適応, 手術法選択の決定因子として有用であり, 治療指針のフローチャートを作成できた.
著者
梶原 基弘 花北 順哉 諏訪 英行 塩川 和彦 斉木 雅章 織田 雅
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.6, pp.389-393, 2001-06-20

9年前に背部打撲の既往があり, Brown-Sequard症候群を呈した脊髄ヘルニアの症例を報告した。MRI上Th4/5レベルにおいて, 脊髄が腹側に偏位しており, その背側にクモ膜嚢胞と思われる領域を認めた.手術にて脊髄背側のクモ膜嚢胞と腹側硬膜欠損部への脊髄ヘルニアを確認し, これを整復, 硬膜形成術を行った.MRIの登場以後, 脊髄ヘルニアの報告例は増加してきており, 従来考えられてきたほど稀な疾患ではないと思われる.硬膜欠損の成因が病態の基本であるが, そのメカニズムについては推論の域をでていない.大きく, 特発性と外傷性に分類されるが, 文献的考察にてそれぞれの臨床的特徴を考察した.今回われわれが報告した症例は, 背部打撲の既往を有するものの, 特発性の範疇に入ると考えた.
著者
佐谷 秀行
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.10, pp.688-693, 2006-10-20

ゲノムの不安定性は悪性腫瘍の主たる特徴であり,細胞周期チェックポイントの異常はそれを誘導するきわめて重要な要因である.現在広く使用されている抗腫瘍薬として,DNA傷害性薬剤,微小管作動性薬剤があるが,これらの薬剤は腫瘍細胞のチェックポイントの異常を利用して選択的に癌に細胞死を引き起こすことが明らかにされてきた.タイムラブス顕微鏡とRNA干渉法を用いた解析により,これらの薬剤によって癌細胞に誘導される細胞死は,主として分裂中期から直接生じる分裂期崩壊であり,紡錘体チェックポイント機能など複数の要素によって制御されていることが明らかになった.本稿では現行の抗癌治療の分子論を整理したうえで,その特徴と問題点を議論する.
著者
小野田 恵介 土本 正治 勝間田 篤
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.9, pp.669-673, 2004-09-20
被引用文献数
1

神経サルコイドーシスにおいて水頭症を呈することは比較的稀である.水頭症を呈し,急激な増悪後,死亡に至った症例を経験し剖検を施行したので若干の文献的考察を加え報告する.症例は18歳男性(ブラジル国籍), 2003年9月10日より頭痛があり,9月12日近医入院となった.9月16日軽度意識障害,両側外転神経麻痺も加わり当科紹介となった.来院時,髄膜刺激症状を認め,髄液検査を行ったが,初圧9cmH_2Oで,細胞数160/3(リンパ球優位),蛋白(750 mg/dl)は上昇しており,さらにanaiotensin converting enzyme(ACE)活性は2.6 1U/l と高度上昇していた.細菌培養は陰性で,結核菌群もDNA/PCRにて陰性であることが示された.CT,MRIでは水頭症を呈し,造影される肉芽腫性病変は認めなかったが,神経サルコイドーシスを強く疑った.入院後ステロイド投与を開始するも効果なく,けいれん,運動障害の出現,意識障害の進行を認めた.9月22日右脳室-腹腔シャント施行,脳室内髄液ACE活性は3.1 1U/lであった.重症肺炎の合併も認め,敗血症にて10月2日死亡された.同日剖検を施行した.頭蓋底髄膜に多発性のサルコイドーシス結節が確認された.原因不明の髄膜炎,水頭症を呈する例においては神経サルコイドーシスも鑑別診断に挙げるべきであり,また本例のように急速な増悪を呈する例があることを念頭に置く必要があると思われた.
著者
岡 秀宏 川野 信之 諏訪 知也 矢田 賢三
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.324-328, 1994-07-20
被引用文献数
1

われわれは,稀な症候性ラトケ裂嚢胞を7例経験し,それらの罹病期間と神経症状,内分泌症状および画像所見について検討した.平均年齢は46.1歳で,性別は女性が4例,男性が3例であった.臨床症状は,頭痛6例,視力・視野障害4例,下垂体機能低下を認めたもの3例であった.視力・視野障害や下垂体機能低下症状は罹病期間の長い症例に認められる傾向にあった.術前の視力・視野検査では視力・視野の異常を認めたものが5例であった.術前の内分泌検査の基礎値は,高プロラクチン血症が4例,ADHの低下が1例,部分あるいは全般的に基礎値の低下したものは2例のみに認められ,罹病期間の長い症例ほど下垂体ホルモン異常をきたしやすい傾回にあった.画像所見は,CTで等〜高吸収域を示すものが多く,MRIでは嚢胞の大きい症例ほどT_1強調画像で高信号を呈する傾向にあった.以上の結果から,罹病期間が長い症例ほど視力・視野障害および下垂体機能低下症状をきたしやすい傾向にあったことを考えると,臨床症状を有し,画像上でラトケ裂嚢胞が考えられる場合は,早期に手術操作を加え,嚢胞の開放を施行することが必要と考える.
著者
今井 邦英
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.9, pp.626-630, 2001-09-20
被引用文献数
3

クモ膜下出血で発症した右後交通動脈瘤の1例を報告した.症例は47歳, 男性で, 突然の頭痛, 意識障害で発症した.来院時のCTにて, クモ膜下出血と診断され, Hunt & Hessの分類ではGrade IVであり, 重篤な不整脈もみられたため, 腰椎ドレナージを留置後, 意図的晩期手術を予定した.その後, 意識レベルは徐々にアップし, 神経学的な改善を認めたものの, 発症後10日目に再出血を起こし, 19日目に死亡した.内頸動脈とは解剖学的関連のない, いわゆる真の後交通動脈瘤は稀であり, 渉猟し得るかぎり, 本例を含め19例であった.一方, 本例のように神経学的に重篤な症例においても, 血管内手術等の非侵襲的な治療を積極的に行ってゆくべきであると考えられた.
著者
竹内 東太郎 笠原 英司 岩崎 光芳 楠見 嘉晃
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル = Japanese journal of neurosurgery (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.7, pp.471-477, 1997-07-20

症例は59歳男性で,1993年4月より発熱が続き,6月16日に視野障害,意識障害にて来院した.心臓カラードプラー検査で僧帽弁閉鎖不全症,頭部CTで右後頭葉脳内出血を認めた.6月22日に血腫摘出術を施行し,病理所見で血腫周囲の血管に炎症所見を認めた.7月2日にくも膜下出血を発症し,脳血管写で入院時に正常であった左M1-M2移行部に動脈瘤を認め,7月3日に頸部クリッピングを施行し退院した.10月28日に再びくも膜下出血で来院し,脳血管写で前回には正常であった右M1-M3部に狭小化とビーズ様所見を認め,11月11日に再出血により死亡した.全経過中,全身性炎症所見が認められたが,動脈血培養は陰性であった.剖検で右M3部に紡錘形動脈瘤を認めた.病理所見で内膜の炎症・破壊と血管内血液の内膜内への侵入が認められ,細菌性血管炎と細菌性動脈瘤による出血と考えられた.
著者
鈴木 議介 目黒 琴生 鶴島 英夫 和田 光功 長友 康 中井 啓 藤田 桂史 成島 浄 中田 義隆 小野 幸雄
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.5, pp.316-321, 1997-05-20
被引用文献数
1

脳主幹動脈閉塞症は急性期の適切な治療により,その重篤な症状を軽快させることができる.われわれは70例に急性期血栓溶解療法を施行し,良好な結果を得ているが,その中で急性期の治療のみでは十分な結果が得られず,二期的に血行再建術を要したものが4例存在した.4例とも経過はきわめて良好であり,虚血の再発を予防するため,あるいはより完全な血行動態を得るために有効な方法と考えられた.二期的な血行再建法(staged revascularization)を必要とする症例が存在し,このことを念頭において検査および治療を選択するべきであると思われた.
著者
吉本 祐介 相原 寛 土本 正治 勝間田 篤
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.7, pp.534-537, 2006-07-20
被引用文献数
1

稀ではあるものの,頸椎・頸髄疾患が片麻痺で発症することがある.今回われわれは,片麻痺にて発症した後縦靭帯骨化症および頸髄硬膜外血腫の2例を経験した.いずれの症例も,頸髄が片側優位に圧排されたため片麻痺をきたしたものと思われた.片麻痺をきたす疾患の鑑別診断として,頸椎レベルの病変も念頭に診療に当たるべきであり,頸部痛がある場合や外傷例,頭部MRlによっても片麻痺の責任病巣が明らかでない場合には,迅速に頸椎レベルまで検索範囲を広げて精査する必要がある.
著者
小松 洋治 益子 良太 土田 幸広 柴田 智行 伊藤 政美 目黒 琴生 小林 栄喜 吉澤 卓 能勢 忠男
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.10, pp.654-659, 2001-10-20
被引用文献数
6

ウイリス動脈輪前半部未破裂脳動脈瘤クリッピンク手術の認知機能への影響および予後因子を, 連続40症例についてprospectiveに検討した.術前, 術後3カ月にMMSE, 仮名拾いテストを行い, 各検査単独, および総合評価である浜松方式簡易痴呆診断スケールにより認知機能を評価した.認知機能は多くの症例で温存されたが, 継続的障害が2.5〜5.0%に, 一過性障害が7, 5%にみられた.継続的障害に関与する危険因子はみられなかった.一過性障害を含めた検討では, 70歳以上の高齢が有意な因子であった.術前の浜松式非正常, 仮名拾いテスト不合格, 虚血性脳血管障害合併の3因子は, 予後との関連が示唆された.未破裂脳動脈瘤手術成績は, 認知機能の観点からは良好であるるが, 高齢者, 虚血性脳血管障害合併症例, 前頭葉機能低下例では, より慎重な対応が必要である.
著者
片山 容一 笠井 正彦
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.6, pp.395-401, 2003-06-20
被引用文献数
1

幻肢痛には,脊髄.視床あるいは大脳皮質などを対象とした神経刺激療法が劇的に奏効することがある.これらは,主としてゲート・コントロール理論を根拠にしているが,それだけでは説明のつかない現象か多い.近年,一次体性感覚領野の受容野分布の両構成が幻肢痛に高い相関を示すことから,これを元に戻すことができれば,幻肢痛を治療できるのではないかと考えられるようになった.視床でも,同様の受容野分布の再構成が起きており.受容野と投射野の不一致が観察される.これによって,興奮性入力と抑制性入力の均衡が崩れることが幻肢痛の機転である可能性がある.神経刺激療法は,幻肢に相当する部分からの失われた入力を人工的に作り出し.受容野分布の構成を元に戻すことによって効果を生むのかもしれない.このような視点から,幻肢痛に対する神経刺激療法について,現在までの報告を見直した.
著者
山根 冠児 島 健 岡田 芳和 西田 正博 沖田 進司 畠山 尚志 山中 千恵 丸石 正治 真辺 和文
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.9, pp.554-562, 1998-09-20
被引用文献数
15

140例, 151側の血栓内膜摘除術(CEA)術中に内頸動脈血流, 内頸動脈のstump pressure(ICASP), 体性感覚誘発電位(SEP), および脳酸素ヘモグロビン(HbO_2)の測定を行った.手術死亡例はなく, 12例で一過性の神経症状, 4例(2.6%)で恒久的な神経症状が出現した.内頸動脈血流は6例でCEA後の著明に増加し, そのうち3例でhyperperfusionによると思われる術後神経症状が出現した.ICASPが30mmHg以下の症例では25.0%に, SEPの振幅がflatになった症例では53.8%に, HbO_2がindexで0.04以上の低下を示した症例では10%に術後神経症状が出現した.以上の結果からSEPが最も術後の神経症状の発現と関連が強かった.
著者
宮本 享 山田 圭介 菊田 健一郎 片岡 大治 佐藤 徹 橋本 信夫
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.6, pp.412-418, 2003-06-20
被引用文献数
1

脳動脈瘤の治療法はclipping, coil embolization, by pass+parent artery occlusionの3種類に大別されるが,困難な症例ほど単一の治療法のみにならない判断が必要になる.このためには治療チームとして上記3種類の治療技術を高いレベルでもち.柔軟性をもった治療計画を立てることが必要である.手術手技についても基本的な方法を大切にしたうえで.体位やアブローチ,剥離操作などを症例に応じてmodifyすべきであり,単一のやり方に偏りすぎるべきではない.安全に外科治療を行ううえには,術前・術中に次のステップで起こりうるリスクに備えそれを防ぐことと,手術器具について基本的知識をもつことが大切である,
著者
竹中 勝信 依藤 純子 山田 茂樹 山川 弘保 阿部 雅光 田渕 和雄 小泉 昭夫
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル = Japanese journal of neurosurgery (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.12, pp.837-845, 2004-12-20

家族性脳動静脈奇形の8家系による遺伝疫学調査と遺伝子解析を試みた.代表症例:家系7(兄妹例):II. 1) I. M.:51歳,男性.意識消失発作にて発症.右前頭葉に約5cmのnidusを認めた.Spetzler-Martin score(S-M score):III. 2) K.M.:58歳,女性.右運動障害にて発症.左頭頂葉皮質下に血腫を認め,脳血管撮影にて2.5cm大のnidusと右前大脳動脈に3mmの未破裂嚢状脳動脈瘤を認めた.S-M score:家系8(従兄弟例):1) K.I.:67歳,男性.頭痛にて発症.左前頭頭頂葉に血腫を認め,脳血管撮影では2.5cm大のnidusを認めた.S-M score :II .2) Y.M.:37歳,男性.歩行障害と左顔麻痺にて発症.CTで左小脳出血を認め.MRIにて海綿状血管腫(孤発)を認め,同側小脳半球に静脈性血管腫を合併.遺伝子解析方法:京都大学の医の倫理委員会,および高山赤十字病院の倫理委員会の承認を得た.兄弟,姉妹,従兄妹発症脳動静脈奇形である5家系の発病者10人について,全血由来ゲノムDNAを分離後,遺伝子解析に使用した.遺伝子タイピングは,常染色体382個とX染色体18個のmicrosatellite marker(ABI Prism Linkage Mapping Set Version 2)を用いて行った.連鎖解析には.Merlin softwareを用いて行った.遺伝子Ephrin B2について塩基配列決定で変異の存在を検索した.発症者以外の家族を対象として希望者全員にMRIおよびMRAを用いた画像診断を行った.結果:(1)6q24-6q27, 7p22-7p15, 13q21-13q31, 16p11.2-16p11.1, 20q12-20q13.1の5ヵ所の染色体の部位にて統計学的な優位(p<0.05)に連鎖部位を認めた,(2)13番染色体長腕に存在するEphB2遺伝子のexonl〜exon5の全シークエンスを行ったが,突然変異やSNP(single nucleotide polymorphism)は同定されなかった.(3)MRIおよびMRA検査を行った結果,今回の発病者以外には頭蓋内病変はみられなかった.結論:米国,チェコ共和国,本邦に存在する家族性脳動静脈奇形家系(8家族)のうち,5家系の末梢血ゲノムを用いた連鎖解析を行った.家族性脳動静脈奇形はなんらかのgenetic factorの存在が示唆された.5つの染色体で疾患連鎖遺伝子座が浮かび上がり,このうち第6染色体と第7染色体は最も疑わしい可能性を疑う連鎖解析結果を得た.