著者
榊 寿右 森本 哲也 星田 徹 中瀬 裕之 米澤 泰司
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.11, pp.777-785, 1997-11-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
21

傍矢状洞髄膜腫は,頭蓋内に生じる髄嘆腫のうちでも比較的頻度の高いものであり,遭遇する機会も多い.したがって,その手術に関しては多くの成書に記載されているところであるが,その手術の問題点ともいうべき皮質静脈,ならびに上矢状静脈洞に対する対処,ならびにそれらが損傷された時の合併損傷について述べられたものは少ない.本文では,この腫瘍の発生部を傍矢状静脈洞部の前1/3,中1/3および後1/3に発生したものについて,症状や手術法を簡単に記述し,特に皮質静脈損傷時の合併症について症例を呈示しながら,静脈温存の重要性について述べた.皮質静脈には多くの側副血行路が存在しているので,仮に損傷されても大きな障害が発生することは比較的少ないが,この静脈内に血栓が生じ,それが広範に広がったならば重篤な合併症を呈するので,その部に浸潤した腫瘍の摘出には注意を払うことを強調する.また上矢状静脈洞については,脳血管撮影で閉塞しているようにみえても,術中に静脈洞造影をすると,なお開存しているので,安易な切除はたいへん危険である.もし,こうした静脈系がなお開存しているにもかかわらず犠牲となった時には, saphenous veinを用いた血行再建を行うべきと考える.
著者
永廣 信治 溝渕 佳史
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.12, pp.957-964, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
40
被引用文献数
1

スポーツ頭部外傷の問題点を可視化するために, 今日的話題をレビューした. 急性硬膜下血腫はスポーツ頭部外傷の重症型の中で最も頻度が高く, 軽症例の代表は脳振盪である. いずれも回転加速度損傷を発生機序としている. 脳振盪を繰り返すことによる重症化や慢性外傷性脳症の発生など, 脳振盪への正しい理解と対応が脳神経外科医に求められている. 重症スポーツ頭部外傷を回避するためには, 脳振盪が疑われた当日は競技復帰をさせず, 症状が消失するまでは許可しない, 復帰を許可する場合には段階的復帰プログラムを用いる, 急性硬膜下血腫など器質的病変を有するアスリートに対しては, 原則としてコンタクトスポーツへの競技復帰は許可しないことが推奨される.
著者
益澤 秀明 平川 公義 富田 博樹 中村 紀夫
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.104-110, 2004-02-20
被引用文献数
4

交通事故による脳外傷後には,特徴的な知的障害・人格変化・社会適応障害が後遺しやすい.しかし,専門家も見過ごしやすいため社会問題になり,"高次脳機能障害"とよばれるようになった.しかし,この命名では従来からの高次脳機能障害と紛らわしく混乱が生じている.そこで"脳外傷による高次脳機能障害"とよぶことにした.本障害は外傷後の意識障害の期間と関連し,急速に生じる全般性脳室拡大の程度とも関連する.つまり,本障害はびまん性軸索損傷やその他のびまん性脳損傷によってもたらされる大脳白質損傷による神経ネットワークの障害と考えられる。画像所見変化に注目することにより非外傷性疾患との鑑別も容易であり,急性期管理に携わる脳神経外科医の眼が後遺症評価においても重要である.
著者
荻野 雅宏 川本 俊樹 金 彪
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.96-103, 2004-02-20
被引用文献数
7

本邦はスポーツに関連する神経外傷の統計に乏しく,発生頻度や種目別好発病型についての解析は困難であるが,報告されている重症頭部外傷は多くが急性硬膜下血腫で,アメリカンフットボール,ラグビー,柔道などに多い.米国からはアイスホッケー,アメリカンフットボール,サッカーに脳震盪が好発するとの報告がある.脊椎脊髄損傷は年間約数百例と推察される.種目としては水泳,スキー,ラグビー(アメリカンフットボール,サッカーを含む)に多い.軽症神経外傷(いわゆる脳震盪)の診断と受傷後の復帰の判断は. American Academy of NeurologyやConcussion in Sports Group などにより提唱された基準のもとに行うべきである.
著者
平 孝臣 堀 智勝
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.5, pp.316-322, 2005-05-20
被引用文献数
1

書痙は上肢の局所ジストニアで, 大脳基底核などの機能異常によることが明らかにされている.しかし, 現在でも多くの医療者は書痙を心因性疾患と考え, 心理療法や抗不安薬で治療することが多い.ただ, このような保存的治療の効果は乏しい.同様の症状はピアニストなどプロの職業人にも多くみられ, 職業予後はよくない.書痙が心因性とみなされてきた背景には, ある一定の動作時のみ出現し他にはまったく症状ないこと(task-specific)が挙げられるが, これがジストニアの特徴の一つである.ジストニアでは動作特異性(task specificity), 症状の常同性(stereotypy), 感覚トリック(sensory trick)がみられる.書痙はジストニアのうちでも最も難治で, 欧米では異常緊張する前腕などの筋にボツリヌス毒素を局所注射する対症療法が一般的である.しかし本邦では頭頸部以外のジストニアに対する適応がない.これまで書痙に対して定位的視床核凝固術で良好な結果が得られた症例報告がいくつかあり, この数年筆者らは上肢の局所ジストニアである書痙に対して視床Vo核凝固を行い良好な結果を得ているので紹介する.
著者
島 健 岡田 芳和 西田 正博 山根 冠児
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.25-34, 1992-02-20

椎骨脳底動脈循環不全症の大多数の症例は頭蓋外椎骨動脈起始部病変に起因する.本稿では椎骨動脈の露出法と各血行再建術をレビューするとともに,術式の長所,短所につき検討を加えた.薬物療法,星状神経節ブロックでも効果なく,反復する頸性めまいの原因としてのVA起始部のcoiling, kinkingに対し,C_6横突起孔のunroofingとVA走行矯正を行う方法は術式も容易で有効な治療法と思われる.VA起始部の狭窄性病変に対するVA-SA transposition, VA-vein graft-SAバイパスは術式の容易さ,手術侵襲も比較的少なく,VA-CCA transpositionに比して,脳主幹動脈2本の同時遮断という脳虚血の危倶も少なく,優れた術式と考えられた.術中ABR,VAのstump pressure等術中モニターの重要性についても述べた.
著者
髙井 敬介
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.326-332, 2017

<p> 脊髄動静脈奇形 (AVM) の分類は数多く複雑でわかりにくい. 1967~2015年の脊髄動静脈奇形に関する英文論文を調べ, 分類の歴史的変遷をまとめた. 1971年の脊髄血管造影の導入による硬膜動静脈瘻 (AVF) と硬膜内AVMの報告, 1986年の脊髄辺縁部AVFの顕微鏡手術の報告, 1993年の脊髄辺縁部AVFの血管内治療の報告, 2002年の脊髄AVMの顕微鏡手術および血管内治療の報告, 2009年と2011年の硬膜外AVFの顕微鏡手術および血管内治療の報告など, 歴史的転機となる報告があった. 画像診断の発展, 顕微鏡手術の発展, 血管内治療の発展が, 脊髄AVM分類の歴史的変遷に大きく寄与した.</p>
著者
福田 修 遠藤 俊郎
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.89-95, 2004
参考文献数
30
被引用文献数
9 1

近年,スノーボードの流行には目をみはるものがあるが,スキーも従来型スキーからカービングスキーが主流となり,また極端に短いファンスキーの愛好者も増えている.スノーボード頭部外傷は,その構造上の特性から,スキーに比べ5〜6倍の発生頻度があり,緩斜面での転倒やジャンプにより後頭部を打ちやすい特徴がある。重症例に関しては,スキーでは衝突により頭蓋骨骨折や脳挫傷を,スノーボードでは転倒により急性硬膜下血腫を起こしやすい.同血腫は脳挫傷を伴うことが少なく,架橋静脈の破綻によるpure subdural hematoma であり,メカニズムとして回転外力が想定されている.スキー・スノーボードによる頭部外傷の現状・予防策など,自験例および文献報告から報告する.
著者
高畠 靖志 宇野 英一 若松 弘一 岡田 由恵 金子 拓郎 土屋 良武
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.125-128, 1998
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

脳梗塞で発症した62歳の男性, 脳血管造影で, 左内頸動脈から分岐し, 脳底動脈へと連なる異常血管を認めた.対側の椎骨動脈は低形成であった.three-dimensional CT angiography(3D-CTA)を行ったところ, その異常血管は舌下神経管を貫いて後頭蓋窩へ入っていることから, persistent primitive hypoglossal artery(PPHA)と診断した.3D-CTAは任意の方向からの立体的な観察が可能であり, 空間分解能が高い.そのため, 骨と血管との相互の関係といった解剖学的な位置関係を把握するのが容易である.本症例においては, 舌下神経管を貫くことが明確に示され, PPHAの診断に有用であった.
著者
長束 一行
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.145-150, 2004
参考文献数
3

頸動脈病変の診断に超音波検査を用いた場合のメリットは,狭窄率や潰瘍の有無といった形態的な情報ばかりでなく,組織性状も推測できることにある.形態診断:狭窄率の精度に関しては,Bモード,カラードプラ,パワードプラ画像に血流速度の情報を加味することで,90%以上の正診率があるとされている.どの診断法をgold standard とするのかという問題もあるが,われわれの成績では画像からの計測のみでは高度狭窄例では過小評価される傾向があった.また,石灰化の強い例などでは計測不能なこともあり,血流速度による狭窄率の評価を併用する必要がある.しかし血流速度による狭窄率の測定はさまざまなパラメーターが用いられ,まだ標準化されていないという問題点がある。組織性状診断:超音波で見えるプラークは,輝度からecholucent,echoqenic,hyperechoicと分けることができ,均一性からhomogeneous,heterogeneousと分類できる. echolucentなものは血腫や粥種,echogenicなものはfibrosis,hyperechoicなものは石灰化を反映しており, 90%以上の精度で組織性状と一致するといわれている.しかし,現在エコー輝度による分類は検者の主観で決定されており,診断装置の機種や設定によりかなり見え方も異なる.今後エコー輝度の定量化が必要と考えられている.
著者
白根 礼造 林 俊哲 三宅 裕治 冨永 悌二
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.7, pp.510-517, 2010
参考文献数
21
被引用文献数
1

脳神経外科医にとって最初の関門であるシャント手術ではあるが,専門医取得後には真剣に向き合う機会は少ないと考える.昨今のシャントシステムの発展は驚嘆に値し,小さなシステムの中にさまざまな機能を含んでいて,経験を積まなければそのすべてを理解するのは困難であろう.しかし,個々の症例に対し適切なシステムを選択し,バルブ固有の特性に関して必要十分な説明を行うことは医療者側の責任である.本論文では,患者背景による水頭症病態の差異,髄液シャントの歴史的背景,現在普及しているシャントバルブの基本理念および特性,シャント手術に際しての注意点に関して解説した.
著者
金 太一 柿澤 幸成 清藤 哲史 中冨 浩文 齊藤 延人
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.9, pp.646-654, 2021 (Released:2021-09-25)
参考文献数
33

脳幹部海綿状血管奇形では, 神経症状のリスク, 病変を全摘出できる視野の確保, およびsafe entry zone (SEZ) などを考慮しつつ, 病変の最表層部を進入口としたアプローチを三次元空間的に検討する必要がある. そのためには, 脳幹内の神経線維や神経核などの解剖知識が必須となる. 本稿では脳幹の解剖を三次元的に理解することを目的として, 脳幹三次元コンピュータ・グラフィックスの無料アプリ 「脳観」 を活用しながら, SEZを中心とした脳幹部の解剖について概説する.
著者
益澤 秀明 平川 公義 富田 博樹 中村 紀夫
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.104-110, 2004-02-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
31
被引用文献数
2 4

交通事故による脳外傷後には,特徴的な知的障害・人格変化・社会適応障害が後遺しやすい.しかし,専門家も見過ごしやすいため社会問題になり,"高次脳機能障害"とよばれるようになった.しかし,この命名では従来からの高次脳機能障害と紛らわしく混乱が生じている.そこで"脳外傷による高次脳機能障害"とよぶことにした.本障害は外傷後の意識障害の期間と関連し,急速に生じる全般性脳室拡大の程度とも関連する.つまり,本障害はびまん性軸索損傷やその他のびまん性脳損傷によってもたらされる大脳白質損傷による神経ネットワークの障害と考えられる。画像所見変化に注目することにより非外傷性疾患との鑑別も容易であり,急性期管理に携わる脳神経外科医の眼が後遺症評価においても重要である.
著者
中山 晴雄 荻野 雅宏 永廣 信治 岩渕 聡
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.4-8, 2018 (Released:2018-01-25)
参考文献数
20
被引用文献数
2

近年, スポーツに関わる頭部外傷, 中でも脳振盪への社会的注目が高まっている. スポーツ頭部外傷の問題点は従来から指摘されているように, 急性硬膜下血腫に代表される重症頭部外傷と繰り返し受傷する脳振盪である. 本稿では, 脳神経外科医が知っておくべきスポーツ頭部外傷の検査と対応として, ①スポーツ頭部外傷に関する共通の認識, ②小児を含むスポーツ頭部外傷の現場での対応, ③繰り返すスポーツ頭部外傷の危険性, ④競技者および関係者への指導方法について概説する. 今後, 競技復帰への適切な判断や指導における脳神経外科医の役割が期待される.
著者
高瀬 香奈 三島 弘之 綾部 純一 渡辺 正英 土屋 雄介 丸山 拓実 益子 悠 立石 健祐 田中 良英
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.305-311, 2021 (Released:2021-04-25)
参考文献数
24

放射線治療の晩期障害として放射線誘発性腫瘍があるが, 組織型の異なる放射線誘発性脳腫瘍が併発した症例の報告は稀少である. 症例は49歳男性. 8歳時に右前頭葉腫瘍の摘出術を受け, 当初星芽腫の診断で51Gy/37frの拡大局所照射を施行された. 照射後41年, 初発のてんかん発作で救急搬送され, 右前頭葉脳実質の不整形腫瘍と周辺の円蓋部に硬膜付着腫瘤を認めた. 両病変に対して摘出術を施行し, それぞれ膠芽腫, 髄膜腫と診断された. 再検討の結果, 初発腫瘍は退形成上衣腫と診断された. 小児期に放射線治療を受けた患者では長期間経過しても放射線誘発性腫瘍のリスクが存在するため, 長期にわたる慎重な経過観察が重要である.
著者
伊予田 邦昭
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.9, pp.660-665, 2009
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

道路交通法の改正に伴い,てんかんをもつ人(a person with epilepsy;PWE)でも条件により運転免許取得が可能となった.そこで実務を担当する主治医と広島県警道路交通部運転免許課に免許取得にかかわる適性判定や免許交付状況調査を施行し,運用上の問題点や課題を検討した.(1)法改正の認識はあるが,患者への説明提示不十分,(2)新規の免許取得率が一般の場合に比べ高く,許可交付件数も年々増加しているのは法改正の普及効果だが,一部に発作予知予測精度や保留期間の策定に不安がある,(3)PWEの交通事故率は5.5%で一般と大差なかったが,発作と事故との関連性が示唆され,服薬コンプライアンス不良例が多かった.以上から判定にはより柔軟性を持たせ,患者・主治医への一層の啓発活動が必要である.
著者
西山 健一 藤井 幸彦
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.349-356, 2013 (Released:2013-05-25)
参考文献数
21

本稿では, 水頭症および関連する嚢胞性疾患に対して髄液路を作成する脳室鏡手術を提示し, 必要な解剖と知識を概説した. ここで術式は “脳室-脳槽短絡術” と “脳室内閉塞機転の解除” に大別される. 鏡視下で目印となる脳室内構造の把握に加えて, 前者では脳槽の構築と内部血管の, 後者では脳室壁直下の神経路と神経核の理解が必須である. “Third ventriculostomy” では, 両側乳頭体と漏斗陥凹とを結ぶ三角形の中心を目印に, 脳底動脈および同頂部から中脳に向かう動脈群の損傷を避けて, 脚間槽に穿孔する. この際, 脚間槽を縁取る二葉のLiliequist's membraneの確認が重要である. “Temporal ventriculostomy” では脈絡裂の仮想延長線を目印に, 前脈絡動脈の損傷を避けるようにcarotid cisternの後方からcrural cisternに穿孔する. “Aqueductoplasty” では, 動眼神経核, 内側縦束, 滑車神経路の損傷を避ける. なお, 水頭症関連疾患では正常構造を留めていない症例があり, 術前画像の詳細な検討が肝要である.
著者
吉藤 和久 越智 さと子 村上 友宏 金子 高久 小柳 泉
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.208-215, 2011
参考文献数
18

手術治療を行った連続34例の腰仙部脊髄脂肪腫(円錐部脂肪腫20例,終糸脂肪腫14例)について,脂肪腫の形態的特徴と臨床経過について検討した.脂肪腫の形態的所見のうち,「脊髄の脊椎管外突出」,「脂肪腫が脊髄と広く移行」,「神経根とその硬膜貫通部の異常」のいずれかが認められる場合,症候性となる可能性は高く,手術においては神経学的合併症,係留解除困難,術後のクモ膜下腔狭小の残存に有意に影響した.術前MRIでは脊髄の脱出と脂肪腫の広汎な移行は診断が可能であったが,神経根の走行異常は50%の症例で診断可能であった.このような脊髄脂肪腫の形態は,臨床経過や手術の困難性の予測に有用な所見と考えられる.