著者
中村 光利 竹村 潔
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.238-241, 1996-05-20

止血・凝固機能異常などを伴わず,spinal drainageの抜去後に腰椎くも膜下血腫を形成した1例を報告する.症例は47歳の女性で,破裂前文通動脈瘤のクリッピング術後第15病日から8日間spinal drainageを留置した.抜去後から背部痛を訴え,両下肢麻癖を呈した.翌日のMRIで脊髄前面にL1〜L4に及ぶ血腫を認めた.ドレナージ抜去20時間後にL1〜L4の椎弓切除を行い,血腫を全摘出したが,両下肢麻庫は改善しなかった.急性脊髄くも膜下血腫による対麻痺の予後はきわめて不良とされ,早期診断と早期減圧が必要であると考えられた.
著者
北浜 義博 難波 宏樹 花北 順哉
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.132-137, 2012
参考文献数
8

【目 的】出血を伴った黄色靭帯内のガングリオン嚢胞を病理・免疫組織学的に検討し,亜急性期炎症所見を分析し,靭帯内出血性病変の発生機序について考察する.【対象と方法】症例は68歳男性,急性発症で4ヵ月継続する右下肢痛が主訴であった.画像所見からガングリオン嚢胞によるL5神経根症と診断し,黄色靭帯摘出を実施した.この摘出標本を対象としてHE, EVG, AZAN, congo redの病理染色およびCD31, CD34, VEGFR2, vWFの免疫染色を実施した.病理学的に変性の重症度を弾性線維,膠原線維,間質の硝子化変性の所見を基に評価し,血管新生出現の様子を免疫染色で観察した.【結 果】椎間関節より連続したガングリオン嚢胞には出血所見を伴っていた.ガングリオン周辺には炎症所見を認め,免疫染色陽性の新生血管内皮を認めた.新生血管は脊柱管側膜構造から炎症部周囲に多く分布した.炎症部位以外にも新生血管を認め,炎症部位から離れるにつれCD34陽性の間質細胞が存在した.炎症部近傍の間質はCD34陰性で,アミロイドの沈着を認めた.【考 察】本症例では,ガングリオン嚢胞を中心とした黄色靭帯内亜急性期炎症所見が観察され,その周囲に新生血管を伴い,靭帯の伸縮に伴う機械的ストレスを基にこれが出血源になったと考えられた.【結 論】本症例の病理学的・免疫組織化学的所見より,黄色靭帯変性初期の亜急性期炎症所見周囲の新生血管がガングリオン嚢胞の出血源になると考えた.
著者
島 克司
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.4-12, 2007-01-20

わが国の頭部外傷診療が最も活況を呈したのは,交通事故による頭部外傷がピークとなった1970年代である.当時の頭部外傷患者に対する医療体制の整備と専門医育成の努力が,その後の日本脳神経外科学会隆盛の一因となった.1970年代に頭部外傷診療に大きな影響を与えたのは,患者の重症度評価法としてGCSおよびJCSが確立されたことと,CTの導入である.1980年代には,米国でTraumatic Coma Data Bankが開始され,重症頭部外傷患者のデータの標準化が行われた.一方で,頭蓋内圧測定をはじめとする脳機能モニタリングの進歩によって,重症患者の病態の正確な把握と適切な治療が可能となった.向上する治療成績の集積データは,米国では1996年,本邦では2000年に「重症頭部外傷治療と管理のガイドライン」として結実し,今日の頭部外傷診療の基準となった.
著者
新井 一
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.12-14, 2009-01-20

日本専門医制評価・認定機構は,専門医の質を担保することを目的に各学会に専門医制度の改革を求めている.脳神経外科学会についてもその例外ではなく,研修施設基準,研修指導体制,資格更新基準をより厳密なもの改める必要がある.さらに,将来的な脳神経外科専門医の適正人数について学会としてどのように考えているのか,方向性を示すように求められている.
著者
大本 堯史
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.10, pp.753-757, 2010-10-20
著者
田中 隆一
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.151-155, 1999-03-20

松果体部には多種多様な腫瘍が発生し, その治療方法も腫瘍の種類によって異なるため, まず組織の確認のために直達手術が必要である.摘出術の意義の大きい腫瘍は, 成熟型teratomaやmeningiomaのほか, 悪性teratomasを含むgerminoma以外の悪性germ cell tumors, pineocytomaあるいはlow grade gliomasなどである.occipital transtentorial approachは, 空気塞栓の危険のない側臥位や腹臥位でも手術でき, 松果体部腫瘍のほとんどすべてのバリエーションに対応できる利点がある.ここでは, アプローチ側を下にするlateral-semiproneを紹介し, この体位によるoccipital trastentorial approachの手術手技の要点を述べた.松果体部腫瘍は重要な深部静脈に囲まれており, 摘出に際してはこれらの静脈を温存することが特に重要であるので, 摘出は細切切除が原則である.また, 腫瘍によっては内大脳静脈を直視下に置くinfrasplenial approachの併用が安全かつ有用である.
著者
成田 善孝
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.184-191, 2012-03-20
参考文献数
36

日本における原発性脳腫瘍の頻度は,人口10万人あた14.1人(男性11.6人,女性16.4人)と報告されており,米国の10万人あたり19.3人という数字とほぼ同じであることが2011年に初めて明らかになった.発生頻度も,(1)髄膜腫(36.8%),(2)神経膠腫(19.5%),(3)下垂体腺腫(17.8%),(4)神経鞘腫(9.9%),(6)中枢神経系悪性リンパ腫(3.6%)と,米国における頻度と同じである.グリオーマの年間の発生頻度は国内ではおよそ4,000〜5,000人程度と推定される.グリオーマは希少癌ではあるが,この40年間にグリオーマを含む悪性脳腫瘍の予後は改善したものの,依然として膠芽腫の治療成績は5年生存率が10%以下で,あらゆる癌の中でも最も予後不良である.予後が不良の原因のーつは使用できる薬剤が少ないことである.国内でのグレード2の神経膠腫に対する標準治療は手術+放射線治療で,グレード3・4の神経膠腫に対しては手術+放射線治療+テモゾロミドの投与であるが,照射の方法,照射量,化学療法プロトコールなどさまざまな治療が国内で行われている.神経膠腫の治療成績を改善するために,脳外科医はこれまでに蓄積されたエビデンスを理解して治療にあたることが必要であり,国内外で行われるさまざまな臨床試験を迅速に行うことも重要である.
著者
渡辺 茂樹 土谷 大輔 金城 利彦
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.250-254, 2012-03-20
参考文献数
18

自然縮小した髄膜腫3例を報告する.症例は72〜79歳のいずれも高齢の男性で,2例は小脳梗塞で発症,1例はめまいで施行のMRIで無症候性の髄膜腫が傍矢状洞部,中頭蓋窩,嗅窩部に認められた.経時的MRIで4年半,6年,6年半で腫瘍の縮小(それぞれ6.1cm^3から1.1cm^3,7.2cm^3から2.4cm^3,16.0cm^3から4.0cm^3:縮小率82%,53%,75%)が認められた.腫瘍体積はCavalieriの法則Volume=4/3×π×a/2×b/2×c/2(a,b,cは3方向の径)で計測した.これまでに髄膜腫の自然縮小の報告はない.腫瘍縮小の機序は不明であるが,高齢者無症候性髄膜腫では自然縮小する可能性もあり,慎重に経過観察をするべきである.
著者
小出 百合 林 俊宏 岩田 淳
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.7, pp.525-531, 2013 (Released:2013-07-25)
参考文献数
27

わが国では65歳以上の認知症有病率が14%程度と推定されており, 高齢化に伴って今後も増え続けるといわれる. 近年の画像診断技術の発展は目覚ましく, アルツハイマー病をはじめとする変性性認知症の診断に大きく貢献している. 構造画像では, 以前は非変性性認知症の除外診断が主目的であったが, 最近では, アルツハイマー病での海馬や嗅内野の萎縮など, 積極的に認知症を鑑別するようになってきている. また機能画像においては脳血流SPECT, FDG-PETで各種疾患による特徴的な血流・代謝低下を捉えることにより認知症の鑑別に役立っている. その他アミロイドβタンパクの脳内沈着を画像化するアミロイドイメージングをはじめとし, 生体病理診断のための新技術も発展している. 今回は, 早期診断や治療薬の開発などにますます重要となってきている, 認知症の画像診断について概説する.
著者
高尾 洋之 山本 誠 大塚 忍 鈴木 貴士 増田 俊輔 村山 雄一 阿部 俊昭
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.298-305, 2012-04-20
参考文献数
30

近年,数値流体解析(CFD)技術はさまざまな分野で応用され,医学の分野において,多くの論文で数値流体解析の結果が報告されている.現在,脳動脈瘤の発生,増大および破裂のメカニズムは十分に理解されていない.それに対し,CFDを用いてそれらに関わる流体力学的パラメーター(wall shear stress : WSS, shear strain rate : SSR, oscillatory shear index : OSI, energy loss : EL, pressure loss coefficient : PLC)を検討した論文が数多く存在し,中でもWSSが注目されているが,相反する両論が存在している状況である.本論文では,そのパラメーターをいくつか紹介し,われわれのCFD解析結果の報告に加え,われわれの結果と最近の他の論文の結果を比較する.
著者
中川 隆之
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.357-361, 2013 (Released:2013-05-25)
参考文献数
6

内視鏡下経鼻頭蓋底手術では, 標的とする病変の拡がりに応じ, 鼻副鼻腔の処理を行い, 適切な術野を確保する. Mid-lineアプローチでは, 中鼻甲介を温存しても, 十分な術野を得ることができる. 内頚動脈隆起や視神経管周辺での手術操作が必要な場合, 経中鼻道的にも蝶形骨洞の操作が行えるよう, 篩骨洞開放が必要となる. 最後部篩骨洞のバリエーションであるOnodi cellに注意が必要である. 蝶形骨洞外側にアプローチする場合, 上顎洞後壁削除が必要となる. Vidian神経管と上顎神経管が有用な目印になる. また, 頭蓋底再建においては, 嗅上皮と蝶口蓋動脈鼻中隔枝の位置を考慮した有茎鼻中隔粘膜弁を作製する.
著者
長久 功 花北 順哉 高橋 敏行 南 学 北浜 義博 尾上 信二 紀 武志 伊藤 圭介
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.133-137, 2009-02-20

Cervical anginaは,何らかの頚椎近傍の病変に由来する狭心症様発作性前胸部痛と定義されている.今回われわれは,非特異的前胸部痛に対して頚椎手術で症状が改善した症例を経験したので,前胸部痛の発生機序と臨床症状の特徴,治療方法について報告する.症例は72歳女性,不安定性を伴った頚椎症性脊髄症で,経過観察中に前胸部痛が出現したが,心疾患由来のものが否定された.後方アプローチによる治療を行った結果,前胸部痛が改善した.前胸部痛の直接的原因は,C3-4間での不安定性に伴ってC3-7間で髄内への圧迫が増強し,頚椎症性脊髄症を引き起こしたためと考えた.頚椎症の症状を伴い前胸部痛が誘発される場合は,cervical anginaを念頭に置いた頚椎,頚髄の検査が重要である.
著者
中西 欣弥 花北 順哉 田宮 亜堂 吉田 守 瀧花 寿樹 井水 秀栄 平井 達夫
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.10, pp.723-729, 2004-10-20
被引用文献数
2

脊椎血管腫は良性脊椎腫瘍の中で最も多いが,脊髄症を呈することは非常に稀である.今日われわれは,脊髄症を呈した2症例を経験したので報告した.症例1は45歳,女性,胸椎圧迫骨折による背部痛にて発症した.第12胸椎椎体腫瘍の診断で腫瘍摘出術を行ったが,術中にコントロール困難な出血に遭遇し腫瘍部分摘出となる.第2回目手術では,術前に腫瘍栄養血管塞栓術を行い腫瘍の全摘出が可能となった.症例2は47歳,男性で両下肢のしびれを主訴とした.第5胸椎脊椎血管腫の診断で術前に腫瘍栄養血管塞栓術を行い,その後手術にて腫瘍の全摘出を行った.脊椎血管腫は易出血性の腫瘍であり,術前検査として血管撮影は必須である,腫瘍摘出術を行うに際して術前の腫瘍栄養血管塞栓術が重要と考えられた.
著者
田中 聡 小林 郁夫 岡 秀宏 宇津木 聡 安井 美江 藤井 清孝 渡辺 高志 堀 智勝 竹内 正弘
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.10, pp.694-700, 2004-10-20

難治性の悪性グリオーマに関しては高レベルの治療上のevidenceは少ない.1997年より,広義のグリオーマ90例(low grade glioma 12 例, GradeIII glioma 30 例, glioblastoma multiforme 42 例,medulloblastoma 6例)に対してACNU耐性遺伝子であるMGMTのRT-PCRによる検出に基づいた103回の個別化補助療法(individual adjuvant therapy ; IAT)を行った.手術により摘出した-70°C凍結検体よりtotal RNA を抽出し,最初の51回は通常のRT-PCR,最近の52回はreal-time RT-PCRに代表される定量的RT-PCRによるMGMTmRNAの検出・定量を行った.MGMTの発現量が少なかった68回はACNUを,MGMTが高発現であった35回は白金製剤を治療の中心に用いた.ACNUを用いた治療群と白金製剤を用いた治療群との問に治療成績の有意差は認められなかった.全体の有効率(partial response + complete response率)は53.3%, glioblastoma 42例の2年生存率は51.1%であった.2002年4月以降にreal-time RT-PCRの結果に基づいてACNU-vincristin-interferon-β-radiationまたはcis-platinum-etoposide-interferon-β-radiationによる補助療法を行ったGradeIIIとglioblastomaで,年齢3歳以上70歳未満, Karnofsky's performance scale が50以上の初発20症例の有効率は60.0%であった.IATが高レベルのevidenceを獲得するためには,症例を選択し,統一された治療法によるrandomized controlled trialを行う必要がある.
著者
柿野 俊介 長次 良雄 梶原 浩司 伊藤 治英
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.115-118, 1999
参考文献数
19
被引用文献数
2

頭蓋骨原発の類上皮腫は稀な腫瘍で, その画像的特徴をまとめた報告も少ない.われわれは, 23歳女性の頭蓋骨原発類上皮腫を経験したので, その画像的特徴について報告した.今回の報告と過去の報告を総じてみると以下のようになる.X線では, 骨欠損像とその周囲の硬化像が認められる.CTでは骨条件, およびhelical CTによる三次元構成像により腫瘍周囲の骨破壊像の把握が可能である.MRIでは嚢胞内内容物の割合によりさまざまなintensityをとるが, 一般的にはT1Wlでhypo-intensity, T2Wlでhyper-intensityである.シンチグラムでは, 骨シンチによる腫瘍周囲の集積像が認められる.以上の放射線学的特徴を把握していれば, 頭蓋骨原発の類上皮腫の術前診断が容易にできると考えた.
著者
平田 雅之 柳澤 琢史 松下 光次郎 Shayne Morris 神谷 之康 鈴木 隆文 吉田 毅 佐藤 文博 齋藤 洋一 貴島 晴彦 後藤 哲 影山 悠 川人 光男 吉峰 俊樹
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.7, pp.541-549, 2012-07-20

ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)は脳信号から運動意図・内容を読み取って外部機器を制御する技術である.われわれは脳表電極を用いたBMIにより,筋萎縮性側索硬化症等の重症身体障害者に対する機能再建を目指して研究開発を行っている.これまでにγ帯域活動を用いた連続的な解読制御手法により,ロボットアームのリアルタイム制御システムを開発し,脳表電極留置患者による物体の把握・把握解除に成功した.感染リスク回避のためにはワイヤレス体内埋込化が必須であり,ワイヤレス埋込装置のプロトタイプを開発した.今後は,重症の筋萎縮性側索硬化症を対象として,有線・ワイヤレス埋込の2段階での臨床試験を経て実用化を目指す.
著者
山崎 麻美 埜中 正博
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.9, pp.642-649, 2009
参考文献数
19
被引用文献数
1

2000年の「児童虐待の防止等に関する法律」の成立を契機に,わが国でも小児虐待に対する社会的関心が高まってきた.その中で,最も致命的で予後に大きく影響するのが,頭部外傷である.Shaken baby syndrome(SBS:揺さぶられっ子症候群)という言葉が有名になり,虐待による頭部外傷の総称として使われることもあるが,正しくは,non-accidenntal tramatic brain injury(nonaccidental TBI),あるいはinflicted traumatic brain injury(ITBI)である.すなわち,虐待による頭部外傷の受傷機転は,shaken(揺さぶり)だけでなく,直達衝撃(叩く,落とす,投げる),やそれらが複合したものと考えられている.虐待の診断には,打撲痕・熱傷・骨折など全身チェックに加え,頭部MRI検査は有用であり,眼底検査は必須である.半球間裂から円蓋部にかけて,あるいは小脳テントに沿って存在する急性硬膜下出血が最も多くみられる.ITBIの死亡率は15〜38%で,生存者の30〜50%が障害を持ち,正常に回復する率は30%といわれ,その転帰は非常に悪い.自宅に戻った時に繰り返される率は31〜43%である.従来から中村の血腫1型として報告されてきた家庭内の軽微な外傷による網膜出血を伴う急性硬膜下血腫が,虐待の範疇に入るのか,虐待とは別のclinical entityとして考えるのか,いまだ議論のあるところである.
著者
竹本 光一郎 岩朝 光利 西川 渉 安部 洋 福島 武雄 宇都宮 英綱 高野 浩一 黒岩 大三
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.11, pp.706-712, 2005-11-20

今回, 脳底動脈・persistent primitive trigeminal artery (PPTA)分岐部に発生した破裂動脈瘤に対し, コイル塞栓術を施行した症例を経験したので報告した.症例は, 72歳, 女性.突然の意識障害で発症し, 当院に入院となった(W.F.N.S grade V).頭部CTにてクモ膜下出血がみられた.頭部血管撮影にてPPTAがみられ, 脳底動脈・PPTA合流部に2こぶ状の動脈瘤を, 右内頸動脈海綿静脈洞部にも1つ動脈瘤を認めた.脳底動脈・PPTA合流部動脈瘤の内, 大きいほうの動脈瘤は, 4mm大でblebを伴っていた.神経原性肺水腫を呈しており, 患者のgradeが悪く, 動脈瘤の発生部位より, 手術的クリッピングは困難と考え, 第3病日目にPPTA経由でコイル塞栓術を施行した.塞栓術後, 正常圧水頭症に対しV-P shunt術を施行し, 継続リハビリテーション目的に転院した.本症例は, 脳底動脈・PPTA合流部に発生した破裂動脈瘤に対するコイル塞栓術としては初めての症例報告であり, 文献的考察を加え報告する.