著者
庄野 佐和子 吉田 操 小川 真 梅田 彩子 喜井 正士 竹中 幸則 橋本 典子 猪原 秀典
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.265-273, 2009-10-20
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

当研究の目的は, 学校教師における嗄声症状の発症のリスク因子を同定することである. その方法として, 公立学校共済組合直営病院の人間ドックを利用した公立学校教師を対象に, アンケートによって嗄声の有無とともにさまざまな因子, すなわち役職, 勤務施設, 年齢, 性別, 担当学年, 週間担当授業数, および専門教科について調査し, 嗄声を自覚する頻度と複数のリスク因子との間の相互関連性について検討した. その結果, 1) 女性, 教諭, 週間担当授業数21コマ以上, 小学校勤務, 小学校1・2年生担当, 国語担当, 音楽担当の因子において高いオッズ比が得られた, 2) 教諭の週間担当授業数は管理職教師のものよりも多く, また教諭において週間担当授業数が多くなるほど嗄声自覚頻度が高くなる傾向が認められた, 3) 小学校教諭の週間担当授業数は中学校教諭あるいは高等学校教諭のものよりも多かった, 4) 小学校教諭において, 週間担当授業数が多くなるほど, また担当学年が若くなるほど嗄声自覚頻度が高くなる傾向があった, 5) 特に50歳代女性の小学校教諭において嗄声自覚頻度が最も高かった, 6) 50歳代女性教諭が主に小学校低学年を担当している傾向が明らかとなった. 以上のことから, 学校教師における嗄声症状の発症に関与するさまざまなリスク因子の相互関連性が明らかとなった. これらのリスク因子の存在を熟慮することは, 学校教師における音声障害の発症予防に役立つかもしれない.
著者
磯貝 豊
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 = The Japan Journal of Logopedics and Phoniatrics (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.139-152, 2007-04-20
参考文献数
21
被引用文献数
1

硬性喉頭鏡と喉頭ストロボスコープの組み合わせは, 適正なf値 (焦点距離) のアダプターレンズとCCDカラービデオカメラ (画質は, 単板CCDより3板CCDのほうが優れている) を接続し, ホワイトバランスを適正に調整することによって, 適正なマッチングが可能である.<BR>ビデオ電子スコープと喉頭ストロボスコープの組み合わせは, 両者のメーカーが異なるうえに, ビデオ電子スコープは自社製連続光源の使用を前提としているため, 光源の色温度, 光源の明るさ, ストロボ光源へのライトガイドの差込口の径と最適位置などが異なっており, ホワイトバランス調整やライトガイドの位置調整に気をつける必要がある.<BR>現状では, CCD自体の画質は, 硬性喉頭鏡と組み合わせて使用する1/3型CCDのほうが, ビデオ電子スコープの先端に組み込んだ極小サイズのCCDより画質が優れているが, ビデオ電子スコープには, 経鼻的に挿入でき, 硬性喉頭鏡よりずっと声帯に近接できるというメリットがある.両者の特質を生かして使い分けることが肝要である.

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出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.32-80, 2008-01-20 (Released:2010-06-22)
著者
櫻井 梓 岩崎 聡 古舘 佐起子 岡 晋一郎 小山田 匠吾 久保田 江里 植草 智子 高橋 優宏
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.321-327, 2021 (Released:2021-10-12)
参考文献数
17

人工内耳(以下,CI)装用者に対し,楽器を使用した集団的音楽トレーニングを実施し,方向感および語音聴取への効果について検討した.20歳以上のCI装用者で,かつ装用下での57-S語表での単音節の聴取成績が60%以上で,音楽トレーニング参加希望者18名のうち,検査等が実施できた14名を対象とした.全12回(1回60分×月2回)のグループレッスンで,1グループ当たり9名の2グループで実施した.音楽トレーニング前後で単音節,単語,日常会話文のいずれにおいても有意差は見られなかった.方向感検査のd値の平均も,トレーニング前後で有意差は見られなかった.また,音楽経験ありと経験なしとの2群間での検討においても,両検査ともに有意差は見られなかった.ただ,有効な症例もあったことから,詳細な評価方法,より効果的な音楽トレーニング法の構築が必要と考えられた.
著者
髙山 みさき 大西 英雄 城本 修
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.253-259, 2017 (Released:2017-09-25)
参考文献数
18

われわれはfunctional Magnetic Resonance Imaging(fMRI)を用いて,平仮名および片仮名の読字処理ルートと,表記妥当性が音読に及ぼす影響について検討した.健常成人29名に対して,平仮名もしくは片仮名で表記した表記妥当性が高い単語および表記妥当性の低い単語の音読課題を実施した.片仮名高妥当性課題は左右眼窩野,左紡錘状回,左中後頭回,左鳥距溝に,低妥当性課題は左中前頭回,左紡錘状回,左角回,右上前頭回,右上内側前頭回に活動を認めた.平仮名高妥当性課題では,左中眼窩野,左右中側頭回,左角回,左右中後頭回,右前方帯状回に,低妥当性課題は左中眼窩野,左紡錘状回に賦活を認めた.平仮名,片仮名はともに背側経路で処理され,読字処理に関与する脳部位は共通することが示された.さらに,表記妥当性は視覚的な認知や情報の統合に影響を与え,妥当性が低いほど処理負荷が強いことが示唆された.
著者
藤田 郁代 三宅 孝子 高橋 泰子 酒井 経子 秋武 美紀子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.6-13, 1977
被引用文献数
2 4

The present study was designed to investigate the process of syntactic recognition of heard sentences in aphasics, especially the effect of changes in word order on syntactic recognition.<BR>Comprehension performance of 27 aphasics was studied by using two types cf active and passive test senteces; sentences having basic word order and sentences having converse word order.<BR>The results comfirmed earlier observations reporting that comprehension of sentences having converse word order was significantly poorer than comprehension of sentences having basic word order. It was suggested that there were two strategies employed by aphasics; the word order strategy and the particle strategy. Subjects were classified into four groups according to ability to use the strategies.<BR>The correlation between the syntactic comprehension and the other variables was discussed.
著者
柳田 早織
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.305-313, 2019 (Released:2019-10-18)
参考文献数
30

過緊張性発声障害と内転型痙攣性発声障害は異なる音声障害として位置づけられているものの,音声症状や喉頭内視鏡所見が類似する場合や発声困難の訴えがあるものの診療場面で音声症状を捉えられない場合があり鑑別は容易ではない.両者の鑑別における言語聴覚士の役割は,音声治療により機能的要因を解除し,医師の診断を補完することである.試験的音声治療にて筋緊張緩和のための音声手技をいくつか試みて良好な反応が得られればまずは音声治療を実施することが鑑別の手掛かりとなる.しかしながら実際には適切な治療手技の選択に難渋する場合や治療経過のなかで心因の関与を疑うようなエピソードが患者から語られることもあり,言語聴覚士のみの介入が奏功しない場合もある.今後は鑑別困難な症例に対する治療効果を集積して共有するとともに心療内科等との連携体制も模索していくことが重要である.
著者
宇野 彰 新家 尚子 春原 則子 金子 真人
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 = The Japan Journal of Logopedics and Phoniatrics (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.185-189, 2005-07-20
参考文献数
15
被引用文献数
13 22

レーヴン色彩マトリックス検査 (RCPM) を小児用知能検査として活用することを目的として検討を行った.対象は東京近郊40万人都市における, 2つの公立小学校の2年生から6年生の通常学級の児童, 合計644名である.その結果, 2年生の平均点は29.5点, 1標準偏差は5.6であった.学年が上がるにつれ平均点は上昇し, 6年生では平均点33.0点, 1標準偏差は3.8であった.クロンバックのα係数やWISC-IIIとの相関係数から, 小児においても信頼性や妥当性の高い検査であることがわかった.以上の結果から, RCPMは小児の知能検査として有用であると思われた.
著者
山根 律子 水戸 義明 花沢 恵子 松崎 みどり 田中 美郷
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.172-185, 1990
被引用文献数
3 5

言語障害児における随意運動機能の発達を診断する一方法として, 田中, 西山らが考案した随意運動発達検査法を改訂した.本改訂では, 手指, 顔面・口腔, 躯幹・上下肢の3領域について, 計40の検査項目を設定し, 2歳0ヵ月から6歳11ヵ月までの健常児723名に同検査項目を実施した.この検査結果から, 各検査項目ごとの加齢に伴う達成傾向を検討したが, 舌運動に関わる一項目を除き, いずれも発達に伴い獲得される行動であることが示された.さらに, 健常発達からの逸脱の有無についての指標を得るために, 各検査項目ごとに, 通過率を基にしたプロビット変換を行い, 90%のこどもが達成する月齢を算出した.そして, これらのデータを基に, 臨床診断法として, 改訂版随意運動発達検査を構成した.
著者
笹沼 澄子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.442-447, 1995-11-20
参考文献数
27
著者
切替 一郎
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.250-262, 1986
被引用文献数
2

この30年間は, わが国が敗戦後の混乱よりようやく抜け出して, 今日みる如き経済大国にまで成長を続けてきた時期に相当する.同時に自然科学をはじめあらゆる科学の進歩はめざましく, 革命的な変化がみられている.<BR>わが学会も当初66名に過ぎなかった会員は, 30年後の今日では1, 261名となり, 毎年行われる学会の演題も12題から125題に増加していることから分かるように大きく発展した.<BR>その間にわが学会が果たした役割は大きい.各種の委員会活動, 音声言語医学の学術面および実地臨床面における進歩, 変遷について述べた.
著者
南雲 直二
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 = The Japan Journal of Logopedics and Phoniatrics (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.132-136, 2008-04-20
参考文献数
7

People with disabilities experience two kinds of distress. One originates directly from their disability or disabilities, and the other derives from the social treatment accorded to them as a disabled individual. The palliative method for coping with the former type of distress is acceptance of one's disabilities, although this may involve numerous methodological difficulties. The palliative method for dealing with the latter form of distress is social acceptance of persons with disabilities. Many approaches have been devised to secure such social acceptance, and collectively these have resulted both in improved social participation by persons with disabilities and, as a by-product, easing of the distress originating from their disabilities.
著者
岩田 まな 佃 一郎
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.335-341, 2000-10-20
参考文献数
29
被引用文献数
2

1年以上当科でcommunication治療を継続した143例中, 学齢以上の段階でspeechが獲得できていない自閉症児24例について, その原因を推測した.<BR>(1) 全くspeechのない自閉症児群は24%, speechはあってもcommunicationがとりにくい症例を加えると約40%であった.<BR>(2) 全例に知能の遅れが認められ, speech獲得の大きな阻害要因と考えられた.しかしその中でも, 知能障害が特に強い群と, 自閉症状が前面に出ている群に大別できた.<BR>(3) 知能障害が強い群の中には大頭, C.P., 脳波異常をもつ症例および染色体異常, フェニールケトン尿症の疑いのある症例が含まれていた.<BR>(4) 発語失行を疑う症例が3例あった.<BR>(5) 状況判断の困難, 意思表現の困難など基本的communication能力が不十分なため, 自傷, 他害をもつ症例が半数以上を占めた.
著者
田中 美郷 三谷 芳美
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.180-189, 1996-04-20
参考文献数
27
被引用文献数
2

言語獲得不能な重度脳障害者とのコミュニケーションのための音楽や歌の効果を調べるために, 東京都八王子福祉園に長期にわたり入園している6名の重度脳損が原因の最重度精神薄弱者に対して音楽療法を4回施行した.これら6名はすべて成人 (男2名, 女4名) で, 年齢は40~55歳の間にあった.これらの1群に音楽療法士がギター, ピアノ, キーボード, オートハープ, 太鼓, 鈴, マイクロホンなどの楽器を駆使して, 日頃聞き慣れているメロディーや歌を聞かせた.その結果, 6名中3名は全く言語刺激に反応しなかったが, 音楽刺激には訓練中ほとんど眠っていた1例を除いて5例は情緒的に反応した.特に幼児期から日常生活の中で母親が歌ってくれる歌を聞いて育てられた2名の反応は劇的であった.5名に観察された音楽に対する反応は, リズミカルな身体運動, 歌い出す, 発声する, 微笑する, ないし拍手などであった.これらの成績は, 音楽は重度脳損傷者の情緒反応を刺激する効果的手段であること, 加えてこの種のコミュニケーションを発達させるには, 幼児期から快適な音楽環境で育てられる必要があることを示している.
著者
村尾 愛美 伊藤 友彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.177-184, 2017

<p>日本語を母語とする特異的言語発達障害児(以下SLI児)が格助詞の使用に困難を示すことが明らかになっている.このことから,格助詞の誤用が日本語のSLI児の臨床的指標の一つとなる可能性が示唆される.しかし,格助詞の自然発話および実験課題における誤用率は明らかになっていない.本研究では,SLI児の自然発話における格助詞の誤用率と実験課題における格助詞の誤用率を明らかにすることを目的とした.対象児は小学2~5年生のSLI児9例であった.本研究の結果,SLI児の自然発話の誤用率は1.5%であった.これに対して,実験課題の誤用率は53.1%であり,自然発話よりも著しく高かった.この結果から,日本語を母語とするSLI児を同定するためには,自然発話のみならず,実験課題も必要であることが示唆された.</p>
著者
清水 充子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.115-121, 2012 (Released:2012-06-11)
参考文献数
14

言語聴覚士が携わる脳血管障害による嚥下障害の臨床は, 急性期, 回復期, 維持期と幅が広い. 適切な評価に基づいた機能維持・向上訓練を, 安全性に配慮しつつ患者本人と家族や介護者のQOLを尊重し, 他職種との連携のうえに進めることが肝要である. 急性期は, 発症後に起こりやすい誤嚥性肺炎の予防につなげるばかりでなく, 早期に意識レベルの向上を図り患者の心理的サポートをしながらリハ意欲を向上させる役割も果たしている. 続く回復期は大きな回復を狙う重要な時期であるが, 最近は急性期を脱したばかりで覚醒状態に変動がある場合もまれではなく, 症状の変動に注意しながら訓練を導入する必要がある. 維持期は, より良い状態のより長い継続をサポートする役割がある. 介護領域でも口腔機能の向上や栄養改善へのアプローチが重要視され, 各職種の連携に期待がかかっている. 回復期の対応の一例として, 脳幹梗塞による摂食・嚥下障害例へのアプローチを紹介する.
著者
猪俣 朋恵 宇野 彰 酒井 厚 春原 則子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.208-216, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
30
被引用文献数
8 12

年長児の読み書き習得に関わる認知能力と家庭内の読み書きに関連した環境要因を検討した.年長児243名に対し,ひらがな1から3文字の音読と書取,音韻認識課題(単語逆唱,非語復唱),RAN課題,図形の模写と記憶課題,語彙課題を実施した.保護者には,家庭内で子どもが読書活動に従事する頻度,および家庭内で子どもに文字の読み書きを教える頻度について聴取した.重回帰分析の結果,RAN,単語逆唱,非語復唱の成績は音読成績を有意に予測したものの,環境要因に関する尺度は,音読成績に有意な貢献を示さなかった.書取については,RAN,単語逆唱,非語復唱,図形模写の成績,および家庭での書き指導頻度が有意な予測変数であった.年長児におけるひらがなの読み書き習得には,これまでに報告されている認知能力の貢献度が高い一方,書字の習得においては,家庭での文字指導頻度も関与している可能性が示唆された.
著者
小渕 千絵
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-6, 2021 (Released:2021-03-26)
参考文献数
25

声の韻律情報は,言語情報の意味,文法構造としての指標,感情理解や声の自然性に関与するとされているが,聴覚障害児者では,韻律情報の知覚や利用には限界があるとする先行研究が多い.そこで補聴器装用,および人工内耳装用の聴覚障害児者におけるアクセントやイントネーション,感情などの韻律情報に関する知覚や産生の研究に焦点をあて,自験例を含めて現状と今後の課題について検討した.いずれの報告にしても,補聴器装用児者の韻律情報の知覚や産生では,平均聴力や低周波数帯域の聴力程度,聴覚活用程度などにより不良となり,人工内耳装用児者では低周波数帯域の残聴の程度や対側の補聴器使用,装用時期,装用期間によって韻律情報の知覚や産生に影響した.これらの基準に当てはまらず韻律情報処理が可能な例や,音楽的なトレーニングにより改善する可能性も示唆されており,今後はさらなる要因検討や標準検査の開発などが必要と考えられた.
著者
重野 純
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.260-265, 2000-07-20
参考文献数
10
被引用文献数
1

生理的には正常なのに正しい音程が分からず, そのために正しい音程で曲を再生できない場合を, 生理的に問題がある場合と区別して認知的音痴と呼んだ.そして, 何がどうして分からないのかについて考えた.その際, (1) 音の高さにおける2種類の性質―ハイトとクロマ―, (2) 2種類の音感―絶対音感と相対音感―, (3) 音楽におけるカテゴリ知覚, の3つの側面から考察した.その結果, 認知的音痴は音名についても音程についてもカテゴリ知覚ができないことや, 音の高さや音程をカテゴリ記憶ではなく感覚痕跡記憶により記憶するため不確実な認知・再生しかできないことなどが原因として考えられた.さらに, 認知的音痴は相対音感を磨くことによりその解消が図られるのではないかということが示唆された.