著者
髙橋 三郎
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.191-195, 2017 (Released:2017-05-31)
参考文献数
21
被引用文献数
1 2

本研究は,学齢期の吃音児を対象とし,語頭と語末のバイモーラ頻度が吃音頻度に及ぼす影響を検討したものである.対象児は7歳から12歳の吃音児21名であった.対象児に,語頭と語末のバイモーラ頻度をそれぞれ独立に操作した4種類の3モーラの刺激語(「高-高」語,「高-低」語,「低-高」語,「低-低」語)を音読させた.その結果,語頭のバイモーラ頻度の影響は語末のバイモーラ頻度が低いときのみ認められた.また,語末のバイモーラ頻度の影響は語頭のバイモーラ頻度が低いときのみ認められた.これらの結果から,語頭と語末のバイモーラ頻度は単体では吃音頻度に影響を及さないことが示唆された.むしろ「低-低」語の吃音頻度が4種類の刺激語のうち最も高かったことから,語全体のバイモーラ頻度が吃音の生起に影響すると考えられた.
著者
高橋 三郎 伊藤 友彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.242-245, 2011 (Released:2011-10-06)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2

本研究はバイモーラ頻度の違いが吃音頻度に与える影響について検討したものである. 対象児は学齢期にある吃音児15名であった. バイモーラ頻度の高い非語13語とバイモーラ頻度の低い非語13語の計26語を刺激語として用い, 呼称課題を行った. その結果, バイモーラ頻度が高い非語はバイモーラ頻度が低い非語よりも吃音頻度が有意に低かった. この結果から, バイモーラ頻度の違いが吃音頻度に影響を与えることが示唆された.
著者
村上 健 深浦 順一 山野 貴史 中川 尚志
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.27-31, 2016 (Released:2016-02-23)
参考文献数
20

変声は14歳前後に完了するといわれている.今回,20代で声の高さの異常を他者に指摘されて初めて症状を自覚し,当科を受診した変声障害2症例を経験した.2症例とも第二次性徴を完了しており,喉頭に器質的な異常は認められなかった.話声位は男性の話声位平均値よりも高い数値を示したが,声の高さの異常に対する本人の自覚は低かった.初診時にKayser-Gutzmann法,咳払い,サイレン法により低音域の話声位を誘導後,低音域の持続母音発声から短文まで音声訓練を行い,声に対する自己フィードバックも実施した.訓練は1~2週に1回の頻度で実施した.2例とも訓練初回に話声位を下げることが可能であったが,日常会話への汎化に時間を要した.個性を尊重するなどの学校社会における環境の変化が,本人の自覚を遅らせ,診断の遅れにつながったのではないかと推測した.
著者
樋口 大樹 奥村 優子 小林 哲生
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.113-120, 2019
被引用文献数
2

<p>本研究では,幼児のひらがな読み書き習得における文字特性の影響を検討した.具体的には,文字の視覚的複雑度,大規模絵本コーパスを用いて求めた文字頻度,五十音表順位を文字特性の指標として用い,これらと国立国語研究所が公開している4・5歳児の読み書き正答率順位との関連を分析した.その結果,ひらがな読み正答率順位は,絵本中の文字頻度,五十音表順位と有意な相関を示した.一方,ひらがな書き正答率順位は,絵本中の文字頻度,五十音表順位に加え視覚的複雑度と有意な相関を示した.さらに,ひらがな文字を読みおよび書き正答率を基に正答率高,中,低群に分け,読み・書き正答率群を予測する文字特性を順序ロジスティック回帰分析を用いて検討した.その結果,ひらがな読みには文字頻度,ひらがな書きには文字頻度と視覚的複雑度が予測因子として有意であった.これらの結果は,ひらがな読み習得と書き習得で関与する文字特性が異なることを示しており,ひらがなの読み習得には絵本における文字への接触,書き習得には文字への接触に加え視覚処理が重要な役割を果たすことを示唆する. ただし,幼児の発話や自分の名前に含まれる文字の影響など検討されていない要因があり,幼児のひらがな読み書き習得の全体像を明らかにするためにはさらなる検討を行う必要がある.</p>
著者
北川 可恵
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.360-368, 2020 (Released:2020-12-11)
参考文献数
26

4歳5ヵ月時に人工内耳(CI)埋め込み術を受けた知的障害を伴う自閉症スペクトラム障害(ASD)の症例を報告する.ASD特有の感覚の過敏さを認め,CIの調整を変更した後や感冒の罹患後にしばしばCIの装用が困難になった.CIの微調整と場面装用指導を繰り返し,推奨される装用閾値よりも児の受け入れられる範囲を優先した.CIの装用時間が延び,呼名への反応が確実になると,文字表出が増加した.11歳時にはみずからCIを装用したがり常時装用が定着したため,音声言語と文字単語の理解力が向上した.音声言語の表出は困難であったが,文字をコミュニケーション手段として使い,筆談でやりとりが行えるようになった.ASDの診断を受けてからCI埋め込み術を行ったため,児に対する保護者の理解や満足度は良好であった.ASDに知的障害を伴うCI装用児においてもCIにより聴覚活用を積み重ねることが外界に対する興味を広げ,コミュニケーション発達の基盤となることが示唆された.
著者
谷 亜希子 川瀬 友貴 多田 靖宏
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.260-264, 2017 (Released:2017-09-25)
参考文献数
11

Werner症候群は遺伝性の早老性疾患で,早老性外観,白内障,皮膚の萎縮・硬化などに加え,音声障害も診断項目の一つである.今回,声帯萎縮と診断した患者が,遺伝子検査を行いWerner症候群と診断された.42歳女性.30年来の嗄声を主訴に受診した.粗糙性,気息性が強く,両声帯は瘢痕様で発声時の声門間隙を認めた.声帯萎縮と診断し保存的治療は効果が乏しく外科的治療は希望がなかった.皮膚の硬化や手指の拘縮に対し精査が行われ,遺伝子検査の結果,診断にいたった.Werner症候群では音声障害は80%の患者で自覚するといわれている.声帯萎縮に準じて治療されることが多いが確立した治療法はない.代謝異常や悪性疾患の合併もあり,音声障害についての積極的な治療の介入は難しいことが多いが,患者の希望に対応していくことが必要である.若年性の声帯萎縮症例ではWerner症候群の存在を念頭におき診断・治療を行う必要がある.
著者
角田 忠信
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.29-34, 1995-01-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
12

ツノダテストの概略を説明した.人の聴覚系は100Hz以上の音声帯域と99Hz以下の生物学的領域に大別される.中心脳には検査音の持つ純粋に物理的スペクトルによって左右の半球に振り分ける自動スイッチ機構があり, 音声帯域では言語音は左脳, 非言語音は右脳に選別する.スイッチ機構は生後6~9歳の言語環境によって, 日本型と西欧型に分かれる.日本型の特徴は持続母音は言語半球優位を示すことにあり, これが原点となって, 有機的な多くの自然音, 感情音, 邦楽器音なども左半球優位となる.一方, 非日本語圏の人はこれらが非言語半球優位となる.言語と情動の発達と固有の文化との間には密接な関係があると考えられる.99Hz以下には言語による差はないが, 40, 60系と年輪系という整然としたシステムが存在する.40系の特徴から, 人に根源的に備わった1秒の基本時間について論じた.
著者
角田 忠信
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.29-34, 1995-01-20
参考文献数
12

ツノダテストの概略を説明した.人の聴覚系は100Hz以上の音声帯域と99Hz以下の生物学的領域に大別される.中心脳には検査音の持つ純粋に物理的スペクトルによって左右の半球に振り分ける自動スイッチ機構があり, 音声帯域では言語音は左脳, 非言語音は右脳に選別する.スイッチ機構は生後6~9歳の言語環境によって, 日本型と西欧型に分かれる.日本型の特徴は持続母音は言語半球優位を示すことにあり, これが原点となって, 有機的な多くの自然音, 感情音, 邦楽器音なども左半球優位となる.一方, 非日本語圏の人はこれらが非言語半球優位となる.<BR>言語と情動の発達と固有の文化との間には密接な関係があると考えられる.99Hz以下には言語による差はないが, 40, 60系と年輪系という整然としたシステムが存在する.40系の特徴から, 人に根源的に備わった1秒の基本時間について論じた.
著者
永積 渉 三枝 英人 門園 修 山口 智 小町 太郎 伊藤 裕之
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.350-356, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
10

誤嚥に伴う頻回の肺炎発症や,吸引回数の過多などの問題は,患者や家族,介護者の負担となる一方,音声言語によるコミュニケーションは,たとえ重度の感覚性失語となって有意味語が使用できない状態に陥ったとしても,感情に伴う発声,咄嗟時の発声などの心情の表出が行えるものであれば,重要な機能として回復,もしくは保存すべきものであるといえる.したがって,音声を永続的に奪う誤嚥防止術を施行することは,たとえその結果,経口摂取が可能となるとしても,嚥下障害に対する治療を徹底的に行っても改善が得られない場合以外には,まず目指すべき望ましい方向性とはいえない.今回,わたしたちは,重度の嚥下障害を伴う感覚性失語症の患者に対して,音声表出および経口摂取の回復を行いえた症例を経験したので,その治療経過を報告したい.症例は48歳女性.1年前,左側中大脳動脈領域の動脈瘤破裂に対してクリッピングを受けるも,その2ヵ月後に施行された頭蓋形成術中に未破裂の小脳動脈瘤が破裂した.これに対して後頭蓋窩開放・減圧術が施行されるも重度の嚥下障害が発症・遷延したため気管切開,胃瘻造設が施行された.その後在宅療養中であったが,終日にわたり頻回な気管内吸引が必要な状態であったため,誤嚥防止術の適応として当科紹介.これに対して,本症例の嚥下障害の病態を解明し,それに対するアプローチを徹底的に行ったところ,気管孔閉鎖が可能となり,さらに経口摂取,音声表出の回復が得られた.
著者
北 義子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-10, 2019

<p>乳児と養育者の関係性発達は出生直後から始まり,養育者によるケアがコミュニケーションのなかで与えられることによって,健全なアタッチメント(愛着)が形成される.近年,その基盤は養育者と情動を共有する間主観的コミュニケーションやコミュニケーション的音楽性にあるとされている.難聴児が自己および他者の情動や意図の認識に目覚め,養育者とのアタッチメント(愛着)を確立することは,機能的な言語発達や望ましい社会性を獲得するために重要である.この視点より,言語聴覚士の一臨床ビデオ映像を分析し,乳児期の難聴児に必要な「養育者と子の間主観的コミュニケーション支援」の一端を示し,その意義について考察した.今後言語聴覚士による間主観的コミュニケーション支援の方法が乳児期の難聴児ケアの視点から確立されることが望まれる.</p>
著者
神田 幸彦 原 稔
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.105-112, 2019

<p>日本における人工内耳小児の実態調査から人工内耳小児症例は増加し,両側人工内耳症例も増加傾向にある.両側人工内耳の効果は初回人工内耳よりも静寂時,雑音下においても語音明瞭度が優位に改善され,また方向性の改善や逐次人工内耳側からの聴取の改善,耳鳴の改善など有効な報告が多い.一方で一側ろうの症例のハンディキャップも近年クローズアップされ,海外では一側ろうへの人工内耳も開始され有効性も報告されるようになってきた.また,人工内耳術後の聴覚活用教育も重要であり,聴覚活用教育を強化する意味での音楽療法も効果的である.早期発見や,早期診断,早期補聴,ガイドラインのより良い方向への変遷,検査機器の進歩,補聴器や人工内耳の進歩,教育の進歩などより,難聴児にかかわる聴覚専門の言語聴覚士はさまざまな将来性豊かな可能性を秘めている.</p>
著者
山本 真由美
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.21-25, 2009 (Released:2010-03-17)
参考文献数
9
被引用文献数
1

長期臥床により誤嚥性肺炎を繰り返していた超高齢患者に対して嚥下訓練を実施し,経口摂取が可能になり退院後も嚥下機能が長期間維持された症例を経験した.この症例において,嚥下訓練の早期開始,喉頭挙上介助法を使った嚥下訓練,退院に向けての家族指導の3点が有効だったと考える.嚥下反射が安静時に観察されない状態だったので,嚥下訓練の早期開始はさらなる誤嚥と嚥下機能の悪化を止めたと考える.嚥下訓練においては,喉頭を他動的に押し上げて維持する喉頭挙上介助法が本症例の嚥下反射誘発に有効だった.嚥下反射は中枢性のパターン運動であり,喉頭挙上維持はパターン運動開始のトリガーになるのではないかと考えた.退院にあたっては,家族に対して口腔顔面筋群の筋力向上訓練,食事形態,食事介助の指導を行ったが,これは退院後の嚥下機能維持と誤嚥防止に有効だった.
著者
川村 直子 城本 修 望月 隆一 岩城 忍 梅田 陽子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.137-145, 2014 (Released:2014-05-28)
参考文献数
13
被引用文献数
2

【目的】Vocal Function Exercise(VFE)の各プログラムの訓練効果と,訓練効果に影響を及ぼす要因について検討した.【方法】音声障害患者18例をA,B 2群に分け発声訓練を開始した.A群:発声持続練習→音階上昇・下降練習.B群:音階上昇・下降練習→発声持続練習.そのうち訓練を遂行できた11例を検討対象とした.訓練前後の発声機能,音響分析,自覚的評価を従属変数とし,分散分析を行った.【結果と考察】発声持続練習を単独で集中的に2週間行った結果,最長発声持続時間(MPT)に直接的な効果が示唆された.訓練プログラムの内容(順序)あるいは病態にかかわらず,VFEを行えば2週後ないし4週後には,発声機能や自覚的評価において改善を示す可能性が示唆された.声域の拡大については,単独プログラムでの訓練効果は時間がかかる可能性が考えられ,原法どおり各プログラムを同時に実施することが有用であると考える.
著者
内田 育恵
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.143-147, 2015

聴覚障害は加齢とともに有病率が高くなる代表的な老年病で,われわれが地域住民対象研究から算出した推計値によると,65歳以上の高齢難聴者は全国で約1,500万人に上る.わが国が対応すべき緊要な課題の一つである.<br>個人や社会に対して高齢期難聴がもたらす負の影響は,抑うつ,意欲や認知機能の低下,脳萎縮,要介護または死の転帰にまで及ぶと報告されている.一方,高齢期難聴に対する介入の有効性検証はいまだ限定的である.現時点では,補聴器使用により認知機能維持や抑うつ予防が可能かどうか結論にいたっていない.<br>年齢がより高齢になると,語音明瞭度は悪くなり補聴効果をすぐに実感するのは困難になる.補聴による聴覚活用は"リハビリテーション"であって,トレーニングによる恩恵が,耳以外にも波及する可能性があることを,難聴者本人や社会に向けて啓発する必要がある.
著者
内藤 泰
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.138-143, 2012-04-20
参考文献数
18

補聴(補聴器あるいは人工内耳)を介して符号化された聴覚信号は情報量が少なく,非生理的であり,その認知のために感音難聴者の高次脳機能には再編成が生じる.特に聴覚単独での正確な認知が困難な状況では視覚情報処理の介入が生じ,複数の感覚が統合されて聴覚情報処理を補うようになる.逆に高次脳機能が補聴に影響を及ぼす場合もあり,本稿では脳の外傷や先天性サイトメガロウイルス感染による高次脳機能障害が人工内耳の効果を妨げる例についても述べた.難聴や補聴と高次脳機能の関係を知ることは,その後の診療方針やコミュニケーションモードの選択に重要である.
著者
髙山 みさき 大西 英雄 城本 修
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.135-140, 2018

<p>fMRIを用いて仮名文字の書字における脳賦活部位および,平仮名と片仮名の書字における脳活動の差異を検討した.健常成人14名(24.4±7.0歳)が研究に参加し,提示された絵の単語名称を書く書称課題と,音声提示される単語を書き取る書き取り課題を平仮名,片仮名について実施した.左半球における結果を示す.書称課題では,平仮名は,中前頭回,中側頭回,角回,縁上回等に,片仮名は角回,縁上回等に賦活を認めた.書き取り課題では,平仮名は内側前頭回,中後頭回に,片仮名は上前頭回,上・中後頭回等に活動を認めた.本研究の結果,平仮名および片仮名の書字に関与する脳部位はおおむね共通しており,音韻経路で処理されることが示唆された.また,書称課題では,絵の名称を想起し書字を行う際に文字への変換を行うため,側頭-頭頂領域の賦活が強く認められ,書き取り課題では,聴取した単語のイメージ想起を行うことにより視覚連合野が活動すると考えられる.</p>
著者
三枝 英人
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-10, 2020 (Released:2020-02-27)
参考文献数
14

構音はヒトのみが行う運動であるが,それを担う構音器官は,本来,構音を目的とするものではない.すなわち,呼吸と水分・栄養摂取に従事する器官であり,それらがヒトの脊柱による直立姿勢と,直立に伴う呼吸様式の変化と安定を基盤にして,音声言語活動に見合う自在性を獲得したものと考えられる.逆に,さまざまな要因により直立姿勢および呼吸様式に一定以上の負担が加わると,構音器官はこれらに対して代償的に活動することとなる.その結果,構音器官の構音を行うための自在性に制限が加わることとなり,神経学的異常による構音運動の異常が,より修飾されたものとなりうる.神経学的異常に起因した運動障害そのものを改善させることは難しいが,2次的に修飾された増悪因子を軽減することは可能である場合が多い.dysarthriaに対する医学的対応とはdysarthriaそのものよりも,患者全体をまずいかに見詰めるかに掛かっている.
著者
小島 千枝子 横地 健治 岡田 真人
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.225-234, 1983

特異な経過をとった言語発達遅滞の1例を報告した.症例は9歳男児.妊娠, 分娩, 新生児期著変なし, 運動発達は正常.幼児期前半は言語理解, 表出ともになく, 対人関係の孤立, 行動異常をあわせ持つ重度精神遅滞児の病像であった.理解は, 視覚的理解が聴覚的理解に先行して得られ, 対人関係の孤立も消失してきた.5歳10ヵ月の初診時, 発語失行が認められ, 構音訓練を中心とした言語指導を開始し, 急速な発語数の増大, さらに知的機能の上昇が得られた.8歳4カ月時にはIQ (WISC) は104となり, 現在は行動上の問題もないが, なお軽微な発語失行と失文法の問題は残されている.これらの言語, 知能を構成する各種高次機能の不均一な成熟の遅れによってもたらされた, 特異な臨床表現であろうと考えられた.