著者
菊池 良和 梅崎 俊郎 山口 優実 佐藤 伸宏 安達 一雄 清原 英之 小宗 静男
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.35-39, 2013 (Released:2013-04-03)
参考文献数
16
被引用文献数
2 1

成人の吃音患者に,社交不安障害(social anxiety disorder,以下SAD)が40%以上もの高い確率で合併する(Blumgartら,2010).SADにおいては,人と接する場面で強い不安を覚えるばかりでなく,社会生活上に大きな支障を及ぼす可能性があり,精神科・心療内科で薬物療法を行われることが多い.しかし,吃音にSADが合併している場合は,吃音をよく知っている言語聴覚士とも協力したほうがSADから回復し,従来の生活に戻れる可能性が高まる.症例は16歳男性,授業で本読みをすることに恐怖を感じ,不登校となった.心療内科でSADと診断され薬物療法を受けるが,本読みのある授業は欠席していた.耳鼻咽喉科に紹介され,環境調整,言語療法,認知行動療法を併用した結果,3週間後に授業を欠席せず登校可能となり,通常の高校生活に戻ることができた.吃音症にSADが合併した症例は,医師による薬物療法だけではなく,耳鼻咽喉科医・言語聴覚士の積極的介入が有用であると考えられた.
著者
足立 千浪 吐師 道子 城本 修 土師 知行
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.195-200, 2014 (Released:2014-09-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1

カラオケ歌唱による声質変化の有無,声質変化と水分摂取の関係を解明するため1) 16曲のカラオケ歌唱はその後の音声のjitter・shimmer・harmonic-to-noise ratio(HNR)に変化をもたらすか,2)カラオケ歌唱中の水分摂取の有無はカラオケ後の音声のjitter・shimmer・HNRの変化程度に差をもたらすかを検討した.その結果,16曲のカラオケ歌唱はその後の低い声と出しやすい声の高さの発声に影響を及ぼすことが示された.しかしVEによる喉頭所見では炎症や血腫等の著明な変化は見られず,カラオケ後の音響特徴の変化が血腫等に起因するものではない可能性が示唆された.また,声の高さやパラメータを通じた水分摂取の効果は見られなかったが,高い声での発声が水分摂取の有無に敏感である可能性が示唆された.
著者
二村 吉継 文珠 敏郎 東川 雅彦 南部 由加里 平野 彩 中村 一博 片平 信行 駒澤 大吾 渡邊 雄介
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.34-43, 2017 (Released:2017-02-18)
参考文献数
18
被引用文献数
1

Elite Vocal Performers(EVP)は職業歌手や舞台俳優など自身の声を芸術的に用いパフォーマンスを行う職業者である.EVPは声質改善にきわめて繊細な治療も希望する.そこで今回耳鼻咽喉科医,音声専門医に対してどのような意識をもって受診しどのような治療を希望しているのかを明らかにするため,EVPに対してアンケート調査を行った.選択形式の設問28問,自由記載式の設問3問の冊子を作成し,無記名の記入式アンケート調査を実施した.EVP 92名(男性41名,女性51名)から回答を得た.内容は「声の症状」「耳鼻咽喉科診察および歌唱指導について」「沈黙療法について」「ステロイド治療について」「声の悩みの解決方法」「診療に対する希望について」等である.沈黙療法を指示されたことがある者は64%であったが,適切な期間を指示することが重要であると思われた.ステロイド剤による治療を受けたことがある者は68%であり,投薬を緊急時にのみ望む者とできれば望まない者がほぼ半数ずつであった.
著者
太田 静佳 宇野 彰 猪俣 朋恵
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.9-15, 2018 (Released:2018-03-15)
参考文献数
5
被引用文献数
10 8

文字教育を行っていない幼稚園3園に在籍する年長児230名を対象に,国立国語研究所(1972)および島村,三神(1994)の調査と同様の方法で,ひらがな71文字についての音読課題,書字課題,拗音,促音,長音,拗長音,助詞「は」「へ」についての音読課題を実施し,現代の幼児のひらがな読み書き習得度について検討した.ひらがな71文字における平均読字数は64.9文字,平均書字数は43.0文字であり,島村,三神の調査結果と近似していた.また,本研究における71文字の音読,書字課題成績について,性別および月齢による違いを検討するため分散分析を行った結果,71文字の書字課題のみで性別の有意な主効果が認められ,男児に比べて女児の成績が高かった.月齢の影響はなかった.書字において女児の成績が男児の成績に比べて高かった点で,先行研究を支持していた.
著者
小林 武夫 熊田 政信 石毛 美代子 大森 蕗恵 望月 絢子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.31-34, 2014 (Released:2014-02-20)
参考文献数
10
被引用文献数
1

歌唱を職業とする者に,歌唱時においてのみ見られる痙攣性発声障害を「歌手の喉頭ジストニア(singer’s laryngeal dystonia)」と名づけた.痙攣性発声障害の一亜形である.通常の会話は問題がない.本症の発症前に過剰な発声訓練を行っていない.4例は第1例(女性31歳)ソプラノ,ポピュラー,第2例(女性28歳)ロック,第3例(男性40歳)バリトン,第4例(男性46歳)バリトンで,第4例のみが外転型痙攣性発声障害で,他の3例は内転型である.内転型は歌唱時に声がつまり,高音の発声障害,声域の短縮,ビブラートの生成が困難となる.外転型では,無声子音に続く母音発声が無声化する.治療は,内転型はボツリヌストキシンの少量頻回の声帯内注射が有効である.外転型では,後筋にボツリヌストキシンを注射する.
著者
髙橋 三郎
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.233-238, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本研究では,なぜ吃音が母音で生じやすいと感じられるのかを明らかにするために,学齢期の吃音児の自由会話を分析し,子音と母音の違いが吃音の生起に与える影響を検討した.そのうえで,語頭モーラ頻度と吃音生起数の関係性を検討した.対象児は6歳9ヵ月から12歳1ヵ月までの吃音児20名であった.対象児と筆者との自由会話の様子を録画し,発話を分析した.二項ロジスティック回帰分析の結果,子音と母音の違いは吃音の生起に有意な影響を与えなかった.また,一部の母音(「い」「お」「あ」)は他の子音よりも語頭モーラ頻度が高く,吃音生起数も多かった.以上のことから,一部の母音で吃音が生じやすいと感じられるのは,語頭モーラ頻度の高さによって吃音生起数が多くなることが関与すると推測された.
著者
佐藤 公則 栗田 卓 佐藤 公宣 千年 俊一 梅野 博仁
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.301-309, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
55

1)ヒト声帯の黄斑は,声帯振動のために必須である声帯粘膜の細胞外マトリックスの代謝に関与し,ヒト固有の声帯粘膜の層構造を維持していることが示唆されている.2)ヒト声帯の黄斑は,ヒト声帯の成長・発達・老化に関与していることが示唆されている.3)ヒト声帯の黄斑には,声帯の線維芽細胞とは異なった間質細胞,すなわち細胞突起をもち,ビタミンAを貯蔵した脂肪滴を細胞質にもつ声帯星細胞が密に分布している.4)ヒト声帯黄斑は幹細胞ニッチであり,黄斑内の細胞は組織幹細胞であることが示唆されている.5)ヒト声帯の細胞と細胞外マトリックスの研究は,喉頭,特に声帯の生理学・病理学・病態生理学の基礎的研究になるばかりでなく,組織工学,再生医療の基礎的研究として臨床に寄与する.
著者
長西 秀樹 森 有子 木村 美和子 中川 秀樹 田村 悦代 新美 成二 福田 宏之
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.153-157, 2012 (Released:2012-06-11)
参考文献数
12
被引用文献数
1

職業歌手にみられる急性炎症による音声障害へ対処する場合には,職業上の要請が強いため,通常の診察・治療に加えて,歌手特有の特殊性を考慮する必要がある.しかし,診療の進め方に特別なことがあるわけではなく問診に始まり声の評価,発声器官の所見に基づく治療を行う.声帯の状態を正確に把握することが重要であり,その評価のためには喉頭ストロボスコピーが有用である.当センターでは,薬物治療,外来でのネブライザー療法,音声治療を中心に治療方針を決定し,声帯の浮腫の状態に応じて,ステロイド投与の適応,その投与方法を決定している.東京ボイスセンターを2010年1年間に受診した急性炎症による音声障害症例は176名で,そのうち職業歌手は56名(31.8%)であった.職業歌手に対する急性期のステロイド投与方法としては,ステロイド吸入のみで対応した症例が最も多く,次いでステロイド点滴,ステロイド内服の順であった.
著者
菊池 良和 梅﨑 俊郎 安達 一雄 山口 優実 佐藤 伸宏 小宗 静男
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.333-337, 2014 (Released:2015-02-05)
参考文献数
12

思春期以降の音声言語外来において「声がつまる」「電話で最初の言葉がうまく言えない」という吃音らしい訴えは,吃音症だけに見られるものではない.成人で吃音と鑑別すべき疾患として,過緊張性発声障害や内転型痙攣性発声障害が挙げられる.本研究の目的は,吃音症と発声障害を問診上で鑑別する手掛かりを探すことである.2011年3月から2013年5月まで吃音らしい訴えで九州大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科に来院した患者のうち,病歴・音声・喉頭内視鏡所見で10歳以上の吃音症と診断した46名(平均25.2歳,男女比=3.6:1)(吃音群)と,過緊張性発声障害,内転型痙攣性発声障害の診断にて,問診表を取得できた成人12名(平均39.2歳,男女比=1:3)(発声障害群)との問診上の特徴を比較した.その結果,「声がつまるなど吃音らしい訴えに気づいた年齢」が吃音群で平均8歳,発声障害群は平均34歳と吃音群で有意に低年齢だった.また,吃音群は「言葉がつっかえることを他人に知られたくない」「予期不安がある」「苦手な言葉を置き換える」「独り言ではすらすらしゃべれる」「歌ではつっかえない」「からかい・いじめを受けた」「話し方のアドバイスを受けた」「つっかえるのでできないことがある」などの項目が,発声障害群より有意に多かった.吃音様の訴えでも発声障害と診断されることもあり,音声・喉頭内視鏡だけではなく,詳しい問診をすることが,吃音症と発声障害の鑑別に有効である.
著者
岩城 忍 涌井 絵美 高橋 美貴 四宮 弘隆 森本 浩一 齋藤 幹 丹生 健一
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.152-158, 2017 (Released:2017-05-31)
参考文献数
19
被引用文献数
3 5

高齢者の音声障害に対してStemple(1994)らが提唱した原法どおりの方法でVocal Function Exercises(VFE)を施行したので,その結果と有効性について報告する.対象は2013年10月以降に発声困難を訴え神戸大学医学部附属病院耳鼻咽喉・頭頸部外科を受診した高齢者のうちVFEを行った21例.年齢は67~80歳(平均72.4歳).男性13例,女性8例.6~8週間のベースプログラムの完遂率は85.7%,引き続いて行う約7週間の維持プログラムの完遂率はベースプログラム完遂者中66.7%であった.ベースプログラム終了後には,GRBAS法の嗄声度G(G),maximum phonation time(MPT),mean flow rate(MFR),上限,声域,VHI-10が有意に改善し,maximum expiration time(MET)は延長傾向を示した.練習前と維持プログラム後を比較するとG,MPT,MFR,VHI-10が有意に改善し,上限は拡大傾向を示した.以上より,高齢者の音声障害に対してVFEは有効な音声治療の一つであると考えられた.
著者
菊池 良和 梅﨑 俊郎 安達 一雄 山口 優実 佐藤 伸宏 小宗 静男
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.321-325, 2015 (Released:2015-10-17)
参考文献数
20
被引用文献数
1

「吃音を意識させないように」「親子で吃音のことを話さない」ことが正しい対応だと思われている現状がある.しかし,自分に吃音があることを意識する年齢やその場面についての詳細な報告はこれまでにない.そこで10歳以上の吃音者で親が一緒に来院した40組に対して,吃音に気づいた年齢の違いを調べた.吃音者本人の意識年齢は平均8.1歳(3~16歳)だった.自分に吃音があると気づいた場面として,「親との会話中」はわずか8%であり,「園や学校」で気づいたのは57%だった.また,親が子どもの吃音に気づいた年齢は5.3歳(2~14歳)で,ほとんどの症例で親のほうが先に吃音の発症に気づいていた.以上より,多くの親は子どもに吃音を意識させることはなかったが,園・学校など人前での発表・会話で,本人は吃音を意識し始めたことがわかった.吃音に伴ういじめやからかいなどの不利益を最小限にするためには,吃音の話題を親子でオープンに話す必要があると示唆された.
著者
日本音声言語医学会言語委員会 運動障害性 (麻痺性) 構音障害小委員会
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.164-181, 1999-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
16
被引用文献数
2 1

1987年に発足した運動障害性 (麻痺性) 構音障害小委員会の10年間の活動経過について報告した.本委員会では, 1980年に本学会言語障害検査法検討委員会・運動障害性構音障害小委員会によって発表された「運動障害性 (麻痺性) 構音障害dysarthriaの検査法―第1次案」 (以下, 第一次案) を基に「dysarthriaの有無とタイプの鑑別ができ, さらに臨床的に使いやすい短縮版検査を作成すること」を目的に活動を行った.この活動の経過を以下の順にまとめ報告した. (1) 臨床上よくみられるdysarthriaの4つのタイプの患者と健常者に対し第一次案を実施し比較検討した結果, (2) この結果に基づき, 第一次案から検査項目を取捨選択して作成した短縮版 (試案) の内容, (3) 短縮版 (試案) を用いた判別分析の結果, (4) 短縮版 (試案) に検討を加え作成した短縮版の内容.
著者
青山 猛 讃岐 徹治 増田 聖子 湯本 英二
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.149-155, 2010 (Released:2010-05-21)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

披裂軟骨脱臼は全身麻酔の気管挿管の合併症として報告され, 外力のかかり方によって前方, または後方に脱臼する. 今回全身麻酔後に発症した前方脱臼症例と後方脱臼症例を経験したので各症例の臨床的特徴について報告する. 症例1:全身麻酔下の手術直後から高度嗄声を認めた. 初診時は右披裂部が固定し, 喉頭筋電図検査では発声時の両側甲状披裂筋に左右同等の活動電位を認めた. 右披裂軟骨前方脱臼と診断し全身麻酔下に整復術を行った. 術後右声帯の可動性と嗄声は徐々に改善し, 術後6ヵ月で声帯運動の左右差はなくなった. 症例2:全身麻酔下の手術直後より高度嗄声を認めた. 初診時は右披裂部の固定を認め, 発声時に左声帯は過内転していた. 右披裂部の固定位より右披裂軟骨後方脱臼と診断し整復術を予定した. しかし, 子供が背後から前頸部にぶらさがり, その直後より嗄声が改善, 再診時は右声帯の動き, 形態も正常となり予定していた手術は中止した. 本症例は後方脱臼が偶然ではあるが徒手整復されたものと考えた.
著者
宮本 昌子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.30-42, 2019 (Released:2019-02-26)
参考文献数
30
被引用文献数
1

クラタリングの暫定的定義では発話速度の速さと不規則さ,正常範囲非流暢性頻度の高さ,調音結合が重視され,症例の多くは吃音と合併したクラタリング・スタタリングである.本研究では,クラタリング・スタタリング群9名,LD・AD/HD・ASD群10名,コントロール群24名を対象に絵の説明課題の構音速度と非流暢性頻度を測定した.構音速度において3群間に有意差は見られなかった.自由発話等を視野に入れ,より適切な測定対象場面を検討することの必要性が明らかになった.また,正常範囲非流暢性頻度の高さがクラタリング・スタタリング群と同等に高い者が,LD・AD/HD・ASD群のなかにも存在していたことがわかった.
著者
浜田 千晴 宇野 彰
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.156-164, 2021 (Released:2021-05-19)
参考文献数
39
被引用文献数
1

小学1年生173名を対象に,ひらがな特殊表記の音読および書字の習得度とそれらに影響する認知能力を検討した.刺激は促音,拗音,長音,撥音の各表記を含む単語(特殊表記単語)と非語ならびに清音,濁音,拗音,撥音のかな1モーラ表記文字とした.典型発達児の音読において,拗音表記文字では頻度効果が認められ,単語では促音および拗音表記の正答率は長音および撥音表記に比べて有意に低かった.また,書字において,単語では促音表記の正答率が最も低く,次いで,拗音と長音表記は撥音表記に比べて有意に低かった.重回帰分析の結果,単語音読には単語逆唱と図形模写と語彙,単語書字には特殊表記単語の音読成績と非語復唱と図形直後再生が有意な予測変数として示された.小学1年生における特殊表記単語の音読には音韻処理能力,視覚認知能力,語彙力が影響し,書字には音読力の影響が示唆された.
著者
富里 周太 大石 直樹 浅野 和海 渡部 佳弘 小川 郁
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.7-11, 2016 (Released:2016-02-23)
参考文献数
12
被引用文献数
5 2

吃音は社交不安障害などの精神神経疾患や発達障害が併存しうることは指摘されているが,これらの併存疾患に関する本邦からの報告はいまだ少数である.そのため,本邦における吃音と併存疾患との関連を検討することを目的に,2012年と2013年に慶應義塾大学耳鼻咽喉科を受診し吃音と診断された39症例について,併存する精神神経疾患および発達障害の有無を調べ,性別,年齢,発吃年齢,吃音頻度との関連を後方視的に調査した.併存する精神神経疾患として,気分障害(うつ,適応障害),強迫神経症,てんかん,頸性チックの合併を全体の15%に認めた.発達障害の併存は,疑い例や言語発達障害のみの症例を含め18%に見られた.発達障害の有無によって吃音頻度,性別,年齢に有意差は見られなかったが,発吃年齢は発達障害併存群で有意に高い結果だった.吃音は発達障害が併存することにより,発達障害を併存しない吃音とは異なった臨床経過を示す可能性が示唆された.
著者
苅安 誠
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.201-210, 2009 (Released:2010-04-06)
参考文献数
63
被引用文献数
1 1

音声生成 (発声発語) と嚥下は, 上部気道・消化管 (aero-digestive tract; ADT) を共用する感覚・運動機能で, 対象物と発声発語・嚥下条件に適応的である. ADT共用により, 根底にある構造あるいは感覚・運動の問題が発声発語と嚥下の異常を同時にもたらすことがある. また, 一方の異常とその回復が他方の問題とその改善を予測させる. さらに, 一方への訓練が他方の機能改善をもたらす可能性がある. ただし, 発声発語では高速かつ正確な運動が, 嚥下では比較的定型的で持続的な大きな力が要求されるため, 訓練方法の見直しが必要と考えられる. 本論文では, 上記の基本的事項と仮説に基づいて, 嚥下機能の改善のための発声発語訓練, 音声機能の改善のための嚥下訓練を, おのおのの方法 (原法と変法) , ねらい, 標的, 成果指標を示す. さらに, 運動 (再) 学習の原理と神経系可塑性の発想に基づいた治療プログラムの編成について説明を加える.
著者
富里 周太 大石 直樹 浅野 和海 渡部 佳弘 小川 郁
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.7-11, 2016
被引用文献数
2

吃音は社交不安障害などの精神神経疾患や発達障害が併存しうることは指摘されているが,これらの併存疾患に関する本邦からの報告はいまだ少数である.そのため,本邦における吃音と併存疾患との関連を検討することを目的に,2012年と2013年に慶應義塾大学耳鼻咽喉科を受診し吃音と診断された39症例について,併存する精神神経疾患および発達障害の有無を調べ,性別,年齢,発吃年齢,吃音頻度との関連を後方視的に調査した.<br>併存する精神神経疾患として,気分障害(うつ,適応障害),強迫神経症,てんかん,頸性チックの合併を全体の15%に認めた.発達障害の併存は,疑い例や言語発達障害のみの症例を含め18%に見られた.発達障害の有無によって吃音頻度,性別,年齢に有意差は見られなかったが,発吃年齢は発達障害併存群で有意に高い結果だった.吃音は発達障害が併存することにより,発達障害を併存しない吃音とは異なった臨床経過を示す可能性が示唆された.
著者
高野 佐代子 松崎 博季 元木 邦俊
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.41-49, 2020 (Released:2020-02-27)
参考文献数
15

母音発話における各種の舌筋の活動について数多くの検討がなされてきたが,舌の内部変形の特徴については観察が困難なために考慮が少なかった.本研究では変形を可視化するために開発された,黒い線を付加できるタギングシネMRI(tagged-cine MRI)のデータ(高野ら,2006)に基づいて,舌の内部変形の特徴を考慮したうえで舌モデルを構築し,有限要素法のシミュレーションにより特に横舌筋の効果について検討する.これまでの研究により,母音発話/ei/(日本語2モーラ)のタギングシネMRIにおいて,舌は前後および上下に4つの部位に分けて考えることで最も簡単に解釈できることが報告されている(高野ら,2006).すなわち,前部は前方移動と中央方向への圧縮,後部は前方移動と左右方向への膨張が見られ,特に前方上部(舌端部)は前後方向よりも上方向への移動が顕著であった.さらに,前方上部は後方下部(舌根部)よりも動き始めるのが早く,速度および移動距離が最も大きかった.これは舌の構造から考えると,横舌筋前部の関与が推測された(高野ら,2006).そこで本研究では,母音/i/における舌端部の運動について,舌を前後および上下に分割した立方体4要素の舌モデルを構築し,有限要素法によるシミュレーションを用いて前部横舌筋の作用について検討した.その結果,母音/i/では前部横舌筋の筋活動に相当する収縮力の発生により,舌端点は中央方向への圧縮を伴い,より早いタミングで動き出し,速度も速く,移動距離も大きくなるという傾向が確認された.

3 0 0 0 OA 声変り

著者
澤島 政行
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.299-300, 1988-07-25 (Released:2010-06-22)