著者
安宅 涼香 伊藤 友彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.144-147, 2012 (Released:2012-06-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

言語障害児の指導のためには基盤となる健常児の言語獲得の知見が不可欠である.日本語の主格は機能範疇T(時制辞)によって認可されるという仮説がある.この仮説は時制辞の発現の前に格助詞「が」が現れることはないと予測する.しかしこれを支持する実証的データはほとんどなく,また,日本語において何をもって時制辞の発現とみなすかについても一致した見解が得られていない.そのため時制辞の発現と格助詞の出現との関係は十分に明らかになっていない.そこで本研究では過去形(タ形)と非過去形(ル形)の両者と,格助詞「が」の出現に視点を当て,1,2歳の健常幼児7名の縦断的な発話データを分析した.その結果,7名とも動詞のル形とタ形の後に格助詞「が」が出現した.この結果について,ル形とタ形が出揃うことが日本語の時制辞の発現と関係しており,そのため上記の仮説が予測するとおり,時制辞が発現した後に格助詞「が」が出現すると考察した.
著者
喜屋武 睦 濵田 豊彦 澤 隆史
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.317-325, 2017

<p>本研究では聴覚障害児の韻律情報の活用について発話と聴取の両面から検討を行った.対象児は関東地方の聴覚特別支援学校および難聴通級指導教室に通う聴覚障害児31名(平均聴力レベルの平均86.2 dBHL(SD=23.4))である.各対象児に対し2通りの意味解釈が可能な統語的曖昧文をそれぞれの意味で発話させた.その発話についての聴者による韻律情報の活用の程度に関する聴覚印象評価(韻律明瞭度)に影響を与える音響成分(F<SUB>0</SUB>やポーズなど),韻律明瞭度と聴力レベルとの関係について,そして発話および聴取による韻律活用との関係について検討を行った.その結果,統語的曖昧文の言い分けにはF<SUB>0</SUB>とポーズの変化が関係していること,韻律の言い分けには低周波数帯(250 Hz)の聴力レベルが関係すること,また,平均聴力レベル90 dBHLが境界値となることが示された.聴取可能な音響成分によって聴覚障害児なりにF<SUB>0</SUB>やポーズを駆使して統語境界を発話のなかで明示していることが示された.</p>
著者
濱田 豊彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.341-350, 2010-10-20
参考文献数
18
被引用文献数
1

韻律情報は,文字には含まれない音声言語特有の特徴であることから,その弁別には,日常生活のなかでみずから聴覚を活用し,獲得していくことが求められる.したがって韻律の獲得は聴覚活用の指標になると考えた.そこで本研究では,聴覚障害児64名を対象にアクセントとイントネーションの聴取弁別課題を行い,聴力レベルとの関係から検討した.<br>その結果,平均聴力レベルでは,イントネーションは約85dBHL以下の者のほとんどが有意な弁別が可能であったのが,アクセントでは約70dBHL以下と難聴が軽い者でないと聴取弁別できなかった.したがってアクセントよりもイントネーションのほうが重度の聴覚障害児でも聴取弁別が可能であることが示唆された.このことは,イントネーションがアクセントよりも多様な音響信号を含み,持続時間の変化など,より重度な聴覚障害児においても活用が可能な信号を含んでいることを意味すると推察された.
著者
正木 信夫 辰巳 格 笹沼 澄子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.186-194, 1990
被引用文献数
2

発語失行症患者の発語における, 調音器官と発声器官の協調運動について検討した.純粋な症例1例と健常対照群の, [ai] および [amV] (V=a, e, i) で始まる平板型・尾高型アクセントの単語発話を発話試料とした. [ai] で始まる単語については, アクセント指令と第2拍 [i] の調音指令を, それぞれ基本周波数とフォルマント周波数から, 日本語の単語アクセント生成および調音運動生成の機能的モデルに基づいて推定した.発語失行症患者では, 発話速度が遅い場合にアクセント指令の調音指令に対する遅れが健常者に比べ著しく大きかった.また, [amV] で始まる単語の発話では, アクセント指令の, [m] の唇閉鎖時点に対する遅れが健常者に比べて大きかった.従来, 発語失行症患者の発話における調音器官同士の協調運動に異常が起こることは報告されてきた.しかし, 本研究の結果では協調運動の異常は調音器官同士ばかりでなく, 調音器官と発声器官の間にも起こりうることが示された.
著者
遠藤 康男 粕谷 英樹
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.338-341, 1993
被引用文献数
3 2

嗄声における基本周期 (周波数) , 振幅系列のゆらぎを定量化するために比較的良く用いられるさまざまなゆらぎパラメータについて比較検討を行った.パラメータとしてjitter/shimmer factor, 変動指数, ジッタ/シマーパラメータを用いた.これらのパラメータと熟練した耳鼻科医がGRBAS尺度に関して評定した聴覚的評点との関係という観点から比較検討を行った.喉頭癌, 声帯ポリープ, 反回神経麻痺患者が発声した持続母音の52例を用いた実験により, ジッタ/シマーパラメータが病的音声の聴覚的印象と最も対応が良いことを示した.
著者
今泉 光雅 大森 孝一
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.209-212, 2015

外傷や炎症,術後に形成される声帯瘢痕は治療困難な疾患である.その治療は,動物実験や臨床応用を含めて,ステロイド薬や成長因子の注入,種々の細胞や物質の移植などにより試みられているが,現在まで決定的な治療法がないのが実情である.2006年,山中らによってマウス人工多能性幹細胞(iPS細胞)が報告された.2007年,山中らとウイスコンシン大学のDr. James Thomsonらは同時にヒトiPS細胞を報告した.iPS細胞は多分化能を有し,かつ自己由来の細胞を利用できるため声帯組織再生の細胞ソースの一つになりうると考えられる.本稿では,幹細胞を用いた声帯の組織再生について述べるとともに,ヒトiPS細胞を,in vitroにおいて声帯の上皮細胞に分化誘導し,声帯上皮組織再生を行った研究を紹介する.
著者
阿部 雅子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.239-250, 1987
被引用文献数
3 5

鼻腔構音と称していた構音障害について観察し, 以下の知見を得た.<BR>1) 鼻咽腔構音の音声をサウンドスペクトログラフにて分析した結果, 破裂音や摩擦音に相当する部位に, 低音部から高音部にわたるspike fillやフォルマント構造をもつ弱い雑音成分が認められた.また, 母音に相当する部分には鼻腔共鳴をあらわすフォルマントが認められた.<BR>2) X線映画, ファイバースコープ, ダイナミックパラトグラフにより, 構音器官の動態を観察した結果, 鼻咽腔構音の構音点は鼻咽腔閉鎖の行われる場所にあり, 破裂や摩擦の音は軟口蓋と咽頭壁でつくられる.そして, その際, 舌が口蓋に接して口腔が閉鎖され, 呼気や音声は鼻腔から出されることが明らかになった.<BR>3) この構音障害を表わす用語を検討した結果, 「鼻咽腔構音」 (nasopharyngeal articulation) が適切であると考えた.
著者
酒井 奈緒美 森 浩一 金 樹英 東江 浩美
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.27-35, 2017 (Released:2018-03-15)
参考文献数
38
被引用文献数
1

吃音を主訴とする自閉性スペクトラム障害(以下ASD)の青年に対し,自身の流暢な発話場面のみからなる映像を視聴する,ビデオセルフモデリング(以下VSM)を導入した.最初に作成・提供した映像は,発話は流暢であるもののASDに特徴的な行動を含んでおり,症例が拒否的な反応を示したため視聴を中断した.その後,ASDの特徴を制御した発話行動を撮影してビデオを作成し直し,約3ヵ月の視聴を行った(言語訓練も並行して実施).その結果,①自由会話の非流暢性頻度の低下,②発話の自己評価と満足度評価の上昇,が認められた.視聴後の感想では,映像視聴によって自身の話せているイメージを初めてもてたことが報告された.自己モニタリングが難しいASDの特徴を有する吃音者へのVSM訓練は,映像がASDに関するセルフフィードバックとして機能する可能性に留意すべきという注意点はあるものの,吃音の問題改善に有効であることが示された.
著者
三島 佳奈子 堀口 利之 野島 啓子 三宅 直之 磯崎 英治
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.204-210, 1997-04-20
参考文献数
19
被引用文献数
3 2

薬効ピーク時に移動能力, ADLが向上する一方で, 一時的な起声困難が出現する若年性パーキンソン病患者を経験した.本症例の起声困難はドラッグコントロールにより改善しており, 薬物 (L-DOPA) に起因するすくみ現象による声帯の内転障害と考えられた.同一個体内で歩行と発声という異なる運動間ですくみ現象が時間的解離をもって出現した原因について考察した.結果, 同一個体内においても四肢・体幹と喉頭ですくみ現象の発現機序に相違がある可能性, あるいは薬物の治療閾値がおのおのの筋において異なる可能性を考えた.また, 本症例の起声困難には"kinesie paradoxale"を伴っており, 声帯のすくみ現象には発声を他の目標行動に変換して誘発する方法が有用であった.<BR>A 62-year-old man with juvenile Parkinson's disease was reported. When L-Dopa was working the patient felt difficulty in voicing although he could walk smoothly. Meanwhile, when L-Dopa was not working his difficulty in voicing disappeared but he was unable to walk. This discrepancy between voicing and walking is disussed.<BR>Laryngofiberscopic examination showed the following intriguing findings. When L-Dopa was working the patient's vocal cords assumed the hyperabduction position. Also, during an attempts at phonation, the vocal cords developed a tendency to adduct but were unable to. This movement seemed to correspond to a"freezing"phenomenon in walking. The adduction tendency of the vocal cords ameliorated temporazily by voluntarily making a cough instead of voicing. Such a phenomenon appeared as a freezing of vocal cord movement with kinesie paradoxale.<BR>Two hypotheses were raised to explain this "see-saw" phenomenon between voicing and walking. First, the mechanism of the freezing phenomenon might differ for voicing and walking. Second, the threshold for the effectiveness of L-Dopa might differ for the intrinsic laryngeal muscles controlling voicing and for the limb and truncal muscles controlling walking. The task of hawking which we attempted was very useful in speech therapy on PD patients who exhibited the freezing phenomenon of the vocal cords with kinesie paradoxale.
著者
一色 信彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.15-21, 1966-05-01 (Released:2010-06-22)
参考文献数
12
被引用文献数
9 6
著者
宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 片野 晶子 狐塚 順子 後藤 多可志 蔦森 英史 三盃 亜美
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.245-251, 2010 (Released:2010-08-31)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

本研究の目的は, 発達性ディスレクシア (DD) と後天性の大脳損傷によって生じる失読失書例との共通点と相違点について要素的認知機能の発達や局在化に関して検討することである. DD群は10名の右手利き例である. 失読失書例は右利きの男児2名である. 失読失書症例KYは8歳にてモヤモヤ病術後, 脳梗塞にて軽度失語症を発症し, その後軽微な失語症とともに失読, 失書症状が認められた発症半年後から追跡している症例である. 症例MSは, 8歳時の脳梗塞により健忘失語が観察された10年以上追跡してきている現在21歳の症例である. いずれも, 失語症状は軽微で失読失書症状が中心となる症状であった. SLTAではDD群, 失読失書例ともに読み書きに関連する項目以外は定型発達児群と差がなく音声言語にかかわる項目は正常域であった. DD群における局所血流低下部位は左下頭頂小葉を含む, 側頭頭頂葉結合領域であった. また, 機能的MRIを用いた実験により, 左下頭頂小葉にある縁上回の賦活量に関して典型発達群と比較して異なる部位であった. 一方, 失読失書2例における共通の大脳の損傷部位は左下頭頂小葉であった. DD群ではROCFT (Rey-Osterrieth Complex Figure Test) において遅延再生得点が平均の-1SDよりも得点が少なかったが, 失読失書2例においてはともに得点低下はなかった. 一方, 発達性ディスレクシアと後天性失読の大脳機能低下部位は類似していたが, 非言語的図形の処理能力は, 発達性ディスレクシア群で低く, 後天性失読例では保たれていた. 後天性言語的図形である文字と非言語的図形の処理は, 少なくとも8歳までの発達途上で機能が分離されてきているように思われた.
著者
鈴木 勉 物井 寿子 福迫 陽子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.159-171, 1990
被引用文献数
5

失語症患者に対する仮名訓練法を開発した.これは, 単音節語 (漢字1文字で表記) をキーワードとし, その意味想起の手がかりとして, キーワードを初頭に含む複合語 (ヒント) を利用する方法である.<BR>本法を3例の失語症患者 (重~中等度ブローカ失語2例, ウエルニッケ失語1例) に実施したところ, 3例とも仮名1文字の書取り及び音読能力に改善が認められた.ただし到達レベルは, 単語から文章まで症例により異なった.<BR>本法は, 多音節語をキーワードとした仮名訓練では成果の上がらなかった重度例にも適応可能であった.本法の適応のある患者は, 次の3条件, すなわち (1) 漢字の書字の学習力が保たれている, (2) 単語の復唱が可能, (3) 訓練意欲が高い, を満たす患者であった.
著者
熊倉 勇美
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.224-235, 1985
被引用文献数
16 12

舌癌術後の60症例に対し, 聴覚印象による明瞭度の評価ならびに修復後の舌の量とその可動性の直接的観察をおこない, 舌切除後の構音機能に関して以下のような結論を得た.<BR>(1) 舌の切除範囲が広くかつ大きくなるほど, 舌のボリュームは小さくなり, その可動性もまた制限され明瞭度は低下する. (2) いわゆる舌半側切除よりもさらに広範囲な切除になると, PM-MC flapによる再建の方が非再建例に比べて明瞭度は良好である. (3) 一般に術後に一度低下した明瞭度は6ヵ月までに回復し, その後はPlateauとなる.またPM-MC flapによる再建の場合には, 一度改善した明瞭度が, 再び舌容量の減少につれて低下する場合がある. (4) 構音障害の特徴に関しては舌尖や舌背後部による閉鎖が得られず, 構音様式では閉鎖音が摩擦音・破擦音に, 構音点では歯茎音や軟口蓋音が両唇音・声門音などに聞き取られる傾向を示す.その他, 咬合異常, 顔面神経の下顎枝のマヒ, 唾液の貯溜なども明瞭度を低下させる条件となる. (5) 明瞭度が70%以上では社会復帰が可能であるが, それ以下になると実用性は低くなる.
著者
野口 由貴 小澤 由嗣 山崎 和子 今泉 敏
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 = The Japan Journal of Logopedics and Phoniatrics (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.269-275, 2004-10-20
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

対人コミュニケーションに問題をもつ児の早期発見に役立つ検査手法を開発するため, 小学生, 中学生, 成人, 計339名 (男性173名, 女性166名) を対象に, 話し言葉から相手の心を理解する能力を調べた.言語属性として辞書的意味が肯定的な短文と否定的な短文を, 感情属性として肯定的な感情と否定的な感情をもって, 女性1名が話した短文音声を刺激として, 言語課題では言語属性を, 感情課題では感情属性を判断した.その結果, 言語属性と感情属性とが一致しない皮肉音声やからかい音声に対して, 話者の発話意図つまり心を理解する能力が小学生から中学生にかけて上昇し発達するものの, 中学生になってもなお成人の能力には達しないことがわかった.この結果は, 言語属性と感情属性とを適正に分離・統合して話者の発話意図を理解する能力が, 誤信念課題などによる心の理論テストで予測される能力よりも遅く成熟するものであることを示唆する.
著者
飯髙 玄 冨田 聡 荻野 智雄 関 道子 苅安 誠
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.327-333, 2018 (Released:2018-09-15)
参考文献数
27
被引用文献数
2

パーキンソン病(PD)患者の発話特徴の一つである単調子(monopitch)は,発話の明瞭さと自然さを低下させる.本研究では,日本語を母国語とするPD患者のmonopitchが,体系的訓練LSVT®LOUD(LOUD)により改善するかを調べることを目的とした.対象は,2011〜2016年にLOUDを実施したPD患者40例のうち35例(平均年齢66.0歳)と健常者29例(平均年齢68.0歳)とした.音読から選択したイントネーション句の話声域speaking pitch range(SPR),音読と独話でのmonopitchの聴取印象評定(4段階)をmonopitchの指標とした.音読と独話での平均音圧レベル,発話明瞭度(9段階)と発話自然度(5段階)も評価した.訓練前後で比較すると,音読でのSPRは,10.5半音から13.1半音と有意に大きくなり(p<0.01),健常対照群とほぼ同レベルまで改善した.monopitch,発話明瞭度,発話自 然度の聴取印象評定は,いずれも訓練後に有意に改善していた(p<0.05).平均音圧レベルは,音読・独話とも,訓練後に有意に増加した(p<0.01).LOUDは,日本語を母国語とするPD患者の小声だけでなく,monopitchにも有効であることが示された.
著者
髙山 みさき 大西 英雄 城本 修 村中 博幸
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.143-151, 2017 (Released:2017-05-31)
参考文献数
17
被引用文献数
1

平仮名と片仮名の文字刺激処理における脳活動に差があるか,fMRI(functional magnetic resonance imaging)を用いて検討した.健常成人17名(平均年齢21.4±0.5歳)を対象に,平仮名または片仮名で表記した高親密度単語および低親密度単語の音読を行い,課題遂行時の脳賦活部位と脳賦活量を評価した.両課題に共通して,両側上前頭回,両側内側前頭回,両側中側頭回,左紡錘状回,左角回,左帯状回の賦活を認め,平仮名課題では,両側下側頭回,両側楔前部,左後方帯状回に,片仮名課題では,両側下前頭回,左下側頭回,右中心後回,左前方帯状回に賦活が観察された.脳賦活量は平仮名が片仮名を上回り,高親密度課題で13.1倍,低親密度課題で2.7倍を示した.平仮名および片仮名の音読時における脳活動は共通する点が多く,二重神経回路仮説における背側経路を介して処理されるが,文字刺激処理における処理負荷は平仮名のほうが強いと示唆された.
著者
髙原 由衣 佐藤 公美 竹山 孝明 坂本 幸 青木 俊仁 伊藤 美幸 池田 美穂 田上 真希 吉田 充嬉 岡田 規秀 宇高 二良 島田 亜紀 武田 憲昭
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.326-332, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
12
被引用文献数
1

小中学校の耳鼻咽喉科定期健康診断を受診した1384名について,嗄声の出現率とスポーツ活動との関連を検討した.嗄声の出現率は,女児(5.2%)に比べて男児(17.7%)が高く,男児は小学校3年生まで高く4年生以降に減少し,女児は小学校2年生まで高く以降減少したが中学校2,3年生では高かった.小学校の高学年ではスポーツ活動を行っていない児童(男児4.9%,女児0.6%)に比べて,スポーツ活動を行っている児童(男児21.2%,女児5.8%)は嗄声の出現率が有意に高かった.スポーツの種類と嗄声とのオッズ比は,男児の小学校低学年の野球が2.88,小学校高学年でサッカー2.29,野球2.92で高く,強い声門閉鎖を伴う屋外の団体スポーツであることが要因と考えられた.小学校の男児に野球やサッカーを行わせる場合には,声の衛生を行い嗄声の予防が必要である.中学生は,対象者を増やして再検討が必要である.
著者
遠藤 康男 粕谷 英樹
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.338-341, 1993-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

嗄声における基本周期 (周波数) , 振幅系列のゆらぎを定量化するために比較的良く用いられるさまざまなゆらぎパラメータについて比較検討を行った.パラメータとしてjitter/shimmer factor, 変動指数, ジッタ/シマーパラメータを用いた.これらのパラメータと熟練した耳鼻科医がGRBAS尺度に関して評定した聴覚的評点との関係という観点から比較検討を行った.喉頭癌, 声帯ポリープ, 反回神経麻痺患者が発声した持続母音の52例を用いた実験により, ジッタ/シマーパラメータが病的音声の聴覚的印象と最も対応が良いことを示した.
著者
八幡 英子 伊福部 達
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.309-315, 1989-10-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
9
被引用文献数
1 2

電気人工喉頭音声の不自然性を改善するために, 音声のゆらぎが自然性にどのように寄与するかを調べた.その結果, ピッチパターンについては, 発声直後のピッチ周波数の変化速度が0.45Hz/msec, 上昇時間は60msec程度が最適であることがわかった.また, 定常部ではピッチを直線的に減少させると自然性が高くなるという評価が得られた.さらに, 音声の自然性には, 波形のゆらぎが大きく寄与していることがわかった.これらの結果に基づき, 自然性を高めるようなピッチパターンが付与された電気人工喉頭を試作した.とれには, ピッチパターン設定の他に使用者が任意にピッチ周波数を制御する機能が付いている.本装置を使用して単語発声中にピッチ周波数を制御することにより正常音声に近い抑揚を付けることができた.