- 著者
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大場 武
- 出版者
- 東京工業大学
- 雑誌
- 萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2004
火山ガスはマグマに溶存していた揮発性成分から構成され,火山噴火がマグマから揮発性成分が抜けることを駆動力としていることを考えれば,その観測は火山噴火メカニズムの解明に必須であると言える.しかしながら,火山ガスを火口で直接採取することは危険を伴う.その危険を回避する手段として,大気に拡散した火山ガスによる自然光の紫外域,赤外域での吸収を利用する遠隔観測が実用化されている.しかし自然光の光吸収による観測は,SO_2,HCl, CO_2など,限られた気体のみに可能である.火山ガスの重要な成分であるH_2,H_2Sに光吸収法は適応できない.本研究で試みた遠隔観測の手法では,火山ガスにレーザービーム光を照射し,後方散乱するラマン光を観測することにより化学種の特定と濃度の推定を行う.この手法は,ごく一部の気体を除き,火山ガスを構成する主要な気体を全て感知することが原理的に可能である.実験は,532nm cw 0.6Wレーザー発振器,25cmニュートン式反射望遠鏡,CCDマルチチャンネル光ファイバー入力分光器を購入し,組み立てることにより実施した.実験では,レーザービームを夜空に向けて照射し,後方散乱する光を望遠鏡で集光し,分光器でそのスペクトルを観測した.分光器の仕様により露光時間は1分間に限られた.その結果,大気を構成するN_2ガスのラマン散乱光の検出に成功した.しかN_2以外の気体のラマン光強度は,ノイズ光強度以下であった.本研究の結果,実際の火山ガスに応用するために以下の改善が必要であるいえる.それは,レーザー出力の増強,分光器の感度向上,望遠鏡の集光力の増大である.結論として,最終的な目標への道のりは遠いものの,本手法の成功がもたらす革新的な観測能力の向上を考えれば,継続的に発展的な研究を続ける意義があると考えられる.