著者
國井 洋一 加藤 萌優美
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.182-191, 2009-12-15

本研究では回遊式庭園における園路景観の定量評価手法の開発を目的とし,江戸時代の代表的な大名庭園である小石川後楽園及び六義園を対象とし,園路の位置計測ならびに景観に対するフラクタル解析を行った。園路の位置計測では,両庭園に対する園路の平面位置および高さの変化を比較した。その結果,両庭園における高さ変化の標準偏差は小石川後楽園が±0.811m,六義園が±0.286mと小石川後楽園が特に園路の高さ変化に富んでいることが確認された。また,両庭園の園路長に対して同一の尺度にて比較を行った場合,両庭園の位置や高さの変化には類似性が見られた。さらに,フラクタル解析により両庭園における園路上の景観を評価した結果,園路の位置や高さと景観の変化とは関連性が高いことが確認され,位置計測およびフラクタル次元が日本庭園における景観に対する定量的評価の指標となる可能性を示唆した。
著者
近藤 勝彦 日詰 雅博 小西 達夫 川上 昭吾 船本 常男 岩科 司
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

近藤勝彦が代表のグループは、今まで27年間にわたって中華人民共和国中国科学院植物研究所系統与進化植物学国家重点実験室(北京市、香山)を中心とした洪徳元教授(中国科学アカデミー会員)グループをカウンターパートとして、日本と中国に共通して分布する植物種を分析して日本フロラの起源、種間関係ならびに絶滅危惧種の保全、異なった場所での塩基配列の変化、多様性、構成関連種の系統関係、動態、デモグラフィー、染色体核形態の変化などをさぐってきた。さらに2000年から、ロシア連邦を研究対象に加え、ユーラシア大陸ウラル山脈以東の構成植物に研究範囲を拡大し、ロシア科学アカデミー会員(A.A.Korobkov,P.V.Kulikov,M.S.Knyasev,A.Gontcharove,V.P.Verkholat,A.Shmakov),モスクワ国立大学(P.Zhmylev,M.V.Remizowa,D.D.Sokoloff)、モスクワ国立教育大学(N.I.Shorina,E.Kurchenko,I.V.Tatarenko,A.P.Zhmyleva,E.D.Tatarenko)、アルタイ国立大学(A.Shmakov,S.Smirnov,M.Kucev)、ブリヤート国立大学(D.G.Chimitov,S.A.Kholboeva,B.B.Namzalov)、オーレル国立大学(N.M.Derzhavina)、されにはモンゴルをも加え、ホフト国立大学(D.Oyunchimeg)の方々と、日本の植物相関連植物が分布する東アジアユーラシア大陸の東アジアフロラを研究してきた。東端に位置する日本列島島嶼域は全北植物界、北植物亜界の東アジア植物区系に属し、地史的に大陸と接合したり分離したりしてきた島環境が個体群遺伝子給源を保持しながら、時には遺伝子浮動を起こして繁栄してきたか、また、アルタイ山脈はロシア連邦シベリア地方の中央部を南北に縦断し、ヨーロッパ・フロラとアジア・フロラがぶつかり合って南北に境界線を作り上げ、混ざり合って自生しているが、これら2フロラがどのようにして共存しているのか、雑種性は頻繁に起きてきた可能性が大いにある。これら両端域に共通して自生する被子植物種で今迄に分類、系統、分布学的に問題を提起している分類群に注目して、発生生物学的データー集積と絶滅危惧性の扱いに注目しながら、近藤等(東京農業大学)の日本側グループとロシア側グループは、相互関連植物の分布、構造、パターンの成因を分子系統進化、分子細胞遺伝学的ならびに核形態学的研究による種分化に関する研究、および特異的種の絶滅危惧性を含めて今までに増して共同研究を進めた。しかし、まだ分析していない植物も多く、研究の継続を期待する。
著者
岡 孝夫 井野 靖子 高橋 幸水 野村 こう 花田 博文 天野 卓 寒川 清 秋篠宮 文仁
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.363-367, 2009-03-16

龍神地鶏は和歌山県の旧龍神村(現在の田辺市)で少数が維持されている集団であり,同地で古くから飼養されているものである。1994年には村内で30数羽が飼養されていたが,近年では個体数が減少し,遺伝的多様性の減少が懸念されている。そこで本研究では1994年および2007年に採血された龍神地鶏(1994年12羽,2007年2集団各18羽,7羽)について,ISAG/FAO推奨の30座位のマイクロサテライトマーカーを用いて遺伝的多様性の経時的な比較と他の日本鶏品種との遺伝的類縁関係を明らかにすることを目的とした。龍神地鶏3集団において30座位中12座位で多型が認められず,5座位で対立遺伝子の消失が認められた。さらに6座位においては遺伝子頻度0.5以上の主要な対立遺伝子が変化していた。その他の座位の対立遺伝子数は2から3の範囲であった。龍神地鶏各集団の平均対立遺伝子数およびヘテロ接合体率は既報の他の日本鶏品種よりも低い値を示した。次に,日本鶏品種内における龍神地鶏の遺伝的な位置を明確にするため,他品種の解析データを加えてD^A遺伝距離にもとづく近隣結合系統樹を作成した。その結果,龍神地鶏は比較に用いたどの品種ともクラスターを形成せず,高いブートストラップ値で他の品種から分かれる結果となった。以上の結果より,龍神地鶏は地域に固有の品種である一方,小集団で長く維持されてきたため近交がすすみ,遺伝的多様性が低くなった集団であると考えられた。今後この品種を維持するためには,現在残されている2つの集団のみならず,県の試験場等を含めて十分な集団サイズを確保し,集団間の系統的維持が必要であると考えられた。
著者
三原 真智人 AQIL Muhammad MUHAMMAD Aqil
出版者
東京農業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

GISやリモートセンシング技術を活用して、ベンガワンソロ流域における土壌侵食の原因の解明と土壌劣化の評価に取り組んだ。これまでの研究の結果、流域全面積の約36%から年間60t/haを超える深刻な土壌侵食を生じていると評価でき、特に急傾斜地での農地開発は土壌劣化を加速させることが明らかとなった。土壌劣化や土地生産性の低下を削減することを目的に、保全地域を特定するとともに、土壌・水保全対策の実施に向けて土地保全マップを作成した。この保全マップは行政機関のみならず、学校においても土壌・水保全に関する教育プログラムとして使用できる仕様とした。更に、土壌損失の低減を目指した作物残渣マルチング(土壌被覆)法の保全能を評価するために、人工降雨装置を活用してモデル実験を行った。実験の結果、マルチングを施さない試験枠からの土壌流亡量と比較して、30~40%の土壌被覆によって土壌流亡量を38%から53%程度を削減できることが明らかとなった。このマルチング法による保全対策は、現地で容易に手に入る作物残渣を活用して適用できるものであり、ベンガワンソロ流域の現地農家からも受け入れられる技術であると期待が寄せられている。土壌劣化や土地生産性の低下の削減を目的に作成された土地保全マップに基づいて、作物残渣マルチング(土壌被覆)法などの適切な保全技術を普及することで、ベンガワンソロ流域における土壌・水保全に大きく貢献するものと評価できる。併せて本研究では、リアルタイムで河川水のモニタリングに向けた情報システムの開発にも取り組んだ。このプログラムによって約94%の予測精度で24時間後までの水位予測を可能にすることに成功している。IJERD国際誌(International Journal of Environmental and Rural Development)に掲載されたこれらの研究成果に対して、優秀論文賞が「環境に配慮した持続可能な農村開発に関する国際会議」で授与されている。
著者
門間 敏幸 梅本 雅 関野 幸二 磯島 昭代 後藤 一寿 安江 紘幸 吉永 貴大
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

農家が主体となって開発された農業技術を,技術特性・経営効果・普及可能性の3つの視点から総合的に評価した。具体的な成果は,次の通りである。1)篤農技術のデータベースの開発2)篤農技術の調査方法の開発3)農業技術の暗黙知の探索方法の開発4)経営管理能力,水稲代かき技術,大豆収穫技術,りんご剪定技術,知的財産管理技術,篤農技術の普及方法,新品種の普及ノウハウの整理。
著者
小泉 直介 進士 五十八
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.23-32, 2007-06-20

本研究の目的は,我が国造園建設業が継承し,また継承すべき伝統的作庭技術,工法などの造園的本質と特質を明らかにしようとするものである。(1) 飛鳥時代にはじまる作庭をみると,身近に庭をつくるために在所の地勢を活かし,資材に"自然材料・地場材料"を使い,そして作る方法は"自然に順応した工法"をとった。この規範は,近世に至るまで,造られたかたちは変わっても,つくる過程の態様として大きな変化はなかった。(2) 職能分担などの業務形態の発展は,建築土木に比べて仕事の量は劣ったにも拘らず,社会経済の変化につれてこれ等と同様な軌跡を辿った。江戸時代には,植木,石などの資材の販売業が萌芽した。しかし,造園職能のうち現場で直接土に触れる職人の存在は,社会的に認知されることが希薄であった。(3) 作庭の出来を左右する作業者の心象は,素朴にして巧まざる自然の美しさを映そうとする行為を生むものであった。これらのことから現代の造園建設が,伝統として継承すべき根幹的な事項を明らかにした。
著者
祐森 誠司 桑山 岳人 池田 周平 吉田 豊 佐藤 光夫 半澤 恵 門司 恭典 渡邊 忠男 近江 弘明 栗原 良雄 百目鬼 郁男 渡邉 誠喜 Luis MAEZONO Enrique FLORES 伊藤 澄麿
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.49-53, 2002-06-20

本研究は,日本国内におけるラマ属の被毛生産の可能性を検討するうえで基礎的な知見と考えられるラマ属家畜の被毛形態について検討した。ラマの被毛は,日本とペルー国で飼育される動物から採取した。アルパカの被毛は日本で飼育される動物から採取した。グアナコとビクーナの被毛はラ・モリナ農業大学の共同研究者から提供されたものを用いた。メンヨウ(サフォーク種)の被毛は,我々の研究室で飼育されている個体から採取した。伸張率,クリンプ数,太さ,キューティクルの面積と形について肉眼あるいは電子顕微鏡による観察を通じて測定された。ラマ属の被毛の伸張率(1.3-2.1)はメンヨウのもの(3.2)よりも低い値を示したが,逆にラマ属の被毛のクリンプ数(5.4-8.9)はメンヨウのそれ(2.4)よりも多かった。このことは,ラマ属の被毛の柔軟性がメンヨウよりも劣っていることを示唆している。太さに関する結果は,ラマの粗毛が他の動物の普通の毛の2〜3倍太いことを示した。また,ビクーナの被毛の太さは他の動物の普通の毛の1/2倍であった。電子顕微鏡での観察結果から,キューティクルの形は2種類に分類され,1つはラマ,アルパカ,グアナコ,メンヨウのように幅の広いタイプであり,もう1つはビクーナのような長さの長いタイプであった。ビクーナの被毛はキューティクルの面積(47.4-70.0μm^2)が最も小さく,他の日本国内飼育動物のそれはそれぞれ近似した値を示した。
著者
黒瀧 秀久 北原 克宣 加瀬 良明 吉田 義明 范 為仁 菅原 優 北原 克宣 加瀬 良明 吉田 義明 范 為仁 菅原 優 應和 邦昭 姉歯 暁 堀口 健治
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

北東アジアにおける共通食料自給率政策の構築の課題を明らかにするため、北東アジアの農業構造、農業政策、農産物貿易構造、農産物の消費動向を分析した。その結果、共通食料自給率政策構築のためには、農業に対する価値観を共有し、共通政策を構築していくことが重要であることが明らかとなった。
著者
越智 匠作 太田 猛彦 田中 延亮 堀田 紀文
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.75-80, 2008-06-15

幼齢林における樹冠遮断量の測定上の問題点を解決できるような大型雨量計のデザインを提示し,実際に作製した大型雨量計を用いてその実用性を検討した。雨量計の重要な要素である受水面積は,我が国の一般的な幼齢林の植栽密度,植物への影響,メンテナンス性,既往の大型雨量計を用いた樹冠遮断研究における受水面積の決定基準などを参考にして,約5m^2が適当であると決めた。大型雨量計の実用性は,次の各実験により確認した。まず,降雨強度の大きい降雨イベントにおいても雨量計からの排水水量を正確に測定できるようするために,本研究で用いた500mLの転倒マス型量水計を対象に大流量を含めた流量検定を行い,流量と1転倒に要する水量との関係を求めた。次に,大型雨量計の初期損失量を求めたところ0.2mm以下であり,大型雨量計の排水性は良好であった。さらに,大型雨量計の受水面積を厳密に求めるために,自然降雨を対象にした大型雨量計と貯留型雨量計の比較観測を行った。転倒マス型量水計の検定結果を考慮して補正した大型雨量計からの排水水量と,貯留型雨量計が示した雨量の関係は,良好な直線関係を示しており,その直線の傾きから大型雨量計の厳密な受水面積を決めた。また,その直線関係は,通常の降雨イベントだけでなく強度の大きい降雨イベントにおいても成り立っていたため,本研究で提示した大型雨量計は降雨強度の大きいイベントにも耐えうる実用性の高い雨量計であることがわかった。
著者
鎮野 宏幸 渡邉 章乃 山田 周平 本橋 慶一 矢口 行雄
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.233-237, 2008-12-10

2004年6月,東京都世田谷区の街路樹に植栽されていたハナミズキ(Cornus florida L.)の葉に,淡褐色,不整形の病斑を生じ,その上に炭疽病菌と思われる分生子粘塊が観察される病害が発生した。病斑は,はじめ葉の周縁部および中央部が褐色となり,それぞれ不定形に拡大,融合し,その後,葉の全体が褐変後,早期に落葉した。病斑部の分生子層には,無色,単胞,紡錘形で,大きさ11〜14×3.1〜4.2μm(平均13.4×3.8μm)の分生子が形成されていた。分生子は発芽時に褐色,厚膜,棍棒状,大きさ7.7〜11.5×5.1〜7.7μm(平均8.8×5.6μm)の付着器を形成した。また,分離菌を健全なハナミズキに接種した結果,自然発生と同様な病徴が再現された。これらの結果から,本病はColletotrichum acutatum Simmonds ex Simmondsによって引き起こされる病害であることが確認された。本菌によるハナミズキの病害はわが国では未報告であることから,本病をハナミズキ炭疽病と呼称することを提案した。
著者
樫村 修生 川野 因 田中 越郎 前田 直樹 関口 健
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.119-124, 2004-12

本研究では,箱根駅伝出場をめざす大学陸上競技長距離選手において,短期的な高所トレーニング合宿時の栄養調査およびHb濃度測定を実施した。ヘモグロビン濃度は8名が低下傾向を示す,いわゆる貧血症状であった。貧血傾向にある選手にヘム鉄剤を服用し,貧血の改善が可能かどうか検討した。その結果,鉄剤服用選手は,合宿直後および2週間後においてヘモグロビン濃度が改善された。また,合宿前のHb濃度は,1年生が4年生の濃度より有意に低かった。また,本合宿時における1日の鉄分摂取量は平均10.5mgであり,不足気味であった。我々は,貧血検査,鉄剤服用および栄養改善などの貧血予防対策により箱根駅伝出場を果たすことができたと推察する。