著者
和久井 健司 北村 真理 松田 蘭 小松 憲治 藤垣 順三
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.293-299, 2013-03 (Released:2013-12-26)

RAPD法により,日本圏内に自生のHemerocallis属内における種,変種および個体間の遺伝的変異を評価し,類縁関係を推定した。20種のランダムプライマーを用いたPCRで,248のバンドが検出され,そのうちの240(96.7%)のバンドで多型がみられた。多型データに基づくAMOVAの結果,遺伝的変異は種間に比べて変種間で小さく,同データによる主座標分析および平均距離法によるクラスター解析により,各変種について既知の分類を反映した配置が得られた。さらに,これらの分析によって,H.dumortieri var. esculenta内における低地タイプの個体群が遺伝的に区別可能であると共に,H.aurantiaca(ハマカンゾウ)およびH.fulva(ノカンゾウ,ヤブカンゾウ)の両種が遺伝的に近縁であることが示唆された。本研究は,DNAマーカーを用いて日本在来のHemerocallis属内における遺伝変異および類縁関係を示した最初の報告である。
著者
林 海平 楊 舒淇 山田 宏 粟野 隆 Hai-ping Lin Suchi Yang Hiroshi Yamada Takashi Awano
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 = Journal of agriculture science, Tokyo University of Agriculture (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.47-56, 2020-09

本論文では,日本統治時代における台湾の日本人住宅・宿舎の庭園の保存・修復の今後に資することを目的に,残存事例が台湾でも数多い台北の日本人住宅・宿舎の庭園について調査した。その結果,以下のことを明らかにした。庭園規模は,建物面積の2~7倍が理想とされ,現地調査では多くの庭園が2倍程度であり,平均では2.2倍であったこと。庭園配置は,台北市内の風向きと住宅への通風が考慮された結果,南北方向,あるいは南西・北東方向に前庭・主庭を配置する傾向があったこと。庭園構成は,芝生が太陽の輻射熱を緩和し,植栽は建物の壁体への直射日光を緩和する役割を担い,ベランダ,テラス,パーゴラが防暑のための特徴的な施設であったこと。外囲いは住宅敷地内の通風を考慮して生垣が推奨されたこと。床下通風の観点から床は高床に設定され,沓脱には自然石ではなく人造石が多用されたこと。
著者
福田 有希子 廣岡 裕吏 小野 剛 小林 享夫 夏秋 啓子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.130-138, 2008-09-16
被引用文献数
1

2005年5月,東京都小笠原村父島で施設栽培されていたカカオの果実に,初め茶褐色〜暗褐色の不整病斑を生じ,のちに拡大して腐敗症状を呈する病害が観察された。その罹病部からはLasiodiplodia属菌が高率に分離され,分離菌を用いた接種試験により原病徴が再現され接種菌が再分離された。分離菌は,暗褐色から黒色の分生子殻内に,隔壁の無い側糸と,後に完熟すると2胞,暗褐色で縦縞模様をもつ分生子を形成することから,Lasiodiplodia theobromae (Pat.) Griffon & Maubl.と同定した。さらにrDNA内のITS領域を用いた分子系統解析の結果からも同定を裏付ける結果を得た。小笠原で商業的に栽培されているパッションフルーツ,パパイア,バナナ,マンゴーを用いた宿主範囲の検討では,パパイア,バナナ,マンゴーにおいて病原性が確認された。これまでカカオにおける本病害は日本において報告がないため,Lasiodiplodia果実腐敗病(英名 : Lasiodiplodia pod rot)と命名したい。
著者
若松 美智子 Michiko Wakamatsu 東京農業大学生物産業学部教養分野所属英米(アイルランド)文学 Field of Humanities Faculty of Bio-Industry Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.35-40,

『海に駆け行く者』(1902)はシングが最初に手がけた「農民劇」であり,アラン島体験の直接の成果であると同時に,アラン島を舞台とした彼の唯一の劇である。彼は劇の言語として島民の方言を用い,又彼の心を掴んだ島民のいきいきとした言い回しをせりふに取り入れている。さらに彼はプロットの中心に妖精信仰を組み入れている。劇は人物描写,舞台セット,演劇言語等,現実を再現するリアリズムの手法で進行して行く。しかし劇の筋書き,プロットは馬に乗った妖精達が人間を海の下の妖精の国に連れて行くという民衆の想像的世界に依拠している。自然と超自然が絡み合い,人と妖精が作用しあう民衆の物語的想像力の世界に惹き付けられたシングはまた,島の葬儀の独特の儀式に人間的悲惨を超克するための理想的表現形式への洞察を得た。彼は巧みに劇的山場を組み立てることによって,女主人公が,すべての息子を飲み込んでしまった海との生涯にわたっての闘いの人生を語ることによって,徐々に精神の平安を得てゆく様を描く。『海に駆け行く者』は自然と人間の根源的関係,自然の中の死すべき人間の原型的闘いを描いている。女主人公は海に囲まれた小さな島に生きる貧しい老女である。しかし彼女は悲劇的体験を生き抜くことによって女司祭の風格をもつ。すべてを失い,もう失う物が何もなくなった時,彼女は自我としての存在から解放され,偉大な敵であった海そのものの一部となり,彼女の魂は海と融合する。シングは普通の女性の苦しみを通して,悲劇的美の世界を創り上げた。そのことによって彼は,自然の中のすべての生き物が威厳をもつこと,そしてそれは愛の喜びと死の悲しみの激しい感情を生き抜くことから由来するということを示唆したのである。Riders to the Sea (1902), Synge's first peasant drama, proceeds in the manner of realism, yet its story and plot are based on the folk imagination that fairy riders come to take humans to their country under the sea. Riders to the Sea deals with the fundamental relations of man and nature, an archetypical struggle of the mortal living in nature. The heroine is a poor old woman who lost all of her six sons devoured by the sea, but through her life-long tragic experiences she attains the stature of priestess. When she finds herself with nothing to lose any more, she frees herself from being as the ego to become a part of the sea herself ; her mind unites with her great opponent, the sea, finally. SYNGE created a world of tragic beauty through ordinary woman's suffering, and in so doing he suggested that every life in nature has moments of dignity that stem from intense feelings of love and death.
著者
Kotenko P. 宮浦 理恵
出版者
東京農業大学
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.11-19, 2019 (Released:2019-11-14)

ウクライナは1000年以上にもわたる養蜂の歴史があるが,その発展過程でさまざまな課題があった。独立後のウクライナの経済危機下で,各家庭の養蜂生産は重要な収入源として拡大し,2015年には全蜂蜜生産のうち98.9%が家族養蜂場で収穫された。全家庭の4.1%が養蜂を行っていることになる。養蜂とミツバチ製品の加工は伝統的であり,地域の食農文化に基づいて多様に分化している。国内25地域から11変数を用いて,主成分分析とクラスター分析を行い,生産環境と養蜂条件の地域特性を明らかにした。主として西部のクラスター1,中部のクラスター2,および南東部のクラスター3の3つが定義された。クラスター1は,森林や野生植生が多く,農用地面積と家族養蜂場は少ないが,企業養蜂場の蜂蜜の価格は高い。クラスター2は森林ステップ地帯で農業生産が盛んである。企業養蜂場の蜂蜜生産量は最大であるが,価格は低い。クラスター3は農業および工業の発達した地帯で,蜜源作物の面積が大きいため,蜂蜜の生産性は最も高い。地域によってそれぞれリスク管理,生物文化多様性の維持,食農文化の維持,生態系サービスの強化などによる養蜂環境改善のためのアプローチが必要であることが示された。ミツバチ製品の消費者行動調査では,ハチミツだけでなく,さまざまな種類の製品を消費していることがわかった。回答者の85%が家族や友人からの製品を入手することができ,多くは企業養蜂場より家族養蜂場の製品を好んでいることが明らかとなった。消費者は,養蜂家から得られる蜂蜜の生産地域,蜂蜜の種類に関する直接的な情報を信じており,蜂蜜品質の認証を重視していなかった。
著者
町田 怜子 石川 一憲 川口 洋一 小嶋 隆治 保戸塚 里香 中森 千佳 福田 奈緒子 Reiko Machida Kazunori Ishikawa Yoichi Kawaguchi Ryuji Kojima Rika Hotozuka Chika Nakamori Naoko Fukuda
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 = Journal of agriculture science, Tokyo University of Agriculture (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.42-48, 2018-06

本研究では,東京農業大学農学分野の教員・技術員と幼稚園教諭とが連携し,野菜や果樹栽培の教育研究を活かした環境教育プログラムを試みた。本研究では,プログラムのねらいに応じて伊勢原農場内で教育素材を選定し,環境教育プログラムを実施した。環境教育プログラムでは,ステビア,レモングラス,コキアを五感で体験し植物の用途や効用を学ぶ環境教育プログラムを実施した。加えて,幼児が日常生活で親しんでいる野菜・果樹としてブドウ,ブルーベリー,ミニトマトの栽培技術や品種の違いを学ぶ環境教育プログラムを実施した。本プログラムの教育効果として,伊勢原農場の多様な果樹・野菜とその栽培技術は幼児たちに身近な野菜や果樹への発見,楽しさ,感動を与え,観察した物事を記録できる観察力や理解力の向上を確認できた。
著者
大石 祐一 奥本 貴裕
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

Ultraviolet B(UVB)照射がアミノ酸代謝に及ぼす影響を検討した。UVB照射により、皮膚中システイン量、グルタミン酸量、グルタチオン量が増加し、タウリン量が減少した。UVB照射により増加した活性酸素除去のため皮膚中にグルタチオンが蓄積したことが推察された。また、システインからタウリンへの合成が抑制され、システインが蓄積したと考えられ、その結果、タウリンが減少し皮膚機能悪化を引き起こす一つの要因になったことが示唆された。UVB照射により肝臓中グルタミン量が増加し、3つの分岐鎖アミノ酸量が減少した。このことからUVB照射は肝臓のアミノ酸代謝にも影響を及ぼす可能性が示唆された。
著者
大久保 倫子
出版者
東京農業大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

北海道ではエゾシカに対する農林業被害対策の1つとして、色や光を用いた鳥獣忌避装置が使用されている。しかし、色彩が動物にどのような影響を与えているかは解明されていない。解剖学的、および電気生理学的研究によれば、シカの網膜にはS錐体とM錐体の2種類の錐体細胞があり、シカは2色覚であることが示唆されている。そこで本研究では、シカの色覚特性を解明することを目的とし、行動学的アプローチに基づき、エゾシカが識別できる色の組み合わせを調査することとした。さらに得られた結果からエゾシカにおける混同色線を作製し、エゾシカが認識できる色が、シカに対して認識性や忌避性があるのかを検証する。
著者
田所 理紗 増田 宏司 土田 あさみ 大石 孝雄 Lisa TADOKORO MASUDA Koji TSUCHIDA Asami OISHI Takao
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.220-226, 2011-12

トリマーおよびトリミング専門学校学生に対してイヌの行動特性評価に関するアンケート調査を行った。集計の結果,扱いやすいイヌの身体的特徴としては,小型のイヌであることが,扱いにくいイヌの特徴としては,被毛の長さ,イヌのサイズ,性別などの身体的特徴は関係しないことが判明した。また,トリマーの経験年数が3年以上の回答者について,得られた回答を数量化III類解析にて処理した結果,扱いやすいイヌの行動特性に関する質問に関して有効な軸が2軸得られ,回答者の捉える扱いやすいイヌの行動特性には男女差があることが判明した。すなわち,男性トリマーは活発・好奇心旺盛なイヌを,女性トリマーはおとなしい・臆病なイヌを扱いやすさの指標として捉える傾向にあることが明らかとなった。
著者
増田 宏司 田所 理紗 Koji Masuda Tadokoro Lisa
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.214-219,

東京農業大学農学部バイオセラピー学科2年次前期開講科目である生物統計学において,学生の考え方の傾向を知ると同時に講義の質向上の一助となることを目的として2010年,2011年および2012年の初回講義時に自己評価に関するアンケートを実施した。自己を5段階で評価する設問において,「文章表現力」,「理論的な考え方」,「話し方の能力」,「行動力」,「社交性」,「危険なもの・ことを回避する能力」に関しては大学入学当初に比べアンケート実施時の値が有意に上昇したが,Temperament and Character Inventory(TCI)モデルを参考にした遺伝的傾向が強いとされる気質成分である Novelty seeking(行動促進)を「好奇心旺盛」と表現した質問に関して,有意な差は見られなかった。2年目の調査を実施した2011年4月は東日本大震災の1か月後であり,直近1か月を漢字1文字で表現した自由記述の設問に関して,回答には少なからず震災の経験が影響していることがうかがえた。また,生活に関する質問において,主成分分析により得られた第3主成分得点には年度による差が認められ,年度を追うごとに回答者が力を入れている活動項目の中心が学業やサークルといった学内で行われることに変化していることが判明した。Questionnaire surveys for self-evaluation were conducted every April in the years 2010, 2011 and 2012 with college students majoring in the faculty of agriculture during the first class of the course `Biostatistics' which is provided every spring semester for sophomores. The purpose of this study is to understand the students' thinking process in evaluating themselves and to find better ways to improve the quality of the course. On a 5-point scale self-evaluation, the average scores for the ability of `writing', `conversation', `vitality', `cooperativeness', `harm avoidance' (all terms translated into Japanese) were significantly higher at the point of survey than the time of the students' enrollment in the university. The score for `curious' referring to `novelty seeking', which is influenced by heritage, according to Temperament and Character Inventory (TCI), demonstrated no difference. The second survey, in 2011, was conducted about a month after the Great East Japan Earthquake. Compared with 2010 and 2012 some answers, obtained from the question of `Phrase the entire recent month with a single KANJI', were influenced by the experience of the quake. Furthermore, based on principle component analysis, there was significant correlation between the year in which each survey was conducted and important matters in the students' daily activities: shifting from an extramural to an on-campus focus year by year.
著者
立岩 寿一 Toshikazu Tateiwa
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 = Journal of agriculture science, Tokyo University of Agriculture (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-8, 2020-06

カリフォルニアの商業的稲作には多くの移民日本人達が最初から深く関わっていた。日本人差別と排斥が強まる中で移民日本人たちが現地社会とどのような関係をつくり地域に根付いていったのかは,アメリカ農業史と日本人移民史をクロスさせた研究となる。しかし差別と排斥ゆえに資料的制約が大きい。本稿はこの制約を乗り越えるため,「動産抵当証書」,「入国カード」,現地雑誌・ジャーナル,「日米年鑑」等の意義と分析方法を考察し,英語表記と日本語表記(漢字)の対照,移民日本人の特定方法を明らかにした。それにより20世紀初頭日本人移民の農村での定着過程が明らかになる。
著者
寺本 明子 Akiko TERAMOTO
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.163-171, 2010-09

ヴィクトリア時代の上層中流階級の子どもとして育ったビアトリクス・ポターは,家庭教師がその教育を受け持ち,学校に行かなかった為,同年代の友達もいない生活であった。その様な寂しい暮らしの中で,絵を描き,小動物と触れ合い,ロンドン郊外の祖父母の家や,家族で行く避暑地の自然に心惹かれ,後に動物が主人公のファンタジーを生み出すこととなる。独立心旺盛なピーター・ラビット等,数々の動物を童話の主人公として描き出した。ピーターには,制限された実生活で彼女が成し得なかったことを託したものと思われる。ポターの絵は,博物学者の正確な観察力を見せ,動物達があたかも人間模様を描くかの様な文章と補い合って,珠玉の名品を生み出した。1890年にポターは,ウサギを描いた自分の絵を出版社に売ることに成功し,自信を得て,童話を出版することを思い付いた。その後,次々成功する出版の利益は,彼女が愛した湖水地方の土地を買うことに充てられ,ナショナル・トラスト運動の創始者の一人,ハードウィック・ローンズリーの影響もあり,自然保護運動の協力者として大いに貢献した。47歳で結婚してからは,作家活動から遠のき,羊を育てながら,農民として暮らした。動物や周囲の自然を描く作家としての生涯を経て,彼女は,農民として,自然保護者として生きる理想を実現した。
著者
君島 利治 Toshiharu Kimijima
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.13-20,

ラーキンの「広く感じのいい店」は,1961年6月18日に完成し,詩集『降臨節の婚礼』に収められる。5行1連の4連構成,僅か20行の短詩であり,詩人の住んでいたハルにある百貨店が舞台となっている。先ず,その店で売られている安物衣類を観察しながら,詩人は労働者階級の社会における立場の向上によって引き起こされた,階級間のボーダレス化を嘆いている。次に女性物の夜着を詳細に観察しながら,詩人は量産化される労働者階級の生活様式,その本質の軽薄さを批判する。その後の瞑想では,プラトニックな恋愛を擁護すると共に,肉体的な愛のみを重視する女性達を非難している。同時に階級間のボーダレス化は女性によって引き起こされたとも指摘し,女性の家庭,社会での立場が強くなったことに警告を発している。更にはこの詩の中には詩人の性的関心,自慰的衝動も確かに存在している。最終部分に出てくる「恍惚」とは,セックスにおける恍惚状態,階級が上がったと錯覚すること,自慰における射精と多義的に解釈できる。しかし,いずれの場合も「合成的で,真新しく,本質が欠如している」。店で売られている商品を見て回るというありふれた内容の詩ではあるが,そこに隠された詩人の意図は複雑である。少なくとも,プラトニックな恋愛を擁護する詩人の建前の奥には,薄手で派手な色のベビードールやショーティをじっくりと観察し,場合によっては勃起すらしているかもしれない詩人の姿を読み取らねばいけない。Larkin's The Large Cool Store' was finished on June 18, 1961, and then included in The Whitsun Weddings (1964). It is just a 20-line poem which consists of 4 stanzas, each 5 lines, and its scene is set at a department store in Hull, the city in the middle-east England where the poet lived until his death. First, the poet observes "cheap clothes" sold at the store, and he deplores the borderlessness among the classes which was caused by the rise of the social status of the working class. Next, the poet observes "Baby-Dolls and Shorties" in detail, and he criticizes the mass-produced life style of the working class and its frivolity. And then, in his meditation, the poet supports Platonic love and criticizes women who only prefer sensual love. At the same time, the poet thinks the borderlessness among classes is also caused by women, and cautions against the rise in domestic and social status. Further more, it is clear that the poet expresses sexual interest and masturbatory impulse in the poem. The word "ecstasies" in the last line can be interpreted in various ways:a sexual ecstasy in their literal sense, an illusion of the working class people that they must be in a class higher than what they are, and an ejaculation after masturbation. However, whichever interpretation you take, it is just "synthetic, new, and natureless". Although this poem has the ordinary context that the poet looks around a department store, it also has the hidden complex intention of the poet. At least, we readers should conceive that, though the poet supports Platonic love, it is just his principle, so in fact, he must have an erection when he stares at the thin, gaudy-coloured "Baby-Dolls and Shorties".
著者
内山 秀彦 木下 愛梨 渕上 真帆 嶺井 毅 川嶋 舟
出版者
東京農業大学
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.192-199, 2014 (Released:2015-03-30)

本研究は,動物との相互関係における人の視覚認知に着目し,視線計測装置を用いて馬を観察した際の人の視線追従(注視部位,注視回数,注視時間)ならびに瞳孔径の変化を定量化した。さらに観察者の性格特性や馬に対する印象と視線との関連性を考察することを目的とした。得られたデータから,人の性格傾向において,外向性が高いほど肢・尻の部位に対し,また神経症傾向が高いほど,首・肩・胸の部位に対する注視回数や注視時間が低かった。特に神経症傾向が高い場合,馬の顔に視線が集まるといった,観察者の性格特性と注視部位に関連が認められた。また馬に対する恐怖感は,馬の外貌の中でも脚部から影響を受けると考えられた。さらに乗馬経験および動物の飼育経験と馬の顔への注視回数・時間に有意な正の相関が認められた。これらの結果から,人が動物との関係をもつ場合,アイコンタクトをはじめとした人同士のコミュニケーション方法を動物に対しても同様に適用していると考えられた。これらの視線解析を中心とした本研究の結果は,馬との相互関係から得られる精神的効果,また現在まで多く報告されている自閉症をはじめとしたコミュニケーションに関する障碍に対する動物介在療法・活動・教育の実施内容を支持するものである。
著者
小山 七海 荒井 歩 Nanami Oyama Ayumi Arai
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 = Journal of agriculture science, Tokyo University of Agriculture (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.65-75, 2020-12

神奈川県大磯は,その温暖な気候により近代に別荘地として注目された。1885(明治18)年に陸軍軍医である松本順によって海水浴場が開設されたことで別荘地としての発展が始まる。1887(明治20)年には国鉄東海道本線の大磯駅が開業し,1896(明治29)年に初代総理大臣伊藤博文が大磯に住んだことで多くの著名人が大磯に別荘地を設置した。本研究は,別荘居住者の職業属性と別荘地の所在地を調査した上で,別荘居住者間の関係性を明らかにした。加えて別荘居住者の大磯における行動状況も整理した。さらに,職業属性および入居年代毎に別荘地の立地場所の傾向を分析し,大磯の景観的特性との関係について考察を行った。調査の結果,別荘地では政治家を中心としたコミュニティが形成され,伊藤博文,陸奥宗光,西園寺公望,加藤高明,山県有朋の5名が別荘地形成のキーパーソンとして挙げられた。また別荘居住者は大磯において政治的交流や病気療養を行っていたほか,地域のために寄付行動を行っていた。別荘地の範囲を地形特性に基づき8つの領域に区分し,各領域内における別荘地の分布状況を調べた結果,居住年代毎に別荘地の立地傾向に特徴があることが明らかとなった。
著者
武田 晃治 和田 薫 砺波 雄介 佐藤 純一 村上 敏文 新村 洋一
出版者
東京農業大学
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.76-83, 2016 (Released:2016-12-15)

本研究は,植物色素が光合成のみならず酸素毒性から細胞や種を守る抗酸化物質としても働いてきたことを,進化的側面から植物色素の存在意義について再考察させるための実験開発と教材開発を行った。実験開発では,過酸化水素と2価鉄から生じる最も酸化力の高いヒドロキシルラジカルによるDNA分解が,植物色素であるアントシアニンにより防ぐことができることを可視化するための最適実験条件を明らかにした。また,高校生を対象とした授業実践から,本実験教材を用いた授業の教育効果を検証し,高等学校生物への発展的導入について考察を行った。授業実践の事前・事後アンケートの比較の結果,本教材のアントシアニンによる抗酸化能を可視化した実験により,植物色素の抗酸化能について理解しやすい教材であることが明らかとなった。また,授業解説と実験を行うことで,植物色素の抗酸化能が,紫外線や光合成から生じる活性酸素の毒性に対する防御機構として,植物の細胞機能の維持に重要な働きをしていることを,進化的側面から理解させることのできる効果的な教材であることも明らかとなった。よって本研究は,光合成以外の働きとして重要な植物色素の抗酸化能に着目した新たな実験としてだけでなく,光合成とバイオテクノロジーで学ぶ知識と実験技術を融合したバイオテクノロジーの発展的教材として,生徒に生命進化の観点から植物色素を多面的に理解させるための探究活動として,高校生物への今後の導入が期待された。
著者
大谷 忠 八谷 絢 Luvsansharav B.
出版者
東京農業大学
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.90-97, 2004 (Released:2011-03-05)

本調査は、1998年から2000年にわたる3年間において、ウランバートル郊外とこれより約400km先の北部、東部などの地域における草地の生育状態と家畜の飼育状況について調査し、近年のモンゴル遊牧民の放牧方法と家畜生産を探った。その結果、社会主義体制時代までの遊牧民は放牧家畜の扱い方において、経験的調節と優れた視力などによる伝統的放牧方法で継承し、安定した家畜生産を行っていたと思われるが、市場経済体制の転換により、自由な放牧利用の過放牧が草原の牧養力を低下させ、冬季6-7ヵ月間で飼育家畜の体重が激減し、さらに旱魃、雪害が加わるとこれまでにない多くの家畜を斃死させていることが判明した。したがって今後は小麦の麦稈サイレージの調製、備蓄草地の適正利用方法とこれらの運搬に伴う道路整備、通信方法などのインフラの開発を行い、モンゴル全地域における冬季の飼料確保を検討する必要があると思われた。
著者
水庭 千鶴子 荒井 歩 國井 洋一 栗田 和弥 鈴木 貢次郎 MIZUNIWA Chizuko Ayumi ARAI Yoichi KUNII Kazuya KURITA Kojiro SUZUKI
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.171-182, 2011-09

造園学において,「自然とのふれあい」や「ものづくり」は,造園の計画および設計,実際の施工等を学ぶための動機付けとして極めて重要な体験である。近年,生活環境の都市化に伴い,自然とのふれあいやものづくりの体験ができる機会は減少する一方である。このような現状の中,造園学を学ぶ学生の自然とのふれあいやものづくり体験の実態はいかなる状況であるのかを把握するために造園学を学ぶ大学生625人に対するアンケート調査を行った。その結果,自然とのふれあいに関しては,幼少期から学童期まで日常的に体験するような川魚,海洋生物等の採取,カブト虫等の昆虫採取,昆虫や植物の標本づくりは男子で5~6割,女子で7~8割はほとんど体験がなかった。ものづくり体験のうちの,ものづくり体験は,「2~3回程度の体験」を「体験無し」に含まれるとすると, 2割~5割の学生はものづくり体験がほとんどないことが明らかとなった。ケガの体験については,自然とのふれあいやものづくりの体験をほとんどしていないこともあり,カマで手を切ったり,重い石を落としたこと,脚立から落ちたり,木登りをしていて落ちたりしたことはほとんど体験がなかった。以上より,「自然とのふれあい」や「ものづくり」の体験の機会は,終戦後,空間の消失と共に減少してきたといわれていることが確認できた。これらの結果を踏まえ,造園科学科として2010年産より大学教育のカリキュラムへ動機付けの基礎となる「造園体験実習」の教科を新たに組み込む必要性が生じた。