著者
熊谷 浩一 田中 尚人 佐藤 英一 岡田 早苗 Kumagai Koichi Naoto Tanaka Eiichi Satoh Sanae Okada 東京農業大学大学院農学研究科農芸化学専攻 東京農業大学応用生物科学部菌株保存室 東京農業大学応用生物科学部生物応用化学科 東京農業大学応用生物科学部生物応用化学科 Department of Agricultural Chemistry Tokyo University of Agriculture NRIC Tokyo University of Agriculture Department of Applied Biology and Chemistry Tokyo University of Agriculture Department of Applied Biology and Chemistry Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.274-282,

長崎県対馬市は南北に長い島であり,対馬のそれぞれの農家ではサツマイモを原料とした固有の伝統保存食品である『せんだんご』を小規模に製造している。 せんだんごは,水で戻し,捏ねた生地を麺状に加工して茹であげ『ろくべえ麺』として食される。 ろくべえは,原料であるサツマイモ単体では生じ得ない食感を有していることから,せんだんごの製造工程に着目した。 せんだんごの製造には,"芋を腐らせる(発酵させる)"工程,それを丸めて数ヶ月に及ぶ軒下での"寒晒し"の工程があることから,島内各地域の「せんだんご製造農家」を訪問し,製造方法の調査を行った。 その結果,これら両工程にはカビなどの微生物が繁殖しており,黒色カビが繁殖した場合は味が悪くなるという理由からその部位が破棄され,白色や青色カビが繁殖した部位の製造が続行される。 このことから微生物の働きがあってせんだんごとなり,さらにろくべえ麺特有の食感が与えられると推察した。 さらに,せんだんご製造に重要な働きをすると考えられる微生物を特定するにあたり,数年にわたり島内の調査を重ねた結果,基本的にはせんだんご製造工程には3段階の発酵工程(発酵1(浸漬),発酵2(棚板に広げて発酵),発酵3(ソフトボール大の塊で発酵))と洗浄・成型工程の2工程4区分に分けられることが確認された。Sendango is an indigenous preserved food derived from sweet potato that is traditionally made in Tsushima, Japan located between the Korean Peninsula and Kyushu. The local people process a noodle called Rokube from Sendango and eat it with soup, fish or chicken. Rokube has a unique texture similar to konyaku, and unlike that of cooked sweet potato. There are two or three fermentation processes involved in Sendango production; therefore, we inferred that the unique texture of Rokube may result from the fermentation process. Sendango is manufactured in several farmhouses on the island ; however, the manufacturing process varies among districts. We investigated each local Sendango manufacturing process and determined the microorganisms involved in fermentation. The investigation of Sendango manufacturing procedures was carried out in three towns, Toyotama, Izuhara, and Mitsushima, by interviews and observations between December and February each year from 2008 to 2011. The processes consist of three main fermentations. In Fermentation-1 (F1), sliced or smashed sweet potatoes were soaked in cold water for 7-10 days. Gas production and film formation were observed during F1. In Fermentation-2 (F2), the soaked sweet potato pieces were piled to a thickness of 5-20cm for 20-30 days. Intense propagation of filamentous fungi was observed during F2. In fermentation-3 (F3), softball-sized lumps were formed on the sticky sweet potato by fungi. The sweet potatoes were left outside for approximately 1 month. The lumps gradually hardened by drying. Many fungal mycelia were observed on the surface of potatoes and inside the lumps during F3. The three aforementioned fermentation processes were used for Sendango production in two towns (Toyotama and Izuhara). In Izuhara, smashed sweet potatoes were placed in sandbags knit with plastic strings, and the bags were soaked in the flowing river water. The sandbags collected from the river water were left on the river bank for 20 days. F2 was carried out in sandbags. In Mitsushima, Sendango production consisted of two fermentation processes, F1 and F3. The fermentation process occurs over a long time period. The propagation of filamentous fungi was particularly intense during F2 and F3. It is thought that filamentous fungi are indispensable for Sendango production. We characterized the microorganisms participating in Sendango production based on this investigation.
著者
寺本 明子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.148-154, 2009-08-15

キャサリン・マンスフィールドは,ロンドンで作家として生きようと,19歳で故郷ニュージーランドを後にし,結局二度と祖国の家族の元に戻らなかった。最愛の弟が戦時下の演習中に死んだことをきっかけに,マンスフィールドが自らの幸せな子供時代を作品に残すことを決意したというのは大変有名な逸話だが,実はその前から彼女はニュージーランドの思い出を題材にした作品を著している。その中の一つ,1912年に書かれた「小さな女の子」は,彼女自身と父親の関係に由来する作品である。作品中で,主人公の少女は父親を恐れている。彼はヴィクトリア時代の父親として彼女に厳しく接し,自分の家庭に課する厳格な規律に自信を持っている。少女は,父親への恐怖心から彼を避けるが,ある晩,悪夢を見てうなされた時に,父親にその感情を静められたのをきっかけに,次第に歩み寄り始める。マンスフィールドに関して言うと,彼女は正にヴィクトリア朝的な父親に反抗し,自分の思う芸術家としての生き方をしようとロンドンへ渡った。しかし,不幸なことに,彼女は次々と病に苦しみ,心も傷ついた。そのような経験を通して,彼女はニュージーランドでの家族との思い出の大切さに気付き,次第にありのままの父親を認め,受け入れるようになる。作品中の少女は転機を経験し,一種の啓示を受ける。そして,作者が,その少女の繊細な感情を描くことに成功しているのは,少女が作者の経験や感情を映し出しているからに違いない。この論文では,「小さな女の子」を精読し,家族との思い出を書くことで自己を振り返り多くの作品を生み出した作家としてのマンスフィールドの出発点を明らかにする。
著者
若松 美智子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.107-119, 2008-09-16

作家石牟礼道子の名前は水俣病と結び付けられ,彼女の作品は告発文学として一般に受け入れられることが多い。しかし石牟礼文学の真骨頂はその高い叙情性,詩情性にあることを,『椿の海の記』の分析を通して示す。幼児期に幼女の目でとらえた人の世の悲しみの諸相の中心に,祖母である盲目の狂女の存在があり,彼女と幼女であった道子との魂の交感が石牟礼の美学の中心にあることを,この自伝的作品は示している。幼時のかなしみの原体験を美へと昇華せねばならない必要性が石牟礼の創作欲の源になっている。本論文では『椿の海の記』の音楽的構成,自然風景描写,演劇的想像力といった手法と,この作品のいくつかの主題,神話的世界観,差別されるものの世界,祖母おもかさま,生命のみなもとへの希求といったモチーフを例示しながら,石牟礼文学の美の世界の内実をしめす。それは他者のかなしみを自分の悲しみとして受け入れる彼女の共感能力に由来する,悲しみの美学である。不知火海沿岸に生きる無辜の民の苦しみかなしみや,狂女の不条理の世界を描く石牟礼は,背中あわせに人間社会の権力の支配構造の不条理をも照らし出す。社会から差別されるものが生きるもう一つの世界,それは海と空と大地に連なる根源的な魂の世界に通じる。その魂の世界に生きる弱者の逆転の生を,彼女はかなしみの中に咲く花として描くのである。
著者
前田 博 進士 五十八 Hiroshi MAEDA SHINJI Isoya
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.274-282, 2008-12

平成15年の地方自治法の改正によって公の施設に関して「指定管理者制度」が導入されることとなり、地方公共団体の所有する各種の施設と並んで都市公園もその対象となった。導入時のいきさつから招かれざるものとして公園管理者に受け止められた制度であるが、施行から2年を経過した現在比較的好印象で迎えられているように感じられる。そこで、都市公園管理史の観点から「指定管理者制度」の導入が都市公園の管理行政にどのような意味を持つかを検証した。考察の結果、「指定管理者制度」の導入は太政官布達第16号以来の都市公園管理史における転換期の特徴である外圧性と偶然性を持ち、近年の都市公園管理行政の閉塞感を打破する可能性、むしろ将来的に市民利用本位の公園管理のあり方を示唆する主要方策のひとつであることがわかった。具体的には(1)公園管理を再点検(2)正確な数量把握による予算確保(3)評価のための利用者意向把握等の動きが見られ、財政悪化時代を迎え危機的状況にあった公園管理行政の転換点となった。
著者
木原 高治
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.164-174, 2002-12-20

経済のグローバル化・ボーダレス化の進展に伴い企業活動の国際化が進んでおり,各国の会社法を中心とした法制度の理解が求められている。しかしながら,アジア地域の国については,一部の国を除いて会社法ないし会社制度に関する十分な研究がなされていない。本稿では,これまで十分な研究がなされていないフィリピンにおける会社法と改正証券法を取り上げ,その基本構造及びそれらに基づくSEC規制上の株式会社に対する計算書類公開制度について論じた。その結果,制度的にみた場合には,アメリカ法に準拠したフィリピン法上の株式会社に対するSECでの計算書類公開制度は,わが国の制度より実効性があり,特に問題の多いわが国の小規模株式会における計算書類公開制度を検討する上で有意義なものであることを指摘することができた。
著者
吉川 皓唯 國井 洋一 Hiroi Yoshikawa Kunii Yoichi
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.185-195, 2012-12

近年,拡張現実感(Augmented reality,AR)の技術が利用されつつある。本研究では拡張現実感技術を造園分野にて利用することは有益であると推測し,造園分野での拡張現実感の利用法について検討した。まず,視覚ARが既に活用されている応用事例50例を調査し,実例の傾向を把握した。さらに,視覚ARが利用者に与える印象の調査として視覚ARプログラムを作成し,それを被験者32名に体験してもらいSD法による印象評価と聞き取り調査を行った。以上2種類の調査より,視覚ARの利点は現実空間に情報を追加できる「付加性」,物理法則に縛られずに現実空間に物体を表示できる「配置性」,プログラムによって表示物の色,大きさ,形の変更ができる「変化性」の3点に集約できると判断した。さらに,造園における視覚ARの利用法として,「情報提供」「作業支援」「予測の視覚化」の3種の利用形態を提案した。結果として,今後普及の可能性がある拡張現実感および拡張現実感技術が作り出す社会の存在を明らかにし,造園分野での利用可能性を示すことができたといえる。
著者
岩下 明生 小林 大輔 太田 季絵 小川 博 安藤 元一
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.209-217, 2014-12-15

神奈川県内の哺乳類の生息状況が異なる2つの緑地においてスタンプ板を用いた足跡トラップの有効性を検証するために,スタンプ板と自動撮影カメラを「けもの道」に設置して両者の調査効率を比較した。両手法におけるタヌキやアライグマなどの中型食肉目の出現頻度には正の相関が得られた。しかし,その値自体はスタンプ板調査よりも自動撮影調査の方が4-5倍高かった。動物のスタンプ板に対する反応をみると,アライグマとイエネコでは他種よりもスタンプ板の上を通過する割合が1.5-1.7倍高かったのに対し,アナグマでは他種よりも板の脇をすり抜ける割合が2-3倍高く,スタンプ板への反応には種間差が存在した。すなわち,スタンプ板調査は自動撮影調査よりも動物の検出力に劣るが,主要な中型食肉目の生息確認のような定性的な調査には十分な能力を有していた。さらにスタンプ板調査では低価格で盗難の可能性も低く,取り扱いが容易であるという利点があった。スタンプ板調査における実用的な方法の長短所を議論した。
著者
梅村 博昭
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.243-252, 2008-12-10

deja luとは「すでに読んだことがあるという認識」である。テクストを読む「わたくし」が,作品Bのなかに作品Aに似た何かを発見するとき,「わたくし」が作品Aをかつて読んだことがあるというまさにそのことが事態の本質をなしている。つまり生きられた体験としての間テクスト性を観察するとき,その中核をなすのがdeja luという概念なのである。本論では立松和平『性的黙示録』にあらわれる夜汽車の場面が,サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』におけるホールデンとミセス・モロウとの出会いに酷似しているという発見を糸口に,deja luが間テクスト的読解へと展開していく過程を考察する。そのさい,ある種の理論家が唱える理念的な「読者」概念と生身の「わたくし」の経験の落差を記述する,という手法をとる。標準的なロシア文学研究者が『性的黙示録』のなかに認めるdeja luはドストエフスキーの諸作品の痕跡であると考えられるが,生身の「わたくし」が体験したdeja luはサリンジャー作品の上記の場面なのである。そしてサリンジャーと立松を対比させながら読むという営為もまた,両作家の作品の意義の解明に通じていることを示す。
著者
内山 秀彦 木下 愛梨 渕上 真帆 嶺井 毅 川嶋 舟
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.192-199, 2014-12-15

本研究は,動物との相互関係における人の視覚認知に着目し,視線計測装置を用いて馬を観察した際の人の視線追従(注視部位,注視回数,注視時間)ならびに瞳孔径の変化を定量化した。さらに観察者の性格特性や馬に対する印象と視線との関連性を考察することを目的とした。得られたデータから,人の性格傾向において,外向性が高いほど肢・尻の部位に対し,また神経症傾向が高いほど,首・肩・胸の部位に対する注視回数や注視時間が低かった。特に神経症傾向が高い場合,馬の顔に視線が集まるといった,観察者の性格特性と注視部位に関連が認められた。また馬に対する恐怖感は,馬の外貌の中でも脚部から影響を受けると考えられた。さらに乗馬経験および動物の飼育経験と馬の顔への注視回数・時間に有意な正の相関が認められた。これらの結果から,人が動物との関係をもつ場合,アイコンタクトをはじめとした人同士のコミュニケーション方法を動物に対しても同様に適用していると考えられた。これらの視線解析を中心とした本研究の結果は,馬との相互関係から得られる精神的効果,また現在まで多く報告されている自閉症をはじめとしたコミュニケーションに関する障碍に対する動物介在療法・活動・教育の実施内容を支持するものである。
著者
竹井 かおり 星野 大地 市村 匡史
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.98-103, 2012-09 (Released:2013-10-08)

本試験では養液栽培において,育枯病の発病抑制効果が期待できるスイートバジル,オレガノ,ローマンカモミールを用いて,ハーブの栽植密度を変えてトマトとの混植試験を行い,ハーブの混植が青枯病発病ならびに培養液中の青枯病菌密度に及ぼす影響を調査した。その結果,対照区と比べて,スイートバジル混植区では青枯病発病が4日遅れ,オレガノ,ローマンカモミール混植区では,青枯病の進行が5~8日抑制された。さらに,スイートバジル,オレガノ混植区では培養液中の青枯病菌密度が検出限界以下(約10 2cfu/mL以下)に減少した。以上のことから,ハーブの混植により,青枯病発病抑制,青枯病進行抑制,培養液内の青枯病菌密度低下効果などが得られる可能性が示唆された。
著者
宇仁 義和 櫻木 晋一 岸本 充弘 田島 佳也 谷本 晃久 石川 創
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本の近代捕鯨の沿岸時代について、東洋捕鯨の社内文書や株主総会資料、同時代の写真などから明らかにした。国内の事業場と捕鯨船の8割を得た東洋捕鯨は、黄海と千島に事業場を新設し事業を拡大し、事業場の一体運用や役割分担が見られ、人員と捕鯨船を通年で効率的に運用したことが史料的に裏付けられた。捕鯨船によっては年度内に台湾から北海道の網走、黄海へと回航していた。ノルウェー人砲手の着業は1930年代初めに終わり、その割合は朝鮮では高く、本州や北海道では低くかった。シロナガスクジラとナガスクジラの呼称は、東洋捕鯨の社内名称が定着したものである。
著者
佐々木 剛 和久井 諒 和久 大介 米澤 隆弘 姉崎 智子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.49-56, 2013-09-20

日本国内でツキノワグマ(Ursus thibetanus)は本州,四国に生息し,現在5地域の個体群が絶滅の恐れのある地域集団とされている。群馬県でもツキノワグマが生息しているが,その捕獲頭数を定めた群馬県ツキノワグマ適正管理計画は,地域集団の構成を考慮しないまま実施されており,このままでは絶滅を招く危険性をはらんでいる。このことから,ツキノワグマの適切な保全を考慮した農林業被害等の防止対策を実施することが,希少野生動物とともに暮らす地域にとって重要な課題といえる。そこで本研究は群馬県ツキノワグマの遺伝的多様性を明らかにするため,群馬県で捕獲されたツキノワグマ30個体のミトコンドリアDNA D-loop領域706bpの配列を決定し,ハプロタイプ分析を行った。その結果,群馬県のツキノワグマから6つのハプロタイプを同定した。これらは先行研究により東日本に生息するツキノワグマで同定された38ハプロタイプのうち,E01, E06, E10, E11, E31, E34に該当した。ハプロタイプの地理的分布および集団構造解析から,群馬県では南西部集団,中之条集団,北東部集団の3集団が存在する可能性が示唆された。群馬県中央部から南東部にかけては平野が広がっており,ツキノワグマの生息は確認されていない。よって群馬県のツキノワグマ3集団は群馬県の西から東へ南西部集団,中之条集団,北東部集団の順に並んで存在していると思われる。つまり,中之条集団の西側で南西部集団と分かれる境界線があり,東側で北東部集団と分かれる境界線が本研究によって想定された。これらは適正管理計画のもとで人為的に設定された地域個体群(越後・三国地域個体群と関東山地個体群)とは異なる境界分布を示しており,今後ツキノワグマの自然集団を繁栄した適切な保全計画を実施するためにも現在の分布境界線を見直していく必要があることを本研究は提唱する。
著者
大田 克洋
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.289-304, 2009-03-16

食料安全保障を,供給の安定性,価格の安価性,品質の安全性の3面からとらえ,その確立に向けての現状の把握と課題の検討を行った。コメ,小麦等主要穀物の需給構造の長期変容パターンの特徴を実証分析するための枠組みとして,自給指向型,輸入依存型,輸出指向型の3つの需給構造変容の5段階モデルを作成し,米国農務省等の統計データを利用して,日本を中心に主要食料の需給構造の変容過程と現段階の特徴をモデルに照らして同定した。それにより,例えば60年代以降の日本のコメ需給は,国内需要が国内生産で賄われる自給指向型の変容過程をとりながらも,その現段階は,需給量が一貫して漸減する「成熟段階」にあることが示唆された。また日本では,食料安全保障の確立には食料自給率の向上が不可欠とする考えが一般的であるのに対し,筆者は,単純な国産比率である「自給率」の意味の「限界」と,上記3側面で見る安全保障への無関係さと無力さを,小麦の自給化政策の効果や生鮮かぼちゃの「自給率の季節変動」の実証分析によって明らかにした。結論として,世界の食料安全保障は,世界各国の自由貿易体制下の協調と国際的な相互協力の結果として保証されるものである以上,日本の食料安全保障もその枠組みの中で,国際協調と自由貿易による便益を活用しつつ,地球規模的な視野でその確立を図るべきことを提言した。
著者
梅村 博昭
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.53-68, 2006-09-30

サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(『ライ麦畑でつかまえて』)とドストエフスキー『地下室の手記』を比較したリリアン・ファーストによる興味深い論考がある。両作品の主人公が半ば自らの意思で規範を逸脱していること,にもかかわらず他者との関係は完全に切れておらず,コミュニケーションとノン・コミュニケーションの間に引き裂かれていること,高度な自己評価と自己否定の間を揺れ動くこと,読者への呼びかけという手法をとっていることなどを指摘したものである。しかしそれらの類似点を参照しながら『地下室の手記』を再読すると,こんどは両作品の重なり合わない面が浮かび上がってくる。またドストエフスキー研究者の間では『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の源泉は,むしろ同じドストエフスキーの『未成年』や『カラマーゾフの兄弟』であるとの議論がある。ファーストの行っている比較自体が『地下室の手記』を実存主義の祖と考える1970年代的な文学的思潮のなかで可能であったという観もある。文学研究が様変わりしてしまった今,両作品を読み比べする行為は間テクスト性,脱構築といった概念を呼び込まずにはおかない。そして「『キャッチャー・イン・ザ・ライ』と『地下室の手記』は似ているか」という問いは間テクスト性の網の目の中でちりぢりに分解してしまうであろう。
著者
三簾 久夫 堀内 久太郎 Chakhatrakan Somchai 齋藤 修平
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.46-53, 2008-06-15

本論文は,タイ・チャオプラヤ河デルタ上流域Sing Buri県におけるNew Theory農家の食料自給と経営成果について論じたものである。具体的には,調査農家38戸の農業所得と農外所得を含めた農家所得,作目構成,有機質資源の循環等の経営概要を明らかにした。第1に,New Theory農家の食料自給を論じるために,食料自足率,家計仕向率,食料自給率を算出した。結果はそれぞれ,36.8%,11.0%,901.8%となり,Sing Buri県におけるNew Theory農家は,生存レベル(自給農家)を超えているが,New Theory農業の意図している食料自給が十分に実践されていないことが明らかになった。第2に,New Theory農家の所得水準を論じるために,世界銀行およびタイ政府の2つの貧困ラインを基準として調査農家の貧困係数をそれぞれ算出した。その結果,世界銀行基準(1人当たり1日1ドル)では0.482となり,経済的に豊かであるが,タイ政府基準(1人当たり1日200Baht)では2.69となり,貧困であることが明らかになった。
著者
煙山 紀子
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究は、IL-21シグナル経路の制御による生活習慣病の新規予防・治療法の開発に加え、エネルギー代謝と免疫機構のクロストークの視点から、肝臓における脂質合成と炎症・線維化といった臓器障害へと進展する機序を、①IL-21R発現抑制はNASH線維化を抑えるか、②IL-21Rの発現抑制は肥満やエネルギー代謝に影響を与えるか、③IL-21Rはどのように発現制御を受けるか、の3点より明らかにする。
著者
上岡 洋晴
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、機能性表示食品制度において有効性の科学的根拠として企業等から届出られた臨床試験とシステマティック・レビューの結果の適正性について明らかにするとともに、不備の特徴とその詳細を明確にし、最終的には改善提案を行うことに挑戦する。
著者
小島 弘昭 荒谷 邦雄 吉富 博之 野村 周平 渡辺 泰明
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

伊豆諸島の甲虫相解明のため,研究の遅れていたゾウムシ上科,ハネカクシ科,水生甲虫類を対象に調査を実施し,固有3新種を発見した.また,遺存固有と考えられていたクワガタムシ科2種,ゾウムシ科1種について分子系統解析を行い,前2者は極最近,周辺地域に分布する近縁種から分化した種であること,ゾウムシについては人為的移入の可能性が示唆された.島としての成立年代が新しい伊豆諸島は,生息する固有種も起源的に新しい可能性が高いことが明らかとなった.さらに,甲虫相から見た伊豆諸島のホットスポットとして御蔵島がその候補となり,北伊豆諸島の利島もこれまで考えられていた以上に重要な地域であることが示唆された.
著者
谷岡 由梨
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

人口増加により2050年には世界人口は93億人に達すると推測されている.しかし,急激な人口増加に見合った食糧増産が見込めない状況の中,昆虫や微細藻類が食糧資源として検討されている.本研究では,遺伝子工学的手法を用いて,微細藻類であるラン藻スピルリナが産生するシュードB12の合成経路をB12合成経路に改変する.B12は,動物性食品が主要な供給源であるため,ラン藻スピルリナがヒトにおいて生理的に機能しないシュードビタミンB12からB12を合成することが可能になれば,食糧問題の一助になるとともにスピルリナにおける形質転換技術はスピルリナに含まれる他の有用物質にも応用できると考える.