著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

核内受容体による転写制御を分子レベルで明らかにすることを目的に複数の視点から解析を進めた。1)核内受容体の組織特異的転写調節機構の解析核内受容体のAF1の活性は一般に組織特異的かつ構成的であるが、この機構を明かにする目的でこの領域をリン酸化するキナーゼに着目した。今回は、AF1のリン酸化が転写活性を調節することが明らかにされERAF1のリン酸化について詳細に解析した。まずリン酸化部位がMAP kinaseのコンセンサス配列であることから、大腸菌で大量合成したERのAB領域タンパクを用いアフリカツメガエル胚より精製した活性型MAP kinaseによるリン酸化を検討したところ、セリン118が特異的にリン酸化されることを見いだした。次にリン酸化の転写活性への効果を検討する目的で、MAP kinaseの上流に存在するRas cDNAを導入したところ、AF1の転写促進能が増強されることがわかった。2)核内受容体の標的配列認識の特異性AGGTCAモチーフはレチノイン酸(RAX,RXR)、ビタミンD(VDR)、甲状腺ホルモン(TR)受容体の標的エンハンサー配列の基本モチーフであり、2個のDirect Repeat型(DR)のAGGTCAモチーフ間の距離を変えることで、標的特異性が生じる。今回はこのモチーフを3個並べた時のDRの標的特異性をCAT assayと精製受容体を用いたin vitro DNA結合実験により調べた。その結果モチーフを3個並べた時には従来報告に有るような標的特異性は消失することがわかった。この他にもいくつかの標的遺伝子のリガンド応答配列の同定、性状を明らかにした。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

ステロイド、甲状腺ホルモン核内レセプター群はリガンド依存性転写制御因子であり、リガンドである脂溶性ホルモンおよび脂溶性ビタミンの信号を遺伝情報に伝達する。このような核内レセプターを介する情報伝達系は組織の分化、増殖に代表される高次生命現象の制御に中心的な役割を果たしている。本研究では核内レセプターによる転写制御を分子レベルで明らかにすることを目的に複数の視点から解析を進めた。1)核内レセプター転写促進に関わる共役転写因子の検索および同定核内レセプターには転写を促進する領域が2箇所存在(AB,E領域)し、各々組織特異的な機能を有することが知られている。そこでビタミンD(VDR)、エストロゲン(ER)、アンドロゲンレセプター(AR)のAB,E領域を酵母転写制御因子GAL4のDNA結合領域に連結し、このキメラタンパクを用い、各領域特異的に作用する共役転写因子をYeastを使ったtwo hybrid systemにより哺乳類cDNAライブラリーから検索した。その結果各々有望な10数個のクローンを得ることに成功した。現在これらクローンについて解析を加えている。2)核内レセプターと基本転写因子との相互作用の検討上記のGAL4とのキメラタンパクあるいはfull length VDR, ER, ARやその欠失タンパクを大腸菌発現ベクターに組み込み、各種タンパクの発現に成功した。また既に得られているTFIIBタンパクとの相互作用を検討する系の確立を行なった。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

核内受容体による転写制御を分子レベルで明らかにする目的で以下の2点に絞り研究を進めた。1.核内受容体標的エンハンサー配列認識の特異性と非特異性我々はすでに従来より知られてきたコンセンサスエストロゲン応答配列(ERE)とは全く異なるタイプのERE(OV-ERE)が、主要卵白タンパクであるオバルブミン遺伝子プロモーターに存在することを証明した。OV-EREでは多くの核内受容体の標的結合部位であるAGGTCAモチーフが計4個互いに100bp以上も離れて存在していた。そこで、ERのOV-ERE認識の特異性を検討する目的で、2個のAGGTCAモチーフ間のスペースが離れた配列への各核内受容体(VDR,TR,RAR,RXR)の標的特異性を調べた。その結果、2つのモチーフ間のスペースが狭い場合には標的特異性が現れるのに対し、スペースが広い(10bp)場合には、特異性が消失することを見出した。また、この際、DNAに高次構造の変化が生じることも見出している。2.核内受容体群の発現調節レチノイド受容体(RAR,RXR)遺伝子群の発現に及ぼすビタミンA、ビタミンD、甲状腺ホルモンの効果を調べた結果、RXRbetaは正、RXRgammaは負に甲状腺ホルモンによって制御されることを見出した。このことは、核内受容体遺伝子自身の発現が関連するリガンドによって制御される複雑なネットワークが存在することを示したものである。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

ステロイドホルモン核内受容体群はリガンド誘導性転写制御因子である。ステロイドホルモン作用発現を理解する上で、これら受容体の性状を明らかにすることは必須の課題である。特に核内受容体の主たる機能である転写促進能の機構は、主としてトランスフェクション転写系により詳細な解析が行なわれてきたが、今尚不明な点が多いのが現状である。特に核内受容体の標的エンハンサーは数多くのコンセンサス配列の同定が行なわれてきたが、核内受容体タンパク群の共通機能の理解に比較し、今だに統一的な法則が得られていない。我々はすでにオバルブミン遺伝子5′上流に新しいタイプのエストロゲン応答配列(OV-ERE)を見出した。OV-EREは、従来知られていたエストロゲン応答配列とはDNA構造が大きく異なりむしろレチノイン酸(RAR、RXR)、ビタミンD(VDR)、甲状腺ホルモン(TR)受容体の標的配列に近い構造であった。そこで本来のOV-ERE配列とともに合成DNAを用いた人工的な配列を用い、エストロゲン受容体(ER)、RAR、RXR、TR、VDR、による転写促進能を調べた。その結果従来より知られていたコンセンサス配列の他に、TRを除く他の核内受容体すべての標的エンハンサーになりうる配列を見出した。これらの知見が、トランスフェクション転写系(CAT assay)によるものであったので、次にin vitro DNA結合実験(ゲルシフト法)により受容体とDNAとの結合能を調べた。その結果転写促進能とほぼ比例して各受容体はDNAと結合することがわかった。以上の結果からある種の標的エンハンサーは一種の受容体のみならず複数の受容体によりその機能が調節されることがわかった。このことは、ステロイドホルモンや脂溶性ホルモン間のクロストーク機構の一端を明らかにするものであった。
著者
小島 泰友
出版者
東京農業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

2007-08 年の食料危機における EU や NAFTA 加盟国の主要農産物の需給や貿易動向をみる限り、地域経済統合や自由貿易協定は、地域内の食料安全保障を確保する意味で、加盟国間では有効に機能していたと考えられる。しかし、地域経済統合や自由貿易協定は、EU のトウモロコシの域外輸入の急増や小麦の域外輸出の減少、米国のメキシコへのトウモロコシ輸出の増加とそれに伴うアフリカへの同輸出の減少など、食料危機において域外の農産物輸入国へ負の影響を与える可能性がある。
著者
多田 耕太郎 小泉 亮輔 寺島 晃也 中村 優 鈴木 敏郎 鈴木 敏郎
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.167-174, 2012-12-14
被引用文献数
1

豆乳生産時の副産物であるオカラを添加して冷凍ソーセージの解凍後の品質評価を行った。塩漬肉の5,10および15%をオカラで置換した冷凍ソーセージを製造し,その解凍後の品質を検討した。すなわち,真空包装したソーセージを-20℃で7日間冷凍保存した後に解凍した。その結果,オカラ無添加のソーセージは冷解凍後に多量のドリップ流出がみられたのに対し,オカラを添加したソーセージは冷解凍後のドリップ流出が顕著に抑制され,歩留まりが向上した。さらに冷解凍後にオカラ無添加ソーセージのテクスチャーは顕著に低下したが,オカラを10%まで添加することにより低下が抑制された。官能評価では,オカラ無添加の冷凍ソーセージは低評価になったのに対し,オカラ10%添加の冷凍ソーセージはオカラ無添加の非冷凍ソーセージと同等の高評価を得た。オカラを15%添加したソーセージは冷凍の有無にかかわらず官能評価は低かった。これらのことから,冷凍ソーセージにオカラを添加することで食物繊維を含有させ,保水性を向上させることができた。また,10%程度のオカラ添加が良好な品質を備えた冷凍ソーセージを加工する上で適当であることが明らかになった。
著者
足達 太郎 鳥海 航 大川原 亜耶 高橋 久光
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.259-263, 2008-12 (Released:2011-07-26)

キャベツ畑に、ハーブ類のカモミール(カミツレ)およびキンレンカ(ノウゼンハレン)をそれぞれ混作した区と、キャベツを単作して化学合成殺虫剤を施用した区および施用しない区をもうけ、キャベツの主要害虫であるダイコンアブラムシ・モンシロチョウ・コナガの個体数変動と捕食寄生性天敵による寄生率を比較した。試験の結果、各害虫ともそれぞれの個体数がほぼピークとなる時期に、処理区間で個体群密度に有意な差がみられた。ダイコンアブラムシは、カモミール混作区における個体群密度がキンレンカ混作区やキャベツ単作/殺虫剤無施用区または施用区よりも高かった。モンシロチョウの幼虫個体数は、キャベツ単作/殺虫剤無施用区>キンレンカ混作区>カモミール混作区>キャベツ単作/殺虫剤施用区の順に多かった。また、モンシロチョウの卵数は、両ハーブの混作区における値がキャベツ単作区(殺虫剤施用および無施用)における値よりも多かった。コナガは、キャベツ単作/殺虫剤施用区およびカモミール混作区で幼虫の個体数が多かった。いっぽう、モンシロチョウの幼虫におけるアオムシコマユバチの寄生率は、キャベツの生育中期において、キンレンカ混作区およびキャベツ単作/殺虫剤無施用区で最も高かった。これに対し、コナガ幼虫におけるコナガコマユバチの寄生率は、処理区間で有意な差は認められなかった。
著者
荒井 歩 植田 寛
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.307-314, 2010-03-15
被引用文献数
1

茶は時代により異なる社会需要に応じて,産地を変化させ,茶の栽培・製茶技術をつくりだしてきた。また,茶の生産に適した自然環境が,茶産地の形成に深く関わっている。そこで本研究では,日本における茶産地の発祥状況や形成過程を整理すると共に,地形・水系を把握した上で,茶産地における景観構造を明らかにすることを目的とした。研究対象地として,茶の生産に適した自然環境状態により栽培地が選定されていた近代以前からの産地25地区を選定した。調査分析の結果,茶産地の発祥要因は,発祥の祖の相違により4タイプに分類された。また,茶産地の形成過程は,主導者や生産・流通体制などの茶産業のあり方の相違により5タイプに分類された。茶産地の地形構造は,茶産地と河川の立地関係により4タイプに,茶産地と傾斜分布関係から3タイプに整理された。最後に景観構造のタイプ分類を行い,茶産地の景観構造は発祥時期や発祥要因によって特徴づけられると共に,これらの要因が茶産地としての選定にも影響を及ぼしていることが明らかとなった。
著者
谷口 信和 安藤 光義 宮田 剛志 李 侖美
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

2009年の農地法改正を契機として一般企業の農業参入が進み、家族農業経営を基本とする日本農業の構造が大きく変化している。このうち、農協による農業経営は従来の農協出資型生産法人に加えて、農協直営型農業経営の参入が進む中で、単なる担い手の役割を超えて地域農業に対する多様な役割を発揮しつつある。そこでは第1に、耕作放棄地の復活・再生への取り組みが本格化する中で、第2に、これと結びついた新規就農者研修事業が重要な事業分野になりつつある。第3に、JAの農産物直売所への出荷という新たな販売ルートが有力な地位をしめる中で、耕畜連携や6次産業化を実現する地域農業振興に向けた重要な役割を担うに至っている。
著者
岩堀 修一 菅谷 純子 小塩 海平 坂本 知昭
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

マンゴー果実をエチレン吸着袋で貯蔵すると、貯蔵期間が延長され、袋内の果実は呼吸、エチレン発生ともに抑えられた。果実を20Cと13Cで貯蔵すると、ACC合成酵素、ACC酸化酵素ともにまず遺伝子の発現が上昇し、ついで、酵素活性が増加、その後にエチレン発生が増加した。8C貯蔵で低温障害が認められ、完熟果より緑熟果のほうが早く出現した。緑熟果ではACC合成酵素、ACC酸化酵素ともに遺伝子の発現が著しく高くなった。
著者
竹内 康
出版者
東京農業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では,温水パイプの耐久性と電熱シートの簡便性を兼ね備えたハイブリッドタイプのヒーティング装置の開発を行うとともに,ロードヒーティングへの適用性に関する検証実験を行うことを目的としている。平成22年度は,ヒーティングパイプ内に封入するガスの種類およびパイプの形状を変化させた加熱実験を通じたヒーティング装置の開発結果を受け,ガスの種類のうち最も良い効果を示した代替フロンガスHCFCを封入した銅製の多重ループ管(蛇行管)をコンクリート平板に埋設して室内での融雪実験を行った。このときの,温度条件は,妙高市の赤倉温泉郷にて測定した温泉排水温度が30~40℃程度であったことから,融雪実験に際しては水温を15~40℃に設定し,融雪状況の確認を行った。また,加熱部の長さは,ヒーティング装置の加熱実験結果を受け,放熱部の5~10%程度になるようにした。その結果,室内融雪実験では,水温が15℃程度であっても十分に融雪効果が得られることが確認された。さらに,多重ループ管の間隔が融雪特性に及ぼす影響と屋外での融雪効果を確認するため,既往の文献を参考に間隔を10cm,16cmとした蛇行管を埋設した1m×1m程度の舗装用コンクリートと同等の熱的特性を有するモルタル平板を2枚作製し,冬季の長野県飯綱高原にて屋外での融雪実験を行った。その結果,パイプ間隔が10cmで,熱源温度が20℃程度であれば,19~28mm/hr程度の降雪強度に対応できるロードヒーティングシステムが構築できることがわかった。
著者
関岡 東生
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.175-184, 2012-12-14

近年,一般市民を対象とした森林教育の充実が望まれる中,林業普及指導事業にも森林教育の実施主体として機能することが期待されつつある。林業普及指導事業では,1990年代より,普及の対象に一般市民を加えるとともに,一般市民を対象とする普及活動においては,林家や林業研究グループが直接的な実施主体として機能することが企図されてきた。本論文に際しては,こうした現状を踏まえ,まず,林業研究グループの現状を把握し,それをもとに,林業研究グループ自身が森林教育の実施主体としての活動を望むものであるのか,さらには,その機能を有するものであるのか否かを検証し,そして,この機能の充分な発揮を妨げる要因を把握することを主な目的としている。調査は,全国の全ての林業研究グループ(1,487グループ)を対象として,郵送による質問紙法によって実施した。その結果,[◯!1]多くのグループで活動が停滞しつつある。[◯!2]休眠あるいは解散を余儀なくされるグループが頻出している。[◯!3]グループの多様化が進み,活発なグループとそうでないグループの格差が増大しつつある。[◯!4]会員規模の減少などの事態を招きつつある。という林業研究グループの現状が明らかとなった。さらに,森林教育の実施については,[◯!1]既に一定のグループが実施実績を有すること,[◯!2]しかしながら,一般市民を対象とした実践のための研修等については極めて不十分な状況にあるということが確認され,林業研究グループは森林教育の実践主体として期待される存在でありながらも,実践の充実を期する上では多くの課題を有することが明らかになった。
著者
青木 いづみ 進士 五十八
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.120-129, 2002-09-20
被引用文献数
1

本研究は,東京都の建築紛争において特に,高さを問題とする紛争を対象に,紛争建築物の階数をその周辺範囲の建築物の平均階数と比較してどの程度突出すると紛争となるか分析し,住民の建築物の高さに対する許容限界について把握することを目的とした。紛争建築物の影響圏は紛争建築物から半径300mの範囲とした。また用途地域・地域性による許容限界の違いについて考察した。その結果,(1) 許容限界は影響圏の建築物の平均階数と相関関係にあり,(2) 許容限界は住居系地域ではY=1.9422X-1.2376,商業系地域ではY=3.0172X-2.7344,工業系地域ではY=6.3698X-8.7268の近似直線で表すことができた。(3) 許容限界は山の手・川の手のような地域性によって異なること,また(4) 影響圏内建築物の平均階数が3階以下で2階建てが70%以上を占めるような町並みでは,建築紛争を避けるためには,住居系・商業系地域では3階,工業系地域では4階を住民の許容限界と見なす方が安全である。
著者
喜田 聡
出版者
東京農業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

我々は、獲得した情報を常に独立した記憶として新規保存しているわけではなく、新しい情報を既存の記憶に結びつける「記憶アップデート」を随時行っている。しかし、記憶アップデートの分子基盤はほとんど理解されていない。本課題では、複数のマウス記憶課題を用いて、記憶アップデートが誘導される場合に脳内でプロテオソーム依存的タンパク質分解が誘導されることを発見した。一方、記憶形成時にはこのタンパク質分解は観察されなかった。また、薬理学的手法を用いた解析では、このタンパク質分解を阻害すると記憶アップデートが阻害された。以上の結果から、プロテオソーム依存的タンパク質分解が記憶アップデートの起点となると結論した。
著者
寺本 明子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.37-44, 2009-06-15

キャサリン・マンスフィールドの短編「風が吹く」は,形式のレベルにおいて,一人の少女の繊細な感情と対応する戸外の風を扱っている。彼女はある風の強い日に様々な感情-不安,苛立ち,孤独,反抗,憧れ,共感など-を経験し,彼女の感情の一つ一つが自然現象である戸外の風と密接に係わっている。素材のレベルから見ると,作品の内容はマンスフィールドの祖国ニュージーランドの思い出である。彼女は19歳で祖国を後にし,二度と戻ることはなかった。しかしながら,彼女はニュージーランドでの幸せな生活を決して忘れなかった。彼女の弟が1915年ロンドンに訪ねて来た時,この姉弟は幸せな子供時代の思い出を語り合い,彼女は当然のように,思い出の日々を書くことを自分の使命と感じた。そしてこの作品は,絵画性や音楽性を特徴とするが,透明性をも示している。「風が吹く」を堀辰雄の『風立ちぬ』と比べると,両者に共通点が多いことがわかる。前者におけるように,後者でも戸外の風が主要登場人物の繊細な感情と呼応して描かれている。そして『風立ちぬ』では,風が作品の起承転結に沿って扱われている。これら二つの作品を風や他の背景を通して読む時,私はその中心的テーマが,叡智に基づく諦観であるということに気付く。
著者
Marita S. PINILI Dewa Nyoman NYANA Gede SUASTIKA 夏秋啓子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.125-134, 2011-09-30
被引用文献数
1

バナナ(Musa spp.)はインドネシアのバリ島において果物としてだけでなく調理用としても重要であり,また,宗教儀式でも多用される。4年ほど前までバリ島においてバナナバンチートップウイルス(Banana bunchy top virus ; BBTV)による被害はほとんど認められなかったが,近年,急速に被害が広がったことを観察した。そこで,バリ島のバナナにおいて,BBTVと,同じくバナナの重要ウイルスであるBanana bract mosaic virus(BBtMV)の検出を血清学および分子生物学的技術で実施した。その結果,2種のバナナ品種Pisang Sari(AAB)とPisang Susu(AAA)からBBTVが検出され,そのDNA-Rの 全塩基配列を解析したところ,アジアグループに属し,また,ジャワ株,フィリピン株などとの類縁度が高いことが明らかになった。しかし,BBrMVは検 出されなかった。多くのバナナがジャワ島からバリ島に移入されており,また,病害に対する特段の防除が行われておらず,さらにBBTVの媒介虫 (Pentalonia nigronervosa)の存在が,BBTVの侵入と拡大に寄与したと考えられた。
著者
古屋 典子 Somowiyarjo Susamto 夏秋 啓子
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.75-81, 2004-12
被引用文献数
1

バナナ(Musa spp)にとって,ウイルスの存在は,生産の場だけではなく,遺伝資源としての種や品種の保存においても重大な脅威である。本研究では,インドネシアのジョグジャカルタ特別州に位置するバナナ品種保存園において,38品種68株のバナナを3年間に渡って採集し,血清学的・分子生物学的手法の両方または一方を用いて,ウイルスの検出を行った。その結果,キュウリモザイクウイルス(CMV)は3株のみで感染が確認されたのに対し,バナナバンチートップウイルス(BBTV)は21株で認められたことから,本来はウイルスフリーであるべき本品種保存園においてもBBTVは蔓延していることが示された。また,調査を行った38品種は長期間同じ環境条件下で栽培されていたが,BBTVは12品種で,CMVは3品種でそれぞれ病徴を伴って感染が確認された。このことから,これらの12品種と3品種はそれぞれBBTVとCMVに対して,より感受性であると思われた。バナナ品種保存園に発生したBBTV2分離株(BBTV-IG33, -IG64)とその近郊の農村に発生したBBTV1分離株(BBTV-IJs11)についてDNA-1とDNA-3の塩基配列を決定した結果,それぞれのコンポーネントの全長で3分離株は高い相同性を有していた(98〜99%,99〜100%)。また,DNA-1のCR-M領域(major common region)では,既報のオーストラリアおよびフィジーの分離株よりも,日本・台湾・フィリピン・中国・ベトナムの分離株と,より高い値を示した(63〜65%,93〜95%)。したがって,インドネシアにおけるBBTVアジアグループ(KARANら,1994)の発生とそれらの分子生物学的性状が本研究によって初めて明確に示された。
著者
日田 安寿美 高橋 英一 古庄 律 多田 由紀 川野 因
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.198-203, 2009-12-15
被引用文献数
1

近年,若年層の朝食欠食をはじめ食生活の乱れや運動不足が問題視されている。T大学では食の専門家を育成しており,将来的に食育活動に携わる者も少なくない。そこで本研究ではT大学1年次生を対象に食育トライアル授業を計画し,参加学生の食物摂取状況や運動習慣を把握することにより,今後の授業計画のための基礎資料を得ることを目的とした。対象者は,食育トライアル授業に参加した学生のうち,調査に協力の得られた女性13名であった。調査の結果,1日あたりの食品群別摂取量は,穀類が366g,いも類は37g,緑黄色野菜は75g,その他の野菜は112g,魚介類は44g,肉類は80g,卵類は22g,菓子類が66gであった。一人一日あたりのエネルギー摂取量は,推定エネルギー必要量とほぼ一致していた。脂質エネルギー比率は29.4%,炭水化物エネルギー比率は56.8%であった。カルシウム,鉄分,水溶性ビタミン類,食物繊維の摂取量は不足するリスクが認められた。特に鉄分と食物繊維は対象者全員で不足のリスクが高かった。食品の適切な選択方法についての知識や技術を身につけること,さらに食環境整備が必要であると考えられた。ライフコーダーにより歩行数を測定した結果,1日の平均歩行数は10,434±2,606歩であり,健康日本21の目標値を上回る人は13名中9名であった。一方,速歩や強い強度の運動時間が短かったことから,今後は健康増進のためにも運動強度を高める教育が必要と考えられた。