著者
菊地 哲夫 Tetsuo KIKUCHI 東京農業大学生物産業学部産業経営学科 Department of Business Science Faculty of Bio-Industry Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.140-149,

本稿の目的は,仲卸業者の財務状況を把握して,仲卸業者が抱えている経営課題を考察することである。事例として東京都中央卸売市場の仲卸業者を対象とした。財務分析は,収益性,生産性,安定性の3つの視点より行い,さらに総合評価を加えた。その結果,収益性や生産性が他の卸売業(中小企業)に比較して低い点が明らかとなった。現在,仲卸業者の定数制がとられている。経営効率の高い仲卸業者による市場運営を形成してもらうためには,規制を撤廃して参入・脱退を自由にするべきである。また,卸売市場法の改正(2004)により,これまでの業務上の規制が大分緩和された。規制緩和をビジネスチャンスとして,積極的に業務の拡大を図っていくことが望まれる。これらの課題に対処し,経営基盤の強化を図っていくことが重要である。The present paper aims to ascertain the financial situation of intermediate wholesalers and examine business problems that these wholesalers face. As a case study, the present study focuses on intermediate wholesalers in the Tokyo Metropolitan Central Wholesale Market. Financial analysis was performed from the perspectives of profitability, productivity, and stability and an overall assessment was made. The results revealed that the intermediate wholesalers studied had low profitability and productivity compared with other wholesalers (small businesses). Currently, the system for ensuring a constant number of intermediate wholesalers is in place in Tokyo. To ensure high management efficiency in market operations by intermediate wholesalers, the present regulations should be abolished and entry to and withdrawal from the market should be liberalized. In 2004, operating regulations were substantially relaxed following the revision of the Wholesale Market Law. Intermediate Wholesalers should seize the business opportunities liberalized by such deregulation by actively seeking to expand operations. These issues must be addressed and the business framework must be strengthened in order to improve the profitability and productivity of intermediate wholesalers.
著者
君島 利治
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.13-20, 2005-06-20

ラーキンの「広く感じのいい店」は,1961年6月18日に完成し,詩集『降臨節の婚礼』に収められる。5行1連の4連構成,僅か20行の短詩であり,詩人の住んでいたハルにある百貨店が舞台となっている。先ず,その店で売られている安物衣類を観察しながら,詩人は労働者階級の社会における立場の向上によって引き起こされた,階級間のボーダレス化を嘆いている。次に女性物の夜着を詳細に観察しながら,詩人は量産化される労働者階級の生活様式,その本質の軽薄さを批判する。その後の瞑想では,プラトニックな恋愛を擁護すると共に,肉体的な愛のみを重視する女性達を非難している。同時に階級間のボーダレス化は女性によって引き起こされたとも指摘し,女性の家庭,社会での立場が強くなったことに警告を発している。更にはこの詩の中には詩人の性的関心,自慰的衝動も確かに存在している。最終部分に出てくる「恍惚」とは,セックスにおける恍惚状態,階級が上がったと錯覚すること,自慰における射精と多義的に解釈できる。しかし,いずれの場合も「合成的で,真新しく,本質が欠如している」。店で売られている商品を見て回るというありふれた内容の詩ではあるが,そこに隠された詩人の意図は複雑である。少なくとも,プラトニックな恋愛を擁護する詩人の建前の奥には,薄手で派手な色のベビードールやショーティをじっくりと観察し,場合によっては勃起すらしているかもしれない詩人の姿を読み取らねばいけない。
著者
杉原 たまえ 石田 裕 三津浜 三栄子 鈴野 弘子 豊原秀和
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.186-192, 2008-03-15

本研究は,南西諸島のような物理的・環境的条件の限定された地域における在来的な自生植物資源の有用性に関する研究である。沖縄県伊江村(伊江島)では,アブラナ科のハマカブラBrassica campestris L.を,マーナと称し,島の人々はかねてから利用してきた。この植物は日本全国で確認されているが,沖縄県においては自生地が限られ,またこれを日常的に食しているのは伊江島だけといわれている。雑草であるがゆえに,この植物の生産に取り組んでいる農家は,2戸に過ぎない。われわれはこのマーナに関する一般的特性に関する聞き取り調査をおこない,さらに栄養分析をおこなった。その結果,特にマーナのポリフェノール含有量は比較的高い数値で,一般的な野菜の10倍程度であった。日常的に利用されながら雑草的な扱いにとどまっているが,成分的には機能性に加え,栄養学的な面でも優れていることが示され,今後食用化が進められるべき素材であることが示唆された。伊江島では製糖工場が閉鎖され,農家の高齢化も伴って耕作放棄が目立ちつつある中で,ラッカセイ,トウガン,花卉につぐ,マーナの特産化が模索されるべきであろう。
著者
中里 厚実
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.205-211, 2016-03-15

我々人類の生活に最も深くかかわってきた酵母の一つにSaccharomyces属が存在する。1838年Meyenによって分離された酵母がS.cerevisiaeと命名されて以来,Saccharomycesに属する多くの酵母が分離されている。一方,S.cerevisiaeには多くの実用酵母が含まれる。すなわち,清酒酵母は葡萄酒酵母やパン酵母と同種と考えられていた。しかし,ビオチンの要求性において清酒酵母と他の実用酵母に差異があることが約半世紀前に初めて認められた。以来,イーストサイジンに対する抵抗性,細胞表面の荷電状態,高濃度アルコール生成など,清酒酵母と他の実用酵母の多くの相違が細胞学的,醸造学的見地から報告された。さらに,1990年代に入り,電気泳動法により生化学的,染色体的見地からの相違が報告された。情報科学の発展と共に2010年代に入り,清酒酵母のゲノム情報も公開されている。
著者
Mojica L.E. Reforma M.G.
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.19-30, 2010-06 (Released:2011-07-26)

玄米は白米よりも栄養分を多く含んでいる健康食品として知られている。玄米は、その消費による健康面の効果だけではなく、経済的かつ生態的な面でも効果を有している点においても評価されており、フィリピンでも再び見直されてきている。多くの研究が玄米消費による健康上の利点を証明している。それらの利点はよく知られているのであるが、本稿では、玄米の需要維持に関する障壁の克服と玄米需要の機会増進という目的の達成とともに、玄米流通のレベルと消費動機、玄米の購買行動と消費行動について明らかにすることを研究目的とする。玄米はロスバニオスとマニラの市場において入手することができる。しかし、ロスバニオスの小売店と比較して、マニラの小売店においては、より多くの銘柄や包装サイズのものが提供されており、より積極的なマーケティング戦略が実施されている。ロスバニオスにおいて実施した消費者調査では、健康維持への動機が消費者を玄米の購入・消費に導いている。彼らは、玄米の重要な属性としてその栄養価値と有機物性を重要視している。健康食品としての玄米のポジショニングは、それ故により多くの情報活動を通して強化しうる。消費者は一般的に玄米を好み、白米の代替品として利用し又は白米と混ぜて利用していた。しかしながら、彼らの健康への関心と玄米に対する嗜好レベルは、彼らの玄米に対する購買行動と消費行動には直接的に表れていない。現在の消費者は、まだ玄米のいわば偶発的な購買者であり利用者であるに過ぎない。調理や料理、食の質・食感、効用の点における便益性のような抽象的な健康の範囲を越えた議論が必要である。玄米に対する一般的な嗜好レベルと消費者の知識の向上は、玄米に関する需要開発の機会の可能性を示している。長い調理時間と食の質・食感に関する問題点を処理するため、また最終的に玄米需要を維持するためには、玄米を主たる原材料、基本的な原材料として利用しうるより多くの調理・加工方法が消費者のために開発され導入されなければならない。
著者
重田 公子 笹田 陽子 樫村修生
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.41-45, 2008-06-15

若年女性とその母親を対象とし,母親の痩身志向が次世代の健康に与える影響について,意識調査と発育記録をもとに検討した。対象者の在胎週数は39.3週,出産までの母体重の増加量は10.0kg, 新生児の出生体重は3,108gであった。低出生体重児は5名(6.0%)出現したが,指標として示したKaup指数をはじめ若年女性のBMIおよび体脂肪率に母親の痩身志向の有無による差は認められなかった。胎児の在胎週数は37.8週を超える正規産であるが,低出生体重児の在胎週数は3,000グラム以上の出生体重児と比較して有意に短かいことが認められた。しかし,母体重増加量は他の群と比べ最も増加していた。低出生体重児が成長した現在のBMIは,BMI区分では正常であるが,体脂肪率は30%を超える「隠れ肥満」であり,他の群と比べて有意に高かった。若年女性のやせが著しく増加し,妊娠した時点で低栄養状態にある母親が増えている。健康の一次予防の観点から,母体の健康および体重管理の重要性が示唆された。
著者
藤田 悠記 高橋 俊介 那須 章人 下井 岳 亀山 祐一 橋詰 良一 伊藤雅夫
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.115-119, 2007-09

ウズラ胚体外培養法を応用し,卵殻を使わず人工容器でのニワトリ胚の発生能について検証した。ニワトリ胚は,白色レグホンを用い,孵卵器内で3日間培養した後,卵の内容物を100mlカップ内に空気透過性のあるテフロン膜を卵型に装着した人工容器に移し,ラップで封をした。再び孵卵器内で孵化までの18日間培養した。人工容器は空気の流通を完全に遮断したもの(Type 1),空気の流通を自由に行わせたもの(Type 2),さらに空気の流通量をある程度人工的に調節可能としたもの (Type 3) の以上3タイプを用いた。また,人工容器に移す際には卵殻粉末あるいは乳酸カルシウムを添加した。人工容器を用い培養した結果,孵化させるまでは至らなかったが,卵殻粉末の添加により孵化直前の20日目まで培養することに成功した。最も好成績であったもので培養16日目に76.0%,18日目に52.0%,20日目に12.0%の生存率が得られた。一方,対照として行った,二黄卵卵殻を代用卵殻に用いた場合は60%が孵化したが,人工容器を用いた場合と同様に培養初期(孵卵6日目)と後期(孵卵16日目)に生存率の低下が認められることから,この2つの時期がニワトリ胚の体外培養において重要な時期であると推察された。The developmental ability of chicken embryos in an artificial vessel without eggshell was investigated using the in vitro quail embryo culture method. After White Leghorn eggs were incubated in an incubator for 3 days, the egg content was transferred into an artificial vessel consisting of a 100-ml cup attached with an egg-shaped air-permeable Teflon membrane and sealed with wrap, followed by incubation in an incubator for 18 days until hatching. Three types of artificial vessels were used : Type 1 with complete blockage of air flow, Type 2 with air flow, and Type 3 with controllable air flow. Eggshell powder or calcium lactate was added when the egg content was transferred to a vessel. Although no hatching was obtained, the eggshell powder addition allowed the culture by day 20, immediately before hatching. In the group with the best outcomes, the viabilities on days 16, 18, and 20 of culture were 76.0%, 52.0%, and 12.0%, respectively. In contrast, in the control group using eggshell containing 2 yolks as surrogate eggshell, 60% of the eggs hatched, but the viability decreased at early (day 6) and late (day 16) time points, similar to the eggs cultured in the artificial vessel. These findings suggested that these 2 time points are important for in vitro culture of chicken embryos.
著者
安藤 元一 小川 博 佐々木 剛 大岩 幸太
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.150-156, 2014-09-19

イノシシ肉とブタ肉の味について,大学生を対象とした官能検査を行った。両者を焼き肉の形で比較したところ,柔らかさではブタが,香りではイノシシが勝っていた。イノシシ肉各部位(ロース,バラ,モモ)間に有意な味の差は見られなかったが,夏肉の評価は冬肉よりも有意に低かった。ブタ肉価格を100としたときに,回答者が妥当と思うイノシシ肉の価格は平均112-138,中央位100-120,最頻値80-100の範囲にあった。このようにイノシシ肉とブタ肉の評価額に大きな差は無かったが,イノシシ肉をブタ肉の2〜4倍に高く評価した回答者も一部に見られた。回答者の性別による差のみられた項目はなかった。野生動物肉を食べることへの抵抗感はみられなかった。現在のイノシシ肉は家庭消費肉としての価格競争力は有していないので,消費拡大には価格以外の訴求力が必要と思われる。
著者
祝 丹 神藤 正人 蓑茂 寿太郎
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.27-36, 2006-06-30
被引用文献数
1

本研究は北京・頤和園の成立に影響を与えたとされる江南の景観について相互の関係を研究したものである。つまり皇帝が当園を設計し,造営する際に,江南の名勝や景観の何を,どのように参考にしたかを明らかにしようとしたものである。研究の方法は,関連する一次文献,歴史資料,既往研究,詩集絵図などの文献調査を中心とし,現地調査により実態の確認作業を進めた。具体的には,1)江南の名勝風景地からの影響,2)江南名園からの影響,3)江南建築からの影響,4)江南水郷風景からの影響,5)江南市街地からの影響を順に明らかにしたものである。このようにして,5つの側面から頤和園の景観構成に見られる江南景観の影響を解明した。
著者
木村 雄一 増田 宏司 土田 あさみ 大石 孝雄
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.270-274, 2011-03-15

本研究ではイヌのメラノコルチン2受容体(MC2R)遺伝子に存在する一塩基多型(SNPs ; 600G>C, 858G>A)と,「訓練能スコア」との関連性をゴールデンレトリーバー,ラブラドールレトリーバー,ミニチュアシュナウザー,マルチーズ,柴の5犬種,計77個体のゲノムDNAを用いて調査した。77個体のゲノムDNAについて遺伝子型判別を行った結果,ラブラドールレトリーバー,マルチーズ,柴の3犬種において600G>Cの遺伝子型およびアレル頻度に犬種差が認められた。また,600G>C多型によって判別される遺伝子型と訓練能スコアとの間に有意な関連が認められた。
著者
浅利 裕伸 柳川 久 安藤 元一
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.218-222, 2014-12-15

われわれは巣資源が限られた狭小森林において,タイリクモモンガ(Pteromys volans)の巣場所を選択の行動を理解するため,7個体によって利用された巣と利用可能な巣の巣間距離を比較した。雄と雌の距離は有意に異ならなかった。これは,すべての個体が狭小森林内にある巣だけを利用し,近隣のどの巣も利用しなかったためかもしれない。タイリクモモンガが利用可能な巣と比べて有意に近い距離にある巣を非積雪期に利用したため,われわれの結果は夏〜秋での巣場所選択性を示した。一方,積雪期には,利用された巣間の距離と利用可能な巣間の距離に有意な差はなかった。これは,タイリクモモンガが非積雪期に近くの利用可能な巣を選択する一方で,積雪期には数少ない良質の巣を利用するために遠くまで移動したためであると示唆された。特に,タイリクモモンガの保全にあたっては,冬季の巣を含む複数の巣の存在が森林内に不可欠である。
著者
堀田 和彦
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は農商工連携におけるナレッジマネジメントを活用した共創的関係構築の条件を解明することにあった。これまで、食品・外食企業と農業分野の連携は、継続性の乏しい不安定で未完成な連携からいかなる条件によって連携組織のすべてがwin-win の状態になる共創的・価値創造的な関係へと進化していったのか、その解明が十分なされているとはいい難い。本研究ではまず、はじめに、農業、食品・外食企業、消費者各々に内在する潜在的ニーズと現実とのミスマッチの実体と連携組織内での問題の解明方向を明らかにし、次に連携が未完成なものから共創的関係に進化する要因をナレッジマネジメント活用の視点から明らかにした。
著者
吉崎 貴大
出版者
東京農業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究は、1) 時計機構の乱れる可能性がある交代制勤務者において、心臓目律神経活動の24時間の概日リズムを評価すること、2) 成人男子学生を対象に食事時刻の違いが心臓自律神経活動の24時間の概日リズムと血中脂質に及ぼす影響について検討することを目的とした。日常生活下における調査では、医療施設に勤務する日勤者(14名)および交代制勤務者(13名)とし、身体活動、自律神経活動、睡眠、食事、眠気、疲労、気分等に関するモニタリングを実施した。その結果、日勤日では、概日リズムに影響する外部刺激(身体活動、睡眠、食事)は交代制勤務者と日勤者との間に有意な差がみられなかった。しかしながら、交代制勤務者は日勤日における概日リズムの頂点位相が日勤者に比べて有意に後退しており、睡眠-覚醒リズムや勤務時間帯との時間関係が適切でない状態であることが示唆された。一方、食事時刻に関する実験的な検証では男子大学生(7名および14名)を対象とした。研究デザインは前後比較試験および並行比較試験とし、2週間にわたって食事時刻を変えることが概日リズムの頂点位相に及ぼす影響を検討した。なお、介入中は1日3回の規定食以外の飲食を禁止し、運動、昼寝の制限を指示した。さらに、起床は6:00、就寝は24:00を維持するよう指示した。その結果、2週間にわたって1日3回の食事時刻を5時間ずつ遅らせたところ、概日リズムの頂点位相が有意に後退した。また、食事時刻を5時間ずつ前進させたところ、食事時刻を変えなかった対照群に比べて概日リズムの頂点位相が有意に前進し、さらには血中脂質が有意に減少した。それゆえ、本研究で得られた知見は、概日リズムの変調を起因とする症状・疾患に対して、食生活を整えることが重要である可能性を示唆しており、将来的に一次予防策を提案する際に、貴重な基礎資料となることが期待される。
著者
小林 享夫 岡本 崇
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.89-104, 2003-12-30
被引用文献数
1

本報告は1998年8月および2000年3月に東京都小笠原村母島において,著者の1人岡本により採集された28点の植物病害標本上に認められた,植物寄生菌類の同定結果とそれらに関する若干の菌学的補遺について述べたものである。すなわち16科19属19種の植物上に22種の菌類と未同定2属の菌類による28種類の病害が観察された。これらのうちハチジョウススキ紫眼斑病菌Ascochyta miscanthi, マルバツユクサ斑点病菌Cercospora japonica, リュウケツジュ赤斑病菌Microsphaeropsis boninensis, シマギョクシンカ褐斑病菌Mycosphaerella tarennicola, およびヘクソカズラ灰褐斑病菌Phyllosticta boninensisの5種はそれぞれ新種として発表した。また日本新産種としてホウライショウ灰色葉枯病菌Fusicoccum vagans(Dothiorellaより転属処理),シュロガヤツリ灰色葉枯病菌Ascohyta papyricola, ムニンセンニンソウ褐斑病菌Ascochyta vitalbae, グアバ・モモタマナペスタロチア病菌Pestalotiopsis toxica, マンゴー灰色葉枯病菌Phomopsis mangiferae, パパイアホモプシス葉枯病菌Phomopsis papayae, マンゴー褐色葉枯病菌Phyllosticta anacardiacearumの7種を記録した。そのほか小笠原未記録種としてColeosporoum eupaederiae(ヘクソカズラさび病菌,種名変更),Colletotrichum capsici(パッションフルーツ炭疽病菌),Fusicoccum aesculi(キュウリ褐色葉枯病菌),Pestalotiopsis adusta(ヘクソカズラペスタロチア病菌),Pseudocercospora paederiicola(ヘクソカズラ角斑病菌),Pseudocercosporella oxalidis(ムラサキカタバミ褐斑病),Septoria pastinacina(パッションフルーツ円斑病菌,種名変更)の7種が加えられた。上記の菌類を加えて小笠原産の植物寄生菌は約170種となる。
著者
西野 康人 中川 至純 谷口 旭 韓 東勲
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では定着氷に着目し、道東オホーツク沿岸域にある能取湖で2013―2015年の結氷期に調査を実施した。本研究の結果、結氷期にも水柱では高濃度のクロロフィルaが分布すること、そして、その分布動態は年により大きく変動することが明らかとなった。また海氷中のアイスアルジーも積算値では水柱より少ないものの、下部に集まることで、効率良く一次消費者に一次生産物を伝える機能を有することが推察された。すなわち、海氷は一次生産を活性化させる機能を有することが示唆された。
著者
熊澤 恵里子
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

越前松平家3代(慶永・茂昭・康荘)にわたる家譜並びに康荘海外留学関係書類、慶永日簿等の国内史料と英独墺の国外史料を収集・リスト化し一部翻刻を行い、大名華族の伝統的な子弟教育に翻弄された康荘の実際を辿ると共に、康荘の留学が衆議により旧領地福井の地域再生の方途として、私有地(城址)活用による試農場経営に生かされ、併設された園芸伝習所も含め民間モデルの先駆けとなったこと、及び、康荘随伴の旧臣にとって渡欧は「変則的な海外留学」であったが、自由闊達な学問研究と藩閥を越えた在外日本人ネットワーク形成を可能とし帰国後の近代化の一翼を担ったことを明らかにした。
著者
塩澤 信良 目加田 優子 秋山 嘉子 林 かほり 森 佳子 和田 智史 上岡 洋晴 川野 因 Nobuyoshi SHIOZAWA MEKATA Yuko AKIYAMA Yoshiko HAYASHI Kaori MORI Keiko WADA Satoshi KAMIOKA Hiroharu KAWANO Yukari 東京農業大学大学院農学研究科食品栄養学 東京農業大学大学院農学研究科食品栄養学 東京農業大学大学院農学研究科食品栄養学 東京農業大学大学院農学研究科食品栄養学 東京農業大学大学院農学研究科食品栄養学 東京農業大学大学院農学研究科食品栄養学 東京農業大学地域環境科学部教養分野 東京農業大学応用生物科学部栄養科学科 Department of Food and Nutritional Science Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Food and Nutritional Science Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Food and Nutritional Science Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Food and Nutritional Science Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Food and Nutritional Science Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Food and Nutritional Science Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Fundamental Arts and Sciences Faculty of Regional Environment Science Tokyo University of Agriculture Department of Nutritional Sciences Faculty of Applied Bio-Science Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.185-192,

本研究は人工芒硝泉による足浴が自律神経活動に及ぼす影響について検討することを目的とした。健康な若年男女計6名(男性3名 : 20.7±0.6歳,女性3名 : 21.3±0.6歳)を対象に,人工芒硝泉浴,淡水浴,湯なし条件(対照座位)の足浴条件を1日1条件,ランダムな順序で施行した。対象者には20分間座位安静をとってもらい,引き続き足浴前値の測定を行った。足浴は座位にて41℃(33L)の温湯に両足膝下約10cmまで15分間浸漬して行った。足浴終了後は対象者自身が水分を拭き取り,両足を毛布で覆い,60分間座位安静を保った。その間,心拍数,心拍変動周波数に基づく自律神経活動,鼓膜温を測定するとともに,体感温度,眠気,疲労感などの主観的評価をVisual Analogue Scale(VAS)を用いて記録した。その結果,人工芒硝泉浴及び淡水浴により体感温度は有意に上昇したが,鼓膜温及び心拍数に有意な変動は見られなかった。また淡水浴後は交感神経活動の有意な亢進が認められたが,人工芒硝泉浴後はそれが見られなかった。本結果から人工芒硝泉による足浴は足浴後の交感神経活動の亢進を抑え,疲労感の低減に寄与する可能性が示唆された。This study was conducted to estimate the effect of a footbath with sodium sulfate (Na2SO4) on autonomic nervous system (ANS) activity. Each of three young healthy males (age, 20.7±0.6 years) and females (age, 21.3±0.6 years) participated in 3 conditions in random order, footbaths with or without Na2SO4, and a sitting position without water as a control. Each subject sat on a chair and kept quiet for 20min with heart rate (HR) stabilized, and subsequently basal measurements were conducted. In a sitting position, they dipped their calves 10cm under their knee joints into hot water (41℃, 33L) for 15min. Immediately after the bathing, they removed moisture, covered their knees with a blanket and sat for 60min thereafter. Counts of HR, ANS activity based on frequency of HR variability, and a core temperature using an eardrum thermometer were measured. The degree of thermal comfort such as relatively hot or relatively cool, sleepiness and fatigue were also estimated using visual analogue scales (VAS). As a result, both footbaths with and without Na2SO4 significantly increased the subjective thermal comfort, while the core temperature and HR counts were unaffected. Sympathetic nervous system (SNS) activity was significantly increased by the footbath without Na2SO4, but not with Na2SO4. These observations suggested that in the footbath, Na2SO4 might have an inhibitory effect on increased SNS activity, and induce some depressive effects on feeling of fatigue.
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

ステロイド・甲状腺ホルモン、ビタミンA・D核内受容体群は、一つの遺伝子スーパーファミリーを形成するため、互いに構造・機能が類似している。これら核内受容体群は、そのリガンドの知られたものの他に、リガンド不明のいわゆるオ-ファン受容体の存在が知られている。オ-ファン受容体の中には、未だ同定されていない脂溶性生理活性物質がリガンドとして働く可能性が考えられており、これら新規脂溶性生理活性物質が同定されると、オ-ファン受容体を介する新たな情報伝達機構が明らかにされるばかりでなく、既存の情報伝達系への関与が明確になると考えられている。本研究では、特に生理活性体の他、代謝誘導体の多いビタミンA、Dに着目し、これら既知の核内受容体cDNAを用い、関連受容体の検索を、ラット各臓器由来のcDNAライブラリーより検索した。その結果、数種のオ-ファン受容体を見出したほか、新たなビタミンD受容体アイソフォーム(VDR1)を見出した。VDR1は野性型(VDR0)に対し、その機能を負に制御するdominat negative型のアイソフォームであることが明らかになった。更にラットVDR遺伝子構造を解析した結果VDR1は、イントロン8がalternative splicingの際、残された(intron retentin)結果生じるアイソフォームであることが証明できた。現在までに、VDRにはアイソフォームの報告はなく、ビタミンDに多くの活性体が存在する事を考えあわせると、VDR1は、これらの一つをリガンドとする可能性が予想された。また同様の手法を用い、今回取得されたオ-ファン受容体の性状を解析している。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

ステロイド・甲状腺ホルモン核内レセプター群はリガンド依存性転写制御因子であり、リガンドである脂容性ホルモン及び脂容性ビタミンの信号を遺伝情報に伝達する。このような核内レセプターを介する情報伝達系は組織の分化・増殖に代表される高次生命現象の制御に中心的な役割を果たしている。従ってこれら核内レセプター群の共通する情報伝達経路や各レセプター固有の情報伝達経路間でのクロストークを明らかにすることは核内レセプターを介する情報伝達機構を知る上で必須の課題である。核内レセプター研究に標的遺伝子組換え技術が導入された結果、当初予想もされなかったレセプターの機能が浮き彫りにされるようになってきた。そこで当研究室ではVDR遺伝子欠失マウスを作製した。1)VDR遺伝子欠失マウスの作製 VDR遺伝子欠失ホモ接合個体を作製した。続いて常法に従い標的遺伝子のゲノム解析や発現量を解析している。またVDR欠失に伴い現われる骨組織や、腎臓での機能障害を調べる。また発生初期や胎児での骨形成について詳細な解析を加える。2)RXR-VDR2重欠失マウスの作製 RXR、VDRホモあるいはヘテロ結合個体を交配させることでRXR-VDR2重欠失マウスを作製する予定である。RXRβ,γ欠失マウスは既にフランス・ルイパスツール大・医・P. Chambon教授より供与された。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

ステロイド、甲状腺、ビタミンA,Dなどの脂溶性生理活性物質をリガントとする核内レセプターは、ひとつの遺伝子スーパーファミリーを形成する。核内レセプターはリガンド依存性転写制御因子であることから、リガンドの信号を遺伝子情報に伝達する最も重要な分子である。したがって、新たな核内レセプターの同定や、未知リガンドの同定は、直ちに新しい情報伝達系の発見につながるため、新規核内レセプターやそのリガンドの検索は極めて有意義であると考えられる。我々は核内レセプタースーパーファミリー内で最も相同性の高い領域をプローブとして新規核内レセプターを種々の臓器由来のcDNAライブラリーを検索し、未だに報告のないタイプのビタミンDレセプターの同定に成功した。特に、ビタミンDレセプターの異なる分子種(VDRアイソフォーム)を同定した。そこで本研究では、VDRアイソフォームのビタミンD情報伝達機構における機能およびそのリガンドの同定に焦点を絞り、研究を進めた。このVDRアイソフォームは今まで知られていたVDR遺伝子のエキソン8と9の間のイントロンがそのままエキソンとして用いられているものであることを、既にVDRcDNA,VDRゲノム構造の解析から明らかにしている。また、このイントロンの挿入によりVDRアイソフォームタンパクは既知VDRのC末端側が欠落することを明らかにした。さらに、このVDRアイソフォームを動物細胞内発現ベクターに組み込み、既に我々が報告しているようなin vitro解析により、転写促進能を調べたところ、dominant negative typeのアイソフォームであることを明らかにした。また、大腸菌内発現にも組み込み、大量合成を行ない、各種ビタミンD類縁体との結合能を調べている。また、このアイソフォーム特異的なcDNAを用い、Northern blot解析を行ない。このアイソフォームmRNAの発現が数多くのビタミンD標的器官でみられた。