著者
谷口 小百合 Chang Kowei 相田 明 Sayuri Taniguchi Chang Kowei Aida Akira Suzuki Makoto
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.115-127, 2003-12
被引用文献数
2

どのような庭園景に癒しをを感じるかを明らかにする目的で、国内外の庭園景の写真40枚を刺激として、SD法によるイメージ調査を実施した。被験者は東京農業大学地域環境科学部造園科学科の学生30人である。評価結果をイメージプロフィール、検定、因子分析により考察、またヒアリング調査を同じ被験者20人に実施して評価要因も考察した。その結果、被験者が庭園景から受ける癒しを規定していた基本因子は情趣性、自然性、清澄性であった。そして庭園景に対する「好き」と「癒される」という感情はほぼ同じであった。癒しを感じる庭園景は特に苔や水のある、湿った印象の強い坪庭、露地、日本庭園など日本独特の景観であった。またヒアリング調査の結果から、特定景観に癒しを感じる理由として原風景が強く影響しているものと考察された。
著者
木原 高治
出版者
東京農業大学
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.68-92, 2011 (Released:2012-12-06)

本稿では,地域社会における地方企業の役割や存立意義を明らかにするために,清酒製造業4社による地域活性化のための具体的な取り組みについて分析を行った。同族企業が多い地方企業の場合,その特徴として,有機的組織の積極面を生かした従業員志向の経営,顧客満足を目指した技術,販売,組織面でのイノベイティブな取り組みに見られる消費者志向の経営,株主への配慮を必要としない長期的な経営志向と地域社会への積極的な貢献意欲などをあげることができる。地方企業は地域社会との共生を基盤として共存共栄をしているが,そのガバナンスの基礎は地域社会を基礎とした多様な信頼関係に求めることができる。また,地方企業の諸活動は,地域社会の人々の生活実体を財やサービスの供給,雇用の受け入れ,地域貢献活動等の多様な側面から支えており,逆に地方企業は地域社会に存在している様々な資源や人間関係により支えられている。その相互のコミュニケーションを支える信頼関係の構築こそが,地域社会における地方企業の役割や存立意義につながるものである。
著者
岩下 明生 小川 博 安藤 元一 Iwashita Akio Hiroshi Ogawa Motokazu Ando
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.69-76, 2015-09

アライグマ(Procyon lotor)の密度指標として捕獲効率(CPUE)が有効であることはすでに知られているが,このデータは捕獲作業を実施しなければ得られない。そこで,自動撮影データから得られた諸指標[撮影効率,撮影するのに要した期間(LTD),撮影メッシュ率]を捕獲効率と比較することによって,自動撮影データの密度指標として有効性を検討した。アライグマの生息状況が異なる神奈川県内の3地域の林地を主な調査地として,2010-2011年に自動撮影調査を行った。捕獲効率,捕獲するのに要した期間(LTC)および捕獲メッシュ率は,行政による防除事業データから算出した。これら指標を地域間で比較すると,撮影効率,撮影メッシュ率,捕獲メッシュ率は,捕獲効率と同様の傾向を示したが,LTDとLTCはそうではなかった。一般化線形混合モデルにより解析したところ,撮影効率は捕獲効率に対して有意な正の関係がみられたが,LTCにおいてはみられなかった。これらのことからアライグマの密度指標として,撮影効率は有効であった。
著者
前橋 健二 久保田 紀久枝
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

味と香りの複合刺激並びに単一物質の複雑味の分子機構を明らかにするために、香気物質が味覚受容体の味応答に及ぼす影響、並びに単一味物質による複数味覚受容体への作用を調べた。官能評価によってカルダモン香気成分は匂閾値以下の濃度で茶カテキンEGCgの苦味を有意に抑制した。さらに、HEK293細胞を用いたセルベースアッセイにおいて、カルダモンの香気成分存在下ではEGCgに対する苦味受容体T2R14発現細胞の応答が抑制されることが示された。また、セルベースアッセイによって、清酒の甘味成分であるα-エチルグルコシドが甘味受容体T1R2-T1R3だけでなく各種苦味受容体も活性化することが見いだされた。
著者
関岡 東生 南橋 友香
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.205-215, 2012-12-14

群馬県川場村は,1975年から「農業プラス観光」を地域振興の基本理念として種々の地域振興策を講じてきた山村である。その結果として,過疎地域指定(1971年)も2000年には解除される等の成果を生んでいる。本稿では,この「農業プラス観光」を支える基盤である民間宿泊業のうち特に民宿に注目し,現状の分析と若干の考察を行った。その結果,民宿業の現下の優越性として,[◯!1]総じて高いリピート率を誇ること,[◯!2]各民宿毎に特徴ある客層を対象とした経営を実現していること,[◯!3]多くにおいて後継者を有していること,等を確認することができた。一方で,解決を要する点として,[◯!1]スキー客への依存,[◯!2]地域社会への経済的貢献度の低さ,[◯!3]他機関・他組織との連携の弱さ,[◯!4]交流事業との連携の弱さ等も明らかとなった。
著者
飯嶋 一浩 竹内 将俊 Kazuhiro Iijima Takeuchi Masatoshi
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.89-96, 2007-09

シロテンハナムグリの生活史を、屋外飼育実験の結果を基に推定した。飼育実験の結果、本種の生活史型は、年1化・幼虫越冬・多回繁殖型であった。成虫の寿命は約1年で、活動期間は5月から9月であるが、夏季に羽化した新成虫は摂食活動の後に地中で越冬して、翌年も再び活動を行った。なお、新成虫の多くは初年度には繁殖活動を行わないが、一部は初年度と次年度の2回、繁殖を行った。幼虫は3齢が終齢であり、初年度の冬季は終齢幼虫の状態で休眠室を形成し、この中で越冬した。成虫の餌資源植物について調査した結果、餌資源植物は3綱18目25科42種であった。このうち訪花植物は2綱14目19科30種、樹液利用植物は2綱3目3科5種、果実利用植物は1綱4目5科8種であった。本研究の結果から、季節を通じ成虫が花粉・花蜜食と樹液食や果実食への切替えを行っていることが、餌資源の枯渇時期を回避することに繋がり、このことが同じハナムグリ亜科の他種に比べて成虫の活動期間と寿命が長い一因であると考えられた。
著者
竹井 かおり 星野 大地 市村 匡史 Kaori TAKEI HOSHINO Daichi ICHIMURA Masashi
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.98-103, 2012-09

本試験では養液栽培において,育枯病の発病抑制効果が期待できるスイートバジル,オレガノ,ローマンカモミールを用いて,ハーブの栽植密度を変えてトマトとの混植試験を行い,ハーブの混植が青枯病発病ならびに培養液中の青枯病菌密度に及ぼす影響を調査した。その結果,対照区と比べて,スイートバジル混植区では青枯病発病が4日遅れ,オレガノ,ローマンカモミール混植区では,青枯病の進行が5~8日抑制された。さらに,スイートバジル,オレガノ混植区では培養液中の青枯病菌密度が検出限界以下(約10 2cfu/mL以下)に減少した。以上のことから,ハーブの混植により,青枯病発病抑制,青枯病進行抑制,培養液内の青枯病菌密度低下効果などが得られる可能性が示唆された。
著者
徳田 宏晴 本間 裕人 中西 載慶
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.126-137, 2012-09-21

我が国の地ビールの一般成分分析を,カテゴリー(上面発酵濃色・淡色,下面発酵濃色・淡色)・醸造期間別(1999-2002年および2008-2010年)に行った。その結果,いずれのカテゴリーのビールにおいても,醸造年度により成分組成(品質)に若干の変動が見られた。近年の地ビールでは,10年ほど前ものと比較して,ビール中のリンゴ酸濃度の低下とクエン酸濃度の増加が認められた。また,ポリフェノール含量が低下していた。さらに,近年その数が増加傾向にあるオリジナル・スタイルビールでは,有機酸と糖質の風味バランスが保たれつつ,両者の濃度が増量されたビールが多かった。小規模醸造によって生産される地ビールに関するこの様な特性を消費者に認識していただき,地ビール業界が今後とも継続的に発展することに期待したい。
著者
新堀 左智 日高 文子 上地 由朗 Niihori Sachi Ayako Hidaka Yoshiaki Kamiji
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.18-27, 2015-06

本研究は2013年に世田谷区立松ヶ丘幼稚園5歳児年長組を対象として実施した。幼稚園園庭のプランターを用いた「イネ栽培体験」を基軸に,園児や保護者を対象に「ポットイネの観察」を合わせた2つの活動を展開した。イネを通じた食育活動から,子どもが示した反応の記録と保護者に実施したアンケート結果を絡めて,本活動の効果や役割を検討した。子どもは,イネ栽培の導入として位置づけられる概要説明時から栽培期間,調整作業を終えるまで,イネに興味を持って積極的に向き合っていた。このことは,イネ栽培を通じた他者との関わりを含めて「楽しさ」の芽生えが作業を「遊び」にしていることに加え,植物栽培および食べ物つくりにとって格好の場である幼稚園で実施したことが要因になっていると考えられた。また,本活動によって子どもが興味を持ってイネと関わることにより植物を育てる面白さを感じ,自分のおコメを得るという目的意識の中で,責任感や連帯感,思いやりを育むといった多岐にわたる効果が得られた。
著者
足達 太郎 石川 忠 岡島 秀治 Taro Adati Ishikawa Tadashi Shuji Okajima
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.267-276, 2010-03

上越市の西部中山間地域の二つの集落において,慣行農法および有機農法を実施している水田から,はらいおとし法によって節足動物を捕獲し,害虫・天敵・その他に区分したうえで,種(種群)ごとの生息密度と種多様度を調査した。捕獲した全サンプルのうち,害虫は個体数比率で70%を占めたのに対し,天敵とその他の節足動物はそれぞれ16%および14%にとどまった。類別にみると,害虫のなかではウンカ・ヨコバイ類が大多数をしめ,そのほかにガ類やコウチュウ類が捕獲された。天敵のなかではクモ類が大多数をしめた。その他の節足動物ではトビムシ類が大半をしめ,ほかにユスリカ類が捕獲された。集落別・農法別にみた害虫および天敵の生息密度は,年次や季節によって変化がみられた。このような発生消長はウンカ・ヨコバイ類,フタオビコヤガ,クモ類でも顕著だった。二元分散分析の結果,集落のちがいが生息密度に有意な影響をおよぼすのは,セジロウンカなどをふくむ5種および8種群の節足動物であることがわかった。いっぽう,農法のちがいが生息密度に有意な影響をおよぼすのは,クモ類などをふくむ2種および6種群であり,そのうち1種群以外はすべて生息密度が慣行区よりも有機区で高かった。各調査区について種の多様度指数(H′)をもとめたところ,吉浦よりも大渕で害虫の種多様度が高く,また慣行区よりも有機区のほうが高かった。天敵では集落間・農法間とも種多様度に顕著な差はみられなかった。本研究の結果,有機区での生息密度が高く,年次ごとに比較的安定した密度推移を示すことがわかったクモ類については,今後,さまざまな種類の農法が水田生態系におよぼすインパクトを評価するための指標生物として活用できる可能性がある。
著者
松林 尚志 石坂 真悟 中川 徹 中村 幸人
出版者
東京農業大学
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.110-115, 2009 (Released:2011-07-26)

多摩川源流域山梨県小菅村の奥山2地域と里山2地域の計4地域において、2008年4月から12月までの9ケ月間、6台のセンサーカメラによって、げっ歯目と翼手目を除く中大型哺乳類相の調査を実施した(1,130カメラ日)。その結果、11種の中大型哺乳類が確認され、撮影頻度(100カメラ日あたりの撮影枚数)が高い種は、上位からニホンジカ(Cervus nippon;12.9)、イノシシ(Sus scrofa;5.4)、テン(Martes melampus;4.5)、ニホンザル(Macaca fuscata;3.3)、そしてタヌキ(Nyctereutes procyonoides;3.1)であった。1位のニホンジカの撮影頻度の割合(32.7%)は、2位のイノシシ(13.7%)に比べ2.4倍高く、4地域すべてにおいて相対的に高い値を示した。また、調査4地域において、対象種の撮影頻度の合計が最も高い傾向を示したのは、湧水域を対象とした奥山地域B(120.2;8種)で、続いて里山地域A(46.0;9種)、里山地域B(44.5;10種)、奥山地域A(17.3;10種)の順であった。湧水域の撮影頻度の高さは、この地域の個体数あるいは利用頻度の高さを反映したものであり、この地域が野生生物管理にとって鍵となる環境であることが示唆された。
著者
高橋 信之 上原 万里子 室田 佳恵子
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

動脈硬化性疾患発症リスクとして近年、重要と考えられている食後高脂血症が、高脂肪食による腸管炎症で悪化する可能性について検討したところ、1週間の高脂肪食摂取による食後高脂血症の悪化が観察された。また摂取する脂質構成脂肪酸の違いについて検討したところ、不飽和脂肪酸に比べて飽和脂肪酸で食後高脂血症の悪化が認められた。以上の結果より、高脂肪食摂取、特に飽和脂肪酸の摂取により食後高脂血症が悪化する可能性が示唆された。並行して検討した、抗炎症作用を有する新規食品成分のスクリーニングでは、新たに食品成分Xが同定され、動物レベルにおいても、高脂肪食誘導性の食後高脂血症悪化を改善することが明らかとなった。
著者
矢野 顕子 本橋 慶一 Akiko Yano Keiichi Motohashi
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.100-105, 2016-12

ハナノキはカエデ属の日本固有種で,愛知県,岐阜県および長野県の限られた地域に自生している。本樹木は,個体数が減少していることから環境省レッドリストの絶滅危惧II類に選定され,その種の存続が危ぶまれている。植物病原菌Phyllosticta minimaによって引き起こされる褐色円斑病は,ハナノキに深刻な被害を与え,天然更新の阻害要因となっていることが考えられている。本研究では,ハナノキ罹病組織から病原菌を特異的に検出し,病害防除の上で重要となる感染経路を特定する目的で,種特異的プライマーを設計した。種特異的プライマーPmiFおよびPmiRは,P. minimaのrDNA ITS領域の塩基配列から設計され,分離菌株由来の全DNAを用いたPCR法で,その特異性が確認された。愛知県名古屋市で採集されたハナノキ組織から病原菌の検出を試みたところ,罹病葉のみならず潜在的に感染している無病徴の葉からも病原菌の検出が確認された。さらに,東京都八王子市に植栽されたハナノキの葉,葉柄,小枝,冬芽および腋芽について調査した結果,それぞれの組織から病原菌が検出された。P. minimaは6月から7月頃に罹病葉から腋芽(冬芽)へ感染,潜伏して,翌年の第一次感染源となることが明らかとなった。Acer pycnanthum is a maple tree indigenous to Japan, which grows in limited areas of the Aichi, Gifu, and Nagano Prefectures. A. pycnanthum is currently an endangered species, with a declining population. This tree is considered to be a vulnerable species according to the Red List of the Ministry of the Environment. Leaf spot disease caused by Phyllosticta minima, a phytopathogenic fungus, inflict severe damage on A. pycnanthum. These fungi secrete inhibitory factors, which have been suggested to repress natural regeneration. In the present study, we designed species-specific primers with the aim of specifically detecting pathogens in tissue samples of A. pycnanthum, thereby identifying infection routes crucial for disease control. The species-specific primers PmiF and PmiR, which were designed based on the sequence of the P. minima rDNA Internal Transcribed Spacer region, were verified for their specificity in PCR tests using the total DNA of isolated strains. In A. pycnanthum tissue samples from Hachioji, Tokyo and Nagoya, Aichi Prefecture, pathogenic fungi were isolated not only from affected but also asymptomatic leaves. Furthermore, in trees planted at Hachioji, Tokyo, pathogens were observed in tissue samples of leaves, petioles, twigs, winter buds, and axillary buds. These results suggest that P. minima infects axillary (winter) buds from June to July via previously infected leaves, thus becoming latent and finally triggering primary infections in the following year.