著者
高橋 佳代 鈴木 和美 三枝 正彦
出版者
東北大学
雑誌
複合生態フィールド教育研究センター報告
巻号頁・発行日
vol.22, pp.9-13, 2006-12

中山間地におけるラビットアイブルーベリー栽培について検討した。その結果,ラビットアイブルーベリーは初期生育が緩慢であるものの,成木となる7年目にはハイブッシュブルーベリーよりも樹高は高くなった。また,キャラウェイ,ブライトブルー,ティフブルーは,ハイブッシュブルーベリーに劣らない収量を得た。しかし,ラビットアイブルーベリー全般的に見ると,果実収量性は現在の状態では冬枯れの年があり経済的ではないので,中山間地に導入するには品種を選択する必要がある。一方,いずれの品種も花芽の着生,開花は充分に行われているので,結実を促進するために人工授粉を行ったところ,多くの品種で結実率は向上し,果実収量を上げるのに有効であった。また,緑枝挿しを検討したところ,ラビットアイブルーベリーのいずれの品種においても,ハイブッシュブルーベリーよりも発根率は高く,緑枝挿しによる挿し木繁殖は有用なことが明らかとなった。
著者
佐藤 武義
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

すでに収集した、崎門派の新発田藩儒臣渡辺予斎の資料を分析するとともに、本年度も予斎関係の資料の収集に努めた。新発田市立図書館には、新発田藩校の資料が纒めて収められているため、館長に依頼して予斎関係資料の他の情報を得られるようにした。その結果、予斎についての情報を持っている当地の郷土史家を知ることができ、『国書総目録』掲載以外の資料が他にあることを確かめることができた。氏所蔵のコピー(以下、コピー本と略称)とこれまで収集した同じ資料を比較すると、筆跡が同一であることが判明した。東北大学本には「速水義行録」と記されているため、いずれも速水義行の書写と考えられる。重複本として『予斎先生鞭策録会読箚記』の例を見ると、コピー本は、丁寧な書体で書写されている点から、清書本と考えられ、東北大学本は、草稿本に当たる。一方、『予斎先生訓門人会読箚記』もコピー本は、丁寧な書体で書写されて、清書体の体裁をとっているが、それは、途中までで、後は下書きの形態になって完成を見ていない。この点でコピー本だけでは不安が残るので、原本によって調査しなければならないが、原本所蔵者との連絡が取れていないので、この比較は今後に回すしかない。同一本が二本ある場合、正本と副本との関係で後に遺されたのではなかろうかと考えられる。『予斎先生鞭策録会読箚記』をコピー本と東北大学本とで比較すると、いずれにも脱文、脱字、清濁の有無等があって方言資料としての優劣は、いまだ決めかねている。資料調査の過程で、講義録は講義者の出身地の言葉で纒められているため、当時の講義録の調査が大々的に行なわれるべきことを痛感した。
著者
祖山 均 巨 陽
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究は,半導体にひずみを付与すると電気的特性が変化することを活用し,半導体の一種である亜酸化銅太陽電池を取り上げ,ひずみの付与による太陽エネルギを電気エネルギへ変換する変換効率を向上させて亜酸化銅太陽電池を高性能化することを目的とする。本年度は初年度の研究を発展させ、ひずみを活用した亜酸化銅太陽電池の高性能化を図った。1.光起電力効果におけるひずみの影響の定量的評価 銅板を高温酸化させて亜酸化銅を銅板上に生成させた試験片を作製し,それを片持ちはりとして荷重-変位を測定し,亜酸化銅の縦弾性係数を求めた。また酸化条件を変化させた亜酸化銅のひずみを,2次元検出器を有するX線回折装置を使用して2D法により,求めた縦弾性係数を用いて亜酸化銅の残留ひずみを評価した。その結果,酸化条件により残留ひずみが異なることを明らかにした。また亜酸化銅太陽電池に曲げ応力や垂直応力を与えることにより,光起電力が向上することを明らかにし,求めた縦弾性係数により,亜酸化銅に負荷した応力をひずみに換算して評価した。2.光起電力効果におけるひずみの影響の電気的特性の評価 銅板から生成した亜酸化銅太陽電池について太陽電池シミュレータにより光起電力を計測しながら,ひずみを付与して,ひずみにより光起電力が向上することを明らかにした。また亜酸化銅太陽電池にひずみを付与しながら亜酸化銅太陽電池の抵抗などを計測した結果,ひずみによる光起電力向上には,亜酸化銅太陽電池のショットキー障壁が変化している可能性を明らかにした。3.ひずみを活用した亜酸化銅太陽電池の高性能化 亜酸化銅を酸化する際の酸化時間や酸素分圧により光起電力が異なることを明らかにし,最適酸化条件を得た。また亜酸化銅太陽電池に曲げ応力を負荷するよりも垂直応力を負荷したほうが亜酸化銅太陽電池を高性能化できることを明らかにした。
著者
文 世一 矢澤 則彦 安藤 朝夫 佐々木 公明
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

(1)交通計画、地理学、都市・地域経済学をはじめとする関連分野において、情報通信及び交通システムの整備が経済活動に及ぼす効果について論じた文献をレビューし、空間のレベル、企業のタイプ、コミュニケーションの形態ごとに、情報通信と交通システム整備の効果をいかにとらえるべきかについて論点整理を行なった。(2)オフィス企業が都市内の他企業と行うコミュニケーションの手段と回数、および都市内での立地選択をモデル化した。ここではコミュニケーションの質的レベルを明示的に考慮してコミュニケーションの手段選択を定式化している。情報通信費用の低下が都市内交通需要、及び企業の立地分布に及ぼす効果をシミュレーションによって分析した。その結果、通信費用の低下によって交通需要は増加する場合と減少する場合があること、企業の立地分布は分散化することなどが示された。(3)都市間コミュニケーションのための情報通信・交通システムの整備が、企業の本社-支社の機能配置に及ぼす影響を通じて広域的な空間構造の変化を分析した。ここでは企業間(他都市に立地する取引先と)、および企業内(同じ企業の本社と支社の間)の二通りのコミュニケーションを行うオフィス企業の行動をモデル化した。このモデルは、一企業の立地選択を定式化するだけではなく、多数の立地行動の間の相互依存関係と立地均衡を通じて都市規模の分布を求めることができる。このようなモデルにもとづいて、支社の立地と都市規模が交通システムや情報通信システムの変化によってどのような影響を受けるかを分析した。その結果、情報通信システムの整備は、支社の立地を促進するが、交通システムの整備は本社への集中化をもたらすことが示された。
著者
山本 理恵 森川 クラウジオ健治 三枝 正彦
出版者
東北大学
雑誌
複合生態フィールド教育研究センター報告
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-4, 2006-12

遺伝子組み換え植物である,グリホサート耐性遺伝子組換えダイズ(Glicine max)(モンサント社のT. MON2)を用いて遺伝子拡散と土壌微生物相への影響について検討した。2004年の圃場試験では非組換えダイズとしてタンレイを用いて距離80cmまで0.115%の確率で,2005年の圃場試験では非組換えダイズとしてタンレイ,スズユタカを用いてタンレイでのみ距離140cmまで0.018%の確率で花粉の飛散による遺伝子拡散が認められた。遺伝子組換えダイズの土壌微生物相への影響は希釈培養法で検討した。細菌一般,糸状菌,放線菌数において非遺伝子組換えダイズと組換えダイズの間で有意な差は認められなかった。
著者
張 媛〓
出版者
東北大学
雑誌
言語科学論集 (ISSN:13434586)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.72-61, 1999-12-24

本稿では近世後期上方洒落本と江戸洒落本における終助詞「わ」と「わ」を含む終助詞を地域差・男女差という観点から比較した。その結果、上方語と江戸語では、使われた終助詞に相違があり、「わ」と複合する終助詞の種類に違いがあり、上方語の方が複合の構造が複雑であることが分かった。そして、男女の位相においても違いがあり、近世前期上方語との比較では、後期上方語は前期より使用範囲が広がり、変化していることが分かつた。
著者
中嶋 隆藏
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

出版物としての嘉興大蔵経が、(1)どのような目的のもとどのような計画で出版されるようになったのか、その出版費用はどのようにして工面されたのか、出版を推進した人物は表面的には誰であり、実質的には誰であるか、(2)出版に至るまでの具体的経過(定本の確定、浄書、刻印、校正、刊行)はどのようなものか、頒布方法はどのようなものか、刊行された大蔵経が事後どれほどの影響を持ったのか、こういった様々な事情を具体的に跡づけることを研究の目標とした。(1)の諸問題については『刻蔵縁起』所収の諸文献がが有力な資料を提供してくれる。これによって検討した結果、次のような事実が明らかになった。末法のただ中を生きるすべての人々にくまなく真の仏教を認識させそれぞれの情況と資質に応じて仏法の実践を勧め悟りの境地へ向かわせるために、廉価で扱いやすい方冊版大蔵経を提供するというのが刊行の目的である。出版費は協賛者の醸金によるとされたが、有力信者の大口寄付を主として早期刊行を目指すか、無名信者の貧者の一燈を主とし刊行の遅延もやむを得ないとするかで見解が分かれた。表面上の推進者と実質上の推進者との意見・方針の不一致が顕在化した。(2)の諸問題については、『嘉興蔵目録』と各典籍巻末の刊記が有力な資料を提供してくれる。これによって検討した結果、次のような事実が明らかになった。定本の確定に至るまでの過程は、当初、厳密な規約によって統一的に処理されるべきであるという共通認識がされていたようであるが、その意識は時に弛緩したようで、少なくとも三度にわたって規約の確認が行われたにも拘わらず、結局一貫されなかった模様で、そのため大蔵経全体としての形式上の統一性を欠く結果を招いた。刊行には莫大な費用がかかったが頒布に際しては紙代、印刷代、製本代などの些少の印刷実費を負担すれば購入できるということで所期の目的は達成された。刊行された大蔵経がその後、中国の各種仏典刊行に際して必ずしも底本の役割を果たさなかったが、日本では、鉄眼の黄檗版大蔵経刊行において底本として採用された。
著者
佐竹 真幸
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

和歌山県串本で分離されたGymnodinium mikimotoi(karenia mikimotoi)をT1培地中25℃で28日間培養した。また、ギムノシン類の分子内^<13>C濃度を上昇させるため、NaH^<13>CO_3添加培養を行った。定常期に達した藻体を遠心分離によって収穫後、藻体をヘキサンで脱脂し、80%PrOHで抽出した。抽出物を溶媒分画に供した後、イオン交換,逆相系カラムを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した。溶出位置の確認は、細胞毒性試験とフォトダイオードアレイ検出器を用いて行い、ギムノシン-Bの単離に成功した。単離したギムノシン-BをMSおよびNMR測定に供し、化学構造の決定を行った。約2300Lの培養から、ギムノシン-Bを2.5mg単離した。ギムノシン-Bは、メタノール等の極性溶媒に対する溶解性が極端に悪く、使用可能なカラム、溶媒の種類が限定されたため、その精製は困難であった。MSおよびNMR分析よりギムノシン-Bの分子式は、C_<62>H_<90>O_<20>と推定された。NMRスペクトルとCID FAB MS/MSスペクトルの詳細な解析から、ギムノシン-Bの構造は、分子末端に2-メチル-ブテナール構造を有し、5〜7員環の15個のエーテル環が梯子状に連結した新規ポリエーテル化合物と推定した。連続したエーテル環数15は、これまで構造決定されたポリエーテル化合物の中で最大であった。ギムノシン-Bのマウスリンパ腫細胞P388に対する細胞毒性は、1.5μg/mlであった。
著者
山下 まり
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

中南米に生息するAtelopus(ヤセヤドクガエル)属のカエルの多くは、主に皮膚に水溶性毒を有する。1975年にコスタリカ産のAtelopus属のカエルからtetrodotoxinが同定されたが、zetekitoxinはすでに1969年に、Furman,Mosherによってパナマ産のA.zetekiに存在する新規の水溶性低分子毒として報告された。しかし、zetekitoxinは、その後、A.zetekiが保護条約下に置かれ、試料が入手出来なくなったことから、その構造は発見から約30年間未定であった。韓国科学技術院のY.H.Kim教授から規制前に精製された半精製品及び精製品のzetekitoxinを供与された。本研究は立体構造を含めたzetekitoxinの構造決定を行うことを目的とした。1.精製Biogel P-2,BioRex70,Hitachi gel3011Cを用いたHPLCで半精製品のzetekitoxinを精製し、純品を約300-400μg得た。2.性状FT-IR(ZnSe)1702,1561,1421,1338,1268cm^<-1>;HR-ESIMS[M+H]^+m/z553.1369(calcd for[C_<16>H_<25>N_8O_<12>S_1]^+m/z553.1313.[M-SO_3+H]^+m/z473.1725(calcd for[C_<16>H_<25>N_8O_9]^+m/z473.1744.この結果から、硫酸エステルの存在が示唆された。TLC(Silica gel 60)Pyr-EtOAc-AcOH-H_2O(15:7:3:6)Rf0.57(tetrodotoxin:0.50,saxitoxin:0.36).saxitoxinと同様に1%H_2O_2/H_2O(v/v)噴霧、加熱後にUV365nmで蛍光スポットとして検出された。3.NMRスペクトルと平面構造の推定NMRスペクトルは全て4%CD_3COOD/D_2O中、20℃か30℃で測定した。^1H-^1HCOSY,TNTOCSY,HSQC,HMBC,NOESY,NOE差,^<13>C NMRスペクトルの解析から、saxitoxin骨格を部分構造にウレタン、N-OHをもつ、非常に特異な新規構造を推定した。
著者
和田 英信
出版者
東北大学
雑誌
集刊東洋學 (ISSN:04959930)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.21-39, 1990-11-30
著者
田畑 伸子
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

私たちは以前、男性ホルモンの一つであるdehydroepiandrosterone(DHEA)がアトピー性皮膚炎でみられるTh2細胞の優位を促進している可能性があることを明らかにした。局所においてDHEAを不活性型のDHEA-sから活性型のDHEAに変換する酵素がDHEA-s sulfataseである。この酵素は、局所ではモノサイト中にふくまれている。私たちは、この酵素活性に及ぼすサイトカインの影響を、モノサイトのセルラインであるTHP-1を用いて調べた。DHEAを含まない無血清培地をもちいてTHP-1を培養し、IFN-γ、IL-4、IL-10、IL-12など10種類のサイトカインを加えてさらに培養後、細胞を採取し、DHEA-s sulfataseの活性をしらべたが、今回の実験では、サイトカインによる活性の違いはみられず、コントロールとの差もはっきりしなかった。また、THP-1にDHEAを加えた後、LPSで刺激し、T細胞をTh1に分化させる作用のあるIL-12の培養上清中の産生量を調べたが、コントロールとの差はみられなかった。私たちはアトピー性皮膚炎局所の特有の病態のなかでDHEA-s sulfataseの活性が変化することで、炎症のコントロールに影響がでるのではないかと考えたが、今回の研究で、DHEA-s sulfataseの活性は炎症局所で大きな変化を示すものではないということが明らかになった。また、喘息などのアレルギー疾患において、好酸球の浸潤に関係するplatelate-acutivating factor(PAF)を不活性化するPAF acetylhydrolaseの活性が低下が明らかになっている。今回私たちは、約70例のアトピー性皮膚炎患者のPAF acetylhydrolase活性を測定し、その重症度および好酸球数との関連を調べたが、はっきりした相関は得られなかった。この結果は、アトピー性皮膚と喘息では、好酸球浸潤の機序に違いがあることを示唆している。
著者
大越 和加
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

環形動物スピオ科の種類は、海産貝類の貝殻に穿孔する多毛類として広く知られている。今回、北日本太平洋沿岸に広く分布する2種(ポリドラ属とボッカルディア属)について、それらの穿孔している貝類(ホタテガイ、マガキ)を採集し、正の走光性を利用して浮遊3節幼生を得、培養条件を検討した。その結果、2種ともに大きな差はなく、水温15℃、飼育密度1個体1ml、換水間隔1/7日で生存率、成長速度ともに好成績が得られた。同時に、これら2種の初期生活史について、形態的、生態的な特徴をも把握した。定着および定着変態後の初期穿孔に何ら関与していると考えられた第5剛毛節球状器官について同2種で調べた結果、両種について球状器官が確認され、その消長は一致した。球状器官は、1.定着期前後の幼生に現われ、貝殻内部へと穿孔を開始した個体にははられなかったこと。2.球状器官の出現期が第5剛毛節剛毛の出現期と一致することから、定着、穿孔を開始する初期の第5剛毛節剛毛の機能と深くかかわっていることが示唆された。穿孔された部位の貝殻微細構造を、走査型電子顕微鏡を用いて調べた結果、貝殻表面につくられた穿孔初期の孔道、貝殻内部へと垂直に揺られた孔道ともに内表面に特徴的な同心円状のあなが観察された。これは、スピオ科の貝殻穿孔に重要な鍵をもつと考えられているが、基本的には穿孔の初期とそれに続く拡大期ともに同じ機構で穿孔されると推察された。今後、スピオ科に共通している貝殻穿孔機構について、大きく第5剛毛節の球状器官と第5剛毛節剛毛との関係、そして掘られた孔道内表面に現われた同心円状のあなの形成に関与している器官とそのあなを形成する機構の点から調べる必要があると考える。これらの研究は、炭酸カルシウムを主成分とする貝殻を溶解する生物侵蝕という点より、広い分野への応用が期待される。
著者
青木 周司 森本 真司 町田 敏暢 中澤 高清
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究においては、ドームふし氷床コアから空気を抽出し分析することによって、主要な温室効果気体である二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素の過去34万年に及ぶ変動の実態を明らかにし、さらに各気体成分の変動と気候変動との関係を明らかにした。それによれば、二酸化炭素濃度やメタン濃度は、暖候期には高く、寒候期には低くなっており、気温変化に極めて良く対応して変化したことが明らかになった。特に、メタン濃度は氷期・間氷期といった大規模な気候変動や、氷期中の比較的大きな気温変動に対応して変化しているばかりではなく、間氷期においてもヤンガ-ドライアス期やわずかな気候の寒冷化にも敏感に対応して変化していた。このことから、二酸化炭素とメタンが気候変動に正のフィードバック作用を及ぼしていたことが確認された。一方、一酸化二窒素についても氷期に低く間氷期に高いといった基本的な濃度変化が明らかになったが、濃度と気温との相関は比較的低かった。一酸化二窒素濃度が氷期の最寒期には310ppbvを越すような異常に高い値が必ず現れていたことを新たに見出した。このような高濃度は人間活動の影響が顕在化している現在の値よりも高く、氷期に露出した大陸棚での生物活動が関係している可能性が考えられる。また、コアから抽出した試料空気の酸素と窒素の同位体比を測定し、コアの年代決定の有効性およびコアへの大気成分の取り込み過程を検討した。これに関連して、フィルン空気の分析も行っており、その結果をモデルでシュミレートすることにより、空気が氷床に取り込まれる際の大気成分の濃度や同位体比の変化や、コア中の気泡とそれを取り巻く氷の年代差についても評価することができた。その結果、気泡の年代はそれを取り巻く氷の年代より常に若く、間氷期では年代差が約2000年であり、氷期には最大5000年まで拡大することが明らかになった。
著者
中澤 高清 中村 俊夫 吉田 尚弘 巻出 義紘 森本 真司 青木 周司
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

地球表層における温室効果気体の変動と循環の実態を明らかにするために、系統的観測や循環モデルの開発を基にした広範にわたる研究を実施した。得られた結果を要約すると以下のようになる。(1)CO_2、CH_4、N_2O,CO,HCFC,HFC、PFC,SF_6などの温室効果気体の濃度と同位体比を、日本上空、太平洋上、シベリア、南極昭和基地、北極スビッツベルゲン島などにおいて組織的に測定し、近年におけるこれらの時間的・空間的変動およびそれらの原因や支配プロセスを明らかにした。N_2Oについては同位体分子種の測定を世界に先駆けて行い、その結果を基にして発生・消滅過程の定量的解析を試みた。また、得られたCO_2濃度とδ^<13>Cの測定結果を同時解析することによって近年の人為起源CO_2の収支を推定するとともに、HCFC,HFC,SF_6の観測結果を南北2ボックスモデルで解析することによりそれらの放出量の時間変化を詳細に検討した。(2)全球三次元大気輸送モデルを開発し、濃度と同位体比を基に近年におけるCO_2およびCH_4の循環を定量化するとともに、高空間分解能の全球生態系モデルを用いて炭素循環における陸上生物圏の役割を解明した。また、全球海洋物質循環モデルを開発し、CO_2交換を基本的に支配する大気-海洋間のCO_2分圧差およびOCMIPプロトコルに基づいた海洋の吸収量を推定した。N_2Oについてはマルチボックスモデルを構築し、過去500年間の大気中濃度の再現を行った。(3)大気-岩石圏における炭素循環の理解を向上させるために、観測に基づいて化学風化に伴う炭素フラックスおよび地下深部から大気へのフラックスの評価を行うとともに、炭素循環におけるサンゴ礁の寄与を検討し、その役割がザンゴ礁によって異なることを明らかにした。