著者
荒井 啓行 岩崎 鋼
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

(1)アセチルコリン合成酵素(ChAT)をmRNAレベルで賦活する作用のある加味温胆湯(かみうんたんとう)をアルツハイマー病治療薬の第1選択薬である塩酸ドネペジルと併用することにより認知機能の改善効果が一層高まることが明らかとなった。併用によるコリン系の有害事象(下痢、吐き気、腹痛など)は見られなかった。脳血流シンチ上、併用により前頭葉などで有意な血流改善効果が見られた。(2)広く腎虚の治療薬として使われる八味地黄丸は二重盲験ランダム化比較試験において平均年齢85歳、平均MMSE13.5ポイントの中等度から高度の血管障害を伴うアルツハイマー病患者の認知機能とADLを有意に改善させた。有害事象は見られなかった。10名中8名で脳血流シンチにて脳血流増加が見られた。(3)抑肝散は、肝の異常な陽気を抑え、易怒性や興奮に効果が知られ、従来小児の夜泣きなどに用いられてきた漢方方剤である。肝の異常な陽気が認知症に伴う問題行動や精神症状を引き起こすとの仮説のもと、抑肝散をアルツハイマー病等の認知症に使用した結果、痴呆症における問題行動や精神症状に対してADLを低下させることなく改善する効果があることが示された。認知症に伴う問題行動や精神症状は、米国で開発された、Neuropsychiatric inventoryを使用した。抑肝散使用中、誤嚥性肺炎や転倒などしばしば抗精神病薬投与中に遭遇する有害事象は1例も見られなかった。また、西洋医学では今以って有効な治療法のないレビー小体病の精神症状に対しても15例中14例に有効であった。Neuroleptic supersensitivityは見られなかった。
著者
清水 肇 村松 憲仁 石川 貴嗣 宮部 学 山崎 寛仁
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

粒子の質量はヒッグス粒子によって創成されると考えられているが、その質量は非常に小さく、実質的に物質の質量を創る機構が他に必要である。南部陽一郎は、強い相互作用における自発的対称性の破れによって物質はその質量を獲得すると説明した。しかし、そのことを証明した実験はまだない。本研究はこの壮大なテーマに挑み、そのために必要な実験手段を開拓した。世界最高エネルギーのレーザー電子光ビームLEPS2を新たに開設し、1GeV領域の光子に対して世界最高エネルギー分解能を持つ電磁カロリメータBGOeggを完成した。この2つを組合わせることによって、計画通りのクォーク核物理研究環境を構築し、データ収集を行っている。
著者
吉野 博 持田 灯 松本 真一 長谷川 兼一
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究は,平成15年度〜平成16年度までの継続研究である。研究目的は,建材や紙類など,これまで個々の部材レベルでしか検討されてこなかった住宅居室内に存在する様々な吸放湿物体の特性を室全体の総合的な吸放湿特性として把握する方法を開発するものである。最終年度である本年度の研究実績は,以下の通りである。1.単室模型を用いた実験昨年度に引き続き,居室の2分の1スケールの実験箱を使用し,居室における吸放湿特性の現場測定の方法に関する検討を行った。本年度は,室内容物として,コピー用紙,T-シャツ,羽毛布団,以上を組み合わせた場合について加湿実験を行い,室内容物が存在する場合における室の吸放湿特性について検討した。2.数値指標の提案と同定方法の検討1.の単室模型を用いた実験結果より,理論的に室内湿度の変動と湿度励振から室の吸放湿性能を評価するための数値指標とその同定方法について検討した。今回は,居室の吸放湿特性を表す数値指標として,1)積算加湿量と加湿開始時の湿度変化から算出する湿度変化速度,2)吸放湿の無い場合の室内湿度をバランス式から算出し,実際の室内湿度と比較してその差を評価する面積評価法,3)室内湿度のバランス式における吸放湿に関わる2つの係数KS,CWを実験結果から同定する係数同定法の3つについて提案し,それぞれの比較検討を行った。3.実大実験家屋を対象とした現場測定単室模型を用いた実験により得られた成果を基に,実際の居室における現場測定を想定し,屋外に設置された実大スケールの実験家屋の一室を用いた実験を行った。検討した室内容物等は,単室模型とほぼ同様であるが,特に本実験では,屋外条件の影響などについて検討し,(2)で提案した評価指標を同定した他,更に精度良く同定できる手法として,3つの係数KS,AW,BAを提案し,その精度について検討した。
著者
梶 弘和
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

タンパク質や細胞などの脆弱なバイオ材料の機能を最大限に利活用するためには、生理環境下での加工プロセスが極めて有効である。本研究では、細胞の脆弱性に対応したバイオファブリケーション技術を開発して、in vitro細胞組織工学への展開を図った。マイクロ流体技術、ソフトリソグラフィー技術、表面技術等をハイドロゲルや高分子ナノシート等と効果的に融合させることで、細胞周囲環境の制御が可能な2次元および3次元培養系を作製して細胞組織機能の評価を行ったところ、これらの系が機能性の筋肉組織等の形成に有用であることが示された。
著者
八百 隆文 後藤 武生 藤井 克司 李 賢宰 小池 佳代
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

高い発光強度が必要な照明等のLED構造は縦型LED構造が望ましいが、絶縁体であるサファイアを基板として用いるため縦型構造作製が難しい。この問題解決として、我々は金属バッファー層とケミカル・リフト・オフ(CLO)技術によりサファイア基板を剥離して縦型高輝度紫外LEDを開発した。即ち、サファイア基板上に金属バッファーを用いて高品質GaNのMOVPE成長が実現し、GaN上に近紫外(385nm帯)発光InGaN/GaN/AlGaNLED構造を試作した。発光層InyGa1-yN/GaN量子井戸(QW)層中のIn組成の精密制御ならびにLEDの構造の最適化によりLED特性の大幅な向上も実現した。要するに、CLO法による縦型高輝度深紫外発光LED開発のフィージビリティーを示した。
著者
田中 真美
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

ヒトの触感にどのような因子が強く関わるかを、物理パラメータが既知な対象物の製作、さらにそれらを用いた官能調査やヒトの触動作測定、受動触刺激等による評価を通して、調査した。これらの知見を基に皮膚の感覚受容器の特性と触動作を、センサ材料、駆動機構ならびに信号処理方法により実現し、しっとり感、ふんわり感、温冷感、ぺたぺた感、きゅきゅっと感などの多機能な触感計測を可能とするセンサシステムを開発した。
著者
西村 直子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ヴェーダ祭式は一般に,祭主が自らの願望成就を目的とし,祭官に挙行を依頼するという形式を取る。祭官は祭式によって祭主と神々とを仲介し,祭主は祭官に報酬を払う。ヴェーダ文献には,祭官と祭主との関係を巡る議論が数多く現れる。しかし,祭主の実態については殆ど解明されておらず,王族による祭主としての祭式への参与が,元来は制限されて部分的にしか認められていなかったことも,殆ど知られていない。社会や生活の変化に伴い,「祭主」のあり方も変化する。本研究では,ヴェーダ文献における「祭主の章」の翻訳と注解を通じ,当時の祭式や思想の内実と社会の変動とを解明するための,1つの確実な資料を提示することを目指した。
著者
伊藤 房雄 門間 敏幸 関野 幸二 森田 明 國分 牧衛 南条 正巳 木谷 忍 冬木 勝仁 工藤 昭彦 米澤 千夏 安江 紘幸
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、3.11大震災の被災地におけるボトムアップ型の農業復興モデルを構築した。具体的な成果は、農地の所有と利用を分離した農地管理手法にもとづき新たに法人化した土地利用型農業を対象に、担い手確保、収益性確保、農地保全、労働力活用、部門統廃合の5点に沿って分類し、経営が不安定になり易い法人設立時や新規事業の立ち上げ時期において求められる地域農業マネジメントの特徴と,それが地域発展に及ぼす影響を総合的に取りまとめた。
著者
李 仁子 二階堂 裕子 金谷 美和
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、東日本大震災の津波被災地において人々の生活再建や地域の復興がどのように進むのかを明らかにするために、複数の調査地で長期にわたる文化人類学的調査を行い、被災者の移動に伴う生活相の変化や、被災者をとりまく社会的環境の変化、さらには彼らのコミュニティに生じた再生や変容を詳細に記録した。再建や復興のプロセスは一様かつ直線的なものではなく、被災の程度、行政による施策の影響、震災前から家族やコミュニティに内在していた諸条件、外部からのボランティアとの関わり方等々といった様々なファクターにより多様かつ複雑に展開するのだが、その全容を民族誌的に記述するためのデータを蓄積することもできた。
著者
河野 裕彦 菱川 明栄 小関 史朗 加藤 毅 菅野 学 伏谷 瑞穂 松田 晃考
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

電子・原子核波束計算法を用いて,COやN2のレーザー場中の多電子ダイナミクスやアト秒パルスを発生する高次高調波のレーザー制御法を提案した。また,実験グループは,理論の予想通りCO2の等価な2つのC-O結合の一方だけを2色レーザーパルスの形状によって選択的に切断させることに成功し,化学反応制御の新たな可能性を示した。さらに,反応動力学計算を用いて,XFELによる多価カチオン生成とそのクーロン爆発を使った時間分解分子イメージングに対するシミュレーション法を確立して,ヨードウラシルなどに適用した。そのほか,分子ベアリングやDNA鎖切断の実時間シミュレーションを行い,それらの動力学を明らかにした。
著者
日野 正輝 富田 和暁 伊東 理 西原 純 村山 祐司 津川 康雄 山崎 健 伊藤 悟 藤井 正 松田 隆典 根田 克彦 千葉 昭彦 寺谷 亮司 山下 宗利 由井 義通 石丸 哲史 香川 貴志 大塚 俊幸 古賀 慎二 豊田 哲也 橋本 雄一 松井 圭介 山田 浩久 山下 博樹 藤塚 吉浩 山下 潤 芳賀 博文 杜 国慶 須田 昌弥 朴 チョン玄 堤 純 伊藤 健司 宮澤 仁 兼子 純 土屋 純 磯田 弦 山神 達也 稲垣 稜 小原 直人 矢部 直人 久保 倫子 小泉 諒 阿部 隆 阿部 和俊 谷 謙二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1990年代後半が日本の都市化において時代を画する時期と位置づけられる。これを「ポスト成長都市」の到来と捉えて、持続可能な都市空間の形成に向けた都市地理学の課題を検討した。その結果、 大都市圏における人口の都心回帰、通勤圏の縮小、ライフサイクルからライフスタイルに対応した居住地移動へのシフト、空き家の増大と都心周辺部でのジェントリフィケーションの併進、中心市街地における住環境整備の在り方、市町村合併と地域自治の在り方、今後の都市研究の方向性などが取組むべき課題として特定された。
著者
首藤 伸夫 渡辺 晃 酒井 哲郎 宇多 高明 阿部 勝征 平沢 朋郎
出版者
東北大学
雑誌
自然災害特別研究
巻号頁・発行日
1985

1)地震断層運動の特性:強震動継続時間の方位依存性から、断層長さと破壊の伝播方向を推定する新方法を開発した。日本海中部地震時の比較的大きな余震震源を、遠地での中周期P波及び長周期SH波から精密に決定した。これらの手法は他の地震にも適用され、良い結果を与えた。2)海底地盤変動と津波初期波形:南北2断層運動間の休止時間が津波分布に及ぼす影響を検討した。この休止が原因で、最高で10%程度の波高差が生ずる。津波記録を歪ませうる験潮井戸特性を14箇所について調査し、補正曲線を作製した。いくつかの井戸では、水位差1mを回復するのに10分以上かかり、日本海中部地震津波の記録に大きな影響を与えた事が立証された。3)エッジボアの理論と実験:大型水槽での実験から、津波進行方向にほぼ沿った斜面境界上で渦が発生し、海岸線に平行に津波と共に走っていく事を発見した。実験水槽奥部に置かれた川の内部での津波変形を追跡した。4)津波数値シミュレーション:高次近似の非線形分散波方程式を誘導し、1より大きいアーセル数に対する、摂動パラメタ(相対水深)の4次近似迄入れた式が他式に比べ精度が良い。非線形問題での数値解析誤差評価に、疑似微分方程式の解を使用する方法を開発した。空間格子寸法の決定に海底地形を考虜に入れる方法を示した。5)津波先端部形状の決定法:砕波段波の波形から最大衝撃圧を推定する手法を開発した。波状段波の変形過程を適当な渦動粘性係数の導入で追跡できる事を示した。巻き波型砕波の数値計算を行い、波頂から飛び出た水塊の運動及びそれにより引き起こされる運動についての知識を得た。6)津波先端部の破壊力:ブロックが完全に水没し最大水平波力が作用する瞬間、最も不安定になる。被災規模が大きくなるのは、津波先端に生じたソリトン列の連続性が原因である。
著者
南澤 究 SANCHEZ GOMEZ Cristina SANCHEZGOMEZ Cristina
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

N2Oは強力な温室効果ガスであると共に、オゾン層破壊の原因物質でもある。植物根圏はN2O発生源の一つであり、私たちのグループはDNA校正機能を低下させたダイズ根粒菌Bradyrhizobium japonicumから、突然変異によりN2O還元酵素(N2OR)活性の上昇したNos強化株を作出し、N2O削減効果を実証してきた。しかし、Nos強化株におけるN2OR活性上昇の原因は不明であったため、本研究ではその原因解明を行ってきた。昨年度まで、(1)bll4572(nasS)遺伝子の変異がNos強化株におけるN2OR活性上昇の原因であること、(2)本遺伝子はB. japonicumの脱窒系においてnosZだけでなくnapAの転写制御に関与している新規転写制御因子であること、(3)NasTタンパク質による根粒菌脱窒の遺伝子発現促進をnasS産物が負に制御することが明らかとなった。本年度は、まずnasST介在nosZ遺伝子発現誘導の硝酸濃度プロファイル解析を行った。種々の濃度の硝酸および亜硝酸添加条件下のnosZおよびnapEの遺伝子発現の比較を行ったところ、細胞レベルのNasSTシステムの硝酸感受の臨界濃度は、50uM付近であり、ダイズ根圏における硝酸濃度より高いことが分かった。したがって、植物根圏において、NasS変異によりN2O還元酵素活性を上昇させられる科学的根拠が明らかとなった。また、次世代シーケンサーを用いたnasST変異体の網羅的な遺伝子発現解析の準備を行った。具体的には、野生株およびnasS変異株を好気条件で培養した細胞からRNAを抽出後、cDNAを作成し、次世代シーケンサーのRNA-seqによる発現解析系を確立した。
著者
安保 英勇
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

沖縄県本部町の住人を対象にインタビューを行った。対象は25歳から60歳までの男女10名で、複数回にわたりインタビューを行った。また、対象者の内の一人が加入する模合「Kの会(仮称)」にも参加し、参与観察を重ねた。対象者の全てが模合に加入しており、平均では2つ程度、多い者では現在6つの模合に参加している。模合の動機として最も強いものは親睦を強めることにある。「親睦」といっても様々である。「那覇からこっちに来た人が、こっちでも友達欲しいという訳よ。その子の友達がこっちにいるんだけど、『じゃぁ模合しようか』って始めたわけさ」(25歳女性)というように新たに交友関係を構築しようと企画される場合がある。また「僕は、親戚があちこちに散らばってるわけさ。だから、何かないとみんなと顔合わせ無いわけ。それじゃ寂しいってんで『模合しよか』ってなったんです。」(50歳男性)など、親戚関係を保持する事を意図して企画される場合がある。このほか親睦模合のもっと典型的なものは、中高の同級生・職場の同僚・自営業者の同業者同士が母体となるものである事が確認された。また、親睦模合でも親睦以外の機能も有する場合がある。「Kの会」は、退職教員や役場職員、自営業者などを主なメンバーとしているが、町の将来像を模索することを目的の一つとしており、住民参加による芝居の公演を企画した。この芝居は民話を題材に方言で行われ、一つの地域興しと考えることができよう。一方「Kの会」のメンバーの一人は、「僕は客商売だからね、こういうところに来て、顔を広げておくわけさ」と「仕事上のつきあいの場」と見なす面もある。歴史的には、1970年頃までは地域ごとに比較的大きな金額の模合を行い、家の改修や新築費用に当てていた。近年そのような本来的な金融機能は著しく衰退し、上記のような多様な「親睦」の機能を有するように変容している事を確認した。
著者
本多 良太郎
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

25年度は試作Cylindrical Fiber Tracker (CFT)の製作とそのビーム試験を予定通り行った。試作CFTは本実験で使用する実機と同サイズであり、構造的に複雑なCFTの開発の実証とその性能の確認を主な目的として開発された。試作CFTはビーム方向にファイバーを張る、通称φ面と、らせん状にファイバーをまきつける、通称UV面から構成され、全読み出しチャンネル数は1200ch程度となった。特にUV面はらせん状にファイバーをまきつけるという工作上の困難があるが、これを達成することが出来た。ビーム試験は東北大学サイクロトロンRIセンターにおいて、陽子ビームを用いた性能評価を行った。その結果から、CFTは十分な性能を有しており散乱断面積を測定することが出来ることがわかった。次に、読み出し回路に関して述べる。本実験でCFTを読み出すための高集積MPPPC読み出し回路の開発を行った。本回路はVME 6U規格の基板に2個のEASIROCチップを搭載することで、64chのMPPCを一台で読み出すことの出来る回路である。この回路により、MPPCの読み出し単価を1500円まで下げることが出来た。我々の最終目的はバリオン間相互作用の一般的理解であり、その中でもとりわけ重要なΣp間の研究をJ-PARCで行う予定であった。ところが、25年度6月にJ-PARCで放射能漏洩事故があり予定されていたビーム計画が白紙、および遅延となってしまった。そこで、私は博士論文のためにテーマを関連研究であるJ-PARC E10実験に移し、核中でのΣN相互作用の研究を行うことにした。その結果、核中でのΣN相互作用の性質が、原子核の構造に依存することがわかった。また、その結果を日本物理学会で報告した。
著者
佐藤 伊佐務 李 徳新 山村 朝雄
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、風力発電の出力平滑化を用途としたウラン電池の実用化に向けた基礎研究として、ウランのV価とIII価のβージケトン錯体、テトラアミド錯体の合成と物性化学の検討、小型レドックスフロー電池方式の電解試験によるこれら錯体調製時のイオン交換膜の検討を目的とする。活物質候補として種々の安定なウランV価、III価錯体の調製法を確立し、配位子と物性の関係を検討した。
著者
森山 園子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

線形計画問題(LP)を解くアプローチの1つに,単体法[Dantzig(1947)]に始まるピボットアルゴリズムがある。多項式時間ピボットアルゴリズムの存在の解明はLPにおける重要な未解決問題である。本研究では,多項式時間達成の可能性があるピボット規則として近年注目を集めている最小訪問規則[Zadeh(1980)]に着目し,以下目標を通じてこの未解決問題の解決に挑んだ。(1) ピボットアルゴリズムの振る舞いを記述するLPグラフの列挙法を構築;(2) 最小訪問規則から着想した履歴依存型ピボット規則の振る舞いをLPグラフ上で解析;(3) ピボット規則の適用回数に関する予想の成立・不成立を検証
著者
遠藤 康夫 加倉井 和久 山田 和芳 笠谷 光男 神木 正史 小松原 武美 鈴木 孝 高木 滋
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1989

高温超伝導を示す銅酸化物及びこれらの物質と同じ結晶構造を示す同型異物質の主として磁性を中心に物性と結晶構造の相関を研究した。1.銅酸化物では超伝導発現と銅イオンの持つスピンの二次元的な反強磁性磁気相関との因果関係を徹底して調らべた。最も大事な收穫はキャリアーが正孔である場合は酸素サイドに広がったキャリアーのスピンの影響で磁気相関が滋常に大きく変化し、反強磁性的な磁気相関も壊されるのに対し、電子的キャリアーの場合では反強磁気性相関が残ることが実験的に証明された。これは電子相関と磁性との密接な関係を論ずる基礎となる。2.キャリアーの濃度が増えると、磁気相関距離が短くなり、電子相関の強さとキャリアー濃度及び反強磁性相互作用の間の対応がついた。3.超伝導発現と磁気相関の関係については、全く同じ結晶を使って、酸化の度合いを制御して超伝導転移を変化させることに成功し、その結果として反強磁性相関及びスピンの揺らぎが超伝導の発現と密接にからんでいることを見つけた。4.同形のNi酸化物で、酸化度の違いによって微妙に反強磁性構造が変化することを見つけた。この時は結晶構造も微妙に変化することも見つけている。その他にもUを含むアクチナイド化合物の電子相関の強い物質について、超伝導反強磁性電子相関の3つの因果関係を含む関係を含む研究に着手した。この研究には、1K以下の極低温で中性子散乱が必要なために希釈冷凍機の調整を行なって、測定実験が可能なところにこぎつけた。
著者
亀山 充隆 張山 昌論
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

知能自動車の知能処理は将来のシステムLSIの応用として期待されている.知能自動車への応用が実現可能となれば,ありとあらゆるリアルワールド応用が可能になる。このようなシステムの実現には,システムLSIのハイレベル階層の開発技術要素を研究する上での好例となる.本研究ではこのような観点から,主に以下の要素技術に関する研究を行った。1.高安全知能自動車用VLSIプロセッサチップファミリの形成高安全知能自動車のための世界最高性能VLSIプロセッサチップファミリの開発を行った。これらは,ステレオビジョンVLSIプロセッサ,オプティカルフロー処理VLSIプロセッサ,軌道計画VLSIプロセッサ,確率推論に基づく軌道予測などであった。これらのVLSIコンピユーティングの計算量減少を目的とした,VLSI向きアルゴリズムレベルも考察した。また,システムLSIの実用化を推進する1つの方策として,現在のFPGAの性能をはるかに超えるフィールドプログラマブルVLSIの開発も行った。2.システムインテグレーションと知能アルゴリズムリアルワールドの環境情報をセンシングし,将来起こるであろう環境の変化を予測することが必要である。計測値にも予測値にも誤差が含まれることを十分考慮したシステムインテグレーションが重要であり,一定サンプル周期毎に同一処理を繰返すリアルワールド信号処理をモデルを構築し,サンプル周期の満たすべき要件を考察した。3.VLSIプロセッサの構成理論メモリと演算部との間の配線による性能ボトルネックを解決するため,記憶と演算を一体化させたロジックインメモリアーキテクチャに基づくVLSIプロセッサの構成法を提案し,その有用性を実証した。リニアアレーやバス構造などの簡単な相互結合回路網を有するロジックインメモリアーキテクチャモデルにおいて,ハードウェア量制約下での処理時間電力最小化問題の解法を考察した。これらも含めた一般化されたVLSIプロセッサのハイレベルシンセシス問題への拡張も行い,高安全知能自動車用VLSIプロセッサの具体例を通して,以下のような最適化問題に対し実用的な段階により近づけることができた。・「チップ面積制約下での,演算遅れ時間最小化」・「演算遅れ時間制約下での,チップ面積最小化」・「チップ面積と処理時間制約下で消費エネルギーの最小化」
著者
江刺 洋司 太田 宏 吉岡 俊人
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1992

本研究は省エネルギーを前提として国連が計画中の、国際植物遺伝子銀行設立に際してコンサルタントを依頼され、それを実現に導くための基礎的な種子の貯蔵条件を解明するために実施された。その結果、遺伝資源としての植物種子の長期間に亙る貯蔵を、永久凍土の年平均-3.5℃で行うためには、従来各国で採用されてきた方法を適用することは妥当ではなく、種子の劣化を招く主要因となっている水分と代謝生産物であるカルボニル化合物を除去することが必要なことが判明した。そのための最も簡便な方法として、定期的な真空脱気法の導入が望ましいことが明かになった。ただ、残念ながらこの場合には完全なエネルギーコスト消減は不可能ということになり、初期の目的には沿わないことになる。また、施設費も相当嵩むことになることから、相当長期に亙る運用を前提とした経済的な検討が、実際に建設に踏み切る場合にはなされる必要がある。ただ、そうだとしても、将来の化石燃料枯渇の時代を予測するならば、本計画は実行に移されるべき性質のものと私は判断する。幸運なことに、本研究の過程で、種子の老化機構についての実体が解明され、種子の貯蔵湿度に対応して二種類の劣化の道が作動することが判明した。一つは、高い湿度下でのみ進む補酵素群の消耗、ミトコンドリア発達能の低下によるものであり、通常採用されている乾燥種子の保存の場合には殆ど問題とはならないと思われる。二つめの種子老化の仕組は種子自らが貯蔵期間中に生成・放出するカルボニル化合物、主としてアセトアルデヒドと種子中の機能蛋白質のアミノ基との間でシッフ反応の結果、蛋白質の変成を来して老化する機構であり、この反応率も高湿度下で高いものの前者とは違って、通常用いられる低湿度下でも進行するものである。後者の仕組みは植物の老化に一般的に当てはまるものと推定され植物の老化の研究に新たな展望を与えることになった。