著者
小針 大助
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.65-69, 2008-01
被引用文献数
1

豚の福祉改善法としての発酵床(バイオベッド)方式の評価。世界における豚肉の生産量は、ここ数年1億トンを超えるようになり、牛肉(約6,000万トン/年)や鶏肉(約7,000万トン/年)など他の食肉品目と比較しても、世界で最も需要の多い畜産物となっている。近年、EUを中心としたアニマルウェルフェア思想の影響から、従来の家畜の生産システムに対する変化が求められてきている。とくに豚の飼養管理に関しては、繁殖豚および育成雌豚の個別ストール飼育および繋留での飼育の改善が求められており、欧州委員会の理事会指令Directive2001/88/ECでは、2012年までに個別ストール飼育を廃止することが既に決定されている。さらに、2013年からは飼育スペースの拡大、ルーティング(鼻先で土やワラなど掘り返す行動)などの行動が常時可能な飼養環境にすることなども全ての飼育施設に保障されなければならない項目となっており、欧州が主要な貿易対象であるメキシコやチリ・ウルグアイなどラテンアメリカの輸出国も欧州基準への対応を進め始めている。アメリカやカナダも政府としての公式基準は制定されていないが、州ごとや任意認証団体による同様な基準が作成されている。
著者
門井 秀憲
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.47-52, 2009-01

本校は、茨城県農業を支える経営感覚に優れた農業経営者を育成することを設置目的としています。また教育目標は、幅広い視野と豊かな人間性を養成するとともに、時代に即応できる高度で専門的な農業技術と経営管理能力を習得することです。本校は、平成23年に創立百周年を迎える歴史と伝統のある学校です。すでに八千人を越える卒業生が、茨城県の農業や農業関連産業の分野で活躍し本県農業を支えています。本校の沿革は、明治45年の県立農事試験場練習生制度が始まりで、昭和43年に農業講習所、農業学園、蚕業講習所が合併し茨城県立農業大学校として創立しました。その後幾多の変遷を経て、平成2年には経営情報学科や研究科の新設など学科再編を行い現在に至っています。さらに、時代のニーズに対応するため、平成21年度から学校教育法に基づく専修学校として新農業大学校がスタートいたします。
著者
北原 理作 笠井 文考 遠藤 明 高木 恵一 平野 浩司 相馬 幸作 増子 孝義
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.987-991, 2013-10

北原ら(2013)は67巻9号において,海外における忌避材の評価について紹介した。一方,農業被害,林業被害,衝突事故などの被害額が60億円以上に達しているエゾシカにおいては,被害対策としての忌避材の効果が十分検証されていない。ここでは市販の忌避材のうち,海外でも利用されているハイイロオオカミの尿(原液100%)(以下忌避材と記す)について検証した結果を紹介する。調査は,北海道東部に位置する美幌町の公共牧場周辺に多数生息し自由に牧草地を出入りしている野生の個体群と,東京農業大学オホーツクキャンパスで飼育している6頭の個体を対象とした。2012年8月~9月に公共牧場で野外試験を実施した後,11月に飼育舎内で追加試験を行った。対象とした野生個体群は,有害駆除の対象にはなっていないが,狩猟期には捕獲対象となるため非常に警戒心が強い。一方飼育個体は,警戒心が低く人馴れしており対照的である。評価の方法は,海外の事例ではオオカミやコヨーテの尿を,直接餌に散布して効果を調べているものも多いが(北原ら2013),本忌避材が接近を妨げる目的で市販されているため,餌場である牧草地(飼育個体については給餌場)に対する接近や特定の出入り口からの侵入阻止に効果があるか否かに限定して調べた。忌避材を設置した場所を自動センサーカメラ(以下カメラと記す)で24時間昼夜問わず監視し,カメラのみを設置する対照区と,忌避材とカメラを設置する試験区を林縁に設定し,林内から牧草地への侵入および忌避材設置場所付近における牧草採食の有無を記録した。北海道ではおよそ100年前にエゾオオカミは絶滅したが,メーカーによる忌避材の原理は,シカの天敵であるオオカミの尿の臭いに対しては,絶滅した今日でも先天的に忌避反応を示すという説明である。
著者
永幡 肇
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.1151-1154, 2007-11

食の安全安心は国内外を問わず社会の大きな関心事となっている。酪農学園大学の公開講座が「食の安全安心フォーラム」を主題に大阪府食の安全安心大阪府民会議との共催で2007年8月23日に大阪リバーサイドホテルを会場に開催された。講演会には、消費者はじめ流通関連、食品製造加工、行政および教育機関から参加者が集まり開催された。本稿は、乳および乳製品の消費者および一般市民向けに行なった「乳の生産農場から:良質・安全に向けた取り組み」と題しての講演の内容を紹介する。
著者
桂 圭佑 Bonifacio A. 藤倉 雄司 安井 康夫 藤田 泰成
出版者
養賢堂
巻号頁・発行日
vol.93, no.11, pp.951-958, 2018 (Released:2019-04-18)

キヌア(Chenopodium quinoa Willd.)はその高い栄養学的価値と幅広い環境適応性から,近年注目を集めている。また,2016年にキヌアのゲノム概要配列が解読されたことから,今後有用遺伝子の単離などの研究も急速に進むことが期待されている。そのような中,世界最大のキヌア生産地の一つであるボリビア多民族国(以下ボリビア)のアルティプラノでキヌア栽培の視察を行った。現地では主に高地型(Altiplanoタイプ)キヌアと塩地型(Salarタイプ)キヌアが栽培されている。高地型キヌアは比較的降水量の多い地域(年間約400mm)でバレイショやムギ類と輪作して栽培されている一方で,塩地型キヌアはウユニ塩湖畔の降水量が少ない地域(年間約200mm)において単作で栽培されている。近年のキヌアブームにより栽培面積の拡大や休閑期間の短縮が進み,現地では土壌劣化の進行が指摘されており,キヌア栽培の持続性の低下が懸念されている。そのため,育種による耐病性の付与や早生化,生物農薬や生物資材の開発,現地に自生する植物を利用した風食対策や土壌肥沃度の維持・向上,耕畜連携による持続可能性の向上などの数多くの取り組みがなされている。また,キヌアの遺伝資源の管理やその効率的な利用体制の構築は喫緊の課題である。
著者
桂 圭佑 Bonifacio Alejandro 藤倉 雄司 安井 康夫 藤田 泰成
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.93, no.11, pp.951-958, 2018-11

キヌア(Chenopodium quinoa Willd.)はその高い栄養学的価値と幅広い環境適応性から,近年注目を集めている。また,2016年にキヌアのゲノム概要配列が解読されたことから,今後有用遺伝子の単離などの研究も急速に進むことが期待されている。そのような中,世界最大のキヌア生産地の一つであるボリビア多民族国(以下ボリビア)のアルティプラノでキヌア栽培の視察を行った。現地では主に高地型(Altiplanoタイプ)キヌアと塩地型(Salarタイプ)キヌアが栽培されている。高地型キヌアは比較的降水量の多い地域(年間約400mm)でバレイショやムギ類と輪作して栽培されている一方で,塩地型キヌアはウユニ塩湖畔の降水量が少ない地域(年間約200mm)において単作で栽培されている。近年のキヌアブームにより栽培面積の拡大や休閑期間の短縮が進み,現地では土壌劣化の進行が指摘されており,キヌア栽培の持続性の低下が懸念されている。そのため,育種による耐病性の付与や早生化,生物農薬や生物資材の開発,現地に自生する植物を利用した風食対策や土壌肥沃度の維持・向上,耕畜連携による持続可能性の向上などの数多くの取り組みがなされている。また,キヌアの遺伝資源の管理やその効率的な利用体制の構築は喫緊の課題である。
著者
楠谷 彰人 松江 勇次 崔 晶
出版者
養賢堂
巻号頁・発行日
vol.93, no.10, pp.853-861, 2018 (Released:2018-12-10)
著者
植木(永松) 美希
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.676-680, 2015-08

日本でもようやく放牧畜産基準認証が新しく動き出したので,本稿では,そのなかでも実際に放牧酪農牛乳認証第1号を取得した放牧パスちゃん牛乳を取り上げる。これは,動物福祉認証食品であるという点で価値があり評価できることは間違いないが,山形県酪農協同組合の子会社(株)飯豊ながめやま牧場(生産)-奥羽乳業協同組合(加工)-あいコープみやぎ・ふくしまの協同組合間提携による動物福祉に配慮した新しいフードチェーンの開発であるところにも大きな価値を見出せる。2. 株式会社飯豊ながめやま牧場 1) 牧場の概要と放牧酪農実践牧場認証の取得 飯豊ながめ山牧場は,山形県飯豊連峰の麓に位置する山形県酪農協同組合が2005年に100%出資して営業を開始した牧場である。当初はながめやま牧場と名乗っていたが,その後,飯豊市からも出資があったため,飯豊ながめやま牧場との名称になった。役員は11名,代表取締役は同山形県酪農協同組合の組合長が兼任しているほか全員が組合役員との兼任である。牧場の社員は牧場長1名他8名のスタッフで構成される。こちらは全員が非農家・酪農家出身の20代から30代の若い社員である。総面積約180haの広大な牧場であり,牛舎3棟,堆肥関連施設2棟,搾乳施設一式から構成される。
著者
植木(永松) 美希
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.855-860, 2015-10

本稿では放牧酪農牛乳認証第3号となる「よつ葉放牧生産者指定ノンホモ牛乳」を取り上げる。この牛乳は,高度経済成長期に子供達に安全安心な牛乳を飲ませたいという母親達の強い思いから始まったよつ葉牛乳の共同購入グループの運動の長年にわたる継続から誕生した牛乳である。共同購入は単なる商品購入の手段ではなく共同購入運動という日本で特に発達した消費者運動の1つの形態といえるだろう。筆者は今後の日本酪農の継続発展には消費者の酪農への理解と応援が極めて重要な鍵を握ると考えている。今回の放牧生産者指定ノンホモ牛乳は,本誌8月号で紹介した(株)飯豊ながめやま牧場とあいコープによる放牧パスちゃん牛乳と同様,酪農生産から牛乳消費までを一貫してマネジメントする新しいタイプの酪農乳業フードチェーンでもある。生産には北海道JA忠類管内の5戸の生産者が関わっている。北海道は日本の酪農の中心である。その酪農王国での取り組みという点からも注目できる事例であろう。認証取得第2号は同じく北海道内の個人酪農家である。個人の場合,放牧や放牧認証を活用した多様な経営の展開が実践されているので,また別の機会に是非取り上げたいと考えている。もちろん放牧を実践しながら認証を取得していない酪農家も多く存在するが,今後の日本の酪農経営の発展と多様性を考える上では,認証取得は大きな選択肢の1つとなるであろう。
著者
福井 豊
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.499-504, 2007-04
著者
加藤 直人
出版者
養賢堂
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.697-705, 2012 (Released:2013-10-08)
著者
李 世安
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.553-557, 2013-05

われわれ人間も動物の一種である。動物界の分類では,人は脊椎動物・哺乳綱・霊長目・真猿亜目に属して「ホモ・サピエンス(知恵のある人)」という学名が付けられている。考古学の発展によって証明されたことは,われわれ現代人を含む新人類の歴史は,スペインのアルタミラという所の洞穴にすばらしい動物の絵を残した「クロマニヨン人」の時(3万年前)からであった。人類進化の歴史をもっと先に糊ると,優れた石器と点火技術を持った「ネアンデルタール人」に代表される旧人類(10万年前),石を割って造った石器と棍棒および火を使う「北京原人」に代表される原人類(40万年前),アフリカに棲み,腐れ易い木の道具を使っていたと思われる頭骨の異なる「アウストラロピテクス」と「パラントロプス」の両者の代表する猿人類(200万年前),二本足で立つ,両手を使う「ラマピテクス」を代表する原猿人類(1500万年前),および四つん這いで歩いた原類人猿類(3000万年前)などがあった。人類は,この地球上に最も遅く出現したが,両手,両眼と大脳を使って自然を改変する唯一の動物である。人類の大脳の発達は,その使う道具に対する永遠に止まない改良と創造に表れる。これによって,今日の人の生活環境は,見渡すかぎりの空と樹木以外,すべて人工的なものになっていった。加えて,人と周辺の動物との関係もその影響下に置かれるようになっていった。
著者
中洞 正 雨田 章子
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.117-126, 2013-01

日本の酪農は大きな岐路に立たされている。それまでのある種神話化された牛乳滋養論の瓦解・大手メーカーの不祥事,BSE,穀物相場の高騰,牛乳否定本の相次ぐ発刊など戦後酪農の手法がことごとく否定されている観を否めない。戦後の酪農は日本農政の基幹となった農業基本法(1961年)において選択的拡大作目として米や果樹とともに生産の拡大と内外価格差の是正を目指した。モノカルチャーによる拡大政策は輸入飼料に過度に依存した工業型酪農の普及であった。これは生命産業といわれる酪農を自然から遊離した歪な業界にしてしまった。著者は山地を利用した放牧酪農を30年余に渡り実践してきた。これは戦後まもなく,植物学者の猶原恭爾博士が提唱した「山地酪農」が背景になった。しかし,工業的酪農の激流に押し流された山地酪農は1987年に乳業界が取り決めた脂肪分3,5基準によって崩壊してしまった。一方EUが先鞭を切った「家畜福祉」という概念はいみじくも山地酪農の手法と合致するという皮肉なこととなった。食の安全や家畜福祉,環境問題が百家争鳴のいまこそ虐待的飼育におかれてきた乳牛たちの思いを真摯に受け止め乳牛,酪農家,消費者それぞれが共通の幸せに基づいた新たな日本型酪農構築をしなければならない。幸いわが国には全ての動植物と共生を重んずる仏教的思想を先人達が継承してきた歴史がある。
著者
堀 兼明
出版者
養賢堂
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.60-69, 2010 (Released:2011-03-28)
著者
八木 忠之
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.29-35, 2009-01

九州の友人からもらった昨年の年賀状に、水稲の作柄が悪かったことが書かれていた。聞いてみると、数年前から出穂後の台風、高温少照により収量・品質が低下しており、さらにこの現象は地球温暖化による影響で、主力品種のヒノヒカリが高温に弱いと評価されている…ということであった。筆者にとっては思ってもみないことであり、何かの間違いではないかとの気持ちもあった。しかしその後、全国紙にもほぼ同じ内容の記事が掲載され、いよいよヒノヒカリが高温に弱いとされていることが確かなことと思われた。筆者は、ヒノヒカリが高温に弱いという状況すなわち立毛、品質、収量に現れた影響に出会ったことがなかった。育成期間はもちろん、普及開始から数年後に、猛暑続きの夏を経過した年も、ヒノヒカリの収量品質は従来の九州向け多収良質品種と同等、ないしは上回る成績を示していたことから、逆に高温にも強いという印象を持っていた。また、家畜の糞尿を大量投入し、倒伏といもち病が激甚で、どす黒い玄米がわずかしか収穫できなかったという厳しい場合であっても、従来の食味水準をはるかに超えていることも確認していたし、ヒノヒカリの安定多収能力にはひそかに自信を持っていた。いくつかの農家圃場で証明されてもいた。しかし、多収能力についてはヒノヒカリに多収品種というイメージを与えるとむしろ不利であるとして口を閉ざしてきた。なぜなら、ヒノヒカリで多収が得られるとなると、生産者はさらに多収をねらい高品質米生産が2次的になる恐れがあり、また、流通業者は買い叩く要因にすることはもとより、極良食味という特性に虚偽の疑いを抱くことにつながりかねないからであった。さらに栽培面積を拡大し、西日本の基幹品種として稲作の安定を図るためには多収のイメージを避ける必要があった、しかし一方で、多収能力がなければ現在ほど栽培が広がることはなかったと確信している。本稿は、九州稲生産の不作・品質不良の要因に対して、一因とされているヒノヒカリの育成者側からの分析と対策への提言を行うものである。