著者
高橋 陽子
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, 2011-04-15
被引用文献数
1 1 2

繊維質とは,自然に放置しても分解されにくく,動物によっても消化されにくい成分のことを指す.本来,ヒトの消化酵素で消化されない繊維質は,生理的意義が低い非栄養素とされてきたが,難消化性の繊維質はヒトの健康維持に重要な役割を果たすことが次第に知られるようになった.食物繊維とは多糖類のひとつであるが,日本食品標準成分表2010では「ヒトの消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分の総体」と定義されている.ヒトの炭水化物消化酵素であるアミラーゼは,デンプンを構成している糖分子のα結合を分解できるが,食物繊維を形成しているβ結合を分解する能力がない.従来,食物繊維はエネルギー源にならないと考えられていたが,実際は,消化されない食物繊維の一部が腸内細菌により発酵分解されて短鎖脂肪酸とガスになるため,エネルギー量はゼロにはならない.また,食物繊維はタンパク質,脂質,炭水化物(糖質),ビタミン,ミネラルに次いで,ヒトに不可欠な第六の栄養素として数えられるようになっている.<BR>食物繊維は水に溶けない不溶性(water-insoluble dietary fiber ; IDF)と水に溶ける水溶性(water-soluble dietary fiber ; SDF)に大別される.一般的に食物繊維は,食物の咀嚼回数や消化液の分泌を増加させたり,便通や腸内環境を改善したりするが,不溶性と水溶性で異なる生理作用もある.不溶性食物繊維は保水性が良く,便量の増加や腸の蠕動運動の促進,脂肪や胆汁酸,発がん物質等の吸着・排出作用がある.水溶性食物繊維は,糖の消化吸収を緩慢にして血糖値の急な上昇を抑える糖尿病予防効果,胆汁酸の再吸収を抑えてコレステロールの産生を減らす脂質異常症の抑制効果が期待できる.また,水分を吸収してゲル化するため,胃腸粘膜の保護や空腹感の抑制作用がある.<BR>不溶性食物繊維には植物体を構成するセルロース,ヘミセルロース,リグニン,エビやカニ類の外骨格成分であるキチン・キトサンがある.セルロースは植物の細胞壁の主成分で,野菜や穀類の外皮に多く含まれる.グルコースがβ-1,4結合により直鎖状に連なってリボン状に折り重なる構造をしているため,力学的に強固な物質である.ヘミセルロースも細胞壁を構成する不溶性食物繊維であるが,セルロースを構成するグルコースが他の糖で置換された多糖類である.糖分子の種類によって水溶性が異なり,マンナン(グルコマンナンとも呼ばれるコンニャクの成分.グルコースとマンノースがβ-1,4結合したもの),β-グルカン(キノコ類や酵母類に含まれる.グルコースがβ-1,3または-1,4結合したもの),キシラン(細胞壁の成分であるキシロースがβ-1,4結合したもの)等がある.リグニンは果物や野菜の茎,穀類の外皮に含まれる木質の繊維である.キチンはセルロースに構造が似ているが,N-アセチル-D-グルコサミンが連なるアミノ多糖であり,キトサンはキチンからアセチル基が除かれたD-グルコサミン単位からなるものである.水溶性食物繊維にはガム質,ペクチン,藻類多糖類等が分類される.ガム質は植物の分泌液や種子に含まれている粘質物で,代表的なものにグアー豆に含まれるグアーガム(マンノース2分子に1分子のガラクトースの側鎖をもつ多糖類)がある.ペクチンはガラクツロン酸がα-1,4結合した構造をしており,腸内細菌では分解できるがヒトの消化酵素では分解できない.果物類に多く含まれ,水分を吸収してゲル化する性質があり,砂糖と酸を加えて加熱調理するジャムやゼリーの製造に利用されている.藻類多糖類には渇藻類に多いアルギン酸,紅藻類に多いフコイダン,寒天の主成分であるアガロース等がある.この他に,トウモロコシを原料として人工的に合成されるポリデキストロースや難消化性デキストリンも食物繊維として使用されている.<BR>食物繊維の摂取目標量は,日本人の食事摂取基準(2010年版)によると,18歳以上では1日あたり男性19g以上,女性17g以上とされている.日本人の食物繊維摂取量は,食生活の欧米化や穀類,芋類,野菜類,豆類の摂取減少の影響を受けて第二次世界大戦後から年々減り続けており,実際の摂取量は若い世代を中心に目標量を満たさない状況が続いている.
著者
高坂 和久 小沢 総一郎 檀原 宏
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.20, no.12, pp.559-566, 1973

0.5Mrad照射後3日目までは,色沢の劣化はみられないが,咀しゃくないしのど越し時に,微かに照射臭が認められた。<BR>しかし,7日目ぐらいになると,照射ソーセージは退色を示し,色沢の劣化が認められた。一方,照射臭は薄くなり,よほど注意しないとわからない程度であった。<BR>この間,外観,肉質には全く変化がみられなかった。<BR>調理条件を変えた場合,嗜好性は,照射非照射間にわずかの差を生じたが,照射臭は湯煮処理(80℃5~7分)がもっとも識別を困難とし,冷時と油いためは,注意して比較すれば,識別ができる程度であった。<BR>以上の結果から,ウィンナーソーセージにγ線を0.5Mrad照射した場合,照射後2~3日目までは照射臭がわずかに残るが,嗜好性を根本的に変化させるほどではなく,調理条件によっては,さらに低減し得ることがわかった。
著者
柴原 裕亮 岡 道弘 富永 桂 猪井 俊敬 梅田 衛 畝尾 規子 阿部 晃久 大橋 英治 潮 秀樹 塩見 一雄
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.280-286, 2007
被引用文献数
7 15

ブラックタイガー由来精製トロポミオシンを免疫原として,甲殻類トロポミオシンに特異的に反応するモノクローナル抗体を作製し,甲殻類トロポミオシン測定用のサンドイッチELISA法を確立した.本法では,甲殻類に分類されるえび類,かに類,やどかり類,おきあみ類のトロポミオシンとは交差率82~102%と全般的に反応したが,軟体動物に分類されるいか類,たこ類,貝類トロポミオシンとの交差率は0.1%未満であった.また,食品全般においても甲殻類以外で反応は認められなかった.検出感度は甲殻類由来総タンパク質として0.16ppmであり,食品表示に求められる数ppmレベルの測定に十分な感度であった.再現性もCV値10%未満であったことから,精度よく測定できると考えられた.さらに,食品由来成分の存在下においてもマトリックスの影響を受けないこと,加熱により変性を受けた場合にも測定可能なことを確認した.したがって,本法は甲殻類由来トロポミオシンに対して特異的であり,加工食品における甲殻類検知法として使用可能であると考えられた.
著者
Tamaki Sato Kazuhiro Tobiishi Tsuguhide Hori Tomoaki Tsutsumi Hiroshi Akiyama Toshiro Matsui
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
Food Science and Technology Research (ISSN:13446606)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.347-356, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
39

We investigated the concentrations of halogenated flame retardants (HFRs), which include hexabromocyclododecanes (HBCDDs), polybrominated diphenyl ethers (PBDEs), and dechloranes and related compounds (DRCs), in 25 typical ready-made boxed sushi meals (each divided into seafood and non-seafood portions) using a developed simultaneous analytical method involving accelerated solvent extraction and gel permeation chromatographic separation. The developed method yielded good recoveries of surrogates (72–122 %). HBCDDs, PBDEs, and DRCs were detected in all seafood portions. While DRCs were also frequently detected in non-seafood portions, HBCDDs and PBDEs were hardly detected. The estimated dietary intakes of HBCDDs, PBDEs, and DRCs from boxed sushi meals were well below the corresponding health-based guideline values. In conclusion, our study suggests that the intake of HFRs from boxed sushi meals poses low concern for consumer health and that the developed simultaneous analytical method is highly useful for determining HFRs in seafood-based meals.
著者
Shinichiro Hatakeyama Toshiyoshi Kawaguchi Takuya Yamaguchi Daisho Yoshihara Kana Takahashi Masayuki Akiyama Reiko Koizumi Kazuhiro Miyaji Yasuhiro Takeda Mito Kokawa Yutaka Kitamura
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
Food Science and Technology Research (ISSN:13446606)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.197-209, 2023 (Released:2023-05-20)
参考文献数
22

A flavor lexicon of milk coffee was developed based on the perceptions of Japanese consumers. To collect an exhaustive set of sensory terms for milk coffee, sixty types of samples were prepared. The samples were presented to 203 untrained panelists, and 456 sensory terms were collected. Following qualitative and quantitative screening, 53 terms were selected. The validity of the 53 terms was confirmed by check-all-that-apply (CATA) questions for six samples. The results indicated that the frequency of use of 42 terms was significantly different for the samples, and all terms were used at least once. In addition, the configuration of the six samples in the correspondence analysis of the CATA results was similar to that for a quantitative descriptive analysis conducted on the same samples. The developed flavor lexicon and its application to CATA will provide a new means for evaluating milk coffee from the perspective of Japanese consumers.
著者
長谷 幸 鈴木 修武 大立 真理子 鈴木 繁男
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.248-256, 1973-06-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
7
被引用文献数
8 13

はちみつ中のHMFの加熱および貯蔵による変化について検討した。(1) 加熱処理の際,50℃では24時間,60℃では10時間では,HMFの増加はほとんどなかった。(2) 加熱によるHMFの変化は,はちみつの種類によって差があって,pHの低い緩衝性の少ない品質のはちみつはHMFの生成量が大きい。(3) 10℃以下の貯蔵ではほとんどHMFの変化はなく,むしろ減少傾向があった。室温(5~10月)でも増加の程度は少なく,36℃貯蔵では相当増加する。(4) 貯蔵中のHMFの変化の程度もはちみつの種類や品質によって差がある。国産れんげはちみつは,輸入はちみつよりも増加率が少なかった。(5) はちみつ中にあらかじめHMFを添加して,室温と36℃で貯蔵した。室温では減少し,36℃では始めは減少し,あとは徐々に増加した。(6) クエン酸添加によりHMFの生成量は多くなり,温度が高いとその傾向が大きい。(7) プロリン,第2鉄塩の添加による,貯蔵中のHMFの変化へ与える影響はほとんどなかった。
著者
伊東 裕子 下田 満哉 筬島 豊
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.133-139, 1983-03-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

コーヒー豆粉粉末の香気定量法として用いる内部標準を使ったヘッドスペースガス分析法において,粒度および焙煎度の影響を検討した。(1) コーヒー豆粉末ヘッドスペース中の香気成分量は粉末粒度に大きく影響され,中程度の粒径(20~28メッシュ)において最大となった。(2) 内部標準物質のピーク高は粒度が小さくなるに従い減少し,コ-ヒー豆粉末粒子表面積との間に高い相関(r=-0.974)が見られた。従って内部標準物質のピーク高を粒度分布に関して補正することが可能となった。(3) 焙煎が深くなるに従い,内部標準物質のピーク高は減少し, L値との間に高い相関(r=0.965)が認められた。そこで,焙煎度の異なる試料の比較において,一定のL値における内部標準物質ピーク高に換算する補正法を設定した。
著者
畑 明美 緒方 邦安
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.6-12, 1979-01-15 (Released:2011-02-17)
参考文献数
15
被引用文献数
3 1

漬け物原料としてハクサイ,キャベツ,セイサイ,キュウリを用いて塩漬け,糠漬け製品を作り漬け込み時における硝酸塩,亜硝酸塩含量の変化を調べた。ハクサイ,キャベツを塩漬けした場合,漬け込み後,ハクサイでは3日,キャベッでは4日までは材料中の硝酸塩は減少し,漬け汁中の硝酸塩は増加した。その後キャベツと同漬け汁ではやや増加がみられたが,ハクサイでは変化しなかった。亜硝酸塩の生成はハクサイでは漬け込み4日後,キャベツでは5日後に最高に達し,以後急速に減少し,8日後,6日後にはそれぞれ僅少となった。ハクサイ塩漬けにアルコールを添加したものでは,亜硝酸塩の生成量が少なく,キャベツに酢酸を添加した場合,亜硝酸塩はまったく生成されないことを認めた。セイサイの塩漬けもハクサイやキャベツと同様な硝酸塩含量の消長がみられたが,亜硝酸塩生成量は比較的少なく,6℃,20℃保存下では6℃の方が多かった。ハクサイ,キャベツの糠漬けでは材料中の硝酸塩は漬かりの進行に伴なって減少したが,糠床中の硝酸塩の増加は緩慢であった。亜硝酸塩の生成は塩漬けに比べ少ない傾向にあった。キュウリの糠漬けでは普通床とアスコルビン酸添加床を作って調べたところ,アスコルビン酸添加床のキュウリ中のアスコルビン酸は増大したが,硝酸塩含量の変化は両床とも大差はみられなかった。市販漬け物の硝酸塩含量は13~1491ppmで亜硝酸塩はコカブ塩漬けで259ppm検出されたが,他はほとんど認められなかった。
著者
鮫島 邦彦 崔 一信 石下 真人 早川 忠昭
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.38, no.9, pp.817-821, 1991-09-15 (Released:2011-02-17)
参考文献数
15
被引用文献数
4 9

粗アクチニジンを市販のキウイフルーツから抽出,調製した.骨格筋アクトミオシン中のミオシンとアクチンは粗アクチニジンによって分解された.粗アクチニジンによる骨格筋ミオシン分子内の分解部位は,α-キモトリプシンによるそれとほぼ同じであった.また,粗アクチニジンはコラーゲンも分解した.牛モモ肉を粗アクチニジン溶液に浸漬した場合,4℃で6時間後の生肉,加熱肉とも切断強度の低下を示した.これらの22時間後の試料のSEM観察においては,筋肉の構造がもろくなっていることが確認された.以上の結果から,キウイフルーツに含まれるタンパク質分解酵素アクチニジンは食肉軟化剤として有効であることが明らかになった.
著者
中川 致之
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.266-271, 1969-06-15 (Released:2009-04-21)
参考文献数
6
被引用文献数
1 4

(1) 外国産および国産紅茶の高,中,下級品35点についてテアフラビン,テアルビジンの分析と官能検査を行なった結果,テアフラビン含量と水色,滋味の間に高い相関関係のあることが認められた。ただし滋味との関係は間接的なものと考えられる。(2) 紅茶中のテアルビジン含量は高級品でも下級品でもほとんど差がなく,テアフラビンに対するテアルビジンの比率の高いものは一般に品質がよくなかった。(3) テアフラビン,テアルビジンに対する水色の重回帰式から計算した値と水色審査評点のずれが小さいことから,主としてこの2者によって水色が支配されていると考えられた。
著者
Koji TAKATERA Yoshiaki MIYAKE Masanori HIRAMITSU Takashi INOUE Takao KATAGIRI
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
Food Science and Technology Research (ISSN:13446606)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.127-130, 2012 (Released:2012-06-27)
参考文献数
19
被引用文献数
1 6

We investigated the effects of citric acid and lemon juice on iron absorption and improvement of anemia in iron-deficient rats. In Expt. 1, rats were administered ferric iron solution (2 mg/kg) with various concentrations of citric acid (1 − 6%) by a single oral gavage. The serum iron levels were significantly higher in rats treated with citric acid than those without citric acid. In Expt. 2, anemic rats were administered ferric iron solution (control) with 1% citric acid or diluted lemon juice containing 1% citric acid by oral gavage dose of 2 mg Fe3+/kg/day for 20 d. Heart weight and unsaturated iron-binding capacity (UIBC) were significantly lower in the citric acid group, whereas serum iron level and hematocrit value were significantly higher in the citric acid group than in the control group. Hemoglobin concentration was significantly higher in the citric acid group and lemon juice group. These results suggest beneficial effects of citric acid and lemon juice on iron bioavailability.
著者
武田 泰輔 岡田 早苗 小崎 道雄
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.31, no.10, pp.642-648, 1984-10-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
22
被引用文献数
4 4

穀類粉のなかの,小麦粉による発酵生地の代表的食品であるパンにおいて,乳酸菌がどのような働きをしているかを究明する実験によって,以下の結果が得られた。(1) 製パン工場の食パン生地及びバターロール生地中の酵母と乳酸菌の菌数を計測した結果,4時間の発酵過程中に酵母は生地1g当たり108個のオーダーで,乳酸菌は生地1g当たり106個のオーダーで存在することを認めた。(2) この乳酸菌の主たる由来を原材料中の生イースト及びドライイーストに求め,これら13試料について乳酸菌数を計測した。その結果,生イースト7試料については製品1g当たり108~1010個のオーダーで,またドライイースト6試料(うち2試料は国産,4試料は欧米よりの輸入品)については製品1g当たり102~106個のオーダーで存在していた。(3) 上述の各試料より総計81株の乳酸菌を分離取得し,形態,発酵タイプ等の特徴から各試料に優勢を占める株を代表株として計15株を選び詳細な同定試験を行ってBERGEY'S MANUAL第8版に照合し種名を決定した。(4) その結果,パン生地からはLactobacillus planta-rum, L. casei,生イースト及びドライイースからは,L. plantarum, L. casei, L. brevis, L. cellobiosus,及びBacillus coagulans系統の乳酸菌が同定された。これらは,発酵性糖を高濃度に含む植物質の発酵液などによく見られるタイプである。(5) これら分離乳酸菌が,増殖のない状況下でどの程度の生物活動をし得るかを調べた。パン生地と生イーストから分離した代表株9株について,3%ブドウ糖を含むGYP液体培地に,1ml当たり菌数が108~109個となるように多量の菌体を接種して48時間培養後,その乳酸生成量を測定した結果,いずれの乳酸菌株も,多い少いの差はあるが,すべて乳酸を生産した。このことから,これら乳酸菌は,生地中の分裂増殖がない状況下でも何らかの活動をするものと考えられる。よってパン生地発酵過程中で,乳酸菌は生地やパンの品質,味覚等に何らかの影響を及ぼしているものと考えた。(6) 研究室の実験規模で,酵母と乳酸菌をそれぞれ別々に純粋培養し,酵母だけで生地発酵して焼いたパンと,酵母と乳酸菌を混合して生地発酵して焼いたパンとで風味等を比較した結果,前者はいわゆる酵母臭があったのに対し,後者ではそれが消失することや,生地の伸展性が良好になるなど,両者間に差があることを認めた。(7) 以上のことから,培養酵母を添加して造る通常のパン生地発酵には,乳酸菌も関与しており,パンの品質や味覚などに何らかの好ましい影響を与えていると考えられる。従って,旧来の自然発酵生地(パン種)中の固有の乳酸菌を究明し,パン製造に適した優良な乳酸菌を見つけ出して,今日のパンの品質や味覚等の向上改善をはかることが,可能であると考える。
著者
永島 俊夫 小泉 幸道 山田 正敏 柳田 藤治
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.469-473, 1987-07-15 (Released:2009-04-21)
参考文献数
4

カレー製造に比較的よく用いられている香辛料9種について,120℃に加熱した場合の香気成分の変化をガスクロマトグラフィーにより比較検討した.(1) カルダモン,クローブ,クミンは加熱により主要な成分が増加し,全香気成分量も増加した.(2) オールスパイス,メースは加熱により全香気成分量が減少したが,その割合は比較的少なかった.(3) フェネル,シナモン,コリアンダー,フェネグリークは加熱により各成分が大きく減少し,特にフェネグリークはそれが著しかった.(4) 各香辛料の香気成分は,加熱により増減が見られたが,低沸点化合物量は全ての香辛料で減少が認められた.(5) 香辛料の種類により,加熱による変化に特徴が見られたことから,製造時においてもこれらの点を充分考慮する必要があると思われた.
著者
中林 敏郎
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.9, no.7, pp.284-289, 1962-10-15 (Released:2009-04-21)
参考文献数
6
被引用文献数
1

上述の実験結果から明らかなように,ナリンギナーゼの反応速度を支配するおもな因子であるpHと糖度,および湿度の影響に基いて作製した苦味消失時間を求める計算式は,実際に果汁を用いた試験の結果とほぼ一致する値を与える。したがってこれらの計算式を用いれば,与えられた条件の下で果汁の苦味を何時間で除表できるか,あるいはある一定の時間内で苦味を除去するためのもっとも有効な酵素の使用量は,何単位かなどをあらかじめ知ることが可能となる。そして実際に工場で試験した結果でも,ほぼ予想した時間で苦味の除かれた果汁を得ることができた。しかしこの際反応時間が長すぎた場合には,果汁の変色や香気の悪変およびパルプ質の分離などの現象がみられた。したがってこれらの点を改善するには酵素剤の精製,とくにペクチナーゼ活性の除去を行なうとともに,低温度で長時間反応させるなど,酵素の使用法についてもさらに検討することが必要であろう。なおこの実験で作製した計算式は,ナリンギナーゼANに対しては直ちに適用することができるが,前に報告3)したようにナリンギナーゼには,その種類によって性質に多少の差異があるので,他の酵素剤を使用する場合には,計算式の係数に多少の変更を加える必要があると考えられる。以上の結果を要約すれば,夏ミカン果汁の苦味除去にナリンギナーゼANを用いた場合。(1) pH 2.6~3.4の間では活性はpHの低下に直線的に比例して減少する。(2) 反応温度が50℃までの間では活性は温度の自乗に直線的に比例して増加する。(3) グルコースが4%までのときは,活性はグルコース濃度の平方根に逆比例して直線的に減少する。(4) (1), (2), (3)の結果に基いて,果汁の苦味除去に要する時間を予測する計算式を実験的に作製した。(5) 果汁1tに対し50~100万単位の酵素を作用させた場合は,実測値と計算値とが一致し,このときの酵素量がもっとも有効な添加量となる。
著者
鈴木 普 佐藤 匡
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.71-75, 1966

ロースハムの日本農林規格における採点基準の具体的数値を把握するため,都内のJAS認定工場33社より56点の製品を採取し,断面の形態に対して,断面の径,面積,周囲長などについて測定し,つぎのような平均数値を得た。<BR>(1) 断面の円形は,長径8.04±0.16cm,短径7.36±0.67cmで,短径が比較的変化するやや扁平な円が多い。また長径,短径の方向は,脂肪層や結着面とはとくに関係がなかった。<BR>(2) 断面積は47.96±2.01cmcm<SUP>2</SUP>,筋肉面積は30.29±1.72cmcm<SUP>2</SUP>,脂肪面積は17.56±1.37cmcm<SUP>2</SUP>で,脂肪面積の変異係数が25.51%で,筋肉面積の変異係数の20.50%よりも大きく,断面からみて製品は脂肪量のばらつきの大きいことがわかる。<BR>(3) 断面における筋肉面積の割合いは63.36±2.49%であり,ロースの芯の周囲をおおう脂肪層の厚さは0.670~1.070cmぐらいである。<BR>(4) 断面の形態より採取試料56点中,明らかに肩ロースのラックスハムと思われるものが17点もあるのは,切断部位が5-6胸椎間のものより,2-3胸椎間のものが多いためと思われる。<BR>(5) 脂肪が肉の表面をなめらかにおおっているのは,周囲長と,脂肪と筋肉の接触面の長さの比が0.987±0.113ぐらいで,比が1.833と大きいものは脂肪面積も45%と大きく,比が0.593と小さいものは,脂肪が筋肉中まで入って,結着を悪くする原因を作っているようである。
著者
松本 伊左尾 秋本 隆司 今井 誠一
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.75-82, 1993-01-15 (Released:2011-02-17)
参考文献数
9
被引用文献数
5 6

発酵室温(30, 35, 40, 45℃)及び納豆菌の接種菌数(102, 104, 106/蒸熟大豆1g)を異にした納豆の発酵を行い,納豆の品質と直接関係のある外貌,納豆菌数,硬度及び色調を経時的に調べ,次の結果を得た. 1. 外貌観察より,発酵中の納豆はいくつかのステージを経ることが分かった.低い室温でかつ接種菌数の少ないものほど発酵は遅れた.逆に高い室温ほど発酵は進み,接種菌数が多いものほど早く過発酵しやすかった. 2. 納豆の品温は,設定室温あるいはその近辺まで一旦低下し,蒸熟大豆の表面が光沢をおび,濡れたようになった(「照り」の観察)頃より上昇し,蒸熟大豆の表面が白色の菌膜状の物質で覆われて(「菌膜」の観察)から最高値に達した.そして,最高値をしばらく保った後,品温は徐々に低下した.品温の上昇開始より品温の最高値までの時間は,接種菌数より室温の影響が大きく,高い室温で発酵させたものほど短かった. 3. 納豆菌数は誘導期,対数期を経て「菌膜」が部分的に溶けた(「菌膜消化」の観察)頃,定常期に至る変化を示した.納豆菌の生育は,同室温であれば接種菌数の多いものほど,同一接種菌数では高い室温で発酵させたものほど速かった.ただし,最高菌数(室温30℃は発酵30時間の菌数)は室温45<30≦35〓40℃の順であった. 4. 納豆の硬度は,発酵30時間まで増加し続け,同室温であれば接種菌数の多いものほど,同一接種菌数ならば高い室温で発酵させたものほど高くなった. 5. Y値は,「照り」の観察された以後より上昇し,最高値を示した後,室温30℃・接種菌数102/gで発酵させたものを除き低下した.x値・y値は,Y値のほぼ逆の消長を示した.また,蒸熟大豆の黄色が消失し,灰緑色を呈する期間はz値が高く推移した. 6. 通常の納豆の発酵時間である18~20時間の外貌,硬度及び色調より,室温35℃・接種菌数102~106/g,室温40℃・接種菌数102~104/gで発酵させたものが品質的に好ましいと判断された.
著者
中林 敏郎 鈴木 邦男
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.33, no.11, pp.779-782, 1986-11-15 (Released:2009-04-21)
参考文献数
2
被引用文献数
1

焙煎に伴うコーヒー豆の著しい膨化と脆化の原因を明らかにする為に実験を行ない,次の事実を明らかにした.(1) 焙煎により豆の体積はイタリアンローストで約70%増となり,比重は生豆の1.16がイタリアンローストでは0.49と軽くなった.(2) 豆の圧縮強度は生豆の51.8kgからイタリアンローストでは1.72kgと著しく脆くなった.(3) 走査型電子顕微鏡観察により,焙煎の進行に伴なって表面のき裂は次第に大きく深くなると共に,豆の内部に球状の空胞が発達してスポンジ状となり,さらにイタリアンローストでは空胞壁の破壊もみられた.(4) この豆の内部組織のスポンジ化が豆の膨化と脆化の直接の原因であることを確かめると共に,焙煎時の熱反応の進行について組織学的に若干の考察を行なった.
著者
川岸 舜朗
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.445-453, 1991-05-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
47
被引用文献数
1
著者
箭田 浩士 我藤 伸樹 永友 榮徳 忠田 吉弘 小野 裕嗣 吉田 充
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.188-192, 2003-04-15
被引用文献数
3 2

梅肉エキス中のMFについて,固相抽出カートリッジを用いた前処理法ならびにHPLCによる分析法を確立した.これにより,梅肉エキス中のMFを迅速・簡便に回収率良く抽出し,定量分析することが可能になった.<br>また,MFの正確なモル吸光係数1.78×10<sup>4</sup>(λ<sub>max</sub>282nm,water)を決定した.これにより吸光度からMF標準溶液のモル濃度を決定することができる.
著者
Koji Muramoto
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
Food Science and Technology Research (ISSN:13446606)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.487-494, 2017 (Released:2017-09-08)
参考文献数
47
被引用文献数
4 28

Lectins, noncatalytic sugar-binding proteins of nonimmune origin, are widely distributed in the most common foods and feeds in varying amounts. Since many lectins, such as legume lectins, are relatively stable against heat denaturation and proteolytic digestion, the digestive tract is constantly exposed to biologically active lectins contained in fresh and processed foods. Lectins interact with the epithelial surface of the intestine and cause adverse effects, sometimes called food poisoning, in humans and animals. Meanwhile, many interesting biological functions have been discovered in lectins originating from foods or foodstuffs, including immunomodulating effects, selective cytotoxicity against cancer cells, antimicrobial and insecticidal activities, modulating effect on the intestinal transport system, and so on. This review aims to present the current state of research on lectins as bioactive proteins in foods and feeds in order to provide opportunities for application development.