著者
平野 昌繁
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.324-336, 1966-05-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
8
被引用文献数
7 4

A mathematical model of slope development is summarized by the relation _??_ where u: elevation, t: time, x: horrizontal distances, a: subdueing coefficient, b: recessional coefficient, c: denudational coefficient and f (x, t): arbitrary function of x and t, respectively. Effects of the coefficients are shown in figs. 1-(A), (B) and 2-(A). In order to explain the structural reliefs, the spatial distribution of the rock-strength against erosion owing to geologic structure and lithology is introduced into the equation by putting each coefficient equal a function, in the broadest sence, of x, t and u. Two simple examples of this case are shown in fig. 5. The effects of tectonic movements, for instance of faulting, are also introduced by the function f (x, t), which is, for many cases, considered to be separable into X (x) and T (t), where X (x) and T (t) are functions of x only and t only, respectively. An attempt to classify the types of T (t) has been made. Generally speaking, provided the coefficients a, b and c are independent of u, the equation is linear and canbe solved easily. With suitable evaluation of the coefficients (as shown, for example, in fig. 4-(A)), this linear model can be used to supply a series of illustrations of humid cycle of erosion, especially of the cycle started from faulting.
著者
WATANABE Takumi SAKAUE Hiroaki OSAKA Yu OKADA Ryosuke
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan series B (ISSN:18834396)
巻号頁・発行日
vol.94, no.2, pp.49-64, 2021-12-25 (Released:2021-12-25)
参考文献数
108
被引用文献数
2

This paper is a systematic review of scholarly articles published in Japan from 1989 to 2019 that discuss instruction regarding the formation of spatial cognition in the context of elementary school social studies. This study aims to examine the trends, transitions, and challenges of this field of research and clarify the backgrounds of these studies. Based on the results of the review, four research themes were determined: “objectives, principles, and curriculum,” “lesson design,” “maps and globes,” and “learning assessment.” For the continued development of this field, we assert the need for further research into (1) the construction of a lesson model that encourages participation in community development and its actual practices based on children’s formation of their worldview; (2) collaboration between researchers and teachers to investigate actual situations and obstacles to teaching and propose strategies for teacher competence development based on evidence; and (3) assessment of the relationships between geography, geography education, and social studies, and consideration of curricula and learning instruction with respect to the formation of children’s spatial cognition, via collaboration among researchers involved in these fields.
著者
平井 幸弘
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.679-694, 1983-10-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
27
被引用文献数
19 14

関東平野中,部の加須低地と中川低地とでは,沖積層の層序・層相や低地の微地形に違いが見られる.この違いをもたらした要因を明らかにするために,沖積層の堆積環境の地域的差異と時間的変化を,沖積層堆積直前の地形(前地形)の変化という視点から考察した. 中川低地では,最終氷期極相期に渡良瀬川・思川によって,深い谷(中川埋没谷)が形成された.後氷期の海進はその谷の全域に及び,海成層が堆積した.その後,河川は勾配の緩やかな幅広い谷底を自由蛇行し,それに沿って自然堤防を発達させてきた. 加須低地では,沖積層に薄く被覆された洪積台地(埋没小原台~武蔵野面)が存在している.後氷期の海進は,この台地を開析した複数の小さな谷(加須埋没谷)の下流部にのみ及んだ.その後,河川による堆積は,最初谷中に限られていたが,谷が埋積されると,沖積層の堆積域は台地面上へと拡大し,地域全体が「低地」化した.しかし,台地を覆っている沖積層は薄いため,沖積面下の台地の凸部が微高地(台地性微高地)として島状に残っている.河道は,埋没谷の位置とほぼ一致し,蛇行帯の幅が狭く,自然堤防も直線的な形態を示す.
著者
NISHIHARA Jun
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan series B (ISSN:18834396)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.1-20, 2022-06-30 (Released:2022-07-27)
参考文献数
69
被引用文献数
2

The early 1990’s marked a turbulent period in Japan’s economic history. We reconstructed the non-aggregated data for 660,000 worker samples of the 1992 Employment Status Survey into the estimated data for all 64,000,000 workers in Japan using this government survey’s method and conducted unique analyses on the regional inequalities of worker incomes from the perspective of individual and regional disparities. The following results were obtained: (1) Clear individual income inequalities existed in accordance with the social attribute of workers framework. The gender-specific processes by which individual inequalities emerged were detected by the causal inference method. For women, great disadvantages were identified in income and employment status compared to men. (2) Particularly for men, clear regional income inequalities were found by the framework of zone/urban hierarchical systems. Regional factors for inequalities were formed by two kinds of effects: the regionally uneven distributions of workers with different social attributes/categories (compositional effects) and those of high-income workers within the same attributes/categories (hierarchical effects). (3) Analyzed by the Theil index, the component rates by the regional factors to the overall inequalities among workers were 6% for men and 3% for women. (4) By an experimental regression analysis for worker samples, about one third of the inequalities for men and women were explained by regional and social individual factors of workers. Over half of the variations of worker incomes were not explained by the regression model (probably caused by private individual factors of workers). Some contemporary meanings were found from this study for 1992.
著者
山本 理佳
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.10, pp.634-648, 2005-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
24
被引用文献数
1 2

本稿は,長崎県佐世保市を事例として,地方自治体がいかなる軍事施設イメージを提示しているのかを明らかにすることを目的とした.特に軍事施設の存在が憲法第9条で明示された「平和」理念と矛盾するという点に着目し,それに対してどのように対処しようとしているのかを検討した.具体的には,そうした「平和」との矛盾を顕在化させた事象として,1960年代の米軍原子力艦艇寄港反対運動を位置づけ,これに関連する時期や場所について分析を行った,その結果,佐世保市行政は,顕在化した矛盾に抵触しないよう,さまざまなレトリックを駆使しつつ,軍事施設イメージを創り出していた状況が明らかとなった.
著者
伊藤 久雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.369-372, 1967-07-01 (Released:2008-12-24)

日高山地はかつて密林におおわれた未開の頃,狩猟土人は鹿の通路と河谷と峠の自然通路を利用したが,これを辿って先づ砂金採取の和人が入り,次いでクルミ材を求める人々が入った.開拓者入植後は地域開拓の必要上自然通路を基にして漸次技術を加え南北縦貫の道路が整備された.これが近年は国道に昇格し日高町から金山・富川の各地にバスを通じ鉄道と接続している 山地横断道路としての日高・清水線は既に完成し,日高・夕張線は1966年着工した. 鉄道は南から北に向つて日高町まで縦貫線が延び,将来は金山で根室本線に接続が予定され,東西横断路線の建設も決定している. このように道路・鉄道共に縦貫横断路線の発達は道央と道東,道北と道南の距離を短縮し結合を深め北海道の開発に寄与する所大である.
著者
池口 明子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.14, pp.858-886, 2002-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
36
被引用文献数
2 4

本研究は,ベトナム・ハノイを対象として鮮魚流通における仲買人・露天商の商業活動を明らかにした.特に,近郊生産地における生産者-仲買人-露天商の取引ネットワークの形態を,仲買人の取引台帳を用いて養殖生産との関係から分析し,その形成条件を考察した.ハノイの鮮魚露天商は,ドイモイ(刷新)後に参入した近郊農村居住者およびハノイ居住者が多くを占める.ハノイ居住者は市内に立地する単一の卸売市場から仕入れ,主として海産魚を販売する.これに対し,近郊農村居住者は主として農村で採捕・生産される淡水魚介類の流通を担っている.仕入れには,ハノイへの経路上に位置する農村市場や,市内の卸売市場での仕入れのほか,産地仲買人を中心に形成される取引ネットワークを利用している.近郊農村における淡水魚養殖は,複数の魚種を組み合わせた複合的生産が常態である.その取引ネットワークは地縁をきっかけに,多様な生産形態と,都市および近郊の市場の発達に対応して形成されてきた.ハノイの鮮魚露天商の活動基盤は,販売地である都市の露天市場のみではなく,集魚圏内の都市近郊生産地の市場も含めて理解する必要がある.
著者
松尾 英輔
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.151-164, 1982

本稿は,奄美大島における在来ネギ属野菜の伝統的な識別と呼称,ならびにそれらの変容の実態を明らかにし,主として九州本土からの文化の流入とその影響について検討した.在来ネギ属野菜は,'ビラ'(ニラ),'ガッキョ'(ラッキョウ),'フィル'(ニンニク),'ヌィビル'(ノビル),'キビラ'(ネギとワケギを一括)などの代表的呼称により,古くから識別されていた.江戸時代末期から明治時代にかけて,'フィル'を'ニンニク'と称し,'キビラ'を'ヌィフカ'(ネギ)と'センモト'(ワケギ)とに呼び分ける様式が九州本土から伝播して北部に定着し,徐々に島内に浸透した.やや遅れて,本土系葉ネギが導入され,冬作ネギとして普及するにつれて,その呼称'ヌィフカ'はいち早く島内全域に定着した.この結果,ネギとワケギについて,北部では本土型の識別を行なって両者を区別するが,南部では区別しない.呼称'ヌィフカ'は島内全域に普及しているが,北部ではネギを指し,南部では主に本土系葉ネギを指す。'センモト'は北部を中心に使われ,ワケギを指すが,'キビラ'は南部を中心に使われ,在来系葉ネギとワケギを指す.
著者
中牧 崇
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.7, pp.492-507, 2002-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13
被引用文献数
3 4

本稿は,群馬県藤岡市高山地区(旧美九里村の一部)を事例として,交通の近代化の中で山村がどのように段階的に変容したかについて実証的に分析したものである.また,山村の形成主体で,かつ交通の利用主体としての住民をより具体的に取り上げるため,交通の近代化を交通体系の変化だけでなく,住民の交通利用形態の変化についても分析した.地形的障害の克服に着目した交通体系の変化では,住民は道路の建設や乗合バスの運行実現に主体的に関わるなど重要な役割を果たした.山村と都市との結合に着目した住民の交通利用形態の変化では,1960年代前半以降に住民の行動範囲は藤岡市の中心部へ次第に拡大したことにより,高山地区は近郊山村としての性格を強め始めたといえる.さらに,1960年代後半以降には住民の行動範囲が藤岡市の中心部を飛び越えて,高崎市や前橋市などの地方中心都市にも及んだ.これは通勤や買物での自家用車の利用,高等学校への通学での鉄道やバイクの利用が増加したためである.このような動きは都市からの影響に関係していることが指摘できる.
著者
二瓶 直子 浅海 重夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.391-410, 1972-06-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
20
被引用文献数
3 3

日本に現存する所謂風土病の1つである日本住血吸虫症は,医的事象を通じての地域研究の対象として,ふさわしい性格をもっている.本論では,日本住血吸虫症の医学地理学的研究の第1段階として,その分布の偏在性を明らかにしたのち,ミヤイリガイの生態を考慮しながら分布規定要因を,生息地の自然環境条件,特に地形,土壌条件から検討した. 生息地の洪水地形分類の結果,3種に類型化されたが,多くの生息地は,そのうちの1つすなわち洪水時に湛水し,而も湛水深が深く,湛水期間の長い低所である.この場合には洪水地形分類が分布状態をうまく説明することがわかったが,母も大きな分布範囲をもつ甲府盆地の生息地の場合は扇状地性の地形面に属するものが多く,洪水地形では説明できない.また同一地形区内でもミヤイリガイの分布は偏在している・そこでカイの分布を説明する他の要因すなわち土壌条件をとりあげることにし,採集地別,母材別,粒径別,腐植含量別等の土壌の比較をするために調整した実験土壌によって,ミヤイリガイの飼育実験を試みた結果,土壌が分布規定要因の1つであることを確かめた.
著者
三木 理史
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.1-19, 2002-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
45
被引用文献数
1

本稿は,第一次・第二次両世界大戦間期の大阪市の交通調整事業が,統制経済の一環にとどまらず,都市計画事業に通じる都市膨張への対応の面を併せ持ったことを,都市交通の領域性に着目して明らかにする.都市交通の領域性とは,都市交通が都市内交通と郊外交通に機能的領域区分を形成することを指す.本稿での検討から,戦間期の大阪市の交通調整は,明治期に都市交通の領域区分を基礎として成立した市内交通機関市営主義を,都市膨張を発端とする都市交通の一体化に対応するものに修正することをねらいとしていたことが明らかになった.そうした理念は同時期の都市計画事業にも通じるものであり,従来注目されてきた市営一元化への企業間調整や合併は,本来その理念実現の中で要請されたものと考えられる.しかし,その実現には戦時体制の活用が不可欠で,それが都市交通調整と経済統制や戦時統制との峻別を困難にしていたことも明らかとなった.
著者
松沢 光雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.260-269, 1965-04-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
5
被引用文献数
2

新宿繁華街は,国電線路の東側に発達している.西側にも,線路添の道路と線略の間に飲食店街1)があるが,本研究では,線路の東側だけを対象にした。新宿における線路の東側と西側との関係については,別な機会に論ずることにする. 新宿繁華街に関係のある研究には,副都心研究会の研究,今朝洞重美氏の研究2),杉村暢二氏の研究3),服部〓二郎氏の研究4)等がある.本研究は,これらの研究との重複を避け,実地調査の結果を整理し,それをもとに繁華街の構造を考察した. 一っの繁華街を他の繁華街と比較検討したり,繁華街と他の地域の関係を観るのでなく,新宿繁華街の内部の状態を観察して,その実態を把握し,都市生活において,繁華街が,いかなる役割を果しているかを知る手がかりをつくろうとしたものである. 本研究で新宿繁華街を選択した理由は,新宿繁華街では。北部に広い住宅地域をもっていて,繁華街浸蝕5)が極めてスムーズに進行し,繁華街としては,比較的自然な形をもっているものと思われるためである.
著者
高橋 春成 ティズデル C.A.
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.66-72, 1992-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
12
被引用文献数
2 3

わが国には再野生化または半再野生化動物はまれであるが,西表島には再野生化あるいは半再野生化したブタ(イノブタを含む),ヤギ,ウシが生息している。 ブタについては,これまでにも在来のブタの離脱とそれらとリュウキュウイノシシの混血が指摘されてきた。近年でも,内離島や外離島でイノブタ(リュウキュウイノシシ×ランドレース)が再野生化状態にあり,一部は本島に侵入している。また,本島でもイノブタの離脱が生じた。近年のイノブタの離脱の要因は,粗放的な飼育方法や管理の不行届きに求められる。これらのイノブタもまた,リュウキュウイノシシと混血しているものと推測される。西表島で,再野生化したブタの集団が形成されないのは,在来のイノシシ集団に何らかのかたちで吸収されているためと考えられる。ブタやイノブタの離脱によるリュウキュウイノシシとの混血は,リュウキュウイノシシの遺伝子を撹乱するため,在来動物の保護の点から問題がある。 ヤギとウシの場合は,同島にそれらの原種が生息しないため,混血や原種集団へのとけこみが生じることがない。現在みられるヤギの再野生化は,近年の森林伐採作業用キャンプ地の撤去に伴なう遺棄や台風による小屋の破損などのために生じた。近年,ウシもまた一部が内離島,外離島,本島西部で再野生化状態となっている。これらは,管理の不行届きが原因である。当地では,再野生化したヤギやウシによる在来の植生への影響が生じているものと推測される。 西表島では,行政当局によるこれらのイノブタ,ヤギ,ウシに対する関心は高くない。それは,これらの頭数が多くないこと,在来の動植物への被害状況が不鮮明であること,農業被害がほとんどみられないことなどによる。しかし,西表島は大部分が国立公園に指定されていることから,特に在来の生態系への影響に注意する必要がある。
著者
Koichi TANAKA
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.292-302, 2008-05-31 (Released:2010-03-12)
参考文献数
67
被引用文献数
2 3

The purpose of this paper is to review the achievements and issues in transportation geography in Japan since 1990, focusing on modern transportation. Although the number of studies in transportation geography has decreased, the studies that have been conducted can be classified into four types, namely, studies on (1) transportation enterprises, (2) the effects of transportation developments on given areas, (3) nodal structures, and (4) airports and harbors and their hinterland. Most of the studies focus on the former two themes, while some papers have been presented on the latter two themes in the 2000s. Finally, the author points out the issues that need to be addressed —in the study of transportation geography— against the backdrop of the trend of deregulation and globalization. It is necessary to examine the significance of deregulation in a region by considering the transportation in and orientation of the city as well as its public transportation. Meanwhile, the transportation geographers in Japan should conduct studies on air liberalization and the hub airport competition in Asia.
著者
近藤 暁夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.215-227, 2008-05-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
17

本研究では, 事業所の販売促進活動の空間的な展開にみられる特性を, 屋外広告活動を事例に検討した. 調査は京都府丹後地域の主要道路沿い 103kmの区間で行い, 1, 021件の屋外広告と, 491件の広告主を確認した. 広告主を検討したところ, 屋外広告の掲出に積極的なのは, 顧客との財やサービスの交換が日常的でない業種の事業所, 主要道路から離れた地点や市街地の外縁部などの相対的に顧客誘導上の立地環境が不利な事業所が多い傾向があった. 広告主となる事業所の多くが市街地の外縁部や外部に立地しており, 彼らは市街地の出入り口付近に多く広告を出すことから, 屋外広告は市街地の中心部で少なく外縁部で多い, 同心円状の分布パターンを示す. また, 屋外広告の広告圏には業種特有の傾向がみられ, 冠婚葬祭業や不動産関係, 遊興・観光施設, 各種商品小売店などは事業所から 10km付近にまで広告を展開させるが, 飲食店やガソリンスタンドなどは 5km程度の広告展開にとどまる.
著者
淡野 寧彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.6, pp.382-394, 2007-05-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2 2

本稿は, 茨城県旭村における養豚業の存立形態を示すとともに, 銘柄豚事業による農産物のブランド化が, 養豚業の存続にもたらす有効性と課題にっいて検討した. 旭村では, 1970年代以降, 養豚専業経営農家が現れ, 養豚団地の整備や糞尿処理設備の導入によつて, 養豚業の基盤が整えられた. 産地全体での生産・出荷体制は構築されず, 個々の農家による経営規模拡大や生産性の効率化によって, 茨城県最大の養豚産地となっている. しかし現在, 環境問題対策への負担増や肉豚取引価格の下落が課題となっており, その対策として銘柄豚事業が取り組まれつつある. 銘柄豚事業への着手は, 生産部門にとって, 肉豚取引価格の向上や安定, 流通・販売部門との結びつきの強化, 豚肉の販売状況に関する情報の入手といった利点を生み出している. 一方, 販売部門からは, 質的・量的安定性やトレーサビリテイの実現可能性が, 銘柄豚事業の利点として評価されている. しかし, 銘柄豚の流通範囲が限定的であることや, 小売業者によって銘柄豚の取扱いに差異があるといった課題が生じている.
著者
江口 誠一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.309-321, 2006-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1 1

植物珪酸体化石群の組成とその産出量によって,過去の砂浜海岸地域の植生と地形を空間的に復原するための方法論を提案し,縄文時代晩期の三浦半島古逗子湾奥海岸の堆積物についてそれを適用した.国内6地域において現生海岸植物6種の被度と表層堆積物中の植物珪酸体分布を対応させ,分類した8微地形区ごとにそれらの最高拡散量を平均値化した.その数値と植物珪酸体化石各型の産出量の対比によって推定された母植物生育域と堆積域を,成帯構造を呈する植生と地形に置換して空間的に復原した.古逗子湾奥海岸において約2800年前に海退傾向であったが,以降少なくとも約150年後まで一時期海進傾向に転じたことが指摘できた.
著者
宮澤 仁
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.133-156, 2004-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
39
被引用文献数
5 2

本研究では,多摩ニュータウンの早期開発地区を対象地域に,外出時に障壁に直面した下肢不自由者が,活動機会へのアクセスを確保するため用いる行為の実効性について考察した.その結果,被調査者は一様に,対象地域に遍在する高低差を障壁と認識する一方,建造環境の改変や有効な移動・交通手段の使用,他者が提供する介助の享受により,アクセスを確保していた.ただし,それらの実効性は,場所や財の所有関係,家族の形成段階や社会関係,地域生活の知識に条件付けられていた.特に,階段室式中層集合住宅が卓越する対象地域では,その居住者が受障後に自宅の出入りの問題を改善しようとすると長距離の転居が発生し,アクセス確保に寄与する既成資源が無用化される可能性が高まる.しかし,現住居にとどまるならば,自宅の出入りの問題が継続する.このようなジレンマ的状況を解決できず,生活空間の断片化を余儀なくされた場合,身体の障害が生活実現の剥奪に帰結する危険性が高まるであろう.
著者
藤部 文昭
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.119-132, 2004-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
12
被引用文献数
18 14

近年,盛夏期に多発している著しい高温について,アメダス資料を利用してその空間分布と経年変化(1979~2002年)を調べた.昼間の高温(最高気温〓35°Cあるいは〓38°C)は三大都市圏の内陸域で多発し,夜間の高温(最低気温〓25°Cあるいは〓28°C)は関東以西の沿岸域と大都市の中心部で多発している.経年的にみると,関東~九州では夏季のピーク時の気温が1°C/(20年)のオーダーで上昇しているが,850hPaの気温上昇率は地上の半分以下であり,地上の経年昇温の過半は境界層内の変化である.この高温化は都市域だけでなく東~西日本の広範囲に及んでいるが,三大都市圏の内陸域では周辺地域に比べて最高気温の上昇率が0.2~0.4°C/(20年)大きい.これらのことから,近年の大都市圏の高温多発傾向は,徐々に進展してきた都市ヒートアイランドにバックグラウンドの急激な高温化が加わった結果であると考えられる.
著者
尾方 隆幸
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.14, pp.1025-1039, 2003-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
39
被引用文献数
3 2

本稿では,日光国立公園の戦場ヶ原を対象に,扇状地との境界付近における湿原の縮小と,それに関連して生じる地表面プロセスを論じた.調査地域には,扇状地側に年代の古いカラマッ林が,湿原側に年代の新しいシラカンバ林が成立している.この植生分布の境界は,扇状地堆積物の分布限界,すなわち地形的な境界と一致する.地形の形成に伴って侵入した樹木は,蒸発散量・地下水位・風速・積雪深などの微気候を変化させたと推察される.カラマッ林と,その後に成立したシラカンバ林の景観の違いは,遷移のステージの違いを示すものではなく,局地的な環境条件の差異によって規定されており,その環境条件を決定する基本的な要因は地形形成作用および地表面の形態であると考えられる.