著者
長沼 佐枝
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.522-536, 2003-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
21
被引用文献数
4 4

本研究は,インナーエリア地区において住宅更新が人口高齢化に及ぼす影響を明らかにすることを目指した.ここで得られた知見は,以下の2点である.(1)この地区で,三世代同居を行うには,住宅更新が前提となるが,土地利用上の問題と土地・建物に関する非現実的な法規制が,住宅更新を事実上難しいものにしている.このため,第二世代は結婚・就職の機会に家から域外へ転出している.このことが,各家の住宅更新意欲をさらに低下させ,ますます住宅更新が進まない状況を作り出している.(2)加えて,このような現状において,第一世代と第二世代の職業やライフスタイルの違いから,第二世代が第一世代の近隣に住む可能性は低く,第二世代が将来的にも戻らないならば,ますます住宅更新は進まないと考えられる.以上のように,この地区では高齢者のみから構成される家が増え,人口高齢化が進んでいる.
著者
伊藤 晶文
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.537-550, 2003-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
34
被引用文献数
2 1

北上川下流低地に分布する浜堤列の形成時期について,空中写真判読,ボーリング資料解析,堆積物の粒度分析と14C年代測定および考古学的資料の整理などから考察した.さらに,本研究で明らかとなった浜堤列形成時期と既存の14C年代資料の整理・検討および埋積浅谷の形成時期とから,仙台湾岸における完新世後期の相対的海水準変動を考察した.北上川下流低地臨海部には,内陸から順に広渕浜堤列,第I浜堤列,第I'浜堤列,第II浜堤列,第III浜堤列の五つの浜堤列が存在し,各浜堤列の形成時期は,内陸側から縄文時代前期 (6,000~4,600 yr B. P.), 縄文時代中期 (4,600~4,000 yr B. P.), 縄文時代後期 (4,000~3,000 yr B. P.), 縄文時代晩期から弥生時代にかけて (3,000~1,600 yr B. P.) および1,000 yr B. P.以前から現在である.仙台湾岸では過去6,000年間に5回の海水準の上下動が認められ,約3,500 yr B. P.と約2,200yrB. P.を含む5回の海水準の極大期,約2,500 yr B. P.と約1,600 yr B. P.を含む4回の海水準の極小期の存在が推定された.
著者
佐藤 英人 荒井 良雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.450-471, 2003-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
50
被引用文献数
2 1

本研究では,1980年代後半以降に,大規模なオフィス開発事業が展開された旧大宮市中心部,幕張新都心,横浜みなとみらい21地区を事例として,オフィスが郊外に配置された際の就業者における住居選択をアンケート調査から分析した.オフィスが郊外に配置されるならば,「郊外勤務・郊外居住」という職住関係の構築が理論的には可能である.しかし,分析の結果,転勤を命じられた時点のライフステージによっては,職住間の距離が増大することが確認された.ただし,転居を実施した者にとって,郊外への転勤は,持家取得の契機となっており,特に大手企業の情報関連部門に所属する幕張新都心勤務者は,早い年齢段階で持家を取得している.その理由として,(1)都心40km以遠に比較的安価な戸建住宅が供給されたこと,(2)都心40km以遠に取得しても,通勤が可能であること,(3)彼らが営業職よりも転勤回数が少ないことが挙げられる.
著者
淺野 敏久
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.443-456, 2002-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
5 2

本稿では中海干拓問題を事例としてローカルな環境運動をとらえる地理学的な視点について論じた.その際,マスコミの当該問題に関する記述と,反対運動の立場からの問題の記述,筆者のこれまでの研究から得た知見を対比させ,環境運動が当該問題を語る際にどのように位置付けられているのかを明らかにした.結果として,環境運動が当該問題の決着において果たしている役割が社会的に軽視されている実態の一端を示すことができた.その事実を踏まえ,このようなローカルな環境運動への地理学的アプローチに求められる課題を提案した.すなわち,第1に環境運動の政策決定や土地利用に与えた影響を読み取ること,第2に環境運動の性格を多面的に理解すること,特に対象となる自然への運動参加者一人一人の意識まで視野を広げること,第3に環境運動をさまざまなスケールの「地域」の文脈から検討することが必要ということである.
著者
山下 琢巳
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.399-420, 2002-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本研究は天竜川下流域を事例に,江戸時代末期から明治時代まで,流域住民によって担われてきた水防活動と,堤防,水制工の維持・補修工事や河川改修といった河川工事の実態を検討し,流域住民の治水事業への関わり方の変容を明らかにすることを目的とした.考察に際しては,水防活動,河川工事,共に中心的な役割を果たした水防組合の活動内容に注目した.江戸時代には,水防活動と河川工事の実施主体に明確な区分がなく,いずれも天保水防組に加入する村の村請けによって行われていた.明治初・中期になると,水防活動は水防組合が行い,河川工事は下流域の業者が請け負うものへと変化した.また明治中期より開始された内務省直轄の河川改修により,天竜川下流域では水害そのものが相対的に減少した.その結果,明治末期には流域住民の参加する水防組合の諸事業が機能しなくなっていた.河川法が制定された明治中期以降の天竜川下流域では,内務省や静岡県が治水事業を統括していく過程で水害は減少したが,住民の治水事業への関わりが稀薄となり,水防組合の活動が次第に形骸化していったことが明らかとなった.
著者
田島 幸一郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.63, 2004 (Released:2004-07-29)

1.はじめに わが国では、1960年代以降、自動車が普及したことによりライフスタイルが大きく変化した。こうした状況の中で、急速な勢いで台頭してきたのが幹線道路沿いに見られる「ロードサイド型店舗」と呼ばれる店舗である。こうした現象は全国的レベルで進展しており、ロードサイド型店舗が集中している地区では新しい商業地を形成するまでに至っている。このような傾向は住民の重要な商業拠点としての役割を果たしてきた中心商店街の衰退をもたらした原因の一つとして考えられている。2.研究対象地域と目的本研究では対象地域として神奈川県厚木市を取り上げた。厚木市内では国道246号線沿線と、国道412号バイパス沿線の2か所でロードサイド型商業地の形成が著しい。国道246号線は1964年8月に開通し、東京都渋谷区と静岡県沼津市を結んでいる。また、東名高速道路と並走しており、厚木I.C.は東京大都市圏の外縁道路と結ばれていることから自動車通行量が多く、ロードサイド型店舗も早い時期から立地が確認されている。それに対し、国道412号バイパスは1992年3月に開通した新しい幹線道路でありながら、すでに沿道には集中的に店舗が立地している。そこで、本研究では2ヶ所のロードサイド型商業地を業種構成や利用客の実態から比較し、双方の特徴を明らかにすることを目的とする。3.結果 国道246号線沿線地域においては、店舗の立地が始まった1960年代後半では自動車販売業や自動車整備業、ガソリンスタンドなどの自動車関連業の割合が高かった。しかし、1970年代に入ると、飲食業が急激に増加しチェーン展開している店舗が立地した。以後、国道246号線沿線では飲食業の割合が常に1位となっている。また、道路の持つ性格上、利用客は広範囲に渡っていることも明らかになった。このことから、国道246号線沿線の商業地を「通過型」に分類した。 国道412号バイパスは、厚木市の郊外地区を縦貫し、津久井郡へ抜ける生活幹線道路であり、特に厚木市内には吾妻団地をはじめとした住宅地が広がっている。これらの要因から、ロードサイド型店舗の主な対象客は地域住民であることが明らかになった。この通りでは、飲食店よりも衣料品店や家電販売店、自動車関連店などの物販店の割合が高いことから、国道412号バイパス沿線のロードサイド型商業地はその性格を「居住地型」に分類することができる。 このように、厚木市の事例では、通過型と居住地型の2つのロードサイド型商業地が存在し、その業種構成や、成立過程にも違いがあることがわかった。 表1 ロードサイド型商業地のパターン 通過型 居住地型立地 都市と都市を結ぶ 市街地と郊外住宅地を結ぶ 主要幹線道路沿線 生活幹線道路沿線顧客・商圏 広範囲 地域住民主体業種構成 飲食店>物販店 物販店>飲食店厚木市の場合 国道246号線 国道412号線バイパス
著者
柴田 陽一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.146, 2013 (Released:2013-09-04)

【はじめに】公共サービスの地理学は,公共サービスの地域差や公共施設の立地問題などを研究テーマとしている。こうしたテーマを追求する上で,小中学校は一つの研究対象となりうる。その理由は,小中学校は義務教育であるがゆえに,どこに居住する児童・生徒にとっても通いやすい地点に立地するのが望ましいにもかかわらず,実際は必ずしもそうなっていないからである。そこで,小中学校の最適立地地点はどこか,いかに通学区域を設定すべきかといった問題に関して,これまで多くの研究が行われてきた。なかでも児童・生徒の総通学距離の最小化が,これらの研究の焦点であった。/日本の法律をみると,「義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律施行令」(2007年改正)には,「通学距離が,小学校にあってはおおむね4km以内,中学校にあってはおおむね6km以内であること」とある。また,小中学校施設整備指針(2010年改正)には,児童・生徒が「疲労を感じない程度の通学距離を確保できることが望ましい」とある。しかし,都市部はさておき,児童・生徒数減少のため学校の統廃合が進んだ山間部では,上記の距離以上を通学する児童・生徒も少なくない。/では,1986年の義務教育法施行以降,義務教育(小学校6年と初級中学3年)の普及を急速に進めてきた中国(小学校就学率1965年=84.7,1980年=93.0,1990年=97.8,2000年=99.1,2010年=99.7%)において,小中学校の立地はいかに変化したのか,その立地は適正な通学距離を確保しるものなのか。本報告では,昨夏にフィールド調査を行った吉林省長春市近郊農村の事例を中心に,これらの問題を検討することを通じて,中国農村地域の特徴の一端を考察してみたい。【東湖鎮黒林子村におけるフィールド調査】フィールド調査は,2012年8月16-18, 21, 25日に,小島泰雄氏,中科院東北地理所の張柏氏・劉偉傑氏と共に実施した。黒林子村は,長春市の東に位置する九台市東湖鎮(長春市街地から約20km,戸籍人口3.2万人)の1行政村である(鎮全体の行政村は12)。村中心部は長春市街地から約10kmに過ぎず,近年,近郊農村化しつつある(野菜生産の開始,幹線道路沿いへの企業の立地)。村は8つの村民小組(隊,社とも)から構成され,2012年時点の人口は423戸・1,452人である(1990年=372戸・1378人,2000年=391戸・1418人)。/村委員会での聞き取りによると,現在の黒林子小学は全学で6班約40人であり,教職員と生徒の数はそれほど変わらない。1960年代に開校(市志→1964年)する前は,北東約2kmに位置する双頂子小学へ通学していた。中学校は村になく,現在も昔も10km強離れた鎮中心部の中学校(現在の東湖鎮中心学校,市志→1957年開校)へ通学しているという。また,農民(1932~1951年生まれの6人)への聞き取りからは,1940~60年代初頭は,村に小学校がなく別村に通学していたが,通学先は同じではない(双頂子,大頂山,大何屯など)といった情報が得られた。通学先に違いが生じた理由は,就学時期・個人的事情を除けば,各農民の居住する小組の村内における位置にあると考えられる。【長春市周辺における小中学校の立地変化】市志に基づき,長春市周辺における小学校の立地地点を調べると,(日本の基準であるが)学校から4km以上離れた地域は,周辺の農村地域でも多くないことが判る。中学校の立地地点をみても,ほとんどの地域は6km圏内に含まれている。ただ,市志のデータは1988年のものであることに注意が必要である。/というのも,1980年代半ば以降,政府は農村の小中学校の分布調整に着手し,多くの学校を統廃合する政策を実施してきた。2000年代に入ると,政策は「撤点併校」と呼ばれ,統廃合がさらに進められた。その結果,2000年から2010年の間に全国の農村小学校数は約半分に減少し,ある調査によると,平均通学距離は小学校で5.4km,中学校で18kmにもなり,多くの中途退学者を生み出す原因になっているという。そのため,現在の長春市周辺の小中学校の立地地点も,1980年代末とは異なる。【おわりに】中国政府は義務教育の完全普及を目指し,義務教育法を2006年に改正した。その中では,義務教育無償の原則や農村と都市の教育格差是正の方針が明確に打ち出されている。しかし,農村地域を小中学校の立地変化からみると,むしろ農村と都市の格差は広がっている。今後は,特定地域の小中学校の統廃合過程をより具体的に明らかにしたい。
著者
東浦 将夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.135-142, 1972-02-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
3

降雨が地下水位の上昇に関係していることは明らかであるが,地下水位上昇の割合は土性が同じでも降雨特性・先行降雨条件・蒸発散量などに左右されて変る.筆者は自然状態の砂質地において地表に降った雨が地下水位の変化にどのような影響を与えるかを,降雨特性と地層の性質から調べた.調査地域としては,地下水面が地表に近く,地下水の水平的な補給の影響がほとんどなく,潮汐の影響もみられない等の諸条件を考慮し,鹿島南部砂丘地を選定した.測器は地下水位に自記水位計,雨量に自記雨量計,浸透量に自作の浸透計を使用し,土湿の測定は炉乾燥法で行なった. 1967年6月27日から9月25日の3ヵ月間の連続観測から次の結果を得た.降雨前の土湿不足が地下水位上昇に影響を及ぼす.ほぼ同量の降水量であっても,降雨期間,先行降雨の状態により地下水位の上昇量や浸透量が違う.期間が長くなるととくに蒸発散量の影響が無視できなくなる.
著者
内藤 博夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.594-606, 1970-10-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
9

秋田県北部の花輪盆地と大館盆地の地形発達史を考察し,次のような結果を得た(第四紀末の火山砕屑物については省略). 花輪盆地:鮮新世の中頃ないしそれ以降に,それまで山地であった盆地域が陥没して堆積地域となった.陥没は東縁と西縁を断層で切られた北に開く襖状ブロックの南への傾動による.更新世の中~後期に入ってから隆起に転じ,盆地堆積物の堆積面は段丘化した.盆地南部は隆起の速さがより大きく,新しい段丘の発達がよい. 大館盆地:盆地内での堆積の進行に先立って,盆地域は隆起の速さが周辺より小さかったため,河川の侵蝕が進み,小起伏化した.その後陥没して堆積地域となったが,その時期は鷹巣盆地の湯車層(下部更新統)の下部よりも新しい.陥没は東縁と南西縁を断層で切られた北に開く襖状ブロックの南への傾動による.現在まだ沈降を続けている. 両盆地ともその形成に与った運動はよく似ており周辺の地質構造を反映しているが,時期的にはつれている.
著者
中條 曉仁
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.13, pp.979-1000, 2003-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30
被引用文献数
3 1

本稿は,過疎山村における高齢者の生活維持メカニズムを,高齢人口の残留傾向が顕著な島根県石見町を事例として検討した.分析には「戦略」概念の枠組を導入し,高齢者が生活を維持するための「適応戦略」の展開メカニズムに注目した.過疎山村で多数を占める子どもと別居する高齢者を対象に,彼らが他者と形成する社会関係を適応戦略の「資源」とし,高齢者を取りまく他者(別居子・近隣者・友人)を資源の源泉として位置付けた.適応戦略の展開は,高齢前期において自ら他者を取り込んで資源を調達する傾向にあるが,高齢後期に至ると他者が資源調達を支援しており,その主体性に変化が生じている.そこには高齢者と他者との空間関係が作用しており,近隣者は加齢に対して最も社会関係の安定した他者となっている.これは同時に高齢者による適応戦略の展開に,加齢に伴う限界が生じていることを示すものである.過疎山村における高齢者の生活維持は,高齢者をめぐる他者の関係性が加齢に伴い,その構築主体を含め柔軟に変化することで成立しているものと考えられる.
著者
高橋 信人
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.13, pp.935-956, 2003-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1 4

22年間(1979~2000年)の8~11月の地上天気図を用いて作成した前線出現頻度から,秋雨初期(9/3~9/12),秋雨中期(9/13~10/7),秋雨終期(10/8~10/22)を定義し,降水分布や循環場を比較検討した.これらの時期の降水分布は前線出現頻度分布に伴った季節推移を示す.また,秋雨期における850hPa面の季節推移は,四つの気圧系(中国大陸上の高気圧,太平洋高気圧,インドモンスーン低気圧,南シナ海~フィリピン海付近の低緯度トラフ)と,日本付近およびベーリング海から伸びる中緯度トラフの盛衰によって特徴付けられる.特に,太平洋高気圧と台風活動を伴う南シナ海~フィリピン海付近の低緯度トラフの発達は,前線出現頻度の年々の多寡に深く関係している.また,これらの気圧系とベーリング海付近から伸びる中緯度トラフの発達時期,および東西方向の位置は,年々の前線高頻度期の遅速を決める大きな要因であることが明らかになった.
著者
齋藤 元子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.413-425, 2005-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23

学制公布の翌年1873(明治6)年に文部省の指示を受けて,師範学校が編纂した最初の官製地理教科書『地理初歩』は,アメリカ人コーネルの地理書を底本にしたといわれている.コーネルの地理書は,5段階のシリーズ教科書と自然地理書の6種類がある.これまでCornell's Primary Geographyを底本に, Cornell's High-School Geographyを補足本に用いたという説と, Cornell's First Steps in Geographyを底本にしたという説が提示されているが,詳細な検証はなされていない.本稿は,『地理初歩』の底本を明らかにすることを目的として,『地理初歩』の本文ならびに挿入図のすべてを, 6種類のコーネルの地理書と対比させ,文章の引用関係を調査した.その結果,『地理初歩』の底本はCornell's Primary Geographyであり, Cornell's First Steps in Geography, Cornell's lntermediate Geography, Cornell's Grammar-School Geographyを補足に用いたことが明らかになった.
著者
ハーヴェイ・ D
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.126-135, 1994-12-31 (Released:2008-12-25)
被引用文献数
12 18

地理学者は,「空間」,「場所」,「環境」のどれか1つを取り出して学問を構築しようとしてきたが,本当は3つの概念を同時に相関的に扱わねばならない。ただ本日は,このうち「空間」を中心にし,空間と時間の社会的構成について話したい。 異なる社会は各々に個別性ある時空概念を構築する。社会的構成は物質世界の外にある純粋な主観でなく,物質世界の様相において時空を理解するやり方である。時空の尺度を選択するのは自然でなく社会である。この選択は社会の作用にとり基礎的・個人にとり客観的事実で,個人がなされた選択から逃れると罰をうける。決定された時空様式は生産・消費様式や権力と結びつき,時空様式を中立とみると社会変革の可能性の否定になる。 社会変容は構成された時空の変容と結びつく。支配的社会はそれ固有の時空概念を従属的社会におしつける。ここから,時空様式の変革から社会を変革しようとする思想と行動が生まれた。時空概念は社会諸部分の相異なる目的や関心により変容し,異なる時空性は互いに葛藤する。例えば,数十年の将来を利子率だけでみる新古典派経済学者と無限の将来にわたる持続性を説く環境論者とで時空性は異なる。男女の旧い分業に基づく時空性に基づき計画された都市と,そこに住み社会で働く女性がもつ時空性とは矛盾をきたす。 空間と時間について,ニュートンの「絶対」,アインシュタインの「相対」,ライプニッツやルフェーブルの「相関」の3概念がある。「絶対」では,時空がその中で作用する過程から独立な物質的枠組とみなされる。「相対」では,依然独立とされる時空の尺度がその物的性質に応じ変化するが,時空の多元性を許容しない。これまでの議論と整合的なのは,各過程が自らの時空を生産するという「相関」である。ライプニッツは,ニュートンの同僚クラークとの論争で案出した「可能な諸世界」の考えを説いた。マルクス主義唯物論者として私はこれを世俗化し,利害と過程の多元性が諸空間の不均質性を規定し,この諸空間のなかから支配的権力がもつ利害を反映した時空が選びだされる,としたい。 この考え方は,現実における時空の多元性を強調するホワイトヘッドと共通している。彼にあって空間と時間は,異なる諸過程が関連しあって生み出される「一体性」,ならびに共存せざるを得ない諸過程の相互依存から空間と時間の共存とその統一された編成が出てくる「共成性」生成の研究により定義される。コミュニケートしあう諸過程はある支配的な空間と時間の考えを規定するから,これはコミュニケーションと類義となる。 現代社会の空間と時間についてみると,『資本の限界』で論じたように,資本主義は19世紀以来永続して革命的で,回転期間と資本流通の高速化が技術革新により達成されてきた。また,空間がコミュニケーションにとってもつ障害は.一層減少し,時間・空間の圧縮が生じた。これにより同時に,旧い時空リズムは創造的に破壊され全く新しい時空性をもった生活様式が生まれる。だが,この支配的過程がもつ効果は,場所の発展や環境利用のパターンに影響する労働市場や資本主義の経済システム内部における位置や立地などの位置性によって断片化され,時間・空間の圧縮全体の効果が断片化される。内的に整合性あるたった1つの過程が,都市人口内部などに断片化された時空性をもたらすのである。 ラディカル運動の任務の1つは,現在を変革した先にある世界がもつ時空に直面する問題に取り組み,現実的な可能性として規定することである。移りゆく時空の諸関係にそれと違う方向付けを与える課題は,今日の地理学者に避けがたく緊要である。(水岡不二雄)
著者
斎藤 功
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.53-81, 2006-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

ロサンゼルスの近郊酪農は都市の拡大とともに,南東部のアルテジア地域に集中し,1940年頃には搾乳型専業酪農drylot dairyが確立した.酪農家はこのアルテジア地域からチノバレーへ,さらにチノバレーからサンホワキンバレーへという3段階の立地移動を繰り返した.この延長線上に北部諸州やハイプレーンズへの立地移動がある.本稿は3段階にわたる酪農家の立地移動の実態と要因を解明し,その民族的背景を探ったものである.1960年代のアルテジア地域からチノバレーへの立地移動で,搾乳型専業酪農の規模は2倍の700頭に拡大した.1980年代,特に1990年代にチノバレーからサンホワキンバレーに移転した酪農場は搾乳規模が2,000~3,000頭になる大規模な工業型酪農に変身した.その際,兄弟や息子が独立する複数移動や連鎖移動が存在した.サンホワキンバレーでは移動時期と酪農規模に明確な差があるので,チノバレーの30年間が規模拡大のゆりかごになった.また,大規模酪農家の転入によりオランダ系酪農家がポルトガル系酪農家と肩を並べるまでになった.さらに,チノバレーなどから北部諸州やハイプレーンズに移転した大規模酪農家は,そこでも悪臭などの大気汚染や硝酸塩濃度の上昇という環境汚染を引き起こしつつあり,集団畜産肥育経営(CAFO)をめぐる規制が強化されつつある.
著者
Tatsuto AOKI
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.105-118, 2000-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
48
被引用文献数
9 10

Geomorphological equilibrium line altitude (ELAg), as defined by steady-state equilibrium line altitude estimated based on geomorphological method, has been used to reconstruct Last Glacial palaeoclimate. However, the ELAg is influenced not only by temperature, but also by other factors. This paper discusses factors affecting Last Glacial ELAg in the Kiso mountain range, central Japan. The weathering-rind thickness of gravel was used for dating moraines. The dating results have shown that glaciers advanced at the Last Glacial Maximum and the Younger Dryas stages. The ELAg for each stage was reconstructed based on the Accumulation-Area-Ratio method (AAR=0.6). The results indicate that the ELAg of each reconstructed glacier was affected not only by temperature but also by the altitude of mountain ridges. Although some previous studies have reconstructed palaeoclimate based on the ELAg, the results of the present study cast doubt on such reconstruction. For better reconstruction, the effects of temperature on the ELAg should be separated from those of topographic factors.
著者
成田 健一 三上 岳彦 菅原 広史 本條 毅 木村 圭司 桑田 直也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.403-420_1, 2004-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
33 30

新宿御苑を対象に夜間の冷気の「にじみ出し現象」の把握を主眼とした微気象観測を夏季約7日間連続して行った.緑地の境界に多数の超音波風速温度計を配置し,気流の直接測定から「にじみ出し現象」の把握を試みた.その結果,晴天かつ静穏な夜間,全地点でほぼ同時に緑地から流出する方向への風向の変化と約1°Cの急激な気温低下が観測された.にじみ出しの平均風速は0.1~0.3 m/sで,にじみ出し出現時にはクールアイランド強度が大きくなる.このときの気温断面分布には流出した冷気の先端に明確なクリフが現れ,その位置は緑地境界から80~90 mであった.このような夜間の冷気の生成に寄与しているのは樹林地よりも芝生面で,芝生面は表面温度も樹冠より低い.芝生面の顕熱流束は夜間負となるが,にじみ出し出現夜はほぼゼロとなる.すなわち,クールアイランド強度の大小と大気を冷却する効果の大小は,別のものと考えるのが妥当である.
著者
二神 弘 杉村 暢二
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.196-216, 1975-03-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
16

上述したごとく多くの地方都市においては,原型として古い戦前型都心や戦災復興型都心の部分的,外装的改変では,もはや量的質的に飛躍的に増大した都市住民の都心的欲求を充足することは困難になってきている.このような今日的状況のなかで地方都市は.それぞれ独自に都心再開発計画を構想し,或は立案し,或は既に都心再開発を実施しているなど,その現状は極めて多様である.筆者は地方都市における都心再開発は,先発グループとしての中央巨大都市群の都心再開発の先行の中から多くの教訓を学びつつ,都市住民の広汎な都心的欲求に十分に対応した,いわゆる市民都心の創造を強く提案したい.
著者
渡来 靖 岡本 惇 中村 祐輔
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100195, 2016 (Released:2016-04-08)

駿河湾域ではしばしば駿河湾収束線と呼ばれる収束線が形成され,駿河湾周辺の静岡県東部地域に局所的な荒天をもたらすこともある.駿河湾収束線の研究は古くからなされているが,近年の気候学的特徴は十分に調査されていない.本研究では,最近20年間の地上観測データから駿河湾収束線の気候学的特徴を明らかにするとともに,その形成条件について検討する. 駿河湾収束線の典型事例を抽出するために,相模湾を囲むAMeDAS観測点8地点(御前崎,菊川牧之原,静岡,清水,富士,三島,松崎,石廊崎)の地上風時別値を用い,平面近似法により一時間ごとの発散量を求めた.求まった発散量が負値であれば駿河湾域で地上風が収束していることになるが,その中で発散量が −1.0×104 s-1以下となった場合を強い収束と定義した.これは,発散量が負値となった全時間のうちの上位約5%に相当する.さらに,強い収束が少なくとも3時間以上連続した場合を収束事例とした. 1995~2014年の20年間について,駿河湾域での強い収束の出現頻度を調べたところ,強い収束は寒候期の1~3月に最もよく出現し,平均約3~4%の出現頻度である一方,夏季の6~8月にはほとんど出現しなかった.1~3月の3か月間の収束事例をカウントすると20年間で162事例(平均8.1回/3か月)であったが,2013,2014年の12回/3か月から1999,2002年の1回/3か月まで,出現頻度の年々変動は大きい. 抽出された収束事例について,ひまわり赤外画像を元に駿河湾域の雲の形状から分類を行った.全事例のうちの49%は上層の雲等の影響で相模湾域の局所的な雲の形状を判別するのが困難であった.30%は駿河湾付近を始点として南東方向に延びる雲列が見られ,駿河湾域やその南東側での地上風の収束により形成されたものと推測される.線状雲列が見られた事例はさらに,雲列の東側にも雲域が広がる場合(以降T型と呼ぶ)と,そうでない場合(S型)に分けられる。S型,T型の割合はそれぞれ19%,11%である.残りの21%は,相模湾域に雲が見られなかったり,明瞭な雲列が形成されていない事例である. 輪島,浜松,館野のゾンデデータより求めた上空850hPa面の地衡風を調べたところ,強い収束の出現時は北~北北東の風であることが多く,その傾向はS型でもT型でも違いはなかった. S型の典型事例である2012年1月2日と,T型の典型事例である2012年3月21日について,領域気象モデルWRF Version 3.2.1を用いて再現計算を行い,相模湾域における収束線の形成要因を調べた.S型事例における駿河湾域の地上付近を始点とする後方流跡線解析の結果によると,相模湾では主に富士川の谷からの北風と,伊那谷を通って赤石山脈を迂回するように吹き込む西風が収束していることがわかる.T型事例ではさらに,関東山地を迂回して伊豆半島を越えて吹き込む東風も見られる.駿河湾域での収束線形成には,駿河湾周辺の地形の影響を受けて山地を迂回する流れが卓越することが重要であることを示唆する. 駿河湾収束線は主に1~3月に出現し,出現時の上空の風は北~北北東風である.S型やT型で見られる列状雲は伊豆諸島付近まで延びており,中部山岳域を大きく迂回するような地上風系に影響されていると思われるが,駿河湾域での強い収束の形成には駿河湾周辺の谷筋を抜ける流れが重要であることが示唆された.
著者
Hiroaki MARUYAMA Takaaki NIHEI Yasuyuki NISHIWAKI
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.5, pp.289-310, 2005-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32
被引用文献数
3 4

The Brazilian Pantanal, the world's largest wetland holding abundant wildlife, has recently drawn profound concern about the development of the tourist industry. To provide significant proposals for ecotourism in the wetland, we believe that detailed data acquired by fieldwork is requisite, This study examines the regional bases that carry regional ecotourism, and attempts to present some proposals for ecotourism from the case of the north Pantanal. The results are shown as follows in order of regional scale. (1) In the water source of the Pantanal, Cerrado region, it is necessary to make efficient plans to control recent agricultural development, especially in soybean and cotton production. (2) On the wetland level, legally protected areas such as national parks and RPPN (Reserva Particular do Patrimônio Natural) should be extended. (3) On the municipal level, environmental subsidies are needed for disused goldmines, and for the maintenance of tourist infrastructures such as Transpantaneira and MT 370. (4) Modern hotels and eco-lodges need to provide ecotourism organized by local people, and to equip the facilities with adequate sewage facilities and garbage recycle plants to preserve the natural environment.