著者
豊田 哲也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100051, 2011 (Released:2011-11-22)

地域格差を論じるにあたっては、地域間格差と地域内格差の概念を区別することが重要である。前者は平均的水準で比べた「富裕な地域」と「貧困な地域」の差という空間的な関係であり、後者は散布度で測った「富裕な層」と「貧困な層」の差という階層的な関係である。近年の社会疫学では、「豊かな地域ほど健康である」という絶対所得効果だけでなく、「経済格差が大きな地域ほど不健康である」という相対所得仮説が提起され、大きな論争を呼び起こしている。日本社会は経済格差が小さいと考えられてきたが、1990年代以降はジニ係数が継続して上昇傾向を示すことから、所得の地域間格差や地域内格差が健康水準に影響を与えている可能性がある。本研究では都道府県別に世帯所得の分布を推定し、平均寿命との相関を見ることで上記2つの仮説を検証することを目的とする。 使用するデータは「住宅・土地統計調査」の匿名データである。「世帯の年間収入階級」別の世帯数から、線形補完法により収入額のメディアン(中位値)、第1四分位値(下位値)、第3四分位値(上位値)を推定し、四分位分散係数を求める。今回の分析では以下の点で方法の改良と精緻化を図っている。(1)世帯所得には規模の経済が作用するため、平均世帯人員の平方根を用いて等価所得を求める。(2)高齢化にともなう年金生活世帯の増加など人口構成の変化要因を除くため、「世帯を主に支える者」の年齢階級で標準化をおこなう。(3)物価水準の地域差や時系列変化を考慮し、「地域物価差指数」と「消費者物価指数」をデフレーターとして所得を実質化する。こうして求めた1993年、1998年、2003年の所得分布と、「都道府県生命表」から得られる1995年、2000年、2005年の平均寿命について相関を調べる。 推定された所得と平均寿命の相関を見ると、女性では有意な相関を見出せないが、男性では地域の所得水準(中位値)が高いほど、また地域内の所得格差(四分位分散係数)が小さいほど平均寿命が長いという関係がある。また、2000年から2005年にかけて所得格差と男性寿命の相関が強まった。ただし、所得水準と所得格差の両変数間には強い逆相関が存在するが、偏相関係数により前者の影響を取り除いた場合でも、後者と平均寿命の間に有意な関係が認められた。この結果から、男性に限り日本においても前記2つの仮説は支持されると考えられる。
著者
村山 祐司
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100157, 2015 (Released:2015-10-05)

GIS革命は,都市地理学にどのような方法論的発展をもたらしたであろうか. 都市に関するデータは多岐にわたり,センサスをはじめ膨大な地理空間情報がデジタル化され蓄積されてきた.最近では,POS,各種統計の個票,さらに都市住民がSNSを通じて発信するボランタリー情報なども利用可能になっている.リアルタイムで提供される非集計の情報は,位置と時間を付与した時空間データとして体系的に整備していくことが求められ,データベース構築に対してGISの果たす役割は大きい.コミュニティレベルを例に挙げれば,字,町丁,地区,学区,自治会区,あるいはメッシュなど,さまざまなスケール単位 で自在にデータを組み替えられるし,位置・時間情報を手がかりに,研究目的に沿う新たな空間データを作り出すことも難しくない.可変単位地区問題(MAUP)にも柔軟に対応できる. これまで概念提示に留まっていた精緻な空間モデルや分析手法を操作可能にするとともに,実証研究への適用を実現させたGISの功績は大きい.グローバル/ローカル・モデル,ボロノイ分割,空間的自己相関,パターン認識など,その事例は枚挙にいとまがない.高度な空間解析機能がGISソフトウェアにモジュールとして組み込まれ, GIS初心者でもこれらの機能を難なくハンドリングできる.これらの空間解析機能を駆使した実証的な都市地理研究を通じて,新たな知見が数多く見いだされている. 今日,高精細な衛星画像が安価で入手可能になり,リモートセンシング(RS)とGISを結びつけた都市の空間分析が存在感を増しつつある.たとえば,ランドサット画像から都市的土地利用・被覆を導出し,社会経済的特性や人口分布とグリッド単位でオーバレイさせ,それらの関連性を探る研究があげられる.ALOS,ドローン,航空レーザ測量などからDEM,DSMを導くことで建築物の高さ(DSM-DEM)を自動計測し,都市の水平的拡大とともに垂直的拡大を時系列的に3D可視化する試みもみられる.NDVI(植生指標)を算出し,定量的に都市緑地の量や分布を推定することもたやすい. 多種多様な属性が同一基準で都市ごとにデータベース化されれば,研究者間で情報を共有でき,都市空間の比較研究も飛躍的に進むであろう.これまでの都市地理学は,特定の都市を対象とした個別実証分析が多数を占めた.GIS革命は個々の都市の機能や特性を都市群全体の中に位置づける相対的思考を醸成させ,都市が有する一般性と固有性の議論を深化させた.GIS革命はいわば触媒の役割を果たし,GIS技術を武器にしながら,時空間概念を旗印に専門分化が進んだ都市地理学の諸分野を結びつけるだけでなく,時空間分析に関心を持つ隣接諸科学も引き寄せたと言えるかもしれない.計量革命は空間プロセスの研究を興隆させたが,GIS革命は空間プロセスから空間予測の研究,さらに空間制御・管理の研究へと都市地理学をいざなった.ジオシミュレーション技法を活用した空間予測モデル,遺伝的アルゴリズム,セルオートマタ,ニューラルネットワーク,エージェント・モデルなどを活用した精緻なシナリオ分析は,現実に即した都市政策や都市計画の策定に貴重な情報を提供する. 重要なのは,アーバナイゼーションやメトロポリタニゼーションといった空間プロセスを解き明かすメカニズム研究に加え,持続可能な都市像すなわち理想的なアーバニティ,メトロポリタニティを科学的に見定め,都市の空間動態を今後いかに制御・管理すべきかを科学的に提示することである.そこには,フォアキャストではなくバックキャスト的思考が求められる.GISの果たす役割は大きい.
著者
加藤 武雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.29, no.9, pp.559-567, 1956-09-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
6

In this paper, the results of the investigations of the Tachiyazawagawa are reported. The results are summarised as. follows:- 1. The water temperature of the river is lower than that of the Mogami (main stream) throughout the snow-melting season. The diffe-rence, lies 1.3 and 5.1. 2. The upper reaches of the river consist of the Nigorisawa, the Honsawa (the main stream) and the Akasawa. Among the three, the Nigorisawa is most influenced by the volcanic activity of Mt. Gassan, judging from the chemical analysis of the water taken from the stations in the drainage system. 3. The content of the dissolved oxygen in the water undergoes the diurnal change. The relation between the oxygen content and the water temperature nearly shows the negative correlation. 4. The chloride content of the river decreases regularly with the increase of the flow except during the snow-melting season.
著者
佐野 静代
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.19-43, 2003-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
46
被引用文献数
8 2 2

本研究では,歴史地理学的手法による環境問題研究の可能性を再検討することを目的とし,琵琶湖沿岸域の淡水性潟湖である入江内湖を対象に,主に近世以降の景観を分析することから地域住民の生業活動と内湖の環境変化を論じることを試みた.内湖の生態的条件に応じて形成された環境利用システムの実態を,近世以来の文書・絵図資料から検証し,人間を含めた生態系としての水陸漸移帯の全体像と,その崩壊メカニズムを解明した. 入江内湖の生態的環境とその伝統的環境利用システムの崩壊は,昭和初期の水位低下に伴う生物資源の減少と,同時期に生起した農・漁複合生業形態から専業的活動への生業変化を契機としていたことが明らかになった.漁携・藻取り・ヨシ刈りなど多様な価値を含んでいた内湖=水陸漸移帯の「空間の多義性」が捨象され,「農地への転換可能地」という単一の価値観へと収斂されていったことが,干拓促進の要因となったことを指摘した.
著者
吉本 剛典
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.605-620, 1981-11-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
17
被引用文献数
3

多次元尺度構成法 (MDS) の一手法であるToblerの方法は,点間距離の入力データがメトリックの条件を満足し,点の配置を再現する空間をユークリッド平面に限定するとき,より簡便で操作的な手法である.本稿では,昭和36年と昭和55年の2時点について,全国主要46都市間の国鉄路線利用による時間距離にこの手法を適用し,得られた時空間マップの解釈と経年的比較を行なうとともに,手法の有効性に検討を加えた. その結果,この19年間にわが国の交通システムは大きく発展し,なかでも新幹線による時間短縮の効果が絶大であることが判明した.また,時間距離の入力データと,ユークリッド平面に再現された時間距離との適合度の評価によると, Toblerの方法は十分有効であった.これによって,交通システム研究において,時空間マップによる視覚的考察の可能性が示されるとともに,錯綜した構造をもつデータを少数次元の空間に再現するといった手法の有効性が明らかとなった.
著者
Hiroyuki KUSAKA
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.361-374, 2008-05-31 (Released:2010-03-12)
参考文献数
139
被引用文献数
14 18

A review of urban climate studies in Japan since 1980 is presented. First, we describe recent research on an urban heat island. In this section, we focus on the heat island with a scale larger than a single city, heterogeneous temperature distribution in an urban district, and quantitative analysis of the formation mechanism of the heat island using numerical models. We then summarize the interaction between a sea breeze and a heat island. Cloud formation and precipitation over the urban area are also summarized. Furthermore, recent studies on the estimation of urban surface parameters and anthropogenic heat maps are briefly described. Observational studies on the urban canopy layer are also introduced. Some recent studies on urban planning are introduced, focusing on the cooling effect of parks and rivers on the urban temperature. Finally, we conclude the review by describing ongoing work.
著者
島津 俊之
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.14, pp.887-906, 2007-12-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
137
被引用文献数
1 1

近年の英語圏地理学史研究では, 地理的知識の生産・流通・消費における空間の意義を問題化する知の空間論の視点が勢いを増している. 本稿では, 京都帝国大学教授として日本で最初の地理学教室を主宰した小川琢治が, 紀州を中心とする多様な空間的コンテクストの中で, 地理学に関わる思想・実践をどのように育んでいったのかを検討した. 少年期に紀州で育まれ, 後年の中国歴史地理研究に活かされた漢学の素養は, 不眠症に陥った青年期の小川を熊野旅行へと導いた. 熊野の物質的景観との遭遇は小川の地学への志向性を呼び覚まし, そこでは地表の外形や地表諸現象の相互関連への関心が表明された. 慶応義塾で地理学を教えた紀州出身の養父の理解は小川の理科大学地質学科入学を可能にし, 地学への志向を標榜する地質学教室は彼の地理学的想像力の内的進展を促した. 知の空間としての東京地学協会は, 小川に地理学を新たな専門分野として明視させる契機を与えた.
著者
大呂 興平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.10, pp.547-566, 2007-09-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
40
被引用文献数
2 6 2

北海道では1950年代後半以降, 肉用牛繁殖部門が急成長してきた. この成長は, 異なるタイプの経営が複雑に展開することにより実現されたものである. そこで本研究では, 北海道の代表的な子牛産地である大樹町を事例に, 肉用牛繁殖部門の成長過程を, 経営群の進化という概念により考察した. 経営群の進化とは, 地域の経営群において特定のタイプの経営が増減し, 経営群の構成が変化する過程をいう. 本研究ではこの過程を, 個々の農家が経営タイプを変化させる際の, 資本装備の導入, 適応的な技術習得過程, 維持という三つの局面に注目して説明を試みた. 大樹町の肉用牛繁殖経営群では, 時間の経過とともに小規模経営, 中規模経営, 大規模経営という異なる技術的特徴を持つ経営が現れ, それらが地域の基幹農業部門の動向や補助事業の実施などと関連して複雑な展開を示した. 小規模経営は, 農家の副収入源として, 他部門の動向に規定されながら広範に展開した. 中規模経営は, 他部門に対して所得が劣るため, 主に畑作の冷害や子牛価格の高騰時に一時的に成立した. 大規模経営は, 酪農や畑作に生計を依存できない少数の農家が, 大型補助事業を利用することで成立し, 技術力の違いによる収益格差を伴いながら展開した.
著者
富田 啓介
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.335-346, 2006-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
8
被引用文献数
2 1

都市近郊のため池密集地域である愛知県知多半島中部を事例にして,1998年から2002年の期間におけるため池の減少率を,それぞれのため池周辺に卓越する土地利用別に検討した.調査の結果,ため池は,圃場整備の行われていない農地や,農地に宅地が無秩序に進出しているような用途混在地に多く分布していた.そこでは受益面積のない貯水量の小さいため池が多くを占め,減少率が高かった.一方で,宅地や圃場整備の行われた農地ではため池の分布数は少なかった.そこに存在するため池は,受益面積が比較的保持され,貯水量が相対的に大きいという特徴を持ち,減少率は低かった.以上のことから,土地造成が行われていない地域において,利用価値の低下を理由として小規模なため池が放棄され消滅が進んでいること,宅地や農地のための土地造成が行われている地域においては,利用価値のある大規模なため池が選択的に残されていることが確認された.
著者
木村 オリエ
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.111-123, 2006-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
40
被引用文献数
4 9

本稿は大都市圏郊外地域を対象とし,地域社会において新たな社会関係作りを試みようとする男性退職者の郊外コミュニティへの参加を考察し,これを通して明らかになった彼らの社会関係再構築の可能性と課題を検討した.近年,郊外地域に住む多くの勤労者が定年退職を迎え始め,居住地で過ごす時間が多くなった.しかしながら,郊外コミュニティとの接点を持てない孤独な男性退職者の存在が社会問題となっている.だがその一方で,郊外コミュニティで自発的に社会関係を築こうとする男性退職者たちの存在も見逃せない.そこで本稿は,男性退職者が郊外コミュニティに向き合う一つの手段としてコミュニティ活動に着目し,活動への参加状況を把握するためにアンケート調査,および彼らがこれらの活動に参加するプロセスを検討するために聞取り調査を行った.その結果,男性退職者のコミュニティ活動では,「自己の生活の充実」を目的とした活動への参加が,またこれに至る過程では妻など仲介者に依存する側面が大きいことがわかった.しかし活動に参加する退職者の中には,「コミュニティの充実を図る」という目的で活動を行う一面もみられた.彼らは,勤め人として培ってきた知識や経験を活かすかたちで新たに郊外コミュニティへの参加を可能にしているのである.
著者
高橋 健太郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.14, pp.987-999, 2005-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
29

本研究において,中国寧夏回族自治区を事例として,回族のイスラームの聖者廟(ゴンベイ)への参詣の実態と特徴,およびその宗教活動が教坊(モスクを中心とする地域社会)へ与える影響について検討した.調査地域においては,聖者廟は,スーフィー教団のものとそれに属さない教宣者を祭ったものとに大別され,回族住民は教坊ごとにそれらへの集団参詣を行っている.参詣の主な目的は,現世利益の獲得,聖者の霊への接近,死後の平安の祈念と多様であり,レクリエーションも兼ねている.聖者廟参詣の際には,交通手段の確保や廟への施しの取りまとめ,儀礼の遂行などで教坊が重要な役割を果たしており,集団参詣を通して,人々の間で教坊の存在意義が再確認されている.また,特に男性にとって,聖者廟参詣は自身の宗教知識や敬虔さ,経済力を示す機会となっており,この宗教活動を通して,教坊内における社会的地位を向上させている人もいることが明らかになった.
著者
吉田 雄介
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.8, pp.491-513, 2005-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
43

本稿では,イラン・ヤズド州メイボド地域における1980年代以降のズィールー(綿絨毯)の衰退過程を,現役生産者32名への聞取り調査とメイボド・ズィールー生産者協同組合所蔵の資料調査に基いて検討した.生産量・生産者数ともに激減する中で,ズィールーの生産構造は,少数の主力生産者と多数の兼業者という二極分化が生じた.近年のズィールー生産の特徴の一つは,専業の生産者数がきわめて少なくなったということであり,もう一つの特徴は多くの生産者は日雇労働などと兼業でズィールーを生産するという多就業化である.このように,メイボド地域のズィールー生産は,本業から多就業の一選択肢へと位置づけが変化した.それは,ズィールー生産は単体では存在し得ず,多就業の一環として存続し得るにすぎなくなったことを意味する.そして,こうした多就業的なズィールー生産を可能としているのは,外的な要因としては,イランの経済構造の変化による臨時・日雇の就労機会の増加であり,内的な要因としては,ズィールー製織の柔軟性と産地の集積の利益としての組合の存在にある.
著者
富永 隆 貞広 幸雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.743-758, 2003-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1 4

本研究では,学区を構成するさまざまな物理的環境に焦点を当て,GIS上の空間データを用いた学区再編案の導出手順を提示し,東京都北区の小中学校統廃合問題に適用した.特に各中学校区が複数の小学校区を包含する学区形態(スクールファミリー)に注目し,学区再編におけるスクールファミリーの導入を検討した.実証分析ではいくつかの通学条件を目的変数として区割りを最適化することで具体的な学区案を導出し,得られた学区案における通学環境を定量的に測定,比較評価した.分析の結果,スクールファミリー導入により通学距離は増大するが,最大通学距離を制約条件とすることで現実的な通学距離に抑えることが可能であることがわかった.また,現状および学校統廃合時のいずれの学校配置においても,学区再編時にスク-ルファミリーの導入は物理的に可能であることが確認できた.したがって,スクールファミリーは学区再編の議論における一つの現実的な選択肢であるといえる.
著者
関根 智子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.725-742, 2003-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
24
被引用文献数
4 4

本研究では,千葉県松戸市における眼科医院を事例として,都市施設への近接性の安定度を時空間的に分析した.GISを利用して町丁・字の中心から眼科医院への最短道路距離を測定し,近接性の測度とした.この近接性を,測定対象数の変更(第2近隣施設の考慮),測定地域単位の細分化(100メートル・メッシュ),診療時間の考慮,の三つの側面から分析し,安定度を考察した.その結果,測定対象数の変更では,近接性の良い地区でも,施設の分布密度が下がると,安定度も急激に低下することが明らかになった.居住地の地域単位を100メートル・メッシュに細分化すると,20%の町丁・字では,その地区面積の半分以上で100メートル・メッシュの近接性と異なり,安定度が低かった.診療時間を考慮すると,市内の第1の中心地周辺では近接性は安定している一方,第2,第3の中心地周辺では大きく低下していることがわかった.
著者
廣内 大助
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.119-141, 2003-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

北陸地方南部に位置する福井平野には,平野東縁山麓部の活断層と,1948年の福井地震の震源断層とされる伏在断層(福井地震断層)が分布する.本研究では,これら活断層の活動と,福井平野の地形形成との関係を考察した.福井平野東縁地域には, M1~M3の3面の海成段丘面と, Mf・Lf1~Lf3面の4面の河成段丘面が分布する.平野東縁に分布する活断層は段丘面に累積的な変位を与え,その上下平均変位速度は約0.1~0.3m/ky程度である.これら活断層の変位によって,平野東縁での,山地と丘陵,丘陵と平野の分化が進んだ.左横ずれ活断層であると考えられる福井地震断層は,沖積低地に分布するため,変位地形は不明瞭である.しかし,断層に沿った地下の基盤高度は断層を挟んで北東と南西で高く,北西と南東で低いという特徴がある.また,地震断層北部東側ではM2面は分布高度が高く,北北西方向へ傾動している.これらの特徴は,左横ずれに伴う上下変位が累積していることを示しており,計算から求められた福井地震時の上下変位量分布とも矛盾しない.
著者
有留 順子 石川 義孝
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.44-55, 2003-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
55
被引用文献数
1 1

本稿では,東京大都市圏の事例企業を対象に,テレワークの代表的な形態である分散型オフィスでの業務内容とオフィス立地の特色を明らかにした.データは,主に企業のテレワーク推進者への聞取り調査から得た.情報・通信技術の進展により,分散型オフィスでは,文書作成など個人単位の業務がより効率化されただけでなく,従来は対面接触が不可欠であった会議などのグループ単位での業務形態も変わりつつある.分散型オフィスは,東京大都市圏の南西部,都心から約30kmの圏内に多く立地している.調査事例では,分散型オフィスへ勤務地を変更した就業者は,全般的に通勤時間を大幅に短縮していた.
著者
貝塚 爽平 森山 昭雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.85-105, 1969-02-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
32
被引用文献数
4 7 19

相模川の沖積低地の地形と沖積層を記載し,その形成過程をのべた.研究の方法は,普通の地形・地質調査法と調査ボーリングならびに深井資料の解析によった.この沖積低地には2つの興味ある問題がある.その1つは相模川の河成段丘地形と沖積層と海底地形との関係で,陽原段丘の1時期に海面が現在より100m以上低下し,沖積層基底の不整合面が作られたと結論された.古富士泥流の時期はこれよりおくれる.もう1つの問題は相模川は河口まで礫を運ぶ河川であり,河川も平野も扇状地的勾配をもつのに,平野は自然堤防型で,厚い後背湿地堆積物をもち,日本の海岸に近い普通の河成平野と異なることである.この理由は,海岸に砂州が発達し,とじられた水域に泥の多い沖積層が堆積したことや,下流部の地盤の上昇による河床低下などに主な原因があると推定した.
著者
松浦 旅人
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.142-160, 2003-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
42
被引用文献数
1 1

山形県新庄盆地に分布する中期更新世後半のテフラ層序を示し,奥羽山脈東側の地域に分布するテフラとの対比を試みた.テフラの対比にあたって,構成物質および屈折率特性の層内垂直変化に着目した.主なテフラは下位より,西山テフラ (Nsy), 鳥越テフラ (Trg), 二枚橋テフラ (Nmb), 泉川テフラ (Izk), 絵馬河テフラ(Emk),牛潜テフラ (Usk) が累重する.Nsy, TrgおよびEmkは奥羽山脈東側にも分布し, Trg, Emkは鬼首池月テフラ (O-Ik), 曲坂テフラ(MgA)にそれぞれ対比される.Uskは上位にあるレスの堆積速度を一定と仮定すると,200~230kaに噴出したと推定される.新庄盆地を埋積する中部更新統山屋層は,O-Ik噴出以降,Nmb噴出前後に堆積が終了し,その年代は300ka前後と推定される.
著者
久保 純子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.73-87, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
33
被引用文献数
6 5

東京首部の地形は更新世の台地と完新世の低地とからなっている。台地は最終間氷期の海底面と最終氷期の河成面に由来し,その表面は後期更新世を通じて富士火山・箱根火山などにより供給された風成テフラに覆われている。台地には台地上に水源をもつ開析谷が分布する。これらの谷のなかには,台地表面の離水時に現われた名残川に由来し,その起源が最終氷期まで遡るものがある。 低地は最終氷期末に形成された谷が後氷期海進を受け,日本有数の大河である利根川水系により形成されたもので,厚い軟弱地盤を形成する。完新世後期の東京低地の形成過程は,従来ほとんど行なわれなかった考古歴史資料と微地形分布との関係の検討により明らかにされるであろう。17世紀以降になると,河道の改修,海岸部の埋め立て等の人工改変が大規模に行なわるようになった。 東京の台地と低地の地形には,変動帯の特色としての関東造盆地運動や火山活動に加え,ユースタティックな海水準変動の影響があらわれている。そして近年は人類による改変が最も大きなファクターとなっている。
著者
埴淵 知哉
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.87-112, 2005-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
42
被引用文献数
2 1

本稿は,国際的非政府組織(INGO)における空間組織の編成を,グローバル化との関連から明らかにするものである. INGOの空間組織は,調整機関としての国際拠点と自律的な地域拠点,そしてネットワーク組織の諸特性を伴う拠点間の関係から構成されており,それは多様な空間スケールにおける戦略の結果としてみられる.このような空間組織を編成する要因は,相互に依存する「ローカルな実行性」・「グローバルな実行性」・「ローカルな正当性」・「グローバルな正当性」というカテゴリーから説明することができる.すなわち, INGOはグローバル化の複雑な空間再編成に同時対応する戦略を通じて,これらの実行性と正当性を獲得しその影響力を行使していると考えられる.また, INGOの空間組織は国家の領域を基盤として編成されており,このことから世界都市システムをとらえ直す必要性が指摘された.