著者
丸山 啓史
出版者
日本発達障害学会
雑誌
発達障害研究 (ISSN:03879682)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.100-108, 2022-05-31 (Released:2023-10-06)

近年の英語文献をもとに,「障害者と気候変動」をめぐる議論や研究の動向を整理した. 障害者に対する気候変動の否定的影響が多様な側面から指摘されていることを概観し,移住をめぐる問題,気温と体温調節をめぐる問題についても議論や研究が見られることを示した.また,気候変動の影響による災害に関しての障害者の脆弱性,気候変動適応や防災・減災と障害者との関係への関心が強いことを見たうえで,気候変動対策への障害者の参画が重視されるようになってきていることを確認した.今後の研究の課題としては,気候変動の緩和策と障害者との関係を検討するこ と,気候変動対策への障害者の参画のあり方を検討すること,日本における実態や課題を把握すること,気候変動の影響によって機能障害が引き起こされる実態や可能性を把握すること等を挙げた.
著者
若山 和樹 篠崎 志美 杉山 登志郎 山田 智子
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.129-137, 2023-07-01 (Released:2023-07-14)
参考文献数
16

自閉スペクトラム症(ASD)の症例に併存した解離性同一性障害(DID)の症例を集積し比較検討した.その結果,深刻なトラウマ体験がみられないにも関わらずファンタジーの没頭の延長上にDIDが生じた症例が存在することが確認された.その一方で,重大なトラウマ的体験があり,30人から50人以上など,極めて多くの数の部分人格が認められる症例の存在に気づき,われわれはSTP (Status Tot Personalities)解離と命名した.症例の検討から,トラウマ被曝の重症化に伴いDIDは重症化することが明らかになった.ASDに併存したDIDは,ASD独自のまとまりに欠けた自己意識のあり方を基盤にして生じること,その基盤の上にさまざまなレベルのトラウマ体験が絡むことで,独自のDIDが作られるという可能性を検討した.
著者
有賀 義之
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.99-105, 2022 (Released:2023-02-28)
参考文献数
6

快適さを重視した眼鏡の処方という観点から,必要な視機能検査について述べる。なかでも特に基本となる検査として,屈折検査と調節検査について詳しく述べる。調節機能解析装置ではオートレフラクトメータ(オートレフ)を用いているため,測定原理や測定可能な範囲はオートレフの仕様に準拠している。よって,オートレフの仕様を把握し適切な操作方法を身に着けることが,屈折・調節検査の基本となる。また,正確に測定したオートレフの値を用いて,自覚的な屈折検査をフローチャートに従って行っていく。眼鏡処方の前提として,解剖学と眼生理学に精通し,尚且つ屈折と調節を理解している眼科医によって,眼鏡は処方されるべきものであると考える。
著者
田栗 正隆 高橋 邦彦 小向 翔 伊藤 ゆり 服部 聡 船渡川 伊久子 篠崎 智大 山本 倫生 林 賢一
出版者
日本計量生物学会
雑誌
計量生物学 (ISSN:09184430)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.129-200, 2024 (Released:2024-04-25)
参考文献数
167

Epidemiology is the study of health-related states or events in specific populations and their determinants, with the aim of controlling health problems. It encompasses various research fields, such as cancer epidemiology, infectious disease epidemiology, and social epidemiology, molecular epidemiology, environmental epidemiology, genetic epidemiology, clinical epidemiology, pharmacoepidemiology, spatial epidemiology, and theoretical epidemiology, among others, and is closely related to statistics and biometrics. In analytical epidemiological studies, data is collected from study populations using appropriate study designs, and statistical methods are applied to understand disease occurrence and its causes, particularly establishing causal relationships between interventions or exposures and disease outcomes. This paper focuses on five topics in epidemiology, including infectious disease control through spatial epidemiology, cancer epidemiology using cancer registry data, research about long-term health effects, targeted learning in observational studies, and that in randomized controlled trials. This paper provides the latest insights from experts in each field and offers a prospect for the future development of quantitative methods in epidemiology.
著者
川口 俊明
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.386-397, 2011-12-29 (Released:2018-12-26)
被引用文献数
2

本稿の目的は、教育学における混合研究法の可能性について検討することである。混合研究法(Mixed Methods Research: MMR)とは、量的調査と質的調査を組みあわせる研究法のことである。日本でも混合研究法に注目する研究者は増えているが、どのように量的調査と質的調査を組みあわせるか、どのように混合研究法を使った研究を評価するか等の議論がほとんどない。本稿では、教育学における混合研究法の主要な論点・利点・今後の方向性を提示する。
著者
高橋 正樹
出版者
日本分類学会
雑誌
データ分析の理論と応用 (ISSN:21864195)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-28, 2021-08-01 (Released:2021-11-09)
参考文献数
37

日本分類学会初代会長の林知己夫先生を囲んで,「木曜会」と称する研究会が,1990 年代より2002 年に氏がお亡くなりになる前年頃まで月1 回程度のペースで開催されていた.村上征勝氏(当時,統計数理研究所)を事務局に,当初は渋谷駅に近い桜ヶ丘の林事務所で,後には参加者が増えたこともあり統計数理研究所の会議室で,数名から10 数名が集まっていた.初期には林先生の各方面での研究の講義,後には参加メンバーの各々が自分の研究を発表し,気楽な茶飲み話のような雰囲気で互いに講評をするというものであった.その中で高橋正樹氏の発案で林先生への公開インタビューが,2001 年に全3 回開催された.本稿はその第2 回分を収録したものである.第1 回及び第3 回(の一部)はそれぞれ『行動計量学』(高橋, 2004),『社会と調査』(高橋, 2012)に掲載された.今回で全3 回分が公開されることになり,すべてがJ-stage 等を通じてWeb 上で一般にダウンロードが可能となる.本インタビューを含め,戦後統計学の大きな柱の1 つであった林先生の科学者としての哲学と,また今日でも通ずる「科学者のあり方」,データ取得のプロセスからデータ解析,政策立案への提言までの全体を俯瞰した真正の「データの科学」,そして社会的課題解決のための本当の学際的「共同研究」のあり方について,読者の方々が深い思いを寄せる機会となれば幸いである.(編集委員長吉野諒三)本稿は公開インタビューとして行われた第2 回分をまとめたものである.事前に告知したタイトルは「共同研究の意義と方法:統計学者の立場から」であった.テープ録音を高橋が文章に起こし,林先生自身が一度目を通され,テープの余白部分の追加・加筆,録音時に不明だった点や表現,人名の確認などといった修正・補足をしていただいている.なお,一連のインタビューは,実は当初から3 回分を予定していたわけではなく,この2 回目の「共同研究」というテーマは林先生自身から発案があったものである.「日本人の読み書き能力調査」をはじめ数多くの共同研究に関わり,その中で数量化理論等が創り上げられていったことを考えれば納得できるテーマ設定である.様々な調査や研究の経験については,それまでにも書かれたり話されたりする機会は少なくないのに対し,共同研究という切り口からのものはほとんどない1.内容は大きく3 つのパートに分けられる.冒頭ではまず共同研究とはどのようなものかについて語り,続いてその背景となった個人の研究史や共同研究の経験について触れている.そのうえで,共同研究はどうあるべきかについて言及している.その内容は研究そのもののあり方にも及び,3 回の中で最もメッセージ色が強いものともなっている.あらためて整理していると,統計学さらには「データの科学」の発展には共同研究が欠かせないのだという強い思いが,この発案にあったことを感じる.(なお,以下,全体を通じて,林文編集顧問と吉野編集長が論文誌の体裁に整備してある.脚注の中で,(T)及び(Y)はそれぞれ高橋と吉野による注釈を示す.)(高橋正樹)
著者
山本 敦 牧野 遼作
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会研究会資料 言語・音声理解と対話処理研究会 100回 (2024/02) (ISSN:09185682)
巻号頁・発行日
pp.90-94, 2024-02-20 (Released:2024-02-20)

「非典型的相互行為atypical interaction」とは、会話分析を主な分析手法としてコミュニケーション障害の相互行為的側面に着目した研究を行う比較的新しい学際的領域である。本発表では、非典型的相互行為者("障害を呈する"相互行為参与者)について従来の"能力が損なわれている不完全な典型者"という見方から、"限定された能力を駆使して相互行為状況に適応しようとする非典型者"、さらには"典型者とは異なる形の能力を持つ非典型者"という見方が提示されてきた流れを概観する。そのうえで、この流れを推し進め非典型者の"コミュニケーション能力の特有性"を分析していく際には、会話分析の手法には理論上の限界があるだけでなく、誤った知見を体系的に生み出してしまう危険がある可能性を指摘し、その問題の解決策についても論じたい。
著者
福永 大輝 越智 景子 大淵 康成
出版者
芸術科学会
雑誌
芸術科学会論文誌 (ISSN:13472267)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.10-18, 2019-03-15 (Released:2023-05-02)
参考文献数
14

「リズムアクションゲーム」というジャンルに分類されるゲームにおいては、プレイヤーの操作に応じたサウンドが再生されることで楽曲演奏を体験できることに重点を置いたものが多く存在する。本稿では、このリズムアクションゲームを対象に、ゲームデータの自動生成を目的に「キー音」の自動推定を行った。「キー音」とはプレイヤーの操作に応じて発音されるサウンドのうち、もともと楽曲中に含まれる音を切り出したものである。ある発音時点に存在するサウンドがキー音となるか否かについて、音響的特徴とサウンドが再生される時系列情報を使用して機械学習による推定を行った。その結果、同じ楽曲のみから学習を行う場合では90%程度、他の楽曲とデータを混合して学習を行う場合であっても60%以上の精度を得られることがわかった。キー音の音響的特徴、またサウンドの再生時系列についての分析結果は、今後リズムアクションゲームのゲームデータの自動生成を目指すにあたり、大きな基盤になると考えられる。
著者
岩佐 由貴 加藤 真紀 原 祥子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.5_889-5_897, 2019-12-20 (Released:2019-12-20)
参考文献数
17

目的:初発脳卒中で急性期病院に入院した高齢患者の子が親の入院中に抱く思いを明らかにする。方法:急性期病院に入院した65歳以上の初発脳卒中患者の子10名に半構造化面接を行い質的記述的に分析した。結果:高齢脳卒中患者の子は,親が突然に【脳卒中になったことに衝撃を受ける】思いを抱いていた。親の命が危機にさらされることで改めて【親の生は尊い】とし,親が脳卒中を発症したことや障害を負ったことに【自分にはどうしようもないから心が痛む】と思っていた。それでもやはり,親には脳卒中発症前の【もとの姿を取り戻してほしい】と願い,治療にのぞむ親に対して【子としてできることをしてあげたい】が,障害を負った親と自分の【今後の生活が悩ましい】という思いを抱いていた。考察:看護師は高齢脳卒中患者の子が抱く思いを理解し,衝撃や苦悩を和らげるとともに,子としての役割を果たせるよう支援することの重要性が示唆された。
著者
久保 琢也 伊藤 広幸
出版者
大学評価コンソーシアム
雑誌
大学評価とIR (ISSN:24358959)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.15-24, 2020-12-04 (Released:2024-03-29)

科研費において、より大型の研究種目へとステップアップすることは研究者だけでなく研究機関にとっても関心の高い課題の1つである。しかし、より大型の研究種目への挑戦にはリスクが伴うため、その意思決定には客観的なデータによる支援が必要であると考える。本研究はこのような問題意識のもと、基盤研究(A)に採択された研究者の過去10年間の科研費採択履歴の調査を行い、基盤研究(A)にステップアップした研究者の特徴を検討した。
著者
中村 紘子 松尾 朗子 眞嶋 良全
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.95.22217, (Released:2024-02-10)
参考文献数
43

Anthropomorphism is the attribution of human-like mental states to nonhuman entities. The purpose of this study was to develop a Japanese version of the Individual Differences in Anthropomorphism Questionnaire (IDAQ-J) and to examine its factor structure, reliability, and validity through three studies. Factor analysis revealed that the IDAQ-J has three first-order factors (anthropomorphizing natural entities, technological devices, and nonhuman animals) and one second-order factor (general anthropomorphism). The IDAQ-J showed high internal consistency and moderate test-retest reliability. In terms of validity, the IDAQ-J showed moderate positive correlations with anthropomorphism of nature and machines, and predicted low negative emotions about interacting with robots and teleological beliefs. On the other hand, the IDAQ-J showed weak relationships with anthropomorphism of nonhuman animals, attitudes toward nature conservation, and fear of robots. Further research is needed to interpret the validity of the IDAQ-J.