著者
伊藤穣
雑誌
情報処理学会研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2004, no.84(2004-MUS-056), pp.89-94, 2004-08-03

近年,日本の伝統的な音楽が見直されつつあり,2002年度より義務教育に導入された.日本の伝統音楽では,独特の記譜法が用いられており,その読み方を学ぶための有効な教材の開発が求められている.そこで本研究では,箏譜に親しみながら,体験的にその読み方を学習することができる楽譜処理システム「箏譜エディター」を開発し,(1)縦書きの箏譜を作成できる,(2)作成した楽譜を演奏できる,(3)MIDIファイルを作成できる,などの機能を実現した.そして,このシステムを実際に教育現場にも導入し,その運用方法について考察した.本研究は,IT技術を用いて日本の伝統的な音楽の教育を支援する上での,ひとつの方法論を示すものであると考える.
著者
山田 澄夫
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
1976-11-29

ブドウ球菌食中毒は,黄色ブドウ球菌が産生するエンテロトキシン(以下Entと略)を含んだ食品をヒトが摂取することにより生ずる典型的毒素型細菌性食中毒である。本食中毒の原因物質がEntであることは,すでに1930年代より明らかにされ,現在までに抗原特異性を異にするA,B,C,DおよびEの5型の存在が確認されている。 著者は本毒素の検査体系-特にEntの検出法の確立-と本食中毒予防の基礎を確立するための研究を行った。以下,各項芦別にその概要をのべる。1.Ent A,B,C,DおよびEの精製 本菌食中毒はわが国のみならず文明諸外国においても高い発生を示しており食中毒発生に際しての確実な診断および疫学調査は公衆衛生上極めて重要な課題となっている。本菌食中毒の最も確実な診断は,推定原因食品中に極めて微量に含まれるEntを検出することである。微量毒素の検出法としては,型特異的抗Ent血清を用いた逆受身赤血球凝集反応やradioimmunoassayなどによる抗原-抗体反応が有効であるが,これらの方法を応用するためには極めて高い特異性を持つ抗血清ないし抗体グロブリンが必要である。それにはA~Eの各Entを免疫学的に均一な標品までに精製し,それを免疫原として型特異的抗血清を作成することである。 一方,毒素分子の構造と抗原性や毒素活性との関係,毒素の作用機序の解明のためにも精製毒素を得ることが必要である。 これまでにも主として米国の一部の研究所や大学においてEntの精製が試みられてきたが,著者は以下の本毒素産生菌株と精製操作により,A~Eのすべての型のEntの簡易精製を試み,高純度な精製標品と型特異的抗Ent血清を得ることができた。 Ent A~Eの産生に用いた黄色ブドウ球菌は,A型に13N-2909,B型にC-243,C型に493,D型に1151,E型にFRI326の各菌株である。毒素産生培地としては,4%NZ-amine培地を用い,37C,24~48時間振とう培養し,その遠心上清を精製の出発材科とした。精製過程におけるEntの検出はreference抗Ent A~E血清を用いたスライドゲル内沈降反応と,サルへの経口投与または静脈内接種による嘔吐発現の有無により,精製標品の純度は後述の各EntのAmberlite CG-50画分(以下粗毒素と略)をウサギに免疫して得た抗粗毒素血清とのOuchterlonyのゲル内沈降反応により検討した。 Ent精製の第1段階では,濃縮操作と部分精製をかねてすべての型に共通にAmberlite CG-50.クロマトグラフィーのバッチ法を用いた。その結果,いずれの場合も多量の培養上清から効率よくEntを濃縮することが可能であった。 本実験に供したAおよびB産生株にα-溶血毒を産生しないため,Ent AとBの精製では,ついでCM-セルロースクロマトグラフィーとSephadex G-75またはG-100のゲルろ過を組み合わせた3段階の操作により,免疫学的に単一な精製標品を得ることができた。この方法による回収率はAでは36%,Bでは40%であった。 一方,培養上清中に多量のα-溶血毒を含むEnt C_2,DおよびEの精製では,上記3段階の操作に,Entとα-溶血毒の分別方法としてDEAE-セルロースクロマトグラフィーを導入した。Ent Eの精製では,さらに他のタンパク夾雑物を除去するためにDEAE-セルロース再クロマトグラフィーを用いた。その結果,Ent C_2は4段階,Eは5段階で精製標品を得ることができ,その回収率は10%および5%であった。しかしながら,Ent DはDEAE-セルロース再クロマトグラフィー,6M尿素を用いたSephadex G-75ゲルろ過,等電点分画の7段階の操作によってもなお,最終標品からEnt以外のトリプシン抵抗性のタンパク夾雑物を分別することはできなかった。 各最終標品で免疫して得た抗血清はOuchterlonyのゲル内沈降反応において,抗Ent A~C_2およびE血清は対応する精製毒素と粗毒素に対して1本の沈降線を形成し,それらはreference Entとその抗血清が形成する沈降線と完全に融合した。抗Ent D血清は粗毒素に対して2本の沈降線を形成したが,非Ent画分をリガンドとしたアフィニティークロマトグラフィーにより, 特異性の高い抗血清を作成することができた。 各標品の免疫学的特異性をゲル内沈降反応と催吐活性中和試験で検討した結果,各標品は対応する抗血清とのみ沈降線を形成し,その催吐活性は特異的に中和された。逆に,他の型の抗血清とは沈降線を形成せず,その活性も中和されなかった。 以上の結果から,既知あるいは未知のEntは簡易化した同一精製法-α-溶血毒非産生株は1),Amberlite CG-50を用いたバッチ法による培養上清中のEntの濃縮,2),CM-セルロースクロマトグラフィー,3),Sephadex G-75ゲルろ過の3段階,α-溶血毒産生株はこの過程にDEAE-セルロースクロマトグラフィーを導入した4段階-で高純度な精製標品を得ることが可能であると推定された。2.精製毒素の物理化学的性状 精製毒素の物理化学的性状,酸・アルカリおよびタンパク分解酵素などに対する安定性,生物活性基と抗原決定場の決定および毒素と生体内レセプターとの相互作用などの毒素学的追求は,タンパク化学的見地から極めて興味ある問題であり,しかも毒素の作用機序を明らかにする重要な手がかりを与えるであろう。現在までに,これら研究の大部分は産生量が多く,精製の容易なEnt Bについてなされているに過ぎず,他の型の毒素についての研究は極めて少ない。本菌食中毒事例で最も高頻度に検出されるEnt型がAであるという事実を考慮に入れるならば,Ent Aの性状の検討は極めて重要な意味を持っているといえる。 著者は前項でのべたEnt精製法により得た精製標品,特に本菌食中毒で主役を演じているEnt Aの物理化学的性状を明らかにするとともに,他の型の毒素についても検討を加えた。 精製Ent Aは250nmに極小吸収,277nmに極大吸収を持ち,核酸,脂質および炭水化物を含まないトリプシン抵抗性の単純タンパクであった。精製毒素のシュリーレンパターンは3時間,経時的に測定しても左右対称で毒素分子の均一性が示され,そのS_20wは2.71S,分子量はSephadex G-75ゲルろ過法で26,000,SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法で27,000,沈降平衡法で30,000と推定された。精製毒素はisoelectrofocusingにより血清学的に同一なpH7.0とpH6.5の2つの大きな画分とpH8.0の小さな画分に分画された。最大のEnt画分を示したpH7.0を本毒素の等電点(Ip)とした。アミノ酸分析の結果,精製毒素は214個のアミノ酸残基から成り立っていると推定された。各アミノ酸残基数は,アスパラギン酸34,グルタミン酸25,ロイシン22,リジン21,スレオニン,グリシン,チロシン各15,バリン13,セリン,イソロイシン各10,フェニールアラニン8,アラニン7,アルギニン6,ヒスチジン5,トリプトファン4,プロリン3,メチオニン1であった。 精製Ent Bは250nmに極小吸収, 277nmに極大吸収を持ち,核酸,脂質および炭水化物を含まないトリプシン抵抗性の単純タンパクであった。精製毒素のシュリーレンパターンは各時間において左右対称を呈し,そのS_20wは2.68S,分子量はSephadex G-50ゲルろ過法で29,000と推定された。精製毒素はisoelectrofocusingにおいて,血清学的に同一なpH7.62,pH8.35,pH8.70の3画分に分画され,pH8.35を本毒素の等電点とした。 精製Ent C_2とEも250nmに極小吸収,227nmに極大吸収を持ち,核酸,脂質および炭水化物を含まない単純タンパクであった。両毒素ともその分子量はSephadex G-50ゲルろ過法で29,000と推定された。精製Ent C_2もisoelectrofocusingにおいて,pH6.55とpH6.70の2つの大きな画分およびpH6.0とpH8.0の2つの小さな画分に分画され,pH6.70を本毒素の等電点とした。 精製Ent A~C_2およびEはpH4.3でのディスク電気泳動において単一なバンドを形成したが,pH9.4での泳動では2~4本のバンドを形成することを認めた。pH9.4での泳動で分画される複数のバンドは血清学的には同一で,しかもisoelectrofocusingで得られた画分に相当することをEnt Aで実証した。この複数のバンドは,超遠心分析およびHedrick-Smith法による分析結果から,毒素分子の分子サイズの違いによって生じるものでなく,Chargeの差を異にするcharge isomerに起因するものであると推定された。 以上の結果から,Entは分子量26,000~30,000,沈降定数(S_20w)2.7S前後のいくつかの異なった等電点を有するトリプシン抵抗性のcharge isomerタンパクであろうと結論された。Ent Dは完全には精製されなかったが,本毒素も他の型の毒素と同様の物理化学的性状を有する分子量約29,000,等電点7.70前後のトリプシン抵抗性の単純タンパクであろうことが初めて推察された。3.Entの加熱に対する安定性 Entは耐熱性毒素であるため,本毒素を含んだ食品は加熱調理後も,本菌食中毒の原因食品となり得ると考えられている。したがって,本毒素の耐熱性に関する問題は,食品衛生上極めて重要である。しかしながら,Ent A~Eの加熱処理による毒素活性の変化の差を比較検討した成績はほとんど得られていないのが現状である。 本菌食中毒の予防の立場から極めて重要な問題である毒素活性と熱処理の関係を,得られた精製Ent A~C_2および粗毒素A~Eを用いて検討した。加熱温度は60C,80Cおよび100Cとし,各5時間加熱処理による毒素の抗原性の経時的変化を特異抗血清を用いたOudin法により推定した。各毒素は50μgを0.05Mリン酸緩衝食塩水,pH7.2に溶解し,所定の温度で加熱した。 精製Ent Aは60C,3時間,80C,5時間,100C,1.25時間で50%失活し,100,2時間で完全に失活した。粗毒素Aは60Cおよび100C,1時間,80C,5時間で50%失活し,100C,2時間で完全に失活した。 精製Ent Bは60C,5時間で20%,80C,3時間および100C,20分で50%失活し,80C,4時間および100C,1時間で完全に失活した。粗毒素Bは60C,5時間,80Cおよび100C,10分で50%失活し,80C,4時間および100C,1時間で完全に失活した。 精製Ent C_2は60Cおよび80C,5時間で25~30%,100C,2時間で50%失活し,100C,3時間で完全に失活した。粗毒素C2は60Cおよび80C,4時間,100C,50分で50%失活し,100C,3時間で完全に失活した。 粗毒素Dは60C,2時間,80C,4時間,100C,20分で50%失活し,100C,1時間で完全に失活した。 粗毒素Eは60C,5時間で30%,80C,1.5時間,100C,30分で50%失活し,100C,1時間で完全に失活した。 以上の結果から,精製毒素は粗毒素よりも耐熱性であり,各毒素の加熱に対する安定性は毒素型によって異なると考えられた。Ent A,C_2,Dが高温度で比較的安定であることは,後述のごとく本菌食中毒原因食品から検出される黄色ブドウ球菌はこれらの型の毒素を産生するものが多い成績から,食中毒発生との関係上特に注目された。 Ent A,C_2およびDは80Cより60Cで早く不活化され,AおよびC_2では粗毒素のみならず精製毒素においてもこの現象が観察された。この現象が一部の細菌タンパク毒素で認められている加熱温度差によるタンパク分子の立体構造の変化によるものか否かを,精製Ent Aを用い,加熱-再加熱の実験系で検討した。その結果,60C,1,2,3,4および5時間加熱した各試料は80C,40分の再加熱により20~45%の活性の復元が認められた。60Cで加熱された試料は微細絮状物を形成して混濁したが,再加熱により絮状物は消失して透明となった。Ent A,C_2およびDで認められるこの特異的な熱安定性は,低温度(60C)でのタンパク分子の集合(aggregation)と高温度(80C)での再加熱による分子の解離(dissociation)によるものであることが推察され,この特性は本毒素の活性と構造との関係を解析するうえで重要な手がかりを与えるものであることが強く示唆された。4.毒素産生性黄色ブドウ球菌の分布と本菌食中毒発生との関連について 本菌食中毒は,他の細菌性食中毒が食品衛生意識の向上にともない減少しているのに対し,漸次増加の傾向すら認められている。このことは食品が高頻度に黄色ブドウ球菌に汚染されていることを意味するものである。ヒト,動物その他これらを取り巻く環境に広く分布するすべての黄色ブドウ球菌がEnt産生能を有し,食中毒の原因となりうるならば,生態系と食中毒で検出される本菌のEnt産生能とその型別には密接な関係があるはずであり,その検討は本菌食中毒の予防対策に重要な手がかりを与えるであろう。 以上の理由から,食中毒由来黄色ブドウ球菌と自然界由来黄色ブドウ球菌のEnt産生能とその型別を行った。 供試菌株として,1969~74年にかけて東京都内で発生した103事例の本菌食中毒の原因食品から検出した食中毒由来103株,自然界由来株は各種材料より本菌が検出されたもののうち1検体より各1株を任意に選んだもので健康人の糞便由来98株,鼻前庭由来99株,食品調理人の手指由来96株および市販食品由来99株,計392株である。Entの検出は,上記菌株の4%NZ-amine培養上清を1/50に濃縮したものを抗原液とし,本研究で作成した特異抗Ent A~E血清を用いて5μg/mlの本毒素を検出できるスライドゲル内沈降反応により行った。 食中毒由来103株中97株がA~Eのいずれか,もしくは数種のEntを産生した。そのEnt型はA型39株,C型16株,A・CおよびA・D型各11株,D型9株,B型6株,A・C・D型2株,A・C・E型1株であった。 自然界由来株は392株中272株(69.4%)がEnt産生株であった。各種材料由来株の産生Ent型は,健康人糞便由来株ではC型35株,A・C型9株,AおよびD型各6株,A・D型5株,B型4株,C・E,A・C・DおよびA・C・E型各1株,鼻前庭由来株ではC型19株,A・C型13株,A型9株,B,DおよびC・D型各5株,A・C・D型3株,B・DおよびA・B・D型各2株,A・B,A・DおよびA・B・C型各1株,調理人手指由来株ではC型29株,A型11株,B型7株,A・C型6株,A・D,C・DおよびA・C・D型各3株,DおよびB・C型各2株,A・BおよびB・C・D型各1株,食品由来株ではC型26株,A型18株,A・D型7株,DおよびA・C型各6株,A・C・D型4株,B型2株,C・D型1株であった。 食中毒由来株はEnt A産生株が多いのに対して,自然界由来株は各種材料ともEnt C産生株が多く認められ,食中毒と生態系の黄色ブドウ球菌のEnt型別分布は必ずしも同一でないことが示された。この違いが本菌食中毒発生にいかなる意味を持つのか,この点に関する今後の検討が本菌食中毒の予防の立場から極めて重要であると考えられた。
著者
田中 繁宏 Shigehiro Tanaka
雑誌
武庫川女子大学紀要. 自然科学編 (ISSN:09163123)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.1-8, 2010-03-31

We experienced a world wide spread novel influenza A( H1N1) virus infections in 2009. We can now get easily large amounts of news of novel influenza virus infections by internet. According to studying of Japanese government strategy of prevent 0 entering the Japan, we should take care about whether a novel influenza virus could already be in Japan. We also should be take care in making diagnostic standard on novel influenza virus infections in order to avoid doctors misunderstandings in diagnosing of novel influenza virus infections. The strategy of prevent 0 entering and the local closing of schools might be effective to prevent spreading novel influenza infections. Considering the examination of medical cares against novel influenza infections, medical facilities of outpatient of fever should be largely increased in future.
著者
森田 雅憲 Masanori Morita
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.3-30, 2020-08-31

私的所有権の成立過程に対しルーマンの社会理論に基づきながら推測的説明を与えたものである。社会契約論との比較を行った後、環節分化社会から組織システムを経て社会システムとして私的所有権が成立する過程を説明している。
著者
鈴木 敬夫
出版者
専修大学緑鳳学会
雑誌
専修総合科学研究 (ISSN:13418602)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.1-20, 2016-10-20

The aim of this paper is to examine the "Carl Schmitt controversy" in contemporary China, guided by the value relativism advocated by German legal scholar Gustav Radbruch and the Confucian human rights theory of China's Du Gangjian (杜鋼建). By describing this controversy, another aim is to criticize the attitude of certain Chinese scholars who, espousing the ideas of C.Schmitt, classify people as either friends or enemies of the state. This paper sets out to question Schmitt's "friend-enemy divide", in which anyone with ideas or beliefs that differ from those of the state is castigated as a heretic. The targets of criticism are the viewpoint of raising the "identity of the party-state and the people" in acceptance of Schmitt's nationalism, and the intolerant attitudes of anti-liberalism, anti-democracy and anti-parliamentarianism. In resisting Nazism, Radbruch declared that "Relativism is general tolerance - only not tolerance of intolerance" (1934). This paper is based on the standpoint of this relativism tolerance theory.In commenting on Schmitt's particular political and legal thought, with its dependence on "political theology", many suggestions were received from excellent prior research by Bernd Rüthers, Keita Koga (古賀敬太), Wang Qian (王前) and other scholars. The author would like to express his thanks to them.
著者
佐藤 典子 Noriko Sato 千葉経済大学 CHIBA KEIZAI UNIVERSITY
雑誌
千葉経済論叢 = The Chiba-Keizai ronso (ISSN:0915972X)
巻号頁・発行日
no.39, pp.21-36,

今日、必要性や有効性など、道具的機能によってのみモノが選択され、消費されることはあるのだろうか。必要なものはすべて手に入れた後の消費は何を基準になされているのか。しばしば、私たちは、その消費したモノを他者に呈示するのだが、それは、社会的・文化的にどのような意義があるのか。高度消費社会を迎えたといわれ、消費そのものが記号化し先鋭化される中で、消費がもたらすコミュニケーション機能について論じた。
著者
櫻井 慶一
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.31-41, 2016-03-30

近年、保育所等で発達や生育環境に課題を抱えた児童(家庭)に対して、きめ細かな個別的および集団的配慮や、地域の専門機関等との連携による「保育ソーシャルワーク」の必要性が関係者から叫ばれている。そうした背景には障害者権利条約の批准に合わせた「インクールーシブ」な社会づくりがわが国でもようやく課題になってきていることもある。2013 年11 月にはそうした一環として「日本保育ソーシャルワーク学会」も発足し、2016 年度からは同学会による現職保育士等を対象とした「保育ソーシャルワーカー」の養成研修も開始されようとしている。しかし、「保育ソーシャルワーク」はまだその定義はもとより概念も明確ではない。本稿では、その定義や必要性、「保育ソーシャルワーカー」に求められる専門性や養成体系等について、いわゆる「気になる子」対応を中心に検討した。その結論として、「保育ソーシャルワーカー」には保育士等の現場職員が適任であり、各園単位で置かれることが最も望ましいと考えた。そのための現職の保育士等への研修・養成が急がれている。
著者
神馬 幸一
出版者
獨協大学法学会
雑誌
獨協法学 = Dokkyo law review
巻号頁・発行日
no.100, pp.横117 (286)-横149 (254), 2016-08
著者
デュトゲ グンナー 只木 誠 神馬 幸一
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.209-228, 2016-12-30

近時,ドイツ刑法典の一部改正により,新217条「業としての自殺援助罪(geschäftsmäßige Förderung der Selbsttötung)」が2015年12月10日から施行された。本稿は,その動向を批判的に検討するものである。 当地において,この新条項導入以前,自殺関与は,法文上,禁止されていなかった。しかし,判例上,それを無に帰すかのような解釈論が展開され,実際上,自殺関与を巡る刑法上の取扱いは,動揺していた。このような法的状況を前提としていることもあり,今回の新規立法は,その論理構造に様々な矛盾を含んでいる点が批判されている。 また,この新規立法は,今後,ドイツにおける終末期医療の現場で,どのような波及的悪影響(ないしは萎縮効果)を及ぼし得るのかということも本稿では検討されている。 このように医師介助自殺に関する刑法的規制には多くの問題が伴う。そして,当該刑法的規制は,リベラルな法治国家の原則に反するものと批判されている。ここでいうリベラルな法治国家とは,ドイツ連邦通常裁判所が提示した言葉に従えば「全ての市民における居場所」として把握されるものである(BVerfGE 19, 206 [216])。そのような姿勢を貫徹するならば,確かに,一定の生き方ないし死に方を「正しいもの」として掲げることは,断念されなければならない。このことが本稿では強調されている。 このドイツの新規立法により生じたとされる自殺の禁忌化がもたらす問題性は,自殺幇助罪規定を有する我が国にも同様に当てはめることが可能であろう。この新規立法に関して展開された生命倫理と法を巡るドイツの議論を検証することは,我が国において関連する論点への示唆を得るためにも,その意義が認められるように思われる。
著者
溝口 誠一郎 笠原 義晃 堀 良彰 櫻井 幸一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1087-1098, 2013-03-15

ネットワーク上に存在するボットに感染した端末を特定するために,ネットワークアプリケーションが送信するアプリケーションプロトコルメッセージの送信間隔に着目したボット検知手法を提案する.人間がアプリケーションを操作した場合,そのアプリケーションプロトコルメッセージの送信間隔はばらつくのに対し,ボットの場合はその挙動がコードによって規定されているため,アプリケーションプロトコルメッセージの送信間隔の分布に偏りが起きる.この分布の違いを利用して,人間とそうでないものを区別することで,ボットを発見する.はじめにネットワークアプリケーションに対する入力と出力の関係をモデル化し,IRCクライアントのIRCメッセージ送信間隔のモデル化を行う.続いて,提案モデルに従ったボット検知アルゴリズムを設計する.アルゴリズムでは,IRCメッセージの送信間隔の列に対して階層型クラスタリングを適用することで人間と機械のモデルの区別を行う.評価では,モデルに基づく擬似データを用いてアルゴリズムのパラメータを設定した後,実際の人間が操作するIRCクライアントで観測されたIRCトラフィックならびにIRCボットのトラフィックに対して提案手法を適用した.その結果,IRCボットのトラフィックは機械が生成したトラフィックとして正しく判定された.
著者
川相 典雄 カワイ ノリオ Norio KAWAI
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.55-73, 2011-02

2003~2007 年における主要大都市圏を取り巻く人口移動にはこれまでとは異なった様相がみられることを受けて、本稿では、関西圏、東京圏、名古屋圏の各大都市圏がこうした動きを示した背景・要因及びその差異や特徴を各種都市機能の集積状況や産業構造等の観点から考察した。その結果、1.東京圏では金融・国際・情報等の多様な高次都市機能が高度に集中し、名古屋圏では工業機能を中心に集積度が上昇している機能が多いのに対し、関西圏では各種都市機能の集積度は長期的に低下傾向が続いていること、2.2001~2006 年の各大都市圏の雇用環境について、東京圏では産業構造要因と圏域特殊要因が、名古屋圏では圏域特殊要因がそれぞれ雇用成長を牽引しているのに対し、関西圏では圏域特殊要因が雇用成長を大きく抑制し、2000 年代に入っても大幅なマイナスの雇用成長率が続いていること、3.2001~2006 年の各大都市圏中心部の雇用環境についても上記2.と同様の状況にあり、特に関西圏中心部では地域特殊要因の著しいマイナスの影響により、他の大都市圏中心部との間に大きな雇用吸収力格差がみられること、等が明らかとなった。こうした要因による各大都市圏間の雇用機会格差や雇用成長格差が、2003~2007 年における関西圏の転入減・転出超過や東京圏・名古屋圏の高水準の転入超過等の人口移動動向に大きく影響していると考えられる。今後も関西圏が純移動数の改善傾向を継続していくためには、高度情報化やサービス経済化等の環境変化に対応した構造転換、圏域固有の地域資源を活用した特色あるリーディング産業の育成等によって圏域固有のマイナス要因を改善し、関西圏、特にその中心部の雇用吸収力を向上することが大きな課題となる。
著者
近藤 正憲 Masanori KONDO
雑誌
世界の日本語教育. 日本語教育論集 = Japanese language education around the globe ; Japanese language education around the globe (ISSN:09172920)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.175-192, 2005-11-10

戦前の中東欧の日本語教育についてはまだ知られていないことが多い。しかし、政治的、経済的な交流の深まりとともに中東欧地域はこれまでになく日本人に身近な存在になりつつあり、 現時点でこの地域の日本語教育の歴史について研究することは意味のあることであると考える。 本稿は20世紀初頭にハンガリーではじめて出版された日本語教科書を題材に、出版された当時の日本についての知識と、背景となった社会状況を明らかにすることを目的とする。ハンガリーではじめての、ハンガリー語で書かれた教科書は1905年に出版された。同書は日本に長期滞在した経験のあるハンガリー語母語話者が自らの経験と知識を総動員して書き上げた著作であると考えられる。今日の目から見ると教科書としては難点が多いとは言うものの、 母語で書かれた教科書の出版は日本語学習の大きな障害の一つを取り除いた点で高く評価されるべきである。また、同書の出版という事実そのものが当時のハンガリー人一般の日本に対する興味の高まりを物語っている。この日本への関心の高まりは日露戦争という政治的事件が契機となったものであるが、この背景には当時のハンガリー人自身が持っていた反露意識と、高揚するナショナリズムが存在していたと考えられる。この反露意識の裏返しとしての親日意識は自ずと限界があった。極東において帝国主義的性格を強める日本がロシアとの協調関係を築き、足元のバルカン半島でスラヴ系諸民族による反オーストリア=ハンガリーの運動が激化するにつれ、日本に関する興味関心は次第に退潮していった。中東欧に限らず、ある地域の日本語教育の歴史を振り返ることは、その国や地域や民族の対日認識の歴史そのものと向き合う作業であり、それを知ることは外国で日本語を教えるものにとっては特に大切なことであると考える。
著者
髙木 まどか
出版者
成城大学
巻号頁・発行日
2020-03-23

成城大学学位規則 第5条第2項