著者
菊地 暁
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.165, pp.141-172, 2011-03-31

従来の「民俗学史」が抱えてきた「柳田中心史観」「東京中心史観」「純粋民俗学中心史観」ともいうべき一連の偏向を打開すべく、筆者は「方法としての京都」を提唱している。その一環として本稿では国民的辞書『広辞苑』の編者・新村出(一八七六―一九六七)を取り上げる。新村は柳田国男と終生親交を結び続けたが、その学史的意義が正面から問われたことはこれまでなかった。その理由の一端は、両者の交流を跡づける資料が見つからなかったことによるが、筆者は、新村出記念財団重山文庫ならびに大阪市立大学新村文庫の資料調査から、柳田が新村に宛てた五〇通あまりの書簡を確認した。これらは便宜的に、a)研究上の応答、b)資料の便宜、c)運動としての民俗学、d)運動としての方言学、e)交友録、に区分できる。これらの書簡からは、明治末年から晩年に至るまで、語彙研究を中心とした意見交換がなされていること、柳田の内閣書記官記録課長時代に新村が資料閲覧の便宜を得ていること、逆に柳田が京大附属図書館長の新村に資料購入の打診をしていたこと、柳田が「山村調査」(一九三四―一九三六)の助成金獲得にあたり、新村に京大関係者への周旋を依頼していること、一九四〇年創立の日本方言学会の運営にあたって、研究会開催、学会誌発行、会長選考、資金繰りなど、さまざまな相談していること、等々が確認される。こうした柳田と新村の関係は、一高以来の「くされ縁」と称するのが最も妥当なように思われるが、その前提として、「生ける言語」への強い意志、飽くなき資料収集、言語の進歩への楽観、といった言語認識の基本的一致があることを忘れてはならない。さらには、二人の関係が媒介となって、京大周辺の研究者と柳田民俗学との交流が促進されたことも注目される。
著者
飯野 守
出版者
文教大学
雑誌
湘南フォーラム:文教大学湘南総合研究所紀要 = Shonan Forum : Journal of the Shonan Research Institute Bunkyo University (ISSN:18834752)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.171-184, 2008-03-01

While the very purpose of the copy right law is to promote the development of culture, a tension between copyright and Freedom of Speech has been often argued. In terms of this tension, parody is a most disputable area of expression. Parodies can be recognized as a kind of creative works, but it is often the case that they potentially infringe copyrights of others, as they necessarily utilizes copyrighted works of others. This article discusses leading cases in Japan that treat parody attempts, and clarifies the problems of Japanese case law. Specifically, it points out that parody has been treated as if plagiarism or counterfeites in Japanese case law, although parody is recognized as a form of comment or criticism on an existing work.
著者
木頃 伸哉 白鳥 裕士 中村 聡史
雑誌
研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN) (ISSN:21888744)
巻号頁・発行日
vol.2019-GN-107, no.4, pp.1-7, 2019-03-11

プロ野球は 1 試合の平均時間が 3 時間以上あり,サッカーなどの他のスポーツと比べて試合時間が長い.そのため,テレビやインターネットの生放送での観戦では,入浴や食事,仕事と重なって視聴を断念してしまったり,一方的な試合展開による視聴意欲の低下により視聴を途中で断念してしまったりする視聴者も存在する.視聴を途中で断念した後に,に試合展開が大きく変わり面白い場面を見逃すこともあり,視聴者が後悔してしまうことも珍しくない.そこで,我々は野球の試合において山場山場となりそうなシーンになったときに視聴者を,視聴誘導するシステムの構築を試みる.本研究ではその足がかりとして,野球における山場となりそうな場面を推定する手法を検討する.本研究では,野球の試合に並行して進行する実況ツイートの中に,期待にまつわる特徴語が現れることに着目した手法を検討した.また,その手法の可能性を検証するため,山場になりそうな場面に関する正解データセットを構築し,複数の手法を検討することにより精度の検証を行った.その結果,全体的な精度は低いものの,ツイートをそのまま扱うのではなく,どちらのチームのファンなのかという点に注目して判定すると精度が上がることが分かった.
著者
尾沼 玄也 加藤 林太郎
出版者
拓殖大学日本語教育研究所
雑誌
拓殖大学日本語教育研究 = Journal of research in teaching Japanese language (ISSN:24239224)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.57-74, 2021-03-25

在日外国人の増加を背景に,日本語教師の増員が試みられている。増員のためには,新たに職業に就く人材を増やすことと,現役教師の離職を減らすことの両面が必要である。本研究では,現役日本語教師のライフストーリーの中に現れた仕事の「やりがい」と「失敗」を対象に,職業継続意思との関係の分析を試みた。その結果,「やりがい」と「失敗」は,相互に関連しあっており,失敗を乗り越えて「やりがい」を強化することの重要性が示唆された。また,そのためには所属機関や同僚との友好的な協働関係が重要であることが分かった。さらに,日本語教師は,学習者のために良い授業をしたいという思いや,所属機関から良い評価を得たいという思いから,生活に支障が出るほど業務時間が長くなる場合があることも分かった。結果的に離職につながるこの問題を解決するために,機関が所属教師に期待する成果や,評価の観点を明示することの重要性が示唆された。
著者
只野 真 佐藤 政裕 日下 和夫 佐藤 正喜 熊川 彰長 長谷川 恵一 高橋 秀明 今野 彰 青木 宏 名村 栄次郎 Tadano Makoto Sato Masahiro Kusaka Kazuo Sato Masaki Kumakawa Akinaga Hasegawa Keiichi Takahashi Hideaki Konno Akira Aoki Hiroshi Namura Eijiro
出版者
航空宇宙技術研究所
雑誌
航空宇宙技術研究所報告 = Technical Report of National Aerospace Laboratory (ISSN:13474588)
巻号頁・発行日
vol.1464, 2003-06

近い将来の再使用型ロケットエンジンの性能向上の一案として、伸展ノズルやデュアルベルノズルが有望であると考えられている。そこで、これらのノズルの基本特性を把握するために、4種のノズル(標準ベルノズル、伸展途中の過渡状態を模擬したステップノズル、デュアルベルノズルおよび可動伸展ノズル)を用いて、高空燃焼試験を実施した。試験で計測したノズル性能、圧力分布および熱伝達率などのデータをCFD解析の結果と比較検討した。その結果、デュアルベルノズルの性能は標準ノズルやステップノズルよりも低く、現状のノズルコンターはさらに改善の余地があることが判明した。また、可動伸展ノズルの伸展時には、固定ノズルと伸展ノズル隙間からの燃焼ガスバックフローは認められず、ノズル壁面の熱伝達率は過渡的に約20%増加することが判明した。これらの現象はCFD解析結果とも一致し、CFD解析によってノズルのステップ流れやバックフローが予測できる目処を得た。
著者
相田 美穂 アイダ ミホ Miho Aida
雑誌
広島修大論集
巻号頁・発行日
vol.56-1, pp.61-74, 2015-09-30
著者
山根 信二
雑誌
研究報告コンピュータと教育(CE) (ISSN:21888930)
巻号頁・発行日
vol.2021-CE-159, no.30, pp.1-5, 2021-03-06

デジタルゲームは学問の対象となり,世界各地の先進校がゲームの知識体系を研究し学ぶ学位プログラムを推進してきた.この国際動向の中で日本はゲーム産業と高等教育機関との産学連携教育プログラムが立ち遅れてきたが,2020 年にゲーム・CG を学ぶ初の専門職大学がスタートした.本研究では,日本国内では稀少な体系的なゲームの学位プログラムをスタートした東京国際工科専門職大学のデジタルエンタテインメント学科における初年次教育の取り組みから,特に専門用語(ジャーゴン)の問題について報告する.日本のゲーム産業では歴史的経緯から企業ごとに異なる社内開発用語を使ってきた.そこで本研究は,専門職大学での教育実践を通じて,複数のバックグラウンドを持つ企業出身者の観点をもとに企業間の違いを検討し,各企業文化が対応可能な高度なゲーム教育プログラムのための用語集の作成に着手した.さらに,海外で定着した大学教科書を日本語での高等教育現場へ導入したことで,グローバルな開発用語との相互運用性をふまえた用語集の取り組みが必要となった.