著者
鈴木 江津子 Suzuki Etsuko
出版者
神奈川大学日本常民文化研究所
巻号頁・発行日
pp.137-156, 2016-11-30

本稿は、筆写稿本「二神漁業協同組合文書」と写真集「二神漁業協同組合文書」(常民研による現地調査撮影本)を主軸に、戦後実施された二神島の漁業制度改革について書き上げたものである。筆写稿本「二神漁業協同組合文書」は、一九五〇年代初頭、水産庁の委託により財団法人時代の日本常民文化研究所が全国の漁村史料を収集したときに作成されたものである。記録によると、愛媛県の漁業史料の採訪は昭和二六年に実施されている。当時借用の「二神漁業協同組合文書」については、筆写が行われ、終了したものは所蔵者に返却された。現在は、原史料の筆写稿本のみが国立研究開発法人水産総合研究センター中央水産研究所図書資料館と神奈川大学日本常民文化研究所の双方に架蔵されている。 漁業制度の改革は「漁業法」と「漁業組合法」の二つの法律の制定が企図され、まず、昭和二三年「水産業協同組合法」が制定され、翌二四年「新漁業法」が制定された。この戦後の改革によって、明治末期以来続いてきた旧来の漁業制度が廃止され、漁場における基本的秩序が改められた。漁協の性格も大きく改変され前進した。二神島においても、戦時統制下の漁業会は解散され、その施設や資金は新しく設立された二神漁業協同組合へと引継がれた。戦後の制度改革によって、漁業権の再分配という大きな目標は成し遂げられ、漁業協同組合が漁業権の主体となることが実現した。 二神漁業組合が制度的に成立したのは、明治三六年と記録されている。この後、昭和一〇年に、保証責任二神漁業協同組合に組織設定され、平成一一年には、二神・怒和島・津和地が合併して、中島三和漁業協同組合二神支所となり現在も存続している。漁業制度の改革によって、漁業や漁業組合が近代化へと進行していった意義について、未だ、現地に残存している古文書の調査も含め、更なる探求が今後の課題となろう。
著者
山下 優毅 黒田 悦史
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

悪性グリオーマは中枢神経系に原発する悪性の腫瘍で種々の治療法が試みられているが、予後不良のまま残されている。患者においてはグリオーマに対して免疫反応が誘導されるという報告はあるものの、免疫療法のみでグリオーマを治療するのは困難である。グリオーマに対して免疫療法が成功しない原因として、担癌生体では免疫反応が抑制されているためと考えられている。したがって、担癌生体における免疫抑制機構を解明し、免疫抑制状態を改善することにより、有効な抗グリオーマ効果が期待される。我々はグリオーマに対する免疫反応の機構を解析している際にグリオーマとマクロファージを共培養すると、マクロファージから大量のPGが産生されることを見出した。さらに、このマクロファージでは腫瘍免疫に重要なIL-12,TNF等のサイトカイン産生が低下していることから、グリオーマがマクロファージに作用して、PG産生を誘導し、免疫抑制状態を引起こすという仮説を提唱した。今回、中枢神経系のマクロファージとしてのミクログリアを用いて、免疫反応におけるミクログリアの役割と担癌状態における免疫抑制機構を解析し、次の点を明らかにした。(1)マウス脳内より分離したミクログリアをグリオーマと共培養することにより、ミクログリアが大量のPGを産生した。一方、TNFの産生は抑制された。(2)PG合成酵素をKOしたマウス由来のミクログリアはPGを産生しなく、TNF産生も抑制されなかった。(3)PG合成酵素をKOしたマウスでは腫瘍の増殖も抑制され、有効な免疫反応が誘導された。以上より、ミクログリア由来のPGが免疫反応を抑制すること、またPG産生をコントロールすることにより、腫瘍に対する宿主の抵抗性を誘導できる可能性が明らかにされた。
出版者
茨城県教育財団
巻号頁・発行日
1983
著者
福井 智紀 鶴岡 義彦
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-12, 2001-10-31 (Released:2022-06-30)
参考文献数
35
被引用文献数
1

Darwin の自然選択説やLamarck の用不用・獲得形質遺伝説などの主要な進化学説が提示された際に,それを生徒がどのように捉えるかを調査した。調査は,中学生・高校生・大学生に対して実施した。捉え方について,学校段階による差異が見られるかにも着目した。調査は質問紙法で行った。まず,ある進化事象の例を提示した。次に, この進化事象がどのように説明されるべきかについて, 4つの主要な進化学説(自然選択説,用不用・獲得形質遺伝説,定向進化説,大突然変異説)に基づく4人の答えを提示した。被験者に, この4人の説それぞれに対する賛成・反対を, 4段階尺度で回答させた(賛否得点として得点化した)。さらに問題毎に,誰に一番賛成できるかも回答させた。問題は3題で, 1題は退化の事象を提示した。調査の結果,以下の点が明らかになった。1) 現在科学的に妥当とされる自然選択説は,学校段階の上昇とともに支持が増加している。特に,大学生ではこの説の支持が高い。ただし退化の事象についてのみは(実際にはこれも進化の事象であるにも関わらず)学校段階による差異が見られず,大学生による支持も高くない。2) 用不用・獲得形質遺伝説は,現在は科学的に妥当とはされていないにも関わらず,支持は比較的高い。特に,高校生における支持が中学生・大学生と比べて高い。3) 定向進化説は,中学生の支持か高校生・大学生と比べて高い。4) 大突然変異説については,中学生・高校生・大学生の全てで,支持は非常に低い。5) 一番賛成できる説について,およそ3~4割の者は3問題に一貫した回答をした。自然選択説を一貫して選択した者は,大学生では24.1 %と比較的多数存在した。一方で,用不用・獲得形質遺伝説を一貫して選択した者は,中学生・高校生・大学生いずれにおいても1割以上いた。
著者
細谷 孝博 久保田 通代 熊澤 茂則
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.321-329, 2016-06-05 (Released:2016-07-07)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

アントシアニンは,ベリー果実等に含まれる色素成分の一種で,昔から天然着色料として幅広い食品に利用されている.また近年では,アントシアニンの様々な生理機能に関する研究も行われており,機能性成分としての利用も期待されている.本研究では,アントシアニンを豊富に含むベリー果実について,定量核磁気共鳴法(定量NMR)を用いた分子種解析によるアントシアニン成分の評価を行った.まず各ベリー果実抽出物の1H-NMRスペクトルより,各アントシアニン成分の定性及び定量分析を行った.続いて同スペクトルを用いて主成分分析を行ったところ,各アントシアニンによる分類分けに成功した.また,Oxygen Radical Absorbance Capacity(ORAC)法を用いて各ベリー果実抽出物の抗酸化活性を評価し,アントシアニン成分の種類と含有量,さらに,主成分分析から得られた結果に相関関係を認め,シアニジン系のアントシアニンが抗酸化に寄与することを明らかにした.1H-NMRを用いた本分析手法は,ベリー果実の品質管理や機能性を有するベリー果実をスクリーニングするための有用な手法であると言える.
著者
大谷 栄一
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.24-45, 1996-06-15 (Released:2017-07-18)

近代日本の法華・日蓮系の仏教運動を担うた「日蓮主義者」の一人、顕本法華宗(日蓮宗の一宗派)の本多日生(1867-1931)の研究はきわめて少こない。本多日生は、第二次世界大戦前の日本社会において、国柱会の田中智学(1861-1939)と並んで活発な「日蓮主義運動」を展開し、知識人や軍人・政治家・教育者・資本家を中心とする社会層に広範な影響力を誇った。本論考は、この日生の運動を事例として、近代日本の宗教運動の社会学的分析を行なう。とくに日生の運動において重要な位置を占めていた1910〜1920年代の社会教化活動に焦点を当て、その活動の意味を当時の歴史的・社会的文脈に即して検討することで、日生の「日蓮主義運動」の運動論的特質の一端を析出したい。また日生の「日蓮主義」は、社会思想としての性格をもっており、社会に対する宗教の応答(あるいは宗教の社会性)の検討が、本論考のもう一つのテーマである。