著者
関口 智
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.268-286, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
24

本稿では,アメリカ民間医療・年金保険制度に関連する1990年代以降の租税政策について,被用者(個人)の所得階層に着目して検討している。アメリカでは,伝統的に政府部門の社会保障債務(医療・年金保険等)の規模が小さいが,これは民間部門が医療・年金債務のシフトを受容してきたからでもある。近年,民間部門内部では従来の確定給付型に確定拠出型を加えた雇用主から,被用者・個人への医療・年金債務のシフトが起こっている。政府はこれら一連のシフトを租税政策により促進し,社会保障財政の逼迫を回避する方向性を追求してきた。しかし,近年の租税政策は主として高所得層の租税負担の相対的軽減につながり,低所得層にその便益が及びにくくなっている。そのため,低所得層に還付可能な税額控除を付与することで改革への社会的な支持の調達を模索しているが,執行上の問題や財源上の問題等も交錯し,混沌とした状況にある。
著者
宮﨑 雅人
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.287-303, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
32

本稿においては,1964年度における基準財政収入額算定に用いられる基準税率の引上げの背景にどのような要因が働いていたのかを分析した。分析の結果,基準税率の引上げは,恒常的に財政力の弱い市町村が市町村民税所得割の課税に際して負担の重い但書方式と超過税率を採用せざるを得なかったために生じた負担の不均衡と,それを解消するための課税方式の本文方式への統一という制度変更が要因となった可能性があることが示された。そして,この課税方式の統一は1963年に行われた総選挙に際して自民党が掲げた減税公約に基づいて行われたことも示された。これら一連の過程は,政党を媒介にした選挙を通じた地域間格差の是正を求める世論が財政制度変更の構想を実現の方向へと導く1つの要因となりうることを示している。しかし一方で,地方税負担均衡化の過程は租税負担水準の自己決定権の喪失過程でもあり,基準税率の引上げはその過程における政策の1つとしても位置づけられうる。
著者
林 正義
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.119-140, 2009 (Released:2022-07-15)
参考文献数
23
被引用文献数
3

本稿では1999年から2004年までの都道府県別パネルを用いて公共資本が地域生産に与える効果を考察した。本稿では特に,先行研究では十分に配慮されていない,生産から資本への遅れたフィードバックを通じた推定上の問題,生産要素や生産水準の時間を超えた動学的効果,そして,公共資本を含む諸変数の適切なデータ範囲に留意して推定を行った。推定の対象となる生産関数は状態依存モデルとADLモデルに拡張され,Arellano and Bond(1991)による手法を用いた推定が行われた。ADLモデルでは個別の生産要素の効果が有意に推定できず,生産関数アプローチが否定される結果となったが,状態依存モデルからは,民間資本の効果は有意に推定されなかったものの,他の変数に関してはもっともらしい結果を得ることができた。特に状態依存モデルからは,比較的大きな公共資本の生産力効果が推定された。
著者
髙橋 青天
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.320-339, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
22

Kolm(1970)で用いられた図(「コルムの三角形」)を使うことによって,Foley(1970)やNikaido(1976)で分析された公共財を含む資源配分問題の重要な課題である,①パレート効率性とコア,②リンダール均衡とコア,が平面図のみで図解される。このような分析手法を採ることの利点として,高等数学を一切使うことなく問題の核心を直感的に理解することができる点を挙げることができる。
著者
其田 茂樹 清水 雅貴
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.304-319, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
28

本稿では,森林環境税や水源環境税といった地方環境税に注目して,それらが活用している住民税超過課税の実施状況等を概観しつつ,その理論的なよりどころとなる「参加型税制」について検討を加える。課税自主権の行使として超過課税を活用し,この課税方式による地方環境税が各地に波及したという意義とともに,目的税的な運用の面で課題を残したままで制度が導入されていることの問題点を指摘する。
著者
齊藤 由里恵
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.201-217, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
15

本稿では,地方交付税がもつ財政調整機能によって,地方公共サービスの住民負担がどれだけ平準化されているか,地域間の財政調整機能を個々の経費ごとに分析をした。また,人口規模が全体の不平等化に及ぼす要因,各経費の全体の不平等度への寄与を分析した。 本稿の分析結果は次の通りである。①キング尺度による不平等度の測定では,財政調整前の財源(地方税)よりも財政調整後の財源(地方税+地方交付税)の不平等度が高い。そして,財政調整前財源と財政調整後財源の順位が大幅に逆転している。②経費別のキング尺度の結果では,各経費の総額と人件費はほとんど同様の値を示している。③タイル尺度による要因分析では,人口規模グループ別寄与度は,人口規模の小さい地域が全体の不平等度に寄与している。また,総額の構成要素の分解より,人件費が総額の不平等度を引き上げる要因であることが示された。
著者
神野 真敏 上村 敏之
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.184-200, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
6
被引用文献数
1

公的年金の運営方法には,保険料(徴収面)と所得代替率(給付面)のいずれを固定するかで,2つの運営方法がある。賦課方式の公的年金と児童手当には関連性があることが,近年の研究で明らかになってきた。児童手当の拡充で出生率が改善した場合,保険料率を一定にして所得代替率を高める方法が好ましいのか,あるいは,所得代替率を一定にして保険料率を軽減させる方法が好ましいのか,2つの運営方法の比較を行う。 本稿の分析により,給付水準固定方式における(育児費に対する)児童手当率の調節は,保険料率固定方式よりも社会厚生値を高めることが示された。また,児童手当率の変更によって家計のタイプ間の移動が行われるため,政策発動前後で各タイプの最適な政治的選択が変わってしまうことも示された。
著者
亀田 啓悟 李 紅梅
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.148-164, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
29
被引用文献数
1

数多くの先行研究が地域別,投資分野別に社会資本の生産性を推計しているが,これまで国直轄,国庫補助,地方単独事業別の生産性は分析されていない。その一方,地方財政分野では数多くの先行研究が中央・地方政府間の情報の非対称性や国庫補助金の存在が公共投資,特に国庫補助事業の効率性を損ねていると指摘している。そこで本稿ではこれら3事業別の社会資本データを構築し,その生産性を推計した。その結果,国直轄,国庫補助事業の生産性は確認できず,地方単独事業のみが有意な生産性を示した。また,頑健性を確認するために期間別推計,地域別推計,外部性に配慮した推計も行ったがこの結論は不変であった。以上より3事業間に生産性格差は存在し,地方単独事業のみが有意な生産性をもつといえる。なおこの結果は,先行研究の技術的,制度的,政治的な要因が社会資本の生産性を阻害するとの指摘を裏付けるものといえる。
著者
篠田 剛
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.248-269, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
28

州・地方政府が高い課税自主権を有し,多様な税制を構築してきた米国連邦制であるが,近年,州間・地方間の税制調和や租税協調がさけばれている。本稿では,インターネット課税問題をめぐって浮上してきた売上税・使用税に関する州間租税協調を分析する。その際,州・地方政府だけでなく,IT関連企業や伝統的な小売企業といった租税協調の推進主体とその相互の利害関係に着目する。こうした複数の利害対立関係を同時に考慮することによって,どのような条件のもとで租税協調は実現するのか,それを阻害する要因は何かを明らかにする。
著者
天羽 正継
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.206-225, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
28

本稿の課題は,戦時期に資金計画の一環として形成された地方債計画が,終戦後にどのような経緯を経て,戦後のわが国の地方債制度を支えるシステムとして再形成されることとなったのかを明らかにすることである。戦時期には国家資金計画による地方債計画の下,地方債の全額が政府資金によって引き受けられた。終戦後に戦時期の地方債計画は撤廃されたが,政府資金がインフレにより蓄積不足が続いたため,一部の地方債が民間資金によって引き受けられることとなった。ところが,地方債の消化が困難をきわめたため,大蔵省と日銀により計画的な消化を図る政策が展開されることとなった。こうした過程で大蔵省は,民間資金と政府資金による引受量を把握しつつ,新たな起債許可権限を用いてそれらに見合うように地方債発行額を調整することが可能となった。こうして,終戦後に撤廃された地方債計画は新たな装いをもって復活し,戦後に引き継がれることとなったのである。
著者
水上 啓吾
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.270-290, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
30

1990年代末以降のブラジルでは緊縮財政が避けられないものとなっていくが,本研究は,財政政策と金融政策の交錯点である国債管理政策の分析を通じて,そうした背景を明らかにしようとするものである。90年代初頭のブラジルでは,対ブラジル投資の再活性化のために開始された一連の経済の「自由化」政策およびドル・ペッグ制を活用したインフレ抑制政策と整合的な国債管理が行われるが,それは中長期的な利払い負担の抑制,適正なリスク水準の維持,国債市場での円滑な取引を目指すものであった。分析の結果,ブラジルの国債管理政策が,利払い負担の軽減から国際金融市場との連関を深めることで,外在的な通貨危機の影響をより深刻化させたということが明らかとなった。
著者
国枝 繁樹 布袋 正樹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.165-183, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
17

本稿においては,Poterba(1987,2004)の先行研究を踏まえ,証券税制の改正と日本企業の配当政策の関係につき実証分析を行う。具体的には,過去の証券税制の改正が配当,株式譲渡益等の税制上の相対的な有利さをどのように変化させたかにつき試算し,その上で,配当の税制上の相対的な有利さの変化が,日本企業の配当政策に影響を与えたかを推定する。その際,日本企業が伝統的に従ってきたとされる「1割配当」ルールの影響についても明示的に考慮する。主な分析結果は以下のとおりである。①証券税制は過去の日本企業の配当政策に影響を与えていない。②日本企業の配当額の説明要因としては,当期純利益よりも,株式額面総額の代理変数である資本金の方がはるかに重要であった。これらの結果は,過去の日本企業の配当政策において,株式額面の一定割合を配当するという慣行が重視されており,税制は重要な影響を有しなかったことを示している。
著者
中澤 克佳
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.142-159, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
18

団塊の世代の退職などを契機として,都市部における高齢化の急速な進展が問題となってきている。また,都市部では施設介護サービスが不足し,地域的な偏在が生じている現状から,高齢者の介護移住が注目を集めている。介護移住は都市高齢世代自身の移動や,「呼び寄せ老人」と呼ばれる親世代の呼び寄せなどが想定される。しかし,わが国では高齢者の移動に対する注目は低く,さらに既存データでは,介護保険制度施行以降の市区町村別・年齢階層別の移動傾向が把握できないことから,定量的な分析が行われていない。そこで,本稿では既存統計資料を組み合わせることによって,東京圏(埼玉,千葉,東京,神奈川の1都3県)市区町村における高齢者の社会増加を定量的に把握し分析を行った。結果として,前期高齢者と後期高齢者の移動性向は大きく異なっており,要介護リスクが高い後期高齢者は,東京圏の特に相対的に施設介護サービスが充実した自治体へ流入していることが明らかとなった。
著者
深江 敬志 望月 正光 野村 容康
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.123-141, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
27

本稿の目的は,わが国申告所得税の再分配効果を所得者別・所得階層別の要因分解により検証することである。所得階層別の分析においては,所得税の再分配効果を税率効果と控除効果に分解し,その相対的な大きさを定量的に把握する。 分析の結果,以下の諸点が明らかになった。 第1に,申告所得税全体の再分配効果は,給与所得者・譲渡所得者などを含む「その他所得者」のグループ内の効果によってその大部分が説明される。 第2に,経年的に見た再分配係数は,昭和38年以降全般的に低下傾向を示す中で,① 昭和44年~昭和50年と昭和62年~平成3年に急激に低下し(ボトム効果),② 平成11年に急上昇する(ジャンピング効果)。 第3に,これら両効果の要因について,① ボトム効果が特に高所得階層(上)の税率効果に強く依存するのに対し,② ジャンピング効果は,当該年度に控除効果が急上昇している点から,主に定率減税の実施に起因すると考えられる。
著者
諸富 徹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.249-264, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
28

租税は,財源調達手段であると同時に,政策上の目的を実現するための政策手段としての側面を持っている。本稿は,法人課税の政策手段としての側面を分析の対象とし,その意義と限界を明らかにする。その素材として1930年代にルーズヴェルト政権が導入した「留保利潤税」を取り上げる。留保利潤税は当時,一方で産業の競争条件を均等化させるための規制手段として捉えられ,他方で配当支払いの促進を通じて,経済安定化に寄与する政策手段として捉えられていた。留保利潤税は,価格メカニズムを利用することで配当支払いを促進した反面,外部資金調達コストの高さに直面する中規模企業に重い税負担をかけ,この点では政策意図と矛盾する結果を生んでしまった。にもかかわらず,現代政策課税のあり方を構想する上では,留保利潤税の教訓から政策課税の現代的意義を引き出しておくことは重要だと考えられる。
著者
佐々木 伯朗
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.233-248, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
23

政府との相互補完性において注目されているサードセクターが生ずる原因としては,財・サービスの特殊性に基づく利潤の非分配制約に着目した議論が現在主流であるが,政府の補助が高くかつ自律的に活動している国の事例が説明できない。またヨーロッパの「社会的企業」論は,企業,国家,コミュニティの結節点としてサードセクターを位置づけているが,それは依然としてセクター論にとどまっている。本研究では社会システム論の考え方を取り入れ,経済システムを,組織が他の組織や,個人,政府と結ぶ関係性によって類型化する方法をとった。これに基づいて,日本とドイツの高齢者福祉事業をめぐる制度の比較を行った結果,ドイツにおいては補完性原理による「自由福祉連盟」を中心としたサードセクターの自律性が強いのに対して,日本の事業者においては,非市場性,非政府性が希薄であることが確認された。
著者
福井 木綿
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.218-232, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
23

ベトナム戦争についての研究は数多く存在するが,未だ解明されていない問題は多い。それらを解明するために,南ベトナム解放民族戦線についての再評価が必要であるとの問題意識に基づき,本稿では,解放戦線の財政資料に基づいて,解放勢力の兵員数の推計を行い,その規模と推移について考察を加えた。推計結果は,戦況の推移,主力部隊の規模と矛盾しないものであったが,既存の主要な参考データである米国の推定よりはるかに大きい値となった。推計結果によって,(1) 解放戦線の規模は現在まで過小評価されており,解放戦線の役割についての再評価が必要であるということ,(2) 解放戦線とハノイ政府の関係性の転換において,テト攻勢とベトナム化政策による打撃が大きな影響力をもったということ,(3) 米国の圧倒的軍事力を背景とするサイゴン政府側が軍事的優勢にたつことができなかった理由は規模の問題にあったということが明らかとなった。
著者
金坂 成通 倉本 宜史 赤井 伸郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.160-183, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
22

現在,公営交通事業において過剰投資や非効率経営による問題点が指摘されている。今後は,民間同様の経営効率性を持って,民営化などの組織形態の変更も含めた改革が求められている。 本稿では,このような状況にある公営交通事業の中でもバス事業と地下鉄事業に対し,平成11年度から平成16年度までの年度間におけるマルムクイスト生産性変化指数を計測した。計測結果から,年度ごとに公営バス事業,地下鉄事業ともに各都市のマルムクイスト生産性変化指数にばらつきがあることがわかった。そして,マルムクイスト生産性変化指数の程度に影響を与えている要因を実証分析において検討した結果,公営バス事業の生産性の変化には,補助金が生産性変化指数を低下させる可能性,また経営基盤強化のための経営計画の実施が効果的である可能性が実証分析により示唆された。また,公営地下鉄事業については委託の促進が生産性変化に効果的である可能性が示唆された。
著者
八塩 裕之
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.179-199, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
11

事業で得た収益は本来,労働や資本の対価にしたがって給与や配当などに分配されるべきである。しかし中小事業者の場合,この分配の決定(「所得分散行動」とよぶ)が節税動機によって大きく歪められていることが,欧米で指摘されてきた。一方日本でこうした中小事業者の所得分散行動と節税動機の関係を分析した研究は非常に少ない。本稿では個人自営業者の家族従業員(専従者)への給与分配による所得分散行動に注目し,節税動機がそうした行動に影響を与えていると考えられることを示す。そのうえで,こうした行動がもたらす経済学的な問題点について考察する。
著者
杉浦 勉
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.280-293, 2005 (Released:2022-07-15)
参考文献数
15

財政の自立性が限定されているイギリス地方自治体にとって,民間事業者を活用できるPFI(Private Finance Initiative)は非常に魅力的な公共サービス調達手段である。財政資金の投入が必要であった社会資本整備を,資本調達を含めて民間事業者に任せ,これを管理統制することを通じて,地方自治体は公共サービスを提供する責任を国民に対して果たすことができるからである。 その一方で,PFIのこうした特質は,これを導入する地方自治体の在り方を変革していくことになった。PFIを活用しようとすれば,地方自治体は従来のような公共サービスを提供する主体と言うよりは,民間事業者に公共サービスを提供させるための条件を整備する統括者といった存在にならなければならない。また,PFI事業で民間事業者を統括するためには,地方自治体が中央省庁の下部組織ではなく,地域住民の要求を実現する機関として直接に民間事業者と対峙できる立場になる必要がある。このようにPFIは社会資本整備における改革であると同時に,地方自治体の役割を改革していく側面をもっているのである。 しかし,PFIが地方自治体に導入されていく過程は,良質な公共サービスを提供するというPFIの規範的目的が実現していったことを必ずしも意味したのではなかった。事態はむしろ,PFIに対して強力な批判がなされているのである。PFIが期待通りの成果を上げていないにもかかわらず,その導入に合わせて地方自治体の位置づけが変革されていく。これが地方自治体におけるPFIの実情であり,また,今後におけるPFIの活用に向けた取組みの出発点である。