著者
掛貝 祐太
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.177-197, 2017 (Released:2021-08-28)
参考文献数
37

1990年代のスイス財政は債務残高増加のなかで緊縮路線・新自由主義路線を基調としていた。同時期の欧州では地方政府の実質負担増がみられるが,90年代に議論されたスイスの財政調整制度改革(NFA)は,最終的にむしろ財源力の弱い州からの支持を集めて成立した。この政治的過程について連邦・州間の合意形成に焦点を当て,制度・歴史・政治的考察を図ることで,当初の目標から部分的に乖離しながら政治的妥協と協調が前景化する過程を追跡し,なぜ極端な地方政府の弱体化を避けることができたのかを明らかにする。
著者
谷 達彦
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.209-227, 2018 (Released:2021-08-28)
参考文献数
75

地方所得税のあり方をめぐる通説的議論は,応益課税の観点から比例的地方所得税が望ましいとする。しかし,ニューヨーク市の地方所得税は累進税率を採用しているうえ,低所得者の負担軽減を図る複数の税額控除を導入している。さらに近年は富裕者増税を中心とする改革論議が強まった。ニューヨーク市の地方所得税において応能課税の側面が重視される背景には所得格差の拡大,民主党への高い支持率,富裕者増税を支持する住民の世論がある。しかし,幼児教育拡充の財源を地方所得税の富裕者増税によって調達することを掲げたデブラシオ市長の改革案は,幼児教育における地域間格差拡大の回避を優先するニューヨーク州の承認を得られず挫折した。ニューヨーク市の事例は一般的ではないが,地方所得税のあり方をめぐる議論を豊富化する諸論点を示唆する。
著者
五嶋 陽子
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.184-208, 2018 (Released:2021-08-28)
参考文献数
42

両大戦期アメリカの農業問題を解決するために出された3つの計画の問題認識,政策目標の設定,財源調達方法との関係とそれぞれの政策課税を考察した。1920年代半ばのマクナリー=ハウゲン法案では農業問題は農家が解決すべきとの理解に立ち余剰農産物の捌け口を海外に求め,受益者負担の原則に沿う均一化料金を構想したが,過剰生産の悪循環から抜け出せないとされた。1929年農産物出荷法では一般財源からの支出で余剰農産物の流通と商品前貸し融資を農業協同組合に任せ,最終消費財の数量調整のために製造者売上税を導入したものの,商品前貸し融資を停止せねばならなかった。1933年農業調整法は農産物の取引段階を射程とし,加工業者に加工税を課税しその税収を生産者の減反給付金等に用いて加工業者から生産者に所得移転を進めようとした。しかし違憲判決を受け,加工税納付額を超過する還付は加工税収に加え一般財源を投入する必要があった。
著者
卿 瑞
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.164-183, 2018 (Released:2021-08-28)
参考文献数
18

地方債市場の自由化が進行するなか,2006年9月に個別条件交渉方式が正式に導入された。金融市場での情報の非対称性を解消して資金調達のコストを削減するために,地方政府は依頼格付けを積極的に取得するようになった。なかには,2つの格付会社に依頼し,二重格付けを取得する自治体もある。二重格付けの取得原因として地方債の引受金融機関からの要求,あるいは地方政府の習慣などが考えられるが,ほかに経済的な理由があるのかを明らかにすることも重要である。そこで,本稿は市場公募地方債のデータを用いて,二重格付けが地方政府の発行コストに与える効果を定量的に検証した。分析の結果,二重格付けは発行コストに有意に負の影響を与えている。自治体が二重格付けを取得することは合理的であると考えられる。
著者
掛貝 祐太
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.228-246, 2018 (Released:2021-08-28)
参考文献数
30

スイスでは,1990年代初頭の経済・財政状況の悪化に対して,91年および95年にエコノミスト・財界人が発行した通称「白書」と呼ばれるレポートは,極めて明白な新自由主義路線改革を打ち出し,連邦政府関係者のみならず一般層にも読まれるなど大きな衝撃を与えた。同レポートは事実上の政府路線となったと先行研究では評価されている。しかし,同レポートでの具体的な制度提案と,政治的意思決定過程を経たのちの90年代の制度改革の結果を比較すると,同レポートが実際の財政構造に与えた影響は限定的である。実際には,コンセンサスを要する政治構造により,財政再建に関しても「白書」で主張された歳出削減策には一定の歯止めがかかり,むしろ付加価値税の導入など歳入面の改革が進み,とりわけ90年代前半に構造的財政赤字の削減に成功したことが分かる。こうした分析を通じ,スイスにおける新自由主義改革の文脈とそれに対する抵抗の動態を明らかにする。
著者
小林 航 高畑 純一郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.117-131, 2017 (Released:2021-08-28)
参考文献数
11

本稿では,公債の課税平準化機能に関するLucas and Stokey(1983)のモデルから,不確実性を除去したうえで生産性をパラメータ化し,消費と余暇に関する分離可能な効用関数のもとで,最適税率が異時点間で一定になる条件を導出する。閉鎖経済では,消費の限界効用の弾力性と労働供給の限界不効用の弾力性がそれぞれ時間を通じて一定となることがその条件となる。他方,開放経済では,割引因子と債券価格が等しいという仮定のもとで,労働供給の限界不効用の弾力性が一定であることが条件となる。そして,関数型を特定化し,政府支出や生産性の変化が最適税率に与える影響を分析する。その結果,准線型関数や開放経済においても,生産性が変化する場合には最適税率はかならずしも一定とならないことなどが示される。
著者
小川 顕正
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.187-204, 2016 (Released:2021-08-28)
参考文献数
17

近年,多くの自治体で行政評価が導入されてきたが,これまでの評価手法は個別分野ごとの評価を寄せ集めたものに過ぎなかったため,抜本的な歳出改革を促すには至らなかった。そこで本稿は,予算制約下における各政策への最適な歳出配分割合を定量的に示すとともに,これと実際の歳出配分割合を比較して,神奈川県川崎市における2008年から12年までの歳出配分の効率性を評価した。なお,最適な歳出配分割合を導出するにあたって各政策の住民効用への寄与度(効用ウェイト)を階層化意思決定法(AHP)によって推定したが,この手法を用いて歳出配分を評価したのは本稿が初めてである。分析の結果,民生財や土木財の供給における最適歳出配分割合との乖離とともに,国の行動が自治体の歳出配分行動に影響を与えうることなども示唆された。いずれにせよ,本稿における手法を用いることにより,一律削減などではなく住民の選好に基づいた定量的な歳出改革議論が可能となる。
著者
宮下 量久 鷲見 英司
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.170-186, 2016 (Released:2021-08-28)
参考文献数
14

本稿では地方公共サービス水準データを独自に作成して,合併算定替が合併自治体の効率性に与えた影響をパネル・データから検証した。合併算定替は合併を推進した財政支援措置のひとつであるが,合併後の財政運営が合併算定替から受けた影響についてはこれまで十分に検証されてこなかった。分析の結果,普通交付税や合併算定替が合併自治体の経常経費の非効率性に正の有意な影響を及ぼしていた。特に,合併算定替は普通交付税よりも合併自治体の非効率性を助長していた。また,合併自治体は合併後年数を経るごとに効率的な財政運営に努めることが期待されるが,本稿の推定では合併自治体が合併後経過年数に関係なく,合併算定替の影響で非効率な財政運営に陥っていることが明らかとなった。
著者
喜田 智子
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.212-232, 2015 (Released:2021-10-26)
参考文献数
35

本稿は,EU地域政策基金の最大の受取国であったスペインに焦点を当て,EU地域政策の財政的な貢献とスペイン後進地域でのEU地域政策を確認し,さらに,スペイン後進地域が他の地域にキャッチアップをしたのか検証をおこなった。購買力平価からみた1人当たりGDP,失業率からみると,アンダルシア州およびガリシア州は,2000年以降他の地域にキャッチアップしたが,その経済成長は建設部門に依存したものであったことが確認できた。今後,両州でのEU地域政策は,インフラ整備に対する支援から当該地域の競争力を直接高めるような企業支援やR&Dへの支援へのシフトも求められる。
著者
石川 達哉 赤井 伸郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.166-190, 2015 (Released:2021-10-26)
参考文献数
12

土地開発公社は母体地方公共団体との一体性が高く,借入に際しての債務保証・損失補償の金額も大きいため,これを清算することは母体の財政健全化という文脈で捉えることができる。特に,地方財政健全化法の下では土地開発公社の債務の一部が将来負担比率に算入されることに着目し,清算に向けた第三セクター等改革推進債の発行が地方財政健全化法の判断基準,母体の財政状況や公社の土地保有の状況によって決まるモデルを推定した。その結果からは,将来負担比率の早期健全化基準からの乖離率(余裕度)が小さいほど発行確率が高まることが確認され,将来負担比率が土地開発公社の清算を促すガバナンス効果を持つことが裏付けられた。さらに,債務保証・損失補償の水準が高いほど,修正実質収支比率が低いほど,また,保有期間5年以上の土地の割合が高いほど,時価評価対象土地の割合が高いほど,発行確率が高まることが示された。
著者
持田 信樹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.141-165, 2015 (Released:2021-10-26)
参考文献数
24

わが国の地方政府債務は先進諸国の中で最悪の状況にある。本稿では,Bohn(1998)のモデルを拡張して地方政府債務の持続可能性を検証した。分析対象は47都道府県で期間は1985年から2011年までの27年間である。政府債務の対県民総生産比が増大すると当初は基礎的財政収支が悪化するが,ある点を超えると改善に向かうという非線形の関係が確認された。基礎的財政収支改善の「主役」を演じたのは投資的経費の削減と地方税の回復であり,「準主役」は人件費の抑制である。地方公共団体が基礎的財政収支を改善する「トリガー」となったのは公債費負担比率の上昇であった。予想に反して地方財政健全化法の実施をきっかけに政府債務残高なり財政指標なりの説明力は失われた。
著者
川出 真清 石川 達哉
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.181-198, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
16

一般政府や中央政府の政策スタンスを評価する目的で利用されることの多い構造的財政収支は,地域ごとの成長率・人口構成等の多様化と分権の進展が今後見込まれる地方財政においても,その利用が拡大する可能性がある。本稿の目的は,構造的財政収支の作成に不可欠で,国・地方問わず注目される税収弾性値を都道府県別に推計・比較することである。具体的には,道府県税のうち税収ウェイトの高い個人住民税と地方法人2税(法人住民税・法人事業税)について都道府県別弾性値を推計するとともに,地方消費税についても先験的に1と仮定することはせず,全都道府県共通の推定値を得た。推定に際しては,マクロの課税ベースが分配面で相互に制約を受けることに注意を払った簡便かつ標準的な手法として,OECD等によって現在も国際的に利用されている枠組みを日本の地方政府に適用できるように拡張した。税目ごとの推計結果に基づいて税収全体の弾性値を求めると,都道府県による若干の差異はあるものの,平柊値は1.08(2006年以前)および0.95(2007年以降)となり,一般政府および中央政府を対象とする既存研究の税収弾性値に近い値を得ている。
著者
五嶋 陽子
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.116-142, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
20

インドの支出税の失敗はカルドア勧告と支出税法との乖離によってもたらされたという先行研究を踏まえて,その乖離を生じさせたのは何かについて考察した。そこで明らかになったことは,支出税法の立法化を通じて第1に,累進付加税の代替税としての役割を全面的に押し出す動き(所得とのリンクの設定)と抑制する動き(直接税控除の設置)という相矛盾する規定が取り込まれたことである。第2に,総人口の約8割がヒンドゥー教徒で構成されるインドにおいて,ヒンドゥー未分割家族が消費の単位としてのみならず家族事業体という生産の単位でもあり,先祖継承財産の運営管理を行う単位であり,ヒンドゥー教に基づく結婚の儀式を行う主体であったことから,基礎控除,両親の扶養費控除,結婚披露費用控除を認めざるをえなかった。この乖離は建国後の国民統合を国家目標とする流れおよびヒンドゥー未分割家族の税制上の史的取扱いと合致するものであった。
著者
山口 隆太郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.259-281, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
57

現代の日本において,自己決定権を失った地方行財政制度は地方自治の阻害をもたらしている。なぜ今日このような制度を持つにいたったのかについて,本稿では財政調整制度の形成過程の分析を通じて明らかにする端緒として,財政調整制度の「萌芽」とされてきた義務教育費国庫負担制度の1918年における成立と1923年の改正の過程を分析した。1908年の義務教育年限の延長により重くなっていた町村の教育費負担は,義務教育費国庫負担の要求をもたらしたが,1918年の制度成立は「教育の改善」が,1923年の改正は「軍縮」が,それぞれ主な要因となった。それは制度形成に関わった各政治的主体が,「官治的」な地主制地方支配の維持のために,中央と地方の行財政制度の再編を意図したものではなかった。また自己決定権の喪失をもたらすような,人々の「平等志向」が存在したわけでもなかった。
著者
倉地 真太郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.143-162, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
33

本稿の目的は,北欧諸国の税制改革に及ぼす北欧協力関係の影響を明らかにすることである。1980年代後半以降,北欧以外の先進諸国が包括的所得税を追求するなか,北欧諸国は二元的所得税を連鎖的に導入していった。二元的所得税は経済のグローバル化に対抗する所得税類型であるといわれている。したがって,この課税方式の波及プロセスの分析は,高い所得税収を有する北欧諸国税制がどのようにして共通する特徴を持ったのかを明らかにすると考えられる。そこで本稿では北欧諸国の協力関係に着目しながら,デンマークとスウェーデン間で二元的所得税が波及するプロセスを分析した。その結果,二元的所得税の波及には,北欧諸国の政策担当者や専門家が制度を相互参照したことが影響を及ぼしていたことが分かった。
著者
赤井 伸郎 倉本 宜史
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.199-223, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
11

本稿は,将来の港湾の整備・運営の在り方を考えるうえで欠かせない視点として,港湾連携の実態を把握するため,これまでになされた港湾投資のパネル・データから,港湾間競争とも言える国内の港湾同士の相互依存関係の実態を検証するものである。また本稿は,現状把握や分析の工夫により,これまで行われてきた港湾政策を,港湾間の競争の観点(国内の港湾同士の相互依存関係)から,その実態を明らかにする点で意義が高いと言えよう。分析の結果,港湾間で競争がなされてきたこと,また,その競争に影響をもたらす参照先や港湾規模によっては,競争の程度が異なることも見出された。国内の港湾間に競争が存在するという,この結果は,連携の必要性を示唆しており,連携に向けては,港湾間の相互参照先を考慮したうえで,補助政策を含めた,より一層の国家戦略が必要であることを示唆していると言えよう。
著者
中村 悦広 中東 雅樹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.302-319, 2013 (Released:2021-10-26)
参考文献数
17

本稿では,近年削減の方向で進められてきた社会資本整備が,三大都市圏において地域経済や地域住民の経済厚生にいかなる影響を及ぼしてきたかを分析する。具体的には,首都圏,名古屋圏,関西圏を対象に,市町村別・分野別の社会資本ストックデータを構築したうえで,Roback(1982)の理論モデルに基づいて,1995年度と2005年度の2時点の市町村クロスセクション・データによる社会資本の経済効果をふまえた都市圏の公共投資のあり方を検討した。本稿の分析から得られた主な結論として,道路や都市公園といった生活基盤型社会資本は,すべての圏域で生産力効果と厚生効果があることが示された。他方で,名古屋圏と関西圏で,経済効率的に配置されていない社会資本が存在し,とくに関西圏は,そうした社会資本が多く存在することが明らかになった。
著者
竹本 亨
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.227-247, 2013 (Released:2021-10-26)
参考文献数
9

本稿は,ロシアの財政調整制度である「Федеральный фонд финансовой поддерЖки субъектов Российской Федерации(連邦構成主体財政支援連邦基金)」と同様のシステムを地方交付税制度に導入した場合をシミュレーションし,都道府県間の財政格差について現状の地方交付税制度と比較した。その結果,1人当たり歳入を指標とした場合にはその格差がより小さくなることがわかった。さらに,使用されている公共サービスの要素価格の相対的な指標を,基準財政需要額を基に本稿で作成した指標に置き換えることで,地方交付税と非常に近い配分額となることがわかった。
著者
別所 俊一郎 宮本 由紀
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.251-267, 2012 (Released:2022-07-15)
参考文献数
33

日本では所得再分配政策に地方政府の果たす役割は大きく,そのために所得再分配の程度に地域的な差異がみられる。本稿では,妊産婦定期健康診査(妊婦健診)を取り上げ,日本の市町村データを用いて妊婦1人当たり助成額の地域差を指摘する。また,助成額が同一都道府県内の市町村と正の相関をもつことを統計的に示す。他方で,地理的に近くにあっても同一都道府県内にない市町村とはほとんど相関しないことから,正の相関は,市町村が同一都道府県内の市町村の行動を参照したヤードスティック競争や横並び行動の結果であると考えられる。
著者
前川 聡子
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.267-282, 2013 (Released:2021-10-26)
参考文献数
32

本稿では,研究開発支援政策として,試験研究費に係る税額控除拡大と法人税率引き下げのどちらの方が効果的なのかについて,1980~2009年の資本金階級別のデータを用いて実証分析を行った。その結果,税額控除は期待されるような効果を持たず,税率引き下げの方が研究開発増加に対して有意に影響を及ぼすことが明らかとなった。ただし,資本金100億円以上の巨大企業については,税率も税額控除も研究開発費に対して有意な影響を与えず,むしろ負債比率が研究開発に有意な影響を持っていることが示唆された。