著者
アブディン・モハメド
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.41-53, 2020-05-14 (Released:2020-05-14)
参考文献数
17

本稿では、2019年4月11日にスーダンのバシール大統領が失脚してから8月17日に暫定政府の設立合意が成立するまでに、国内の主要な政治主体間にいかなる権力闘争があったのかを分析する。そのために、暫定軍事評議会を支援したサウジアラビア・UAE・エジプトの三国陣営、そしてエジプトがスーダンに対する影響力を拡大することを危惧したエチオピアといった地域大国の役割にも注目した。主な結論は以下の3点である。(1)6月3日にスーダン軍部がデモ隊を強制排除する以前には、サウジアラビア陣営はスーダン国内政治に影響を及ぼすことができたが、(2)6月3日の事件以後には、エチオピアが、対立する国内主体間の交渉を仲介することに成功したため、サウジアラビア陣営の影響が限定的になり、(3)その結果、デモ隊の強制排除を通して軍政の復活を目指した暫定軍事評議会と、エチオピアの介入によって息を吹き返した民主化勢力との権力関係が拮抗するようになり、8月には暫定政府の設立に関する合意が可能となった。
著者
山口 昌樹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.2, pp.80-84, 2007 (Released:2007-02-14)
参考文献数
18
被引用文献数
31 26 14

厚生労働省の人口動態統計資料によると,1977年から1997年までは年間20,000-25,000人で推移していた自殺者数は,1998年に一気に年間3万人を越え,それ以降3万人前後で推移している.このことからも,自殺に至る一因であるストレスが原因の神経精神疾患は,既に深刻な社会問題となったことが窺われる.さらに,ストレスは,神経精神疾患以外にも生活習慣病など様々な疾患の引き金のひとつと考えられている.そこで,ストレスの状態を遺伝子レベルで診断し,疾患の予防や治療につなげようとする試みが始まっている(1).これは,慢性ストレスの検査と言い換えることができよう.一方で,疾患の前段階,すなわち人が日常生活で感じているストレスの大きさを客観的に把握する試みもなされている.その目的のひとつは,自らのストレス耐性やストレスの状態をある程度知ることによって,うつ病や慢性疲労症候群などの発症を水際で食い止めようという予防医療である.もうひとつは,五感センシングが挙げられる.独自の価値観で快適性を積極的に追求する人が増えてきており,それと呼応するように,快適さを新しい付加価値とした製品やサービスが,あらゆる産業分野で創出されている(2).消費者と生産者の何れもが,味覚や嗅覚を定量的に知ることよりも,それらの刺激で人にどのような感情が引き起こされるかということ(五感センシング)に興味がある.これを可能にするためのアプローチのひとつが,唾液に含まれるバイオマーカーを用いた定量的なストレス検査である.これらは,急性ストレスの検査が中心的なターゲットといえよう.ストレスとは,その用語が意味する範囲が広く,研究者によっても様々な捉われ方,使われ方がなされていることが,かえって混乱を招いているようだ.代表的な肉体的ストレスである運動とバイオマーカーの関係については,これまでに様々な報告がなされている(3).筆者が注目しているのは,主として精神的ストレスであり,人の快・不快の感情に伴って変動し,かつ急性(一過性)もしくは慢性的に生体に現れるストレス反応である.ここでは,唾液で分析できるバイオマーカーを中心に,このようなストレス検査の可能性について述べてみたい.
著者
石上 泰州
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.125-136,215, 2006

本稿は,集計データにより1957年4月から2005年3月までに行なわれた知事選挙の投票率を分析する。着目するのは,統一地方選挙の効果と,相乗りおよび自民党分裂の影響である。分析の結果,確認されたのは以下の点である。(1) 議会選挙との同時選挙になると知事選挙の投票率は高くなる。(2) 議会選挙において無投票の選挙区が生じることがあるが,無投票の選挙区が多いほど知事選挙の投票率は低くなる。(3) 衆院選,または参院選との同日選挙になると投票率は高くなる。ただし,参院補選との同日選挙では投票率に影響がみられない。(4) 統一地方選挙において行なわれる知事選挙の投票率は高い。ただし,同じ日に行なわれる知事選挙の数が多いほど投票率が高くなるわけではない。(5) 自民党に相乗りする政党が多くなるほど投票率は低くなる。(6) 国政第二党が自民党に相乗りすると投票率は低くなる。(5)よりも(6)のほうが投票率に対する影響はやや大きい。(7) 自民党が分裂した選挙は投票率が高い。
著者
宮内 正厚 中島 英彰 平井 千津子
出版者
公益社団法人 日本ビタミン学会
雑誌
ビタミン (ISSN:0006386X)
巻号頁・発行日
vol.88, no.7, pp.349-357, 2014-07-25 (Released:2017-08-10)
被引用文献数
1

In recent years, the importance of solar exposure for vitamin D synthesis in the human body has been pointed out. The solar exposure time necessary for the synthesis of vitamin D depends largely on geographical location, season, time of day, weather, exposed skin area, etc. Using numerical simulations we estimated that if 10 μg vitamin D were to be synthesized entirely by solar exposure to skin type III (SPT), which is considered to be the most typical skin type for Japanese people, it would necessitate 6.4 min horizontal exposure of a 600 cm^2 skin area, corresponding to the face and the back of both hands, under cloudless sky at 12:00 o'clock in July in Tsukuba. Under the same conditions, it would take 20.8 min to reach 1 MED (Minimum Erythemal Dose) which is thought to be the harmful UV exposure level for human skin. In other words, approximately 31% of the time before the skin gets red is enough for the synthesis of 10 μg vitamin D a day. On the other hand, in Sapporo which is located in the northern part of the Japanese Archipelago, the corresponding durations are 8.4 min and 27.0 min, respectively under the same conditions as in Tsukuba, whereas the necessary time in December would be 139 min and 296 min, respectively. Although the sufficient amount of vitamin D cannot be obtained by short-time exposure to solar radiation, it is thought that long-time exposure might not damage the skin. It can be concluded that for a skin area of 600 cm^2 in horizontal position, exposure time until damage would occur is generally 3 times larger than what is necessary for the synthesis of 10 μg vitamin D under strong UV radiation. It should be noted that generally, with a larger exposed skin area the solar exposure time for vitamin D synthesis could be considerably shortened.
著者
Zhihui Liu Pingying Qing Yi Zhao Yi Liu Tony N. Marion
出版者
Tohoku University Medical Press
雑誌
The Tohoku Journal of Experimental Medicine (ISSN:00408727)
巻号頁・発行日
vol.255, no.2, pp.143-146, 2021 (Released:2021-10-20)
参考文献数
11
被引用文献数
3

Antibody deficiency is a type of primary immunodeficiency that often manifests as primary hypogammaglobulinemia, with or without repeated infections. Although primary immunodeficiency appears to be contrary to autoimmunity, they usually occur simultaneously, and the specific pathogenesis remains unknown. We herein describe an adult patient with autoimmune manifestations and recurrent infections. The case was characterized by a sustained decrease in serum immunoglobulin A, accompanied by decreased T lymphocytes, B lymphocytes, monocytes, and platelets in the peripheral blood and the presence of antinuclear and anti-SSA antibodies. Whole-exome sequencing for the patient revealed two spontaneous mutations in GATA2 (c.1084C>T) and STAT5B (c.1924A>C). This case report provides evidence that mutations in the GATA2 and STAT5B genes may be pathogenic in primary immunodeficiency and provides genetic evidence for the possible pathogenesis of primary immunodeficiency with autoimmune symptoms. However, further studies are needed to confirm the causal relationship.
著者
八木 優英 建内 宏重 栗生 瑞己 水上 優 本村 芳樹 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0278, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】トーマステスト変法(MTT)は片側股関節屈曲により対側股関節を伸展位にし,その際に生じる股関節内外転運動や可動域制限を捉えることで,筋張力が優位に高い股関節屈筋を推定する評価方法である。この推定は各股関節屈筋が有する,解剖学的肢位での股関節屈曲以外の運動作用を基に行われる。しかし股関節伸展位では股関節内外転運動などで,どの股関節屈筋の筋張力が優位に増加するかは明確でないため,MTTの評価結果に科学的な裏付けがあるとは言い難い。そこで股関節伸展位での股関節運動時に筋張力が増加する股関節屈筋を明示し,MTTの解釈についてのエビデンスを得ることを目的として本研究を行った。【方法】対象は健常成人男性12名(23.8±2.7歳)であった。測定肢位は膝関節より遠位をベッドから垂らした背臥位で,骨盤を非弾性ベルトでベッドに固定した。腰椎の前弯が消失するまで非利き足の股関節を屈曲させ,その位置で被験者に両手で大腿部を保持させた。利き足を股関節伸展10°,外転0°,外旋0°,膝屈曲90°の肢位(基準条件)で検者が保持した。利き足股関節角度を基準条件から他動的に動かした外転条件(外転20°),内転条件(内転15°),外旋条件(外旋15°),内旋条件(内旋15°),伸展条件(伸展25°)の5条件と基準条件の計6条件で筋張力を測定した。測定筋は腸骨筋(IL),大腿直筋(RF),縫工筋(SA),大腿筋膜張筋(TFL),長内転筋(AL),中殿筋前部線維(GM)とした。筋へのストレッチ効果を除外するために,条件間に1時間以上休憩し,筋の測定順と測定条件順は無作為に決定した。硬さの指標である筋弾性率により筋張力を推定可能なせん断波エラストグラフィー機能(Super Sonic Imagine社製)を用いて各筋の筋張力を評価した。本研究では伸張による筋張力増加を評価した。そのため各条件で筋張力の増加した筋はMTT時に,測定条件と逆の運動方向に影響することを示す。統計解析は反復測定分散分析後,計画的検定として基準条件と他条件間でWilcoxonの符号付順位検定を用いて筋弾性率を比較した。有意水準は5%とし,計画的検定では筋毎にHolm法で補正した有意水準を用いた。【結果】一元配置分散分析の結果,全筋で条件間に有意差を認めた。ILでは基準条件(23.9:kPa)に比べ外転条件(41.6),外旋条件(35.8),伸展条件(43.0)で,TFLでは基準条件(18.7)に比べ内転条件(43.2)で,RFでは基準条件(30.1)に比べ内転条件(36.7),伸展条件(37.3)で,ALでは基準条件(12.7)に比べ外転条件(20.2)で筋弾性率が有意に高かった。【結論】本研究結果から,MTTでの伸展制限はIL,RFの,外転運動・内転制限はRF,TFLの,内転運動・外転制限はIL,ALの,内旋運動・外旋制限はILの筋緊張亢進または短縮を示す所見であることが示された。本結果は健常成人を対象とした研究ではあるが,MTTの解釈に有用な知見である。
著者
甲斐 哲也
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.369-379, 2017-05-15 (Released:2017-06-17)
参考文献数
10
被引用文献数
1

麻酔科医にとって手術室の管理は仕事の一部であり,麻酔科医は手術室の環境整備に関する知識を備えておく必要がある.CDCの手術部位感染防止ガイドライン1999は,当時のエビデンスに基づいた勧告であり,十数年経った今もわれわれ手術に関わる者の拠り所である.本ガイドラインを基にしながら,手術室の空調と清掃・滅菌など手術室環境の整備に関して,現在の日本のガイドラインを交えて概説する.
著者
苅谷 康太
出版者
日本アフリカ学会
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.89, pp.1-13, 2016-05-31 (Released:2017-05-31)
参考文献数
37

19世紀初頭,現在のナイジェリア北部一帯に相当するハウサランドにおいて大規模な軍事ジハードが開始された。このジハードは,数年のうちに次々と同地のハウサ諸王権を圧倒し,一般にソコト・カリフ国と呼ばれる,イスラームを統治の基盤に据えた国家の建設を実現した。ジハードと国家建設の中心にいたイスラーム知識人ウスマーン・ブン・フーディー(1817年歿)は,複数の著作の中で,ハウサランドもしくはスーダーンに住む人々を信仰の様態に基づいて分類し,更に,その分類において不信仰者と見做した人々の捕虜・奴隷化に関する規定を論じている。本稿では,国家の基盤建設期にあたる1808年以降のウスマーンが,ウラマーの多くが認めていない法学的見解に依拠することを容認する「寛容の思想」を導入し,上述の信仰の様態に基づく人間の分類を操作することによって,捕虜・奴隷化し得る不信仰者の範疇を如何に拡大したのかを明らかにし,更に,その背景に如何なる理由が存在したのかを考察する。
著者
神谷 光信
出版者
関東学院大学キリスト教と文化研究所
雑誌
キリスト教と文化 : 関東学院大学キリスト教と文化研究所所報 (ISSN:13481878)
巻号頁・発行日
no.17, pp.5-18,

文芸評論家のフランス文学者村松剛は、ホロコーストへの関心から『サンデー毎日』臨時特派員としてエルサレムでアイヒマン裁判(1961)を傍聴した。以後、イスラエル政府との結び付きを強め、1970 年代以降はイスラエル政府首脳に単独会見を行うなど、親イスラエルの論客となった。彼の中東理解はシオニズム史観に基づいたイスラエル政府の立場からするもので、イスラム学者板垣雄三やジャーナリスト藤村信とは対照的だった。昭和後期から平成初期に活動した右派知識人村松の具体像を検証する作業として、本稿ではイスラエルとの関わりという視点から彼の政治思想を考察した。
著者
好満 あき子 ヨシミツ アキコ
出版者
広島文化学園大学学芸学部
雑誌
広島文化学園大学学芸学部紀要 (ISSN:21858837)
巻号頁・発行日
no.2, pp.51-59, 2012-03

The aim of this issue is to investigate the level of satisfaction to the contents of classic concertfrom audience's music experience at my invited piano concert place in Italy. Presently, a varietyof concert style is servicing for audience, such as classic concert with talking, with subtitle, orconcert of famous piece of music and those concerts open the road of the door into funny classicmusic. However, I think how these audiences feel to those streams. From the results of thisquestionnaire, those audiences do not expect the additional performance in order to improved theusual classic concert to make active live. Additionally, most important interest of contents forclassic concert is different among beginner, general people, and persons having deep linkage tomusic.As the results, classic music concert must be planned to be satisfied by audience having variousmusic experience, respectively.