著者
三好 昭子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.98-107, 2008-08-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
1

Erikson (1968/1998)はアイデンティティ拡散の諸相のひとつとして「否定的アイデンティティ」(negative identity)を挙げ,全体主義的に否定的アイデンティティを選択するにいたる誘因として1.アイデンティティの危機,2.エディプス的な危機,3.信頼の危機を指摘している。本研究では否定的アイデンティティを選択した一つの典型例として作家谷崎潤一郎を取り上げ,全体主義的に否定的アイデンティティを選択する心理力動・メカニズムについて伝記資料を用いて示した。谷崎は青年期に至り創作家を志したものの,依然として何物にもなれないという葛藤状況が続いた。1.自らが選んだものに忠誠を尽くすにあたり感じる罪悪感,2.エディプス的な潜在的罪悪感,3.自身の存在にかかわるような罪悪感というように,当時の谷崎には全体主義への変化の誘因が存在しており,それらの罪悪感を否認しつつ主導性を発揮するために,谷崎は全体主義的に否定的アイデンティティを選択したと解釈することができる。また否定的アイデンティティという概念を導入することにより,谷崎の青年期における作家活動および私生活を一貫した内的世界として把握することができ,不良少年の文学・悪魔主義と評される作品を生み出しつつ放浪生活に身を投じ親不孝を繰り返した谷崎の行動,態度,感情をより深く理解することができたと考えられる。
著者
堀井 美那 川田 智弘 半田 真明
出版者
栃木県畜産試験場
雑誌
栃木県畜産試験場研究報告 (ISSN:02889536)
巻号頁・発行日
no.22, pp.41-46, 2007-02

肉牛肥育農家における経営の安定化を図るためには、肥育期間を短縮したうえで、高品質かつ枝肉重量に富む市場ニーズに即した牛肉を生産する技術開発が必要である。特に、育成期や肥育前期の飼料給与内容が肥育成績全体に影響を与えることから、この時期における飼料給与技術の検討が望まれている。そこで、本研究においては、黒毛和種去勢牛の肥育期間短縮時における粗飼料給与水準に着目し、肥育前期に乾草を多給することによる高品質牛肉の効率的生産技術について検討した。生後8ヵ月齢の黒毛和種去勢牛を、肥育前期(月齢8ヵ月-12ヵ月)、中期(月齢13ヵ月-22ヵ月)、後期(月齢23ヵ月-27ヵ月)の3つの時期に分けて19ヵ月間肥育した。試験は肥育前期の粗飼料給与水準として、粗飼料多給区(粗飼料割合40%)と粗飼料少給区(粗飼料割合15%)の2試験区を設定した。なお、粗飼料としてチモシー乾草を用いた。肥育中期以降は、粗飼料として稲ワラを用い、2試験区とも同じ給与飼料とした。試験の結果、現物飼料摂取量において肥育前期では、有意な差は認められなかった。しかし、中期では、粗飼料多給区が9.59±0.78kg、粗飼料少給区が8.32±0.52kg、後期ではそれぞれ9.90±0.42kg、8.27±0.77kgであった。なお、中期以降では粗飼料多給区において、有意に摂取量が多かった(P<0.01)。全期間を通して、体重、体高、胸囲について、両区に有意差は認められなかった。また、1日当たり増体量(CG)は、前期で粗飼料多給区1.02±0.08kg、粗飼料少給区1.26±0.12kgであり、粗飼料少給区において有意に発育が優れていた(P<0.01)。しかし、肥育中期では粗飼料多給区0.86±0.11kg、粗飼料少給区0.78±0.06kg、後期では粗飼料多給区0.81±0.11kg、粗飼料少給区0.56±0.14kgであり、肥育中期以降では、粗飼料多給区での増体が優れていた。枝肉成績は、粗飼料多給区のほうが、枝肉重量やロース芯面積が大きい傾向に、BMSNo.も高い傾向にあった。以上のことから、肥育前期において粗飼料(チモシー)を多給した場合、しない場合と比べて肥育中期以降での飼料摂取量や増体、枝肉成績に優れるため、粗飼料多給は、短期肥育における高品質牛肉生産に有効であると考えられた。
著者
工藤 寿郎
出版者
鹿児島大學農學部
雑誌
鹿児島大学農学部学術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
no.41, pp.p113-118, 1991-03

イタリアにおける水稲の栽培は15世紀の後半にはじまり, 以来米の需要増加にともなって栽培面積が年々拡大してきたが, その94%がポー河の中流域に集中している.その理由は古くから本地域内で農業灌漑用の運河や水路が数多く造られ, セシア河東西両水利組合がこれらを統轄管理して, 豊富な用水を安定供給できる体制が確立されているからである.従来, 農家は労働配分と通水の時期などの関係から, 水稲栽培面積の40%を移植, 60%を直播によっていたが, 1960年代地域内のミラノとトリノにおける商工業の著しい発達にともなって大量の農業労働力がこれらに流出したため, 農家は田植や稲刈作業に雇入れていた農業労働者を確保することができなくなり, 省力な直播様式に全面的に移行した訳である.湛水直播による水稲の栽培様式は, トラクター・ブロードキャスター・コンバインという大型機械体系を中核としていることが明らかとなった.これにもとづく主要な栽培作業は, 4月上, 中旬に大型トラクター・4連プラウで20〜25cmの深さに耕起, ブロードキャスターで施肥, ロータベーターで砕土均平, 湛水して中型トラクター・レーベラーで代かき, ブロードキャスターで除草剤散布, 1晩水に浸した種籾を下旬にブロードキャスターで散播, 病虫害防除のための薬剤散布と追肥は通常おこなわない, 9月上旬落水, 9月中旬から10月上旬にコンバインで刈取り, テンパリング乾燥機にかけて籾の水分を13%に引下げ貯蔵するものである.トラクターの大型化, ブロードキャスターとコンパインの普及によって, ha当り稲作所要労働時間が1960年の移植742時間から1980年の直播50時間に, また1988年の35時間に大きく減少された.しかし, 1972年までの過渡期にあっては, 直播専用品種の開発や新しい栽培方法の普及が遅れていたため収量が10%程度低下し, その変動が大きくなっていた.その後次第に機械化に対応した技術が基盤整備の推進と相まって普及し, 収量が6.00t水準に上昇安定して直播栽培様式が定着した.この間に機械の導入をめぐって稲作農家間で激しい階層分化が起こり, 20ha以下の小規模農家の大半が離農した結果, 農家戸数は半減して1988年に7,761戸となり, 1戸当り栽培規模は25.66haに拡大した.そして, 残る小規模兼業農家は収穫作業をコンバインの賃作業に依存しているのである.本地域は相対的に地価が高く, 農地の売買は極めて少ないので, 規模拡大は通常賃貸借によっている.ミラノ近郊のロザーテでは普通小作期間は10年, 小作料はha当り225千リラと比較的安い.最近は短粒種よりも中, 長粒種の方が需要が大きく, 価格も高いので, 農家はこれに即応して後者の栽培面積を拡げている.この結果, 1986年〜88年には年1,113千tの米生産量のうち, 短粒種の比重は15%に縮小した.そして, この20年間に米の輸出量が約2倍に増え, そのうち56%をヨーロッパ経済共同体向けに出荷しているが, これらはすべて中, 長粒種である.米の最低保証価格は100kg当り52,847リラであるが, 時期により市場相場が変動するので, 上昇時に大規模農家は米を籾すり加工業者に販売しようとする.業者は米穀協会を通して玄米で輸出し, また国内では精白米で市販している.イタリア国内における米の消費量は年約400千tで, 国民1人当り6kgといわれるが, 稲作農家では1人13kg程度と見込まれる.したがって, 生産米のほとんど大部分は商品として販売されており, 自家用飯米を生産目標とするものではない.それゆえ, 米に対する生産意欲が極めて旺盛で, これが直播栽培様式の定着化を早めたということができる.
著者
牛山 実保子 加藤 実 坂田 和佳子 山田 幸樹
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.318-322, 2020-10-25 (Released:2020-10-28)
参考文献数
8

30歳代女性,主婦.10年間持続する右胸痛を主訴に,集学的多職種診察を行っている当院緩和ケア・痛みセンター内痛みセンター外来に紹介された.生活・家族背景などについて看護師診察の丁寧な聴取で,完璧主義で真面目な性格,母や夫に見捨てられないよう気を使っていること,40カ所の医療機関で見出せなかったトラウマ体験が明らかになり,かつ痛みで自分は死ぬというとらわれにつながっていたことが判明した.看護師は母とも面談を行い,学童期の通学中に同級生の死体遭遇体験,数々の傷つき体験,不安・恐怖感が強く周囲を気にかけての生育歴が判明した.身体的要因とトラウマ体験に伴う強い不安と恐怖感の情動要因の両者に対応した結果,初診から2カ月後に弱オピオイドの減量,痛みの軽減と日常生活の改善が得られた.身体的要因のみに焦点を当てた痛み治療で改善しない症例において,集学的多職種診察チームの看護師診察による本人や家族への介入で,本人の強い不安と関連する重要なトラウマ体験が明らかになり,独特な認知行動特性への多職種の対応が可能となり,集学的診療の効率をあげ有用であった.
著者
エストラーダベラスコ ベアトリス ルイスロサノ ファン マニュエル バレア ホセ ミゲル
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.37, 2009

Increased salinization of arable land is anticipated to raise devastating global effects in the coming years. Mediterranean countries already have both arable land salinization and desertification problems. Arbuscular mycorrhizal (AM) fungi have been shown to improve plant tolerance to abiotic environmental factors such as salinity. The AM fungi <I>Glomus coronatum</I>, which is a reperesentative species in salinity environments, and isolated from sand dunes in the Natural Park of Cabo de Gata (SE Spain) was used in our study. Two other AM fungi isolated from non-salinized environments; <I>G. intraradices</I> and <I>G. mosseae</I> were also used in the experiment. <I>Asteriscus maritimus</I> (L.), a member of the Asteracea family, was selected to carry out the greenhouse experiment to be native of lands surrounding the Mediterranean Sea, especially Spain. In this study, <I>A. maritimus</I> plants were grown in sand and soil mixture with two NaCl levels (0 and 50 mM) during 10 weeks of non-saline pre-treatment, following 2 weeks of saline treatment. Results showed that inoculated plants grew more than nonmycorrhizal plants. Unexpectedly <I>G. intraradices</I> was the most efficient AM fungi in terms of fresh weight, dry weight and Qyield although plants inoculated with <I>G. coronatum</I> showed better stomatic conductance. Plants inoculated with <I>G. mosseae</I> showed a intermediate pattern between the other two AM fungi. Based on these results, the AM fungi inoculation helps the growth of <I>A. maritimus</I> in saline conditions and <I>G. intraradices</I> appears to be the most efficient of the three AM fungi studied. This study may be useful in revegetation and regeneration projects by selecting adequate species of AM fungi.

1 0 0 0 OA 坐禅和讃講話

著者
宗演 著
出版者
光融館
巻号頁・発行日
1912
著者
新井 通郎 アライ ミチオ Michio ARAI
雑誌
二松 : 大学院紀要
巻号頁・発行日
vol.20, pp.D1-139, 2006-03-31
著者
松岡 是伸 Yoshinobu MATSUOKA
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 = Bulletin of Nayoro City University (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.97-108, 2017-03

本稿の目的は、ある地方自治体で実施されている福祉的貨幣貸付制度に着目し、援助者の観点から利用者の生活状況と利用実態を明らかにしていくことである。そのうえで利用者の生活困窮の複合しやすさや生活の不安定さをつまびらかにしていく。そのため貸付業務の担当職員で相談援助歴が5年以上の4名を対象にインタビュー調査を行った。その結果を修正版グランデッド・セオリーで分析し、主に利用者の生活状況や生活困窮の複合状況、生活の自転車操業的状況、貸付制度の利用と返済過程、申請・利用に伴う諸問題を示した。そこで第1に、生活困窮の複合のしやすさは、利用者の生活能力の困難さや環境的制約によってもたらされていること、第2に、制度利用によって利用者の生活が自転車操業的になり「不安定の中の安定」という状況を招いていたことが明らかとなった。またスティグマが制度を利用しようとする人々のアクセシビリティを阻害していることが示唆された。
著者
御子柴克彦 野田昌晴編
出版者
丸善
巻号頁・発行日
1989