著者
土谷 信高
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.161-182, 2008-05-25 (Released:2017-05-16)
被引用文献数
5

花崗岩質大陸地殻の形成機構を明らかにすることは,地球の進化過程の解明に通じる重要な研究課題である.大陸地殻の形成機構の解明の鍵を握る重要な岩石であるアダカイトについて,これまでの研究の現状をレビューした.その上で,北上山地のアダカイト類の岩石化学的多様性の原因を検討した結果,スラブメルトとマントルおよび下部地殻との反応の程度の差が主要な役割を果たしており,スラブウィンドウ由来の肥沃なマントル物質の関与も影響していることが明かとなった.すなわち,ほぼ初生的なスラブメルト,スラブメルトが主として下部地殻の角閃岩と反応したもの,スラブメルトとマントルかんらん岩とが軽度に反応したもの,スラブメルトとマントルかんらん岩とが平衡に近くなるまで反応したもの,スラブメルトに汚染されたマントルかんらん岩の部分溶融によって形成されたものを区別することができた.北上山地のアダカイト類の岩石化学的多様性は,スラブメルトの発生から上昇・定置にいたる現象の解明に重要な位置を占めると考えられる.
著者
森 大輔
出版者
熊本大学法学会
雑誌
熊本法学 = Kumamoto law review (ISSN:04528204)
巻号頁・発行日
no.148, pp.344-416, 2020-03-26

本稿では,松村・竹内(1990),秋葉(1993),Merriman(1988)という,日本の死刑の抑止効果に関する3つの先行研究の計量分析について,公的統計のデータを再収集して,各研究の計量分析を再現するという方法で再検討を行った。その結果,松村・竹内(1990)の研究では死刑に関する変数は殺人発生率に統計的に有意な効果を持たないという結果となり,秋葉(1993)やMerriman(1988)の研究では統計的に有意な効果を持つという結果となったのは,前者が死刑言渡し率,後者が死刑執行率と,両者が用いていた死刑に関する変数が異なるからである可能性が高いことがわかった。また,これらの研究には,系列相関,多重共線性,説明変数の内生性,単位根の存在といった共通する分析手法上の問題点が存在する。さらに,時系列データの接続性の問題や変数の選択の問題も存在する。再現という作業は,時に重要な点や既存の研究の問題点の発見などにつながるものにもなりうる。
著者
持田 茂
出版者
一般社団法人 日本粘土学会
雑誌
粘土科学 (ISSN:04706455)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2-3, pp.65-68, 1961-08-01 (Released:2011-09-20)
参考文献数
2
著者
盛永 審一郎 加藤 尚武 秋葉 悦子 浅見 昇吾 甲斐 克則 香川 知晶 忽那 敬三 久保田 顕二 蔵田 伸雄 小出 泰士 児玉 聡 小林 真紀 品川 哲彦 本田 まり 松田 純 飯田 亘之 水野 俊誠
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-11-18

終末期の意思決定に関する法制度・ガイドライン等を批判的に検討した結果、以下のことが明らかとなった。①医師ー患者関係に信頼性があり、透明性が担保されていれば、すべり坂の仮説はおこらないこと、②緩和ケアと安楽死は、相互に排他的なものではなくて、よき生の終結ケアの不可欠の要素であること、③それにもかかわらず、「すべり坂の仮説」を完全に払拭しえないのは、通常の医療である治療の差し控えや中止、緩和医療を施行するとき、患者の同意を医師が必ずしもとらないことにあること。したがって、通常の治療を含むすべての終末期ケアを透明にする仕組みの構築こそが『死の質の良さを』を保証する最上の道であると、我々は結論した。
著者
榧木 亨
出版者
関西大学大学院東アジア文化研究科
雑誌
東アジア文化交渉研究 = Journal of East Asian cultural interaction studies (ISSN:18827748)
巻号頁・発行日
no.7, pp.339-353, 2014-03

Suzuki Ranen's "Ritsuryo Shinsho Benkai (律呂新書辨解)" was a book by focusing on 'ancient style (古義)', and tried to correct problems of "Ritsuryo Shinsho (律呂新書)". The study of "Ritsuryo Shinsho" in Japan was started Nakamura Tekisai, a Neo-Confucianist in early Edo Period. These studies were carried out around Neo-Confucianism,however,Suzuki Ranen was not a Neo-Confucianist,but a Confucian doctor. Thus his study of "Ritsuryo Shinsho" was different from Nakamura Tekisai. This paper focuses on Suzuki Ranen and his disciples, and explain how to form "Ritsuryo Shinsho Benkai". Furthermore, throught he analysis of this book, reveal the difference from Nakamura Tekisai.文部科学省グローバルCOEプログラム 関西大学文化交渉学教育研究拠点東アジアの思想と構造
著者
柴山雅俊
雑誌
精神科治療学
巻号頁・発行日
vol.27, pp.611-616, 2012
被引用文献数
1
著者
辻(川瀬) 千春 TSUJI (KAWASE) Chiharu
出版者
名古屋大学博物館
雑誌
名古屋大学博物館報告 (ISSN:13468286)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.37-55, 2015-03-31

日韓両国の空白の美術史である植民地期朝鮮における創作版画の展開についての研究の端緒として,唯一の創作版画専門の美術団体である「朝鮮創作版画会」について,1929 年末の結成前夜から,朝鮮美展における版画の出品受理以降の1933 年までの5 年間の活動を中心に報告した.I reported about the ‘Chosen Sosaku Hanga Kai’, which was the art group that specialized in the Sosaku Hanga (modern wood block prints) in Korea under Japanese colonial rule; mainly on the 5 years activity from the end of 1929 (just before the organization was formed) until 1933, after ‘The Chosen Art Exhibition’ accepted the Sosaku Hanga. This report is only to serve as the beginning of a study of the development of the Sosaku Hanga in Korea during the period of Japanese colonization, that covers a gap in the art history of both Japan and Korea.
著者
松下 綾
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.107-118, 2019-05-24 (Released:2019-06-05)
参考文献数
19

少子高齢化が進み,医療需要の増大やそれに伴う医師不足が顕著化する我が国では,多職種が協働する医療で地域医療を支えることが求められている。最近では,個々の医療従事者の業務負担を最適化しつつ,医療の質を確保する方法の一つとして,これまでのチーム医療を発展させる形でタスクシフティング(業務の移管)/タスクシェアリング(業務の共同化)を有効活用すべきという考え方が広まってきている。このような状況の中,地域の薬剤師は住民から症状を聞き適切な対応を提案できること,処方箋に基づく調剤をした際に,必要に応じて患者の体調変化などの情報を収集し,医師に情報提供することなどで,地域包括ケアに加わることが新たな役割の一つとして求められている。これを実現するには地域の住民から症状を訴えられた時に病歴情報を収集するスキルが薬剤師にも必要と考えられるが,薬剤師にはこのスキルが不足していると指摘されている。そこで我々は,薬剤師向けの臨床推論,行動変容,コミュニケーション技法などの教育プログラムの開発と検証を行った。また,薬剤師が現場で患者から病歴聴取情報を収集することを支援するために,医師と薬剤師の協働の下,病歴情報の収集を補助するツールの開発を行った。これらを通して,地域包括ケアにおいて,医薬品に限らず健康問題全般のサポート機能を発揮できる「かかりつけ薬剤師」の養成に取り組んでいる。今後も医療需要は増大すると見込まれており,このような状況の中で地域医療を維持していくには従来の医薬の職域を超えた連携業務を担うことができる「かかりつけ薬剤師」が必須であると考えている。