著者
鶴田 武志
出版者
名古屋短期大学
雑誌
名古屋短期大学研究紀要 = Bulletin of Nagoya College (ISSN:0286777X)
巻号頁・発行日
no.56, pp.225-243, 2018-03-16

松竹映画「彩り河」(1984)は、霧プロが製作した最後の映画である。前年に公開された「迷走地図」(1983)におて、霧プロの双璧である原作者、松本清張と松竹側の筆頭、野村芳太郎との間に決定的亀裂が起こったこともあり、「彩り河」はその煽りを受けた失敗作とされてきた。しかし、ここには1980年代の松本清張の作風の変化と松竹映画との相性の悪さなど、小説を商業映画にしていくプロセスにおける構造的欠陥が「彩り河」自体で顕在化してきたからに他ならない。本論では、その観点から今までなされてこなかった原作「彩り河」の表現構造分析、映画製作の過程を検証することで、作品がメディアを越境する際に起きる諸相、清張自身の自作映像化への目論見などを炙り出す。
著者
笠谷 和比古
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.35-47, 2000-10-31

本論文では豊臣秀吉没後の慶長四(一五九九)年閏三月に発生した加藤清正ら豊臣七武将による石田三成襲撃事件の顛末を取り上げ、ことに同事件を事実関係の究明の観点から検討する。関ヶ原合戦の端緒をなすこの著名な事件の経緯をめぐっては、豊臣武将たちの襲撃計画を事前に察知した石田三成は大阪から伏見に逃れ、そして伏見にある徳川家康の屋敷に入ってその保護を求め、家康もまたこれを受け入れて豊臣武将たちによる三成の身柄引き渡し要求を拒絶し、三成を近江佐和山の領址に逼塞させることで問題を解決に導いたという認識が示されてきた。これはただにドラマ・時代劇の筋立てだけであるのみならず、権威ある多くの歴史研究の論著においてもそのようなものとして論述されてきた。しかしながらこれは事実誤認であり、伏見に逃れ来った三成が身を守るために入ったのは家康の屋敷ではなく、伏見城の中にある彼自身の屋敷であった。関ヶ原合戦に関する多くの研究論著において繰り返し論述され、われわれにとって常識ともなっているこの事件が、事実関係という最も根本的なところで何故にこのような誤認が生じていたのか。また数多くの歴史研究者がこの問題に言及しながら何故にこのような基礎的な誤認に気がつかなかったのであろうか。本論文はこの事件の事実関係を解明するとともに、われわれの認識を束縛し、誤認に導いていく危険を常に孕んでいるところの歴史認識のメカニズムについて分析を施していく。
著者
掘越 紀香
出版者
白梅学園大学
巻号頁・発行日
2017-03-15

2016年度
著者
木下 修一
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.15-21, 2009-01-15

多様な昆虫の世界で色情報がどのように生成され,利用されているか概説する.ここでは特に,微細構造が関係した発色現象に着目した.微細構造が生み出す「構造色」の例として,タマムシ,コガネムシ,モルフォチョウなどの多層膜構造,マエモンジャコウアゲハなどのフォトニック結晶,さらに,イトトンボに見られる乱雑な構造がつくる色について詳述する.また,色素による発色も単に色素だけではなく,ミクロな構造が深く関係していることをモンシロチョウの白,キチョウの黄色,アゲハチョウの黒などの例をあげて説明する.これらの色情報は,メスやオスに対するアピールであったり,捕食者に対する警戒や隠ぺいなどさまざまに利用されている.
著者
大塚 みさ
出版者
実践女子大学
雑誌
実践女子大学短期大学部紀要 = The Bulletin of Jissen Women's Junior College (ISSN:21896364)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.87-96, 2018-03-09

近年、大学生の日本語力の低下が指摘されている。日本語力を支える語彙力の養成が必須であることは言うまでもないが、自在に使いこなせる使用語彙をいかに増強するかが課題である。一方で国語辞書離れも進んでいるが、スマートフォンを介したオンライン辞書の可能性に期待することはできないだろうか。本稿では学生たちの意味の分からない語への対処と辞書情報の活用について実態調査を行い、その可能性を探る。
著者
藤谷 厚生
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要
巻号頁・発行日
no.64, pp.一-十五, 2017-09-25

『真言修行大要鈔』は浄厳律師が、元禄三年(一六九〇)七月に真言密教での修行の要諦を述べ著した典籍である。浄厳律師(一六三九〜一七〇二)は、字を覚彦と言い、妙極堂、瑞雲道人と号した江戸初期の真言律の僧である。律師は、河内国錦部郡鬼住村の上田道雲の子として生まれ、幼少から高野山に登り顕密を修学し、後に密教の諸流を研鑽統合して新安祥寺流を創草するなど、特に密教事相の面で多大な功績を残している。延宝五年(一六七七)には故郷河内の実家を改めて延命寺を創建し、さらに江戸に赴き元禄四年(一六九一)には柳沢保明の推挙により、幕府の助力により江戸湯島に霊雲寺を開創し、これを如法真言律の道場として多くの僧俗に授戒するなど、戒律の普及と真言密教の復興に尽力したのであった。 本稿では、江戸初期の仏教復興の流れの中で、如法真言律を唱え、関東を中心に真言宗と戒律の布教を行った浄厳律師の著述についての一研究ノートである。特にテキストである『真言修行大要鈔』を読み解くことにより、律師が主張する真言宗の修行の特徴、阿字観や本不生についての論説をここに明確にしようとするものである。以下に『真言修行大要鈔』(文献資料)を翻刻して、各節ごとに語注を付し、解説ノートを加えて要旨を述べる。"
著者
野村 正人 新長 琢磨 佐々木 大五朗 根岸 忠志 西川 直樹
出版者
近畿大学工学部
雑誌
近畿大学工学部研究報告 = Research reports of the Faculty of Engineering, Kindai University (ISSN:2434592X)
巻号頁・発行日
no.54, pp.13-16, 2021-02-20

[Abstract]In this study examines deodorizing effects of acid electrolyzed water and alkaline electrolyzed water on 12 types of odor components which commonty exist in the living environment. To obtain acid electrolyzed water and alkaline electrolyzed, saline solution and hydrochloric acid were used as electrolytes. The results indicated that purified water, acid electrolyzed water, and alkaline electrolyzed water have high deodorising effects on carboxylic acid group odor components. While, only acid electrolyzed water exhibited a significant deodorizing effect (over 90%) on ally mercaptan and ally methylsulfide.
著者
若林 広志 伊藤 毅志
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2019論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.60-65, 2019-11-01

本研究では,人間よりも十分に強い囲碁 AI を学習に役立てる方法として,囲碁初心者の着手を褒めることに着目する.囲碁指導者の資格を持つ指導者の協力のもとに行った調査により,どのような点に着目し,どのような褒め方をどの程度の頻度で行っているのかを調べ,それを反映したプロトタイプシステムを提案した.それを用いた評価実験では,このシステムによる明確な動機づけの向上が確認されなかった.その理由として,褒め方が単調であった点や初心者のプレイヤーは着手や盤面の良し悪しを理解することが難しいため,達成したことがうまく伝わらなか った可能性が示唆された.そのため,改良する提案システムでは,改良されたことを具体的な数値や図示しながら褒めることでプレイヤーが達成したことをわかりやすく伝え,自己効力感を向上させることにした.今後は,提案システムを用いた評価実験を行い,その有効性を示していく.
著者
小山 尚之
出版者
東京海洋大学
雑誌
東京海洋大学研究報告 = Journal of the Tokyo University of Marine Science and Technology (ISSN:21890951)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.76-104, 2018-02-28

本稿は二〇一四年四月二日と三日にガリマール社内のソレルスのオフィスにおいて行われたフィリップ・ソレルスとディディエ・モランとの対談を翻訳したものである。彼らはソレルスの生まれたボルドーおよびジロンド地方のことや、ソレルスが出演している映像作品について語っている。ソレルスによれば、ジロンド地方とジロンド派は革命期の国民国家成立の過程で抑圧されたものである。なぜソレルスが親ジロンド派的であり、現在のフランスという国民国家にも批判的であるのかといえば、ジロンド地方の歴史的・政治的な背景があるからだと思われる。また彼は、J.-D.ポレ、J.-P.ファルジエ、L.ラリネック、G.K.ガラボフ、S.チャンなどとともに、いくつかの映像作品を制作している。ソレルスにとって映像の中で重要なのは、声と、テクスト、音楽、場の選択である。歴史的な背景を持つ場での口頭のパフォーマンスを映像に撮ることにより、彼は、テクスト、声の肉体性、そして歴史の肉体性を取り戻そうと試みているように思われる。This article is a translation into Japanese of the dialogue between Philippe Sollers and Didier Morin, which took place at Sollers’ office in Gallimard on the 2th and 3th April 2014. Their discussion concerns Bordeau where Sollers was born, the girondin region and films in which Sollers appeared. According to Sollers, the girondin region and Girondists have been oppressed during French Revolution by forming French Nation-State. The reason why Sollers seems to be a Girondist and critical of French Nation-State might lie in the historical and political background of the girondin region. He also makes several films with J.-D. Pollet, J.-P. Fargier, L. L’Allinec, G.K. Galabov and S. Zhang. For Sollers, the important things in films are voice, text, music and choice of place. By filming oral performances in the place having its historical past, he seems to try to refind the body of the voice and of the history.
著者
阿部 和広
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.349-353, 2016-03-15

大学と小学校の授業のそれぞれでプログラミング学習を行った結果を比較し,一般に小学生の方が大学生より柔軟性や創造性に富んでいることを示す.この差異は学習の目的が外発的か内発的であるかによって生じていると考え,遊びと学びが融合したプログラミングにより自発的な学習が生じている小学校の事例を紹介する.一方,近年注目されているパズル型プログラミング課題が,必ずしも創造的な問題の解決につながらない可能性を検討し,目的を達成するための最適化が,これから求められる人材の育成に与える影響について考察する.