著者
樋口 雄彦
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.126, pp.3-31, 2006-01-31

近代化を目指し幕府によって進められた軍制改革は維新により頓挫するが、ある部分については後身である静岡藩に継承された。士官教育のための学校設立という課題が、沼津兵学校として静岡藩で結実したのは、まさに幕府軍制改革の延長上に生まれた成果であった。その一方、軍制のみならず家臣団そのものの大規模な再編を伴った新藩の誕生は、幕府が最後まで解決できなかった大きな矛盾である寄合・小普請という無役の旗本・御家人の整理を前提になされなければならなかった。静岡藩の当初の目論見は、家臣数を五〇〇〇人程度にスリム化し、なおかつ兵士は土着・自活させるというものであった。しかし、必要な人材だけを精選し家臣として残すという、新藩にとってのみ都合のよい改革は不可能であった。実際には無禄覚悟の移住希望者が多く、家臣数を抑えることはできなかった。移住者全員に最低限の扶持米を支給することとし、勤番組という名の新たな無役者集団が編成されたのである。静岡藩の勤番組は幕府時代の寄合・小普請とほぼ同じものと見なすこともできる。しかし、すでに幕末段階において寄合・小普請制度には数次にわたり改革の手が加えられ、変化が生じていた。本稿では、主として一人の旗本が残した史料によったため、彼の履歴に沿って具体的に言えば、小普請支配組→軍艦奉行支配組→海軍奉行並支配組→留守居支配組→御用人支配組といった流れになる。もちろん、彼とは違う小普請のその後のコースには、講武所奉行支配組、陸軍奉行並支配組などがあった。静岡藩勤番組はこのような過程の果てに誕生したのである。小普請改編は、文久期の陸海軍創設から幕府瓦解前までは、軍備拡張の一環として推進された。そのねらいは、無役・非勤者を再教育・再訓練し、その中からできるだけ実戦に役立つ人材を確保しようというものであった。鳥羽・伏見敗戦後から駿河移住までの間は、軍事目的というよりも徳川家の再生に向けた取り組みの一環であった。従来からの小普請に加え、廃止された役職からの膨大な転入者の受け皿になったほか、逆に朝臣になる者や帰農・帰商を希望する者を切り離すための作業もこの部署が行った。このような系譜の上にできあがった静岡藩の勤番組は、決してかつての寄合・小普請制度ではなかった。勤番組には旧高三〇〇〇石以上の一等、御目見以上の二等、以下の三等といった等級が設けられ、支給される扶持米も旧高に対応し多寡が決定されていたが、上に大きく下に小さく削られた結果、全体としては低レベルで平準化されていた。藩の官僚制度は役職とそれに対応した俸金にもとづく序列が基本となっており、幕府時代の身分・格式はほぼ解消された形になっていた。負の遺産たる無役家臣集団は、静岡藩でも温存されたが、在勤(役職者)と非勤(無役者)という二分は、幕府時代に比べるとより流動性の高いものとなっていたはずである。能力さえあれば職務に就くことができる可能性を文武の学校(静岡学問所・沼津兵学校)への進学が保証したからである。勤番組という処遇は、原理上、越えられない壁ではなくなっていた。ただし、藩が存続したわずかな期間ではそれを実証することはできなかったが。
著者
水野 柳太郎
出版者
奈良大学史学会
雑誌
奈良史学 (ISSN:02894874)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-26, 1991-12

『日本霊異記』上巻第五話「信敬三寳得現報縁」には、はじめに、 大花位大部屋栖野古連公者、紀伊國名草郡宇治大伴連 等先祖也。天年澄情、重尊三寳。案本記日。①とあって、これ以下は「本記」に依って「大部屋栖野古」と聖徳太子に関する説話を記している。この「本記」は、八世紀中ごろ以降に、屋栖野古の功績を述べ、紀伊国名草郡の宇治大伴連が改姓を願い、あるいは郡司の譜第の承認求めたときの上申文書であろう。「大部屋栖野古連公」を、大伴氏の中心人物であるとする見解がまま見受けられるが、説話の内容を過信した誤解であって、紀伊の国大伴連に関する説話であることはいうまでもない。「本記」に見える日付にはおよそ三種類があって、『日本書紀』の日付や記事と奇妙な関係がある。これは、「本記」の作成にあたり、『書紀』編纂の材料と関係があるいくつかの寺院縁起などを見て、その年月と内容、あるいは適当な年月・年月と日付の干支などを利用したことによって生じていると考えられる。「本記」の成立時期は降っても、そこに利用された寺院縁起には、『書紀』の材料となった時期の姿を遺すところもあると考えられるので、この点に注目して考察を進めたい。『霊異記』の引用は、「興福寺本」と「国会図書館本」を利用して、意味が通ずるように私見によって改めた。引用の順は、『霊異記』の段落の順ではないので、文末に『霊異記』の記載による段落の順序を示しておく。なお、「屋栖野古」は、これ以後すべて「屋栖古」になっているので、「野」を窟入と考え、「屋栖古」とする。
著者
安室 憲一
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.47-58, 2015

本稿では、リバース・イノベーションに注目するが、とくに新興国企業による違法な模倣とそうした製品のグローバルな浸透 ( 逆輸出 ) に焦点を置く。新興国企業は、先進国の多国籍企業が提供する製品やサービスを模倣しつつ、自国の社会的条件や市場のニーズに合わせて適応・改良を企て、モジュール化の設計技術を活用しながら、新しいモノづくりを学んでいく。その過程で、しばしば先進国の知的財産権を侵害する。新興国企業の生産様式は、多くの場合、地域の産業集積(モノ作りの生態系)に依存するオープン型の「モジュール型生産」である。こうした新興国企業が内需の停滞などを理由に海外市場に成長基盤を求めて進出し、新興国多国籍企業となる。彼らは、地縁血縁に基づくインフォーマルなネットワークを形成する。そのネットワークが、先進国の「フォーマル・エコノミー」のガバナンス・システムと摩擦を起こす可能性がある。本稿では中国における携帯電話と電子商取引の事例を取り上げ、イノベーションの理由を探索する。21 世紀は、こうした新興国多国籍企業のインフォーマル・エコノミーに立脚した「リバース・イノベーション」が先進国の市場にも到達する時代かもしれない。20 世紀は、先進国企業の多国籍化という「上からのグローバリゼーション」(globalization from above) だった。21 世紀は、新興国多国籍企業による「下からのグローバリゼーション」(globalization from below) の時代になるだろう。その結果、われわれのフォーマル・エコノミーのガバナンスは深刻な影響を受けるだろう。
著者
村岡 和彦
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.304-308, 2000-01-01

現在の社会構造の中で「不利益を被った人the Disadvantaged」は,社会の中に新たに出現するテクノロジーによってもやはり疎外されがちである。アメリカで新たに出現したネット社会における電子情報から疎外された人々についての全国調査は,それを弱者救済ではなく「社会の健康」の問題として取り組む姿勢を示している。また文字コード問題では,現場図書館員が様々な知恵をしぼってその制約を待避する試みを行っている。

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著者
三島由紀夫著
出版者
中央公論社
巻号頁・発行日
1965