著者
森田 匡俊 奥貫 圭一 塩出 志乃
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.608-617, 2012-11-01 (Released:2017-11-16)
参考文献数
16
被引用文献数
1

高齢化に関して,都市部における老年人口の多さが社会的問題になりつつある.ところが,高齢化率のみを見ると,都市部では総人口も多いために問題を過小評価する可能性がある.そこで本稿では,愛知県を対象地域として,老年人口密度の分布を考慮した高齢化率の空間的分布パターンの把握を試みた.まず,高齢化率と老年人口密度についての階級区分図から,両値の空間的分布パターンを比較検討した.次に,2変量ローカル・モラン統計量を用いて両値の空間的相関関係に基づく地区の類型化を行った.その結果,老年人口密度の高い都市部における高齢化と,高齢化率のみが高い農山村部における高齢化とを,その性質の違いを踏まえて同時に把握できた.そのほか,都市部における高齢化を二つのタイプに分けて把握できた.また,可変地区単位問題による分析結果への影響を考察した結果,愛知県では,1 kmメッシュデータの利用が有効であった.
著者
永田 玲奈 三上 岳彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.508-516, 2012-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
15
被引用文献数
3 3

本研究では,1901~2000年の100年において北太平洋高気圧西縁部の東西・南北変動を示す指数を定義し,その長期変動について明らかにするとともに,日本の17地点における夏季気温変動との関係について解析を行った.その結果,北太平洋高気圧の西縁部は過去100年に南西方向にシフトしていることがわかった.また100年を前半50年と後半50年に分けて比較したところ,前半50年と比べて後半50年には,高気圧西縁部が北(南)にシフトすると気温が上昇(低下)するという有意な正相関を示す地点が多く見られた.1951年以降,Pacific-Japan (PJ)パターンの励起と関係が深い,南シナ海と熱帯太平洋西部との間の夏季海面水温の東西傾度と,高気圧西縁部の南北変動との関係が強まっており,PJパターンが多く発生することで,高気圧西縁部の南北変動と日本の気温との関係が強まったと考えられる.
著者
村中 亮夫 瀬戸 寿一 谷端 郷 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.492-507, 2012-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
26

本稿では,地域の防災・安全情報が記載されたWebマップをベースとした安全安心マップ(Web版安全安心マップ)について,利用者の活用意思とそれを規定する心理的な要因を分析した.分析資料としては,京都府亀岡市篠町のWeb版安全安心マップについて,紙地図ベースの安全安心マップ(紙地図版安全安心マップ)との対比から得られた利用者評価のデータを利用した.分析の結果,Web版安全安心マップでは紙地図版安全安心マップと比較して高い活用意思が表明され,Web版マップを積極的に活用する意義が示された.また,Web版マップを活用する意思の心理的な要因を検討する構造方程式モデリングの結果,Web版マップの利便性やそれを通して得られる地域の危険/安全箇所に関する認識の深まりの度合い,マップに掲載されている情報の充足性が,Web版マップの活用意思に正の影響を与えていることが示された.
著者
遠藤 貴美子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.342-361, 2012-07-01 (Released:2017-11-03)
参考文献数
30
被引用文献数
4 1

東京城東地域におけるカバン・ハンドバッグ産業は,グローバル化に伴って海外への生産拠点移転が進んだものの,産地内における生産も依然として行われている.そこで本研究は,東京城東地域の当該産業における企業間連関をコミュニケーションの視点から分析し,集積の存立基盤を明らかにする.その際,主に企画・開発の機能を果たす問屋などと,実際の製造を行う各種加工業とを結節しているメーカーを分析の対象とした.その結果,同地域における当該産業では,(1)製品自体が規格化された量産製品ではなく,(2)皮革素材などの数値化がなされにくい情報を多数含み,(3)製造技術も平準化がなされにくい,といった理由によって,集積内の空間的近接性を活用した関連企業間の対面接触への依存度が高いことが判明した.また,同産業は製品モデルが短サイクルで変化するため,メーカーは短納期を強いられていることから,対面接触の重要性がより高められている.
著者
平野 淳平 大羽 辰矢 森島 済 三上 岳彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.275-286, 2012-05-01 (Released:2017-10-07)
参考文献数
22
被引用文献数
4 5

本研究では,東北地方南部に位置する山形県川西町において1830年から1980年までの151年間,古日記に記されていた天候記録にもとづいて冬季平均気温を推定し,その長期変動にみられる特徴について考察した.まず,古日記天候記録から推定した気温の変化を古気象観測記録にもとづく冬季気温の長期変動と比較したところ,両者の変動傾向はよく類似しており,本研究による推定結果の信頼性の高さが裏付けられた.また,気温の推定結果からは,従来の研究で,定性的に暖冬であったことが示唆されていた幕末期について,1)1840年代後半~1850年代前半と2)1860年代後半に,気温が現在の平年値とほぼ同程度である暖冬年が一時的に存在していたことが推定された.一方,これらの暖冬年を除くと,19世紀中頃以前の大部分の年では冬が現在よりも寒冷であったことが推定された.
著者
福島 あずさ 高橋 日出男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.127-137, 2012-03-01 (Released:2017-02-21)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

ヒマラヤ南面のネパールにおいて,長期の日降水量データを用い,降水量と降水特性の季節変化およびその地域性を調べた.クラスター分析によって降水量季節変化の地域性に基づく地域分類を行った結果,西部ミッドヒル・テライ,西部山岳,東部ミッドヒル,東部テライの4地域に分類された.平均日降水量の季節変化の特徴として,4~5月のプレモンスーン季の降水量の増加が,東部地域を中心に顕著であった.また,西部山岳地方では年間を通じて日降水量が少ない.各地域における降水特性の季節変化の比較から,西部山岳地方を除き,夏季に月降水量,降水日数,降水強度の増大期が見られ,ピークは7月であった.また西部の全域と東部ミッドヒル地方の一部では,冬季の降水量,降水日数,降水強度が大きい傾向にある.さらに東部テライ地方は,9月を除く4~11月の降雨強度が他地域と比べて最も大きく,11~3月は最も小さいことから,降水量の季節変化が最も大きい地域といえる.
著者
野尻 亘 兼子 純 藤原 武晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.1-21, 2012-01-01 (Released:2016-12-01)
参考文献数
41
被引用文献数
1

日本における自動車部品の中・長距離のジャスト・イン・タイムによる物流システムは,特にオイルショック以降,多品種生産,フレキシブルな生産への移行,通信情報システムの発達,完成車工場立地の広域化を背景として,完成車メーカー,部品サプライヤー,その物流子会社やサード・パーティー・ロジスティクス(3PL)相互の協力により形成された.各部品サプライヤーからミルクラン方式で集荷する集散地の集荷物流センターと,完成車工場近くで,部品の仕分け・定時多回納入を行う配送納入センターを設け,その間は大型車で幹線集約輸送をする.それは,積合わせによる幹線輸送における規模の経済の実現と,きめ細かな仕分けや多頻度配送を可能とする範囲の経済を同時に実現するフレキシブルな物流システムである.各部品メーカーが物流コストを負担し,多様な物流が展開している本田技研熊本製作所と,完成車メーカー側が物流コストを負担して,3PLを元請にして集荷している三菱自動車水島製作所の具体的事例について比較,考察した.
著者
瀬戸 芳一 高橋 日出男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.529-552, 2011-11-01 (Released:2016-09-29)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

一般には,地上風の収束域では上昇流,発散域では下降流の存在が大気下層で期待される.本研究では,関東平野の夏季日中における局地風構造の把握を目的として,海風日の地上観測風から発散量分布を求め,顕著に認められた収束域と発散域との出現位置や時間的関係について検討した.その際に,風速の観測高度が観測点ごとに異なるため,周囲の土地利用状況をもとに各観測点における地表面粗度を推定し,対数則に基づいて統一高度における風速を求めた.午前中には,水平規模が10~30km程度の典型的な局地循環として,東京湾付近に海風循環,関東北部には谷風循環がそれぞれ独立して存在することが示された.午後になると,谷風循環に伴う群馬・埼玉県境付近の発散域は弱まって,関東北部の谷風循環は不明瞭となり,広域海風の発達に対応した循環構造の変化を観測風の解析からもとらえることができた.
著者
小栁 真二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.473-489, 2011-09-01 (Released:2015-10-15)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

本稿の目的は,日本における大学発ベンチャー企業の立地動態を明らかにすることである.筆者は,全国規模でのアンケート調査を独自に実施するとともに,母体機関との関係のあり方,および事業の性質という二つの基準によって大学発ベンチャー企業を4類型に区分した.この類型区分に基づいて,設立時点と調査時点の立地を比較し,立地行動とその要因を分析した.結果として,母体機関との関係が強い企業は,事業の性質にかかわらず母体機関との近接性を重視して地方圏にも立地し続け,事業拡大に際しても支所配置により母体機関への近接性を保ちながら市場へのアクセスを確保していることが明らかになった.一方で,母体機関との関係が弱い企業は,近接性を重視せず,事業の性質によっては大都市を指向して移転を行う傾向が確認された.これらの知見は,大学発ベンチャー企業の立地行動を母体機関との近接性だけで特徴づける既往の研究に異論を呈するものである.
著者
久保 倫子 由井 義通
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.460-472, 2011-09-01 (Released:2015-10-15)
参考文献数
21
被引用文献数
3 8

本研究は,「メジャーセブン」と呼ばれる主要なマンション事業者によるマンション供給の特性および供給戦略を分析し,1990年代後半以降の東京都心部におけるマンション供給の変化を明らかにすることを目的とした.1990年代後半以降,東京都心部においては「コンパクトマンション」と呼ばれる小規模世帯向けの分譲マンションが供給されるようになった.メジャーセブンによるコンパクトマンションの供給は2000年以降単身女性向けに始まった.2005年以降は,単身男性や核家族による都心部でのマンション需要が顕在化したことを受けて,事業者によって,超高層マンションの供給を中心としコンパクトマンションをこれに取り込んだものや,高級なコンパクトマンションに特化したブランドを確立したもの,さらに東京周辺区部での比較的安価なコンパクトマンションの供給を進めたものなどに分化していった.事業者によって,コンパクトマンションの供給地域や販売価格,対象とする世帯が異なるため,東京都心部においてはコンパクトマンションの供給戦略は多様化した.これによって,東京都心部においては,住宅タイプによる居住分化がより複雑化したと考えられる.
著者
田力 正好 安江 健一 柳田 誠 古澤 明 田中 義文 守田 益宗 須貝 俊彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.118-130, 2011-03-01 (Released:2015-09-28)
参考文献数
30
被引用文献数
3 2

岐阜県南東部および愛知県西部を流れる土岐川(庄内川)流域の河成段丘を,空中写真判読によりH1~4面,M1~3面,L1~3面の10段の段丘面に分類した.それらの段丘面のうち,L2面は,構成層中の試料の14C年代値,構成層を覆う土壌層中の指標テフラ(鬼界アカホヤテフラ),段丘面の縦断形と分布形態,段丘構成層の厚さに基づいて,酸素同位体ステージ(MIS)2の堆積段丘面と同定された.M2面は構成層と指標テフラ(阿蘇4テフラ,鬼界葛原テフラ)との関係,構成層およびそれを覆う風成堆積物の赤色風化に基づいて,MIS6の堆積段丘面と同定された.これらのことから,これまでMIS6の堆積段丘の報告がほとんどなかった中部地方南部において,その分布が確認された.M2面とL2面の比高から,土岐川流域の隆起速度は0.11~0.16 mm/yrと求められた.
著者
梶田 真
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.99-117, 2011-03-01 (Released:2015-09-28)
参考文献数
64
被引用文献数
4 3

本稿では,政策的・社会的背景と関連づけながらBleddyn Daviesの研究を展望し,彼の研究のどの部分がどのような観点から地理学者によって注目・受容されたのか,そして,両者の関係がどのように変化していったのかを考察した. Daviesが地域的公正概念を案出した主たる契機は,10カ年保健福祉計画にあると考えられ,福祉国家の時代における彼の研究は問題告発的なものにとどまらず,問題解決のための政策や制度のデザインにまで広がっていた.福祉国家が転換期を迎えた1970年代後半以降,Daviesと彼を所長とするPSSRUのメンバーはより安い費用でよりよい効果を達成することができるケアシステムの提案のために注力した.彼等の努力はコミュニティケア実験プロジェクトと福祉の生産アプローチに結実した.1970年代における公共サービスの地理学の台頭の中で,地理学者は彼の地域的公正概念に注目した.しかし,体制批判的なスタンスが英語圏地理学において支配的な地位を獲得した1980年代以降,地域的公正概念は改良主義者の道具として強く批判されるようになり,後期のDaviesやPSSRUの研究はほとんど紹介・参照されることはなかった.
著者
鈴木 重雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.524-534, 2010-09-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
34
被引用文献数
4 6

日本各地で人間による樹林地の利用圧の低下や竹林管理の粗放化に起因する竹林の拡大が報告されている.本研究では,広島県竹原市小吹集落において,最近40年間の,たけのこの生産状況の変化と竹林化の生じた土地利用に着目し,竹林の拡大した要因を検討した.その結果,竹林面積は1962年から2000年の間に2.6倍に拡大していた.たけのこ生産が盛んに行われていた1986年以前だけでなく,国内産たけのこの需要が低迷し,高齢化等によりたけのこ生産が衰退した1986年以降の期間も,竹林の拡大は継続し,特に畑と樹園地で急激に竹林化が生じていた.1962年から2000年の竹林拡大のうち36%が1962年の農地で生じており,耕作放棄や竹林への転換がなければ起こらなかったと推測できた.竹林は所有者による植栽終了後も竹林管理の粗放化により拡大していた.加えて,竹林に隣接する農地の耕作放棄により拡大しやすい空間が生じたことも,急激な拡大に影響していることが明らかとなった.
著者
伊藤 慎悟
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.510-523, 2010-09-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本研究は仙台市を事例に,1960年代に開発された戸建住宅団地の年齢構成と高齢化の差異を明らかにし,その差異に影響を及ぼしている要素を導き出すことを目的とする.まず,1975年の5歳階級別人口比率において,第一,第二世代の偏りに団地間で差異がみられ,仙台駅からの距離といった団地属性との関連性が強いことが判明した.市域縁辺部にある住宅団地の多くは,第一,第二世代に偏った年齢構成をしているが,2005年に至って居住者の入れ替わりはあまりみられず,第一世代の加齢と第二世代の転出によって急激に高齢化している.これに対し,仙台駅から比較的近い位置にある住宅団地は,若年単身世帯の受け皿としての機能も有し,高齢化があまり進んでおらず,両者における差異が明瞭にみられた.
著者
西山 弘泰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.384-401, 2010-07-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
34
被引用文献数
2 2

本稿は,1960年代・1970年代にスプロールを伴って形成された小規模開発住宅地に着目し,住民の転出入から,これらの住宅地が郊外に立地する住宅地の中でどのような位置づけにあったのか,どのような役割を果たしていたのかを,戦後日本の住宅事情や社会・経済情勢から明らかにした.対象地域の埼玉県富士見市関沢地区は,1970年前後を中心とした中小ディベロッパーによる小規模開発・狭小敷地の建売住宅開発が連担し形成された住宅地である.関沢地区では,開発が始まる1960年代中頃から1980年代前半まで20代・30代を中心とする若年ファミリーが多く居住し,活発な転出入がみられた.居住者の多くは東京区部から転入し,数年で比較的近隣のより敷地規模の広い戸建住宅へ転出していった.しかし1980年代中頃から,関沢地区の戸建住宅では建替えが進み,活発な転出入がみられなくなり滞留傾向が強まる.このことから1960年代後半から1980年代前半における関沢地区の狭小な戸建住宅は若年層の仮の住まいとしてその役割を果たしていたと考えられる.そして関沢地区の戸建住宅において居住者の活発な入替えがあった背景は,第1にバブル崩壊までの持続的な地価や賃金の上昇,第2に家族向け賃貸住宅の不足,そして第3に分譲マンションが一般化していなかったことがあげられる.このことから,当地域にみられた狭小な戸建住宅は,当時の社会・経済情勢が投影された時代の産物であったといえる.
著者
秋本 祐子 日下 博幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.324-340, 2010-05-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
25
被引用文献数
6 8

領域気象モデルWRFの入力データ(大気・土地利用・海面水温・地形),および地表面パラメータ(粗度・アルベド)の変化に対する感度実験を行い,それらが地上気温の再現精度に与える影響を定量的に比較した.結果は以下の通りである.デフォルトの設定による計算では,日最高気温・日最低気温がともに関東平野全域で過小評価される.大気の入力データとして,デフォルトのデータの代わりに気象庁のメソ客観解析データを用いると,前述した地上気温の過小評価が改善される.土地利用データとして,デフォルトのデータの代わりに国土数値情報の土地利用データを使用すると,熊谷を含む郊外の中小都市の存在が識別できるようになる.その結果,関東平野の北西部で気温が上昇し,地上気温の過小評価が改善される.海面水温データ・地形データの変更,および地表面パラメータの変更は,地上気温の計算結果に大きな影響を与えないことが分かった.
著者
川口 純 日下 博幸 木村 富士男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.375-383, 2010-07-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

ヤマセは,夏季の北日本の太平洋側に吹き付ける冷たく湿った東寄りの風である.ヤマセ卓越時には,東北地方太平洋側で東~南東の風が吹く.しかしながら,北上盆地では南風が吹く.本研究では,この南風の成因を明らかにするために,データ解析と領域気象モデルWRFを用いた数値実験を行った.結果を以下に示す.(1)WRFを用いた数値実験の結果,実地形を用いた基準実験と,北上高地の地形高度を90%に減少させた実験では北上盆地で南風が吹くが,北上高地の地形高度を80%,70%に減少させた実験では,北上盆地では南風が吹かずに東風が卓越する.(2)この結果は,フルード数やロスビー数を使った力学的解析の結果と一致する.(3)ヤマセ卓越時の北上盆地の南風は,地形障壁の効果と重力流の特徴をよく表している.