著者
瓜生原 葉子 Yoko Uryuhara
出版者
同志社大学ソーシャルマーケティング研究センター
雑誌
同志社大学ソーシャルマーケティング研究センターワーキングペーパー = SMRC Working Paper
巻号頁・発行日
vol.2021, no.1, pp.1-25, 2021-04

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,依然パンデミックの最中にあり,社会全体に大きな影響を与えている。新型コロナウイルスの拡散を防ぐために,様々な非医薬品介入が行われる中,ワクチン接種は有効な手段として期待されている。しかし,集団免疫を獲得するためにはより多くの国民に受容され,使用されることが不可欠である。特に,今後,経済活動を回復させるためには,就業者におけるワクチン接種が鍵であると考えられる。そこで,本研究では,日本の就業者に焦点をあて,ワクチン接種意向に関する現状を把握すること,ならびに接種意向に影響を及ぼす因子を特定することを目的とした。企業勤務者1,000人を対象とした定量調査の結果,ワクチンの接種意向割合は50.1%であった。接種意向に影響を及ぼす因子は,新型コロナウイルス感染症への重大性・罹患可能性の認知,ワクチンの有効性の認知,主観的規範,行動信念,行動コントロール感であった。一方,ワクチン接種のリスクの認知,リスクへの感情,自己効力感については,統計学的有意が認められなかった。また,ワクチン接種に対する意思決定ができていない割合は31.5%であった。この層では,ワクチン接種に不安を持つだけではなく,自身はワクチン接種しなくても特に問題なく過ごせると思っていた。接種意向がある人も副反応の危険性を感じており,そのリスク認知だけが意思決定要因ではなく,それを上回る有効性の知覚があること,大切な人や社会から期待されていると感じること,社会全体にとって有益と信じることが重要な要素であることが示唆された。
著者
鳫 咲子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.31, pp.19-32, 2021-02

我が国では、人口政策としての少子化政策が先行し、その中で家族政策としての子育て支援政策が注目されるようになった。安倍政権下の少子化政策は、従来の「子育て支援」及び「働き方改革」に加えて、「結婚・妊娠・出産支援」を新たな内容として「希望出生率 1.8」の実現を掲げている。待機児童問題は保育所においては減少傾向にあるが、放課後児童クラブでは今後の課題となっている。子どもの貧困対策のうち就学援助には所得制限があり、支援を必要とする家庭は支援を受けていることを知られたくないという気持ちがあったり、申請が必要な個別的な子どもの貧困対策には、制度の周知が難しかったりという課題がある。給食費の無償化には、子どもの貧困対策を個別的な対策から普遍的な子育て支援策に転換し、直接子どもに給食を現物給付するという意義がある。子供の貧困対策大綱は、学校を地域に開かれたプラットフォームと位置付けて、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーが機能する体制の構築を目指している。貧困家庭の子供たち等を早期の段階で生活支援や福祉制度につなげていくためには、配置するスクールソーシャルワーカーの増員を急ぎ、勤務もフルタイムにすることが求められる。
著者
小西 哲郎
出版者
長崎外国語大学・長崎外国語短期大学
雑誌
長崎外大論叢 = The Journal of Nagasaki University of Foreign Studies (ISSN:13464981)
巻号頁・発行日
no.6, pp.43-51, 2003-12-30

This article examines a mistranslation found in the passage of Matthew 6.17 in The Colloquial Japanese Version of the Bible (in Japanese, the title is "Seisho, Kogo-yaku"). In the original Greek version of the New Testament, the passage mentioned above uses the subject "you" in the singular form ("συ"). In The Colloquial Japanese Version however, the same passage uses the subject "you" in the plural form ("Anatagata"). As The Colloquial Japanese Version was supposed to be translated mainly from the English Version commonly known as the Revised Standard Version of the Bible, I believe this to be the root cause of the mistranslation. In other words, I think the mistranslation has to do with the differing uses of the subject "you" in Greek with that of English. In this article, I attempt to explain how and why such an elementary mistake took place. In hopes of avoiding these types of mistranslations in the future, I propose that there be a closer connection between the American Bible Society with the Japan Bible Society.
著者
大西 秀之 オオニシ ヒデユキ Hideyuki ONISHI
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
2005-03-24

本論文が対象とするトビニタイ文化とは、異なる生計戦略に立脚するとともに形質的・遺伝的にも系統を違える集団によって担われたオホーツク文化と擦文文化が、北海道東部地域において接触・融合する過程で生起したとされる先史文化である。本論文は、トビニタイ文化という歴史事象を主体的に担った人々の系譜を明らかにした上で、周辺地域の広範な歴史的コンテクストに位置づけるなかから、同文化の成立から終末に至るプロセスや要因の解明を試みたものである。 まず第一章では、現在までの課題を明らかにすべく、先行研究のレビューをおこなった。その結果、オホーツク文化集団と擦文文化集団が接触・融合する具体的な状況やプロセスを解明するとともに、生計戦略を始めとする同文化の基本的な性格を把握する必要性を確認した。さらには、文献史学や第四紀学・環境科学などのデータや成果を参照するなかから、トビニタイ文化として顕在化する歴史事象を、生態環境から政治社会的要因までを含めた歴史的コンテクストから読み解く必要性を指摘した。 以上を踏まえ第二章では、トビニタイ土器分布圏の6遺跡から出土した「擦文式土器」を対象として13の技術的属性を抽出し、共伴して得られたトビニタイ土器や同時期の擦文文化圏の資料と比較した結果、そのなかにはオホーツク文化の末裔であるトビニタイ土器製作集団によって製作された模倣品が含まれていることを明らかにした。また、模倣品の時間位置や空間分布を検討すると、知床半島沿岸部や根釧原野などでは模倣品が製作される時期はトビニタイ後期(A.D.11世紀以降)に多くが偏り、その製作にはトビニタイ土器の技術が使用されている一方、斜里平野ではトビニタイ前期(A.D.10世紀以前)から擦文文化集団が持つ技術を導入して模倣品が製作され、トビニタイ後期になるとオリジナルの擦文式土器そのものと見分けがつかなくなる様相を捉えた。そして、この地域差を擦文文化集団との交流頻度の反映と想定することによって、知床半島沿岸部から根釧原野側の集団は擦文文化集団との接触が限られていたのに対し、斜里平野側の集団は擦文文化集団と非常に緊密で頻繁な交流を維持し、擦文文化集団の一部が同地域の集落に来訪し居住する状況が生起していた可能性を指摘した。 そこで、トビニタイ文化の集落に存在していた擦文文化集団の具体的な規模と、両集団間に取り結ばれていた社会関係を解明するために、同文化の住居址の属性分析をおこなった。この分析により、住居址に関わる属性の多くは、オホーツク文化の系譜に位置づけうるものであり、また擦文文化に典型的とされる属性もトビニタイ土器製作集団の側が段階的・部分的に受容したものであるという結論を得た。ここから、トビニタイ文化の主要な担い手は、オホーツク文化の末裔であると想定され、住居址から推察される居住形態に依拠するならば、接触・融合の一次地帯であっても、常態として擦文文化集団は単独で世帯を形成することなく、「婚入」などを通じてトビニタイ土器製作集団を主体とする世帯のなかに同居していたとの仮説を導いた。以上から、トビニタイ文化は、オホーツク文化の末裔が主体的に担っていたことを提示した。 次いで第三章では、トビニタイ文化の遺跡立地、遺物組成、動物遺存体を対象として、オホーツク文化や擦文文化との比較検討を試みた。その結果、同文化には、地域的・時期的な多様性が認められる反面、同文化を担った集団は共通基盤としてサケ漁に特化した生計戦略を保持していたことを指摘した。さらに、そうした生計戦略は、基本的にオホーツク文化の系譜に位置づけうるものであり、擦文文化の積極的な関与は認め難いことを確認する一方、同文化の成立以降、存続期間を通じて変容することなく、安定的に維持・経営されていたことを明らかにした。 いっぽう、トビニタイ文化には、擦文文化から受容されたと想定される資料が認められるが、それらは地域的に偏差をしめしつつも、時期を経るなかで増加する傾向を捉えた。だが、鉄器のみは、前段階のオホーツク文化の鉄器が大陸産であるのに対し、地域・時期に関係なく、一貫してすべてが擦文文化を仲介して入手された本州産であることを明らかにした。ここから、トビニタイ文化は、生計戦略を始めとして、基本的な要素をオホーツク文化から受け継いでいる反面、擦文文化との接触・融合が引き起こされた背景には、大陸産から本州産への鉄器入手ルートの転換があるとの想定を提起した。これらの想定を是認するならば、既存の「外圧説」と「内発説」は、トビニタイ文化の一側面のみを捉えたに過ぎず、両者は背反するものではなく相互に補完すべき見解であることを指摘した。 最後に第四章では、これまでの検討から得られた成果を、当時の歴史的コンテクストに位置づけ考察を加えた。その結果、サケ漁に特化したトビニタイ文化の生計戦略は、A.D.10世紀以降に到来する、「中世温暖期」のピーク後の再寒冷化に伴う生態環境の変動に適応するために、道東部のオホーツク文化集団が、海洋資源を中心とする「多品目依存型」から内水面の資源に比重をおいた「備蓄型」に転換したものであるという結論を導いた。他方で、擦文文化集団との接触・融合は、本州産鉄器の獲得を中心に促進されたものであり、その背景には律令体制の崩壊に端を発する、9世紀後半~10世紀の本州・東北北端部における鉄器生産地の出現・急増と中央のコントロールを受けない「化外の地」における物流体制の成立があることを指摘した。 以上から、トビニタイ文化とは、「中世温暖期」を中心とするグローバルな規模での環境変動と、律令国家の崩壊という政治体制の変容のなかで生起した、古代末から中世初頭に継起した社会生態環境のドラスティックな変化に対して、オホーツク文化集団が選択した生存戦略であるという結論を導いた。さらに、こうした生存戦略は、オホーツク文化集団のみに限定される事象ではなく、和人社会を中心とする商品経済・物流体制に巻き込まれてゆくなかで、中世併行期以降の「アイヌ社会」が形成される過程に位置づけうるものであった。このため、本論は、従来一系的に語られがちであった「アイヌ社会」の成立過程に対して、外来の渡来系集団によって担われたオホーツク文化もまた、北海道東部地域における「アイヌ社会」の形成に主要な役割を果たしていた、という新たな視点を提示するものとなった。
著者
永井 正勝 和氣 愛仁 高橋 洋成
雑誌
研究報告人文科学とコンピュータ(CH) (ISSN:21888957)
巻号頁・発行日
vol.2019-CH-119, no.14, pp.1-7, 2019-02-09

一般言語学的なスタンスで様々な時代や地域の言語を統一的に扱おうとした場合に,どのような言語学的データの整理の仕方が必要なのかという観点は,データベース構築の際のプラクティカルな問題であると同時に,その整理行為そのものが,言語のあり方を記述する記述言語学の一形態としての価値を有する.本発表では,このような問題意識のもと,文字の直線的な羅列のみを見ていても言語構造が見え難いような文字資料をも対象としつつ,文字資料が持つ情報の,何を,どのように,整理 ・ 構造化して,それらを情報処理に結びつけていくべきなのか,という点について言語学の立場から提案を行う.
著者
中島 美紀
出版者
昭和大学薬学雑誌編集委員会
雑誌
昭和大学薬学雑誌 (ISSN:18847854)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.129-141, 2013-12

タバコの主成分であるニコチンには依存性があり、喫煙者は体内のニコチン濃度を一定に保とうとして喫煙する。体内に摂取されたニコチンがそのまま尿中に排泄されるのは10%程度であり、ニコチンの体内からの消失には肝臓における代謝が大きく寄与している。主な代謝経路はCYP2A6によるコチニンとそれに続くトランス-3'-水酸化コチニンへの酸化反応である。また、ニコチンとコチニンは主にUGT2B10によりN-グルクロニドへ、トランス-3'-水酸化コチニンは主にUGT2B17によりO-グルクロニドへ代謝される。ニコチンの代謝能には大きな個人差や人種差が認められ、CYP2A6、UGT2B10やUGT2B17の遺伝子多型に起因するところが大きい。特に、酵素活性を低下または欠失させるCYP2A6遺伝子変異型を有するヒトでは、ニコチンの消失半減期が延長し、代謝プロファイルも大きく変化する。CYP2A6遺伝子変異は喫煙習癖性や発がん感受性に影響を与えることも示されている。日本人は欧米人や韓国人に比べてニコチン代謝能が低く、その要因としてCYP2A6欠損型および変異型の遺伝子頻度が高いことが大きいが、食事や環境など非遺伝的要因も関わっている。CYP2A6の発現はエストロゲン受容体、酸化ストレス応答転写因子NF-E2 related factor 2、プレグナンX受容体などの転写因子によって調節されており、その転写活性化機構もニコチン代謝能の個人差や性差の原因となっている。禁煙補助剤としてニコチンガムやニコチンパッチを使用する際、ニコチン代謝能が低いヒトではニコチンの血中濃度が高くなり、有害作用が現れる可能性があり、注意が必要である。(著者抄録)
著者
中川 譲
出版者
多摩大学グローバルスタディーズ学部グローバルスタディーズ学科
雑誌
紀要 = Bulletin (ISSN:18838480)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.69-79, 2011-03-01

In Japanese, the word “kontentsu” (derived from “contents”) often refers to information regarding manga, anime, videogame, or other information properties, mainly pop culture content. It is a narrowed usage of English concept of “content”. In this article, it is investigated how the executive branches in Japan accept the concept and apply it to the Japanese policy in 2000s. Judicial definition of this concept in 2004 is also argued referring to the copyright act and the intellectual property act. Then, it is statistically analyzed how the English word “content” was introduced into Japanese society from 1990s to 2000s using newspaper articles, and the usage of the word “kontentsu” will be shown to be categorized in three ways. Finally, it is pointed out that Japanese.
著者
勝藤 猛
雑誌
岩手県立大学盛岡短期大学部研究論集 = Bulletin of Morioka Junior College Iwate Prefectural University (ISSN:13489720)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.5-13, 2001-03-01

After the breakdown of the Qin empire, there was a leader named Liu Bang (247-195 B.C.), who built the Han dynasty. Among his followers, three men were particularly efficient, and brought him to the throne. First, Zhang Liang was a staff-officer, so to speak, with female appearance. He gave his master valuable advice at the headquarters. Secondly, Xiao Ho was a well-educated paymaster in charge of supplying the front with personnel and provisions, searching and arranging documents from the destroyed Qin court. Finally, Han Xin, here under discussion, was an able army commander, good at intelligence service as well as tactics. The first two were in their sovereign's high esteem, while the last fell into disgrace and was killed in the end. Court chronicler Si-ma Qian writes a hundred years later, "One who has more courage than one's lord will be easily ruined. One whose success is above all will not be awarded". This is the destiny of Han Xin. The author tries to describe a hero of a tragedy.
著者
芦野 佑樹 山根 匡人 矢野 由紀子 島 成佳
雑誌
研究報告コンピュータセキュリティ(CSEC) (ISSN:21888655)
巻号頁・発行日
vol.2017-CSEC-78, no.6, pp.1-8, 2017-07-07

インターネット上には一見すると影響がなく意図の不明なインターネットノイズと呼ばれる通信が存在する.かつて筆者らは,インターネットノイズの分類に基づいた内容を応答することで,高度な技術を有する組織的な活動が存在する可能性を示した.このようなインターネット上での活動がサイバー攻撃の初期段階と仮定すれば,インターネットノイズの分析は攻撃者の活動の推測を可能とし,過去の事例に基づく分析が中心であったサイバーセキュリティにおけるリスク分析の精度向上に期待できる.本論文では,180 日間に渡って観測されたインターネットノイズの調査を通じて,サイバー攻撃の初期段階を捉えることを目的としたインターネットノイズ発信源の分類方法を提案する.併せてインターネットノイズの分析をサイバーセキュリティ対策の検討に活用できる可能性について考察する.
著者
蔡 鳳書
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.263-277, 2002-04-30

これまでの中日古代文化交流歴史研究においては、文献記録の資料に主として依拠する場合が多かったが、戦後の五〇年間には中国、日本ともに考古学の研究成果が多い。この情勢により、両国の発掘調査の資料を利用し、中日文化交流史を研究することが必要になる。