著者
作野 広和
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.10-28, 2019-03-30 (Released:2020-03-30)
参考文献数
42
被引用文献数
5

本稿は,2016年以降に語られはじめた関係人口の概念を改めて整理し,その意義について新たな見解を提示した.従来,関係人口は「交流人口と定住人口の間に位置する第3の人口」と捉えられていた.本稿で検討した結果,関係人口のそうした性格は否定しないものの,3つの人口概念を段階性でのみ説明することは誤解を招きかねないとの結論に至った.すなわち,関係人口を交流人口と定住人口との間のステップとしてのみ捉えるのではなく,新しい時代における都市地域と農山漁村地域との関わり方の一つとして捉えるべきである.また,関係人口が有する多様性についても明らかにした.本稿では,都市農村関係から関係人口を4つに類型化し,それぞれの類型が有する性格を整理した.従来の関係人口に関する言説では,地域支援志向型と地域貢献志向型の関係人口に多くの注目が集まっていた.一方で,地域を維持していく上では「地域を守る」行動を継続的に行える人材が必要である.本稿では,そのような人材を非居住地域維持型の関係人口であると整理した.そのような意味では,社会学で整理されている修正拡大家族の概念も,関係人口の一部として積極的に評価すべきであると考える.

3 0 0 0 OA 太政官日誌

出版者
太政官
巻号頁・発行日
vol.明治元年 第101−110号, 1876
著者
二川 健
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.3-8, 2017 (Released:2017-02-17)
参考文献数
11
被引用文献数
1

Unloading環境ではタンパク質のユビキチン化が促進されるので, Unloading環境に暴露したラットの腓腹筋の遺伝子を網羅的に解析し, そのユビキチン化の原因遺伝子を探索した。その結果, 増殖因子のレセプターやその関連タンパク質を特異的にユビキチン化させるユビキチンリガーゼCbl-b (Casitus B-ligeage lymphoma-b) の発現が宇宙フライトにより増大していることを発見した。Cbl-bは, インスリン受容体基質タンパク質 (IRS-1) をユビキチン化し分解へと導くユビキチンリガーゼとして働き, 骨格筋におけるインスリン様増殖因子のシグナル伝達を負に調整していた。また, Cbl-bノックアウトマウスではUnloadingによる筋萎縮がほとんど起こらなかった。これらの所見より, Cbl-bが筋細胞の増殖因子受容体シグナル系を負に調節し, 筋萎縮を引き起こす重要な筋萎縮関連遺伝子の一つであることがわかった。この分子をターゲットにして, そのユビキチン化を阻害できる栄養素材も発見した (2件の特許取得) 。それは, Cbl-bとIRS-1の結合に対する阻害活性を有するDG (p) YMPペプチド (Cblinペプチドと名付けた) とその類似配列を持つ大豆グリシニンタンパク質である。これらはin vitroやin vivo実験においてCbl-bによるIRS-1のユビキチン化を抑制し筋量を増大させた。また, 大豆タンパク質添加食は寝たきり患者の筋力減少の抑制にも有効であった。以上の知見から, リハビリテーション以外に治療法のないUnloadingによる筋萎縮に対する新しい栄養学的治療法の概念も提唱する。
著者
平井 雄一郎
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.792-819,856, 1996

By a notification in 1871, the Meiji Government contrived to establish a unified national system for the relief of abandoned children. The Tokyo area, however, had its own special system, "kunai-azukari", that had its origins in the Tokugawa Era. This relief system, financed by ku and gun as autonomous government units, is reputed to have played an important role in times of social upheaval, particularly during the period of the Matsukata Deflation. On the other hand, the fact that the system far exceeded the national one in the scale of expenditure and was subject to the arbitrary control of local officials, caused conflicts with the policy of the municipal government. Study of the shomu-ka (general affairs section) documents of the old government enable us to clarify both the structure of these conflicts and the concern of the authorities over the increases in expenditure which were due mainly to the participation of particular agents, "shusennin", in the kunai-azukari system. Eventually, the local autonomous system was dissolved. In 1885-1886, the municipal government ordered that all children under the care of kunai-azukari be accommodated in the Tokyo Yoikuin (the poorhouse). Once the order had been put into action, all the related expenditures were completely incorported into the accounts of the Yoikuin. Since it is obvious that the wishes of ku and gun offices were precluded, and since all remaining resources were appropriated as a new source of funds for the Yoikuin, I conclude that the order implied a solution favourable to the municipal government. Meanwhile, it should be pointed out in reference to further study that there might be the hopes for the rationalization of "society" and "culture" held by the chairman of the Yoikuin, Shibusawa Eiichi, and other "distinguished persons" in the city.
著者
村岡 克紀 ワグナー フリードリヒ 山形 幸彦 原田 達朗
出版者
一般社団法人 日本エネルギー学会
雑誌
日本エネルギー学会誌 (ISSN:09168753)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.9-16, 2019-01-20 (Released:2019-01-31)
参考文献数
19

本稿では,風力と太陽光発電(以降,PV と略記)を電力網に大規模に導入しようとする際に,これら再生可能エネルギー(以降,REと略記)からの電気出力が間歇的であることによって引き起こされる問題を,簡単化したモデルを用いて定量的に予測する。用いた解析は,九州電力の電力負荷,風力およびPVについての最近の15分間隔データを基にしている。その結果,次の結論を得た:(1)REによる年間発生電力量が年間負荷電力量の40%を超えると,余剰電力量と送電網に流れる電力が過大になる;(2)RE出力の間歇性を補うためのバックアップには現在のところ火力発電での対処が必要であるが,それによるCO2排出があってREを増やしても結果的にCO2排出は大幅には減らない;(3)その状況を克服するのに必要な電力貯蔵量は,現在の九州電力の揚水発電容量の数十倍以上が必要である。本検討により予測された問題点を意識して,より現実に近い近似のもとでの詳しい解析が行われることが期待される。
著者
瀬端 孝夫 瀬端 孝夫
出版者
長崎県立大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:18838111)
巻号頁・発行日
no.14, pp.163-174, 2013

2009年9月、長年政権の座にあった自民党に代わって、鳩山由紀夫を首班とする民主党政権が誕生した。国民は官僚主導の政治を変え、政治主導を提唱した民主党に変革を期待した。しかし、結果は、鳩山政権が普天間基地の移転問題でつまずき、民主党は、マニフェストになかった消費税の増税をはじめ、多くの公約違反で、2012年の衆議院と2013年の参議院の選挙で惨敗した。菅政権と野田政権が、消費税増税をいわず、民主党のマニフェストにもっと忠実であったならば、これほどまでの敗北はなかったに違いない。その意味で菅直人、野田佳彦、両氏の罪は重い。なぜならば、日本の政治史の歴史的快挙である政権交代という、日本の民主主義の成長の機会を逃し、官僚支配の自民党政治に後戻りさせたからである。 この過程を見てみると、既得権益を守ろうとする勢力、すなわち現状維持派の勢力が、いかに強かったかがわかる。自民党、官僚、財界、大手マスメディア、そして、その背後にいるアメリカ、こういった改革を阻止する勢力の抵抗は激しかった。日米関係をより対等な関係にするため、普天間の海兵隊基地を国外、最低でも県外に移転しようとする鳩山首相のもくろみは、アメリカはもとより、本来、首相を支援し、首相の考えを政策に反映させるべき外務省、防衛省の官僚からの抵抗にあった。しかし、官僚の抵抗は、民主党が政権を取る以前から始まっていたのである。小沢総理をなんとしても阻止したい検察は、2009年から本格的に小沢たたきをはじめた。この両者の戦いは1990年代から続いていたが、2009年の来るべき総選挙で、民主党の勝利が濃厚になったまさに、その矢先に検察は小沢の政治資金問題を持ち出した。 小沢攻撃は検察ばかりではなかった。自民党はもとより、大手マスメディアの小沢金権政治に対する批判が高まり、世論の批判をバックに、民主党内からも小沢一郎に対する批判が続いた。その結果、小沢排除が民主党内で進み、小沢は党幹事長として、鳩山内閣に入閣することができなかった。結果として、鳩山・小沢による官僚主導から政治主導への政治改革は頓挫した。その後、財務省主導の消費税増税案が、菅、野田両政権で具体化し、民主党は小沢一郎との内部抗争も重なって、国民の信を失っていった。 本稿では、民主党政権下の安全保障政策を中心に、小沢排除、官僚の抵抗、アメリカの対日政策をみていく。小沢問題における検察の勝利、消費税増税法案の通過に象徴される財務省の勝利、そして、普天間移転における外務、防衛両省の勝利と、ことごとく官僚の勝利に終わった。民主党が目指した官僚政治の打破は失敗に終わり、自民党による従来の政治に戻ったのである。
著者
松原 悠 Matsubara Yu マツバラ ユウ
出版者
「災害と共生」研究会
雑誌
災害と共生 (ISSN:24332739)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.13-27, 2021-09

一般論文日本における新型コロナウイルス感染症の流行の拡大に伴い、「自粛警察」という概念が広く使用されるようになった。本稿では、当該概念の使用が拡大した過程を関連するデータに基づいて分析するとともに、似た意味を持つ複数のインターネットスラングのなかから社会状況の変化に応じて「自粛警察」という適切な概念が選び取られて流通したことを示す。そして、この言説空間の変容が、自粛するかどうかの最終判断を個々人に委ねるオフィシャルな自粛要請のもと「自粛警察」的な行為によって自粛を事実上強制するアンオフィシャルな社会規範としての世間の「空気」が生まれつつあったなかで、「自粛の『空気』を作り出すことにつながる行為」を対象化し「空気」を間接的にコントロールする機能を果たした(問題の外在化が実現された)ことを論じる。最後に、本研究から得られた示唆として、災害や危機といった先行きが不透明な状況下においては「空気」の影響力が相対的に強まるなか、そのような事態が発生する事前の段階で、言説空間を豊かにする手がかりを用意しておくことの重要性を述べる。
著者
笹生 心太
出版者
一般社団法人 日本体育学会体育社会学専門領域
雑誌
年報 体育社会学 (ISSN:24344990)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.77-88, 2021

In this study, we analyze nationalism in the sense of its vague attachment to members of the same nation, also called "cognitive nationalism". As pointed out in previous studies, the national stereotypes found in sports coverage play important roles in the construction of "cognitive nationalism". Therefore, in this research, we look at the stereotype that "Japanese players are inferior in "physical ability"" in soccer magazines and analyze it quantitatively and qualitatively.<br>The first of the findings of this study is that the popular statement that "Japanese players are inferior in "physical ability"" was rarely seen until the early 1990s. These discourses were for the most part limited to the mid-1990s and early 2000s.<br>The second finding is that since the mid-2000s, Japanese players' evaluation of "physical ability" has been highly consistent. In other words, discourses with the meaning "although Japanese players are inferior in the strength and size of the body, they compensate with superiority in momentum, quickness, and speed" continued to be produced over a long period of time.<br>Finally, the third finding of this study is that the consistent evaluation of the "physical ability" of Japanese players was possibly built by the slogan "Japanization of Japanese football" advocated by Ivica Osim, who was assigned to coach the Japanese national team in 2006.