著者
松沼 瑞樹 山川 武 星野 和夫
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
pp.19-003, (Released:2019-07-24)
参考文献数
18

Previous Japanese records of Chelidoperca margaritifera Weber, 1913 (Perciformes: Serranidae) were reviewed, and all available Japanese specimens previously reported as that species found to be either C. santosi Williams and Carpenter, 2015 or C. tosaensis Matsunuma, Yamakawa and Williams, 2017. No evidence was found of C. margaritifera occurring in Japanese waters, the species instead being known solely from the holotype, collected off New Guinea. Chelidoperca santosi is characterized by three scale rows between the lateral line and middle of the spinous dorsal-fin base; two pairs of dark spots on the snout; a pair of dark spots on the lower jaw tip; the interorbital scales just reaching or extending slightly beyond mid-orbit but not reaching level with the posterior nasal pores; scales on the mandibular ventral surface extending anteriorly onto the dentary; and enlarged canine-like teeth on both jaws, thereby being distinguished from all Japanese congeners [C. hirundinacea (Valenciennes in Cuvier and Valenciennes, 1831), C. pleurospilus (Günther, 1880) and C. tosaensis]. The standard Japanese name “Minamihimekodai” should be applied to C. santosi.
著者
堀井 健一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

18世紀末から19世紀初頭にかけてのギリーズ『古代ギリシアの歴史』とミトフォードの著作『ギリシア史』におけるクレオンの記述の仕方を見れば,2人は明らかにアテネ民主制がデマゴーグに操られた衆愚政治であるかのように記述していることが分かる。また,アメリカ建国期の『フェデラリスト』の記述においてはクレオンなどの政治家の名前は登場しないものの,アテネ民主制が感情的な大衆による愚かな政治であることが度々指摘されている。従って,18-19世紀の英米の歴史家や政治家は概して,アテネ民主制を衆愚政治と見ていたに違いない。他方では,ギリーズやミトフォードが史料として参照したはずの古代ギリシアの歴史家トゥキュディデスによるクレオンに関する記述を検討すると,やはり彼が明らかにデマゴーグぶりを発揮しているとは読み取れない。他方では,古代ですでにクレオンは同時代人のアリストファネスの諸喜劇の中で嘲笑の的になったし,それらの作品をギリーズらの近代人は知り得ていた。それゆえ,ギリーズやミトフォードの著作にみられるクレオンのデマゴーグぶりには明らかにアリストファネスの諸喜劇の影響がうかがえる。だが,アリストファネスの諸喜劇は,ソクラテスの事例に鑑みれば,喜劇作品であるがゆえに問題がある。それゆえ,政治家クレオンについて,歴史家は,その真相を喜劇作家に求めるべきではなく,トゥキュディデスの史料に求めるべきであるので,ギリーズやミトフォードにおける政治家クレオンの像は再検討の必要があろう。かかる再検討の作業を行なうならばクレオンが彼らが描くほどデマゴーグではなかった可能性が見出せるかもしれない。
著者
古閑 美津久 堀川 毅信 宇城 輝 谷内 正博
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.232-241, 2006-10-10
参考文献数
7
被引用文献数
4

2005年9月初旬台風14号の通過に伴う豪雨により宮崎県下では土砂災害や浸水災害が発生した.台風は広い暴風域を維持したまま九州西岸を時速15km程度でゆっくり北上したため,長時間にわたって降雨が続き記録的な豪雨となった.宮崎市の南西約20kmにある鰐塚山(1,118m)の9月3〜6日までの総雨量は1,013mmに達し,山地の周辺,とくに北麓斜面で大規模な崩壊・土石流が発生し,清武川上流の別府田野川,片井野川,境川では大量の土砂が流出して河道を埋めた.幸いにも人的被害はなかったものの崩壊や流出土砂の規模は記録的なものであり,今後の復旧および治山・砂防対策が課題となる.筆者らは空中写真判読を実施し鰐塚山周辺域の災害の概要を把握するとともに9月22,23日に別府田野川流域と鰐塚山の南方広渡川上流域について現地調査を実施した.その結果,鰐塚山北麓では幅数十m,長さ数百m以上に達する大規模崩壊が10か所以上発生し,反面,小〜中規模の崩壊は少ないこと,深層崩壊と地すべり性崩壊の2タイプがあることなどを把握した.一方,広渡川上流では大規模な斜面崩壊により崩土が河床部を埋め,天然ダムが形成された.本報はこれらの災害状況を報告するものである.
著者
中尾 睦宏
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.1032-1039, 2017 (Released:2017-10-01)
参考文献数
18

Evidence-based medicine (EBM) では, つくる側と利用する側で, 情報の集め方が異なる. つくる側の立場では, 最新の医学的文献を集め, その中身を精査し, 批判的吟味 (critical reading) をする. EBMを利用する観点に立てば, 医療者でない人, つまり患者や健康な人に対して, できるだけわかりやすく正確に情報提供される必要がある. その際, 情報で終わるだけでなく, 現実の問題を解決するための具体的な道筋が示されなくてはならない. 筆者は5年前の心身医学講習会で, 2つのEBM実践例について発表をした (心身医学52 (12) : 1110-1116, 2012). 「高血圧症へのバイオフィードバック療法」 と 「慢性腰痛を有する心気症患者への認知行動療法」 である. 本稿では, 2つの実践例がその後どうなったかまとめる. そしてEBMの先にある課題として, 「ヘルスコミュニケーション」 と 「問題解決アプローチ」 について紹介をする.
著者
山本 照子
出版者
日本舌側矯正歯科学会
雑誌
日本舌側矯正歯科学会会誌 (ISSN:18836216)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.24, pp.31-42, 2014 (Released:2015-07-19)
参考文献数
35

近年,国内外において,ミニインプラントを固定源に用いた矯正歯科治療が急速に普及してきた.なかでも,矯正歯科医が自ら埋入可能な歯科矯正用アンカースクリューは,上下顎歯槽骨において様々な部位に植立でき,術式も比較的簡単で,術後の痛みも軽微である.本稿では,歯科矯正用アンカースクリューの薬事承認の経緯,これまでの臨床応用,安全性と安定性を考慮したアンカースクリューの最適な長さについての最新の研究について報告する.
著者
松村 崇史
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.37-40, 2002-03-20
参考文献数
18
被引用文献数
1

急性期RSDの5例に対し柴苓湯と六君子湯を投与し,疼痛(VAS),腫脹,手指運動障害について検討した。うち4例が6週以内に疼痛が半分以下に減少し有効であった。腫脹,手指運動障害は疼痛に先行して改善する傾向があった。RSDの急性期は局所の炎症が主体であるが,発症しやすい精神的素因や発症後の気虚があり,全身的疾患の部分症と認識する必要がある。それゆえ柴苓湯と六君子湯による漢方治療は合理的な治療法と考えられた。
著者
濱口 眞輔 小松崎 誠 北島 敏光 恵川 宏敏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.366-371, 2017 (Released:2018-02-07)
参考文献数
16
被引用文献数
1 6

当院を受診した腰椎疾患のうち,変形性腰椎症,腰部脊柱管狭窄症,腰椎手術後症候群による下肢の痛み,冷え,痺れを呈する患者を診療記録から抽出し,漢方薬による治療効果について調査した。評価項目は下肢の痛み,冷え,痺れの有無,先行した疼痛治療法,選択した方剤とその効果とした。その結果,これらの疾患による下肢痛,冷感,痺れに対して,証に随って先行鎮痛治療に追加した漢方薬としては桂枝加朮附湯,真武湯,苓姜朮甘湯,当帰四逆加呉茱萸生姜湯,牛車腎気丸,芍薬甘草湯の処方例が多く,痛みは60例中32例(53%),痛みと冷えの合併には34例中17例(50%)と概ね半数の症例に効果がみられたが,痛みと痺れの改善は19例中4例(21%)のみであった。桂枝加朮附湯,苓姜朮甘湯,牛車腎気丸,当帰四逆加呉茱萸生姜湯,真武湯の先行鎮痛治療への追加処方は腰痛疾患による下肢症状緩和に有用であると結論した。
著者
会津 直樹 鈴木 栄三郎 大内田 裕 須藤 珠水 出江 紳一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0635, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome以下CRPS)は,主に外傷後に起こる四肢の遷延する疼痛疾患であり交感神経機能の異常を伴い,リハビリテーションにおいて治療に難渋する。近年,CRPS患者の身体性や空間注意に介入し疼痛を軽減する新規手法がそれぞれ報告されている。しかしながら,CRPS患者では患肢自体に対する注意(身体性注意)が低下していること,一方で,患側空間への注意が過剰になっていることがそれぞれ報告されているため,効果的な治療法を選択する際に患者ごとに身体性注意と空間注意の両者の変化を捉える必要が考えられる。そこで,本研究では心理物理学的手法を用い,身体性注意と空間注意を同一環境で客観的に測定し,CRPS患者の身体性注意と空間注意の変化を明らかにする評価法を確立することを目的とする。【方法】健常者27名,手に症状を有するCRPS患者3名を対象にした。身体性注意を測定するために,患者は机の前の椅子に座り机上の左右のいずれかの位置に患側手を置き,もう一方に手の形をした模造手を置いた。PCにて反応時間課題を作成し,頭上のプロジェクターから視覚刺激を患側手上または模造手上のいずれかに提示させ,できるだけ早く健側手でボタンを押し,反応時間を記録した。健常者では左手の上に視覚刺激を提示させ,右手でボタン押しを行った。模造手上の反応時間から患側手の反応時間を引いた値を患側手の身体性注意量と定義した。さらに,空間注意を測定するために,机の上に患側手と模造手を位置させず,机上の左右空間に視覚刺激を提示させ反応時間を記録し,左右空間の反応時間の差を計算した。統計はone sample t-testを用い患者ごとに健常者と比較した。【結果】健常者において,身体性注意測定では,自己手上よりも模造手上の視覚刺激に対する反応時間が有意に早くなり,手の身体性注意量は22.2±11.9ms(平均±標準偏差)であった。さらに,空間注意測定では,左右空間への反応時間に差は認められず,空間注意の左右差は2.59±21.6msであった。患者では,健常者と比較して,患側手への身体性注意量(1.3ms)が有意に低下し,空間注意(2ms)には差が認められない1例,逆に,患側手への身体性注意量(17.2ms)には差が認められないが,患側への空間注意(30.9ms)が有意に低下していた1例,さらに,患側手への身体性注意量(11.7ms)も患側への空間注意(30.9ms)も有意に低下している1例を認めた。【結論】健常者において身体性注意と空間注意を同一環境で測定する手法を確立し,CRPS患者に対して身体性注意と空間注意を測定した。患者ごとに身体性注意と空間注意の変化が異なることを明らかとした。身体性と空間注意に介入する手法がそれぞれ存在するため,あらかじめ身体性注意と空間注意の変化を捉えておくことはCRPS患者に対する効果的な治療法の選択に有益な情報を与えてくれる可能性がある。
著者
藤崎 渉 澤木 佑介 横山 哲也 山本 伸次 丸山 茂徳
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.341-348, 2015-05-05 (Released:2015-06-09)
参考文献数
33
被引用文献数
3

顕生代に起きたとされる5度の大量絶滅の原因を明らかにすることは生命と地球の共進化を明らかにする上で非常に重要な課題である.特に約2億年前のトリアス紀─ジュラ紀境界(T-J境界)で起きた大量絶滅の原因として,隕石衝突説や大規模火成活動説の相反する2説が主張されてきた.本研究ではこの大量絶滅事変の原因を特定するため,T-J境界前後の遠洋深海層状チャートの間に挟まれている頁岩を採取し,その内の28試料を用いて高精度白金族元素濃度測定を行った.Pd/Pt比とIr/Pt比の関係性,及び白金族元素濃度パターンから,T-J境界前後の白金族元素の濃集は大規模火成活動に伴う玄武岩からの混入によって説明できることが明らかになった.また化石記録と比較すると,白金族元素濃度(OsとPd)の最大濃集層はジュラ紀放散虫が出現するチャート層の1層準上位の頁岩層であることも明らかになった.これらのことは,T-J境界絶滅前後において大規模火成活動の寄与が大きかったことを示す.
著者
保國 惠一
出版者
一般社団法人 日本応用数理学会
雑誌
応用数理 (ISSN:24321982)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.11-18, 2018 (Released:2018-09-30)
参考文献数
31

Linear systems involving singularity arise in a wide range of applications throughout computational science and engineering. This article aims at presenting and discussing iterative methods for solving linear systems with singularity, with an emphasis on stationary (matrix splitting) and Krylov subspace iterative methods and preconditioning techniques. For singular matrices, conventional preconditioners based on incomplete matrix factorizations may break down, whereas particular stationary iterative methods combined with Krylov subspace methods may avoid breakdown. Although classical stationary iterative methods have been regarded as slow to converge, recent stationary iterative methods have convergence speed competitive with Krylov subspace methods, and may dramatically improve the convergence of Krylov subspace methods when applied as preconditioners. We present recent results on their convergence theories in general and for particular problems such as saddle point systems and least squares problems.