著者
平 雅行
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.157, pp.159-173, 2010-03-15

中世社会における呪術の問題を考える際、その議論には二つの方向性がある。第一は中世を呪術からの解放という視点で捉える見方であり、第二は中世社会が呪術を構造的に不可欠としたという考えである。前者の視角は、赤松俊秀・石井進氏らによって提起された。しかし、中世社会では呪詛が実体的暴力として機能しており、天皇や将軍の護持僧は莫大な財と膨大な労力をかけて呪詛防御の祈祷を行っていた。その点からすれば、中世では呪詛への恐怖が薄れたとする両氏の考えは成り立たたない。とはいえ、合理的精神が着実に発展している以上、顕密仏教と合理性との関係をどう捉えるかが問題の焦点となる。そこで本稿では『東山往来(とうさんおうらい)』という書物をとりあげ、①そこでの合理性や批判精神が内外の文献を博捜した上で答えを見出そうとする挙証主義によって担保されていたこと、②その挙証主義は顕密仏教における論義や文献学研究を母胎として育まれたことを明らかにした。さらに密教祈祷においても、①僧侶が医療技術を援用しながら治病祈祷を行っていたこと、②一宮で行われた豊作祈願の予祝儀礼も、農業技術の達成を踏まえたものであったことを指摘した。そして、高い合理性を取り込んだ呪術、呪術性を融着させた高度な合理主義が顕密仏教の特質であると論じた。そして、顕密仏教が中世の呪術体系の頂点に君臨できた要因として、①文献的裏づけの豊かさと質の高さ、②祈祷を行う僧侶の日常的な鍛錬、③呪詛を正当化する高度な理論の3点をあげた。最後に、合理性と呪術性の共存、呪術的合理性と合理的呪術性との混在は、顕密仏教だけの特質ではなく、程度の差こそあれ、現代社会をも貫く超歴史的なものと捉えるべきだと結論している。
著者
高槻 成紀
出版者
麻布大学
雑誌
麻布大学雑誌 = Journal of Azabu University (ISSN:13465880)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.43-50, 2015-03-20

Mr. K. Orisaka, a graduate of Azabu University, donated many precious Japanese traditional horse harnesses in 2009. We presented an exhibition of medical equipments for horses in 2009, and we mounted another exhibition to show equipment for protecting horse legs and hooves from January 23rd to May 16th, 2014. Mr. Orisaka emphasized the importance of “slippers” to stop hooves slipping on ice (crampons) and showshoes to prevent them sinking into snow. The exhibition also showed “horse bells”. Mr. Orisaka emphasized the uniqueness of Oozone which makes sounds by touching horse bells or metal rings. These collections will be preserved at Azabu University Museum.
著者
村山 孝道
出版者
京都文教短期大学
雑誌
京都文教短期大学研究紀要 (ISSN:03895467)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.13-24, 2021-03-01

PTA の必要論・不要論の実態を明らかにするために、アンケート(n=948)の分析を行った。必要37.4% に対し不要が55.9%と過半数を上回った。自由記述の分析の結果、不要論に強い影響を与えたのは「存在意義・効果への疑義」「選出方法・強制感・理不尽さ」「人間関係・人権問題」であった。「負担感・不公平感・非効率さ」は要・不要論の双方が指摘しており、理念的な取り組みだけでは不十分で、具体的な業務改善が不可欠であることが明らかとなった。
著者
小島 透
雑誌
中京法学
巻号頁・発行日
vol.49, no.3.4, pp.73-102, 2015-03-20
著者
小杉 泰
雑誌
国際大学大学院国際関係学研究科研究紀要 = Bulletin of the Graduate School of International Relations
巻号頁・発行日
1985-12-01

The Islamic Revolution (1978-9) and the post-revolutionary political system in Iran are often interpreted as a Shi'i revolution and a Shi'i theocracy. Although the Iranian culture is strongly coloured by the tradition of Ithna 'Ashari school of Shi'ite Islam, it does not prove that contemporary Iranian political system is more sectarian than being generally lslamic. It is absurd to confirm its sectarian nature before examining its common features with other Islamic Cultures. Here brought are two lslamic Constitutions for comparison. One is the constitution of Islamic Republic of Iran, which enbodies general Islamic principles and particular historical structurcs set by the consequencies of the revolution. The other is a draft Islamic constitution written in 1978 by Sunni scholars in Egypt. Though this one is also situated in the general context of Islamic revival, the draft is not of revolutionary nature at all. Furthermore, since it was made as a theoretical one, not intended to be applied in a particular condition in a particular country, it is expressed in very general manner. Therefore the comparison of the two, which are supposedly a particular Shi'i one and a general Sunni one, is very useful to find what is Commonly Islamic. As a result, two constitutions show many ideas in common. Among these are:Unity of Ummah (Community-State); no distinction between regnum and sacerdotium; Divine Sovereignty and its trust to the humanity; the primacy of Islamic Law and the subordination of the state which serves the Law, hence the ethical raison d'etre ofthe state; the primacy of 'Ulama'who are regarded as guardians of this judicial law; the confinement of the administrative power within the limits set by Islamic Law; the idea of Islamic democracy and importation of the electral system as a usefUl device, not as a principle of the Western democracy.
著者
植野 義明
出版者
東京工芸大学工学部
雑誌
東京工芸大学工学部紀要 = The Academic Reports, the Faculty of Engineering, Tokyo Polytechnic University (ISSN:03876055)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.14-24, 2019-12-25

数学教育学会では、研究グループ「数式音読SG」が新たに発足し、第1回ワークショップが2018年8月6日に開催された。この研究グループでは、数式を声に出して読むことの教育的意義に関する教育心理学における先行研究に基づいて、学校現場で数式を読む方法の標準を構築するための基礎研究を目的としている。このような研究は、小学校から大学までの教育現場に直接影響を与えることが期待されており、多くの人々の知識と実証データを収集することにより促進されるべきである。本論考では、上記の研究グループが本格始動する前の準備として、小学校から大学までのカリキュラムに含まれるいくつかの数式について、日本語と英語での読み方を比較・検討したい。
著者
名城 邦夫
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.1-30, 2017-03-31

本論文は近代資本主義市場経済システムが17世紀ヨーロッパ中心に成立した過程を,古代オリエント都市において成立した国家と計算貨幣の継起的発展史に位置付けて描くことを目的としている。 そのうち本編では,メソポタミア文明における楔形文字法典文書によって描かれる国王と社会の契約によって成立した国家が法を制定し,公正な社会規律と再分配を実現するために,その基準として計算貨幣を使用したことを実証しようとするものである。この計算貨幣は法によって,規律化された契約と国家によって決定された価値基準によってその基礎が与えられ,当該経済世界の市場価格を決定した。 この計算貨幣の購買力を体現するためにリュディア王国において世界最初の打造貨幣が製造された。この貨幣はリュデイア王国に産するエレクトロン製で,その技術はオリエント文明が獲得した高度の冶金技術によるものであった。
著者
西川 広平
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.191-219, 2021-09-30

大江広元を祖とする鎌倉幕府の御家人長井氏を対象に、一三世紀から一四世紀にかけての同族間ネットワークの推移について考察し、文士である広元一族による在地武士の糾合と所領支配は、主要な交通路の要衝を広域的に掌握することで実現したこと、また一四世紀前半に長井惣領家を中心にして、庶子家および広元末裔の御家人との間に二重の同族間ネットワークが成立したこと等を明らかにした。これらは、執権北条氏との連携や幕府の支配体制に依拠することによって実現・成立しており、鎌倉幕府滅亡や室町幕府の政治体制の変化により、長井氏は政権の中枢を占める地位を喪失するとともに、その同族間ネットワークも解体した。これらの考察の結果、御家人の移動が列島規模で活発化した一三・一四世紀を通して、武士団のネットワークが維持される基盤の多様性を指摘した。
著者
矢嶋 翔
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.153-189, 2021-09-30

本稿は『相国寺供養記』の写本の一つであり、東北大学附属図書館内狩野文庫が所蔵する『相国寺供養日記』(以下、狩野本と表記する)の史料紹介と翻刻を行うものである。『相国寺供養記』とは、北朝の公家である東坊城秀長が執筆した明徳三年(一三九二)八月二十八日における万年山相国承天禅寺(相国寺)の慶讃供養に関する記録である。 右史料は、従来、『群書類従』釈家部所収本(以下、群書類従本)が善本として研究利用されてきたが、狩野本を調査した結果、群書類従本に見られない記述を数箇所確認することができた。『相国寺供養記』の全容を把握するためには、群書類従本以外の写本の検討を通した『相国寺供養記』の復元作業が必要である。本稿では狩野本の翻刻掲載を通して、『相国寺供養記』の研究の前進を試みた。