著者
平間 祐志
出版者
北海道立衛生研究所
雑誌
北海道立衛生研究所報 (ISSN:04410793)
巻号頁・発行日
no.52, pp.73-77, 2002

有機塩素系農薬やPCBsなどの化学物質は広く環境中に分布し、食物連鎖によってより高次の生物に蓄積することが知られている。これらの化合物の中にはエストロゲン作用や催奇形性、免疫能の低下をひきおこす原因となる物質も含まれており、野生動物やヒトへの影響が懸念されている。これらの化合物の生体中での蓄積や代謝についての特徴を把握することは、化学物質の暴露による影響を予測する上できわめて重要なことと考えられる。PCBsは理論的に209種類の異性体・同族体が存在する。PCBsは多成分からなる混合物として製造されたため、その製品中には約140種類の異性体・同族体を見いだすことができる。日本では鐘淵化学のカネクロールKC-300、KC-400、KC-500、KC-600が主なPCBs製品であり、これらの製品の組成はドイツやアメリカで製造されたクロフェンやアロクロールなどのPCBs製品とほぼ同等であることが知られている。環境を汚染しているPCBsはこれらのPCBs製品であるが、高次の生物に残留しているPCBs組成はその起源となるPCBs製品とは異なったものとなっている。これは食物連鎖の末端から順次高等な生物に取り込まれていく過程で、体内で誘導される薬物代謝酵素チトクロームP-450群によって代謝されていくためである。北極圏に生息するタラ、アザラシ、シロクマは垂直的な食物連鎖の典型であり、それぞれの体内に残留するPCBsは複雑な組成から単純な組成に変化している。暴露源のPCBs組成と生物に残留するPCBs組成の両方を測定することによって、それぞれの生物に固有の薬物代謝能を知ることができる。また、生物体内に残留しているPCBs組成を調べることにより、汚染源のPCBs組成を推定することも可能であると考えられる。本報では組成が既知のPCBsとしてのKC-300、KC-400、KC-500、KC-600を含むコーンオイルを調製し、これをマウスに一回、経口投与し、肝臓に残留するPCBs異性体・同族体の濃度と組成を解析することによって、PCBsの化学構造と代謝の関係を明らかにすることを目的とした。
著者
高本 條治
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.467-483, 1997

川端康成「伊豆の踊子」の中に,表現として顕現していない主格動作主の解釈が曖昧な文がある。この解釈事例には,結束性と一貫性の双方が関わっている。小論では,結束性・一貫性という言語学用語について確認的な概観をした上で,関連性理論の枠組みに基づいてこの事例の分析を行う。分析にあたっては,川端自身がその文の解釈について書き残しているエッセイを利用する。分析を通じて,結束性解釈が語彙統語構造から受ける強い制約,結束性解釈と一貫性解釈との連携性,結束性解釈と一貫性解釈の衝突などの問題を議論する。In Izu no Odoriko (The Izu Dancer) written by Yasunari Kawabata, there is a sentence whose covert subject is interpretively ambiguous. This interesting case of interpretation involves several pragmatic problems related with both 'cohesion' and 'coherence'. In this paper, first, I gave an overview in terms of the distinction between 'cohesion' and 'coherence', as well as the definitions of each two terms. After that, using the essay work in which Yasunari Kawabata himself wrote about his own intended interpretation, I look at these problems from the viewpoint as follows : (i) how cohesion and coherence restrict each other, (ii) how cohesion and coherence cooperate with each other, and (iii) how cohesion and coherence conflict with each other.
著者
木村 安美 水上 戴子
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.813-823, 2008-10-15

思春期,または思春期と妊娠期のラットに食餌量を制限した場合に母体と子の発育に及ぼす影響について検討した.7週齢のWistar系雌ラットを3群に分け,ミルクカゼインと分離大豆たんぱく質をそれぞれ10%ずつ含むたんぱく質20%食を自由摂取させた群を対照群(CC群)とした.制限群とした2群のうち,思春期のみ食餌制限した群をRC群,思春期・妊娠期に食餌制限した群をRR群とした.食餌制限の方法はCC群の体重当たり平均摂取量より30%少ない量,即ち70%量を投与し,食餌制限は自由摂取群とのpairfeedingにより行った.授乳期には全群ともに自由摂取させた.得られた結果は次の通りである.1)母体への影響では,自由摂取群に比較して,思春期に食餌制限をしたRC群,思春期と妊娠期を通して食餌制限をしたRR群ともに体重増加が有意に小さかったが,妊娠維持,分娩は可能であった.RC群,RR群の1腹子当たりの出生子数はCC群より有意に低値を示した.2)思春期のみ食餌制限した場合,自由摂取群に比較して,新生子体重,臓器重量,脳中のたんぱく質,RNA,DNAの総量が低値を示し,離乳子においても体重,臓器重量,脳中コレステロール量が有意に低値を示した.離乳時までの子の生存率は73%であった.3)思春期と妊娠期に食餌制限をしたRR群では,新生子の体重がCC群,RC群より有意に軽く,臓器重量,脳と肝臓中のたんぱく質,RNA,DNAの総量および脳と肝臓のたんぱく質合成能がCC群より有意に低値を示した.離乳子においても体重,臓器重量,脳中コレステロール量はCC群より有意に低値を示した.離乳時までの子の生存率は64%であった.以上より,思春期と妊娠期を通して食餌制限をすると,母体と子の発育への影響が顕著にみられた.思春期のみの食餌制限であっても,子への影響があることが明らかになった.
著者
根本 淳子 柴田 喜幸 鈴木 克明
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.259-268, 2011
被引用文献数
1

本論文は,教育実践において学習デザインの定期的な改善サイクルを実現することでよりよい教育実践を生み出すことの重要性に焦点を当てたデザインベース研究のアプローチによる実践研究の報告である.国内では新しい学習デザインであるストーリー中心型カリキュラム(SCC)を採用した実践を取り上げ,SCC応用の可能性の手がかりを探りつつ,より深い学びを目指した実践に取り組んだ結果から得られた知見を整理した.学習デザインの定期的な改善サイクルを通じ,実践者のリフレクションを促すだけではなく,学習者の内容理解を深めていくことについて確認した.その結果,学習者個人と学習共同体双方への影響を確認することができた.本実践は,本論文の対象である2008年度と2009年度の実践を踏まえ,現在三回目のサイクルの最終段階にある.更なる検証を通じ新しい学習アプローチがより広く使われていくために,知見をデザイン原理として整理し,SCC実践に関する学習者の声を収集し整理していくことが課題となる.
著者
渡邊 浩之 鈴木 克明 戸田 真志 合田 美子
出版者
日本リメディアル教育学会
雑誌
リメディアル教育研究 (ISSN:18810470)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.161-172, 2014-11-30

The role of student tutors is to support new students, as well as other students who are having trouble with learning, so as these students can teach themselves. In Japan, however, there are but a few case examples that verify the quality of these tutors. Therefore, for the purpose of this research an examination of established peer support learning guidelines and other guidelines applied by North American universities was conducted in order to manifest new guidelines. In order to establish the guidelines, elements required of tutoring were extracted from various tutor handbooks, guidelines, and manuals used by twenty-six institutions and universities in Japan and the United States. These extrapolated elements were then integrated to complete the guidelines. Furthermore, the guidelines were revised through a two-step formative evaluation. Finally, the guidelines were tested in order to evaluate their effectiveness in improving the quality of tutors. To conclude this paper, future topics for consideration are discussed.
著者
冨田 和子
雑誌
椙山国文学
巻号頁・発行日
no.20, pp.79-100, 1996-03-12
著者
槇林 滉二
出版者
尾道大学芸術文化学部
雑誌
尾道大学芸術文化学部紀要 (ISSN:13471910)
巻号頁・発行日
no.8, pp.69-78, 2009-03-25

一種の盾の両面を現すものであるかもしれないが戦前・戦中期の時代に対する文学の形相として三好十郎の文学に一つの象徴的な表象を見る思いがする。まさに文学や思想のあり方における相似的な対立あるいは類同についてである。以下、典型的な例を摘出、その意味するところと内実について少し触れてみたい。盾の一面に象徴されるものとは、三好十郎出発期の佳作「庇だらけのお秋」(昭3・8~11『戦旗』)であり、今一面は、戦中の力作「おりき」(昭19・3 「日本演劇』)である。私の全くの臆断にすぎないのであるが、私は二作を繋ぐ一つの存在として樋口一葉の文学、とりわけ「にごりえ」(明28・9)、「十三夜」(明28・12)を措定してみたい。少し心して探ってみたのだが、今の所、三好に樋口一葉や一葉の文学への言及を見出しえていない。そもそも三好には明治文学そのもの、とくに小説類に対する言及は乏しい。しかし、何らかの形で、この二作の質量を測る「物差し」の役割を果たすものが一葉のそれらにあるように思うのである。前者においては人物配置を含む内実の位相について、後者においてはただに主人公の名前の類似ということにすぎないのであるが。あくまで「物差し」の役割を考えつつ、それらの類同とそこから見えるものについて少し追ってみる。
著者
森 陽子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.109-118, 2004
被引用文献数
4

本研究では,動機づけと自己制御学習方略の使用との関連について検討した.被験者は中学生1381名であった.質問紙として,学習方略尺度と学習動機づけ方略測定尺度(motivated strategiest for learning questionnaire[MSLQ])から自己効力感と内発的価値を測定する項目を用いた.そして,中間テストの結果を失敗と捉え,その原因を努力に帰属する生徒の努力観について調査した結果,努力を統制可能で内的,不安定なものと捉えている生徒が238名と最も多く,次いで努力を統制可能で内的,安定したものと捉えている生徒が192名であった.また,その生徒を分析対象とし,努力観,自己効力感,内発的価値および自己制御学習方略に対する有効性とコストの認知が自己制御学習方略の使用に及ぼす影響について検討した結果,自己制御学習方略に対する有効性とコストの直接的な影響と,努力観,自己効力感,内発的価値の間接的な影響がみられた.
著者
北野 秋男
出版者
教育思想史学会
雑誌
近代教育フォーラム (ISSN:09196560)
巻号頁・発行日
no.24, pp.1-9, 2015-09-12

現代アメリカの学力向上政策は、1990年頃を境に「ハイステイクス・テスト」「タフ・テスト」と呼ばれる学力テストの結果に基づく教育アカウンタビリティ政策の具現化を特徴とする。M.フーコーは、「規律・訓練のすべての装置のなかでは試験が高度に儀式化される」(フーコー,1977: 188)として、試験が生徒を規格化し、資格付与し、分類し、処罰を可能とする監視装置となることを指摘したが、今や学力テストは児童・生徒を評価・監視するだけではない。学区・学校・教師をも評価・監視する装置へと変貌している。本論文で指摘する学力テストの「暴力性(violence)」とは、学力テストの実施と結果を利用した「抑圧」「統制」「管理」という「権力性(gewalt)」を意味するものであり、それは連邦政府や州政府によってもたらされた全ての児童・生徒、学区・学校・教員に対する脅威となるものである。