著者
森本 和寿
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.67, pp.123-136, 2021-03-25

本稿は、ライティング教育はどのような視点から、どのように分類できるかという問題意識の下、米国におけるジェームズ・バーリンとリチャード・ファルカーソンの分類に着目し、ライティング教育の理論的な分析枠組みを描くことを試みた。先行研究において見落とされていた1980年代のバーリンの研究成果を検討することで、ファルカーソンの分析枠組みを修正し、より妥当な枠組みを提供することを目指した。本稿では、価値論/認識論、教授学、評価の3つの観点と現代的伝統修辞学、認知主義、表現主義、批判的/文化研究、手続き的修辞学という5つの立場で構成される新しい分析枠組みを提示した。これにより、①認知主義のポリティクスへの分析視角が保障される、②「プロセス」概念を教授学に組み込むことで分析視角が明瞭になる、③価値論・認識論に関わる論点と評価論に関わる論点を個別に検討できるという改善が得られた。
著者
佐野 和子
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.67, pp.85-98, 2021-03-25

女性の職業的技能形成の主要なパターンである職業資格の有用性について、資格職に就く女性を対象に、職業移動、および賃金を従属変数とするパネルデータ分析を行った。その結果、資格職共通の特徴として同じ職に留まる割合が高く、無職後の復帰職となる傾向が強いことから、企業内部でのスキル形成を選択しない女性にとって、資格は安定的な<職>を保障することで継続的なキャリア形成に貢献している点が示された。実質的な収益に対しては、個別効果を取り除いた固定効果モデルによる分析では資格職の効果は見られない。但し対象を大学卒の女性に限ると医療・保健系資格職に、非大学卒の女性に限ると教員にそれぞれ作業職に対する賃金上昇効果がみられた。女性全員を対象にした分析では企業属性に賃金上昇効果はなく、企業内でキャリアを重ね収益を高めるパターンとは異なる、日本特有のスキル形成システムの縁辺に広がる女性のキャリアが明らかとなった。
著者
糸川 悦子
出版者
北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院
雑誌
国際広報メディア・観光学ジャーナル
巻号頁・発行日
vol.20, pp.17-34, 2015-03

This article analyzes the Japanese electric power supply network using Ulrich Beck’s theory of ‘sub-politics’, which argues that political decisions are made by non-political and expert groups, rather than by parliamentary government. What kinds of factors were necessary for the electric power supply network to become sub-political? In order to answer this question, this article focuses on risks and benefits, the influence of several wars, technological innovation and the transition in the value of electricity, in relation to both the government and the electric industry.
著者
日高 茂暢 眞鍋 優志 小泉 雅彦 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.35-48, 2019-03-25

野外での療育活動の実践研究は、特定のスキル獲得が中心であり、子ども・青年の関係性に焦点をあてた検討は少ない。本研究の目的は、神経発達症のある子どもと青年の異年齢期交流が発達にもたらす影響を明らかにすることである。本研究では、親の会が企画する登山キャンプに参与観察し、キャンプ内で生じる参加者の異年齢期交流を調査した。登山キャンプでは、子どもと青年の間にナナメの関係性が生じやすいことが分かった。その結果、子どもにとっては近未来像として取り入れるロールモデルになること、青年にとっては支援者の行動を模倣し子どもに実践する養育性形成の場になることが考えられた。また登山キャンプは居場所として、集団精神療法のような心理的安定を促す要素があることが考えられた。神経発達症のある子どもや青年にとって、同年齢集団と比べ、異年齢集団の方が能力の差異を肯定的に承認されやすいと考えられた。
著者
濱田 康行 中村 宙正
出版者
(社)日本証券アナリスト協会
雑誌
証券アナリストジャーナル (ISSN:02877929)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.129-140, 2005-11

地方経済の苦境が続いている中で、わが国の地方証券取引所の現状と問題点について考察する。通信技術の飛躍的発達もあって証券取引所の東京一極集中が進んでおり、各地方証券取引所は市場間競争にさらされている。大阪、福岡、名古屋、札幌の順に、ジュニアマーケットの活性化策などを中心に見てみる。最後に、大きな意味での金融構造の変化の中で、理論的に見て地方証券取引所の存在意義が見いだせるかどうかを検討する。
著者
武井 寿
出版者
早稲田商学同攻会
雑誌
早稲田商学 (ISSN:03873404)
巻号頁・発行日
vol.413・414, pp.147-181, 2007-12

論文
著者
張 潔麗
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.67, pp.57-70, 2021-03-25

本稿では中国高等職業教育分野における1+X制度の位置づけを明らかにするため、従来ある各種証書を制度枠組みと高等職業教育分野における取得方法を整理した。その結果、高等職業教育分野と企業・産業界との緊密なつながりを図る方向性は2000年以降継続してみられ、その具体的な方法は、既存の職業資格証書自体の高等職業教育分野への導入から、各種職業基準が反映される職業技能水準証書の新設までに転換したことが明らかになった。現在、高等職業教育分野では学歴証書、職業資格証書、職業技能水準証書が同時に存在し、これらの組み合わせからなる双証書制度および1+X制度が異なる位置づけを有している。後者の1+X制度は、労働者の学歴教育および職業の間の流動可能性を向上させて、高等職業教育分野と産業界の境界線を不明確にするものとして、高等職業教育分野と企業・産業界の双方の需要が反映される架け橋として位置づけられているといえよう。
著者
寺中 久男
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学研究報告. 自然科学 (ISSN:03653722)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.43-47, 2008-03-01

銅酸化物高温超伝導体を記述するモデルとして導入された2次元t−J モデルは,平均場近似や数値解析等の枠組みでは,うまく超伝導の対形成や対の対称性が説明されたように見える.しかし,厳密な2次元系として捉えると,有限温度においてはd_<x^2-y^2>波対称の超伝導秩序は実現不可能であることがボゴリューボフの不等式により厳密に示される.