著者
辻 瑞樹 松浦 健二 秋野 順治 立田 晴記 土畑 重人 下地 博之 菊地 友則 ヤン チンチェン 五箇 公一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

生物学的侵略機構の研究には自然分布域と侵入域の比較が不可欠である。日本ではあまり知られていないが、近年北米で日本由来の複数の外来アリ種による環境被害が広がっている。しかし皮肉にもこれは日本の研究者にとって居ながらにして侵略アリの自然個体群情報を収集できる絶好の機会である。そこで、本研究では侵略的外来昆虫研究の日米のエキスパートが協力し、これら日本からの侵入者の生態・行動・遺伝情報を侵入先と自然分布域である日本国内で徹底比較する。さらに広大な国土を持つ米国で日本では不可能な野外実験を行う。既存の諸学説を整理しながら網羅的にテストすることで外来アリの侵略機構に関する一般論を導く。以上の目的で研究を始めたが、初年度冒頭に代表者の不測の病気が発覚し研究が遅延した。そこで、2年度目以降は遅れを取り戻すべく主として以下の研究を鋭意進めている。まず、米国側のカウンターパートと協力し、オオハリアリ、アメイロアリ、トビイロシワアリの各国個体群の基礎データを収集した。とくにトビイロロシワアリの炭化水素データを重点的に収集した。また多数外来アリが分布する沖縄では外来アリと在来アリの比較研究を室内および野外で進め、外来種を含むアリには採餌機能に関する複雑なトレードオフが存在することを立証した。また、日米比較の最大の成果として、オオハリアリが侵入前の原産地である日本国内においても侵略先の米国個体群と同様に、高度な巣内近親交配を行なっていることを明らかにし国際誌に発表した。これは近親交配耐性が侵略の前適応であることを示した世界初の成果である。また、テキサスのフィールドに研究代表者が研究室の学生らとともに訪問し実験のプロットを設置しており、2017年夏に2度襲来したハリケーンのため野外プロットが水没した遅れを取り戻すべく鋭意研究を進めている。H30年度にはプロットを再設置した。
著者
石田万里 石田隆史 坂井千恵美 アンディ アリヤンディ 木原康樹 吉栖正生
雑誌
第55回日本脈管学会総会
巻号頁・発行日
2014-10-17

【目的】オメガ‐3系脂肪酸は,全死因死亡と各種心血管疾患のアウトカム(突然死,心臓死,心筋梗塞など)を低減させると報告されている。私たちはこれまで動脈硬化発症のメカニズムにDNA損傷によるゲノムの不安定性が関与していることを報告してきた。そこで本研究では,オメガ‐3系脂肪酸が動脈硬化進展を抑制するメカニズムのひとつとして,ヒト血管内皮細胞のDNA損傷をオメガ‐3系脂肪酸が軽減するか否かを検討した。【方法と結果】酸化ストレス(H2O2)によるヒト大動脈内皮細胞のDNA損傷,特に二本鎖切断を,リン酸化ヒストンH2AX抗体を用いた蛍光免疫染色により定量的に評価した。エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)はH2O2による二本鎖切断を有意に減少させた(p<0.05)。DNA損傷応答の主要タンパクであるATMの活性化はEPAおよびDHAによって増強せず,二本鎖切断の減少はDNA修復の増強によるものではないと考えられた。ウェスタンブロットを用いた検討から,EPAおよびDHAは細胞内のカタラーゼの発現を増強することが明らかとなった。そこでCM-H2DCFDAを用いて細胞内活性酸素種(ROS)量を定量したところ,EPAおよびDHAは内因性およびH2O2投与後の細胞内ROS量を有意に抑制した(p<0.05)。【結論】オメガ‐3脂肪酸であるEPAおよびDHAは血管内皮細胞においてH2O2によるDNA損傷を軽減する。この作用はカタラーゼの発現増強およびそれによる細胞内酸化ストレスの減弱によることが示唆された。
著者
ボクラベック ポトツカ イザベラ コバルチック イローナ バー ママドゥ マウサ スカラジンスキ ダリウス ヤン
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.102, pp.1045, 2009

We demonstrated that LPA is synthesized in endometrium and there is higher LPA concentration and mRNA expression for LPA1 in bovine endometrium during pregnancy than estrous cycle. Thus LPA may contribute to early pregnancy establishment. In <I>in vivo</I> study we investigated LPA effect on conception rate, P4 and PG secretion in heifers. Animals were inseminated 72 h after second PGF2α injection. From Day 15 to 18 after insemination, heifers were treated intravaginally with: saline (control), LPA (1 mg) or VPC32183 (1 mg; n = 8 for each group). Blood samples were collected on the following days after insemination: 0, 6, 12, 15, 16, 17, 18, 21 and 30. Pregnancy was confirmed by USG and <I>per rectum</I> examination on days 30 and 49. LPA administration resulted in increase in P4 and PGE2 concentrations compared to saline and VPC32183 - treated heifers (P<0.05). In saline and LPA-treated groups 6 out of 8 heifers were pregnant, whereas conception rate in VPC32183 – treated heifers was 37% (P<0.05). In <I>in vitro</I> study we examined the effects of LPA on PG secretion and <I>PGES</I> and <I>PGFS</I> mRNA expressions in stromal and epithelial cells of bovine endometrium on Days 16-18 of pregnancy and estrous cycle. LPA increased PGE2 production and <I>PGES</I> mRNA expression in stromal cells at estrous cycle and pregnancy (P<0.05). The overall results indicate that LPA serves as luteotropic factor during early pregnancy stimulating P4 and PGE2 secretion through activation of <I>PGES</I> mRNA transcript expression in stromal cells. Moreover, at pregnancy establishment, endogenous LPA protects CL and embryo development.
著者
金 貞花 シュマッカー ヤンディャク 藤井 聡
出版者
人間環境学研究会
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.71-77, 2012

スペインの哲学者オルテガ(1883~1955)の著書「大衆の反逆」(1930)に基づいて、社会ジレンマの問題は「傲慢性」の因子という心理的傾向性に影響がある可能性が指摘されている。本研究では、交通需要マネジメント施策の賛同と共感意識形成問題を社会的ジレンマ中の一つと見なし、『傲慢性』が「交通施策に対する賛同と共感意識形成」と負の関係があるという仮説に基づき進める。さらに、政府に対する信頼、環境問題に対する認知、公共交通や自転車、徒歩などの環境にやさしい交通手段に対する意識といった心理的要因も施策への賛同と共感意識の形成に影響する要素と考えている。本研究では、まず、アンケート調査を通じて上に述べた心理的要因に関するデータを収集してTDM施策に、主に環境税に対する受容可能性に対し影響を及ぼすという仮説を設定し、検証する。
著者
スギアンティ ゲック ラカ ウィラワン アイ マディ アディ ウタミ ニ ワヤン アリャ
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.353-362, 2019
被引用文献数
1

観光地プンリプランの伝統的な飲料であるロロチャムチャムはチャムチャムの葉(<i>Spondias pinnata </i>(L.f.) Kurz)を含み,バリ島各地に広く流通している.この研究は,ロロチャムチャムの微生物学的特性と製造工程の衛生との関連を調べることを目的としている.バリのプンリプランで,ロロチャムチャムのすべての家内生産者と取扱業者,4つの貯水池,そして3ヶ所の水源サンプルを対象に横断的研究を行った.衛生に関するデータは,観察とインタビューにより得た.サンプルの微生物学的特性は生菌数,大腸菌群の最確数(MPN),そして大腸菌(<i>E. coli</i>)汚染について調べた.強毒遺伝子を同定するためにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査を行った.水源は腸管毒素原性大腸菌(ETEC)で汚染され,さらに貯水池の約25%とロロチャムチャムのサンプルの43.3%が大腸菌に汚染されていた.このことは,酸性条件下(平均pH 2.8)での大腸菌の生存を示している.30の家内生産者のうち,76.7%の衛生施設は安全基準を満たしていたが,器具の衛生管理(60.0%),取扱業者の衛生(50.0%),および生産現場の衛生管理(43.3%)は非常に低かった.取扱業者の不十分な衛生はロロチャムチャムの微生物学的特性と関連しており,調整オッズ比(AOR)は15.02(95%CI: 1.31-171.5,<i>P</i> = 0.029)だった.継続的な監視は,製造工程の衛生および事業従事者の衛生の改善に不可欠である.微生物学的研究は,酸性環境での生存能力を含む大腸菌の性質を理解する上で必要である.
著者
鈴木 新一 ボールド エンフアムガラン バトサイハン ビルグン ジャルガルサイハン バトザヤ バヤラサイハン ヤンダグフー バドサイハン ハシエルネデ ジャワハラン ガントゥシグ アビルメデ オトゴンバヤル
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
M&M材料力学カンファレンス
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

<p>Deterioration of large infrastructures that were constructed in the period of rapid economic growth is becoming a big problem in Japan these days. One method to measure the deterioration is to use optical method that can measure deformation or strain of a structure from a position far from the structure, and the other is to use a robot that moves on the surface of the structure and measures the deterioration of it. When one uses a mobile robot to inspect the deterioration, it is necessary for the robot to detect its own position. The paper describes basic experiments on the detection of position of a mobile robot. Two rotary encoders are used to measure the position of the robot as a function of time. When the robot moves by 8.7 m in <i>x</i>-direction, the error <i>Δ</i>y of the position in <i>y</i>-direction was about ±5 cm. In circular motion, the radius of real trajectory of the robot is approximately equal to the objective radius, whose error was 0.7% on the average.</p>
著者
高 燕文 Yanwen GAO ガオ ヤンウェン
出版者
総合研究大学院大学文化科学研究科 / 葉山町(神奈川県)
雑誌
総研大文化科学研究 = Sokendai review of cultural and social studies (ISSN:1883096X)
巻号頁・発行日
no.15, pp.87-111, 2019-03

戦時下、農民文学懇話会(1938年11月発足)や大陸開拓文芸懇話会(1939年2月発足)という官民提携の文学団体が結成されたことにより、日本内地の多くの文学者たちによる積極的な満洲開拓地の視察・見学がなされた。彼らは、満洲農業移民の諸事情を題材として、大陸開拓文学と呼ばれる文学創作ブームを生み出し、満洲農業移民の宣伝及び記録の一役を担うこととなった。その代表作の一つとして、農民文学作家の重鎮である和田傳の小説で、当時の大ベストセラーとなった『大日向村』が挙げられる。この作品においては、分村移民の模範村であった長野県・大日向村の分村移民が題材にとられている。戦時下の日本語文学における満蒙開拓に関する言説空間などの問題を考える時、この小説は無視できない役割を担っていると思われる。だが、これまでの研究の多くは『大日向村』の国策宣伝小説というような位置づけへの関心に偏りすぎていて、作中の人物像、分村移民の宣伝・動員のストーリー、満洲イメージなどの具体的な作品内容に関する分析が足りない。本稿では、『大日向村』という小説に注目し、主に作品のテキスト分析を中心として、満洲農業移民に関わる社会学、歴史学などの研究成果を取り入れながら、この作品から作家が描いた満洲分村移民の諸相の抽出・提示を試みる。まず第1章で小説『大日向村』が出版された後の影響を指摘し、この小説に関する先行研究の問題点を提起し、本稿の問題意識と研究動機を説明する。続く第2章では、『大日向村』の創作背景を解明する。当時の和田傳の恐慌下の農村への関心、朝日新聞社の友人からの要請、農相・有馬頼寧との接近、農民文学懇話会への参加、日本内地と満洲の二つの大日向村への調査などの事実を指摘し、『大日向村』の成立までの経緯を追跡する。その後第3章では具体的な作品分析を展開する。主に、作品中に宣伝された分村移民の論理、登場した各層の人物、嵌め込まれた満洲イメージ、文学表象と歴史現実との対照という四方面から、この小説に反映された満洲分村移民の実像と虚像を考察する。最終章では、まとめとして、前述した分析に基づき、この小説の「国策宣伝」と「国策記録」の両方面の性格を論じる。議論を通じてこの小説が国策順応の開拓文学作品としての一面だけではなく、農民文学の代表作として、再評価されるべきだと主張する。After the establishment of Japanese writers' societies such as the Peasant Literature Conference Party (founded in November 1938) and the Continental Pioneering Literature Conference Party (founded in February 1939), many members of these groups started visiting Japanese peasants' villages in Manchuria. They reflected various aspects of Japanese emigration to Manchuria in their works. While promoting the emigration campaign and recording the historical circumstances of the era, they contributed to the popularization of the literary genre known as Tairiku kaitaku bungaku.One such representative work is Ōhinata-mura (1939), the best-selling documentary novel by Wada Tsutō, a prominent writer of peasant literature. This novel concerns the village-division (bunson) of Ōhinata village in Nagano prefecture, which came to be regarded as a showcase as well as a role model for the bunson emigration campaign. The author considers the novel to be a significant work for studying issues such as representations of emigration to Manchuria in Japanese literature during the war. Previous studies, however, focused on the aspect of the novel as propaganda for national policy and lack analysis in terms of personal profiles of the characters, the story plots related to propaganda and promotion of the bunson emigration campaign, and the representation of Manchuria. This paper attempts to investigate various aspects of bunson emigration represented in Ōhinata-mura while referring and adopting sociological and historical research results on agricultural emigration to Manchuria.The first section reviews the influence of the novel on society, points out aspects which have not been covered in previous studies, raises research questions, and states the objectives of this study. The following section examines the background when the novel was written. The author traces how the novel was created while considering Wada's interests in villages during the Great Depression, a request from his friend who worked at the Asahi Shimbun, his close relationship with the Ministry of Agriculture, his involvement in the Peasant Literature Conference Party, and his visits to the two Ōhinata villages in Nagano and Manchuria. The third section analyzes the text in further detail to discuss the real-life and fiction of bunson emigration to Manchuria through examination of the four aspects: the ideology of the bunson emigration campaign promoted in the novel, characters from different backgrounds and social status, the representation of Manchuria, and a comparison of the literary representation and historical facts.In the last section, the two characteristics of the novel as propaganda of national policy and as a record of national policy, are discussed based on the analysis stated above. The author argues that this novel should be evaluated not only as a work of Tairiku kaitaku bungaku to promote national policy, but also as a representative work of peasant literature.
著者
蒲原 弘継 ウィディヤント アヌグラ 熱田 洋一 橘 隆一 後藤 尚弘 大門 裕之 藤江 幸一
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.247-256, 2009-07-31
参考文献数
42
被引用文献数
3

本研究は,インドネシア産のパーム油を原料にしたバイオディーゼル燃料(パームBDF)の生産から,日本国内への輸入に伴う環境負荷として,温室効果ガス排出量とエネルギー消費量を評価した。評価は,インドネシア現地での調査結果に基づき行った。温室効果ガス排出量はバイオマスによって固定された炭素の収支を考慮して評価した。その結果,パームBDF生産・輸送に伴う正味の温室効果ガス(GHG)排出量は,軽油の生産・輸送・消費に伴なうGHG排出量に比べ約60%のGHG排出量であった。ただし,今後,パーム油工場で発生するバイオマス残渣やラグーンで発生しているメタンの有効利用が行われればGHG排出量のさらなる低減が可能であることが示唆された。一方,パームBDF生産・輸送に伴うエネルギー消費量の合計は,約10.4MJ/Lであった。仮に,日本で消費される軽油分のエネルギーをすべて代替するためには,約11万haのオイルパームのプランテーションが新たに必要となることが明らかとなった。