著者
佐藤 泉
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.71-80, 2005-01-10 (Released:2017-08-01)

松本清張が一九五八年に発表した「黒地の絵」は、暴力をそれに先立つ第一の暴力への反応として描いている。この物語は、北九州の米軍キャンプの近くでおこった黒人兵士の女性に対する性暴力を、それに先行するアメリカ社会内部の人種差別という第一の暴力への反応として描き出す。つまり暴力は絶望の表現として描かれる。しかし、女性に向けられる暴力は反差別とは無関係である。動機と表現との間の関係は拡散している。次の暴力として、被害女性の夫による復讐が描かれるが、復讐を遂げたときすでに犯人の黒人兵士は戦死体となっており、復讐は無意味化され、夫も絶望する。暴力の連鎖を、絶望の連鎖としてとらえるこの作品は、反差別、反暴力を企図しているが、しかし差別的な表象体系にとらわれた表現によってその企図は挫折している。その挫折じたいが暴力の自己内向の一表現となっている点で興味深い。
著者
佐藤 泉
出版者
成蹊大学アジア太平洋研究センター
雑誌
アジア太平洋研究 = Review of Asian and Pacific studies (ISSN:09138439)
巻号頁・発行日
no.42, pp.71-85, 2017

This paper considers two Japanese-speaking authors from the linguistic view. Park Kyong Mi places "translation" at the core of poetic experience, and senses the inner gap of language. Sakiyama Tami, a Novelist in Okinawa, tries to put a voice inside the language through conflict between Japanese as a literary language and everyday language.
著者
佐藤 泉
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.35-44, 2007

一九五〇年代末、九州の炭鉱地帯で展開された「サークル村」の文化運動は、それ以前の自然発生的な民衆文化運動を自覚的に思想化した点で重要である。本稿は、この運動をリードした詩人・谷川雁のサークル論をとりあげて、共同体としてのサークルと集団的な創作主体がどのように論理化されたかを考察する。日本の戦後思想の布置において、「村」「共同体」は個人の自由を拘束する悪しき結束であり、克服すべき前近代のシンボルとして語られてきた。しかし、五〇年代後半になって、個人の確立を掲げる戦後思想の有効性は薄れていた。経済および社会の構造再編が進むなかで、社会運動と労働運動が急速に力を失っていったためである。個人の確立に変えて、共同体の再構築が必要だと判断した谷川は、新たな連帯の思想を実践する場として文化サークルの運動に注目していた。民衆は潜在的なエネルギーを秘めている。しかし革新政党や労働組合は、民衆の力や欲望を適切に代表していない。そのため、しばしば民衆の力は、ファシズム的な表象によって奪われる。民衆の力を誰がどのように表象するかが重要な問題である。そこで、谷川は、民衆が自らを表象し、それによって自己を再想像する場として文化運動を活性化する必要があると考えた。谷川は、文化運動の場を「村」と呼び、創作の主体を個人ではなく集団としたが、そのためには戦後思想としての近代主義、個人主義の言説と対決する必要があった。この時期の谷川の言語活動によって語り変えられた「共同体」は、伝統的な共同体の権威主義、閉鎖性を克服することに成功しており、そのため、コミュニティの再構築が課題となった現在、多くの手がかりを与えるものとなっている。
著者
漆原 尚巳 杉山 大典 佐藤 泉美 橋本 梓 岩上 将夫 米倉 寛
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

医療分野におけるICTの急速な進展により、近年大規模健康情報データベースの疫学的研究への利用が可能になったが、データベースに含まれるデータは、評価したい事象を必ずしもそのまま示すものではない。そのため、各々の研究で評価すべき項目である重要なアウトカム(疾病診断や診療内容、医薬品の使用など)は、診療報酬請求上用いられる単一又は複数のコードなどを組み合わせて規定されており、この定義をアウトカム定義という。本研究では各々の研究で用いられたアウトカム定義に関する情報を蓄積し、研究者間および利害関係者にて共有し研究の透明性を高めるためのレポジトリを構築し、恒常的な運営に繋げることを狙いとする。
著者
佐藤 泉
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.29-43, 2018

<p>夏目漱石は、西洋的近代性の影響下で進行した日本の近代化の中に、歴史の進歩ではなく、歴史の喪失を見出した。その言説は、「日本と西洋」「東洋と西洋」といった地理的な道具立てと、そこから引き出される権力関係を含意するという意味において地政学的な枠組みを備えるものだった。本稿では、まず、漱石の言葉をひとつの源泉とする日本の近代という主題がどのように形成され、歴史の中で変容していったのかを考察し、その限界を明らかにする。同時に、現在の問題意識の中に、この主題を再利用することができないかを展望する。</p>
著者
佐藤 泉
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.35-44, 2007-11-10 (Released:2017-08-01)

一九五〇年代末、九州の炭鉱地帯で展開された「サークル村」の文化運動は、それ以前の自然発生的な民衆文化運動を自覚的に思想化した点で重要である。本稿は、この運動をリードした詩人・谷川雁のサークル論をとりあげて、共同体としてのサークルと集団的な創作主体がどのように論理化されたかを考察する。日本の戦後思想の布置において、「村」「共同体」は個人の自由を拘束する悪しき結束であり、克服すべき前近代のシンボルとして語られてきた。しかし、五〇年代後半になって、個人の確立を掲げる戦後思想の有効性は薄れていた。経済および社会の構造再編が進むなかで、社会運動と労働運動が急速に力を失っていったためである。個人の確立に変えて、共同体の再構築が必要だと判断した谷川は、新たな連帯の思想を実践する場として文化サークルの運動に注目していた。民衆は潜在的なエネルギーを秘めている。しかし革新政党や労働組合は、民衆の力や欲望を適切に代表していない。そのため、しばしば民衆の力は、ファシズム的な表象によって奪われる。民衆の力を誰がどのように表象するかが重要な問題である。そこで、谷川は、民衆が自らを表象し、それによって自己を再想像する場として文化運動を活性化する必要があると考えた。谷川は、文化運動の場を「村」と呼び、創作の主体を個人ではなく集団としたが、そのためには戦後思想としての近代主義、個人主義の言説と対決する必要があった。この時期の谷川の言語活動によって語り変えられた「共同体」は、伝統的な共同体の権威主義、閉鎖性を克服することに成功しており、そのため、コミュニティの再構築が課題となった現在、多くの手がかりを与えるものとなっている。
著者
佐藤 泉美 牧野 春彦 下妻 晃二郎 大橋 靖雄
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.132-139, 2014

<b>【目的】</b>乳がん専門医によるうつ病診療の実態調査 <b>【方法】</b>乳がん専門医352名に, うつ病診療状況に関する調査票を郵送した. <b>【結果】</b>110名(31.3%)から回答を得た. 乳がん患者のうつ病罹患割合は, 90%の医師が20%以下, 約半数が5%以下と回答した. 第一選択薬はベンゾジアゼピン系抗不安薬(BZD)が最多で(41.5%), 次が選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)だった(30.9%). BZD使用の医師は, 使用経験の豊富さ(オッズ比[OR] 8.20), 安全性(OR 6.27)で選んでおり, SSRIは, 効果の高さ(OR 7.07)で選ばれていた. <b>【結論】</b>乳がん専門医の乳がん患者のうつ病診療では, 調査票に基づく診断や薬物療法等において高い水準の医療が均しく行われているとは言い難く, 精神科系専門家との連携も含め, 診療環境整備の必要性が示唆された.
著者
佐藤 泉
出版者
日経BP社
雑誌
日経エコロジー = Nikkei ecology (ISSN:13449001)
巻号頁・発行日
no.208, pp.40-42, 2016-10

来年の通常国会提出に向けて、環境省は土壌汚染対策法改正の議論を進めている。土壌汚染リスクに応じた対策を求めるような制度にする必要がある。佐藤 泉/弁護士 土壌汚染対策法は、2010年4月の改正法施行から5年以上が経過し、見直しの時期を迎えている。
著者
石渡 正佳 佐藤 泉 富岡 修
出版者
日経BP社
雑誌
日経エコロジー = Nikkei ecology (ISSN:13449001)
巻号頁・発行日
no.202, pp.66-69, 2016-04

私が大きな問題と感じるのが、食品リサイクルの実態と、国が目指す理想や法制度との間に乖離が目立つことです。例えば、食品リサイクルの優先順位がそうです。昨年7月に食品リサイクル法の基本方針が改定され、食品リサイクルの優先順位を高い方から飼料化…
著者
宮川 英雄 田口 光雄 佐藤 泉
出版者
秋田県農業試験場
雑誌
秋田県農業試験場研究報告 (ISSN:0568739X)
巻号頁・発行日
no.45, pp.147-161, 2005-03

1)「おおすず」は1991年に「刈系437号」(F8)の系統名で配付を受け、1992年および1995年に「東北112号」の地方番号で生産力検定予備試験に供試した。その後、一時試験を中断したが、2000年~2002年の3年間、生産力検定本試験及び現地試験に供試し、秋田県では2003年3月に大豆奨励品種に採用した。本品種は1998年8月「だいず農林109号」として農林登録され、「おおすず」と命名された。2)「おおすず」の特性を「リュウホウ」と比較すると、子実収量は「リュウホウ」並である。粒の大きさは明らかに大きく、検査規格の大粒大豆の条件を満す。豆腐加工適正は「リュウホウ」ほど高くない。3)「おおすず」は「リュウホウ」より熟成期後の茎水分低下が早く、コンバイン収穫可能な50%以下の茎水分に低下する時期が早い。4)普及適応地帯は県内全域である。
著者
成田 龍一 岩崎 稔 長 志珠絵 佐藤 泉 鳥羽 耕史 水溜 真由美 上野 千鶴子 戸邉 秀明
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本科学研究費補助金にかかわる、本年度の研究成果は、これまで収集してきた「東京南部史料」の分析と、その歴史的な位置づけを集約した『現代思想』臨時増刊「戦後民衆精神史」にまとめられている。同誌は、2007年12月に刊行された。ここには、研究協力者(池上善彦、『現代思想』編集長)の多大の協力がある。研究代表者および、研究分担者、研究協力者による成果は、以下のとおりである。研究協力者の道場親信(東京外国語大学講師)「下丸子文化集団とその時代」「工作者・江島寛」、研究協力者・岩崎稔「詩と労働のあいだ」。「討議戦後民衆精神史」に、成田龍一(研究代表者)、鳥羽耕史(研究分担者)、道場が参加した。さらに、道場による「東京南部文化運動年表」が付された。そのほか、『現代思想』「戦後民衆精神史」には、浜賀知彦氏の所蔵にかかわる1950年代のサークル誌である、『油さし』『いぶき』『たんぽぽ詩集』などの分析が寄稿されている。これらは、池上、岩崎、道場が主宰する研究会での成果の反映である。『現代思想』「戦後民衆精神史」には、木戸昇氏による「東京南部」のサークル運動の概観も「資料」として付されており、『現代思想』「戦後民衆精神史」は、1950年代のサークル運動、さらには文化状況の研究を一挙に進めたものといいうる。また、他の研究者たちによる1950年代の文化運動、およびサークル運動の研究会やシンポジウムにも参加し、成田・岩崎・鳥羽はアメリカ合衆国コロンビア大学を会場とするMJHW(近代日本研究集会)で報告と討論をおこなった。さらに、鳥羽と池上は、1950年代に生活記録運動を展開し、サークル運動と深いかかわりをもった鶴見和子をめぐる研究集会(京都文教大学)に参加した。韓国やドイツにおける研究者との交流を、持続的に行ってもいる。