- 著者
-
古川 智史
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.2, pp.88-105, 2010-06-30
本研究は,大阪市北区扇町周辺のクリエイター及び関連企業のネットワークを,「バズbuzz」と紐帯の強さの観点から検討することを目的として行った.クリエイターは,案件ごとに制作プロセス内の位置や外注先を柔軟に変えている.彼らの取引ネットワークの多くは,近畿圏という地理的範囲内で形成されている.特に,クリエイター同士の取引ネットワークは,クライアントとのそれに比べて濃密な意思疎通が必要であるため,相対的に狭い地理的範囲で形成されやすい.また,クリエイターは,リスクを回避するために既存の人脈を通じて新たな取引関係を形成することが多い.さらに,ネットワークを形成する契機は,その種類ごとに地理的な差異が存在する.一方,非取引ネットワークは,取引を前提としない対面接触の場を通じて醸成されるが,そうしたコミュニケーションを通じて,異分野のクリエイターとの協業や,暗黙知の共有,クリエイター間での相互触発,クリエイターに関する評価などが行われている.その一方で,非取引ネットワークは,クリエイター自身が評価され選別される場であるともいえる.クリエイターのネットワークは,「バズ」が有効に機能し,強い紐帯のみならず弱い紐帯を通じて取引関係を拡大しているといえる.したがって,クリエイターがネットワークを拡大する利点は大きく,これが扇町周辺にクリエイターを集中させる要因になっていると考えられる.