著者
浜本 隆志 R.F Wittkamp 熊野 建 大島 薫 森 貴史 浜本 隆志
出版者
関西大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

最終年度にあたる本年は、ジュヴァルツヴァルト地方の冬至祭礼調査、宮崎県高千穂町での仮面を用いる冬至祭の儀礼調査、秋田県男鹿地方での新年の祭礼であるナマハゲおよびその周辺地域の祭礼調査といった、これまでの複数年度の調査をもとに、分析・考察をおこなった。ドイツ語圏を中心としたヨーロッパの通過儀礼と、日本を中心としたアジアの通過儀礼は意外と類似する部分が多いという認識に到達することになったが、そうした場合は、たいていがキリスト教文化の浸透以前、あるいはあまり浸透していない西欧の地域や地方のものであることが多いようである。あらためて、現在の世界各地で発生している文化摩擦や紛争の主な要因のひとつが、結局のところ、多神教と一神教の対立に起因しているのではないかという推測に蓋然性をみいだすこととなった。したがって、多神教的思考と一神教的思考というこの二項対立、たとえば、それは中沢新一が主張するところの対象性思考と非対象性思考の対立といえるのだが、これを乗り越えるために必要な思想や考え方を、世界の別の地域や住民たちのものにみいだすにしろ、まったく新たに創造していくにしろ、それともこれらのことが可能ではないときにはやはり、このふたつの対立を統合していくべき方法論を将来、模索していかなければならないだろう。本研究に従事した研究者の個別の研究成果によってなされている主張が、現時点における考察の結果の一部ではあるが、これらの成果によって、萌芽研究という本研究の役割は果たされたと思われる。
著者
森 貴久 高取 浩之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.76-79, 2006-06-25

Nature and wildlife observation is a popular activity that attracts many people. From the viewpoint of conservation ecology, it is important to know the effect of such human activity on the wildlife concerned. The giant flying squirrel (Petaurista leucogenys) is a recent, popular subject of observation in Japan. Yakuo-In Temple in Takao, Tokyo, is a renowned location for the observation of giant flying squirrel. However, the observation of this species at the temple only became popular in the mid1990s. Observation records made by a high school club revealed that giant flying squirrel in Yakuo-In departed their nests 30 min after sunset in 1987-1998; here, we report nest departure data for 2003-2004. Giant flying squirrel that lived in a highly visited nature-observation area departed their nests 60 min after sunset on average, whereas those that lived in a more secluded area departed their nests 30 min after sunset. Giant flying squirrel also departed their nests later when there were >20 observers near the nest. Thus, wildlife observation activity is responsible for the delay in the time of departure from the nest in giant flying squirrel.
著者
森 貴司
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.118-126, 2020-04-30 (Released:2021-04-30)
参考文献数
16

相加性は統計熱力学の基本的な性質である.相加性を認めれば,そこからエントロピーの凸性,異なるアンサンブルの等価性,比熱の非負性など,様々な重要な性質が導かれる.統計力学の理論を数学的に厳密に適用すると,短距離相互作用系の平衡状態は必ず相加性を満たすという結論が得られる.しかしながら,この議論には落とし穴があり,短距離相互作用系であっても,「真の平衡状態」に達する前に現れる長寿命の「準平衡状態」においては,自由度間に実効的な長距離相互作用が働く結果相加性を破る場合があることを説明する.この「準平衡状態」はもとのハミルトニアンとは異なるハミルトニアンの平衡統計力学で記述される.つまり,多体系の非平衡ダイナミクスから得られる時系列データの中に,まったく異質なハミルトニアンの平衡統計力学が埋まっていたことになる.
著者
岸 茂 政岡 則夫 森 貴久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1319-1323, 1998-07-15

頸動脈海綿静脈洞瘻が30か月前に発症した68歳の女性が,同側の視野異常で受診した。患側に浅前房と脈絡膜剥離が発見された。インドシアニングリーン赤外螢光造影で,後極部から上方の中間周辺部に脈絡膜循環障害による低螢光斑と,後極部から鼻側にかけて脈絡膜静脈の拡大があった。このような所見は,海綿静脈洞瘻で好発するものであり,脈絡膜剥離に特異な変化であるとは考えにくい。赤外螢光造影で検出できない脈絡膜血管の透過性亢進が持続しているためと推定された。浅前房と脈絡膜剥離は1か月後に自然寛解した。
著者
高橋 欣吾 渡辺 唯志 臼井 正明 太田 裕介 寺井 祐司 大森 貴夫
出版者
中国・四国整形外科学会
雑誌
中国・四国整形外科学会雑誌 (ISSN:09152695)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.309-312, 2000-09-15 (Released:2009-03-31)
参考文献数
11
被引用文献数
1

We compared the invasion of Gamma nails (GN) and Compression hip screws (CHS) in operations to determine blood loss.25 trochanteric fractures treated with GN, and 24 with CHS were available for prospective study. We exchange the amount of transfuse blood for the rate of change of hemoglobin content (Hb), and investigated the difference of it. Hb for GN was more reduced compared to Hb for CHS from time of operation to the next morning. But external blood loss for GN was less compared to CHS.We concluded that internal blood loss for GN was much higer than CHS, so the invasion of GN is not low in the point of blood loss.
著者
本村 あずみ 森 貴久
出版者
帝京科学大学
雑誌
帝京科学大学紀要 = Bulletin of Teikyo University of Science (ISSN:18800580)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.161-166, 2016

Saihara, which is located in north-western area of Uenohara in Yamanashi Prefecture, is a depopulated area. A traditional Kabuki play had been performed at Ichinomiya Shrine in Saihara for the autumn festival since at latest 1860s until 2001,and ceased to be performed since then. Interviews with 29 people living in Saihara held in 2009-2010 enabled us to collect information on the traditional Kabuki play. What is clarified in this article is as follows: (1) there were 3 types of play: a traditional Kabuki play performed by Saihara people, plays performed by a professional theatre company, and semi-traditional Shimpa plays; (2) during Meiji and Taisho period, most plays were traditional Kabuki plays performed by Saihara people,performance by theatre companies had become popular later, and the traditional kabuki play by Saihara people became popular again after 1980s; and (3) performance of plays for the shrine festival had become a hard task due to a change of life style in Saihara, which seemed to be the most serious cause for the interruption of this traditional local play.
著者
森 貴教
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、北部九州弥生時代および韓半島青銅器・初期鉄器時代における石器の生産・消費様態を地域間で比較しつつ社会システムの一端として明らかにすることである。平成24年度は2012年9月から2013年3月まで大韓民国・釜山大学校博物館を拠点として長期間現地で滞在調査したことにより、韓半島南部の青銅器時代・初期鉄器時代における石器生産や消費形態に関する情報を悉皆的に収集することができた。以下、本年度の研究活動の内容を具体的に記述する。(1)韓半島南部の青銅器時代・初期鉄器時代における石器生産遺跡を中心に発掘調査報告書を閲覧し、これまで研究を行ってきた弥生時代北部九州地域の石器生産・流通と比較するための基礎的な情報を得た。また石器生産遺跡出土石器類の資料調査を行い、使用石材、製作技法について確認した。(2)青銅器時代・初期鉄器時代における石斧に関し、慶尚南道地域(南江流域)を中心に代表的な遺跡出土品について各所蔵機関に直接赴き資料調査を行った(晋州・大坪里遺跡、草田遺跡、平居遺跡、沙月里遺跡など)。特に研究史上注目されてきた片刃石斧に関して、形態・使用石材・製作技法などに着目して詳細に観察しデータを収集したことにより、石器生産や消費形態を分析する上での基礎となる編年や地域性に関する貴重な情報を得ることが出来た。(3)弥生時代後半期および青銅器時代から初期鉄器(原三国)時代における利器の材質変化(鉄器化)と石器生産との関連性について、研磨具である砥石の分析からアプローチした。北部九州においては弥生時代中期後半以降、鍛錬鍛冶技術が導入されるが韓半島南部ではその前段階に鍛冶技術が認められることや、砥石目の細粒化が達成されていることなどが明らかになった。以上のように、当該年度は北部九州の弥生時代との比較対象地域である韓半島南部の青銅器時代・初期鉄器時代における石器生産や鉄器化に関して、非常に多くの情報を収集できた。
著者
鈴木 秀明 森 貴稔 大淵 豊明 寳地 信介 田畑 貴久 池嵜 祥司 橋田 光一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.238-243, 2011 (Released:2013-05-24)
参考文献数
15
被引用文献数
2

突発性難聴に対するステロイド鼓室内注入療法 (IT) の効果を、高気圧酸素療法 (HBO) と比較して検討した。対象は治療開始までが30日以内で初診時聴力が40 dB以上の突発性難聴患者240例で、全例においてステロイド全身投与を行い、これに加えて174例に対しHBOを (HBO群)、66例に対しITを (IT群) 併用した。聴力回復の評価は、厚生省研究班の診断基準に基づいた治癒率、著効率、有効率、および聴力改善率、治療後聴力レベル、聴力利得の計6指標について行った。その結果、症例全体の有効率は、HBO群に比べてIT群で有意に高く (81.8% vs. 68.4%、p=0.039)、多重ロジスティック回帰分析でも同様の結果が確認された。めまい (-) の場合および治療開始までが7日以内の場合の有効率もIT群において有意に高かった。以上より、HBOと比較してITのほうが突発性難聴に対してより有効であることが示された。
著者
阿部 志保 森 貴久
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.50-60, 2016-04-05 (Released:2019-04-25)
参考文献数
26

コナラシギゾウムシCurculio dentipesやクヌギシギゾウムシCurculio robustusなどのシギゾウムシ類はブナ科堅果の内部に産卵し,幼虫は産み付けられた堅果のみを資源として利用し成長する.成虫の体サイズは幼虫期の成長量によって決まるので,メスは産卵の際に資源を評価していることが期待される.また,1個の堅果を複数のシギゾウムシ類幼虫が利用したり,他種の幼虫も利用することがある.このとき堅果内の資源は限られているため,堅果内に複数個体が存在した場合,競争が生じることになる.したがって,雌は産卵の際に産卵個数や他種の昆虫の存在などに応じて堅果を選択し,競争を低減させている可能性がある.本研究ではクヌギ堅果を用い,シギゾウムシ類の雌が産卵する時に選択する堅果の大きさと脱出幼虫の数と大きさの関係について,同種他個体や他種個体の存在との関連について明らかにし,シギゾウムシ類雌の堅果選択と産卵戦略について考察した.2012年11月と2013年11月に野外でクヌギ堅果を無作為に収集した.堅果は直径と長さを計測した後,個別に仕切られたケースの中に入れ,研究室にて保管した.堅果から脱出してきたシギゾウムシ類幼虫は,個体数と重量を記録した.また,2013年に収集した堅果については脱出してきた他種の昆虫の記録も行った.結果は,シギゾウムシ類が産卵した堅果はしなかった堅果に比べて大きく,球体に近い形状をしていた.また,大きな堅果にはより多く産卵をしており,堅果の大きさと幼虫の重量には弱い相関があった.シギゾウムシ類幼虫が複数個体脱出した場合,幼虫の平均重量は1個体のみの場合と比べて小さいが,脱出個体が多くなっても1個体あたりの平均重量は減少しなかった.また,4個体以上が脱出してきたときの幼虫重量の変動係数は2–3個体のときよりも大きくなった.他の昆虫の存在はシギゾウムシ類の幼虫の数や重量に影響しなかった.これらの結果は,シギゾウムシ類の雌は産卵の際に堅果の大きさを評価することで,利用個体数が他種昆虫を含めて複数いても,幼虫1個体あたりの重量が大きく減少したりばらついたりすることがないように産卵できていることを示している.ただしこの調整は,1個の堅果の利用個体が4匹以上になると不十分になり,利用する昆虫の間に重量のばらつきが大きくなる.以上から,シギゾウムシ類の雌の産卵戦略として,堅果の大きさを評価して産卵することで幼虫間の資源競争を低減して幼虫の大きさと個体数をコントロールし,適応度の増加を図っている可能性が示唆された.