著者
駒村 美佐子 津村 昭人 山口 紀子 藤原 英司 木方 展治 小平 潔
出版者
農業環境技術研究所
雑誌
農業環境技術研究所報告 (ISSN:09119450)
巻号頁・発行日
no.24, pp.1-21, 2006-03 (Released:2011-03-05)

わが国の米(玄米、白米)、小麦(玄麦、小麦粉)および水田・畑作土中の90Srと137Cs濃度を1959年から42年間にわって調査した。米、小麦では90Srと137Csともに1963年に最大値が観測された。この年は、大気からの放射性降下物の降下量が最も多く記録されている。水田・畑土壌の90Srと137Cs濃度は、降下量の多かった1963年から1966年にかけての最大値を示した。1966年以降、米・小麦および土壌ともに90Srと137Cs濃度は多少の増減を繰り返しながら漸減し続け今日に至るが、1986年には、チェルノブイリ原子力発電所の事故に起因する特異的に高い小麦の137Cs汚染が生じた。上記の放射能汚染調査データを解析した結果、次のような興味ある知見が得られた。a)白米と玄麦の放射能汚染形態(直接汚染と間接汚染の割合)を解析した結果、白米、玄麦とも90Srと137Csが茎葉などから取り込まれる直接汚染の割合は、90Srと137Csの降下量が極めて多い1963年頃では70~95%を占める。しかし、降下量が激減した1990年以降の汚染形態は直接汚染に代わり、経根吸収による間接汚染が主である。b)90Srと137Csの水田および畑作土内における滞留半減時間を試算したところ、水田作土では90Sr:6~13年、137Cs:9~24年、畑作土では90Sr:6~15年、137Cs:8~26年の範囲である。C)米および小麦の90Srと137Cs濃度と、水稲および小麦の栽培期間中における両核種の降下量との間にそれぞれ高い正の相関が成り立つ。この関係から回帰式を導き、栽培期間中に降下した90Srと137Csの量を知ることにより、米および小麦の放射能濃度を推定が可能である。
著者
藤原 英司
出版者
独立行政法人農業環境技術研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

核実験等由来の人工放射性核種のうち代表的なものとしてCs-137が挙げられる。日本におけるCs-137降下量は1990年代を通して低水準で推移したが、2000年代に入ると増大し、2002年には北日本や日本海側地域において顕著な降下が認められた。この現象は黄砂飛来と関係があるとみられているが、Cs-137を含む砂塵の起源は不明である。そこで地上気象観測データにもとづいて近年の砂塵発生範囲を推定したところ、2002年には中国北部の草原域において砂塵発生が顕著であったと示された。しかし当該地域について核実験や原子力関連施設の立地に関する情報が存在せず、Cs-137の放出源を特定できなかった。このため現地調査を実施し表土試料を採取してCs-137の分析をおこなった。その結果、草原表土からCs-137が検出され、その放射能濃度は6.5〜83.5mBq/gと高かった。しかし砂漠表土では不検出となり、畑地表土では不検出〜13.4mBq/gと低かった。Cs-137が検出された試料について、さらにSr-90も測定し、これら核種の放射能濃度比を求めたところ、表土のCs/Sr濃度比は草原で8.3±2.0と高く、畑地では3.7±0.8と低くなり、明瞭な傾向が認められた。一方、Cs-137およびSr-90の日本における降下量データから、近年の降下物のCs/Sr比は、Cs-137降下量の多い北日本や日本海側地域において高く、それ以外の地域で低いことが明らかになった。このことから飛来する砂塵のCs/Sr比は高いと認められ、その起源として大陸の草原が考えられた。これまで大陸の草原表土にはグローバルフォールアウトに由来するCs-137が保持されていたが、近年の砂漠化進行とともに砂塵が飛散しやすい状況になったとみられ、この草原におけるCs-137の再浮遊が日本でのCs-137降下量増大の原因として考えられた。
著者
藤原 英記
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.103-108, 2019 (Released:2019-09-25)
参考文献数
30

ヒトは「味覚」によって体にとって摂取すべきものと忌避すべきものとを弁別している。甘味はエネルギー摂取の役割として主に糖の摂取を促し,うま味は体の構成成分としてのアミノ酸の摂取の役割としてタンパク質の摂取を促す。その点から考えると,糖を中心とした炭水化物,タンパク質と並び三大栄養素の一つである油脂にも摂取を促す「味」があると考えることは自然である。しかしながら,油脂はそのまま摂取しても味や香りはなく,さらに摂取したいと思うことはない。この点からも油脂の味覚に関する研究は,五味の研究と比べると大きく遅れているのが実態であるものの,徐々に研究が進み油脂の「味」に関しても明らかにされつつあるため,その一部を紹介する。また我々は脂肪酸の一つであるアラキドン酸が食品のおいしさを向上させる効果を有することを示し,特にうま味を向上させることを明らかにした。また同様にアラキドン酸の分解物が味覚感受性に影響を与えることが示された。
著者
江口 定夫 山口 紀子 藤原 英司 森 也寸志 関 勝寿
出版者
独立行政法人農業環境技術研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

土壌中のコロイド粒子に強く吸着する性質を持ち、環境中に存在する放射性核種(^7Be,^<137>Cs,^<210>Pb)をコロイド粒子のトレーサーとみなすことにより、現場土壌中におけるコロイド粒子の輸送時間及び起源を推定する手法を開発した。この手法により、粘土質土壌の暗渠排水及び砂質土壌の浸透水中のコロイド粒子の起源はいずれも主に表層土壌であること、粘土質土壌中のコロイド粒子輸送時間は約35日であること等を明らかにした。
著者
野口 祐子 宗田 好史 野田 浩資 浅井 学 ラリー ウォーカー 青地 伯水 赤瀬 信吾 藤原 英城 長谷川 雅世 加藤 丈雄 加藤 丈雄 長谷川 雅世
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

10名のチームからなる本研究では、文学・歴史地理学・社会学・都市保存学の観点から、京都とヨーロッパ主要首都のイメージに関して、1)国民のアイデンティティを強化するための歴史的空間としてのみやこ、2)古都としての保存と近代的都市開発の理念の葛藤、3)美意識の変化とみやこの姿との影響関係を中心テーマとして共同研究をおこなった。2006年11月には公開シンポジウムを開催し、2008年度には研究成果報告書を作成して、近隣の研究機関と公共図書館に配付した。
著者
岡本 大輔 浦田 尚巳 冨吉 浩雅 藤原 英利 浮草 実
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.71-74, 2002-01-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
12
被引用文献数
4 1

巨大植物胃石による胃壁の圧迫が原因と考えられる潰瘍形成から穿孔に至った稀な症例を経験したので報告する.症例は67歳男性,市販の干し柿を数個摂取した翌日から嘔吐,翌々日から食欲不振が出現し,摂食から1週間後に胃透視および胃内視鏡にて巨大な胃石を指摘された.保存的治療中,穿孔をきたしたため緊急手術にて胃切除術を施行し軽快した.胃石が胃に停滞した場合は潰瘍を併存することが多く,稀に穿孔をきたす場合があり,胃石の大きさにもよるが内科的治療に抵抗性の場合はすみやかに外科的処置をとる必要があると思われた.
著者
藤原 英里奈 角井 真名美 小野 陽介
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.278, 2013 (Released:2014-02-14)

大分舞鶴高校科学部では,2011年 2月より,高崎山自然動物園のB群とC群を対象に,ニホンザルの餌付け群で観察される「石遊び」行動を調査してきた.2011年度の研究では,「石遊び」行動が餌撒きの直後に頻繁に行われることと,自然餌が採れず餌獲得欲求の満たされない季節に多く観察されることを明らかにした.そこで,2012年度の研究では,「石遊び」行動が餌付け群で行われる原因を探ることを目的に,前年度の調査方法を見直すとともに,新たに個体ごとの行動追跡調査を行い,さらに詳細な行動分析を行った. 「石遊び」個体数の調査では,餌撒き開始時間から1分毎に調査員が担当する区域内を歩いて,そのときに目視された「石遊び」をしている個体の雌雄・年齢・「石遊び」の種類などの情報を記録し,「石遊び」行動のピーク時間を調べた.さらに,同時に調査区域内の総個体数を調べることによって,「石遊び」をする個体数の変動を調べた.また,個体ごとの行動追跡調査では,餌撒きから次の餌撒きまでの時間における子ザルと大人ザルの行動パターンを分析した.「石遊び」と「餌撒き」の関係については,群れのサルは餌撒き時間に合わせて餌撒き場所とその周辺を移動しており,餌拾いと移動にかかった 4分後に「石遊び」のピークがあることがわかった.大人ザルと子ザルの比較によると,大人ザルが餌拾い直後に「石遊び」をするのに対して,子ザルは時間が経過しても「石遊び」をしていることがわかった. s以上の結果から,特に大人ザルは,餌付けによって生じる群れの中のストレスを「石を扱う」行動によって解消していると考えた.この行動によって,特定の地域で餌付けされている群れの個体同士の争いが避けられており,「石遊び」行動は高崎山のような大きな群れを維持するために必要な行動と考えられた.
著者
藤原 英史
出版者
ドキュメンタリーチャンネル
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究計画に基づき、平成25年の夏期から秋期にかけて、ヒメイカの飼育・観察を行った。ヒメイカが水槽内で産卵する様子をハイビジョンカメラと特殊なマクロレンズで、超拡大撮影し、それに成功した。これまで、イカの産卵行動において、メスが産卵の過程のどのタイミングで卵と精子を受精させているのかは不明であったが、本研究で得られた映像から、卵を保護するための卵ゼリーの中に卵を産み込んだ直後に、メスの口部周辺にある貯精嚢を卵ゼリーに押しつけるような行動をとり、この時に卵ゼリー内に精子を注入し、最後に、口でゼリーの穴を閉じることが明らかになった。このような行動をとることで、体内に貯めた限られた量の精子でも、確実に受精させることが可能になると考えられた。また、受精卵にヘキスト染色を施し、卵割する様子を微分干渉顕微鏡および蛍光顕微鏡でライブセルイメージングを行った。これまで、イカ類において、一つの卵の卵割の様子を連続的に記録し、細胞運命を追った研究はほとんどなかった。そのため、卵割で殖える細胞がどのような過程を経て組織や器官になるのかを詳しく知ることはできなかった。今回、受精直後のヒメイカ卵のヘキスト染色の方法を確立することができた。そして、8細胞期から覆い被せが始まる、2日後くらいまで、細胞の核の位置を映像で追跡することができるようになった。その結果、細胞の移動は、予想していたよりも少ないことが明らかとなった。平成25年7月に行ったアオリイカの産卵行動の観察は、産卵期のアオリイカが隠岐ノ島周辺の海域に現れる個体が例年よりも少なかったため、産卵行動を撮影することができなかった。