著者
早川 祥子 Hernandez Alexander D. 鈴木 真理子 菅谷 和沙 香田 啓貴 長谷川 英男 遠藤 秀紀
出版者
Primate Society of Japan
雑誌
霊長類研究 = Primate research (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.3-10, 2011-06-20
参考文献数
21
被引用文献数
2

屋久島にて見つかったおよそ26歳という,非常に老齢であるニホンザル(メス)の死体の剖検結果を報告する。年齢の推定は死体の歯のエナメル質をヘマトキシリンで染色する方法によって行った。これは餌付けの経験のない野生ニホンザルとしては例外的に高齢であると考えてよい。外傷は見当たらず,病理解剖における主な病変は肺出血であり,対象個体が肺炎に罹患していたことが示唆された。さらに特筆すべきことは,このサルの体内から大量の寄生虫感染が見つかったことである。感染していたのは線虫4種,総数1524個体(<i>Streptopharagus pigmentatus</i> 1270, <i>Gongylonema pulchrum</i> 208, <i>Oesophagostomum aculeatum</i> 36, <i>Trichuris</i> sp. 10)であった。対象個体は老齢のため免疫力が低下しており,寄生虫の感染および蓄積を防ぐことができず,さらには肺炎にも感染して死を迎えたものと考えられる。
著者
繁田 真由美 繁田 祐輔 遠藤 秀紀
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.21-29, 2006

The day roosts and foraging areas of the common Japanese pipistrelle bat, P. abramus, were investigated in the Imperial Palace, Tokyo, Japan. Since the six roosts are observed at Kikyo-mon Gate and Sakashita-mon Gate, we demonstrate that the pipistrelles often use the roost also within the Imperial Palace. The openings of the Japanese traditional roof tile may be suitable for the roost of bat in the Palace. The results of the line census point out that the pipistrelles do not use the whole area of the Imperial Palace, however, prefer the areas along the moats such as the regions near Kikyo and Ote Gates. From the track data of an individual with chemiluminescent tag, we conclude that the pipistrelle use the roots along the paved road and Hamaguri-bori Moat in the foraging areas. The findings indicate the nocturnal foraging activity in the Imperial Palace, and provide us with the fundamental data on the behavior of the common Japanese pipistrelle within the large city.
著者
遠藤 秀紀 木村 順平 押尾 龍夫 STAFFORD Brian J. RERKAMNUAYCHOKE Worawut 西田 隆雄 佐々木 基樹 林田 明子 林 良博
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.1179-1183, 2003-11-25
被引用文献数
5 12

ホオアカカオナガリス(Dremomys rufigenis)について,マレーシア(半島部)集団,ベトナム(南部)・ラオス集団,タイ(北部)集団の頭蓋骨標本を用い,地理的変異と機能形態学的適応を骨計測学的に検討した.その結果,南部集団は北部の二集団より基本的にサイズが大きかった.プロポーション値の検討から,マレーシア集団では内臓頭蓋が吻尾方向に長く,ベトナム・ラオス集団とタイ集団では眼窩の距離が短いことが明らかになった.マレーシア集団の長い鼻部と側方に向いた眼窩は地上性・食虫性により適応し,眼窩が吻側に向くことで他の二集団で強化される両眼視はより樹上性・果実食性適応の程度が高いことが示唆された.一方,主成分分析の結果から,マレーシア集団とほかの二集団は明確に区別され,この頭蓋形態の集団間の変異には,クラ地峡による生物地理学的隔離が影響していることが推測された.
著者
遠藤 秀紀 横畑 泰志 本川 雅治 川田 伸一郎 篠原 明男 甲能 直樹 佐々木 基樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

旧食虫類における多系統的な形質を機能形態学的に検討した。筋骨格系、消化器系、泌尿生殖器系、感覚器系、皮膚・表皮系などを旧食虫類の諸目間で形態学的に比較検討を行った。その結果、それぞれの器官において、形態学的類似や差異を確認することができ、真無盲腸目、皮翼目、登攀目、アフリカトガリネズミ目などの旧食虫類諸群間の多系統的進化史理論を確立することができた。
著者
遠藤 秀紀 山際 大志郎 有嶋 和義 山本 雅子 佐々木 基樹 林 良博 神谷 敏郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.1137-1141, s・iv, 1999-10
被引用文献数
2 7

ガンジスカワイルカ(Platanista gangetica)は,ガンジス・ブラマプトラ川周辺の水系に限られて分布する,珍しいイルカである.同種は,原始的とされる形態学的形質が注目されてきたが,近年生息数を減らし,保護の必要性が指摘されている.筆者らは,東京大学総合研究博物館に収蔵されてきた世界的に貴重な全身の液浸標本を利用して,気管と気管支の走行を,非破壊的に検討した.ガンジスカワイルカの気管は,右肺葉前部に向けて,気管の気管支を分岐させることが明らかとなった.MRIデータにおいては,気管の気管支と左右の気管支の計3気道が,胸腔前方において並列する像が確認された.原始的鯨類とされるカワイルカで気管の気管支が確認されることは,鯨類と偶蹄類の進化学的類縁性を示唆している.一方で,左気管支は右気管支より太く発達していた.気管の気管支によって,右肺前葉に空気を供給する同種では,気管支のガス交換機能は,左側が右側より明らかに大きいことが示唆された.MRIによる非破壊的解剖学は,希少種の標本を活用して形態学的データの収集を可能にする,きわめて有効な手段として注目されよう.
著者
佐々木 基樹 遠藤 秀紀 山際 大志郎 高木 博隆 有嶋 和義 牧田 登之 林 良博
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.7-14, s・iii, 2000-01
被引用文献数
3 8

ホッキョクグマ(Ursus maritimus)の頭部は,ヒグマ(U. arctos)やジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)に比べて扁平で,体の大きさの割に小さいことはよく知られている.本研究では,ホッキョクグマとヒグマの頭部を解剖して咀嚼筋を調べた.さらに,ホッキョクグマ,ヒグマそしてジャイアントパンダの頭骨を比較検討した.ホッキョクグマの浅層咬筋の前腹側部は,折り重なった豊富な筋質であった.また,ホッキョクグマの側頭筋は,下顎骨筋突起の前縁を完全に覆っていたが,ヒグマの側頭筋は,筋突起前縁を完全には覆っていなかった.ホッキョクグマでは,咬筋が占める頬骨弓と下顎骨腹縁間のスペースは,ヒグマやジャイアントパンダに比べて狭かった.さらに,側頭筋の力に対する下顎のテコの効果は,ホッキョクグマが最も小さく,ジャイアントパンダが最も大きかった.これらの結果から,ホッキョクグマは,下顎骨筋突起の前縁を側頭筋で完全に覆うことによって,下顎の小さくなったテコの効果を補っていると考えられる.また,ホッキョクグマでは,咬筋が占める頬骨弓と下顎骨腹縁間のスペースが狭いことから,ホッキョクグマは,ヒグマ同様の開口を保つために豊富な筋質の浅層咬筋前腹側部を保有していると推測される.本研究では,ホッキョクグマが,頭骨形態の変化に伴う咀嚼機能の低下を,咀嚼筋の形態を適応させることによって補っていることが示唆された.
著者
平井 啓久 香田 啓貴 宮部 貴子 遠藤 秀紀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

調査地はインドネシア、タイ、マレーシア、バングラデシュの4カ国を対象におこなった。解析した種は8種である。西シロマユテナガザルの染色体ならびにDNAの解析を世界で初めておこない、第8染色体に逆位を発見した。テナガザル全4属のミトコンドリアゲノムの全塩基配列を用いて系統関係を解析し、新たな分岐系統樹をしめした。転移性DNA解析がヘテロクロマチンの研究に新たな洞察を与えた。音声や形態を新規の方法で解析し、新たな視点を示した。
著者
佐々木 基樹 山田 一孝 遠藤 秀紀
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、ニホンザル、これら4種の霊長類と4種のクマ科動物、ジャイアントパンダ、マレーグマ、ホッキョクグマ、ヒグマの後肢の可動性を、CTスキャナーを用いて非破壊的に観察した。その結果、4種の霊長類とジャイアントパンダ、マレーグマの2種のクマ科動物において、足根骨の回転とスライドによる足の顕著な回外が確認された。さらに、霊長類において、第一趾の屈曲に伴う第一中足骨の内転が4種の霊長類全てに確認され、オランウータン、ゴリラ、ニホンザル、チンパンジーの順でその可動域は大きかった。また、ゴリラやチンパンジーでは第一中足骨は足の背腹平面で内転しており、上下斜め方向に可動面を持つ他の2種の霊長類とは可動様式が異なっていた。足根骨の回転とスライドによる足の回外は、木登りに対する形態学的適応と考えられる。また、第一中足骨の足の背腹平面で内転は地上性適応の一環と考えられる。さらに、その可動性がチンパンジーで小さかったことから、チンパンジーがより地上性適応しているものと推測される。
著者
近藤 克則 吉井 清子 末盛 慶 竹田 徳則 村田 千代栄 遠藤 秀紀 尾島 俊之 平井 寛 斉藤 嘉孝 中出 美代 松田 亮三 相田 潤
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は,介護予防に向けて,心理的因子や社会経済的因子の影響を明らかにする社会疫学の重要性を検討することである.(1)理論研究では,多くの文献をもとに社会疫学の重要性を検討した.(2)大規模調査(回収数39,765,回収率60.8%)を実施した.(3)横断分析では,健診や医療受診,うつなどと,社会経済的因子の関連が見られること,(4)コホート(追跡)研究では,社会経済的因子が,認知症発症や要介護認定,死亡の予測因子であることを明らかにした.本研究により,社会疫学研究が,介護予防においても重要であることを明らかにした.
著者
遠藤 秀紀
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.19-25, 2009-03
被引用文献数
2

動物園が研究の責任を果たし続けなくてはならいないことを再確認する。動物園は,日本独自の教育と学問の歴史のなかで,学術研究から一定の距離を取らされてきた。戦前は富国強兵政策,戦後は経済発展主導の陰に押しやられ,純粋基礎科学の研究の場としての位置づけを確立できないまま推移した。戦後についていえば,敗戦を契機に自由で民主的な社会教育が法整備されてきたにもかかわらず,動物園・博物館は,冷戦を要因に理念的発展の途が閉ざされてしまった。結果的に,動物園と社会教育は往々にして土木行政や利益誘導の場にとどまり,科学的研究を進めることのできない組織となった。そしてまた大学を中心とした学術も,動物学の偏向や純粋基礎科学の貧困を黙認し,動物園を大学とは関係のない組織ととらえ,社会教育に無関心であり続けた。そしていまの行革時代に,動物園は真の研究も教育も二の次に,サービスと遊興を尺度にした乱暴な合理化の対象となっている。公務員と公教育を軽視することでリーダーシップを演出する政治によって,社会教育と動物園は理念から隔離され,営業行為・サービス業の末端部分として破壊されつつあるといえよう。他方,短期的経営追い込まれた大学・アカデミズムは,無関心から掌を返したように動物園と社会教育に表面上接近し,それを業績増殖のための都合のよい植民地として弄ぶようになっている。いま私たちには,こうした愚昧と不幸の歴史を断ち,動物園を学問と教育の中心地として繁栄させていく責任がある。
著者
遠藤 秀紀
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.17-22, 2002-03
被引用文献数
2

野生動物の遺体が,それ自体で意味ある研究対象として扱われることは,今日,非常に少ない。分子遺伝学と生態学で単純な採取材料として用いられることはあっても,解剖学が衰退する中,遺体そのものは,ほとんど研究されていない。そこで私は,解剖学の古典的問題意識を学界と社会の現実の情勢に合わせることで,新たに遺体研究の活性化を図りつつある。ここでは新たな遺体研究の体系を「遺体科学」と名付けよう。遺体科学の本質は,遺体の無制限収集に始まる。遺体科学においては,遺体から科学的にできる限り興味深い研究成果を残すという観点から,研究者のセンスが問われ続けている。そして遺体の標本化と収蔵,すなわち継承性を満たすことで,遺体科学は完成に近づく。遺体を廃棄物にすることを防ぎ,これを不滅の学術資産に昇華するために,遺体科学の推進を提唱する。