著者
池田 佳子 荒木 佐智子 村中 孝司 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.21-31, 1999-06-25 (Released:2018-02-09)
参考文献数
18
被引用文献数
3

浚渫土中の土壌シードバンクを利用した水辺の植生復元の可能性を小規模なまきだし実験により検討した.水分条件を一定に保つことのできる実験装置「種子の箱舟」の中に霞ヶ浦の湖底から浚渫された底泥(浚渫土)約0.55m^3を1998年3月下旬にまきだし,出現する維管束植物の実生の種を,新たな実生がみられなくなる11月下旬まで定期的に調査した.その結果,合計22種708実生が得られた.また,湖に隣接し,土壌がときどき水をかぶる場所(冠水条件)と,常に水をかぶっている場所(浸水条件)を含む小規模の窪地(10m×5.5m)を造成し,1998年3月下旬に全体に厚さがほぼ30cmになるように浚渫土をまきだし,9月下旬に成立した植生を調査した.窪地の植生には22種の維管束植物が認められた.湿地に特有の植物である「湿生植物」と「抽水植物」は箱舟で5種,窪地で12種出現した.また,出現した帰化種は箱舟で9種,窪地で3種であった.浚渫土の土壌シードバンクは水辺の植生復元の材料として有効であることが示唆された.
著者
西山 理行 鷲谷 いづみ 宮脇 成生
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.125-142, 1998
参考文献数
23
被引用文献数
7

1)オオブタクサの生存・成長・繁殖に及ぼす光条件の影響を被陰実験(散乱光条件下の光合成有効波長域相対光量子密度が100%,30%,5%,3.5%,0.2%の5段階)により検討した.いずれの成長・形態変量についても相対光量子密度を異にする実験区間に統計的に有意な違いが認められた.2)相対光量子密度30%区において,最も高い生存率(100%),最も高い平均相対成長率(0.038g・g^<-1>day^<-1>)および最も大きな平均種子生産(個体当たり211個)が記録された.3.5%区と5%区の間にはどの変量についても大きな違いが認められ,オオブタクサの生存・成長・繁殖の限界光条件は5%区(平均適応度15種子/種子)と3.5%区(平均適応度0.2種子/種子)の中間にあることが示された.3)形態変量も光条件に応じて著しく変化し,その可塑的変化は弱光適応的なものであった.すなわち,比葉面積(SLA),葉面積比(LAR),葉重比(LWR)などはいずれも暗い実験区ほど大きな値を示した.4)河原の生育場所での相対光量子密度の測定から,田島ヶ原のオギ群落内には,オオブタクサの生育の限界光条件よりも良好な光条件を備えたミクロサイトが存在すること,特に春にはそのようなミクロサイトが豊富に存在することが示された.5)オオブタクサ侵入地点では,オオブタクサの葉層よりも下層において光条件が特に悪くなり,生育している植物種の数が非侵入地点に比べて低下していることが示唆された.
著者
石井 潤 和田 翔子 吉岡 明良 大谷 雅人 リンゼイ リチャード 塩沢 昌 高橋 興世 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.361-370, 2017

北海道の黒松内低地帯において、ミズゴケ属植物が生育し植物の種多様性が高い湿原(来馬湿原:面積約0.9 ha)の存在が新たに確認された。地元住民を対象とした聞き取り調査および1948-2005年の空中写真の判読を行ったところ、この湿原は、1976年頃に宅地造成に伴う土地改変により部分的に土壌剥離または未舗装道路の建設がなされ、その後植生が発達して今に至ることが判明した。植生の現況を把握するためのフロラ調査では、ミズゴケ属植物としてウロコミズゴケ1種、維管束植物の在来種103種(絶滅危惧種イトモ、エゾサワスゲ、ホロムイリンドウ、ムラサキミミカキグサを含む)、外来種8種が確認された。ウロコミズゴケの分布調査の結果では、その分布は1976年の土地改変と有意な関係があり、ウロコミズゴケパッチ面積の合計は期待値と比較して、土壌剥離に伴い裸地化された場所で大きく未舗装道路だった場所で小さい傾向があった。これらの結果は、1976年の土壌剥離による裸地化が、現在のウロコミズゴケパッチを含む植生の形成に寄与している可能性を示唆している。ウロコミズゴケパッチ内外を対象とした植生調査では、オオバザサがウロコミズゴケの被度50%以上の方形区に、期待値と比べて多く出現する傾向があり、ウロコミズゴケパッチの形成とオオバザサの生育が関係している可能性が考えられる。
著者
野副 健司 西廣 淳 ホーテス シュテファン 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.281-290, 2010-11-30
参考文献数
27
被引用文献数
3

植物種の多様性が高く19種の絶滅危惧植物の生育地でもある「妙岐の鼻湿原」(茨城県霞ヶ浦湖岸)では、1990年代後半からカモノハシが優占する植生域の縮小がめだつ。株立ちに伴い他の植物の生育適地となりうる微高地を形成する性質を持つカモノハシは、植物種多様性の指標として有効であるという仮説のもと、植生と環境条件の調査を行った。約52haの湿原内を相観によりカサスゲ優占域、地表面に蘚類を伴うカモノハシ優占域(以下、カモノハシ優占域[蘚類あり])、地表面に蘚類を欠くカモノハシ優占域(以下、カモノハシ優占域[蘚類なし])に分け、それぞれに1m^2のコドラートを32〜39個設置して植生を比較した。在来植物種密度は、カモノハシ優占域[蘚類あり]、カモノハシ優占域[蘚類なし]、カサスゲ優占域の順に有意に高かった。また絶滅危惧種密度も、カモノハシ優占域[蘚類あり]において他の植生域よりも有意に高かった。踏査により絶滅危惧植物の分布を調べたところ、4種の絶滅危惧植物の分布がカモノハシ優占域[蘚類あり]に有意に偏っていることが判明した。カモノハシ優占域[蘚類あり]内において、ミクロサイトスケール(0.2×0.2m^2)でのカモノハシ株元に発達する微高地の有無と植物種の分布の関係を解析したところ、微高地を含むミクロサイトではそうでないミクロサイトに比べて有意に種密度が高いことが示された。カモノハシ優占域は、他の植生域と比べ、植生上層の優占種であるヨシの被度と草丈は有意に低く、植生下層部および地表面付近の光利用性が高く、過去11年間における草刈りあるいは火入れによる人為攪乱の頻度が高いという特徴を有していた。以上のことから、妙岐の鼻湿原における植物の種多様性の指標としてのカモノハシの有効性が示唆された。カモノハシ優占域の縮小化は、妙岐の鼻湿原における植物種多様性の低下や一部の絶滅危惧種の消失につながることが危惧される。
著者
松田 裕之 矢原 徹一 竹門 康弘 波田 善夫 長谷川 眞理子 日鷹 一雅 ホーテス シュテファン 角野 康郎 鎌田 麿人 神田 房行 加藤 真 國井 秀伸 向井 宏 村上 興正 中越 信和 中村 太士 中根 周歩 西廣 美穂 西廣 淳 佐藤 利幸 嶋田 正和 塩坂 比奈子 高村 典子 田村 典子 立川 賢一 椿 宜高 津田 智 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.63-75, 2005-06-30
被引用文献数
20

【自然再生事業の対象】自然再生事業にあたっては, 可能な限り, 生態系を構成する以下のすべての要素を対象にすべきである. 1生物種と生育, 生息場所 2群集構造と種間関係 3生態系の機能 4生態系の繋がり 5人と自然との持続的なかかわり 【基本認識の明確化】自然再生事業を計画するにあたっては, 具体的な事業に着手する前に, 以下の項目についてよく検討し, 基本認識を共有すべきである. 6生物相と生態系の現状を科学的に把握し, 事業の必要性を検討する 7放置したときの将来を予測し, 事業の根拠を吟味する 8時間的, 空間的な広がりや風土を考慮して, 保全, 再生すべき生態系の姿を明らかにする 9自然の遷移をどの程度止めるべきかを検討する 【自然再生事業を進めるうえでの原則】自然再生事業を進めるうえでは, 以下の諸原則を遵守すべきである. 10地域の生物を保全する(地域性保全の原則) 11種の多様性を保全する(種多様性保全の原則) 12種の遺伝的変異性の保全に十分に配慮する(変異性保全の原則) 13自然の回復力を活かし, 人為的改変は必要最小限にとどめる(回復力活用の原則) 14事業に関わる多分野の研究者が協働する(諸分野協働の原則) 15伝統的な技術や文化を尊重する(伝統尊重の原則) 16目標の実現可能性を重視する(実現可能性の原則) 【順応的管理の指針】自然再生事業においては, 不確実性に対処するため, 以下の順応的管理などの手法を活用すべきである. 17事業の透明性を確保し, 第3者による評価を行う 18不可逆的な影響に備えて予防原則を用いる 19将来成否が評価できる具体的な目標を定める 20将来予測の不確実性の程度を示す 21管理計画に用いた仮説をモニタリングで検証し, 状態変化に応じて方策を変える 22用いた仮説の誤りが判明した場合, 中止を含めて速やかに是正する 【合意形成と連携の指針】自然再生事業は, 以下のような手続きと体制によって進めるべきである. 23科学者が適切な役割を果たす 24自然再生事業を担う次世代を育てる 25地域の多様な主体の間で相互に信頼関係を築き, 合意をはかる 26より広範な環境を守る取り組みとの連携をはかる
著者
松村 千鶴 雨宮 加奈 雨宮 さよ子 雨宮 昌子 雨宮 良樹 板垣 智之 市野沢 功 伊藤 拓馬 植原 彰 内野 陽一 大川 清人 大谷 雅人 角谷 拓 掃部 康宏 神戸 裕哉 北本 尚子 國武 陽子 久保川 恵里 小林 直樹 小林 美珠 斎藤 博 佐藤 友香 佐野 耕太 佐野 正昭 柴山 裕子 鈴木 としえ 辻沢 央 中 裕介 西口 有紀 服巻 洋介 吉屋 利雄 古屋 ナミ子 本城 正憲 牧野 崇司 松田 喬 松本 雅道 三村 直子 山田 修 山田 知佳 山田 三貴 山田 祥弘 山田 玲子 柚木 秀雄 若月 和道 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.175-180, 2003-12-30
被引用文献数
2

Flower visitations by both native and exotic bumblebee species were investigated at 21 monitoring sites in various regions of Japan in the spring and summer of 2002. The investigation was part of a long-term program that has been in progress since 1997 to monitor the invasion of an alien bumblebee, Bombus terrestris L. (Hymenoptera: Apidae). Flower visitation by B. terrestris was ascertained at two monitoring sites, one in Shizuoka and one in Hokkaido, where a large number of colonies of this species have been commercially introduced for agricultural pollination.
著者
北本 尚子 上野 真義 津村 義彦 鷲谷 いづみ 大澤 良
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.47-51, 2005-06-30
被引用文献数
1 1

絶滅危惧植物であるサクラソウの自然個体群内における遺伝的多様性と花粉流動の実態を明らかにするために, 私たちは3組のマイクロサテライトマーカーを開発した.これらのマーカーを用いて, 八ヶ岳演習林内に自生するサクラソウ52個体の遺伝子型を決定したところ, いずれのマーカーも多型性が高く, 1遺伝子座あたりの対立遺伝子数は8〜12, ヘテロ接合度の観察値は0.77〜0.94であった.開発した3組のマーカーとIsagi et al. (2001)によってすでに開発されている7組のマーカーを組み合わせたときの父性排除率は, 0.997と推定され, 偽の花粉親候補を偶然選ぶ確率が84%から7%へと大幅に改善した.したがって, 今回開発したマイクロサテライトマーカーを併用すれば, 自然個体群内の花粉流動を把握することができると考えられる.
著者
村中 孝司 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.111-122, 2002-01-30
参考文献数
29
被引用文献数
23

利根川水系鬼怒川の中流域で1996年に植生調査を行った砂礫質河原のうち,丸石河原代表種が多く生育していた4ヵ所において,1999年および2000年にベルトトランセクト法により植物種の出現頻度と基質タイプを調べ,1996年のデータと比較した.4ヵ所のうち2ヵ所の河原の半安定帯において,カワラノギクやカワラニガナの丸石河原固有種の出現頻度の著しい減少が認められた.3ヵ所の河原においては,砂質の基質の顕著な増加が認められた.シナダレスズメガヤは砂質だけでなく中間および礫質の基質でも増加していた.1996年には100株以上からなるカワラノギクの局所個体群が4ヵ所確認されていたが,2001年には3ヵ所となり,そのうちの一ヵ所では,株数もほぼ10万株から110株へと著しく減少した.基質の変化とシナダレスズメガヤの侵入がカワラノギクやカワラニガナなどの河原固有植物の生育適地を減少させ,すぐにでも保全のための応急的対策が必要なほどに個体群の急激な衰退が起こっていることが示唆された.
著者
村中 孝司 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.51-62, 2003-08-30
参考文献数
24
被引用文献数
13

鬼怒川中流域の河原における侵略的外来牧草シナダレスズメガヤ(Eragrosis curvula)の分布拡大を,野外調査および発芽実験によって把握した生態的特性にもとづき,モデルシミュレーションによって予測した.発芽実験からは,成熟種子は特別の休眠を持たず,永続的土壌シードバンクをつくらないことが示唆された.実際に河原においては,種子分散直後の8-9月に多くの発芽した実生が認められた.それらのデータにもとづき,格子内の個体群動態を推移行列で記述し,格子間での種子分散パターンについても実測データをもとに記述したモデルによって経年的な分布拡大を予測した.まだ空地の多い侵入初期には,毎年シナダレスズメガヤの占有面積はおよそ3.31-4.14倍に増加することが予測され,およそ10年で全体の50%を占有し,12年で河原一帯を占有することが予測された.河原の固有の植物と生態系に及ぼすシナダレスズメガヤの影響を回避するためには,侵入初期のうちにシナダレスズメガヤを機械的に除去し,礫質の河原を回復させる対策が緊急に必要である.
著者
松村 千鶴 中島 真紀 横山 潤 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.93-101, 2004-06-30
参考文献数
25
被引用文献数
10

北海道勇払郡鵡川町・厚真町と沙流郡門別町のほぼ7.75km^2の範囲にある水田や畑地,河川敷,山林において,2003年6月から9月の間にマルハナバチ類(Bombus spp.)の巣を探索し,地中のネズミ類の廃巣に作られたセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris L.)の自然巣8つを含む27の巣を発見した.そのうち9巣を採集して分解し,卵,幼虫,マユ,成虫の数をできるだけ雌雄とカースト(働きバチか女王バチか)を区別して計数するとともに,蜜の保存や排泄場所の有無などの営巣特性についての情報を収集した.新女王バチの生産に至った巣の比率には,外来と在来のマルハナバチ間で有意差はなかったが,セイヨウオオマルハナバチの1巣あたりの新女王バチ生産数は在来マルハナバチ類と比較して4.4倍の平均110頭であり,当該地域の野外でのセイヨウオオマルハナバチの増殖率の高さが示唆された.