著者
田中 友梨 菅原 文香 川原 哉絵 富永 史子 加藤 由美 鈴木 千春 下國 達志 増田 創 東舘 義仁 中川 幸恵
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.479-487, 2019 (Released:2019-08-28)
参考文献数
6

平成30年度の診療報酬改定は、多職種や近隣施設との連携強化、すなわち、地域包括ケアシステムの構築に向けた政策の1つと言える。そこで本研究では、管理栄養士の「入院支援」と「退院支援」の参画を開始し、有用性について検証した。「入院支援」への参画では、入退院センター利用患者の概要を把握し、管理栄養士介入の手順を考案した。「退院支援」への参画では、「看護及び栄養管理に関する情報(2)」の運用方法を検討し、近隣の病院や施設等との連携を図った。「入院支援」では、先行研究同様、入院まで良好な栄養状態を保つことで治療に寄与すること、多職種が介入することで業務軽減につながることが示唆された。「退院支援」では、近隣の病院や施設と転院前後の情報共有を円滑に行うことで迅速な患者の栄養管理が可能となり、患者の食事摂取量の維持や増加、また栄養状態の維持や向上につながることが示唆された。「入院支援」、「退院支援」における管理栄養士の参画は、院内外のスタッフ連携に加え、患者支援につながると考えられた。
著者
若菜 真実 山﨑 裕子 岩佐 太一朗 白井 智美 部谷 祐紀 武藤 美紀子 本間 和宏 田中 越郎 榎本 眞理 若菜 宣明
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.423-428, 2019 (Released:2019-07-26)
参考文献数
10

近年、食物アレルギーへの対応は重要な課題である。その対応法の1つに代替食がある。複数の代替食を考案した際、その中から最適な代替食を選び出す客観的な評価方法はまだ確立されていない。そこで最適な代替食を選び出す方法を検討した。16種類の食物アレルギー代替食品を作成し、「味」、「食感」、「風味」、「外観」の4項目を5点満点で採点した。この点数をもとに、総和値、和積値、総積値を算出し、和積値はレーダーチャートも作成した。総和値は、算出が簡便であったが、候補間の差が小さかった。和積値に関しては、レーダーチャートを用いることで候補間の評価が可視化でき、傾向を素早くつかめた。総積値は、候補間の差が最も大きく評価しやすかった。簡便さを求める際は総和値を、各候補食品の特徴を一目で判断する際は和積値とレーダーチャートの組み合わせを、候補食品間の差を大きく出す際は総積値を用いることが有用であると考えられた。
著者
梅本 奈美子 布施 晶子 杉浦 正美 鈴木 正子 岡見 雪子 辻 とみ子
出版者
The Japan Dietetic Association
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.356-365, 2014

児童養護施設に入所している子どもたち(施設入所児童)が、自立して食生活を営む力を習得するために、実用的で効果的な食育システムの開発と食育プログラムの作成に必要な基礎調査を行った。名古屋市内児童養護施設14施設の施設入所児童(3歳~18歳)を調査対象者とし、食育指導状況調査、身体状況調査、調理実習による技術調査、アンケートによる食意識調査を実施した。食意識調査は、名古屋市内S小学校在籍児童を比較対象者(家庭生活児童)とした。幼児では、食事の姿勢についてのクイズ正解率が95.8%と正しい知識が身に付いていた。小学生低学年では、施設入所児童は家庭生活児童と比較し、野菜の判別クイズ正解率が有意(<i>p</i><0.05)に低く、野菜の名前を知らないことが分かった。また、施設入所児童は「食事の前に手洗いを行う」項目では、83.1%と家庭生活児童の52.7%と比べ有意(<i>p</i><0.05)に高く、施設における指導の効果が表れていた。「ごはんの時間が楽しみ」と答える割合が、幼児96.4%、小学生低学年81.7%、小学生高学年64.7%、中高生50.0%と年齢が上がるにつれて有意(<i>p</i><0.001)に低くなり、食に対する肯定感が低くなることが分かった。しかし、調理の経験が多い子どもは、食に対する肯定感が高くなり、自立後の自炊に対する不安感が少なかった。本研究の結果から、児童養護施設の食育指導においては、幼児から小学生低学年までに食育体験を多くさせることが有効な指導であり、子どもたちが豊かな食経験を会得できる大切な期間と考えられた。また、小学生高学年からは、技術的体験が多い計画を立案することが有効であると考えられた。
著者
宇賀神 裕美 池内 寛子 櫛田 映子 荒山 麻子 阿久津 里美 江花 裕子 間庭 昭雄 阿江 竜介 中村 好一
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.311-316, 2019 (Released:2019-05-28)
参考文献数
11

精神科医療が入院中心から地域社会へと移行の流れがあり、精神科疾患患者の高齢化も伴い、生活習慣病のリスクの割合が高い精神科疾患患者が地域の中でQOLの高い生活を維持するためには、食生活サポートが必要である。本研究では2014年に実施した「栃木県内精神科病院における栄養食事指導に関する調査」を基礎資料とし、総合病院精神科受診の75人と単科精神科病院受診の367人の精神科疾患患者について解析し比較を行った。総合病院精神科では摂食障害の指導の状況が見られ、指導状況では終了(転院・退院)が見られた。転院先、退院後でも継続的な支援の受け皿の必要性が考えられた。 単科精神科病院では、統合失調症患者への栄養食事指導、指導状況では中断、継続が見られた。指導効果の改善に向けて継続指導の必要性が考えられた。
著者
菊田 千景 八木 万希子 里中 千恵
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.255-263, 2019 (Released:2019-04-24)
参考文献数
9

奈良県にある重症心身障害児・者施設では、摂食・嚥下障害者への食事として、常食に近い見た目で提供し、食べる直前にスプーンやフォークの背で押しつぶして食べやすくする「押しつぶし食」を提供している。本研究では、押しつぶしにより嚥下食としての適性が変化するのかを知るために、7種類の食材(白身魚ムース、エビムース、小松菜、白菜、人参、大根、絹ごし豆腐)を用いた押しつぶし食の物性測定、「特別用途食品嚥下困難者用食品の許可基準」、「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013」、「嚥下食ピラミッド」による評価を行った。その結果、どの料理も押しつぶし後の形態は摂食・嚥下障害者に適するものであることが確認された。以上より、食材別に押しつぶしの有用性を見出すことができた。
著者
鈴木 悠佳 安武 健一郎 中島 香奈子 梶山 倫未 今井 克己
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.201-209, 2019 (Released:2019-03-27)
参考文献数
46

本研究の目的は、若年期からの高血圧予防の基礎資料整備のために、女子大学生の7日間の尿中排泄量から推定されたナトリウム(Na)とカリウム(K)摂取量の分布および個人内変動(CVw)・個人間変動(CVb)を推定することである。対象者には、起床後第1尿の採取と塩分チェックシートの記録を行うよう依頼した。最終解析対象者109名の尿中排泄量推定値は、Naが2,974±390mg/日(食塩摂取量換算値:8.8±1.2g/日)(CVw:17.2%、CVb:13.1%)、Kが1,129±141mg/日(カリウム摂取量換算値:1,467±183mg/日)(CVw:13.3%、CVb:12.4%)、Na/K比4.6±0.8(CVw:18.7%、CVb:16.4%)であった。「日本人の食事摂取基準(2015年版)」と比較した結果、各目標量を達成した者は、Naでは7.3%(n=8)のみであり、Kでは存在しなかった。塩分チェックシートで解析した尿中Na排泄量に影響する食事因子は、みそ汁や漬物など食塩含有量が多い食品をまとめた7項目の合計得点であった(r=0.190、p=0.047)。女子大学生の尿中Na排泄量は高値である一方、K排泄量は低値であり、その変動係数は先行研究による他の世代と比較して低値であった。
著者
竹内 瑞希 斎藤 トシ子
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.145-150, 2019 (Released:2019-02-28)
参考文献数
12

対象者に適切な栄養の指導を実施するためには、経験則や標準的なマニュアルのみに偏った手法ではなく、エビデンスに基づく栄養学を実践していく必要がある。しかしながら、エビデンスをどのように習得・有効活用しているかについては個人による差が大きく、エビデンスギャップへの対策についても十分とはいえない。当大学では2017年度より栄養学の知識データベースであり、エビデンスに基づく実践ガイダンスへの簡単なアクセスを提供するPEN(Practice-based Evidence in Nutrition)システムを導入し、学部教育や大学院教育に活用している。今回は、当大大学院を修了し臨床現場に勤務する管理栄養士にPENシステムを試験的に使用してもらい、PEN活用の有効性やエビデンスを得る上での要望について聞き取りを行った。その結果、PENはエビデンス習得方法の学習ツールとして有効である一方、研究を主体に専門性を深く極めている管理栄養士からは、日本のエビデンスや診療ガイドの情報量が不足している等の意見が挙がった。そのため、今後は日本全体の栄養や食に関する情報を集約・整備しPENに組み込むことができれば、全職域の管理栄養士・栄養士が円滑にエビデンスを入手・活用できることが示唆された。
著者
有村 恵美 大山 律子 町田 美由紀 日高 宏実 阿部 正治 中熊 美和 堀内 正久
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.89-95, 2019 (Released:2019-01-29)
参考文献数
21

慢性腎臓病(CKD)啓発イベント「世界腎臓デー in かごしま」にて、食塩摂取状況アンケートと食塩味覚感受性評価(ソルセイブ検査)を実施した。対象者は、自主的に参加された172人(男性59人:平均年齢 55.5±14.8歳、女性113人:平均年齢50.8±19.3歳)であった。単変量解析では、食塩感受性低値者 は、高値者に比べて男性割合・年齢・薬剤服用者割合・漬物摂取頻度が有意に高かった。多変量解析(ロジスティック回帰分析)では、食塩味覚感受性と関連する因子として性別、年齢が認められた。食塩味覚感受性と性別、年齢との関係は知られており、本検討によって、試験そのものの有用性が確認できたと示唆された。体験型のソルセイブ検査により、食塩味覚感受性が低いと分かった方は、その結果を踏まえて今後の食生活に注意を払うことが可能となることは有意義であると思われた。このようなCKD啓発イベントを通じて、参加者に質の高い情報や経験を与えることは、食塩味覚感受性保持と減塩への関心を高めることにつながる可能性が考えられた。
著者
森 久栄 四條 以智子 大洞 典子 武市 夕子 南川 富子 峰川 貴美子
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.613-622, 2018 (Released:2018-10-26)
参考文献数
20

地域活動栄養士が継続して取り組んでいる食育プログラムの効果を評価することを目的にした。小学校3年生193人を対象に、食育活動のテーマに沿ってアンケート調査を行った。食育を実施した幼稚園・保育園の出身児童75人を「食育あり」とし、それ以外の出身児童118人を「食育なし」として比較した。「食育あり」の児童のうち、幼児期に同じアンケートを実施していた児童44人の変化についても検討した。排便頻度については、食育なしに便秘の児童は10%いたが、食育ありではいなかったことから(p=0.004)食育の効果である可能性が示された。朝食内容については、幼児期に食育プログラムを受けた児童の朝食内容は幼児期の時に比べて欠食はなくなり3色食品群で3つの色がそろっている児童は30%から50%に増えていた(p=0.028)。しかし、食育のありとなしで有意な差は見られなかったことから食育の効果であると言うことはできなかった。園職員へのアンケートからは、地域活動栄養士が継続した食育活動を行ったことが、園全体への食意識の向上と実践のきっかけとなった可能性が考えられた。
著者
江口 泰正
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.557-565, 2018 (Released:2018-09-28)
参考文献数
34

近年、「ヘルスリテラシー」が医療や保健、教育等の分野で注目されてきている。世界的に見ても、ヘルスリテラシーに関する研究が飛躍的に増加している。背景として、2000年に米国における健康政策の指標であるヘルシーピープル2010で解説された影響もある。わが国においても厚生労働省が2015年に発表した「保健医療2035」の中でヘルスリテラシーという言葉が使われている。しかしながら、ヘルスリテラシーについて理解している人はまだ決して十分とは言えない。一方近年、日本人のヘルスリテラシーは欧州と比較して低いとする報告もあり、今後の議論が求められる。ヘルスリテラシーが不十分だと、さまざまな健康課題が増加し、また高めていくことで人々の豊かな生活へ結び付けていくことが可能となる。本稿では、この新しいキーワードとしてのヘルスリテラシーについて、その定義や要素分類、評価法について、そしてヘルスプロモーションや健康教育との関連性等について総説することを目的とした。
著者
小林 道
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.501-506, 2018 (Released:2018-08-28)
参考文献数
15

本研究は大学生を対象として、学童期に栄養教諭による授業を受けた経験が現在の食習慣に与える影響について明らかにすることを目的とした。平成29年11月に北海道のA大学の食品科学または管理栄養士養成課程を専攻する1学科の2・3年生335人を研究対象者とした。最終的な解析対象者は288人(有効回答率:86.0%)であった。質問内容は、性・年齢、居住形態等の基本属性、睡眠時間、運動、喫煙、飲酒等の生活習慣、食習慣に関する項目は朝食の欠食状況および簡易型自記式食事歴法質問票(Brief type self-administered Diet History Questionnaire;BDHQ)による食品群別摂取量とした。栄養教諭 による授業を受けた経験有り群と無し群の2群に分類して食品群別摂取量との関連を検討した。多変量ロジスティック回帰分析の結果、栄養教諭による授業を受けた経験有り群では授業経験無し群と比較して野菜類および卵類の摂取量の高摂取群の割合が有意に高かった。学童期に栄養教諭による授業を受けた経験は青年期の食習慣を良好にする可能性がある。
著者
勝亦 奈緒美 青山 高
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.327-333, 2018 (Released:2018-06-01)
参考文献数
19

病院調理場の衛生状態を拭き取りアデノシン三リン酸(Adenosine triphosphate;ATP)検査法とスタンプ培地法を用いて明らかにし、両検査法の至適条件を検討する。平成28年5月から9月の期間、静岡がんセンター栄養室調理場で定めた8カ所において、両検査法を用いて洗浄・消毒前後をそれぞれ違う日に複数回採取し、検査結果の関連を検討した。8カ所の両検査法における洗浄・消毒前後の検査は各5回実施され、有意に改善していた(p<0.001)。洗浄・消毒前後における拭き取りATP検査法の汚染(500RLU以上)とスタンプ培地法の汚染(11cfu以上)は有意に改善していた(p<0.01)。両検査値の関連は洗浄・消毒前に認められた(r=0.44, p=0.004)。病院調理場の衛生状態を評価する拭き取りATP検査法とスタンプ培地法には意義がある。汚染された洗浄・消毒前の衛生状態はスタンプ培地法に拭き取りATP検査法が相関しており、簡易な拭き取りATP検査法の有用性が示唆された。拭き取りATP検査法は汚染箇所、スタンプ培地法は非汚染箇所の衛生状態を評価するのに適していると考えられた。
著者
石川 有希子 宮川 淳美 高橋 佳子 吉村 雅子 安川 由江 吉野 有夏 櫻井 愛子 納富 あずさ 古畑 公
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.205-213, 2018 (Released:2018-03-28)
参考文献数
31

本研究は、ママパパ学級に初参加した初産婦を対象として、主食・主菜・副菜のそろった食事の頻度と身体状況、生活状況、栄養素および食品摂取量の関係を明らかにし、松戸市健康増進計画(第3次)推進のための基礎資料を得ることを目的とした。主食・主菜・副菜がそろった食事の摂取頻度 “1日2回以上” 群と “1日2回未満” 群を比較した結果、BMI、非妊娠時の体重、非妊娠時の体重と現在の体重の差、妊娠週数、健康維持のための活動については、両群間に有意な差は認められなかった。栄養素および食品群別摂取量については、“1日2回以上” 群は “1日2回未満” 群に比べると、総エネルギー、たんぱく質エネルギー比、ビタミンB1、葉酸、カルシウム、鉄、カリウム、総食物繊維および米類、豆類、野菜類、魚介類の摂取量が有意に多かった。しかしながら、日本人の食事摂取基準(2015年版)をもとに、不適切摂取者の割合を算出した結果、“1日2回以上” 群においても、ビタミンB1不足者63%、食物繊維不足者69%、脂質および食塩の過剰摂取者は100%である等、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が “1日2回以上” だけでは、適切な栄養素摂取量につながらない可能性が示唆された。
著者
平山 雄大 木戸 康博
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.139-145, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
39

超高齢社会の栄養学の目標は健康寿命の延伸にあり、積極的に生活の質(QOL)が維持、向上できる栄養学を考える必要がある。健康寿命の延伸の弊害となる介護の要因を調べると、生活習慣病と老年症候群、特に衰弱、骨折・転倒によるものが多く、これらの要因として過剰栄養と低栄養が混在している。健康の保持増進、健康格差の縮小と健康寿命の延伸のために、たんぱく質・アミノ酸の機能性に関する基礎研究の推進、たんぱく質・アミノ酸の実践研究の推進、たんぱく質・アミノ酸に関する有用な情報の発信が必要である。
著者
太田 裕子 野口 球子 松原 康美
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.436-442, 2008 (Released:2012-01-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1

近年、病態などを考慮し特定の栄養素を強化した経腸栄養剤が数多く開発され、活用されるようになった。今回、われわれは高齢の難治性褥瘡患者に対し、アルギニン配合の高濃度液状栄養食を投与し、若干の知見を得たので報告する。 症例は、入院時に仙骨部と腸骨部左右に褥瘡あり。仙骨部は黒色壊死と内部にポケット、感染兆候を認めた。局所ケア、半消化態栄養剤による栄養補給を行うとともに、体圧分散を図ったが、褥瘡改善を認めないため、栄養剤をアイソカルR プラスEX に変更した。その結果、褥瘡、生化学データともに改善したが、投与開始後9 日目よりBUN が上昇し、36~53 mg/dl で推移した。 BUN 上昇は、栄養剤の投与量をエネルギーに主眼をおいて設定したため、アルギニンが増加し尿素産生に影響を与えることになったためと考える。高エネルギーを必要とする症例に対し、アルギニン配合の栄養剤を投与する場合には、単独投与を避け、他の栄養剤と組み合わせるなどの工夫が必要であると考える。
著者
田中 洸 柏原 美希 櫛田 佳菜子 丸山 まいみ 大家 千枝子 岡田 有華 木村 典代
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.375-384, 2016 (Released:2017-09-26)
参考文献数
11

本研究は、生徒が自分で簡易に記入できる半定量式食事記録用紙(SSQDR)を作成し、その信頼性および妥当性を検討した。信頼性の検討では、生徒でもSSQDRのポーションサイズを正確に把握できるかどうかを検討するために、1日の食事を料理サンプルにて提示し、中学生32人を対象にSSQDR法を実施した。その結果、提示された食品のポーションサイズを正確に把握した者の割合は平均65%であり、SSQDR法によって算出された栄養素量のα係数は全ての栄養素で0.8以上の高い一致率が得られた。また、高校生49人により1食分の秤量記録法を実施し、同時にSSQDRを記入してもらった結果、両調査法から得られた栄養素等摂取量の相関係数は全ての栄養素で有意な正の相関(r≧0.456、p<0.01)が得られた。以上の結果、SSQDRは簡易に記入でき、秤量記録法と同程度の栄養素等摂取量が推定できる方法であることが示唆された。また、ポーションサイズは中学生でも正確に把握できることから、食事への認識が十分とは思われない生徒でも自分で記録することができる簡便な食事調査法として活用が期待できる。
著者
松田 貴雄 後藤 美奈
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.157-164, 2017 (Released:2017-09-26)
参考文献数
23

女性アスリートのパフォーマンス向上には無月経を引き起こすエネルギー不足の解消が必要である。女性アスリートの3主徴に加えて、相対的エネルギー不足が提案され、その結果として骨粗鬆症があり、同じく無月経になると考えられるようになってきた。婦人科は無月経の治療しかできないが、スポーツドクターとしてはエネルギー不足の解消を行い、骨粗鬆症を予防することが求められる。予防のためにはアスリートが自分で分かる指標が必要で成長期は1カ月ごとに身長・体重をチェックすべきである。成長ピークが無い群がハイリスクで疲労骨折を繰り返す。成長期の体格指標は肥満度であるが、アスリートではBMIで判断して、これが減少する場合は異常と判断する。相対的エネルギー不足はやせている選手だけでなく、骨格筋量の多い選手にむしろ多く認められる。エネルギー不足は各方面に影響しその結果、貧血やテストステロン低下が認められるためエネルギー不足の指標として用いることができる。
著者
仲本 桂子 渡邉 早苗 工藤 秀機 ノパラタナウォン サム 蒲原 聖可 ラダック ティム 土田 満 宮﨑 恭一 サーシャン ディリープ 田中 明
出版者
The Japan Dietetic Association
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.267-278, 2013

ベジタリアンの研究によると、ベジタリアンは、ビタミン B <SUB>12</SUB>、 ビタミンD の摂取量が非ベジタリアンより有意に低く、カルシウム、鉄、亜鉛、ビタミンA、ビタミンB <SUB>2</SUB> 、n-3 系多価不飽和脂肪酸(以下、n-3 系脂肪酸)の低摂取が懸念される。そこで、日本人用ベジタリアンフードガイド(JVFG)を用いて、日本人ベジタリアン男性(n=24)と女性(n=60)を対象に、栄養教育を行い、栄養状態の改善を試みた。 JVFG の栄養教育の介入前と後に、食事記録法による食事調査を行った。うち、16 名に対し、身体計測および血糖、尿酸、アルブミン/グロブリン比(A/G)、ナトリウム、カリウム、カルシウム、無機リン、鉄、総コレステロール、高比重リポたんぱくコレステロール、中性脂肪、ヘモグロビン(Hb)、プレアルブミンの血液生化学検査も行った。 結果、ベジタリアンで低摂取が懸念された栄養素のうち、女性において、ビタミンB <SUB>2</SUB>(p<0 . 05)、亜鉛(p<0 . 01) の摂取が有意に増加した。しかし、ビタミンA、ビタミンD、ビタミン B <SUB>12</SUB>、カルシウム、n-3 系脂肪酸の摂取量に有意な増加は見られなかった。身体・血液生化学成績では、女性においてA/G(p<0 . 01)、カルシウム、Hb(p<0.05)が有意に増加し、血糖(p<0.01)、尿酸、上腕三頭筋皮下脂肪厚(p<0.05)は有意に低下した。 以上より、日本人ベジタリアン、特に、女性において、JVFG の栄養教育介入により、栄養状態が変化することが示唆された。